説明

転がり軸受装置

【課題】すきま嵌め時にクリープが発生した場合でも、嵌合面の損傷を長期間にわたり防止でき、かつ、簡易な構造で部分的な交換が可能な転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】内輪3および外輪4と、この内輪3および外輪4間に介在する複数の転動体である円すいころ5とを有する転がり軸受部2と、内輪3の内径側に配置される円環状の滑り軸受部7とからなり、滑り軸受部7の内径部で相手軸10をすきま嵌めで支持する転がり軸受装置1であって、滑り軸受部7は、転がり軸受部2の内輪3の内径側に圧入固定されており、該滑り軸受部7の少なくとも内径部が樹脂組成物から形成された樹脂層9である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受装置に関し、特に、建設機械などに用いられ、内輪と相手軸とをすきま嵌めで用いる転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の使用に際して、内輪回転・回転荷重の場合や内輪静止・静止荷重の場合には、内輪をすきま嵌めとして用いる場合がある。内輪をすきま嵌めするとは、相手軸の外径を、これを支持する内輪内径よりも小さく設定することである。建設機械車両の車輪支持などに用いられる転がり軸受や変速機などのギアを支持する転がり軸受では、組立性などを考慮して内輪をすきま嵌めとして用いていることがある。
【0003】
内輪と相手軸とがすきま嵌めの状態で内輪に振れ回り荷重が作用すると、内輪内径の周長さと軸外径の周長さの違いにより、内輪が軸回転より少しずつ遅れ回転方向とは反対方向に回転する現象(クリープ)が発生する。また、振れ回り荷重が作用しなくても、内輪軌道面上を転動体が通過すると、転動体との接触により内輪内径面に発生した周方向の応力分布が移動するために、内輪内径面が局所的に伸縮を繰り返す。このため、内輪は軸受の回転と同じ方向に軸との間に滑りが生じる。これらの滑りは、内輪内径面や相手軸に摩耗などの損傷を引き起こすことがある。この滑りによる損傷を防止するためには、従来、(1)滑り自体を防止する、または、(2)滑りが生じても摩耗が生じないようにする方法が考えられている。
【0004】
上記(1)の手段としては、とめねじやキーを埋め込んで、内輪または外輪を固定して滑り自体を防止するものがある。例えば、軸に外嵌される内輪とハウジングに内嵌される外輪との間に、保持器によって周方向に所定の間隔を置いて支持された複数の転動体を挟持した構成の転がり軸受において、内輪と軸との圧接面に、断面が凹形状で軸受外側に開口し、挿入したキーによって内輪を回り止めするための所定形状のキー溝が形成されているものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
上記(1)のその他の手段として、複列の転がり軸受において、外輪の外径面に環状のバンド装着溝を設け、このバンド装着溝内に、外輪よりも線膨張係数が大きな材質のバンドを装着したものが提案されている(特許文献2参照)。この構成では、温度上昇に伴い、アルミなどからなるハウジングと軸受外輪との線膨張係数の差により嵌合の緩みが生じても、線膨張係数が大きな材質のバンドが熱膨張することで嵌合の緩みが補正され、内輪と回転軸の嵌合の緩みも防止される。
【0006】
上記(2)の手段として、セラミックス製内外輪と鋼製軸もしくはハウジングとの間で隙間が生じた場合の損傷を防止すべく、これらの嵌合面にリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸エステルなどの被膜を形成した軸受の取り付け構造が提案されている(特許文献3参照)。また、転がり接触または滑り接触する摺動部材において、その摺動面に中間層を設けたDLC膜を形成して異物による摩耗の進展を防止するものが提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−194418号公報
【特許文献2】特開平9−269009号公報
【特許文献3】実開平5−81529号公報
【特許文献4】特開2007−327037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、とめねじによる手段はねじ先端と軸の相手間の摩擦による締結であり、相手軸に対する内輪の駆動トルクが大きい場合には滑りを防止できない。また、特許文献1のように、キーによって固定する手段では、内輪および相手軸にキー溝を設ける必要があり、強度低下やキー溝への応力集中による損傷が懸念される。また、特許文献2のように、バンドを利用した手段は、寸法管理が困難なため、その効果が安定しない。特に、ブルドーザや大型トラックのような建設機械車両は、その外形および重量が過大であり、車輪支持などに用いられる転がり軸受にかかる駆動トルクや荷重も過大となり、上記手段では滑りを安定して防止することが困難となる。
【0009】
また、特許文献3および特許文献4のように、リン酸マンガン被膜やDLC被膜を形成する場合、上記建設機械用途のように、高トルク、高面圧となる厳しい条件下では、被膜の剥れや摩滅などにより、内輪内径面や相手軸の損傷を十分に防止できない場合がある。さらに、建設機械車両などは、荒れ地、岩石土壌などの悪路を走行する頻度が高く、砂などの異物混入が避けられず、上記被膜処理のみでは内輪内径面や相手軸の損傷防止が困難である。被膜が剥れるなどした場合には、クリープにより、内輪と相手軸との嵌合面において異常発熱を伴なう焼付きや、異常摩耗による内輪や相手軸の割損、また、摩耗粉が軸受内に侵入し、摩耗粉噛み込みによる軸受損傷のおそれがある。
【0010】
使用時における上記問題の発生を避けるため、転がり軸受を定期的に交換する必要があるが、上記とめねじやキー溝、各被膜などは軌道輪に直接設けられているため、部分的な交換ができず、転がり軸受全体を交換する必要がある。建設機械用途の転がり軸受は、その外径寸法が大きいことなどから、転がり軸受のコストが高く、交換時期の延長や、より効率的な交換方法などの開発が望まれている。
【0011】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、すきま嵌め時にクリープが発生した場合でも、嵌合面の損傷を長期間にわたり防止でき、かつ、簡易な構造で部分的な交換が可能な転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の転がり軸受装置は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを有する転がり軸受部と、上記内輪の内径側に配置される円環状の滑り軸受部とからなり、上記滑り軸受部の内径部で相手軸をすきま嵌めで支持する転がり軸受装置であって、上記滑り軸受部は、上記転がり軸受部の内輪の内径側に圧入固定されており、該滑り軸受部の少なくとも内径部が樹脂組成物から形成された樹脂層であることを特徴とする。
【0013】
上記滑り軸受部の外径部が金属基材で形成され、該金属基材の片側表面に内径部として上記樹脂層が形成されていることを特徴とする。また、上記樹脂層が、上記金属基材の片側表面に焼結金属からなる多孔質層を形成し、該多孔質層に上記樹脂組成物を含浸被覆して形成されたものであることを特徴とする。また、上記金属基材の上記多孔質層を形成する表面に、上記焼結金属と同等のメッキが施されていることを特徴とする。
【0014】
上記滑り軸受部が、幅方向の片側に、上記転がり軸受部の内輪の端面を覆うフランジを有し、該フランジの上記内輪側の反対面に上記樹脂層が形成されていることを特徴とする。
【0015】
上記滑り軸受部が、上記転がり軸受部の内輪から取り外し可能であることを特徴とする。
【0016】
上記転がり軸受装置が、建設機械に用いられる相手軸を支持するものであることを特徴とする。
【0017】
上記樹脂組成物が、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂を主成分とすることを特徴とする。また、上記樹脂組成物が、ポリイミド(以下、PIと記す)樹脂およびポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと記す)樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂、粒状無機充填材、および、炭素繊維を含むことを特徴とする。特に、上記樹脂組成物における各成分の配合割合は、上記合成樹脂が5〜30体積%、上記粒状無機充填材が3〜30体積%、上記炭素繊維が1〜15体積%、残部が上記PTFE樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の転がり軸受装置は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを有する転がり軸受部と、上記内輪の内径側に配置される円環状の滑り軸受部とからなり、上記滑り軸受部の内径部で相手軸をすきま嵌めで支持するものであり、上記滑り軸受部は、上記転がり軸受部の内輪の内径側に圧入固定されており、該滑り軸受部の少なくとも内径部が樹脂組成物から形成された樹脂層であるので、内輪にクリープが発生した場合でも、滑り軸受部の樹脂層と金属製の相手軸の外径面とが接触することで、金属接触を防止でき、相手軸の摩耗などの損傷を防止することができる。また、相手軸との摺動部が、圧入固定した滑り軸受部であるので、高面圧下でも被膜のように剥れるなどのおそれがなく、長期間にわたり相手軸の摩耗などの損傷を防止できる。
【0019】
滑り軸受部の外径部が金属基材で形成され、該金属基材の片側表面に内径部として樹脂層が形成されているので、滑り軸受部の機械的強度に優れ、滑り軸受部を転がり軸受部に圧入する際の破損などを防止できる。
【0020】
また、上記樹脂層が、金属基材の片側表面に形成した焼結金属からなる多孔質層に樹脂組成物を含浸被覆して形成されているので、高面圧下での摺動特性に優れる。さらに、上記金属基材の多孔質層を形成する表面に、上記焼結金属と同等のメッキを施すことで、多孔質層と金属基材との密着性の向上が図れる。
【0021】
上記滑り軸受部が、幅方向の片側に、転がり軸受部の内輪の端面を覆うフランジを有し、該フランジの内輪側の反対面に樹脂層が形成されているので、該転がり軸受装置の軸肩および端面(アキシアル方向接触面)における摩耗などの損傷を防止することができる。また、フランジを有することで、滑り軸受部の圧入および取り外しの作業性に優れる。
【0022】
上記滑り軸受部が、転がり軸受部の内輪から取り外し可能であるので、摺動部である滑り軸受部に損傷がみられる場合に、転がり軸受部はそのままで、該滑り軸受部のみを交換することができる。よって、転がり軸受装置全体を交換する場合よりも、メンテナンス費用の大幅な低コスト化が図れる。
【0023】
上記樹脂組成物が、PTFE樹脂を主成分とし、また、必要に応じて、PI樹脂およびPPS樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂、粒状無機充填材、および、炭素繊維を含むので、高面圧下での耐摩耗性や耐クリープ特性などの摺動特性に優れる。
【0024】
本発明の転がり軸受装置は、高面圧下で内輪にクリープが発生した場合でも、相手軸の摩耗などの損傷を長期間にわたり防止することができ、部分的な交換も可能であることから、建設機械に用いられる相手軸を支持する転がり軸受装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の転がり軸受装置の一例を示す軸方向断面図である。
【図2】図1の転がり軸受装置において、転がり軸受部と滑り軸受部とを分解した状態を示す図である。
【図3】本発明の転がり軸受装置の他の例を示す軸方向断面図である。
【図4】図3の転がり軸受装置において、転がり軸受部と滑り軸受部とを分解した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の転がり軸受装置は、相手軸をすきま嵌めとする場合の用途に適用するものである。例えば、ダンプトラック、ホールローダ、クレーン等建設機械車両の車輪支持などに用いられる転がり軸受や、変速機などのギアを支持する軸受などの建設機械用途が挙げられる。これらの建設機械用途では、通常、内径φ50〜600 mm 程度の大きさの軸受が使用され、比較的高負荷、低速回転で油浴潤滑のような条件下で用いられることが多い。
【0027】
本発明の転がり軸受装置の一実施例を図1および図2により説明する。図1は、本発明の転がり軸受装置の軸方向断面図であり、図2は転がり軸受部と滑り軸受部とを分解した状態を示す図である。図1に示すように、転がり軸受装置1は、転がり軸受部2と、滑り軸受部7とからなる。転がり軸受部2は、内輪3および外輪4と、この内輪3および外輪4間に介在する複数の転動体である円すいころ5とを有する。また、複数の円すいころ5は、保持器6により一定間隔で保持され、転がり軸受部の内部でグリースなどにより潤滑されている。滑り軸受部7は、外径部である金属基材8と、内径部である樹脂層9とから構成されている。転がり軸受装置1は、滑り軸受部7の内径部である樹脂層9で相手軸10をすきま嵌めで支持するものである。すなわち、相手軸10の外径が、滑り軸受部7の(樹脂層9の)内径よりも小さく設定されている。図2に示すように、滑り軸受部7は、転がり軸受部2の内輪3の内径側に配置される円環状の部材であり、該内輪3の内径側に圧入固定されている。
【0028】
図1に示す例では、滑り軸受部7は、外径部である金属基材8と、該金属基材8の片側表面に内径部として形成される樹脂層9とからなる複層構造を有する。金属基材8としては、鋼(SPCCなどの構造用圧延鋼など)あるいは鋼以外の金属、例えばステンレス鋼または青銅などの銅系合金などを使用できる。このような構造とすることで、滑り軸受部7の機械的強度に優れ、滑り軸受部7を転がり軸受部2に圧入する際の破損などを防止できる。
【0029】
樹脂層9は、樹脂組成物から成形される。該樹脂組成物の主成分となる樹脂としては、滑り軸受材として使用される公知の材料を使用できる。例えば、PTFE樹脂、ポリアセタール樹脂、ナイロン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂やテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂などの射出成形可能なフッ素樹脂、射出成形可能なPI樹脂、PPS樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの各樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。また、該樹脂組成物には、公知の固体潤滑剤や補強材などの添加剤を配合してもよい。また、成形方法は、圧縮成形、押し出し成形、射出成形、後述する含浸被覆する方法など、材料および滑り軸受部の態様に合せて適宜選択できる。
【0030】
樹脂層9としては、金属基材8の片側表面に焼結金属からなる多孔質層を形成し、該多孔質層にPTFE樹脂などを主成分とする樹脂組成物を含浸被覆して形成されたものとすることが好ましい。この場合、滑り軸受部7が、金属基材8と、多孔質層と、樹脂含浸被覆層とからなる三層構造体となり、高面圧下での摺動特性に優れる。
【0031】
滑り軸受部7は、少なくとも内径部が上記樹脂組成物から形成された樹脂層9であればよい。よって、図1などに示す複層構造のほか、樹脂層9のみからなる単層構造であってもよい。建設機械用途のように高トルク、高面圧条件では、内輪のクリープの発生自体を防止することは困難であるが、少なくとも相手軸10との摺動部である内径部を樹脂層9とすることで、該クリープが発生した場合でも、金属接触を防止でき、かじりや摩耗を防止できる。
【0032】
滑り軸受部7における樹脂層9の厚みは、転がり軸受装置自体の外径寸法にもよるが、0.1〜0.5mmとすることが好ましい。また、滑り軸受部7を樹脂層9のみで形成する場合(単層)では、1〜5mmとすることが好ましい。この範囲とすることで、圧入時の損傷などを防止でき、かつ、建設機械用途における高面圧などの厳しい条件下でも、長期間にわたり相手軸の摩耗などの損傷を防止できる。
【0033】
本発明の転がり軸受装置の他の実施例を図3および図4により説明する。図3は、本発明の転がり軸受装置(フランジ付き)の軸方向断面図であり、図4は、フランジ付きの転がり軸受部と滑り軸受部とを分解した状態を示す図である。図3および図4に示すように、この態様の転がり軸受装置1では、滑り軸受部7が、幅方向の片側に、転がり軸受部2の内輪3の端面3aを覆うフランジ8aを有し、該フランジ8aの内輪3側の反対面にも樹脂層9が形成されている。なお、この態様の転がり軸受装置1において、転がり軸受部2の構成については、図1に示す態様と同様である。
【0034】
フランジ8aは、例えば、金属基材8である円環状鋼板の幅方向片側をプレス加工などにより折り曲げることで形成している。また、滑り軸受部7を樹脂層9のみで形成する場合(単層)では、該フランジ付きの円環状に射出成形などにより一体成形することができる。滑り軸受部7のフランジ8aで、転がり軸受部2の内輪3の端面3aを覆うことで、転がり軸受装置1のアキシアル方向接触面における摩耗などの損傷も防止することができる。また、滑り軸受部7にフランジ8aを設けることで、転がり軸受部2に対する滑り軸受部7の圧入および取り外しの作業性に優れる。
【0035】
転がり軸受装置1では、滑り軸受部7が、転がり軸受部2の内輪3に圧入固定されたものであるので、取り外しも可能である。上述のように、建設機械用途のように高トルク、高面圧条件では、すきま嵌め内輪におけるクリープの発生自体を防止することは困難である。本発明の転がり軸受装置では、該クリープが発生した場合でも、従来の被膜を形成するものなどと比較して長期間にわたり相手軸や滑り軸受部の損傷を防止できるが、交換も必要となる。この場合でも、転がり軸受部はそのままで、該滑り軸受部のみを取り外して交換できるので、転がり軸受装置全体を交換する場合よりも、メンテナンス費用の大幅な低コスト化が図れる。
【0036】
また、転がり軸受部2の内輪3において、滑り軸受部7の肉厚分の肉厚を、従来使用していた内輪よりも薄くすることで、相手軸の径を従来から変更することなく適用可能となる。
【0037】
本発明の転がり軸受装置における好ましい態様である、滑り軸受部の樹脂層として、金属基材の片側表面に焼結金属からなる多孔質層を形成し、該多孔質層にPTFE樹脂を主成分とする樹脂組成物を含浸被覆して形成されたものとする場合について以下に詳細に説明する。
【0038】
多孔質層を形成する焼結金属としては、摩擦摩耗特性に優れることから、銅あるいは青銅などの銅合金が好ましい。また、この態様では、金属基材の表面に、多孔質層との密着性強化のため、多孔質層と同等のメッキを施すことが好ましい。
【0039】
上記樹脂組成物の主成分となるPTFE樹脂は、−(CF2−CF2)n−で表される一般のPTFE樹脂を用いることができる。また、一般のPTFE樹脂にパーフルオロアルキルエーテル基(−C2p−O−)(pは1−4の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF2−)(qは1−20の整数)などを導入した変性PTFE樹脂も使用できる。これらのPTFE樹脂および変性PTFE樹脂は、一般的なモールディングパウダーを得る懸濁重合法、ファインパウダーを得る乳化重合法のいずれを採用してもよいが、数平均分子量(Mn)は約50万から1000万が好ましい。
【0040】
上記樹脂組成物には、高面圧下での摺動特性の向上などを図るため、PI樹脂およびPPS樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂、粒状無機充填材、および、炭素繊維を含むことが好ましい。これらを含むことで、鉛または鉛化合物を配合しなくても、高面圧下での摺動特性に優れる。
【0041】
PI樹脂およびPPS樹脂は、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスの一種であり、PTFE樹脂にPI樹脂もしくはPPS樹脂を配合することによって、PTFE樹脂の欠点であった耐摩耗性、耐クリープ特性が改善できる。
【0042】
粒状無機充填材としては、非金属系の無機充填材であってアスペクト比が3以下の球状、板状、不定形状の粒状で、PTFE樹脂と分散配合できる無機充填材が好ましい。例えば、硫酸カルシウム粉末、水酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、硫酸バリウム粉末などが挙げられる。また、平均粒子径(レーザー解析法による測定値)としては、1〜50μm程度が好ましい。
【0043】
炭素繊維は、ピッチ系あるいはPAN系のいずれも用いることができる。炭素繊維の繊維長は10〜1000μmの短繊維であることが好ましく、さらに好ましくは平均繊維長として50〜300μmである。繊維径はφ20μm以下、好ましくは、φ7〜φ15μmであり、アスペクト比は5〜80、好ましくは20〜50である。この特性を有する炭素繊維であると、補強効果に優れ、耐摩耗特性、耐クリープ特性に優れる。また、糸種は特に限定しないが、2000℃焼成、あるいはそれ以上の温度での処理品(黒鉛化品)より1000℃焼成品(炭化品)の方が好ましい。
【0044】
上記樹脂組成物における各成分の配合割合としては、上記合成樹脂を5〜30体積%、上記粒状無機充填材を3〜30体積%、上記炭素繊維を1〜15体積%とし、残部を上記PTFE樹脂とすることが好ましい。PI樹脂またはPPS樹脂が30体積%をこえると高面圧下で摩擦係数が上昇し、摩擦による発熱量の増大などの不具合が生じるおそれがあり、5体積%未満であると改善効果が発揮できない。粒状無機充填材が30体積%をこえると、相手軸を摩耗損傷するおそれがあり、3体積%未満であると耐摩耗性効果が発現しない。炭素繊維が15体積%をこえると成形性に問題が生じるおそれがあり、1体積%未満であると補強効果に乏しい。
【0045】
上述の各原材料を溶媒に溶解あるいは分散させてディスパージョン液等とし、このディスパージョン液等を撹拌することによりペースト状にした後、金属基材上の多孔質層に含浸させて、溶媒を除去することにより、滑り軸受部の樹脂層が得られる。
【0046】
本発明の転がり軸受装置の滑り軸受部について、以下に具体的に評価を行なった。滑り軸受部の試験片を次の方法で作製した。ステンレス鋼(SUS304)の鋼板を脱脂した後、銅メッキを行ない、この鋼板の表面に青銅粉末(#100 メッシュをパスし、#200 メッシュでオンするもの)を散布した。青銅粉末が一様に散布された鋼板を加熱・加圧することにより均一な層厚の多孔質層を形成した。この多孔質層上に、表1に示す配合割合に調整した樹脂組成物のディスパージョン液を塗布し、乾燥炉中で溶媒を蒸発させ、加熱・加圧により樹脂成分を多孔質層に含浸被覆した。
【0047】
このようにして得られた板材を所定の試験片形状に加工し、リングオンディスク型試験機により動摩擦係数、摩耗量を測定した。リングオンディスク型試験機は、押圧力が印加され固定された相手材に対して試験片を所定の条件で回転させ動摩擦係数、摩耗量を測定する試験装置である。試験条件は速度153m/min、面圧1.5MPaで30時間供試し、試験終了直前の動摩擦係数、摩耗量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、滑り軸受部を形成する樹脂組成物として、PTFE樹脂を主成分とし、PI樹脂およびPPS樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂と、粒状無機充填材と、炭素繊維とを含むものが、低摩擦特性を維持しつつ耐摩耗性を有し、好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の転がり軸受装置は、高面圧下で内輪にクリープが発生した場合でも、相手軸の摩耗などの損傷を長期間にわたり防止することができ、部分的な交換も可能であることから、建設機械に用いられる相手軸を支持する転がり軸受装置として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 転がり軸受装置
2 転がり軸受部
3 内輪
4 外輪
5 円すいころ
6 保持器
7 滑り軸受部
8 金属基材
9 樹脂層
10 相手軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを有する転がり軸受部と、前記内輪の内径側に配置される円環状の滑り軸受部とからなり、前記滑り軸受部の内径部で相手軸をすきま嵌めで支持する転がり軸受装置であって、
前記滑り軸受部は、前記転がり軸受部の内輪の内径側に圧入固定されており、該滑り軸受部の少なくとも内径部が樹脂組成物から形成された樹脂層であることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記滑り軸受部の外径部が金属基材で形成され、該金属基材の片側表面に内径部として前記樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記樹脂層が、前記金属基材の片側表面に焼結金属からなる多孔質層を形成し、該多孔質層に前記樹脂組成物を含浸被覆して形成されたものであることを特徴とする請求項2記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
前記金属基材の前記多孔質層を形成する表面に、前記焼結金属と同等のメッキが施されていることを特徴とする請求項3記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
前記滑り軸受部が、幅方向の片側に、前記転がり軸受部の内輪の端面を覆うフランジを有し、該フランジの前記内輪側の反対面に前記樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の転がり軸受装置。
【請求項6】
前記滑り軸受部が、前記転がり軸受部の内輪から取り外し可能であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の転がり軸受装置。
【請求項7】
前記転がり軸受装置が、建設機械に用いられる相手軸を支持するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の転がり軸受装置。
【請求項8】
前記樹脂組成物が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の転がり軸受装置。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、ポリイミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂、粒状無機充填材、および、炭素繊維を含むことを特徴とする請求項8記載の転がり軸受装置。
【請求項10】
前記樹脂組成物における各成分の配合割合は、前記合成樹脂が5〜30体積%、前記粒状無機充填材が3〜30体積%、前記炭素繊維が1〜15体積%、残部が前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項9記載の転がり軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−24252(P2013−24252A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156251(P2011−156251)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】