説明

転がり軸受

【課題】 封入したグリース中の基油をより効果的に吐出させて、軸受の潤滑油として安定的に供給することで、グリース潤滑で長寿命化を図ることができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】 外輪蓋間座8を、グリース溜り形成部品9の線膨張係数と異なる線膨張係数からなる材料により形成し、これら外輪蓋間座8およびグリース溜り形成部品9は、軸受運転中の温度変化に基づいて、グリース溜り形成部品9内の容積を圧縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、グリース潤滑で用いられる工作機械主軸等に使用する転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械主軸用軸受の潤滑方法として、メンテナンスフリーで使用可能なグリース潤滑、搬送エアに潤滑オイルを混合してオイルをノズルより軸受内に噴射するエアオイル潤滑、軸受内に軸受油を直接に噴射するジェット潤滑等の方法がある。最近の工作機械は、加工能率を上げるために、ますます高速化の傾向にあり、主軸軸受の潤滑も比較的安価で簡単に高速化が可能なエアオイル潤滑が多く用いられてきている。しかし、このエアオイル潤滑法は、付帯設備としてエアオイル供給装置が必要であることと、多量のエアを必要とすることから、コスト、騒音、省エネ、省資源の観点から問題がある。また、オイルの飛散によって環境を悪化させる問題もある。これらの問題点を回避するため、最近ではグリース潤滑による高速化が注目され始め、要望も多くなってきている。
【0003】
グリース潤滑は、軸受組立時に封入されたグリースのみで潤滑するため、高速運転すると、軸受発熱によるグリースの劣化や、軌道面、特に内輪での油膜切れのため、早期焼き付きに至ってしまうことが考えられる。特に、dn値が100万(軸受内径mm×回転数rpm)を超えるような高速回転領域では、グリース寿命を保証するのは困難である。
【0004】
グリース寿命を延長させる手段として、新しい提案も紹介されている。一つには、外輪軌道面部にグリース溜まりを設けて高速長寿命を狙った提案(特許文献1)がある。またスピンドル外部に設けたグリース補給装置により、適宜軸受部に給脂して潤滑する提案(特許文献2)がある。
【特許文献1】特開平11−108068号公報
【特許文献2】特開2003−113998号公報
【特許文献3】特開2006−132765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記各提案例の技術は、エアオイル潤滑と同等の使用回転数(dn値>150万)や、またメンテナンスフリーを考えると満足できるものではない。
本件出願人は、特許文献1の技術を発展させた技術(特許文献3)を提案している。この特許文献3においては、軸受停止時に、グリース中の増稠剤および外輪段差面に対する微小隙間の毛細管現象により、グリースの基油が流路から前記微小隙間に移動し、この毛細管現象と油の表面張力とが相まって前記微小隙間に基油が油状で保持される。
軸受を運転すると、前記微小隙間に貯油されていた基油は、運転で生じる外輪の温度上昇による体積膨張と、転動体の公転・自転で生じる空気流とにより微小隙間から吐出されて、外輪の軌道面に付着しながら移動して転動体接触部に連続的に補給される。
【0006】
このように、特許文献3は、グリース溜り形成部品に封入されたグリース中の基油が、運転中の温度差によって吐出されて軸受の潤滑油として供給される構造である。したがって、封入したグリース中の基油をより効果的に吐出させて、軸受の潤滑油として安定的に供給することが潤滑寿命に重要である。
【0007】
この発明の目的は、封入したグリース中の基油をより効果的に吐出させて、軸受の潤滑油として安定的に供給することで、グリース潤滑で長寿命化を図ることができる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の転がり軸受は、内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在した複数の転動体を有する転がり軸受において、回転しない外輪に隣接して配置される外輪固定間座と、前記外輪固定間座および外輪の内周面に嵌合する外輪蓋間座と、前記外輪固定間座の内周面に、前記外輪蓋間座を介して設けた環状のグリース溜り形成部品本体、および、このグリース溜り形成部品本体から突出して前記外輪の軌道面近傍まで挿入される軸受内挿入部を含むグリース溜り形成部品とを有し、前記外輪蓋間座のうち軸受内に挿入される先端部の内周面と、前記軸受内挿入部のうち前記軌道面近傍の外周面との間でグリース基油の滲み出し用の環状隙間を形成し、前記外輪蓋間座を、前記グリース溜り形成部品の線膨張係数と異なる線膨張係数からなる材料により形成し、これら外輪蓋間座およびグリース溜り形成部品は、軸受運転中の温度変化に基づいて、前記グリース溜り形成部品内の容積を圧縮することを特徴とする。
【0009】
この構成によると、軸受を運転すると、グリース溜り形成部品と外輪蓋間座とにより密閉されたグリース溜りに溜められたグリースにおいて、運転時の温度上昇により基油が増稠剤から分離する。同時に、密閉されたグリース溜りの内部圧力が上昇する。この内部圧力により、分離された基油が環状隙間等を経て、外輪の軌道面に向けて吐出される。温度が上昇して定常状態になると、内部圧力の上昇要因が消滅するので、基油の吐出と並行して内部圧力が除々に減じ、単位時間当たりの基油吐出量も減少していく。
【0010】
軸受運転中の温度変化により、外輪蓋間座およびグリース溜り形成部品は半径方向外方に膨張しようとする。このとき、外輪蓋間座は、外輪固定間座および外輪の内周面に嵌合しているため、半径方向外方への膨張方向が制限されて、半径方向内方に変位つまり収縮する。特に、外輪蓋間座の線膨張係数がグリース溜り形成部品の線膨張係数よりも大きい場合、外輪蓋間座はグリース溜り形成部品よりも半径方向内方への変位量が大きくなる。これにより、グリース溜り形成部品にあるグリースは、外輪蓋間座の内周面との間で圧縮される。その結果、グリースの基油のみが軸受の潤滑として、上記環状隙間から供給される。このように、従来構造よりも、基油のみを軸受の潤滑油として積極的にかつ安定的に供給することができる。それ故、グリース潤滑で軸受の長寿命化を図ることができる。
【0011】
前記グリース溜り形成部品を、ノビナイト鋳鉄、インバー、およびセラミックスのいずれか一つにより形成し、前記外輪蓋間座を樹脂材料により形成しても良い。この場合、グリース溜り形成部品を、従来採用していた鉄よりも線膨張係数を小さくすることができる。また、外輪蓋間座を樹脂材料により形成しているため、グリース溜り形成部品に対する、前記外輪蓋間座の相対的な変位量をより大きくすることが可能となる。したがって、グリース溜り形成部品にあるグリースは、外輪蓋間座の内周面との間で確実に圧縮され、グリース中の基油のみを潤滑油として安定して供給することができる。
【0012】
前記外輪蓋間座をポリプロピレン系またはポリアセタール系の樹脂材料により形成しても良い。上記樹脂材料は給水率が低く、よって、この給水率に起因する外輪蓋間座の寸法変化をより防止することができるうえ、強度、弾性に優れた外輪蓋間座を実現することができる。
【0013】
前記外輪蓋間座は、前記グリース溜り形成部品本体の基端部分に接合され、この基端部分における外輪蓋間座に対する接合溝の溝深さを、同基端部分の全幅の1/4以上1/2以下にしても良い。この場合、外輪蓋間座はグリース溜り形成部品本体の基端部分に必要十分に接合され、この外輪蓋間座の先端部がグリース溜り側に不所望に傾くことを防止することができる。したがって、基油を吐出する隙間を一定に保つことが可能となり、基油吐出を円滑に行うことができ、これにより軸受の長寿命化を図ることができる。
【0014】
前記外輪蓋間座における先端部の内周面に、円周方向に沿って複数のスリーブを設けても良い。この場合、外輪蓋間座の先端部が、複数のスリーブにより支持されてグリース溜り側に不所望に傾くことを確実に且つ簡単に防止することができる。これにより、基油を吐出する隙間を一定に保つことができる。
【0015】
前記外輪に、軌道面に続く段差面を転動体から離れる方向に設け、前記外輪固定間座および前記外輪のうち前記段差面に続く内周面に、前記外輪蓋間座を嵌合させても良い。
グリース溜り形成部品にグリースを封入するとき、外輪蓋間座が外輪の段差面に続く内周面に嵌合して軸受内に挿入されているため、この外輪蓋間座によって、外輪の端面と外輪固定間座の端面との合わせ面からのグリースの漏れを防止することができる。これと共に、この外輪蓋間座により、軸受外部からごみや異物等の侵入を防止することが可能となる。
【0016】
また、軸受の停止時において、上記段差面との軸受内挿入部との間に形成され得る段差面隙間の毛細管現象と油の表面張力とが相まって上記段差面隙間に基油が油状で保持される。軸受を運転すると、段差面隙間に貯油されていた基油は、運転で生じる外輪の温度上昇によりグリース溜り形成部品の体積膨張と、転動体の公転・自転で生じる空気流とにより段差面隙間から吐出されて、外輪の軌道面に付着しながら移動して転動体接触部に連続的に補給され得る。
【発明の効果】
【0017】
この発明の転がり軸受は、回転しない外輪に隣接して配置される外輪固定間座と、前記外輪固定間座および外輪の内周面に嵌合する外輪蓋間座と、前記外輪固定間座の内周面に、前記外輪蓋間座を介して設けた環状のグリース溜り形成部品本体、および、このグリース溜り形成部品本体から突出して前記外輪の軌道面近傍まで挿入される軸受内挿入部を含むグリース溜り形成部品とを有し、
前記外輪蓋間座のうち軸受内に挿入される先端部の内周面と、前記軸受内挿入部のうち前記軌道面近傍の外周面との間でグリース基油の滲み出し用の環状隙間を形成し、前記外輪蓋間座を、前記グリース溜り形成部品の線膨張係数と異なる線膨張係数からなる材料により形成し、これら外輪蓋間座およびグリース溜り形成部品は、軸受運転中の温度変化に基づいて、前記グリース溜り形成部品内の容積を圧縮するため、封入したグリース中の基油をより効果的に吐出させて、軸受の潤滑油として安定的に供給することで、グリース潤滑で長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態を図1、図2と共に説明する。
この第1の実施形態に係る転がり軸受は、内輪1、外輪2、および内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在した複数の転動体3を有し、外輪2に隣接してグリース溜り部品4が配置される。複数の転動体3は、保持器5に保持され、内外輪1,2間の軸受空間の一端は、シール6によって密封されている。この転がり軸受はアンギュラ玉軸受であり、シール6は軸受背面側の端部に設けられ、グリース溜り部品4は軸受正面側に設けられる。軸受正面側ではグリース溜り部品4がシールを兼ねており、軸受正面側からのグリース漏れが防止される。転がり軸受の内輪1は、例えば、図示しない工作機械主軸に嵌合して回転可能とされ、外輪2はスピンドルユニットにおける図示しないハウジングの内周に嵌合状態で固定支持される。
【0019】
固定側軌道輪となる外輪2には、その軌道面2aに続く段差面2bが、転動体3から離れる外輪正面側、つまり軌道面2aにおける接触角が生じる方向と反対側の縁部に続いて設けられている。この段差面2bは、軌道面2aから外径側に延びて外輪正面側に対面する面である。
【0020】
グリース溜り部品4は、転がり軸受とは別体の部品として構成され、外輪固定間座7と、外輪蓋間座8と、グリース溜り形成部品9とを有する。前記外輪蓋間座8は、外輪固定間座7の内周面7a、および外輪2の段差面2bに続く内周面2cに嵌合されている。この外輪蓋間座8は樹脂材料により形成されている。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール(POM)系等の樹脂材料が適用される。これらのうち、寸法変化の原因の一つである給水率が低く、強度、弾性に優れるポリプロピレンとポリアセタールが、外輪蓋間座8の材料として望ましい。
ここで、各種樹脂材料の20℃における線膨張係数は次の通りである。
PPS 1.95×10−5/℃、PA66 10×10−5/℃、POM 8.3 ×10−5/℃、PEEK 3.1×10−5/℃
【0021】
グリース溜り形成部品9は、外輪固定間座7の内周面に、外輪蓋間座8を介して設けた環状のグリース溜り形成部品本体10と、このグリース溜り形成部品本体10から軸受側に突出して外輪2の軌道面2a近傍まで挿入される軸受内挿入部11とを含む。これらグリース溜り形成部品本体10および軸受内挿入部11は一体の部品であり、鉄よりも線膨張係数が小さい素材により形成されている。この素材として、例えば、ノビナイト鋳鉄、インバー、セラミックス等の素材が適用される。前記グリース溜り形成部品本体10の基端部分10aに、外輪蓋間座8が接合される。
【0022】
ここで、各種素材の20℃における線膨張係数は次の通りである。
ノビナイト鋳鉄 1〜2×10−6/℃、インバー 1〜2×10−6/℃、セラミック 3.2×10−6/℃、鉄 12.5×10−6/℃
外輪固定間座7が外輪2の正面側の端面に接して設けられ、内輪位置決め間座14の外径側に、グリース溜り部品4の大部分が配置される。
【0023】
図2に拡大して示すように、軸受内挿入部11の先端面11aは、外輪2の前記段差面2bとの間に、グリース基油の滲み出し用の軸方向隙間いわゆる段差面隙間δ1を形成する。この軸受内挿入部11のうち前記先端面11aに続く外周面11bつまり軌道面2a近傍の外周面11bと、外輪蓋間座8のうち軸受内に挿入される先端部8aの内周面8aaとの間でグリース基油の滲み出し用の環状隙間δ2を形成する。また、軸受内挿入部11の軸方向中間付近と、外輪蓋間座8の内周面とで囲まれる環状流路12を成し、グリースGrの流路となる。これにより、グリース溜り部品4の内部のグリース溜り4aは、前記環状流路12、環状隙間δ2を介して段差面隙間δ1に連通する。
【0024】
グリース溜り部品4は、転がり軸受に組み付ける前の別体品の状態では、前記環状隙間δ2における先端のグリース基油滲み出し口に達するまでグリース溜り4a内にグリースGrを100%封入後、そのグリース基油滲み出し口に取り外し自在なシールテープ等の封止部材(図示せず)が設けられる。この封止部材は、シールテープの他に、プラスチック製やゴム製のリング状等のキャップとしても良い。この封止部材は、グリース溜り部品4を転がり軸受に組み付けるとき取り外される。したがって、グリース溜り部品4を別体品として取り扱ってもグリースGrが露出せず、グリース封入量の管理等に不安を与えることなく容易に取り扱うことができ、製品の信頼性を向上させることができる。
【0025】
このグリース溜り部品4を図1のように組み付けた転がり軸受の作用、効果は以下の通りである。図示外の主軸等へ軸受を組み込んだとき、グリース溜り部品4のグリース溜り4a、環状流路12、および環状隙間δ2にはグリースGrが充填されており、軸受内へは初期潤滑用としてグリースGrが封入されている。
グリース溜り形成部品9にグリースGrを封入するとき、外輪蓋間座8が外輪2の段差面2bに続く内周面2cに嵌合して軸受内に挿入されているため、この外輪蓋間座8によって、外輪2の端面と外輪固定間座7の端面との合わせ面からのグリースGrの漏れを防止することができる。これと共に、この外輪蓋間座8により、軸受外部からごみや異物等の侵入を防止することが可能となる。
【0026】
軸受を運転すると、密閉されたグリース溜り4aに溜められたグリースGrにおいて、運転時の温度上昇により基油が増稠剤から分離する。同時に、密閉されたグリース溜り4aの内部圧力が上昇する。この内部圧力により、分離された基油が環状流路12、環状隙間δ2、前記グリース基油滲み出し口を経て、段差面隙間δ1から外輪2の軌道面2aに向けて吐出される。温度が上昇して定常状態になると、内部圧力の上昇要因が消滅するので、基油の吐出と並行して内部圧力が除々に減じ、単位時間当たりの基油吐出量も減少していく。
【0027】
上記軸受運転中の温度変化、例えば20℃→40℃により、外輪蓋間座8およびグリース溜り形成部品9は、半径方向外方に膨張しようとする。このとき、外輪蓋間座8は、外輪固定間座7の内周面7aおよび外輪2の内周面2cに嵌合しているため、半径方向外方への膨張が制限されて、V1にて表記する半径方向内方に変位つまり収縮しやすくなる。特に、外輪蓋間座8の線膨張係数がグリース溜り形成部品9の線膨張係数よりも大きいため、外輪蓋間座8はグリース溜り形成部品9よりも半径方向内方への変位量が大きくなる。図1において、グリース溜り形成部品9の半径方向内方への変位方向をV2にて表記する。つまり、グリース溜り形成部品9において、例えば、軸受から離隔した基端部分10aは、外輪固定間座7により半径方向外方への膨張が規制される結果、半径方向内方への変位量はやや大きくなる。ただし、この変位量は外輪蓋間座8の変位量よりも小さくなっている。また、グリース溜り形成部品9では、この基端部分10aから軸受軌道面2aに近づくに従って半径方向内方への変位量は次第に小さくなる。
【0028】
前述のように、外輪蓋間座8はグリース溜り形成部品9よりも半径方向内方への変位量が大きくなる。これにより、グリース溜り形成部品9にあるグリースGrは、外輪蓋間座8の内周面との間で圧縮される。その結果、グリースGrの基油のみが軸受の潤滑として、上記環状隙間δ2のグリース基油滲み出し口から供給される。このように、従来構造よりも、基油のみを軸受の潤滑剤として積極的にかつ安定的に供給することができる。それ故、グリース潤滑で軸受の長寿命化を図ることができる。
【0029】
その後、運転が中止されると、グリース溜り4aの温度も下降し、グリース溜り4aの内部圧力が略大気圧となる。また、外輪蓋間座8およびグリース溜り形成部品9の温度も下降し、これら外輪蓋間座8およびグリース溜り形成部品9は、半径方向内方への変位が解消され初期位置に復帰する。これにより、グリース溜り形成部品9にあるグリースGrは、外輪蓋間座8の内周面との圧縮状態が解かれる。
このとき、圧縮、圧力による基油の吐出はなく、段差面隙間δ1には基油が満たされる。したがって、運転停止状態では、グリース溜り4aは密閉された状態になる。
【0030】
その後、運転が再開されると、グリース溜り4aの内部圧力が再度上昇すると共に、上記線膨張係数の違いに起因してグリース溜り形成部品9にあるグリースGrが、外輪蓋間座8の内周面との間で圧縮される。このような温度上昇と下降のヒートサイクル、および外輪蓋間座8、グリース溜り形成部品9の線膨張係数の違いによって、グリース溜り4a内での圧力変動、圧縮状態と非圧縮状態の変動が繰り返され、グリースGrから分離した基油が確実に段差面隙間δ1に移動して、外輪2の軌道面2aに繰り返し供給される。
【0031】
また、上記ヒートサイクルによる基油吐出作用とは別に、以下に示す毛細管現象による基油吐出作用も加わる。すなわち、軸受の停止時には、グリースGr中の増稠剤および前記段差面隙間δ1の毛細管現象により、グリースGrの基油が環状隙間δ2、グリース基油滲み出し口から段差面隙間δ1に移動し、この毛細管現象と油の表面張力とが相まって段差面隙間δ1に基油が油状で保持される。
【0032】
軸受を運転すると、段差面隙間δ1に貯油されていた基油は、運転で生じる外輪2の温度上昇により体積膨張と、転動体3の公転・自転で生じる空気流とにより段差面隙間δ1から吐出されて、外輪2の軌道面2aに付着しながら移動して転動体接触部に連続的に補給される。このように、上記した毛細管現象によっても基油が外輪2の軌道面2aに吐出されるので、潤滑が一層確実なものとなる。これにより、軸受内に封入したグリースGrだけを使用して高速化と長寿命化、メンテナンスフリーを達成できる。
【0033】
またこの実施形態では、転がり軸受がアンギュラ玉軸受であり、前記段差面2bが、軌道面2aにおける接触角が生じる方向と反対側の縁部に続いて形成されているので、段差面2bをより転動体3の直下に配置し易くなる。これにより、転動体3の中心付近に段差面2bを近づけることができ、段差面隙間δ1から軌道面2aへの潤滑油の補給がより効率良く行える。
【0034】
次に、この発明の第2の実施形態を図3と共に説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0035】
上記実施形態では、外輪2に段差面2bを設け、この段差面2bに続く外輪内周面2cに外輪蓋間座8を嵌合させているが、この形態に限定されるものではない。例えば、図3に示すように、外輪2に段差面を設けず、テーパ面とした外輪2の正面側内周面2cに沿って前記外輪蓋間座8を嵌合させ、軸受内挿入部11における先端のテーパ状外周面11cと、この外輪2の正面側内周面2cとの間に、グリース溜り4aに連通する傾斜隙間を形成する構成例に適用しても良い。
この構成例においても、外輪蓋間座8の線膨張係数がグリース溜り形成部品9の線膨張係数よりも大きくなっているため、軸受運転時において、外輪蓋間座8はグリース溜り形成部品9よりも半径方向内方への変位量が大きくなる。その他図1に示す第1の実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0036】
次に、この発明の第3の実施形態を図4と共に説明する。
外輪蓋間座8をグリース溜り形成部品本体10に組立時、外輪蓋間座8が十分に接合されない場合には、この外輪蓋間座8の先端部8aが図4矢符Aに示すようにグリース溜り4a側に不所望に傾き、段差面隙間δ1に影響する。これにより、この段差面隙間δ1から基油吐出が円滑に行われない可能性がある。
したがって、本第3の実施形態では、外輪蓋間座8は、グリース溜り形成部品本体10の基端部分10aに接合され、この基端部分10aにおける外輪蓋間座8に対する接合溝10aaの溝深さLLを、同基端部分10aの全幅Lの1/4以上1/2以下にしている。
【0037】
例えば、接合溝10aaの溝深さLLは、この構造の場合、1.25mm以上2.5mm以下に規定している。このように接合溝10aaの溝深さLLを規定することで、外輪蓋間座8はグリース溜り形成部品本体10の基端部分10aに必要十分に接合され、この外輪蓋間座8の先端部8aがグリース溜り4a側に不所望に傾くことを防止することができる。したがって、基油を吐出する段差面隙間δ1等を一定に保つことが可能となり、基油吐出を円滑に行うことができ、これにより軸受の長寿命化を図ることができる。その他第1の実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0038】
次に、この発明の第4の実施形態を図5、図6と共に説明する。
前述した組立時の外輪蓋間座8の傾斜により影響をなくすために、本第4の実施形態では、外輪蓋間座8における先端部8aの内周面に、円周方向に沿って複数(本例では4個)のスリーブ13を設けている。これら複数のスリーブ13は円周方向一定間隔おきに配設され、軸受内挿入部11のうち軌道面近傍2aの外周面11bに、各スリーブ13の内径面13aが当接するように構成されている。
【0039】
前記各スリーブ13は、外輪蓋間座8と別部品として設け、この外輪蓋間座8の内周面に取付けても良いし、外輪蓋間座8に一体に設けても良い。前記スリーブ13の個数は、4個に限定されるものではない。また、各スリーブ13を取り外し自在に設けても良い。
第4の実施形態の構成によると、外輪蓋間座8の先端部8aが、複数のスリーブ13により支持されてグリース溜り4a側に不所望に傾くことを確実に且つ簡単に防止することができる。これにより、基油を吐出する隙間を一定に保つことができる。その他第1の実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0040】
上記各実施形態では、転がり軸受としてアンギュラ玉軸受を用いた例を示したが、円錐ころ軸受、円筒ころ軸受、および深溝玉軸受等の種々の転がり軸受を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】図1の要部を拡大して表す拡大断面図である。
【図3】この発明の第2の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図4】この発明の第3の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図5】この発明の第4の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図6】(A)同転がり軸受における外輪蓋間座の先端部を、軸方向一方から見た正面図、(B)同外輪蓋間座の要部を拡大して表す拡大正面図である。
【符号の説明】
【0042】
1…内輪
2…外輪
2b…段差面
3…転動体
7…外輪固定間座
8…外輪蓋間座
9…グリース溜り形成部品
10…グリース溜り形成部品本体
11…軸受内挿入部
13…スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在した複数の転動体を有する転がり軸受において、
回転しない外輪に隣接して配置される外輪固定間座と、
前記外輪固定間座および外輪の内周面に嵌合する外輪蓋間座と、
前記外輪固定間座の内周面に、前記外輪蓋間座を介して設けた環状のグリース溜り形成部品本体、および、このグリース溜り形成部品本体から突出して前記外輪の軌道面近傍まで挿入される軸受内挿入部を含むグリース溜り形成部品と、
を有し、
前記外輪蓋間座のうち軸受内に挿入される先端部の内周面と、前記軸受内挿入部のうち前記軌道面近傍の外周面との間でグリース基油の滲み出し用の環状隙間を形成し、
前記外輪蓋間座を、前記グリース溜り形成部品の線膨張係数と異なる線膨張係数からなる材料により形成し、これら外輪蓋間座およびグリース溜り形成部品は、軸受運転中の温度変化に基づいて、前記グリース溜り形成部品内の容積を圧縮することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記グリース溜り形成部品を、ノビナイト鋳鉄、インバー、およびセラミックスのいずれか一つにより形成し、前記外輪蓋間座を樹脂材料により形成した転がり軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記外輪蓋間座をポリプロピレン系またはポリアセタール系の樹脂材料により形成した転がり軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記外輪蓋間座は、前記グリース溜り形成部品本体の基端部分に接合され、この基端部分における外輪蓋間座に対する接合溝の溝深さを、同基端部分の全幅の1/4以上1/2以下にする転がり軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記外輪蓋間座における先端部の内周面に、円周方向に沿って複数のスリーブを設けた転がり軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記外輪に、軌道面に続く段差面を転動体から離れる方向に設け、前記外輪固定間座および前記外輪のうち前記段差面に続く内周面に、前記外輪蓋間座を嵌合させた転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−103232(P2009−103232A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275940(P2007−275940)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】