説明

転がり軸受

【課題】ドライラン条件で焼き付かずに使用可能な時間を安定して確保できる転がり軸受を提供することである。
【解決手段】軸受内部へ非常用に供給する潤滑剤Aを収納する容器6を設けるとともに、軸受と外部の温度差に応じて起電力を発生するペルチェ素子7を配設し、常用の潤滑剤の供給が遮断されて軸受が温度上昇する非常時に、容器6に設けた供給弁6aをペルチェ素子7の起電力で開いて、容器6に収納された非常用の潤滑剤Aを軸受内部へ供給することにより、ドライラン条件で軸受が温度上昇するときに、容器6に収納された定量の非常用潤滑剤Aを確実に軸受内部へ供給し、ドライラン条件で焼き付かずに使用可能な時間を安定して確保できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常用の潤滑剤の供給が遮断されて温度上昇する恐れのある転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットエンジン、ヘリコプタ用エンジン等の航空機エンジンや産業機械のガスタービン軸のような高速回転軸を支持する転がり軸受では、何らかの原因で常用の潤滑剤の供給が遮断されたドライラン条件になると、軸受が急速に温度上昇して、内外輪や転動体等の軸受部品に焼付きが発生する恐れがある。このような用途の転がり軸受では、非常事態を想定したドライラン条件で、例えば30秒以上焼き付かずに使用可能なことが要求されている。
【0003】
このような要求に対応するために、本出願人は、外輪の内向きの保持器案内面に開口幅を2mm未満とした油溝を設け、この油溝に潤滑油を表面張力によって保持して、保持器案内面の焼付きを防止するとともに、ドライラン条件でも一定時間焼き付かずに使用可能とした転がり軸受を先に提案している(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−316846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された保持器案内面の油溝に表面張力で潤滑油を保持する転がり軸受は、保持器案内面の焼付きは十分に防止できるが、油溝に保持される潤滑油の量が変化するので、ドライラン条件で焼き付かずに使用可能な時間を安定して確保できない問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、ドライラン条件で焼き付かずに使用可能な時間を安定して確保できる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、内輪と外輪の間に複数の転動体が配列され、これらの転動体が配列された軸受内部が常用に供給される潤滑剤で潤滑される転がり軸受において、前記軸受内部へ非常用に供給する潤滑剤を収納する容器を設けるとともに、軸受と外部の温度差に応じて起電力を発生する熱起電素子を配設し、前記常用の潤滑剤の供給が遮断されて軸受が温度上昇する非常時に、前記容器に設けた供給弁を前記熱起電素子の起電力で開いて、前記容器に収納された非常用の潤滑剤を軸受内部へ供給する構成を採用した。
【0008】
すなわち、軸受内部へ非常用に供給する潤滑剤を収納する容器を設けるとともに、軸受と外部の温度差に応じて起電力を発生する熱起電素子を配設し、常用の潤滑剤の供給が遮断されて軸受が温度上昇する非常時に、容器に設けた供給弁を熱起電素子の起電力で開いて、容器に収納された非常用の潤滑剤を軸受内部へ供給することにより、ドライラン条件で軸受が温度上昇するときに、容器に収納された定量の非常用潤滑剤を確実に軸受内部へ供給し、ドライラン条件で焼き付かずに使用可能な時間を安定して確保できるようにした。
【0009】
上述した転がり軸受は、高い安全性が要求され、高速回転する航空機エンジンのガスタービン軸を支持するものに好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転がり軸受は、軸受内部へ非常用に供給する潤滑剤を収納する容器を設けるとともに、軸受と外部の温度差に応じて起電力を発生する熱起電素子を配設し、常用の潤滑剤の供給が遮断されて軸受が温度上昇する非常時に、容器に設けた供給弁を熱起電素子の起電力で開いて、容器に収納された非常用の潤滑剤を軸受内部へ供給するようにしたので、ドライラン条件で軸受が温度上昇するときに、容器に収納された定量の非常用潤滑剤を確実に軸受内部へ供給し、ドライラン条件で焼き付かずに使用可能な時間を安定して確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この転がり軸受は、図1に示すように、内輪2と外輪3の間に複数の転動体としてのボール4が保持器5で保持されて配列された玉軸受1であり、非常用潤滑剤Aを収納する容器6と、熱起電素子としてのペルチェ素子7が配設され、容器6に設けられた供給弁6aが、電力ケーブル8で接続されたペルチェ素子7の起電力で開閉されるようになっている。通常は、図1(a)に示すように、容器6の供給弁6aは閉じられ、軸受内部は常用の潤滑油で潤滑されるようになっている。
【0012】
前記ペルチェ素子7は、内側面7aが固定輪となる外輪3の端面に貼付され、外側面7bが外部に向けられており、内側面7aと外側面7bの間に温度差が生じると起電力が生じる。常用の潤滑剤の供給が何らかの原因で遮断されたドライラン条件になり、軸受が急速に温度上昇すると、図1(b)に示すように、電力ケーブル8からのペルチェ素子7の起電力によって供給弁6aが開けられ、容器6に収納された非常用潤滑剤Aが、その供給口6bから軸受内部へ供給される。
【0013】
図2は、上述した玉軸受1を使用したジェット機のエンジンを示す。このエンジンはターボファンエンジンであり、空気を吸入するファン11と、吸入される空気の一部を圧縮する圧縮機12と、圧縮された空気に燃料を噴射して燃焼させる燃焼室13と、燃焼ガスで高速回転するタービン14とで基本的に構成されており、圧縮機12のロータとタービン14が取り付けられたガスタービン軸15が2箇所で玉軸受1によって支持されている。
【0014】
上述した実施形態では、熱起電素子をペルチェ素子として、外輪の端面に貼付して配設したが、熱起電素子は軸受と外部の温度差によって起電力が生じるものであればよく、その配設位置も実施形態のものに限定されることはない。
【0015】
また、上述した実施形態では、転がり軸受を玉軸受としたが、本発明に係る転がり軸受は、ころ軸受等の他の転がり軸受に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】aは転がり軸受の実施形態を示す概念断面図、bはaの容器の供給弁が開いた状態を示す概念断面図
【図2】図1の転がり軸受を使用したジェット機のエンジンを示す概略縦断面図
【符号の説明】
【0017】
A 非常用潤滑剤
1 玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 ボール
5 保持器
6 容器
6a 供給弁
6b 供給口
7 ペルチェ素子
7a 内側面
7b 外側面
8 電力ケーブル
11 ファン
12 圧縮機
13 燃焼室
14 タービン
15 ガスタービン軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪の間に複数の転動体が配列され、これらの転動体が配列された軸受内部が常用に供給される潤滑剤で潤滑される転がり軸受において、前記軸受内部へ非常用に供給する潤滑剤を収納する容器を設けるとともに、軸受と外部の温度差に応じて起電力を発生する熱起電素子を配設し、前記常用の潤滑剤の供給が遮断されて軸受が温度上昇する非常時に、前記容器に設けた供給弁を前記熱起電素子の起電力で開いて、前記容器に収納された非常用の潤滑剤を軸受内部へ供給するようにしたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記転がり軸受が、航空機エンジンのガスタービン軸を支持するものである請求項1に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−157362(P2008−157362A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347365(P2006−347365)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】