転がり軸受用軌道輪の製造方法
【課題】内輪軌道16等の軌道面の加工を能率良く行なえる様にする事で、内輪15等の軌道輪の、延いてはこの軌道輪を組み込んだ転がり軸受の製造コストの低減を図る。
【解決手段】熱処理により上記軌道面となる部分を硬化させた後、この部分に切削工具18を使用した旋盤による削り加工を施して、上記軌道面を形成する。削り取る部分の量に応じて無駄のない加工を行なえる為、上記課題を解決できる。
【解決手段】熱処理により上記軌道面となる部分を硬化させた後、この部分に切削工具18を使用した旋盤による削り加工を施して、上記軌道面を形成する。削り取る部分の量に応じて無駄のない加工を行なえる為、上記課題を解決できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種機械装置の回転支持部に組み込む転がり軸受を構成する軌道輪の製造方法の改良に関する。具体的には、転動体の転動面を転がり接触させる為にこの軌道輪に設けた軌道面の加工を能率良く行なえる様にする事で、この軌道輪の製造コストの低減を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対し回転自在に支持する為の転がり軸受の一種であるハブユニットとして、例えば図6に示す様な構造のものが広く知られている。このハブユニット1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体(玉)4、4とから成る。このうちの外輪2は、使用状態で上記懸架装置に対し支持固定されるもので、外周面にこの懸架装置に対し結合する為の外向フランジ状の取付部5を、内周面に複列の外輪軌道6、6を、それぞれ設けている。又、上記ハブ3は、ハブ本体7に内輪8を結合固定したもので、軸方向外端部(軸方向に関して外とは、上記懸架装置への組み付け時に車体の幅方向外となる側を言い、図6の左側。反対に、この車体の中央寄りとなる側を軸方向に関して内という。)に車輪を支持固定する為の回転側フランジ9を、軸方向中間部乃至内端部に複列の内輪軌道10、10を、それぞれ設けている。そして、これら両内輪軌道10、10と上記両外輪軌道6、6との間に上記各転動体4、4を、両列毎に複数個ずつ設けて、上記外輪2の内径側に上記ハブ3を、回転自在に支持している。
【0003】
例えば上述の様なハブユニット1等の転がり軸受の軌道面(外輪軌道6、6及び内輪軌道10、10)等は、熱処理(焼き入れ)により硬化させた後、研磨する事で、所望の性状(寸法及び表面粗さ)に仕上げている。この様な、転がり軸受の軌道面等を研磨により仕上げる方法に関しては、例えば特許文献1〜5等に記載された、各種方法が知られている。図7〜9は、このうちの特許文献5に記載された仕上方法を示している。先ず、上記ハブ本体7の外周面で、上記回転側フランジ9の基端部分から軸方向外側の内輪軌道10を含む中間部分に掛けての部分は、図7に示す様に、第一の回転砥石11により研削加工する。又、上記内輪8の外周面の内輪軌道10は、図8に示す様に、第二の回転砥石12により研削加工する。更に、上記外輪2の内周面に設けた複列の外輪軌道6、6は、それぞれ図9に示す様な第三の回転砥石13により研削加工する。何れの場合も、回転砥石11〜13として、外周面の母線形状が、得るべき軌道面の母線形状に一致したものを使用する。従って、上記研削加工を施す前の状態での、これら各軌道面部分の母線形状は、得るべき軌道面の母線形状よりも小さめに(玉軸受の場合には母線形状の曲率半径を小さく)している。
【0004】
上述の様にして、上記各軌道面を研削加工により仕上げる場合、回転砥石による削り代が多くなり、加工の能率を必ずしも良好にできない。特に、母線形状が円弧である玉軸受用の軌道面の場合には、この傾向が著しい。この点に就いて、図10を参照しつつ説明する。この図10は、内輪15の外周面に形成した単列深溝型の内輪軌道16に、回転砥石17により研削加工を施して、この内輪軌道16の性状を所望通りに仕上げる場合に就いて示している。即ち、上記内輪15及び上記回転砥石17を互いに異なる速度で回転させつつ、この回転砥石17を平行移動させて、この回転砥石17の外周面を上記内輪軌道16に押し付ける。そして、図10の上部に実線で示した形状を削り取って、この上部に鎖線で、同じく下部に実線で、それぞれ示した、所望の性状を有する上記内輪軌道16に仕上げる。
【0005】
この場合に、上記内輪軌道16の各部の削り取り量を、上記内輪15の径方向の寸法で表すと、幅方向中央部の削り取り量δ0 は、上記研削加工の進行に伴う上記回転砥石17の移動量と同じであるが、幅方向端部の削り取り量δ1 は、この移動量よりもかなり多くなる。上記回転砥石17の移動は、このうちの幅方向端部の削り取りを無理なく行なえる速度で行なう必要がある為、相当緩徐に行なう必要がある。即ち、上記回転砥石17の移動速度は、幅方向中央部の削り取りの面からは必要以上に遅くなり、上記内輪軌道16の仕上加工の能率が悪化する。
【0006】
上述の様な原因での仕上加工の能率悪化を防止する為には、図11に鎖線イで示す様に、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状の曲率半径R1 を少し大きめにしておく事が考えられる。即ち、上記図10に示した仕上方法の場合には、図11に破線ロで示した、比較的小さな曲率半径R2 の形状から研削して、実線ハで示した、曲率半径がR3 である内輪軌道16を得る為、上記図10で説明した様な能率悪化を生じる。これに対して上述の様に、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状の曲率半径R1 を少し大きめにすれば、図11の鎖線イと実線ハとの、この図11の上下方向の距離から明らかな通り、上述の様な原因での能率悪化を防止できる。
【0007】
但し、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状は、この仕上加工に先立って行なう熱処理により歪むので、上記鎖線イで示した形状を正確に得る事は難しい。従って、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状を上記鎖線イの様にする事で、この仕上加工の能率向上を図る事は、現実的には難しい。むしろ、上記熱処理による歪みを考慮して、上記内輪軌道16の幅方向端部には、十分な研削代(仕上加工により除去すべき厚さ)を確保する場合が多く、この様な場合には、上述の様な原因での、仕上加工の能率悪化が益々著しくなる可能性がある。尚、以上の説明は、単列深溝型の内輪軌道16の場合に就いて説明したが、アンギュラ型の内輪軌道の場合も、更には外輪軌道の場合も、同様に生じる。何れにしても、軌道面の仕上加工の能率悪化は、軌道輪、延いてはこの軌道輪を組み込んだ転がり軸受の製造コストを高くする原因となる為、好ましくない。
【0008】
【特許文献1】特開平9−242763号公報
【特許文献2】特開平10−217001号公報
【特許文献3】特開平12−71705号公報
【特許文献4】特開平12−234624号公報
【特許文献5】特開2004−92830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、軌道面の加工を能率良く行なえる様にする事で、この軌道輪の、延いてはこの軌道輪を組み込んだ転がり軸受の製造コストの低減を図るべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の転がり軸受用軌道輪の製造方法は、何れかの面に全周に亙って軌道面を形成した、鋼材製の転がり軸受用軌道輪を造る為、熱処理により軌道面となるべき部分を硬化させた後、この部分に旋盤により、精密加工バイト等の切削工具を使用した削り加工を施して、上記軌道面を形成する。
この様な本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した様に、上記何れかの面の離隔した複数個所に軌道面を、それぞれ全周に亙って形成する為、上記精密加工バイト等の単一の切削工具によりこれら各軌道面を、時間的に前後して削り加工する。
【0011】
又、上述の様な本発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した様に、上記転がり軸受を玉軸受とし、上記軌道面の断面形状を円弧形とする。
この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した様に、上記軌道面の断面形状の中心角を、180度から、上記精密加工バイト等の切削工具の刃先角度を減じた値以下とする。
或いは、請求項5に記載した様に、何れかの面を周面とし、この周面のうちで軸方向に離隔した2個所に、玉の接触角を互いに逆にする(正面組み合わせ又は背面組み合わせとする)状態で、それぞれの断面形状が、当該断面形状の曲率中心を通り径方向に向いた仮想直線に関して非対称な形状である軌道面を、上記精密加工バイト等の単一の切削工具により前後して削り加工する。この為に、これら両軌道面の断面形状のうち、上記仮想直線から、これら両軌道面の幅方向両端縁のうちでこの仮想直線から遠い側の端縁までの間の断面形状に関する中心角の和を、180度から上記切削工具の刃先角度を減じた値以下とする。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受用軌道輪の製造方法によれば、軌道面の加工を能率良く行なえる。即ち、旋盤による削り加工によりこの軌道面を形成する為、被加工物である軌道輪と、精密加工バイト等の切削工具との相対的変位速度を、その時点での削り量の多少に応じて調節する事で、上記軌道面の加工量が部分的に大きく異なる場合であっても、無駄のない削り加工を行なえる。この結果、上述の様に軌道面の加工を能率良く行なえる。又、上記軌道輪と上記切削工具との相対変位量及び相対変位速度は、従来から工作機械の技術分野で広く知られた数値制御装置(NC装置)により、容易に、且つ高精度で制御できる。従って、効率良く、上記軌道面の性状(寸法及び表面粗さ)を所望通りに仕上げられる。
【0013】
又、請求項2に記載した様に、複数個所に設けた軌道面を単一の切削工具により、時間的に前後して削り加工すれば、これら各軌道面の間隔を適正にする為の制御が容易になる。即ち、複数個所の軌道面を、互いに別々の切削工具により削り加工する場合には、これら各軌道面の間隔を適正にする為に、旋盤に対するこれら各切削工具の取付位置関係(刃先同士の間隔)を厳密に規制する必要がある。この様な規制が面倒であるのに対して、単一の切削工具の移動量を厳密に制御する事は、上記数値制御装置により、容易に行なえる。
【0014】
又、上述の様な本発明は、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、球面ころ軸受等のころ軸受で実施する事もできるが、請求項3に記載した様に、軌道面の断面形状を円弧形である玉軸受により実施する事が、本発明の作用・効果を顕著に得られる。即ち、軌道面の断面形状の曲率が大きい玉軸受の場合、図10により先に説明した様に、回転砥石による軌道面の仕上加工を能率良く行なえない。この様な玉軸受の軌道面を本発明の方法により仕上げれば、回転砥石を使用した従来方法に比べて、大幅な効率向上を図れる。
【0015】
この様に本発明を玉軸受に関して実施する場合、請求項4に記載した様に、上記軌道面の断面形状の中心角を、180度から、上記切削工具の刃先角度を減じた値以下に抑えれば、この切削工具と軌道輪との相対変位を単純にできる。即ち、上記中心角が上記値以下であれば、この軌道輪を回転させつつ、上記切削工具をこの軌道輪に対し、上記軌道面の幅方向と深さ方向とに変位させれば、この軌道面の全幅を切削加工できて、加工能率を十分に高くできる。これに対して、上記中心角が上記値を上回ると、この軌道面に対する上記切削工具の角度を、加工の途中で変更しない限り、この軌道面の全幅を切削加工する事はできず、加工が面倒になる。
同様に、本発明を、それぞれの断面形状が非対称である複列の軌道面を有する玉軸受で実施する場合に、請求項5に記載した様な構成を採用すれば、これら両軌道面の仕上加工を能率良く行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、3、4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、単列深溝型の玉軸受を構成する内輪15の外周面の幅方向中央部に形成した内輪軌道16に、精密加工バイト等の切削工具18により仕上加工を施す場合に就いて示している。上記内輪15は、全体を加熱後に焼き入れ油中に浸漬する、所謂ズブ焼きにより、或いは、上記内輪軌道16となるべき部分を高周波加熱後に急冷する高周波焼き入れにより、少なくともこの内輪軌道16となるべき部分を焼き入れ硬化している。
【0017】
この様に、予めこの内輪軌道16となるべき部分を焼き入れ硬化した、上記内輪15は、旋盤の主軸の端部に設けたチャック装置を構成する把持爪19により抑え付けて、この主軸と同心に支持固定している。この状態で上記内輪軌道16に、上記切削工具18の刃先20を突き当て、この内輪軌道16を所望の性状(寸法及び表面粗さ)に仕上加工する。この仕上加工時には、上記主軸により上記内輪15を回転させつつ、上記切削工具18の刃先20を、上記内輪軌道16に倣う様に変位させる。この変位は、数値制御装置からの指令に基づき、上記切削工具18を支持した刃物台を上記内輪15の軸方向(図1の左右方向)に変位させつつ、径方向(図1の上下方向)に変位させる事により行なう。この場合に、軸方向の変位量と径方向の変位量とを互いに関連させつつ調節して、上記刃先20を、上記内輪軌道16に倣って変位させつつ、この内輪軌道16となるべき部分に存在する焼き入れ硬化層の一部を削り取る。
【0018】
この様にして上記内輪軌道16に仕上加工を施す場合に、上記内輪15と上記切削工具18との相対的変位速度を、その時点での削り量の多少に応じて調節する。即ち、上記内輪軌道16の幅方向両端部(内輪15の軸方向両端寄り部分)は、図10により前述した通り加工量が多くなるので、上記変位速度を遅くする。これに対して、上記内輪軌道16の幅方向中央部は加工量が少なくなるので、上記変位速度を速くする。この様に変位速度を調節する事も、上記数値制御装置からの指令により、容易に行なえる。従って、上記内輪軌道16の全幅に亙り、無駄のない削り加工を行なえて、この内輪軌道16の仕上加工を能率良く行なえる。
【0019】
又、本例の場合には、上記内輪軌道16の断面形状の中心角αと上記切削工具18の刃先20の角度βとの関係を適正に規制する事により、この切削工具18を上記内輪15の軸方向及び径方向に変位させるだけで、上記内輪軌道16を全幅に亙り切削できる様にしている。即ち、上記中心角αを、180度から上記刃先20の角度βを減じた値以下(α≦180−β)としている。又、上記内輪軌道16及びこの刃先20の形状は、この内輪軌道16の幅方向に関して対称にしている。これら各形状を対称にすると共に、上記両角度α、βの値を上述の様に規制する事で、上記内輪軌道16の幅方向両端部に関しても、上記刃先20を突き当てられる様にしている。従って、この内輪軌道16に対する上記切削工具18の角度を変更しなくても(上記刃先20を図1に示した状態から何れかの方向に傾斜させなくても)、上記内輪軌道16の全幅を切削加工できて、上記仕上加工を容易に行なえる。尚、上記切削工具18としては、刃先20の角度βが35度のものが市販されている。従って、上記中心角αを145度以下とすれば、上記切削工具18として市販のものを使用してこの切削工具18の調達コストの低減を図り、且つ、上記仕上加工を能率良く行なえる。
【0020】
[実施の形態の第2例]
図2〜3は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例は、複列玉軸受を構成する外輪21の内周面の軸方向に離隔した2個所位置に形成した1対の外輪軌道22、22に、精密加工バイト等の切削工具18aにより仕上加工を施す場合に就いて示している。上記外輪21に就いても、ズブ焼きにより、或いは高周波焼き入れにより、少なくとも上記両外輪軌道22、22となるべき部分を焼き入れ硬化している。又、これら両外輪軌道22、22は、それぞれが幅方向中央部に関して対称な深溝型である。
【0021】
この様な複列の外輪軌道22、22に仕上加工を施す際には、上記外輪21を旋盤の主軸の端部に、チャック装置の把持爪19aにより、この主軸と同心に支持固定する。この状態で上記外輪21を回転させつつ、上記単一の切削工具18aにより仕上加工を施す。即ち、この切削工具18aにより、一方(例えば図2の右側)の外輪軌道22に仕上加工を施してから、他方(例えば図2の左側)の外輪軌道22に仕上加工を施す。この場合に、熱処理に基づいて上記外輪21の表面に形成された酸化膜を除去したり、保持器やシールリング等の他の部材とこの外輪21との干渉を防止する為、この外輪21の内周面の端部及び中央部等、上記両外輪軌道22、22以外の部分にも、併せて旋削加工を施す事もできる。何れにしても本例の場合には、複列の外輪軌道22、22の仕上加工を単一の切削工具18aにより行なうので、これら両外輪軌道22、22同士の間隔を適正にする為の制御が容易になる。即ち、数値制御装置により上記切削工具18aの移動量を制御するのみで、上記両外輪軌道22、22同士の間隔を適正にできる。互いに別々の切削工具により削り加工する場合の様に、旋盤に対するこれら各切削工具の取付位置関係(刃先同士の間隔)を厳密に規制する必要はない。
【0022】
尚、本例の場合にも、上記両外輪軌道22、22中心角α´(図3参照)を、180度から上記切削工具18aの刃先20aの角度β´(図2参照)を減じた値以下(α´≦180−β´)としている。又、上記両外輪軌道22、22及び上記刃先20aの形状は、これら両外輪軌道22、22の幅方向に関して対称にしている。従って、これら両外輪軌道22、22に対する上記切削工具18aの角度を変更しなくても(上記刃先20aを図2に示した状態から何れかの方向に傾斜させなくても)、上記両外輪軌道22、22を全幅に亙り切削加工できて、上記仕上加工を容易に行なえる。切削工具18aの調達コスト低減の面から、上記中心角α´を145度以下に抑える事が好ましい点は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0023】
[実施の形態の第3例]
図4〜5は、請求項1〜3、5に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例は、前述の図6に示したハブユニット1の如く、複列アンギュラ型の玉軸受ユニットを構成する外輪2の内周面に形成した、玉4、4(図6参照)に背面組み合わせ型の接触角を付与する形状を有する複列の外輪軌道6、6に、切削工具18a(図2参照、図4〜5には省略)による仕上加工を施す場合に就いて示している。本例の場合には、上述した第2例の場合とは異なり、上記両外輪軌道6、6の断面形状が、図5に示す様に、当該断面形状の曲率中心Oを通り上記外輪2の径方向に向いた仮想直線イに関して、非対称である。即ち、この仮想直線イよりもこの外輪2の中央寄り部分に関する中心角αaL(αbL)が、同じく端部寄り部分に関する中心角αaS(αbS、このαbSに関しては図示省略)よりも大きく(αaL>αaS、αbL>αbS)なっている。
【0024】
この様な、それぞれが上述の様な非対称形状である1対の外輪軌道6、6に、単一の切削工具18aにより仕上加工を行なえる様に、これら両外輪軌道6、6の断面形状のうち、上記仮想直線イから、上記外輪2の幅方向中央側端縁までの間の断面形状に関する中心角の和(αaL+αbL)を、180度から上記切削工具18aの刃先角度β´を減じた値以下とする{(αaL+αbL)≦(180−β´)}。尚、上記両外輪軌道6、6を単一の切削工具18aにより仕上加工できる様にする為には、上記条件に加えて、上記仮想直線イよりもこの外輪2の中央寄り部分に関する中心角αaL、αbLに関しても、上記刃先角度β´との関係で規制する。即ち、これら両中心角αaL、αbLを、90度から上記刃先角度β´の1/2を減じた値以下(αaL、αbL≦90−β´/2)とする。そして、上記切削工具18aの中心線を上記外輪2の径方向に一致させる。この様な本例の場合も、上記外輪2の内周面の端部及び中央部等、上記両外輪軌道6、6以外の部分にも、併せて旋削加工を施す事もできる。更には、玉との組み合わせ時にこの玉の転動面に傷を付けにくくする為、上記外輪2の内周面全体に仕上加工を施す事もできる。尚、従来方法の様に、上記両外輪軌道6、6を研磨により仕上げる場合、研磨の基準とする為に、上記外輪2の一部外周面に研磨による仕上加工を行なう必要があった。これに対して、本例を実施する場合には、この外周面の仕上加工を省略できる。又、本例の様に、本発明を複列アンギュラ型の玉軸受ユニットであるハブユニットを構成する外輪2に関して実施する場合、チャック装置の把持爪により抑え付けるのは、この外輪2の軸方向内端部とする事が好ましい。この理由は、この内端部は、使用状態でナックルの支持孔に内嵌する部分であり、上記両外輪軌道6、6を熱処理する以前に必要な形状及び寸法精度に加工している為、上記切削工具18aによる仕上加工の精度を確保し易い為である。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第2例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分切断略側面図。
【図2】同第2例を示す部分切断略側面図。
【図3】外輪を取り出して示す略断面図。
【図4】ハブユニットを構成する外輪を取り出して示す断面図。
【図5】図4のA部拡大図。
【図6】ハブユニットの1例を示す断面図。
【図7】従来方法によりハブユニット本体に仕上加工を施す状態を示す断面図。
【図8】同じく内輪軌道に仕上加工を施す状態を示す断面図。
【図9】同じく外輪軌道に仕上加工を施す状態を示す断面図。
【図10】従来方法の問題点を説明する為の、内輪と回転砥石とを示す断面図。
【図11】同じく内輪軌道部分の拡大断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 ハブユニット
2 外輪
3 ハブ
4 転動体(玉)
5 取付部
6 外輪軌道
7 ハブ本体
8 内輪
9 回転側フランジ
10 内輪軌道
11 第一の回転砥石
12 第二の回転砥石
13 第三の回転砥石
15 内輪
16 内輪軌道
17 回転砥石
18、18a 切削工具
19、19a 把持爪
20、20a 刃先
21 外輪
22 外輪軌道
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種機械装置の回転支持部に組み込む転がり軸受を構成する軌道輪の製造方法の改良に関する。具体的には、転動体の転動面を転がり接触させる為にこの軌道輪に設けた軌道面の加工を能率良く行なえる様にする事で、この軌道輪の製造コストの低減を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対し回転自在に支持する為の転がり軸受の一種であるハブユニットとして、例えば図6に示す様な構造のものが広く知られている。このハブユニット1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体(玉)4、4とから成る。このうちの外輪2は、使用状態で上記懸架装置に対し支持固定されるもので、外周面にこの懸架装置に対し結合する為の外向フランジ状の取付部5を、内周面に複列の外輪軌道6、6を、それぞれ設けている。又、上記ハブ3は、ハブ本体7に内輪8を結合固定したもので、軸方向外端部(軸方向に関して外とは、上記懸架装置への組み付け時に車体の幅方向外となる側を言い、図6の左側。反対に、この車体の中央寄りとなる側を軸方向に関して内という。)に車輪を支持固定する為の回転側フランジ9を、軸方向中間部乃至内端部に複列の内輪軌道10、10を、それぞれ設けている。そして、これら両内輪軌道10、10と上記両外輪軌道6、6との間に上記各転動体4、4を、両列毎に複数個ずつ設けて、上記外輪2の内径側に上記ハブ3を、回転自在に支持している。
【0003】
例えば上述の様なハブユニット1等の転がり軸受の軌道面(外輪軌道6、6及び内輪軌道10、10)等は、熱処理(焼き入れ)により硬化させた後、研磨する事で、所望の性状(寸法及び表面粗さ)に仕上げている。この様な、転がり軸受の軌道面等を研磨により仕上げる方法に関しては、例えば特許文献1〜5等に記載された、各種方法が知られている。図7〜9は、このうちの特許文献5に記載された仕上方法を示している。先ず、上記ハブ本体7の外周面で、上記回転側フランジ9の基端部分から軸方向外側の内輪軌道10を含む中間部分に掛けての部分は、図7に示す様に、第一の回転砥石11により研削加工する。又、上記内輪8の外周面の内輪軌道10は、図8に示す様に、第二の回転砥石12により研削加工する。更に、上記外輪2の内周面に設けた複列の外輪軌道6、6は、それぞれ図9に示す様な第三の回転砥石13により研削加工する。何れの場合も、回転砥石11〜13として、外周面の母線形状が、得るべき軌道面の母線形状に一致したものを使用する。従って、上記研削加工を施す前の状態での、これら各軌道面部分の母線形状は、得るべき軌道面の母線形状よりも小さめに(玉軸受の場合には母線形状の曲率半径を小さく)している。
【0004】
上述の様にして、上記各軌道面を研削加工により仕上げる場合、回転砥石による削り代が多くなり、加工の能率を必ずしも良好にできない。特に、母線形状が円弧である玉軸受用の軌道面の場合には、この傾向が著しい。この点に就いて、図10を参照しつつ説明する。この図10は、内輪15の外周面に形成した単列深溝型の内輪軌道16に、回転砥石17により研削加工を施して、この内輪軌道16の性状を所望通りに仕上げる場合に就いて示している。即ち、上記内輪15及び上記回転砥石17を互いに異なる速度で回転させつつ、この回転砥石17を平行移動させて、この回転砥石17の外周面を上記内輪軌道16に押し付ける。そして、図10の上部に実線で示した形状を削り取って、この上部に鎖線で、同じく下部に実線で、それぞれ示した、所望の性状を有する上記内輪軌道16に仕上げる。
【0005】
この場合に、上記内輪軌道16の各部の削り取り量を、上記内輪15の径方向の寸法で表すと、幅方向中央部の削り取り量δ0 は、上記研削加工の進行に伴う上記回転砥石17の移動量と同じであるが、幅方向端部の削り取り量δ1 は、この移動量よりもかなり多くなる。上記回転砥石17の移動は、このうちの幅方向端部の削り取りを無理なく行なえる速度で行なう必要がある為、相当緩徐に行なう必要がある。即ち、上記回転砥石17の移動速度は、幅方向中央部の削り取りの面からは必要以上に遅くなり、上記内輪軌道16の仕上加工の能率が悪化する。
【0006】
上述の様な原因での仕上加工の能率悪化を防止する為には、図11に鎖線イで示す様に、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状の曲率半径R1 を少し大きめにしておく事が考えられる。即ち、上記図10に示した仕上方法の場合には、図11に破線ロで示した、比較的小さな曲率半径R2 の形状から研削して、実線ハで示した、曲率半径がR3 である内輪軌道16を得る為、上記図10で説明した様な能率悪化を生じる。これに対して上述の様に、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状の曲率半径R1 を少し大きめにすれば、図11の鎖線イと実線ハとの、この図11の上下方向の距離から明らかな通り、上述の様な原因での能率悪化を防止できる。
【0007】
但し、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状は、この仕上加工に先立って行なう熱処理により歪むので、上記鎖線イで示した形状を正確に得る事は難しい。従って、仕上加工前の状態での内輪軌道16の母線形状を上記鎖線イの様にする事で、この仕上加工の能率向上を図る事は、現実的には難しい。むしろ、上記熱処理による歪みを考慮して、上記内輪軌道16の幅方向端部には、十分な研削代(仕上加工により除去すべき厚さ)を確保する場合が多く、この様な場合には、上述の様な原因での、仕上加工の能率悪化が益々著しくなる可能性がある。尚、以上の説明は、単列深溝型の内輪軌道16の場合に就いて説明したが、アンギュラ型の内輪軌道の場合も、更には外輪軌道の場合も、同様に生じる。何れにしても、軌道面の仕上加工の能率悪化は、軌道輪、延いてはこの軌道輪を組み込んだ転がり軸受の製造コストを高くする原因となる為、好ましくない。
【0008】
【特許文献1】特開平9−242763号公報
【特許文献2】特開平10−217001号公報
【特許文献3】特開平12−71705号公報
【特許文献4】特開平12−234624号公報
【特許文献5】特開2004−92830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、軌道面の加工を能率良く行なえる様にする事で、この軌道輪の、延いてはこの軌道輪を組み込んだ転がり軸受の製造コストの低減を図るべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の転がり軸受用軌道輪の製造方法は、何れかの面に全周に亙って軌道面を形成した、鋼材製の転がり軸受用軌道輪を造る為、熱処理により軌道面となるべき部分を硬化させた後、この部分に旋盤により、精密加工バイト等の切削工具を使用した削り加工を施して、上記軌道面を形成する。
この様な本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した様に、上記何れかの面の離隔した複数個所に軌道面を、それぞれ全周に亙って形成する為、上記精密加工バイト等の単一の切削工具によりこれら各軌道面を、時間的に前後して削り加工する。
【0011】
又、上述の様な本発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した様に、上記転がり軸受を玉軸受とし、上記軌道面の断面形状を円弧形とする。
この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した様に、上記軌道面の断面形状の中心角を、180度から、上記精密加工バイト等の切削工具の刃先角度を減じた値以下とする。
或いは、請求項5に記載した様に、何れかの面を周面とし、この周面のうちで軸方向に離隔した2個所に、玉の接触角を互いに逆にする(正面組み合わせ又は背面組み合わせとする)状態で、それぞれの断面形状が、当該断面形状の曲率中心を通り径方向に向いた仮想直線に関して非対称な形状である軌道面を、上記精密加工バイト等の単一の切削工具により前後して削り加工する。この為に、これら両軌道面の断面形状のうち、上記仮想直線から、これら両軌道面の幅方向両端縁のうちでこの仮想直線から遠い側の端縁までの間の断面形状に関する中心角の和を、180度から上記切削工具の刃先角度を減じた値以下とする。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受用軌道輪の製造方法によれば、軌道面の加工を能率良く行なえる。即ち、旋盤による削り加工によりこの軌道面を形成する為、被加工物である軌道輪と、精密加工バイト等の切削工具との相対的変位速度を、その時点での削り量の多少に応じて調節する事で、上記軌道面の加工量が部分的に大きく異なる場合であっても、無駄のない削り加工を行なえる。この結果、上述の様に軌道面の加工を能率良く行なえる。又、上記軌道輪と上記切削工具との相対変位量及び相対変位速度は、従来から工作機械の技術分野で広く知られた数値制御装置(NC装置)により、容易に、且つ高精度で制御できる。従って、効率良く、上記軌道面の性状(寸法及び表面粗さ)を所望通りに仕上げられる。
【0013】
又、請求項2に記載した様に、複数個所に設けた軌道面を単一の切削工具により、時間的に前後して削り加工すれば、これら各軌道面の間隔を適正にする為の制御が容易になる。即ち、複数個所の軌道面を、互いに別々の切削工具により削り加工する場合には、これら各軌道面の間隔を適正にする為に、旋盤に対するこれら各切削工具の取付位置関係(刃先同士の間隔)を厳密に規制する必要がある。この様な規制が面倒であるのに対して、単一の切削工具の移動量を厳密に制御する事は、上記数値制御装置により、容易に行なえる。
【0014】
又、上述の様な本発明は、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、球面ころ軸受等のころ軸受で実施する事もできるが、請求項3に記載した様に、軌道面の断面形状を円弧形である玉軸受により実施する事が、本発明の作用・効果を顕著に得られる。即ち、軌道面の断面形状の曲率が大きい玉軸受の場合、図10により先に説明した様に、回転砥石による軌道面の仕上加工を能率良く行なえない。この様な玉軸受の軌道面を本発明の方法により仕上げれば、回転砥石を使用した従来方法に比べて、大幅な効率向上を図れる。
【0015】
この様に本発明を玉軸受に関して実施する場合、請求項4に記載した様に、上記軌道面の断面形状の中心角を、180度から、上記切削工具の刃先角度を減じた値以下に抑えれば、この切削工具と軌道輪との相対変位を単純にできる。即ち、上記中心角が上記値以下であれば、この軌道輪を回転させつつ、上記切削工具をこの軌道輪に対し、上記軌道面の幅方向と深さ方向とに変位させれば、この軌道面の全幅を切削加工できて、加工能率を十分に高くできる。これに対して、上記中心角が上記値を上回ると、この軌道面に対する上記切削工具の角度を、加工の途中で変更しない限り、この軌道面の全幅を切削加工する事はできず、加工が面倒になる。
同様に、本発明を、それぞれの断面形状が非対称である複列の軌道面を有する玉軸受で実施する場合に、請求項5に記載した様な構成を採用すれば、これら両軌道面の仕上加工を能率良く行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、3、4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、単列深溝型の玉軸受を構成する内輪15の外周面の幅方向中央部に形成した内輪軌道16に、精密加工バイト等の切削工具18により仕上加工を施す場合に就いて示している。上記内輪15は、全体を加熱後に焼き入れ油中に浸漬する、所謂ズブ焼きにより、或いは、上記内輪軌道16となるべき部分を高周波加熱後に急冷する高周波焼き入れにより、少なくともこの内輪軌道16となるべき部分を焼き入れ硬化している。
【0017】
この様に、予めこの内輪軌道16となるべき部分を焼き入れ硬化した、上記内輪15は、旋盤の主軸の端部に設けたチャック装置を構成する把持爪19により抑え付けて、この主軸と同心に支持固定している。この状態で上記内輪軌道16に、上記切削工具18の刃先20を突き当て、この内輪軌道16を所望の性状(寸法及び表面粗さ)に仕上加工する。この仕上加工時には、上記主軸により上記内輪15を回転させつつ、上記切削工具18の刃先20を、上記内輪軌道16に倣う様に変位させる。この変位は、数値制御装置からの指令に基づき、上記切削工具18を支持した刃物台を上記内輪15の軸方向(図1の左右方向)に変位させつつ、径方向(図1の上下方向)に変位させる事により行なう。この場合に、軸方向の変位量と径方向の変位量とを互いに関連させつつ調節して、上記刃先20を、上記内輪軌道16に倣って変位させつつ、この内輪軌道16となるべき部分に存在する焼き入れ硬化層の一部を削り取る。
【0018】
この様にして上記内輪軌道16に仕上加工を施す場合に、上記内輪15と上記切削工具18との相対的変位速度を、その時点での削り量の多少に応じて調節する。即ち、上記内輪軌道16の幅方向両端部(内輪15の軸方向両端寄り部分)は、図10により前述した通り加工量が多くなるので、上記変位速度を遅くする。これに対して、上記内輪軌道16の幅方向中央部は加工量が少なくなるので、上記変位速度を速くする。この様に変位速度を調節する事も、上記数値制御装置からの指令により、容易に行なえる。従って、上記内輪軌道16の全幅に亙り、無駄のない削り加工を行なえて、この内輪軌道16の仕上加工を能率良く行なえる。
【0019】
又、本例の場合には、上記内輪軌道16の断面形状の中心角αと上記切削工具18の刃先20の角度βとの関係を適正に規制する事により、この切削工具18を上記内輪15の軸方向及び径方向に変位させるだけで、上記内輪軌道16を全幅に亙り切削できる様にしている。即ち、上記中心角αを、180度から上記刃先20の角度βを減じた値以下(α≦180−β)としている。又、上記内輪軌道16及びこの刃先20の形状は、この内輪軌道16の幅方向に関して対称にしている。これら各形状を対称にすると共に、上記両角度α、βの値を上述の様に規制する事で、上記内輪軌道16の幅方向両端部に関しても、上記刃先20を突き当てられる様にしている。従って、この内輪軌道16に対する上記切削工具18の角度を変更しなくても(上記刃先20を図1に示した状態から何れかの方向に傾斜させなくても)、上記内輪軌道16の全幅を切削加工できて、上記仕上加工を容易に行なえる。尚、上記切削工具18としては、刃先20の角度βが35度のものが市販されている。従って、上記中心角αを145度以下とすれば、上記切削工具18として市販のものを使用してこの切削工具18の調達コストの低減を図り、且つ、上記仕上加工を能率良く行なえる。
【0020】
[実施の形態の第2例]
図2〜3は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例は、複列玉軸受を構成する外輪21の内周面の軸方向に離隔した2個所位置に形成した1対の外輪軌道22、22に、精密加工バイト等の切削工具18aにより仕上加工を施す場合に就いて示している。上記外輪21に就いても、ズブ焼きにより、或いは高周波焼き入れにより、少なくとも上記両外輪軌道22、22となるべき部分を焼き入れ硬化している。又、これら両外輪軌道22、22は、それぞれが幅方向中央部に関して対称な深溝型である。
【0021】
この様な複列の外輪軌道22、22に仕上加工を施す際には、上記外輪21を旋盤の主軸の端部に、チャック装置の把持爪19aにより、この主軸と同心に支持固定する。この状態で上記外輪21を回転させつつ、上記単一の切削工具18aにより仕上加工を施す。即ち、この切削工具18aにより、一方(例えば図2の右側)の外輪軌道22に仕上加工を施してから、他方(例えば図2の左側)の外輪軌道22に仕上加工を施す。この場合に、熱処理に基づいて上記外輪21の表面に形成された酸化膜を除去したり、保持器やシールリング等の他の部材とこの外輪21との干渉を防止する為、この外輪21の内周面の端部及び中央部等、上記両外輪軌道22、22以外の部分にも、併せて旋削加工を施す事もできる。何れにしても本例の場合には、複列の外輪軌道22、22の仕上加工を単一の切削工具18aにより行なうので、これら両外輪軌道22、22同士の間隔を適正にする為の制御が容易になる。即ち、数値制御装置により上記切削工具18aの移動量を制御するのみで、上記両外輪軌道22、22同士の間隔を適正にできる。互いに別々の切削工具により削り加工する場合の様に、旋盤に対するこれら各切削工具の取付位置関係(刃先同士の間隔)を厳密に規制する必要はない。
【0022】
尚、本例の場合にも、上記両外輪軌道22、22中心角α´(図3参照)を、180度から上記切削工具18aの刃先20aの角度β´(図2参照)を減じた値以下(α´≦180−β´)としている。又、上記両外輪軌道22、22及び上記刃先20aの形状は、これら両外輪軌道22、22の幅方向に関して対称にしている。従って、これら両外輪軌道22、22に対する上記切削工具18aの角度を変更しなくても(上記刃先20aを図2に示した状態から何れかの方向に傾斜させなくても)、上記両外輪軌道22、22を全幅に亙り切削加工できて、上記仕上加工を容易に行なえる。切削工具18aの調達コスト低減の面から、上記中心角α´を145度以下に抑える事が好ましい点は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0023】
[実施の形態の第3例]
図4〜5は、請求項1〜3、5に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例は、前述の図6に示したハブユニット1の如く、複列アンギュラ型の玉軸受ユニットを構成する外輪2の内周面に形成した、玉4、4(図6参照)に背面組み合わせ型の接触角を付与する形状を有する複列の外輪軌道6、6に、切削工具18a(図2参照、図4〜5には省略)による仕上加工を施す場合に就いて示している。本例の場合には、上述した第2例の場合とは異なり、上記両外輪軌道6、6の断面形状が、図5に示す様に、当該断面形状の曲率中心Oを通り上記外輪2の径方向に向いた仮想直線イに関して、非対称である。即ち、この仮想直線イよりもこの外輪2の中央寄り部分に関する中心角αaL(αbL)が、同じく端部寄り部分に関する中心角αaS(αbS、このαbSに関しては図示省略)よりも大きく(αaL>αaS、αbL>αbS)なっている。
【0024】
この様な、それぞれが上述の様な非対称形状である1対の外輪軌道6、6に、単一の切削工具18aにより仕上加工を行なえる様に、これら両外輪軌道6、6の断面形状のうち、上記仮想直線イから、上記外輪2の幅方向中央側端縁までの間の断面形状に関する中心角の和(αaL+αbL)を、180度から上記切削工具18aの刃先角度β´を減じた値以下とする{(αaL+αbL)≦(180−β´)}。尚、上記両外輪軌道6、6を単一の切削工具18aにより仕上加工できる様にする為には、上記条件に加えて、上記仮想直線イよりもこの外輪2の中央寄り部分に関する中心角αaL、αbLに関しても、上記刃先角度β´との関係で規制する。即ち、これら両中心角αaL、αbLを、90度から上記刃先角度β´の1/2を減じた値以下(αaL、αbL≦90−β´/2)とする。そして、上記切削工具18aの中心線を上記外輪2の径方向に一致させる。この様な本例の場合も、上記外輪2の内周面の端部及び中央部等、上記両外輪軌道6、6以外の部分にも、併せて旋削加工を施す事もできる。更には、玉との組み合わせ時にこの玉の転動面に傷を付けにくくする為、上記外輪2の内周面全体に仕上加工を施す事もできる。尚、従来方法の様に、上記両外輪軌道6、6を研磨により仕上げる場合、研磨の基準とする為に、上記外輪2の一部外周面に研磨による仕上加工を行なう必要があった。これに対して、本例を実施する場合には、この外周面の仕上加工を省略できる。又、本例の様に、本発明を複列アンギュラ型の玉軸受ユニットであるハブユニットを構成する外輪2に関して実施する場合、チャック装置の把持爪により抑え付けるのは、この外輪2の軸方向内端部とする事が好ましい。この理由は、この内端部は、使用状態でナックルの支持孔に内嵌する部分であり、上記両外輪軌道6、6を熱処理する以前に必要な形状及び寸法精度に加工している為、上記切削工具18aによる仕上加工の精度を確保し易い為である。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第2例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分切断略側面図。
【図2】同第2例を示す部分切断略側面図。
【図3】外輪を取り出して示す略断面図。
【図4】ハブユニットを構成する外輪を取り出して示す断面図。
【図5】図4のA部拡大図。
【図6】ハブユニットの1例を示す断面図。
【図7】従来方法によりハブユニット本体に仕上加工を施す状態を示す断面図。
【図8】同じく内輪軌道に仕上加工を施す状態を示す断面図。
【図9】同じく外輪軌道に仕上加工を施す状態を示す断面図。
【図10】従来方法の問題点を説明する為の、内輪と回転砥石とを示す断面図。
【図11】同じく内輪軌道部分の拡大断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 ハブユニット
2 外輪
3 ハブ
4 転動体(玉)
5 取付部
6 外輪軌道
7 ハブ本体
8 内輪
9 回転側フランジ
10 内輪軌道
11 第一の回転砥石
12 第二の回転砥石
13 第三の回転砥石
15 内輪
16 内輪軌道
17 回転砥石
18、18a 切削工具
19、19a 把持爪
20、20a 刃先
21 外輪
22 外輪軌道
【特許請求の範囲】
【請求項1】
何れかの面に全周に亙って軌道面を形成した、鋼材製の転がり軸受用軌道輪を造る為、熱処理によりこの軌道面となるべき部分を硬化させた後、この部分に旋盤による削り加工を施してこの軌道面を形成する転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項2】
何れかの面の離隔した複数個所に軌道面を、それぞれ全周に亙って形成する為、単一の切削工具によりこれら各軌道面を、前後して削り加工する、請求項1に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項3】
転がり軸受が玉軸受であり、軌道面の断面形状が円弧形である、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項4】
軌道面の断面形状の中心角が、180度から切削工具の刃先角度を減じた値以下である、請求項3に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項5】
何れかの面が周面であって、この周面のうちで軸方向に離隔した2個所に、玉の接触角の方向を互いに逆にする状態で形成された、それぞれの断面形状が、当該断面形状の曲率中心を通り径方向に向いた仮想直線に関して非対称な形状である軌道面を、単一の切削工具により前後して削り加工する為、これら両軌道面の断面形状のうち、上記仮想直線から、これら両軌道面の幅方向両端縁のうちでこの仮想直線から遠い側の端縁までの間の断面形状に関する中心角の和を、180度から切削工具の刃先角度を減じた値以下とする、請求項3に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項1】
何れかの面に全周に亙って軌道面を形成した、鋼材製の転がり軸受用軌道輪を造る為、熱処理によりこの軌道面となるべき部分を硬化させた後、この部分に旋盤による削り加工を施してこの軌道面を形成する転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項2】
何れかの面の離隔した複数個所に軌道面を、それぞれ全周に亙って形成する為、単一の切削工具によりこれら各軌道面を、前後して削り加工する、請求項1に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項3】
転がり軸受が玉軸受であり、軌道面の断面形状が円弧形である、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項4】
軌道面の断面形状の中心角が、180度から切削工具の刃先角度を減じた値以下である、請求項3に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【請求項5】
何れかの面が周面であって、この周面のうちで軸方向に離隔した2個所に、玉の接触角の方向を互いに逆にする状態で形成された、それぞれの断面形状が、当該断面形状の曲率中心を通り径方向に向いた仮想直線に関して非対称な形状である軌道面を、単一の切削工具により前後して削り加工する為、これら両軌道面の断面形状のうち、上記仮想直線から、これら両軌道面の幅方向両端縁のうちでこの仮想直線から遠い側の端縁までの間の断面形状に関する中心角の和を、180度から切削工具の刃先角度を減じた値以下とする、請求項3に記載した転がり軸受用軌道輪の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−24708(P2009−24708A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185200(P2007−185200)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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