説明

転がり軸受

【課題】外部から潤滑剤に水分が混入したり、潤滑剤中の水分濃度の影響を受ける使用状況下でも十分なる軸受寿命を安価にして得ることができ、特にオルタネータ等の自動車エンジンの電装・補機類用に好適した転がり軸受を得ることができるようにした。
【解決手段】転動体と軌道輪とで画成される環状空間にグリース組成物が封入される転がり軸受であって、グリース組成物は、合成油である基油と、ジウレア化合物である増稠剤と、グリース組成物の水素イオン指数pHを7〜13の範囲に調整するpH調整剤と、を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受に関し、特に、潤滑剤に水分が混入したり、振動の影響を受ける使用環境下に使用に好適した転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受においては、一般に、潤滑剤中に水分が混入するとその耐久性が大きく低下することが知られており、例えば、潤滑剤中に6%の水分が混入した場合は、水分混入がない場合に比べ、軸受の転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1程度に低下することが報告されている(古村恭三郎、城田伸一、平川清:「表面起点及び内部起点の転がり疲れについて」、NSK Bearing Journal, No.636, pp. 1 - 10, 1977 ;以下「文献1」という)。
【0003】
水分の潤滑剤への混入は転がり軸受の寿命特性(耐久性)に多大な影響を及ぼすことが上記文献1からも明らかであり、従来より水分の潤滑剤への混入を防止する技術が、前記転がり軸受の用途に応じて種々検討され、開発されている。
【0004】
潤滑剤に水分が浸入することを想定して使用される転がり軸受としては、例えば、鉄鋼材料の圧延機のワークロール用軸受がある。
【0005】
該ワークロール用軸受は、従前においては軸受を内有したチョック(軸受箱)に接触ゴムシールを装着し、多量の圧延水がチョック内に浸入するのを防止することにより軸受内部に封入されている潤滑剤に水分が混入するのを防いでいたが、前記接触ゴムシールの劣化や損傷が生じた場合はチョック内に水が浸入し、その結果軸受内部の潤滑剤にも水分が混入し得る。このため最近では軸受内部にも接触ゴムシールを装着することにより、潤滑剤に水分が混入するのを回避しようとした技術が提案されている(K. YAMAMOTO, M. YAMAZAKI, M. AKIYAMA, K. FURUMURA : 「Introducing of Sealed Bearings for Work Roll Necks in Rolling Mills」、Proceedings of the JSLE international Tribology Conference, pp. 609 - 614, July 8 - 10, 1985, Tokyo, Japan;以下「第1の従来技術」という)。
【0006】
該第1の従来技術によれば、軸受外部のチョックに装着された接触ゴムシールと軸受内部に装着された接触ゴムシールとを併用することにより、前記チョックに装着されたゴム接触シールのみで水分浸入を防いでいた場合に比べ、潤滑剤中の水分濃度を40%から10%未満に減少することができ、また潤滑剤の消費量も1/200に低減することができ、さらには毎年数回あった軸受の破損事故も皆無になったことが報告されている。
【0007】
また、上述したワークロール用軸受において、潤滑剤への水分混入を防止する他の従来技術として、圧搾空気をキャリアガスとして潤滑剤をチョックに供給する技術も提案されている(NSK Technical Journal No. 654, pp. 54 - 56, 1992;以下「第2の従来技術」という)。
【0008】
該第2の従来技術においては、圧搾空気を利用してチョック内の空気圧力を高く設定することにより、潤滑剤への水分混入を抑制することが可能となる。
【0009】
また、潤滑剤中に水分が浸入し得る他の転がり軸受の例としては、自動車エンジンの電装・補機用軸受がある。自動車エンジンの電装・補機類用軸受とは、オルタネータ用軸受、カークーラ電磁クラッチ用軸受、アイドラプーリ用軸受、水ポンプ用軸受等、自動車エンジンの外部にあるベルトにより駆動する補助機械用の軸受を意味するが、これら電装・補機類用軸受は、路面より跳ね上げられる泥水や雨水が軸受内部に浸入しやすく、また水ポンプ用軸受についてはエンジン冷却用の循環水が軸受内部に浸入し易い。
【0010】
そこで、かかる観点から自動車エンジンの電装・補機類用軸受においては、軸受内部における潤滑剤への水分混入を防止する手段として、内蔵シールのシール性を高性能化する技術が提案されている(NSK Technical Journal No. 660, pp. 15 - 22, 1995、同 No. 652, pp. 66 - 67, 1992;以下「第3の従来技術」という)。
【0011】
また、転がり軸受においては、一般に、振動が負荷されたり、或いは軸受周りの剛性が弱い場合は軸受の耐久寿命が大幅に低下することが報告されている(村上保夫、武村浩道:「電装用軸受のフレーキング現象の研究」、日本トライポロジ学会主催トライポロジ会議予稿集(名古屋 1993年11月、pp. 295 - 298 ;以下「文献2」という)。
【0012】
すなわち、運転中に振動が負荷された場合は軌道面と転動面との間の油膜形成が不十分となり接触面に引張応力が負荷され、また回転軸と内輪とが強いしばりばめで嵌合されて軸受ハウジングの剛性が低下している場合は軌道面に常時引張応力が作用し、その結果、外部からの潤滑剤への水分混入がなくとも、潤滑剤に元々含有されている水分の影響を受けて軸受の早期剥離を招来し、軸受寿命Lの低下を来す虞がある。
【0013】
しかるに、前記自動車エンジンの電装・補機類用軸受は、ベルトの振動が直接伝わり、且つ軸受のハウジングの剛性が低いことから、振動等の影響を受けやすい。このため、該振動等に起因して軸受が早期に剥離(フレーキング)するのを回避すべく、振動減衰効果に優れた緩衝剤のような作用を奏するグリースを潤滑剤として使用することが提案されている(NSK Technical Journal No. 657, pp. 49 - 51, 1994;以下「第4の従来技術」という)。
【0014】
また、潤滑剤中に水分が浸入し得るその他の転がり軸受の例としては、自動車ホイール用軸受、鉄鋼材料の連続鋳造設備のガイドロール用軸受や圧延機のバックアップロール用軸受、更には製紙機ドライヤロール用軸受等がある。
【0015】
自動車ホイール用軸受においては、路面の泥水や雨水の影響を受けて潤滑剤中に水分が浸入し易い。また、鉄鋼材料の連続鋳造設備のガイドロール用軸受や圧延機のバックアップロール用軸受についても、冷却水や圧延水が潤滑剤中に浸入し易い。さらに、製紙機ドライヤロール用軸受は、水分を含んだ湿った紙を乾燥する乾燥工程で使用されるため、軸受内に水蒸気が浸入し易く、したがって、潤滑剤中の水分濃度が増加して軸受の早期破損を生じやすい(M.J.Culter:「Paper machine bearing failure 」、Tappi Journal, Vol. 79, No. 2, pp. 157 - 167, 1996;以下「文献3」という)。
【0016】
そこで、自動車ホイール用軸受においては、上記第1の従来技術と同様、軸受外部の接触ゴムシールと軸受に内蔵された接触ゴムシールを併用したり、或いは高性能シールを単独使用する技術が提案されており(NSK Technical Journal No. 647, pp. 55 - 57, 1987)、また、ガイドロール用軸受や圧延機のバックアップロール用軸受についても、接触ゴムシールを使用して潤滑剤中への水分浸入を防止することが行われている。また、製紙機ドライヤロール用軸受についても、上記文献3から明らかなように水蒸気が軸受中に浸入し易いため水分浸入防止のための対策を講じる必要があるが、該製紙機ドライヤロール用軸受は一般に高温条件下で使用されるため、ワークロール用軸受や自動車用ホイール用軸受に使用される接触ゴムシールを適用することは耐熱性を考慮すると難しく、このため十分な耐熱性を有する特殊な高温用ゴムを使用して水分の浸入を防止することが考えられている。
【0017】
すなわち、これら自動車ホイール用軸受等その他の転がり軸受についても、第1の従来技術や第3の従来技術と略同様、原理的には接触ゴムシールを使用して軸受内部の潤滑剤への水分混入を極力回避している(以下、これらその他の転がり軸受についての従来技術を「第5の従来技術」という)。
【0018】
一方、転がり軸受が搭載された機械類や自動車等が運転を停止している場合に軸受のハウジング内部の温度が低下して露点に到達したときは、軸受周辺の水分が凝縮し、その結果水滴となって軸受に付着したり或いは潤滑剤中に混入し、これにより軸受寿命Lの低下を招来することが報告されており(内田権一:NSK Technical Journal No. 632, pp. 40 - 45, 1973;以下「文献4」という)、また潤滑剤が酸化劣化すると水分が発生し、該発生した水分が軸受に付着して軸受寿命Lの低下を招来することが報告されている(関雅夫:転がり疲れシンンポジウム予稿集、pp. 125 - 130, 1993 ;以下「文献5」という )。
【0019】
これら文献4及び文献5によれば、外部から直接的に潤滑剤に水分が混入しなくとも、環境変化等により潤滑剤中の水分が含まれる状況になる場合があり、したがって軸受寿命Lの低下を回避するためには潤滑剤への水分浸入対策として上述した接触ゴムシール以外の手段も検討する必要がある。
【0020】
そこで、かかる観点からは、軸受に使用される軸受材料としてマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C)を使用することにより、軸受への水分付着による錆の発生を防止し、耐久性が低下するのを回避せんとしている(転がり軸受工学編集委員会編:転がり軸受工学,pp. 71 - 72 、養賢堂(1976年);以下「第6の従来技術」という)。
【非特許文献1】古村恭三郎、城田伸一、平川清:「表面起点及び内部起点の転がり疲れについて」、NSK Bearing Journal, No.636, pp. 1 - 10, 1977
【非特許文献2】村上保夫、武村浩道:「電装用軸受のフレーキング現象の研究」、日本トライポロジ学会主催トライポロジ会議予稿集(名古屋 1993年11月、pp. 295 - 298
【非特許文献3】M.J.Culter:「Paper machine bearing failure 」、Tappi Journal, Vol. 79, No. 2, pp. 157 - 167, 1996
【非特許文献4】内田権一:NSK Technical Journal No. 632, pp. 40 - 45, 1973
【非特許文献5】関雅夫:転がり疲れシンンポジウム予稿集、pp. 125 - 130, 1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、上記第1の従来技術は、上述の如く潤滑剤中の水分濃度を40%から10%未満に減少させることが可能であり、また、潤滑剤の消費量を低減させることができ、その後のワークロール用軸受の使用実績を調査した結果、焼き付き事故は激減していることが判明したが、剥離発生までの使用時間、すなわち軸受寿命Lは余り向上していないことが判った。これは、前記焼き付き事故の減少は軸受に内蔵された接触ゴムシールにより潤滑剤の外部への流出が減少したためであり、前記軸受寿命Lが向上していないのは潤滑剤への水分の混入により、軸受の転がり疲れ強さが大幅に低下するためと考えられる。
【0022】
すなわち、100ppm程度の微量の水分が潤滑剤中に混入した場合であっても軸受材料の転がり疲れ強さは32〜48%も低下することが報告されており(P.Schatzberg, I.M.Felsen:「Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication」,wear, 12, pp. 331 - 342, 1968;以下「文献6」という) 、軸受外のチョックに装着された接触ゴムシールと軸受に内蔵された接触ゴムシールとを併用した場合、潤滑剤中の水分濃度が10%未満程度になるまでは抑制できるものの、潤滑剤への水分混入を完全には防止することができず、文献6も指摘しているように軸受材料の転がり疲れ強さが低下するのを避けることができない。つまり、第1の従来技術では、潤滑剤への水分混入を完全には防止できないため、軸受材料の転がり疲れ強さが低下し、所望の耐久性を有する軸受寿命Lを得ることができないという問題点がある。
【0023】
また、第2の従来技術は、チョック内の空気圧を高くすることにより水分の浸入を防止しているため、第1の従来技術のように接触ゴムシールの防水能力には依存しないものの、潤滑剤中の水分濃度を100ppm以下にするような略完璧に近い水分浸入防止を図るのが困難であるという問題点がある。
【0024】
また、第3の従来技術は、原理的には第1の従来技術と同様、接触ゴムシールにより水分の浸入を防止するものであり、上述したように潤滑剤中の水分濃度を100ppm以下に抑制することは困難であり、所望の耐久性を得ることができないという問題点がある。
【0025】
また、第4の従来技術においても、近年の自動車の高性能化により、電装・補機用軸受の使用温度が高くなり、結果としてグリースが軟化して該グリースの振動減衰能が低下するため、軸受の早期剥離を防止することができず、上述した潤滑剤中への水分浸入と相俟って軸受寿命低下の要因となり、所望の耐久性を得ることができないという問題点がある。
【0026】
また、第5の従来技術においても、原理的には上記第1の従来技術と同様、接触ゴムシールを使用したものであり、完璧な水分の浸入防止を図ることは困難であるという問題点がある。
【0027】
さらに、第6の従来技術については、ステンレス鋼の熱伝導度が低合金鋼の熱伝導度に比べて低いため焼き付き破損が生じやすく、潤滑剤中に水分が混入する上述のような潤滑条件の悪い転がり軸受への適用は困難であるという問題点がある。また、前記ステンレス鋼の耐食性は表面に生成される不動態皮膜により維持されるものであるが、転がり軸受においては軌道輪の軌道面と転動体の転動面とが接触すると前記不動態皮膜が破られ、その結果選択的に腐食が進行して孔(ピット)が生成されるため、該孔を起点とした剥離破損が生じやすいという問題点もある。さらに、軸受を製造する場合においても、ステンレス鋼の場合は焼入温度が1010〜1070℃と高く、加熱炉としては塩浴炉を使用する必要があるため、生産設備の高騰化を招く虞があるという問題点もある(日本鉄鋼協会編:鋼の熱処理 改訂5版 pp. 563 - 568 (1989))。
【0028】
さらに加えて、前記ステンレス鋼は上述したように熱伝導度が低いため、研削速度が低下して研削コストが高価なものとなり、さらには前記ステンレス鋼は高合金鋼であるため素材コストの高騰化をも招来するという問題点もある。
【0029】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであって、外部から潤滑剤に水分が混入したり、或いは振動の影響を受ける使用状況下であっても、十分なる軸受寿命を安価に得ることができる転がり軸受、転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本願出願人は、潤滑剤中に水分を含んだ潤滑条件下で使用されても、軸受部位の腐食進行を防止することができる転がり軸受を得るべく、鋭意研究をした結果、軌道輪の軌道面におけるカソード反応を抑制して軌道輪に水素が吸収されるのを抑制することが重要であり、そのためには潤滑剤中の水分の水素イオン濃度を下げることが効果的であり、換言すれば、水素イオン指数pHを上げることが効果的であるという知見を得た。
【0031】
そして、本願出願人の実験により、潤滑剤にアルカリ性物質を添加していったところ潤滑剤の水素イオン指数pHが7〜13の範囲内にあるときにカソード反応を抑制して転がり疲れ強さを改善することができることが判った。
【0032】
本発明は斯かる知見に基づきなされたものであって、本発明に係る転がり軸受は、転動体と軌道輪とで画成される環状空間にグリース組成物が封入された自動車のエンジンの電装、補機類用の耐剥離性を有する転がり軸受であって、前記封入されているグリース組成物は、合成油である基油と、ジウレア化合物である増稠剤と、前記グリース組成物の水素イオン指数pHを7〜13の範囲に調整するpH調整剤と、を含有するものであり、前記pH調整剤による前記グリース組成物のpH調整は、炭素数が1〜24の第一級アルキルアミンを前記グリース組成物全量に対して0.01〜0.1wt%添加すること、炭素数が6〜24のリチウムもしくはナトリウムの有機酸金属塩を前記グリース組成物全量に対して0.01〜0.1wt%添加すること、または炭酸カリウムもしくは水酸化ナトリウムを前記グリース組成物全量に対して0.01〜0.05wt%添加することにより、前記pH7〜13の範囲に調整するものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、外輪と内輪とからなる軌道輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配設された転動体とを備えた転がり軸受において、前記転動体と前記軌道輪とで画成される環状空間に潤滑剤が封入されると共に、該潤滑剤の水素イオン指数pHが、7〜13に設定されているので、潤滑剤中に水分が混入したり、或いは振動により潤滑剤中の水分の影響を受けやすい自動車エンジンの電装・補機類用軸受の場合であっても、軸受部位に剥離が発生のを防止することができ、耐久性向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0035】
上述の如く、潤滑剤中に水分を含んだ潤滑条件下では軸受材料の転がり疲れ強さの低下を招くことが知られているが、その機構については定説がなく、水分の潤滑剤への混入が転がり疲れ強さを低下させる理由については不明とされている(E.Ioannides, B.Jacobson :「Dirty lubricants-reduced bearing life 」,Ball Bearing Journal Special '89, pp. 22 - 27, 1989)。
【0036】
そこで、本願出願人はまず上記機構を理論的に解明することに着手した。
【0037】
水分が潤滑剤中に混入した場合は該水分量が微量の場合であっても油膜の形成が困難となり、転動体と軌道輪とはその転動面及び軌道面との間で金属接触するが、転動体や軌道輪の表面状態は、不均一であり一様でなく、不可避的な酸化物や硫化物等の非金属介在物が転動面や軌道面に形成されている。そして、潤滑剤中に水分が混入している場合は、これら非金属介在物とFeを主成分とする金属素地(マトリックス)との界面に水が浸入すると局部電池を形成して局部腐食が発生する。すなわち、前記界面近傍には転動体と軌道輪との接触部が必ず存在するため、軌道面や転動面に存在する非金属介在物と金属素地との界面には必ず引張応力が負荷され、斯かる引張応力下、非金属介在物と金属素地との界面に微小隙間が形成される。そして、潤滑剤に水分が混入した場合は、該水分が微量の場合であっても水分の粘度は潤滑剤の粘度よりも低いため毛細管現象により該水分が前記微小隙間に優先的に浸入し、その結果微小隙間で腐食反応が起こる。しかも、内輪と回転軸とがしばりばめで嵌合されているときは、軌道面には常時引張応力が作用するので、非金属介在物と金属素地との界面には更に大きな引張応力が負荷され、該大きな引張応力下で隙間が形成されることとなる。
【0038】
また、オルタネータ等の自動車エンジンの電装・補機類用に使用される転がり軸受の場合においては、ベルトの振動が軸受に直接伝わり、且つ軸受のハウジングの剛性が低いことから、高速回転にもかかわらず軌道輪の軌道面と転動体の転動面とが高い頻度で金属接触する。このため、これら軌道面及び転動面に存在する非金属介在物と金属素地との間の密着性が低下してその界面に微小隙間を形成し、潤滑剤に含有されている水分が前記微小隙間に浸入して腐食反応を起こす虞があり、特に外輪軌道面においてこの種の腐食が発生しやすい。しかも、潤滑剤は大気中より吸湿されるため通常は或る程度の水分を含んでおり、外部から潤滑剤への水分混入がなくとも元々潤滑剤に含有している水分が原因で腐食反応を起こす虞がある。
【0039】
この腐食反応は、腐食生成物が微小隙間の入口を閉塞するため、表面から微小隙間への酸素供給が困難となり、隙間内部の最深部の金属素地がアノードとなり、炭化物及び前記最深部以外の金属素地がカソードとなって、化学反応式(1)〜(4)に示すような水素発生型の腐食反応となる。
【0040】
【化1】

【0041】
ここで、H(ads) は軸受材料の表面に吸着する水素原子を示し、H(abs) は軸受材料の内部に吸収される水素原子を示している。
【0042】
すなわち、アノード(陽極)側では、化学反応式(1)に示すように、Feが水分と反応して電子を放出する酸化反応を呈する一方、カソード(陰極)側では、微小隙間内部への酸素供給が困難となって化学反応式(2)に示すように、軸受材料の表面に水素が吸着し、次いで化学反応式(3)に示すように、該吸着した水素の一部は軸受材料の内部に拡散して吸収され、前記吸着した水素のその他は、化学反応式(4)に示すように、軸受材料の表面に吸着された水素原子同士が結合して水素分子(ガス)を形成し該水素分子が外部に放出される。一方、カソードの炭化物上では、化学反応式(3)の進行は略無視できるため化学反応式(4)の化学反応が主として起こるが、カソードの金属素地上では化学反応式(3)及び(4)の反応が進行する。
【0043】
このため、転がり軸受の運転中において極微量の水分が隙間内部に浸入した場合であっても軸受材料は水素を吸収し、その結果軸受材料の水素脆化が起こり、転がり疲れ強さが低下して剥離発生の要因となり、軸受寿命Lの低下を招来する。
【0044】
したがって、かかる観点から軸受材料内部への水素吸収を抑制して水素脆化が生じるのを避ける必要があり、そのためには上述した腐食反応の機構に鑑みると上記化学反応式(2)のカソード反応を抑制することが重要である。そして、化学反応式(2)のカソード反応を抑制するためには、潤滑剤中の水素イオン濃度を下げることが必要である。換言すれば、潤滑剤中の水素イオン指数pHを上げることにより、化学反応式(2)の反応速度を低下させることができることができ、そのためには水素イオン指数pHを7〜13の範囲に限定する必要がある。
【0045】
本実施の形態で水素イオン指数pHを7〜13に限定したのは以下の理由による。すなわち、水分は大気中に微量に含有される二酸化炭素を溶解し、その結果水素イオン指数が7以下の酸性になることが多く、潤滑剤にアルカリ性物質を添加してゆくことにより水素イオン指数pHを上げて行くことができるが、化学反応式(2)の反応速度を低下させて軌道輪材料への水素吸収の十分なる抑制を達成し、これにより軸受寿命Lを改善するためには、水素イオン指数pHを少なくとも7以上に設定することが必要である。一方、水素イオン指数pHが13を超えるとアルカリ腐食により軌道面3や転動面5が摩耗し、転がり軸受の駆動中における振動が次第に顕著となる。したがって、本実施の形態では潤滑剤の水素イオン指数pHを7〜13に限定した。
次に、本願出願人は、潤滑剤に水分が混入した場合の軸受材料の剥離特性について検討した。
【0046】
〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べたように、潤滑剤中に水分が混入すると転がり軸受が剥離するまでに要する時間、すなわち軸受寿命Lが低下するが、剥離が発生する軸受の構成部位としては一般的には固定輪が最も多く、次いで回転輪、転動体の順に剥離の発生頻度は少なくなる。このように転動体における剥離発生頻度が軌道輪における剥離発生頻度よりも少ないのは転動体の水素吸収量が軌道輪の水素吸収量よりも少ないためであるが、その理由としては以下のことが考えられる。
【0047】
(1)一般に転がり軸受の自転速度は、転動体の方が軌道輪よりも遙に速いため、たとえ転動体の転動面に微小隙間が形成されても微小隙間に侵入した水分は遠心力により弾き飛ばされ、その結果腐食反応の進行が抑制され、材料内部に浸入する水素の吸収量が少ない。
【0048】
(2)転動体の鋳造素材(インゴット、ブルーム、ビレット等)からの加工比は軌道輪の鋳造素材からの加工比よりも大きいため、転動体の転動面に存在する非金属介在物は軌道輪の軌道面に存在する非金属介在物に比べて小さい。したがって、転動体においては非金属介在物と金属素地との間の界面も小さく、しかも浅いため、水素発生型の腐食反応の進行が抑制され、材料内部への水素吸収量も少ない。
等の理由が考えられる。
【0049】
また、軌道輪に関し、回転輪の方が固定輪に比べて剥離発生頻度が少ないのは以下の理由によると考えられる。すなわち、一般に、回転輪においては、軌道面に形成された微小隙間に水分が浸入しても弾き飛ばされ易いため固定輪に比べて水素吸収量が少なく、したがって剥離発生頻度も少なくなると考えられる。但し、内輪と回転軸とがしばりばめにより嵌合されているときは、回転輪の軌道面には常時引張応力が作用するため、内輪が回転輪の場合であっても応力腐食が促進され、上記化学反応式(2)の化学反応が活発に進行して回転輪の水素吸収量も増加し、このため剥離の発生頻度も多くなる。特に、締代が回転軸の軸径の7/10000を超える場合やテーパ穴軸受をしばりばめで使用する場合は、回転輪の剥離発生頻度は固定輪の剥離発生頻度と同等か、又は同等以上に多いものとなる。尚、内輪が固定輪であって且つ該内輪と回転軸とがしばりばめにより嵌合されている場合はすきまばめにより嵌合されている場合に比べ、水素吸収量が多くなるのはいうまでもない。
【0050】
また、転がり軸受においては、転動体の転動面と軌道輪の軌道面とが金属接触することに着目し、金属素地と非金属化合物との界面に形成される隙間内部の金属素地側をアノードとし、転動体の転動面における金属素地をカソードとして腐食形態を局部腐食から接触腐食に変更することが有効である。
【0051】
転動体の転動面に存在する金属素地(以下「転動面金属素地」という)を軌道輪の軌道面に存在する金属素地(以下「軌道輪金属素地」という)よりも電気化学的に貴とすることにより、隙間内部の金属素地側をアノードとし、転動面の金属素地をカソードとすることができる。そして、これによりアノード反応は界面の金属素地側で起こる一方、カソード反応は転動面金属素地で起こり、しかも転動面上には周囲から酸素を容易に供給することができるので、化学反応式(5)(6)に示すように、腐食反応は酸素消費型の腐食反応となり、軌道輪内部への水素吸収を抑制して水素脆化に伴う軸受寿命の低下を防止することができる。尚、この場合、隙間内部の炭化物はカソードであることに変わりはないが、炭化物上では、上述した如く水素脆化の原因となる化学反応式(3)が殆ど進行せず、主として化学反応式(4)の反応が進行するため、軌道輪内部への水素の吸収が生じることはない。
【0052】
【化2】

【0053】
また、完全焼入・焼戻を施した軸受材料の残留オーステナイトの濃度を増加させることにより、安価にして電気化学的に貴となる金属素地を得ることができる。
【0054】
残留オーステナイトを増加させる方法としては、以下のような方法がある。
【0055】
(1)オーステナイトがマルテンサイトに変態する開始温度(Ms点)を調整する。
【0056】
Ms点は素材鋼の化学成分や、浸炭又は浸炭窒化により付加される表面炭素濃度や表面窒素濃度、焼入処理前の金属組織、焼入温度、焼入処理時間、等により決定される。例えば、素材鋼のMn含有率が高くなればなるほど残留オーステナイトの濃度は高くなり、また焼入処理前に浸炭処理を施して既に残留オーステナイトの濃度が高くなっていればいるほど残留オーステナイトの濃度は高くなる。また、炭化物の粒径が小さければ小さい程、また焼入温度が高ければ高い程、更には焼入温度保持時間が長ければ長い程残留オーステナイトの濃度は高くなる。
【0057】
(2)焼入時の冷却速度を調整する。
【0058】
焼入時の冷却速度が遅いほど残留オーステナイトの濃度は高くなる。
【0059】
(3)焼戻条件を調整する。
【0060】
焼戻温度が低い程、また焼戻時の加熱温度が短い程、残留オーステナイトの濃度は高くなる。
【0061】
(4)所謂サブゼロ処理の実施条件を検討する。
【0062】
室温以下に深冷するサブゼロ処理の処理温度が高い程、またセブゼロ処理の処理時間が短い程、残留オーステナイトの濃度は高くなる。さらには、サブゼロ処理を実施しない方が残留オーステナイトの濃度は高くなる。
【0063】
(5)ショットピーニング等の加工硬化処理を実施しない。
【0064】
該ショットピーニングを実施しない場合は、実施した場合に比べ、残留オーステナイト濃度は高くなる。
【0065】
また、〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べたように、軸受材料としてステンレス鋼(SUS440C)のような高合金鋼を使用して腐食反応を抑制することは、技術的に困難であり、また経済的にも不利であるため、軸受の素材鋼としては低合金鋼を使用するのが好ましい。例えば、各軸受部位の素材鋼としては、その化学成分が、例えば、C:0.10〜1.10wt%、Si:0.75wt%以下、Mn:1.70wt%以下、Cr:1.80wt%以下、Mo:1.50wt%以下、Ni:4.50wt%以下、Cu:0.30wt%以下、Al:0.050wt%以下、残部:Fe及び不可避不純物(O、S、Ti等)等からなる低合金鋼を使用し、素材鋼に所望の熱処理を施すことにより所望の表面硬さを有する軸受部位を得るのが効果的である。
【0066】
また、軌道輪における腐食反応は、非金属介在物と金属素地との間に形成される微小隙間を起因として発生することから、該腐食を防止するためには非金属介在物の生成を抑制するのも好ましく、そのためには非金属介在物の構成成分である酸化物、硫化物やチタン化合物の生成原因となる酸素含有率を9ppm以下、イオウ含有率を50ppm以下、及びチタン含有率を40ppm以下にするのが望ましい。さらに、非金属介在物と金属素地との間の良好な密着性を得て、前記界面における微小隙間を生成を回避するためには、軸受材料の最終精錬法をESR法又はVAR法により行うのが望ましい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0068】
本願出願人は、軸受材料として高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ)を使用し、焼入・焼戻処理(浸漬焼入)を施して軸受部材を作製した。そして、該軸受材料を使用して接触ゴムシール付きの深溝玉軸受を組み立て、転動体と軌道輪とで画成される環状空間に水素イオン指数pHの異なるグリースを封入し、自動車エンジンのオルタネータのプーリ側軸受として試験機に組み込み、耐久寿命試験を行った。尚、保持器は、プラスチック製の成形品を使用し、内輪を回転輪とし、外輪を固定輪とした。
【0069】
軸受仕様は以下の通りである。
〔軸受仕様〕
呼び番号 : 6303強化形
外輪の外径D : φ47mm
内輪の内径d : φ17mm
組立幅t : 14mm
基本動定格荷重C : 13500N
ロックウェルC硬さHRC
軌道輪 : 62
転動体 : 63
残留オーステナイト濃度γR 軌道輪の軌道面 : 10 vol%
転動体の転動面 : 9 vol%
残留オーステナイト偏差ΔγR : +1 vol%
尚、残留オーステナイト偏差ΔγR は、軌道輪の軌道面における残留オーステナイト濃度から転動体の転動面における残留オーステナイト濃度を減算したものである。尚、内輪と外輪とで残留オーステナイト濃度に差があるときは、高い方の値を用いて上記偏差ΔγRを算出する。
【0070】
表1は本耐久寿命試験に供されたグリースの仕様と耐久寿命試験の試験結果を示する。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の実施例1、2、5、及び比較例11で増稠剤として使用されているジウレア化合物Aは、ジフェニルメタン4,4′−ジイソシアネート(以下「MDI」という)1モルとシクロヘキシルアミン2モルとを配合して作製したものである。
【0073】
また、実施例3、4、6〜8、及び比較例12〜14で増稠剤として使用されているジウレア化合物Bは、MDI1モルとシクロヘキシルアミン1モル及びステアリルアミン1モルとを配合して作製したものである。
また、基油としては、実施例1〜3、6〜8及び比較例11は、ポリαオレフィンを使用し、実施例4、5及び比較例12〜14はジアルキルジフェニルエーテルを使用した。
【0074】
このようにして、表1に示す特定の基油に所定量の特定増稠剤を添加してグリースを作製する一方、トルエンと2−プロパノールと水が体積比でトルエン:2−プロパノール:水=500:495:5に調整された溶剤を作製し、25℃において前記グリース0.1gを前記溶剤50mgに溶かし、pHメータで水素イオン指数pHを測定し、水素イオン指数pHの異なる特性グリースを作製した。
【0075】
耐久寿命試験の試験条件は以下の通りである。
【0076】
〔耐久寿命試験〕
試験荷重F :1890N
回転軸の平均回転数n :8000rpm(2000〜14000rpm)
潤滑剤 :特性グリース(表1参照)
グリース量 :2.3g
耐久寿命試験装置については、図示は省略するが、試験荷重はプーリに懸架されたベルトの張力とされており、該ベルトの張力がプーリに負荷され、該負荷された荷重がプーリ側軸受と反プーリ側軸受とで受けるように構成されており、プーリ側軸受の受ける荷重が試験荷重である1890Nとなるように前記ベルトの張力が調節されている。
【0077】
回転軸の回転速度は、2000rpmから14000rpmまでに加速する加速時間、及び14000rpmから2000rpmまでに減速する減速時間を共に30秒とし、2000rpm〜14000rpmの間で繰り返し運転を行った。
【0078】
尚、本実施例では、潤滑剤への水分添加は行わなかったが、潤滑剤は大気中より吸湿するため、外部から潤滑剤に水分が混入しなくとも或る程度の水分を含有する。このため、耐久試験前に潤滑剤に含有する水分量をカールフィッシャー法で計測したところ、表1に示すように、0.08〜0.15wt%であった。
【0079】
寿命試験は、実施例1〜8及び比較例11〜14の各軸受を各5個宛作製して行い、最初に剥離した軸受の運転時間を軸受寿命Lとし、軸受の定格寿命L10と比較して軸受の耐久寿命を評価した。
【0080】
軸受の定格寿命L10とは、同一サイズの同一ロットの軸受を同一条件で回転させたとき、その全数のうちの90%の個数の軸受が転がり疲れによる剥離を起こさないで回転させることができる総回転数に相当する計算時間をいい、深溝玉軸受の場合、基本動定格荷重C(N)、試験荷重F(N)、回転軸の回転数n(rpm)から数式(1)で示されることが知られている。
【0081】
10=(C/F)3×106 /(60n)…(1)
素材鋼や加工に関する現代技術を利用して作製した軸受は、転動体の転動面及び軌道輪の軌道面間に十分な油膜が形成されているときは定格寿命L10以下の運転時間で剥離することは皆無であると考えられている。
【0082】
したがって、潤滑剤中に水分を含有している場合であっても、転がり軸受の耐久性評価としては少なくとも定格寿命L10を満足する必要がある。すなわち、外部から潤滑剤に水分が混入した場合のみならず、外部から軸受内部に水分が混入しなくとも振動の影響等により潤滑剤中の水分の影響を大きく受ける状況で使用される場合は、定格寿命L10以下の運転時間で剥離の発生することが多い。したがって、耐久性評価としては剥離の発生する時間が少なくとも定格寿命L10以上である必要がある。本実施例の場合、基本動定格荷重C=135000N、試験荷重F=1890N、回転軸の平均回転数n=8000rpmであるから、数式(1)より軸受の定格寿命L10は759時間であり、剥離発生までの寿命時間が定格寿命L10を超えるか否かが基準となる。
【0083】
表1の比較例11〜14から明らかなように、グリースの水素イオン指数pHが小さく酸性の場合はいずれも定格寿命L10に到達するまでに軸受部材に剥離が発生する。そして、水素イオン指数pHが大きくなるに伴い、剥離特性は改善されるものの、比較例11〜14においてはグリースの水素イオン指数pHが6.9以下であるため、全ての試験片については定格寿命L10以上の軸受寿命Lを得ることができず、確実に耐久性を満足させることはできない。
【0084】
これに対して、実施例1〜8は、水素イオン指数pHがいずれも7〜13の範囲にあり、全ての試験片について定格寿命L10以上の軸受寿命Lを得ることができ、所望の耐久性を満足させ得ることが判る。
【0085】
さらに、本願出願人は、実施例7及び比較例13、14に関し、残留オーステナイト偏差ΔγR がΔγR <0となるように、残留オーステナイトの濃度が11 vol%の転動体と交換し、その他の条件を同一にして上述と同様の耐久寿命試験を行ったところ、実施例7及び比較例14に対応する実施例7′及び比較例14′の試験軸受は夫々5個全てが定格寿命L10を経過しても剥離が発生しなかった。
【0086】
これに対して、比較例13に対応する比較例13′は試験軸受中、3個については定格寿命L10を経過しても剥離が発生しなかったものの、残り2個は1個が688時間で剥離し、他の1個は640時間で剥離した。
【0087】
このように残留オーステナイト偏差ΔγR をΔγR <0に設定した場合は、ΔγR ≧0の場合に比べ、水素イオン指数pHが多少小さくても定格寿命L10を超える軸受寿命Lを得ることができることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体と軌道輪とで画成される環状空間にグリース組成物が封入された自動車のエンジンの電装、補機類用の耐剥離性を有する転がり軸受であって、
前記封入されているグリース組成物は、合成油である基油と、
ジウレア化合物である増稠剤と、
前記グリース組成物の水素イオン指数pHを7〜13の範囲に調整するpH調整剤と、を含有するものであり、
前記pH調整剤による前記グリース組成物のpH調整は、
炭素数が1〜24の第一級アルキルアミンを前記グリース組成物全量に対して0.01〜0.1wt%添加すること、
炭素数が6〜24のリチウムもしくはナトリウムの有機酸金属塩を前記グリース組成物全量に対して0.01〜0.1wt%添加すること、
または炭酸カリウムもしくは水酸化ナトリウムを前記グリース組成物全量に対して0.01〜0.05wt%添加することにより、
前記pH7〜13の範囲に調整するものであることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記軌道輪の軌道面における残留オーステナイト濃度から前記転動体の転動面における残留オーステナイト濃度を減算した残留オーステナイト偏差が0よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記軌道輪は、その酸素含有率9ppm以下であり、
そのイオウ含有率50ppm以下であり、且つ
そのチタン含有率40ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受。

【公開番号】特開2007−132520(P2007−132520A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346518(P2006−346518)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【分割の表示】特願平9−284258の分割
【原出願日】平成9年10月2日(1997.10.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】