説明

転がり軸受

【課題】リップ部の吸着現象を無くした転がり軸受を提供する。
【解決手段】外輪11と、この外輪11の内周側に配置された内輪20と、外輪11および内輪20間に配置されこれらに対し転動する転動体40と、外輪11および内輪20のいずれか一方に摺接するリップ部53、54を有するシール部材50とからなる転がり軸受において、シール部材50の転動体40側に凹み55を形成し、この凹み55を外輪11および内輪20周囲の外部へ連通させる通気穴56をシール部材50に形成し、凹み55の転動体40側を薄膜57で塞ぎ、外輪11および内輪20間の内部空間の熱による体積変化を、薄膜57の変形により吸収した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触シールタイプの転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図5(特許文献1)に示す転がり軸受150は、外輪151の両端にシール部材152が圧入され、このシール部材152は、金属製の補強環153にゴム製のシール部154を被覆したものである。シール部154の内周側の内縁154aは、内輪155の外周面に対し極僅かな隙間156を隔てて対向している。シール部154の内周側でかつ玉156側にリップ部154bを有し、このリップ部154bは内輪155の段付きの端面155aに摺接している。このように接触シールタイプの転がり軸受150は、リップ部154bが内輪155の端面155aに摺接しているので、防水性、防塵性が非常に高いメリットがある反面、シール抵抗が高いデメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−140905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この接触シールタイプの転がり軸受150は、高温時に軸受内部160の空気が高圧となり、リップ部154bを介して軸受内部160の空気が外部へ抜け、この状態で低温になると軸受内部160が負圧となり、リップ部154bが端面155aに吸着するいわゆる吸着現象が発生しやすい。吸着現象が発生すると、シール抵抗が増大し、摩擦による発熱が発生する。本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、リップ部の吸着現象を無くした転がり軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、外輪と、この外輪の内周側に配置された内輪と、前記外輪および前記内輪間に配置されこれらに対し転動する転動体と、前記外輪および前記内輪のいずれか一方に摺接するリップ部を有するシール部材とからなる転がり軸受において、
前記シール部材の前記転動体側に凹みを形成し、この凹みを前記外輪および前記内輪周囲の外部へ連通させる通気穴を前記シール部材に形成し、前記凹みの転動体側を薄膜で塞ぎ、前記外輪および前記内輪間の内部空間の熱による体積変化を、前記薄膜の変形により吸収したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、外輪および内輪間の内部空間が高温になると、薄膜が凹み側へ変形し、逆に外輪および内輪間の内部空間が低温になると、薄膜が転動体側へ復帰するので、外輪および内輪間の内部空間が負圧にならず、リップ部の吸着現象が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態における転がり軸受の断面図である。
【図2】本発明の実施形態における高温時の状態を示す転がり軸受の断面図である。
【図3】本発明の実施形態における図1とは別の角度位置で断面した転がり軸受の断面図である。
【図4】本発明の実施形態における転がり軸受の図1のA矢視図である。
【図5】従来における接触シールタイプの転がり軸受の全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について、図1乃至図4を参酌しつつ説明する。図1は接触シールタイプの転がり軸受の断面図であり、図2は高温時の状態を示す転がり軸受の断面図であり、図3は図1とは別の角度位置で断面した転がり軸受の断面図であり、図4は図1のA矢視図である。
【0009】
図1に示す接触シールタイプの転がり軸受は、転動体として玉を使った玉軸受10である。玉軸受10は、リング状の外輪11と、外輪11の内周側に配置されるリング状の内輪20と、外輪11と内輪20間に配置されるリング状の保持器30と、保持器30に保持される複数の玉40と、玉40を挟んで両側に設けられたシール部材50とからなっている。
【0010】
前記外輪11の内周には、断面円弧状の外輪側軌道面12が形成され、外輪側軌道面12の両側に、外輪側小径部13、外輪側環状溝14、外輪側大径部15の順に形成されている。外輪側小径部13は、外輪11の軸線と平行に形成され、外輪側環状溝14は外輪側小径部13に対し外径側に形成され、外輪側大径部15は、外輪側小径部13に対し外径側で、外輪側環状溝14に対し内径側に形成されている。外輪側小径部13と外輪側環状溝14と外輪側大径部15は、外輪側軌道面12を中心に左右対称となるように形成されている。
【0011】
前記内輪20の外周には、断面円弧状の内輪側軌道面22が形成され、内輪側軌道面22の両側に、内輪側大径部23、段部24、内径側環状溝25の順に形成されている。内輪側大径部23は内輪20の軸線と平行に形成され、内径側環状溝25は内径側大径部23に対し内径側に形成され、段部24は内径側大径部23および内径側環状溝25間に形成されている。内輪側大径部23と内輪側溝部25と段部24は、内輪側軌道面22を中心に左右対称となるように形成されている。
【0012】
前記保持器30は円周方向に複数のポケット部31を有し、各ポケット部31に玉40が回転可能に保持されている。前記玉40は、金属製で、球形状を有する。
【0013】
前記シール部材50は、金属製の芯金51と、この芯金51に加硫接着されたゴム製のシール本体52と、芯金51に加硫接着されたゴム製の薄膜57とからなっている。シール本体52は、芯金51の外径側、内径側、外側面側に設けられ、芯金51の内側面側のみ設けられていない。シール本体52は、内輪側大径部23に摺接する第1のリップ部53と、段部24に摺接する第2のリップ部54とを有する。シール本体52は、外輪側環状溝14に圧入嵌合される。シール部材50には、玉40と反対側へ円柱形状に凹ませることにより、凹み55が形成され、この凹み55の玉40側は、円形状の薄膜57で塞がれている。凹み55は、内輪20の軸線回りに等間隔に複数形成され、側面から見ると円の形を有する(図4)。芯金51およびシール本体52に凹み55を玉軸受10の周囲の外部に連通させる通気穴56が形成されている。凹み55以外の角度位置で断面すると、芯金51およびシール本体52は、図3に示すように径方向に真っ直ぐ延びている。
【0014】
続いて、玉軸受の動作について説明する。
【0015】
図1において、外輪11に対し内輪20を回転させると、外輪側軌道面12および内輪側軌道面22上を玉40が転動し、玉40は内輪20の回転方向と同方向へ移動する。玉40を保持する保持器30も玉と同方向へ移動する。外輪11およびシール部材50間は、外輪側環状溝14にシール部材50を圧入嵌合することによりシールされる。内輪20およびシール部材50間は、第1のリップ部53が内輪側大径部23に摺接し、第2のリップ部54が段部54に摺接することによりシールされる。
【0016】
径方向において外輪11および内輪20間に、軸方向において一対のシール部材50間に、軸受内部60が設けられ、玉40が外輪側軌道面12および内輪側軌道面22上を転動することにより、軸受内部60が高温になる。これに伴って、軸受内部60の空気が膨張して高圧となる。玉軸受10の外部に連通穴56を介して連通した凹み55の圧力が、軸受内部60と比較して低いので、薄膜57は玉40と反対側へ変形する(図2)。このとき、軸受内部60の空気は、第1のリップ部53および第2のリップ部54を介して玉軸受10の外部へ逃げることは無い。
【0017】
内輪20の回転が停止すると、玉軸受10の外部の気温により軸受内部60の空気が冷やされ、軸受内部60の圧力が低下する。玉40と反対側へ変形した薄膜57は、玉40側へ弾性復帰する(図1)。こうして、軸受内部60が負圧になることが無く、第1のリップ部53および第2のリップ部54が、内輪側大径部23および段部54に強く押し付けられる吸着現象は発生しない。
【0018】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0019】
上述した実施形態は、側面から見て円形状の凹み55を、内輪20の軸線回りに等間隔に複数設け、円形状の薄膜57で凹み55を塞いだ。他の実施形態として、凹み55を内輪20の軸線回りに環状に形成し、環状の凹み55をリング状の薄膜55で塞いでも良い。
【0020】
上述した実施形態は、外輪11にシール部材50を圧入嵌合し、第1のリップ部53および第2のリップ部54を内輪20に摺接させた。他の実施形態として、内輪20にシール部材50を圧入嵌合し、第1のリップ部53および第2のリップ部54を外輪11に摺接させても良い。
【0021】
上述した実施形態は、玉軸受10にシール部材50を適用した。他の実施形態として、円すいころ軸受、円筒ころ軸受等の他の軸受にシール部材50を適用しても良い。
【符号の説明】
【0022】
11:外輪、20:内輪、40:玉(転動体)、50:シール部材、53:第1のリップ部(リップ部)、54:第2のリップ部(リップ部)、55:凹み、56:通気穴、57:薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、この外輪の内周側に配置された内輪と、前記外輪および前記内輪間に配置されこれらに対し転動する転動体と、前記外輪および前記内輪のいずれか一方に摺接するリップ部を有するシール部材とからなる転がり軸受において、
前記シール部材の前記転動体側に凹みを形成し、この凹みを前記外輪および前記内輪周囲の外部へ連通させる通気穴を前記シール部材に形成し、前記凹みの転動体側を薄膜で塞ぎ、前記外輪および前記内輪間の内部空間の熱による体積変化を、前記薄膜の変形により吸収したことを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19503(P2013−19503A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154587(P2011−154587)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】