説明

転がり軸受ユニット

【課題】 組立工程を自動化し易くするとともに、コストの低減を図ること。
【解決手段】 同軸上に配置された内輪12a,14aと外輪12b,14bとの間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数個の転動体16を内蔵し、軸方向に所定の間隔をあけて配置される第1の転がり軸受10Aおよび第2の転がり軸受10Bと、これら2つの転がり軸受10A,10Bの内輪12a,14aに嵌合されるシャフト3と、2つの転がり軸受10A,10Bの外輪12b,14bを嵌合させる嵌合孔9を有するスリーブ5とを備え、第1の転がり軸受10Aの外輪12bが、第2の転がり軸受10Bの外輪14bより大きい外径寸法を有し、スリーブ5の嵌合孔9の内面に第1の転がり軸受10Aの外輪12bの第2の転がり軸受10B側の端面を突き当てる段部33が設けられ、段部33の内径寸法が第2の転がり軸受10Bの外径寸法以上の寸法を有する転がり軸受ユニット1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受ユニットは、内側部材である円筒状の内筒と、この内筒の周囲に配置された外側部材である円筒状の外筒と、これら内筒と外筒とを相対的に回転自在に支持する一対の玉軸受とを備えている。そして、一対の玉軸受は、外周面に深溝型若しくはアンギュラ型の内輪軌道を有する内輪と、内周面に深溝型若しくはアンギュラ型の外輪軌道を有する外輪と、内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉とからそれぞれ構成されている。また、外筒の内周面の軸方向中間部には、径方向内方に突出した環状凸部が形成されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の転がり軸受ユニットによれば、上記一対の玉軸受は、環状凸部の両側面にそれぞれの各外輪の軸方向一端面が突き当てられた状態で、外筒の軸方向の両端部にこれらの各外輪が接着剤によって接着されることにより、内嵌固定されるようになっている。
【特許文献1】特開2002−257028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の転がり軸受ユニットは、外筒の内周面の構造上、外筒の軸方向の両端部から各玉軸受を別々に嵌め込む必要がある。そのため、まず外筒の軸方向の上方から1つ目の玉軸受を嵌め込み、外筒を裏返してから2つ目の玉軸受を同じく外筒の軸方向の上方から嵌め込むというように、外筒を裏返す工程が必要となり、組立て時の工数が多くなるという不都合がある。さらに、組立工程を自動化させた場合、外筒を裏返す工程の分だけ余計なコストが掛かるという問題がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、組立工程を自動化し易くするとともに、コストの低減を図ることができる転がり軸受ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、同軸上に配置された内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数個の転動体を内蔵し、軸方向に所定の間隔をあけて配置される2つの転がり軸受と、これら2つの転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、2つの前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材とを備え、一方の前記転がり軸受の前記外輪が、他方の前記転がり軸受の前記外輪より大きい外径寸法を有し、前記第2の部材の前記嵌合孔の内面に前記一方の転がり軸受の前記外輪の前記他方の転がり軸受側の端面を突き当てる段部が設けられ、該段部の内径寸法が前記他方の転がり軸受の外径寸法以上の寸法を有する転がり軸受ユニットを提供する。
【0007】
本発明によれば、第1の部材に外輪の外径寸法が異なる2つの転がり軸受を組み付けた組立体を第2の部材の嵌合孔に嵌合させることにより、転がり軸受ユニットが構成される。この場合に、一方の転がり軸受は第2の部材の嵌合孔の段部を通過するが、他方の転がり軸受は段部に外輪の端面が突き当たるので、2つの転がり軸受を外径寸法の小さい転がり軸受から順に同一方向から第2の部材に嵌め込み、段部によってこれら2つの転がり軸受を離間させることができる。
【0008】
したがって、2つの転がり軸受の軸方向の間隔を嵌合孔に設けられた突出部によって確保する転がり軸受ユニットであっても、組立時に第2の部材の軸方向の両端部から別々に各転がり軸受を嵌め込む必要がなく、第2の部材を裏返す工程を省くことができる。これにより、転がり軸受ユニットの組立工程を自動化し易くするとともに、コストの低減を図ることができる。
【0009】
上記発明においては、前記第2の部材が、前記嵌合孔の嵌合方向の終端に、内面側に突出して前記一方の転がり軸受の前記外輪の端面を突き当てる凸部を有することとしてもよい。
【0010】
このような構成によれば、嵌合孔の内面に設けられた凸部によって一方の転がり軸受の外輪の端面が固定されるので、一方の転がり軸受に対して軸方向の反対側に配置された他方の転がり軸受の外輪を軸方向に押圧するだけで、2つの転がり軸受に予圧をかけることができる。したがって、簡易な方法で2つの転がり軸受の内外輪と転動体との隙間をなくし、転がり軸受ユニットの剛性確保および回転精度の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、組立工程を自動化し易くするとともに、コストの低減を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る転がり軸受ユニットについて、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る転がり軸受ユニット1は、例えば、スイングアーム用の転がり軸受ユニットである。この転がり軸受ユニット1は、軸方向に所定の間隔をあけて配置される第1の転がり軸受(一方の転がり軸受)10Aおよび第2の転がり軸受(他方の転がり軸受)10B(以下、第1の転がり軸受10Aと第2の転がり軸受10Bとを合わせて「転がり軸受10A,10B」という。)と、これら転がり軸受10A,10Bに嵌合されるシャフト(第1の部材)3と、転がり軸受10A,10Bを嵌合させる嵌合孔9を有する円筒状のスリーブ(第2の部材)5とを備えている。
【0013】
転がり軸受10A,10Bは、シャフト3とスリーブ5とを相対的に回転させるためのものである。第1の転がり軸受10A,第2の転がり軸受10Bは、同軸上に配置された内輪12a,14aおよび外輪12b,14bと、これら内輪12a,14aと外輪12b,14bとの間の円環状空間に周方向に間隔をあけて内蔵される複数個の転動体16とを備えている。
【0014】
第1の転がり軸受10Aの内輪12aの内径寸法は、第2の転がり軸受10Bの内輪14aの内径寸法と同じであり、かつ、第1の転がり軸受10Aの外輪12bの外径寸法は、第2の転がり軸受10Bの外輪14bの外径寸法より大きい寸法を有している。これらの内輪12a,14aの外周面には、深溝型若しくはアンギュラ型の内輪軌道が設けられ、また、外輪12b,14bの内周面には、深溝型若しくはアンギュラ型の外輪軌道が設けられている。
【0015】
シャフト3は、略円筒状部材であって、一端に軸方向に延びるネジ孔21、他端に軸方向に突出する雄ねじ形成用の突起23を備えている。シャフト3の前記他端には、全周にわたって半径方向外方に突出する鍔状のフランジ部25が設けられている。
【0016】
シャフト3には、フランジ部25側から順に第1の転がり軸受10Aおよび第2の転がり軸受10Bが嵌め込まれており、第1の転がり軸受10Aの内輪12aの端面がフランジ部25に突き当てられている。また、シャフト3の外周面と転がり軸受10A,10Bの内輪12a,14aとは接着剤により接着されている。
【0017】
スリーブ5の嵌合孔9の内面は、軸方向に向かって内径寸法が段階的に小さくなる段付形状となっており、第1の転がり軸受10Aの外径寸法と同じ内径寸法を有する第1の嵌合部27と、第2の転がり軸受10Bの外径寸法と同じ内径寸法を有する第2の嵌合部29と、軸方向の端面において第2の嵌合部29の内面側に突出する凸部31とを備えている。第1の嵌合部27と第2の嵌合部29との間には、半径方向に延びる突き当て面を有する段部33が設けられている。この段部33と凸部31との軸方向の距離、すなわち、第2の嵌合部29の軸方向の長さは、第2の転がり軸受10Bの軸方向の長さより長くなっている。
【0018】
第1の嵌合部27には第1の転がり軸受10Aが嵌め込まれており、第1の転がり軸受10Aの外輪12bの端面が段部33に突き当てられている。また、第2の嵌合部29には第2の転がり軸受10Bが嵌め込まれており、第2の転がり軸受10Bの外輪14bの端面が凸部31に突き当てられている。
【0019】
また、第1の嵌合部27の内周面と転がり軸受10Aの外輪12b、および、第2の嵌合部29の内周面と転がり軸受10Bの外輪14bとは、内輪12a,14aが相互に近接する方向に押圧された状態で、それぞれ接着剤により接着されている。これにより、転がり軸受10A,10Bには予圧がかけられた状態となり、内輪12a,14aおよび外輪12b,14bと転動体16とが隙間なく接触させられている。
【0020】
以下、このように構成される本実施形態の転がり軸受ユニット1の製造方法について説明する。
まず、スリーブ5の第2の嵌合部29の内周面の第2の転がり軸受10Bの外輪14bに対応する位置に接着剤を塗布する。第2の転がり軸受10Bを第1の嵌合部27側から嵌合孔9に挿入して、第2の嵌合部29に第2の転がり軸受10Bの外輪14bを嵌合させる。そして、図2に示すように、嵌合孔9の凸部31に第2の転がり軸受10Bの外輪14bの端面を突き当てた状態で、外輪14bと第2の嵌合部29の内周面とを接着する。
【0021】
次に、シャフト3の外周面の第1の転がり軸受10Aの内輪12aに対応する位置に接着剤を塗布し、第1の転がり軸受10Aの内輪12aにシャフト3を嵌合させる。そして、図3に示すように、シャフト3のフランジ部25に第1の転がり軸受10Aの内輪12aの端面を突き当てた状態で、内輪12aとシャフト3の外周面とを接着する。
【0022】
続いて、スリーブ5の内周面の第1の転がり軸受10Aの外輪12bに対応する位置、すなわち、第1の嵌合部27の内周面に接着剤を塗布する。また、シャフト3の外周面の第2の転がり軸受10Bの内輪14aに対応する位置に接着剤を塗布する。そして、図4に示すように、第1の転がり軸受10Aに嵌合されたシャフト3を第1の嵌合部27側から嵌合孔9に挿入し、第1の嵌合部27に第1の転がり軸受10Aの外輪12bを嵌合させるとともに、第2の嵌合部29に嵌め込まれている第2の転がり軸受10Bの内輪14aにシャフト3を嵌合させる。
【0023】
この場合に、嵌合孔9の段部33の内径寸法が第1の転がり軸受10Aの外輪12bの外径寸法より小さいので、第2の嵌合部29に嵌合された第1の転がり軸受10Aの外輪12bの端面が段部33に突き当たる。また、段部33と凸部31との軸方向の距離が第2の転がり軸受10Bの軸方向の長さより長いので、段部33によって第1の転がり軸受10Aと第2の転がり軸受10Bとを離間させることができる。
【0024】
次に、第1の転がり軸受10Aの外輪12bと第1の嵌合部27の内周面、および、第2の転がり軸受10Bの内輪14aとシャフト3の外周面とが完全に接着する前に、転がり軸受10A,10Bに予圧をかける。この場合に、転がり軸受10A,10Bの外輪12b,14b間の間隔は段部33と凸部31との間の軸方向の長さによって決定されているので、内輪12a,14aどうしを近接させる方向に押圧するだけで、簡易に予圧をかけることができる。
【0025】
また、第2の転がり軸受10Bの外輪14bが凸部31に突き当てられ、かつ、第1の転がり軸受10Aの外輪12bが段部33に突き当てられているので、第2の転がり軸受10Bに対して軸方向の反対側に配置された第1の転がり軸受10Aの内輪12aを軸方向に押圧するだけで、第1の転がり軸受10Aおよび第2の転がり軸受10Bに予圧をかけることができる。
【0026】
そこで、シャフト3を軸方向に押圧し、フランジ部25によって第1の転がり軸受10Aの内輪12aに予圧をかけた状態で、第1の転がり軸受10Aの外輪12bと第1の嵌合部27の内周面、および、第2の転がり軸受10Bの内輪14aとシャフト3の外周面とを完全に接着させる。これにより、簡易な方法で2つの転がり軸受10A,10Bの内輪12a,14aおよび外輪12b,14bと各転動体16との隙間をなくし、転がり軸受ユニット1の剛性確保および回転精度の向上を図ることができる。また、接着により予圧をかけた状態に維持されるので、予圧抜けを防ぎ、転がり軸受ユニット1の回転精度の悪化を防止することができる。
【0027】
以上本実施形態に係る転がり軸受ユニット1によれば、第1の転がり軸受10Aおよび第2の転がり軸受10Bを嵌合孔9の内径寸法が大きい側からスリーブ5に嵌め込み、段部33によってこれら2つの転がり軸受10A,10Bを離間させるので、組立時にスリーブ5を裏返す工程を省くことができる。これにより、転がり軸受ユニット1の組立工程を自動化し易くすることができ、また、コストの低減を図ることができる。
【0028】
なお、本実施形態においては、段部33の内径寸法と第2の嵌合部29の内径寸法とが第2の転がり軸受10Bの外径寸法と同じ内径寸法を有するスリーブ5を例示して説明したが、段部33は、第1の転がり軸受10Aの外径寸法より小さく、かつ、第2の転がり軸受10Bの外径寸法以上の内径寸法を有していればよく、例えば、段部33と第2の嵌合部29との間にさらに段差部分が設けられていてもよい。
また、本実施形態においては、嵌合孔9の嵌合方向の終端に凸部31が設けられているスリーブ5を例示して説明したが、嵌合孔9の内面に凸部31が設けられていない形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受ユニットの断面を示す図である。
【図2】スリーブに第2の転がり軸受ユニットが嵌め込まれた状態の断面を示す図である。
【図3】第1の転がり軸受にシャフトを嵌合させた状態の断面を示す図である。
【図4】シャフトが嵌合された第1の転がり軸受をスリーブに嵌合させる様子を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 転がり軸受ユニット
3 シャフト(第1の部材)
5 スリーブ(第2の部材)
9 嵌合孔
10A 第1の転がり軸受(一方の転がり軸受)
10B 第2の転がり軸受(他方の転がり軸受)
12a,14a 内輪
12b,14b 外輪
33 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置された内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数個の転動体を内蔵し、軸方向に所定の間隔をあけて配置される2つの転がり軸受と、
これら2つの転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、
2つの前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材とを備え、
一方の前記転がり軸受の前記外輪が、他方の前記転がり軸受の前記外輪より大きい外径寸法を有し、
前記第2の部材の前記嵌合孔の内面に前記一方の転がり軸受の前記外輪の前記他方の転がり軸受側の端面を突き当てる段部が設けられ、
該段部の内径寸法が前記他方の転がり軸受の外径寸法以上の寸法を有する転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記第2の部材が、前記嵌合孔の嵌合方向の終端に、内面側に突出して前記一方の転がり軸受の前記外輪の端面を突き当てる凸部を有する請求項1に記載の転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−185860(P2009−185860A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25014(P2008−25014)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(305018719)エスアイアイ・マイクロプレシジョン株式会社 (29)
【Fターム(参考)】