説明

転位制御種結晶及びその製造方法、並びに、SiC単結晶の製造方法

【課題】本成長途中のSiC単結晶中に欠陥を生成させるおそれの少ない転位制御種結晶及びその製造方法、並びに、SiC単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】以下の構成を備えた転位制御種結晶10及びその製造方法、並びにこれを用いたSiC単結晶の製造方法。(1)転位制御種結晶10は、α型のSiCからなる。(2)転位制御種結晶10は、オフセット角θが1°以上15°以下である成長面を備えている。(3)成長面は、螺旋転位密度が低い高品質領域12と、成長面の50%以下の面積を持つ螺旋転位領域14とを備えている。(4)螺旋転位領域14は、高品質領域12となる一次種結晶の一次成長面の一部に、螺旋転位領域14を形成するための後退部を形成し、少なくとも後退部上にSiC単結晶を予備成長させ、成長面のオフセット方向c端部に螺旋転位領域14が含まれるように、一次種結晶の表面を鏡面研磨し、成長面を露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転位制御種結晶及びその製造方法、並びに、SiC単結晶の製造方法に関し、さらに詳しくは、欠陥の少ないSiC単結晶を製造することが可能な転位制御種結晶及びその製造方法、並びに、このような転位制御種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化ケイ素)は、六方晶系の結晶構造を持つ高温型(α型)と、立方晶系の結晶構造を持つ低温型(β型)が知られている。SiCは、Siに比べて、耐熱性が高いだけでなく、広いバンドギャップを持ち、絶縁破壊電界強度が大きいという特徴がある。そのため、SiC単結晶からなる半導体は、Si半導体に代わる次世代パワーデバイスの候補材料として期待されている。特に、α型SiCは、β型SiCよりバンドギャップが広いので、超低電力損失パワーデバイスの半導体材料として注目されている。
【0003】
α型SiCは、その主要な結晶面として{0001}面(以下、これを「c面」ともいう)と、{0001}面に垂直な{1−100}面及び{11−20}面(以下、これらを総称して「a面」ともいう)とを有している。
従来より、α型SiC単結晶を得る方法として、c面成長法が知られている。ここで、「c面成長法」とは、c面又はc面に対するオフセット角が所定の範囲にある面を成長面として露出させたSiC単結晶を種結晶に用いて、昇華再析出法などの方法により成長面上にSiC単結晶を成長させる方法をいう。
【0004】
しかしながら、c面成長法により得られる単結晶中には、<0001>方向に平行な方向にマイクロパイプ欠陥(直径数μm〜100μm程度の管状の空隙)や螺旋転位などの欠陥が非常に多く発生するという問題があった。
高性能なSiCパワーデバイスを実現するためには、SiC半導体に生じるリーク電流を低減することが必須条件である。SiC単結晶に生じるマイクロパイプ欠陥、螺旋転位などの欠陥は、このリーク電流を増大させる原因と考えられている。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、c面からの傾きが約60°〜約120°である面(例えば、{1−100}面、{11−20}面など)を成長面として露出する種結晶を用いて、SiC単結晶を成長させるSiC単結晶の成長方法(以下、このような成長方法を「a面成長法」という)が開示されている。
同文献には、
(1)c面から約60〜120°傾いている結晶面上にSiCを成長させると、その結晶面上に原子積層の配列が現れているため、元の種結晶と同じ種類の多形構造を持つ結晶が容易に成長する点、
(2)このような方法を用いた場合、螺旋転位は発生しない点、及び、
(3)種結晶がc面に滑り面を有する転位を含む場合、この転位は、成長結晶に引き継がれる点、
が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、
(1)SiC種結晶の(0001)面の中央に、直径100μmのTi蒸着膜を形成し、
(2)Ti蒸着膜をマスクとして、種結晶表面をアルカリエッチングし、
(3)Ti蒸着膜を除去することにより、種結晶表面に人為的に突起状の特異点を形成し、
(4)特異点が形成された(0001)面を成長面として、単結晶を成長させる、
SiC単結晶の製造方法が開示されている。
同文献には、
(a)特異点が螺旋転位の中心として機能し、この螺旋転位の螺旋状ステップ成長により結晶成長が進行する点、及び、
(b)特異点に形成された螺旋転位以外の螺旋転位は確認されない点、
が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、互いに直交する方向に複数回のa面成長を行った後、最後にc面成長させるSiC単結晶の製造方法が開示されている。
同文献には、
(1)a面成長の繰り返し回数が多くなるほど、成長結晶中の転位密度が指数関数的に減少する点、
(2)a面成長においては、積層欠陥の発生が避けられない点、及び、
(3)最後にc面成長を行うと、マイクロパイプ欠陥及び螺旋転位が発生しないだけでなく、積層欠陥がほとんど存在しないSiC単結晶が得られる点、
が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献4には、
(1)螺旋転位を含むSiC種結晶を用いて、1回以上のa面成長を行った後、螺旋転位を含む領域が成長面上に残るように、c軸とほぼ垂直な面を成長面として露出させることにより得られる転位制御種結晶(螺旋転位残存法)、
(2)c面から8°傾く面を成長面として露出させたSiC種結晶を切り出し、成長面のオフセット方向の端部に、成長面から10〜20°傾く研削面を形成することにより得られる転位制御種結晶(研削法)、
(3)相対的に高い螺旋転位密度を持つSiC種結晶(高転位密度種結晶)と、相対的に螺旋転位密度が低いSiC種結晶(低転位密度種結晶)とを、成長面が同一面内に配置されるように並べることにより得られる転位制御種結晶(貼り合わせ法)、及び、
(4)このような転位制御種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法、
が開示されている。
同文献には、このような転位制御種結晶を用いることにより、c面ファセット内に螺旋転位を確実に形成することができるので、異種多形や異方位結晶の生成を抑制することができる点が記載されている。
【0009】
a面成長法は、螺旋転位密度の低いSiC単結晶が得られるという利点がある。しかしながら、a面成長法は、c面にほぼ平行な高密度の積層欠陥が生成しやすいという問題がある。SiC単結晶中に積層欠陥が発生すると、積層欠陥を横切る方向の電気抵抗が増大する。そのため、このような積層欠陥を高密度に有するSiC単結晶は、パワーデバイス用の半導体として使用することができない。
【0010】
一方、a面成長を少なくとも1回以上行った後、c面成長を行うと、螺旋転位及び積層欠陥をほとんど持たないSiC単結晶を作製できると考えられている。
しかしながら、a面成長法により得られた結晶から作製された種結晶は、螺旋転位をほとんど持たない。そのため、c面成長時に成長結晶の表面に形成されるc面ファセット内には、種結晶の多形を成長結晶中に伝達するためのステップ供給源がない。その結果、c面ファセット上に異種多形や異方位結晶が部分的に形成され、それらが進展成長することで成長結晶中に再び螺旋転位がランダムに発生する場合があった。
【0011】
この問題を解決するために、特許文献2に開示されるように、成長面に人為的に螺旋転位を発生させるための特異点(突起、へこみなど)を形成することも考えられる。しかしながら、単純な突起・へこみは、螺旋成分を持たないため、種結晶の多形を成長結晶に伝達するためのステップ供給源として機能しない可能性がある。即ち、ある程度成長が進行すれば、これらの凹凸は螺旋転位に変化してステップ供給源として機能する可能性はあるが、これらの凹凸がステップ供給源として機能する前の成長初期には異種多形が発生しやすいという問題がある。発生した異種多形は成長結晶全体に伝搬するので、その後に成長した結晶は、著しく低品質となるおそれがある。
【0012】
これに対し、特許文献4に開示されるように、成長の初期から螺旋転位を発生可能な領域を有する転位制御種結晶を作製し、これを用いてSiC単結晶を成長させると、異種多形や異方位結晶の生成を抑制することができる。
しかしながら、螺旋転位残存法において、a面成長を複数回繰り返すと、転位制御種結晶の表面にa面成長の繰り返し回数の異なる領域ができる。その結果、成長面の欠陥密度が不均一になりやすいという問題がある。また、最終的にc面成長用種結晶を切り出すまで結晶を分割できない。そのため、途中で結晶に割れが発生すると最初からやり直す必要があり、リスクが高いという問題がある。
また、研削法において、c面ファセットは、研削面と非研削面の境界付近に形成される。そのため、成長条件によっては、成長開始後にc面ファセットが非研削面上へ拡大することがある。その場合には、c面ファセット内の螺旋転位が不足し、異種多形が発生する場合がある。
さらに、貼り合わせ法において、高転位密度種結晶と低転位密度種結晶の結晶方位が一致しないと、接合界面において高密度に螺旋転位が発生する場合がある。接合界面の接合性が低く、高密度の転位が発生すると、c面ファセット上の螺旋転位から供給されるステップが接合界面を横切る際に、接合界面の転位が低転位密度種結晶上側に供給されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平05−262599号公報
【特許文献2】特開平08−059389号公報
【特許文献3】特許第3745668号公報
【特許文献4】特許第3764462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、本成長途中のSiC単結晶中にパイプ状欠陥、螺旋転位、積層欠陥、異種多形、異方位結晶等の欠陥を生成させるおそれが少なく、かつ均質なSiC単結晶を製造することが可能な転位制御種結晶及びその製造方法、並びに、このような転位制御種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る転位制御種結晶は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記転位制御種結晶は、α型のSiCからなる。
(2)前記転位制御種結晶は、前記SiCからなる新たな単結晶を成長させるための成長面を備え、前記成長面のオフセット角は、1°以上15°以下である。
(3)前記成長面は、螺旋転位密度が低い高品質領域と、前記高品質領域より螺旋転位の密度が高い螺旋転位領域とを備え、前記螺旋転位領域の面積は、前記成長面の面積の50%以下である。
(4)前記螺旋転位領域は、
(a)前記高品質領域となる一次種結晶の一次成長面の一部に、前記螺旋転位領域を形成するための後退部を形成し、
(b)少なくとも前記後退部上にSiC単結晶を予備成長させ、
(c)前記成長面のオフセット方向端部に前記螺旋転位領域が含まれるように、前記一次種結晶の表面を鏡面研磨し、前記成長面を露出させる
ことにより得られるものからなる。
但し、「成長面のオフセット角」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルと、前記高品質領域上にある前記成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
「成長面のオフセット方向」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルを、前記高品質領域上にある前記成長面に投影したベクトルの方向をいう。
【0016】
また、本発明に係る転位制御種結晶の製造方法は、以下の工程を備えていることを要旨とする。
(1)α型SiCからなり、一次成長面のオフセット角が15°以下である一次種結晶を用意し、前記一次成長面の一部に、前記一次種結晶よりも螺旋転位密度が高い螺旋転位領域を形成するための後退部を形成する後退部形成工程。
(2)少なくとも前記後退部上にSiC単結晶を予備成長させる予備成長工程。
(3)本成長のための成長面のオフセット方向端部に前記螺旋転位領域が含まれ、前記成長面の面積に対する前記螺旋転位領域の面積が50%以下となり、かつ前記成長面のオフセット角が1°以上15°以下となるように、前記一次種結晶の表面を鏡面研磨し、前記成長面を露出させる成長面露出工程。
但し、「一次成長面のオフセット角」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルと、前記後退部以外の領域上にある前記一次成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
「成長面のオフセット方向」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルを前記転位制御種結晶の前記螺旋転位領域以外の領域上にある前記成長面に投影したベクトルの方向をいう。
「成長面のオフセット角」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルと、前記螺旋転位領域以外の領域上にある前記成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
【0017】
さらに、本発明に係るSiC単結晶の製造方法は、本発明に係る転位制御種結晶の成長面に、SiC単結晶をc面成長させる本成長工程を備えている。
本成長工程に用いられる転位制御種結晶は、本成長工程により得られるSiC単結晶をスライスすることにより得られるものを用いてもよい。
【発明の効果】
【0018】
一次種結晶の一次成長面に後退部を形成し、少なくとも後退部上にSiCを予備成長させると、後退部上に高密度の螺旋転位領域が形成される。次いで、成長面のオフセット方向端部に螺旋転位領域が含まれるように成長面を露出させると、欠陥密度が低く、かつ均質な高品質領域のオフセット方向端部に、螺旋転位密度の高い螺旋転位領域が形成された転位制御種結晶が得られる。しかも、転位密度が制御された一次種結晶を用いて予備成長を1回だけ行えばよいので、リスクも少ない。
このような転位制御種結晶を用いて成長面上にSiC単結晶を成長させると、c面ファセット内に高密度の螺旋転位が確実に導入される。その結果、c面ファセット上において異種多形や異方位結晶の発生が抑制され、高品質領域の上に欠陥密度の低い均質なSiC単結晶を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る転位制御種結晶の平面図(下図)及びそのA−A'線断面図(上図)である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る転位制御種結晶の平面図(下図)及びそのA−A'線断面図(上図)である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る転位制御種結晶の断面図(上図)及びこの転位制御種結晶の製造に用いられる一次種結晶の断面図(下図)である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る転位制御種結晶の平面図(下図)及びそのA−A'線拡大断面図(上図)である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図6】第1傾斜面の傾斜角が一次成長面のオフセット角より小さい一次種結晶を用いた転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る転位制御種結晶及び第2の実施の形態に係る転位制御種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図9】D>Ltanθ'を満たさない一次種結晶を用いた転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図13】本発明の第7の実施の形態に係るSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図14】繰り返しa面成長法+c面成長法を用いたSiC単結晶の製造方法を示す工程図である。
【図15】SiC単結晶のステップフロー成長過程及び異種多形の成長過程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 転位制御種結晶(1)]
本発明に係る転位制御種結晶は、以下の構成を備えている。
(1)前記転位制御種結晶は、α型のSiCからなる。
(2)前記転位制御種結晶は、前記SiCからなる新たな単結晶を成長させるための成長面を備え、前記成長面のオフセット角は、1°以上15°以下である。
(3)前記成長面は、螺旋転位密度が低い高品質領域と、前記高品質領域より螺旋転位の密度が高い螺旋転位領域とを備え、前記螺旋転位領域の面積は、前記成長面の面積の50%以下である。
(4)前記螺旋転位領域は、
(a)前記高品質領域となる一次種結晶の一次成長面の一部に、前記螺旋転位領域を形成するための後退部を形成し、
(b)少なくとも前記後退部上にSiC単結晶を予備成長させ、
(c)前記成長面のオフセット方向端部に前記螺旋転位領域が含まれるように、前記一次種結晶の表面を鏡面研磨し、前記成長面を露出させる
ことにより得られるものからなる。
【0021】
[1.1 結晶構造]
α型SiCは、六方晶系に属し、その主要な結晶面としてc面({0001}面)と、c面に垂直なa面({1−100}面又は{11−20}面)とを有している。c面の上に新たなc面を積層する場合、3通りの積層方法がある。そのため、α型SiCは、2層1周期となるようにc面が積層した2H型、4層1周期となるようにc面が積層した4H型、6層1周期となるようにc面が積層した6H型などの多くの多形があることが知られている。
本発明において、転位制御種結晶を構成するα型SiCの多形の種類は、特に限定されるものではなく、あらゆる多形に対して、本発明を適用することができる。
【0022】
[1.2 成長面]
[1.2.1 成長面の形状]
転位制御種結晶は、成長面を備えている。ここで、「成長面」とは、SiCからなる新たな単結晶を成長させるための面をいう。成長面は、高品質領域が露出した面と、螺旋転位領域が露出した面とを含む。
転位制御種結晶に備えられる成長面としては、例えば、
(1)高品質領域の全表面と螺旋転位領域の全表面が同一平面上にある単一の平面、
(2)高品質領域の全表面と螺旋転位領域の表面の一部が同一平面にあり、螺旋転位領域の残りの面が高品質領域の表面に対して傾いている折れ面(例えば、螺旋転位領域内の成長面に、第2傾斜面を設ける場合)、
(3)螺旋転位領域が最頂部となるように、高品質領域と螺旋転位領域とを含む平面が3個以上集合した角錐面、
(4)螺旋転位領域が最頂部となる円錐面、
などがある。成長面は、加工の容易性から、3個以内の平面からなるものが好ましい。
【0023】
[1.2.2 成長面のオフセット角]
成長面のオフセット角は、1°以上15°以下である必要がある。
ここで、「成長面のオフセット角」とは、転位制御種結晶を構成するSiCのc面({0001}面)の法線ベクトルと、高品質領域上にある成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。成長面が複数個の平面の集合体からなる場合、各平面毎にこの条件を満たしている必要がある。
【0024】
成長面のオフセット角が小さすぎる場合、後述する螺旋転位領域を種結晶の端部に形成するときに、螺旋転位領域とc面ファセットとが重なるようにSiC単結晶を成長させるのが困難となるおそれがある。螺旋転位領域とは無関係な領域にc面ファセットが形成されると、異種多形(転位制御種結晶とは種類の異なる多形)が生成するおそれがある。異種多形が発生すると、下地との間の歪みが発生し、それ以降の成長結晶中に螺旋転位を発生させる原因となる。従って、成長面のオフセット角は、1°以上である必要がある。
成長面にオフセット角を付けた場合において、転位制御種結晶の表面に積層欠陥が露出しているときには、成長結晶中に積層欠陥が引き継がれる。成長結晶に引き継がれた積層欠陥は、c面に対してほぼ平行に成長を続け、やがて成長結晶の側面に抜ける。これ以降は、積層欠陥のない結晶が成長する。しかしながら、成長面のオフセット角が大きすぎると、積層欠陥を排除するためにはSiCを<0001>方向(c軸方向)に高く成長させる必要があり、効率が悪い。従って、成長面のオフセット角は、15°以下とする必要がある。
【0025】
[1.2.3 第2傾斜面]
螺旋転位領域内の成長面に第2傾斜面を設ける場合、第2傾斜面の傾斜角θs2は、θ<θs2≦60°の関係を満たしているのが好ましい。
ここで、「第2傾斜面の傾斜角θs2」とは、高品質領域上にある成長面の法線ベクトルと、第2傾斜面の法線ベクトルとのなす角をいう。
また、θは、成長面のオフセット角である。
【0026】
c面ファセットは、成長方向に対して最上位にあるc面上に発生する。そのため、第2傾斜面の傾斜角θs2がオフセット角より小さくなると、最上位のc面は螺旋転位領域の端部となり、第2傾斜面を設けない場合と同等の効果しか得られない。これに対し、第2傾斜面の傾斜角θs2をオフセット角より大きくすると、最上位のc面は、高品質領域を含む成長面と第2傾斜面が交差する稜線上にある。そのため、本成長の際に、螺旋転位領域上からc面ファセットが外れにくくなる。
一方、第2傾斜面の傾斜角θs2が大きくなりすぎると、第2傾斜面上に成長する結晶から螺旋転位が消失してしまう可能性が高い。従って、第2傾斜面の傾斜角θs2は、60°以下が好ましい。
【0027】
高品質領域を含む成長面と第2傾斜面が交差する稜線の位置は、特に限定されるものではないが、螺旋転位領域のほぼ中心又は中心からオフセット方向側に設けるのが好ましい。螺旋転位領域の中心からオフセット方向側の領域に第2傾斜面を設けると、c面ファセットの発生位置を螺旋転位領域内に維持するのが容易化する。そのため、成長初期にc面ファセットが移動しても、螺旋転位領域から外れにくくなる。
【0028】
さらに、第2傾斜面は、鏡面研磨面であっても良く、あるいは、非鏡面研磨面であっても良い。
ここで、「鏡面研磨面」とは、相対的に螺旋転位密度が低い結晶が成長するように、歪みや凹凸が除去された面をいう。鏡面研磨面は、螺旋転位密度が100cm-2未満である結晶を成長させることができるものが好ましい。
また、「非鏡面研磨面」とは、相対的に螺旋転位密度が高い結晶が成長するように、歪みや凹凸が導入された面、あるいは、結晶構造が乱れた面をいう。非鏡面研磨面は、螺旋転位密度が100cm-2以上である結晶を成長させることができるものが好ましい。
一般に、SiC単結晶に研削加工などの機械加工を施すと、加工面に歪みが導入され、螺旋転位が生成しやすくなる。しかしながら、第2傾斜面が形成される螺旋転位領域は、既に相対的に多量の螺旋転位を含んでいる。そのため、第2傾斜面を鏡面研磨面とした場合であっても、第2傾斜面上に螺旋転位を生成させることができる。
【0029】
[1.3 高品質領域]
「高品質領域」とは、後述する螺旋転位領域より螺旋転位密度が低い領域をいう。SiC単結晶を効率よく製造するためには、高品質領域の面積は、成長面の面積の50%超である必要がある。成長面に占める高品質領域の面積の割合は、さらに好ましくは70%超、さらに好ましくは90%超である。
【0030】
一般に、SiC単結晶をc面成長させると、c軸とほぼ平行な方向に螺旋転位が形成されやすい。
一方、SiC単結晶をa面成長させると、c面に対してほぼ平行な方向に積層欠陥が形成されやすいが、螺旋転位の少ない結晶が得られる。互いにほぼ直交する方向にa面成長を繰り返すと、繰り返し回数が多くなるほど、転位密度の低い結晶が得られる。
高品質領域は、このようなa面成長を少なくとも1回行うことにより得られるものが好ましい。a面成長の繰り返し回数は、多いほど良い。
【0031】
ここで、本発明において、「c面成長法」というときは、c面又はc面に対するオフセット角が15°以下である面を成長面として露出させたSiC単結晶を種結晶に用いて、昇華再析出法などの方法により成長面上にSiC単結晶を成長させる方法をいう。
また、本発明において、「a面成長法」というときは、c面からの傾きが約60°〜約120°である面(例えば、{1−100}面、{11−20}面など)を成長面として露出させた種結晶を用いて、昇華再析出法などの方法により成長面上にSiC単結晶を成長させる方法をいう。a面成長させるための成長面とc面とのなす角は、さらに好ましくは、約80°〜約100°、さらに好ましくは、約90°である。
【0032】
高品位のSiC単結晶を得るためには、高品質領域の螺旋転位密度は、少ないほどよい。高品質領域の螺旋転位密度は、具体的には、100cm-2未満が好ましい。高品質領域の螺旋転位密度は、さらに好ましくは10cm-2未満、さらに好ましくは1cm-2未満である。高品質領域の螺旋転位密度は、最も好ましくは、0cm-2である。
【0033】
[1.4 螺旋転位領域]
「螺旋転位領域」とは、高品質領域より螺旋転位密度が高い領域をいう。SiC単結晶を効率よく製造するためには、螺旋転位領域の面積は、成長面の面積の50%以下である必要がある。成長面に占める螺旋転位領域の面積の割合は、さらに好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0034】
高品位のSiC単結晶を得るためには、成長の基点となるc面ファセット内に一定密度以上の螺旋転位が含まれている必要がある。そのためには、螺旋転位領域の螺旋転位密度は、具体的には、100cm-2以上が好ましい。
【0035】
本発明において、螺旋転位領域は、後述するように、
(a)高品質領域となる一次種結晶の一次成長面の一部に、螺旋転位領域を形成するための後退部を形成し、
(b)少なくとも後退部上にSiC単結晶を予備成長させ、
(c)成長面のオフセット方向端部に螺旋転位領域が含まれるように、一次種結晶の表面を鏡面研磨し、成長面を露出させる、
ことにより得られる。
ここで、「後退部」とは、SiC単結晶の成長方向とは反対方向(後退する方向)に一次成長面の一部を切除した部分であり、かつ螺旋転位領域を形成可能な部分をいう。後退部としては、例えば、傾斜面、段差、曲面、錐形状のへこみ、くさび形の切り欠きなどがある。
また、「成長面のオフセット方向」とは、転位制御種結晶を構成するSiCのc面({0001}面)の法線ベクトルを、高品質領域上にある成長面に投影したベクトルの方向をいう。
【0036】
螺旋転位領域は、転位制御種結晶のオフセット方向端部に形成されるが、「オフセット方向端部」の位置は、転位制御種結晶中のc面の方位や成長面の形状に応じて異なる。
例えば、成長面が単一の平面又は螺旋転位領域内に第2傾斜面が形成された折れ面からなる場合、「オフセット方向端部」は、転位制御種結晶の端部となる。
また、例えば、成長面が螺旋転位領域を最頂部とする錐面(角錐面又は円錐面)である場合、「オフセット方向端部」は、転位制御種結晶の中央部分となる。なお、「中央部分」とは、必ずしも転位制御種結晶の幾何学的中心を指すものではなく、幾何学的中心から外周よりの部分も含まれる。
【0037】
[1.5 転位制御種結晶の具体例]
[1.5.1 第1の実施の形態]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る転位制御種結晶の平面図(下図)及びそのA−A'線断面図(上図)を示す。図1中、aは成長面の法線ベクトル、bはc面の法線ベクトル、θは成長面のオフセット角である。cはc面の法線ベクトルbを成長面に投影したベクトルであり、投影ベクトルcの方向が成長面のオフセット方向である。さらに、dは第1傾斜面16の法線ベクトルであり、θs1は第1傾斜面16の傾斜角である。
【0038】
図1において、転位制御種結晶10は、高品質領域12と螺旋転位領域14とを備えている。c面は転位制御種結晶10の底面に対して傾いており、成長面は底面に対してほぼ平行になっている。そのため、オフセット方向端部は、転位制御種結晶10の左端となる。螺旋転位領域14は、高品質領域12のオフセット方向端部に形成された第1傾斜面16の上に形成されている。転位制御種結晶10の成長面は単一の平面からなり、螺旋転位領域14の全表面は、高品質領域12の全表面と同一平面上にある。
このような転位制御種結晶10は、高品質領域12のみからなり、一次成長面のオフセット角が所定の範囲にある一次種結晶のオフセット方向端部に後退部(傾斜角θ's1の第1傾斜面)を形成し、一次種結晶の上にSiC単結晶を予備成長させ、成長面を露出させることにより得られる。この点については、後述する。
【0039】
[1.5.2 第2の実施の形態]
図2に、本発明の第2の実施の形態に係る転位制御種結晶の平面図(下図)及びそのA−A'線断面図(上図)を示す。図2中、aは成長面の法線ベクトル、bはc面の法線ベクトル、θは成長面のオフセット角である。cはc面の法線ベクトルbを成長面に投影したベクトルであり、投影ベクトルcの方向が成長面のオフセット方向である。また、dは第1傾斜面26の法線ベクトルであり、θs1は第1傾斜面26の傾斜角である。さらに、eは第2傾斜面28の法線ベクトルであり、θs2は第2傾斜面28の傾斜角である。
【0040】
図2において、転位制御種結晶20は、高品質領域22と螺旋転位領域24とを備えている。c面は転位制御種結晶20の底面に対して傾いており、成長面は底面に対してほぼ平行になっている。そのため、オフセット方向端部は、転位制御種結晶20の左端となる。螺旋転位領域24は、オフセット方向端部に形成された第1傾斜面26の上に形成されている。さらに、螺旋転位領域24のほぼ中央には、第2傾斜面28が設けられている。第2傾斜面28の傾斜角θs2は、θ<θs2≦60°の関係を満たしている。そのため、転位制御種結晶20の成長面は、高品質領域22が露出している平面と、第2傾斜面28とが集合した折れ面からなる。
このような転位制御種結晶20は、高品質領域22のみからなり、一次成長面のオフセット角が所定の範囲にある一次種結晶のオフセット方向端部に後退部(傾斜角θ's1の第1傾斜面)を形成し、一次種結晶の上にSiC単結晶を予備成長させ、成長面を露出させ、さらに螺旋転位領域24上に第2傾斜面28を形成することにより得られる。この点については、後述する。
【0041】
[1.5.3 第3の実施の形態]
図3に、本発明の第3の実施の形態に係る転位制御種結晶の断面図(上図)及びこの転位制御種結晶の製造に用いられる一次種結晶の断面図(下図)を示す。図3中、aは成長面の法線ベクトル、bはc面の法線ベクトル、θは成長面のオフセット角である。cはc面の法線ベクトルbを成長面に投影したベクトルであり、投影ベクトルcの方向が成長面のオフセット方向である。また、θ’は一次種結晶の一次成長面のオフセット角、Dは段差30bの深さ、Lは一次成長面のオフセット方向に伸びる段差30bの幅である。
【0042】
図3において、転位制御種結晶30は、高品質領域32と螺旋転位領域34とを備えている。c面は転位制御種結晶30の底面に対して傾いており、成長面は底面に対してほぼ平行になっている。そのため、オフセット方向端部は、転位制御種結晶30の左端となる。螺旋転位領域34は、一次種結晶30aのオフセット方向端部に形成された深さD及び幅Lの段差30bの上に形成されている。転位制御種結晶30の成長面は単一の平面からなり、螺旋転位領域34の全表面は、高品質領域32の全表面と同一平面上にある。
このような転位制御種結晶30は、高品質領域のみからなり、一次成長面のオフセット角が所定の範囲にある一次種結晶30aのオフセット方向端部に後退部(深さD及び長さLの段差30b)を形成し、一次種結晶30aの上にSiC単結晶を予備成長させ、成長面を露出させることにより得られる。この点については、後述する。
なお、図示はしないが、螺旋転位領域34内に、傾斜角θs2がθ<θs2≦60°の関係を満たす第2傾斜面をさらに形成しても良い。
【0043】
[1.5.4 第4の実施の形態]
図4に、本発明の第4の実施の形態に係る転位制御種結晶の平面図(下図)及びそのA−A'線拡大断面図を示す。図4中、aは成長面の法線ベクトル、bはc面の法線ベクトル、θは成長面のオフセット角である。cはc面の法線ベクトルbを成長面に投影したベクトルであり、投影ベクトルcの方向が成長面のオフセット方向である。
【0044】
図4において、転位制御種結晶40は、高品質領域42と、螺旋転位領域44とを備えている。転位制御種結晶40の成長面は中央部分を最頂部とし、かつ3つの面から構成される角錐面である。c面は転位制御種結晶の底面に対してほぼ平行であり、高品質領域42上にある成長面は底面に対して傾いている。そのため、オフセット方向端部は、角錐面の最頂部となる。螺旋転位領域44は、オフセット方向端部に形成された後退部(錐形状のくぼみ)の上に形成されている。さらに、角錐面を構成する各面毎に見ると、転位制御種結晶40の成長面は単一の平面からなり、螺旋転位領域44の全表面は成長面と同一平面上にある。
このような転位制御種結晶40は、高品質領域のみからなり、一次成長面のオフセット角が所定の範囲にある一次種結晶の中央部分に後退部(錐形状のくぼみ)を形成し、一次種結晶の上にSiC単結晶を予備成長させ、螺旋転位領域を最頂部とする角錐面からなる成長面を露出させることにより得られる。この点については、後述する。
【0045】
[2. 転位制御種結晶の製造方法及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法(1)]
本発明に係る転位制御種結晶の製造方法は、後退部形成工程と、予備成長工程と、成長面露出工程とを備えている。転位制御種結晶の製造方法は、保護膜形成工程及び/又は第2傾斜面形成工程をさらに備えていても良い。
また、本発明に係るSiC単結晶の製造方法は、本成長工程を備えている。
【0046】
[2.1 後退部形成工程]
後退部形成工程は、α型SiCからなり、一次成長面のオフセット角が15°以下である一次種結晶を用意し、一次成長面の一部に、一次種結晶よりも螺旋転位密度が高い螺旋転位領域を成長させるための後退部を形成する工程である。
【0047】
「一次種結晶」とは、SiCを予備成長させ、成長面を露出させた後に、上述した高品質領域となるものをいう。一次種結晶は、上述したように、少なくとも1回のa面成長を行うことにより得られるものが好ましい。一次種結晶は、特に、互いにほぼ直交する方向にa面成長を複数回繰り返すことにより得られるものが好ましい。a面成長の繰り返し回数が多くなるほど、転位密度の低い一次種結晶が得られる。また、螺旋転位については、a面成長を行うと、消失する。
高品位のSiC単結晶を得るためには、一次種結晶の螺旋転位密度は、少ないほどよい。一次種結晶の螺旋転位密度は、具体的には、100cm-2未満が好ましい。一次種結晶の螺旋転位密度は、さらに好ましくは10cm-2未満、さらに好ましくは1cm-2未満である。一次種結晶の螺旋転位密度は、最も好ましくは、0cm-2である。
【0048】
「一次成長面」とは、SiCからなる新たな結晶を予備成長(c面成長)させるための面をいう。また、「一次成長面のオフセット角」とは、一次種結晶を構成するSiCのc面({0001}面)の法線ベクトルと、後退部以外の領域上にある一次成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
一次成長面のオフセット角が大きくなりすぎると、所定のオフセット角を有する成長面を露出させる際に多量の加工が必要となり、効率が悪い。従って、一次成長面のオフセット角は、15°以下である必要がある。
なお、成長面の露出加工を最小限に止めるためには、一次成長面のオフセット角は、最終的に得られる転位制御種結晶の成長面のオフセット角とほぼ同一であるのが好ましいが、加工に支障がない限りにおいて、一次成長面のオフセット角は、成長面のオフセット角と異なっていても良い。
また、予備成長されたSiCは、後述する成長面露出工程で除去するので、一次成長面は、鏡面研磨面であっても良く、あるいは、非鏡面研磨面であっても良い。
【0049】
「後退部」とは、上述したようにSiC単結晶の成長方向とは反対方向(後退する方向)に一次成長面の一部を切除した部分であり、かつ螺旋転位領域を形成可能な部分をいう。後退部は、結果的に上述した螺旋転位領域を形成可能なものであれば良い。後退部としては、例えば、傾斜面、段差、曲面、錐形状のへこみ、くさび形の切り欠きなどがある。
後退部が傾斜面、錐形状のへこみ、くさび形の切り欠きなどである場合、後退部の表面は、非鏡面研磨面であるのが好ましい。
一方、後退部が段差である場合、後退部の底面は、鏡面研磨面であっても良く、あるいは、非鏡面研磨面であっても良い。後退部が段差である場合、予備成長の段階で後退部上に異種多形が発生しやすいので、段差の底面が鏡面研磨面であっても、容易に螺旋転位を発生させることができる。しかし、より均一に螺旋転位を形成するには、段差の底面は、非鏡面研磨面が好ましい。
【0050】
後退部の形成位置は、目的に応じて最適な位置を選択することができる。
例えば、単一の平面又は折れ面からなる成長面を形成する場合、後退部は、一次成長面のオフセット方向端部に形成するのが好ましい。
ここで、「一次成長面のオフセット方向」とは、一次種結晶を構成するSiCのc面({0001}面)の法線ベクトルを、後退部以外の領域上にある一次成長面に投影したベクトルの方向をいう。
また、例えば、螺旋転位領域を最頂部とする錐面(角錐面又は円錐面)からなる成長面を形成する場合、後退部は、一次成長面の中央部分に形成するのが好ましい。
【0051】
[2.2 保護層形成工程]
保護層形成工程は、後退部以外の領域上にある一次成長面上に保護層を形成する工程である。保護層形成工程は、必ずしも必要ではないが、保護層を形成した状態でSiC単結晶を予備成長させ、成長面を露出させる前に保護層を除去すると、予備成長したSiCの除去に要する負荷を軽減することができる。
ここで、「保護層」とは、後退部以外の領域上にある一次成長面上に予備成長したSiCの除去を容易にすることが可能な層をいう。保護層の材質は特に限定されるものではなく、SiCの除去が容易なものであれば良い。保護層としては、例えば、黒鉛板、TaC(タンタルカーバイド)などがある。
また、保護層の形成方法は、特に限定されるものではなく、保護層の材質に応じて最適な方法を選択する。例えば、保護層が黒鉛板である場合、適当な接着剤を用いて一次成長面上に黒鉛板を貼り付けるのが好ましい。
【0052】
[2.3 予備成長工程]
予備成長工程は、少なくとも後退部上にSiC単結晶を予備成長させる工程である。
予備成長は、後退部を含む一次成長面の全面に対して行っても良く、あるいは、後退部以外の領域上にある一次成長面を保護層で覆い、後退部上にのみSiC単結晶を予備成長させても良い。
SiC単結晶を成長させる方法としては、一般に、昇華析出法、高温溶液析出法、CVD法などが知られているが、後退部上にSiC単結晶を予備成長させる方法には、昇華析出法を用いるのが好ましい。ここで、「昇華析出法」とは、低温側に種結晶を配置し、高温部で昇華させたSiCガスを種結晶表面で析出させる方法をいう。
【0053】
予備成長時間の上限は、後退部をSiCで完全に再充填するのに十分な長さ、又はこれより若干長い時間であれば良い。元の一次成長面の高さ以上に成長した結晶は除去することになるので、必要以上に長い予備成長は、成長面を露出させるための加工時間が長くなるだけであり、実益がない。また、種結晶の裏面からの炭化が進行し、品質が劣化するおそれがある。最適な予備成長時間は、一次種結晶の大きさや後退部の深さにもよるが、10時間以下程度が目安である。
【0054】
予備成長時間の下限は、少なくとも後退部上に結晶を成長させることが可能な時間であればよい。後退部を完全に再充填できない場合には、転位制御種結晶を作製した時に平坦化した成長面と予備成長時の成長結晶の表面が交差し、螺旋転位領域上には稜線ができる。予備成長時間は、この稜線が螺旋転位領域の中心線よりオフセット方向側になる時間以上とするのが好ましい。換言すれば、予備成長時間は、本成長の際にc面ファセットの初期形成位置を、螺旋転位領域の概ね中心よりオフセット方向側にすることが可能な時間以上が好ましい。
概してc面ファセットは、成長とともに種結晶の中心に移動する傾向がある。そのため、c面ファセットの初期形成位置が螺旋転位領域の中心よりオフセット方向と反対方向寄りになると、c面ファセットが螺旋転位領域から外れ、異種多形が発生する場合がある。その結果、本成長において長時間の安定成長が困難となる。最上位のc面が螺旋転位領域の中心線よりオフセット方向側になる成長時間は、後退部の形状にもよるが、概ね0.5時間以上である。
【0055】
[2.4 成長面露出工程]
成長面露出工程は、本成長のための成長面のオフセット方向端部に螺旋転位領域が含まれ、成長面の面積に対する螺旋転位領域の面積が50%以下となり、かつ成長面のオフセット角が1°以上15°以下となるように、一次種結晶の表面を鏡面研磨し、成長面を露出させる工程である。
一次種結晶の表面に保護層を形成した状態で予備成長を行った場合、保護層を除去した後で成長面の露出加工を行うのが好ましい。
ここで、「成長面のオフセット方向」とは、SiCのc面({0001}面)の法線ベクトルを転位制御種結晶の螺旋転位領域以外の領域(すなわち、高品質領域)上にある成長面に投影したベクトルの方向をいう。
「成長面のオフセット角」とは、SiCのc面({0001}面)の法線ベクトルと、螺旋転位領域以外の領域(すなわち、高品質領域)上にある成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
【0056】
本成長において、螺旋転位領域上に形成されたc面ファセットにのみ螺旋転位を導入するためには、成長面は、鏡面研磨面である必要がある。成長面の形状は、特に限定されるものではなく、後退部の位置に応じて、最適な形状を選択することができる。
例えば、一次種結晶の一次成長面のオフセット角が1°以上15°以下である場合において、一次種結晶の端部に後退部を形成したときには、一次成長面とほぼ平行な単一の平面からなる成長面が得られるように、予備成長後の一次種結晶の表面を鏡面研磨するのが好ましい。
一方、一次種結晶の一次成長面のオフセット角が1°未満である場合において、一次種結晶の中央部に後退部を形成したときには、後退部上の螺旋転位領域を最頂部とする錐面(角錐面又は円錐面)からなる成長面が得られるように、予備成長後の一次種結晶の表面を鏡面研磨するのが好ましい。
【0057】
[2.5 第2傾斜面形成工程]
第2傾斜面形成工程は、成長面を露出させた後、θ<θs2≦60°の関係を満たす第2傾斜面を螺旋転位領域内に形成する工程である。
第2傾斜面形成工程は、必ずしも必要ではないが、螺旋転位領域内に第2傾斜面を形成すると、c面ファセットの発生位置を螺旋転位領域の内側にすることができる。そのため、本成長の初期にc面ファセットが移動しても、螺旋転位領域から外れにくくなる。
【0058】
[2.6 本成長工程]
本成長工程は、本発明に係る方法により得られる転位制御種結晶の成長面に、SiC単結晶をc面成長させる工程である。
本成長の時間は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。一般に。c面ファセットと螺旋転位領域が重なりを持つ間は、SiCを安定成長させることができる。
本成長工程に関するその他の点は、予備成長工程と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
異種多形の発生を抑制し、螺旋転位の少ないSiC単結晶を成長させるためには、c面ファセット内に確実に螺旋転位を導入する必要がある。本発明に係る転位制御種結晶は、オフセット方向端部に螺旋転位領域があるため、成長途中の表面にあるc面ファセットと、螺旋転位領域をc軸方向又は成長面に垂直な方向に向かって成長途中の表面に投影した領域とが重なりやすい。そのため、螺旋転位領域の成長面上に露出した螺旋転位がそのまま成長結晶中に成長し、成長した螺旋転位がc面ファセット内に容易に導入される。また、これによって異種多形の発生を確実に抑制することができる。
【0060】
[2.7 具体例]
[2.7.1 第1の実施の形態]
図5に、本発明の第1の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。図5中、a'は一次成長面の法線ベクトル、b’はc面の法線ベクトル、θ’は一次成長面のオフセット角である。c’はc面の法線ベクトルb’を一次成長面に投影したベクトルであり、投影ベクトルc’の方向が一次成長面のオフセット方向である。さらに、d’は第1傾斜面16aの法線ベクトルであり、θ's1は第1傾斜面16aの傾斜角である。
【0061】
まず、図5(a)に示すように、螺旋転位密度が少ない一次種結晶10aを用意する。上述したように、一次種結晶10aは、少なくとも1回のa面成長を行ったものが好ましい。図5に示す例において、一次種結晶10aの一次成長面のオフセット角θ’は、1°以上15°以下になっている。
次に、図5(b)に示すように、
(a)一次種結晶10aとして、一次成長面のオフセット角θ’が1°以上15°以下であるものを用いて、
(b)θ'<θ's1≦60°の関係を満たし、かつその表面が非鏡面研磨面である第1傾斜面16aからなる後退部を、一次成長面のオフセット方向端部に形成する。
【0062】
次に、図5(c)に示すように、第1傾斜面16a(後退部)が形成された一次種結晶10aの上に、SiC単結晶1aを予備成長させる。第1傾斜面16aの傾斜角θ's1は、一次成長面のオフセット角θ’より大きくなっているので、成長方向に対して最上位にあるc面は、後退部以外の領域上にある一次成長面と第1傾斜面16aが交わる稜線上にある。そのため、この稜線上にc面ファセットが発生し、このc面ファセットを基点として、SiC単結晶1aがステップフロー成長する。
第1傾斜面16aは、非鏡面研磨面であるため、その表面に多量の歪みを有している。そのため、第1傾斜面16a上に成長したSiC単結晶1a内には、相対的に多量の螺旋転位が発生する。
また、成長初期にc面ファセットが螺旋転位の無い領域に移動すると、c面ファセット上に異種多形の核が発生する場合がある。異種多形の核が発生すると、異種多形がc面と平行方向に成長する。また、異種多形が発生すると下地との間に歪みが生ずるので、異種多形の上にも螺旋転位が発生する。
【0063】
次に、一次種結晶10aの上に成長した余分なSiC単結晶1aを除去し、一次種結晶10aの表面を一次成長面とほぼ並行に鏡面研磨し、成長面を露出させる。これにより、図5(d)に示すように、高品質領域12のオフセット方向端部に螺旋転位領域14が形成された転位制御種結晶10が得られる。
【0064】
なお、通常、成長面のオフセット角θが一次成長面のオフセット角θ'がほぼ等しくなるように成長面を露出させるが、θ≠θ'となるように成長面を露出させても良い。θ≒θ'となるように成長面を露出させた場合、θs1≒θ's1となる。一方、θ≠θ'となるように成長面を露出させた場合、θs1≠θ's1となる。
また、成長面は、一次成長面と必ずしも同一面である必要はなく、一次種結晶の表面を若干削り込んでも良い。これらの点は、後述する他の実施の形態においても同様である。
【0065】
次に、図5(e)に示すように、得られた転位制御種結晶10を用いて、成長面上にSiC単結晶1bを本成長(c面成長)させる。転位制御種結晶10の場合、成長方向に対して最上位にあるc面は、螺旋転位領域14の端部であるので、ここにc面ファセットが発生する。SiC単結晶1bが成長するに伴い、c面ファセットは、転位制御種結晶10の中央部に移動するが、c面ファセットが螺旋転位領域14をc軸方向又は成長面に垂直な方向に投影した領域と重なっている間は、c面ファセット内に確実に螺旋転位を導入することができる。その結果、高品質領域12の上には、異種多形、螺旋転位、異方位結晶などの少ない健全なSiC単結晶1bが成長する。
【0066】
図6に、第1傾斜面16aの傾斜角θ's1が、一次成長面のオフセット角θ’より小さい一次種結晶10aを用いた転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。図6中、a’、b’、c’、d’は、それぞれ、図5と同様のベクトルを表す。
第1傾斜面16aの傾斜角θ's1が一次成長面のオフセット角θ’より小さい場合、成長方向に対して最上位にあるc面は、一次種結晶10aの左端となる。このような一次種結晶10aを用いて予備成長を行うと、図6(b)に示すように、一次種結晶10aの左端にc面ファセットが形成されると同時に、異種多形の核が発生する場合が多い。異種多形の核が発生すると、異種多形は、予備成長しているSiC単結晶1a中に成長する。
【0067】
また、予備成長時に異種多形が発生した場合において、予備成長後に成長面を露出させると、図6(c)に示すように、転位制御種結晶10の螺旋転位領域14表面には、異種多形が露出する。そのため、これを用いて本成長させると、図6(d)に示すように、本成長させているSiC単結晶1b中にも異種多形が成長し、異種多形の上には多量の螺旋転位が発生する。従って、異種多形の発生を確実に抑制するためには、第1傾斜面16aの傾斜角θ's1は、一次成長面のオフセット角θ’より大きくする必要がある。
【0068】
[2.7.2 第2の実施の形態]
図7に、本発明の第2の実施の形態に係る転位制御種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。なお、図7には、本発明の第1の実施の形態に係る転位制御種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法の工程図も併せて示した。図7中、aは成長面の法線ベクトルである。また、eは第2傾斜面28の法線ベクトルであり、θs2は第2傾斜面28の傾斜角である。
【0069】
本発明の第2の実施の形態に係る転位制御種結晶20(図7(d))は、本発明の第1の実施の形態に係る転位制御種結晶10(図7(a))を製造した後、θ<θs2≦60°の関係を満たす第2傾斜面28を螺旋転位領域24内に形成する(第2傾斜面形成工程)ことにより製造することができる。
【0070】
第2傾斜面を持たない転位制御種結晶10を用いてSiC単結晶1bを本成長させる場合、通常、図7(b)に示すように、c面ファセットは、螺旋転位領域14と重なるように発生する。しかしながら、本成長の条件によっては、図7(c)に示すように、転位制御種結晶10の側方に張り出した螺旋転位の無い領域にc面ファセットが移動する場合がある。c面ファセットが螺旋転位の無い領域に移動すると、異種多形が発生することがある。一端、異種多形が発生すると、異種多形はc面とほぼ平行な方向に沿って成長し、高品質領域12の上に成長したSiC単結晶1b内に侵入する。その結果、異種多形より上に成長したSiC結晶1b中に相対的に多量の螺旋転位が発生する。
【0071】
これに対し、第2傾斜面28を形成した転位制御種結晶20の場合、図7(e)に示すように、c面ファセットは、高品質領域22を含む成長面と第2傾斜面28が交わる稜線上に発生する。そのため、成長条件の変動によってc面ファセットが左右に移動しても、c面ファセット内に螺旋転位を確実に導入することができる。
【0072】
[2.7.3 第3の実施の形態]
図8に、本発明の第3の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。なお、図8中、a'は一次成長面の法線ベクトル、b’はc面の法線ベクトル、θ’は一次成長面のオフセット角である。c’はc面の法線ベクトルb’を一次成長面に投影したベクトルであり、投影ベクトルc’の方向が一次成長面のオフセット方向である。さらに、Dは段差の深さ、Lは段差のオフセット方向の幅である。
【0073】
まず、図8(a)に示すように、螺旋転位密度が少ない一次種結晶30aを用意する。上述したように、一次種結晶30aは、少なくとも1回のa面成長を行ったものが好ましい。図8に示す例において、一次種結晶30aの一次成長面のオフセット角θ’は、1°以上15°以下になっている。
次に、図8(b)に示すように、
(a)一次種結晶30aとして、一次成長面のオフセット角が1°以上15°以下であるものを用いて、
(b)D>Ltanθ'の関係を満たす段差30bからなる後退部を、一次成長面のオフセット方向端部に形成する。
【0074】
次に、図7(c)に示すように、段差30b(後退部)が形成された一次種結晶30aの上に、SiC単結晶1aを予備成長させる。この場合、c面ファセットは、段差30bの壁面の上端と、段差30bの底面の左端の2箇所に発生する。また、段差30bの壁面の上端からだけでなく、段差30bの底面の左端からも、異種多形が発生する場合がある。しかしながら、段差30bの底面の左端において異種多形が発生した場合であっても、段差30bがD>Ltanθ’の関係を満たしているときには、c面にほぼ平行に成長した異種多形が段差30bでせき止められる。
なお、段差30bの底面は、必ずしも非鏡面研磨面である必要はなく、鏡面研磨面であっても段差30bの上に螺旋転位領域を形成することができる。これは、段差30bの底面の左端から異種多形が発生し、異種多形の上に成長する結晶中に螺旋転位が導入されるためである。しかし、より均一に螺旋転位を形成するには、段差30bの底面は、非鏡面研磨面が好ましい。
【0075】
次に、一次種結晶30aの上に成長した余分なSiC単結晶1aを除去し、一次種結晶30aの表面を一次成長面とほぼ平行に鏡面研磨し、成長面を露出させる。これにより、図8(d)に示すように、高品質領域32のオフセット方向端部に螺旋転位領域34が形成された転位制御種結晶30が得られる。なお、段差30bの底面の左端で発生した異種多形は、段差30bでせき止められるので、螺旋転位領域34の表面に異種多形が露出することはない。
【0076】
次に、図8(e)に示すように、得られた転位制御種結晶30を用いて、成長面上にSiC単結晶1bを本成長(c面成長)させる。転位制御種結晶30の場合、成長方向に対して最上位にあるc面は、螺旋転位領域34の端部であるので、ここにc面ファセットが発生する。SiC単結晶1bが成長するに伴い、c面ファセットは、転位制御種結晶10の中央部に移動するが、c面ファセットが螺旋転位領域34をc軸方向又は成長面に垂直な方向に投影した領域と重なっている間は、c面ファセット内に確実に螺旋転位を導入することができる。その結果、高品質領域32の上には、異種多形、螺旋転位、異方位結晶などの少ない健全なSiC単結晶1bが成長する。
【0077】
図9に、段差30bがD>Ltanθ’の関係を満たさない一次種結晶30aを用いた転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。
図9(a)に示すように段差30bがD>Ltanθ’を満たさない場合において、図9(b)に示すように段差30bの底面の左端に異種多形が発生したときには、発生した異種多形は、段差30bを超えて予備成長しているSiC単結晶1aの内部に侵入する。
【0078】
また、予備成長時に異種多形が発生した場合において、予備成長後に成長面を露出させると、図9(c)に示すように、転位制御種結晶30の螺旋転位領域34表面には、異種多形が露出する。そのため、これを用いて本成長させると、図9(d)に示すように、高品質領域32上に本成長しているSiC単結晶1b中にも異種多形が引き継がれ、異種多形の上には多量の螺旋転位が発生する。従って、段差30bは、D>Ltanθ’の関係を満たしている必要がある。
【0079】
[2.7.4 第4の実施の形態]
図10に、本発明の第4の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。なお、図10中、a'は一次成長面の法線ベクトル、b’はc面の法線ベクトルである。θ'は、一次成長面のオフセット角である。
【0080】
まず、図10(a)に示すように、螺旋転位密度が少ない一次種結晶40aを用意する。上述したように、一次種結晶40aは、少なくとも1回のa面成長を行ったものが好ましい。図10に示す例において、一次種結晶40aの一次成長面のオフセット角θ’は、1°未満になっている。
次に、図10(b)に示すように、
(a)一次種結晶40aとして、一次成長面のオフセット角が1°未満であるものを用いて、
(b)後退部40bを、一次成長面の中央部分に形成する。
図10(b)に示す例において、後退部40bは、錐形状になっている。
【0081】
次に、図10(c)に示すように、錐形状の後退部40bが形成された一次種結晶40aの上に、SiC単結晶1aを予備成長させる。この場合、c面ファセットは、一次成長面と後退部が交わる稜線上だけでなく、一次成長面のあらゆる場所で発生する。そのため、後退部40bの上に螺旋転位が発生するだけでなく、後退部40b以外の一次成長面上に異種多形が発生し、異種多形の上にも螺旋転位が発生する。
【0082】
次に、図10(d)に示すように、一次種結晶40aの上に成長した余分なSiC単結晶1aを除去し、一次種結晶40aの一次成長面を再露出させる。次いで、後退部40b上に形成された螺旋転位領域44が最頂部となるように、一次種結晶40aの表面を扁平な錐形状に鏡面研磨する(成長面露出工程)。
例えば、一次種結晶40aの表面に三面傾斜加工を施すと、図10(e)に示すように、螺旋転位領域44が中央部分に形成されおり、成長面が螺旋転位領域44を最頂部とする錐面からなる転位制御種結晶40が得られる。
【0083】
次に、図10(f)に示すように、得られた転位制御種結晶40を用いて、成長面上にSiC単結晶1bを本成長(c面成長)させる。転位制御種結晶40の場合、成長方向に対して最上位にあるc面は、螺旋転位領域44の中央部分であるので、ここにc面ファセットが発生する。また、SiC単結晶1bの成長が進行しても、c面ファセットの移動がほとんど無いので、c面ファセット内に確実に螺旋転位を導入することができる。その結果、高品質領域42の上には、異種多形、螺旋転位、異方位結晶などの少ない健全なSiC単結晶1bが成長する。
【0084】
[2.7.5 第5の実施の形態]
図11に、本発明の第5の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。
図11に示す製造方法は、一次成長面上に保護層18を形成した以外は、図5に示す例と同様の工程を備えている。図11中、a’、b’、c’、d’は、図5と同様のベクトルを表す。
【0085】
すなわち、一次成長面のオフセット角θ’が1°以上15°以下である一次種結晶10aを用意する(図11(a))。次いで、θ’<θ's1≦60°の関係を満たし、かつその表面が非鏡面研磨面である第1傾斜面16aを、一次成長面のオフセット方向端部に形成する。さらに、第1傾斜面16a以外の一次成長面の表面に保護層(例えば、黒鉛板)18を形成する(図11(b))。
次に、保護層18が形成された一次種結晶10aの上に、SiC単結晶1aを予備成長させる(図11(c))。予備成長後、保護層18を取り除き(図11(d))、成長面を露出させると、成長面のオフセット方向端部に螺旋転位領域14が形成された転位制御種結晶10が得られる(図11(e))。
さらに、図11(f)に示すように、得られた転位制御種結晶10を用いて、成長面上にSiC単結晶1bを本成長(c面成長)させると、高品位領域12の上には、異種多形、螺旋転位、異方位結晶などの少ない健全なSiC単結晶1bが成長する。
【0086】
[3. 転位制御種結晶及びその製造方法、並びにSiC単結晶の製造方法(2)]
本発明の第6の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法は、本発明に係る方法により得られるSiC単結晶をスライスするスライス工程を備えている。
また、本発明の第6の実施の形態に係る転位制御種結晶は、本発明に係る方法により得られるSiC単結晶をスライスすることにより得られるものからなる。
さらに、本発明の第6の実施の形態に係るSiC単結晶の製造方法は、本発明に係る方法を用いて製造したSiC単結晶をスライスすることにより得られる転位制御種結晶の成長面に、SiC単結晶をc面成長させる本成長工程を備えている。
【0087】
図12に、本発明の第6の実施の形態に係る転位制御種結晶の製造方法、及びこれを用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。
まず、図12(a)に示すように、高品質領域12と、オフセット方向端部に形成された螺旋転位領域14とを備えた転位制御種結晶10を用意する。次いで、図12(b)に示すように、転位制御種結晶10の成長面上に、SiC単結晶1bを本成長(c面成長)させる。螺旋転位領域14表面に露出している螺旋転位は、成長したSiC単結晶1bに、そのまま引き継がれる。
【0088】
次に、得られたSiC単結晶1bを、転位制御種結晶10の成長面とほぼ平行にスライスする(図12(c))。さらに、スライスされた結晶の表面を鏡面研磨すると、高品質領域62と、オフセット方向端部に形成された螺旋転位領域64とを備えた転位制御種結晶60が得られる(図12(d))。
得られた転位制御種結晶60を用いて、成長面上にSiC単結晶1bをc面成長させると、螺旋転位領域64と重なるようにc面ファセットが発生する。その結果、高品位領域62の上には、異種多形、螺旋転位、異方位結晶などの欠陥の少ない健全なSiC単結晶1bが再び成長する。
【0089】
本発明に係る方法により得られるSiC単結晶は、高品位領域に隣接して螺旋転位領域が形成されている。そのため、得られたSiC単結晶を適当な厚さにスライスすれば、これがそのまま転位制御種結晶となる。この場合、後退部を形成する必要がないので、種結晶の厚さを究極まで薄くすることができる。
なお、c面成長を繰り返す内に、成長結晶の径拡大が進行し、これによって螺旋転位領域中の螺旋転位密度が低下する傾向がある。そのため、成長結晶から転位制御種結晶をスライスする場合には、累積のc面成長高さが低いほど、より確実に異種多形を抑制することができる。ここで、「累積のc面成長高さ」とは、最初の後退部の位置から種結晶をスライスする位置までに行われたc面成長を累積した長さをいう。累積のc面成長高さは、具体的には、10cm以下が好ましい。
【0090】
[4. SiC単結晶の製造方法(3)]
本発明の第7の実施の形態に係るSiC単結晶の製造方法は、
本発明に係る転位制御種結晶の第1の成長面に、第1のSiC単結晶をc面成長させた後、第1のSiC単結晶と転位制御種結晶とを分離する分離工程と、
分離工程で分離された転位制御種結晶の表面を鏡面研磨し、第2の成長面を再露出させる成長面再露出工程と、
再露出させた第2の成長面の上に、第2のSiC単結晶をc面成長させる本成長工程と
を備えている。
【0091】
図13に、本発明の第7の実施の形態に係るSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。
まず、図13(a)に示すように、高品質領域12と、オフセット方向端部に形成された螺旋転位領域14とを備えた転位制御種結晶10を用意する。次いで、図13(b)に示すように、転位制御種結晶10の成長面(第1の成長面)上に、SiC単結晶1b(第1のSiC単結晶)を本成長(c面成長)させる。
本成長終了後、成長したSiC単結晶1bと転位制御種結晶10とを切り離す(図13(c))。次いで、切り離された転位制御種結晶10の表面を鏡面研磨し、成長面(第2の成長面)を再露出させる(図13(d))。さらに、成長面を再露出させた転位制御種結晶10を用いて、新たにSiC単結晶1b(第2のSiC単結晶)を本成長(c面成長)させる(図13(e))。
このように、本発明に係る転位制御種結晶は、成長における種結晶の裏面側からの劣化が成長面側に及ぼす影響が小さい場合、繰り返して使用することもできる。
【0092】
[5. 転位制御種結晶及びその製造方法、並びにSiC単結晶の製造方法の作用]
図14に、繰り返しa面成長法+c面成長法を用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。
【0093】
一般に、c面成長法により得られるSiC単結晶70は、c軸とほぼ並行な方向に多数の螺旋転位72が導入されている(図14(a))。このようなSiC単結晶70から、a面を成長面とする種結晶74aを切り出すと、成長面には、部分的に螺旋転位72a、72a…が露出する(図14(b))。
このような種結晶74aを用いて、SiCをa面成長させると、螺旋転位をほとんど含まないSiC単結晶76aが得られる(図14(c))。しかしながら、得られたSiC単結晶76aは、部分的露出した螺旋転位72aから成長した多数の積層欠陥78、78…を含んでいる。
【0094】
次に、得られたSiC単結晶76aから、前回の成長面として用いたa面に対してほぼ90°傾いたa面を成長面とする種結晶74bを切り出すと、成長面には、部分的に積層欠陥78、78…が露出する(図14(d))。
このような種結晶74bを用いて、SiCをa面成長させると、前回のa面成長と同様に、螺旋転位をほとんど含まないSiC単結晶76bが得られる(図14(e))。しかも、得られたSiC単結晶76bの積層欠陥78の密度は、直前のa面成長後に比べて低くなっている。
【0095】
所定回数のa面成長を繰り返した後、SiC単結晶76b(又は76a)から、c面に対するオフセット角が所定の範囲にある成長面を持つ種結晶74cを切り出す(図14(f))。この場合、成長面の表面には、積層欠陥78、78…が露出している。
このような種結晶74cを用いて、SiCをc面成長させると、成長面に露出した露出した積層欠陥78、78…が、c面とほぼ並行に成長し、やがて成長中のSiC単結晶76cの側面に抜ける。それ以降は、螺旋転位密度及び積層欠陥密度の低い健全な単結晶が成長する(図14(g))。
【0096】
しかしながら、a面成長を繰り返したSiC単結晶から切り出した種結晶74cを用いた場合であっても、螺旋転位が発生することがある。これは、以下の理由によると考えられる。
すなわち、図15(a)〜(c)に示すように、SiC単結晶の成長においては、成長の最先端であるc面ファセット内に、種結晶の多形(例えば、4H−SiC)を成長方向に引き継ぐ働きをする螺旋転位が存在している必要がある。
しかしながら、図15(d)〜(f)に示すように、螺旋転位を含まない高品質な種結晶を用いた場合、c面ファセット内に成長基点となる螺旋転位がない。その結果、多くの場合、成長途中で異種多形(例えば、6H−SiC)が発生する。異種多形が発生すると、下地との間に歪みが発生し、螺旋転位を発生させる原因となる。また、これによって、成長結晶全体の品質が低下する。
【0097】
これに対し、螺旋転位を含まない又は螺旋転位が極めて少ないSiC単結晶の一部に後退部を形成し、これを一次種結晶に用いてSiC単結晶を予備成長させると、後退部上に高密度の螺旋転位を発生させることができる。
次いで、螺旋転位領域が残り、かつ、螺旋転位領域が成長方向に対して最上位の{0001}面となるように、表面の平坦化及び研磨加工を施すと、高品質領域に隣接して、螺旋転位を高密度に有する螺旋転位領域が形成された転位制御種結晶が得られる。このような転位制御種結晶を用いてSiCの本成長を行うと、成長初期に、螺旋転位領域上にc面ファセットを確実に形成することができる。そのため、異種多形を安定的に抑制することができ、高品質なc面成長が可能になる。
【0098】
また、a面成長回数の等しい領域から一次種結晶を切り出すことができるので、高品質領域中の欠陥密度は均一となる。また、一次種結晶に対して1回の予備成長を行うだけでよいので、途中で種結晶が破損するリスクも少ない。
また、高品質領域と螺旋転位領域の境界線より螺旋転位領域側にc面ファセットを発生させることができるので、成長初期にc面ファセットが高品質領域側に移動しても、異種多形が発生する確率は低い。
さらに、高品質領域と螺旋転位領域の接合部もないので、螺旋転位から供給されるステップが接合部を越えるときに発生するような、高品質領域側への転位供給も起きにくい。
【実施例】
【0099】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
[1.1 転位制御種結晶の作製]
a面成長を繰り返すことで、転位密度を低減し、螺旋転位もほとんど含まないSiC単結晶を作製した。このSiC単結晶から、一次成長面のオフセット角が8°である一次種結晶を切り出した。次いで、図5に示すように、一次成長面のオフセット方向端部に研削処理を行い、傾斜角θ's1が13°である第1傾斜面(後退部)を形成した。
これを一次種結晶に用いて、昇華法による比較的短時間の予備成長を行い、後退部上に高密度の螺旋転位を発生させた。この時、後退部以外の一次成長面上には異種多形が発生したが、後退部上には発生しなかった。
一次成長面上に発生した異種多形を、もとの一次成長面が再露出するように研削除去した。この時、後退部上に成長した螺旋転位領域は、残存させた。次いで表面を鏡面加工し、転位制御種結晶とした。
[1.2 SiC単結晶の作製]
得られた転位制御種結晶を用いて、比較的長時間の本成長を行った。
【0100】
[2. 試験方法]
一連のプロセスにおける結晶内部の欠陥やc面ファセットの挙動を調べるために、成長結晶を縦(成長方向に平行、かつオフセット方向にも平行な方向)にスライスし、断面観察(目視及びX線トポグラフ)を行った。
[3. 結果]
成長結晶中には異種多形が発生せず、高品質であった。また、X線トポグラフによる評価の結果、予備成長時に後退部上に成長した結晶中には、高密度の螺旋転位が形成されており、本成長においても成長結晶中に螺旋転位が継承されていることがわかった。また、目視検査により、c面ファセットの発生位置は、確実に螺旋転位領域上に位置していることがわかった。
これにより、予め予備成長で螺旋転位領域を形成し、さらに一次種結晶を再加工してc面ファセット位置を制御することが、異種多形を発生させない安定な成長に効果的であることがわかった。
【0101】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
[1.1 転位制御種結晶の作製]
実施例1と同様に、一次種結晶のオフセット方向端部に研削処理を行い、第1傾斜面(後退部)を形成した。次いで、図11に示すように、後退部以外の一次成長面上に、保護層として黒鉛板を貼り付けた。これを一次種結晶として、昇華法による予備成長を行い、後退部上に高密度の螺旋転位を発生させた。この予備成長の際、黒鉛板上には多結晶が発生したが、黒鉛板ごと比較的容易に取り外すことができた。
次に、研削による平坦化処理を行った。オフセット方向端部の螺旋転位領域上のみの処理で、概ね平坦化することができた。さらに、表面を鏡面研磨加工し、転位制御種結晶とした。
[1.2 SiC単結晶の作製]
得られた転位制御種結晶を用いて本成長を行い、SiC単結晶を得た。
【0102】
[2. 結果]
成長結晶中には異種多形が発生せず、高品質であった。
【0103】
(実施例3)
[1. 試料の作製]
[1.1 転位制御種結晶の作製]
a面成長を繰り返すことで、螺旋転位をほとんど含有しない結晶から、一次成長面のオフセット角θ'が8°である一次種結晶を切り出し、カーボン面側に鏡面加工を施した。次いで、図8に示すように、オフセット方向端部に段差の研削処理を行った。この際、段差の深さD及び段差の幅Lは、D>Ltanθ'となるようにした。
端部に段差を形成した一次種結晶を用いて、昇華法による比較的短時間の予備成長を行い、段差上に高密度の螺旋転位を発生させた。この予備成長の際、異種多形が研削した段差底面の端部と段差壁面の上端の両方から発生した。段差壁面の上端で発生した発生した異種多形については、もとの一次成長面を再露出させるように一次種結晶上に成長した結晶を研削処理することで除去した。さらに、表面を鏡面加工し、転位制御種結晶とした。
[1.2 SiC単結晶の作製]
得られた転位制御種結晶を用いて本成長を行い、SiC単結晶を得た。
【0104】
[2. 結果]
成長結晶中には異種多形が発生せず、高品質であった。成長結晶を縦にスライスし、結晶の断面観察を行った。段差底面から発生した異種多形は、段差の壁面によってその成長が抑止されていることがわかった。また、c面ファセットの発生位置は、螺旋転位領域上で、かつ転位制御種結晶の最端部であり、c面ファセットは、確実に螺旋転位領域上に発生することが分かった。
【0105】
(実施例4)
[1. 試料の作製]
[1.1 転位制御種結晶の作製]
a面成長を繰り返すことで、転位密度を低減し、螺旋転位もほとんど含まないSiC単結晶を作製した。このSiC単結晶から、一次成長面のオフセット角θ'が0°の一次種結晶を切り出し、カーボン面側に鏡面加工を施した。次いで、図10に示すように、成長面のほぼ中央に、超音波加工により錐形状の削り込み部(後退部)を形成した。これを一次種結晶として、昇華法による比較的短時間の予備成長を行い、後退部上に高密度の螺旋転位を発生させた。この予備成長の際、異種多形が一次成長面上(後退部以外の部分)に発生した。もとの一次成長面が露出するように一次種結晶上に成長した結晶を研削処理し、発生した異種多形を除去した。この時、基板中央の後退部上に生成した螺旋転位領域を残存させるように注意した。次に、螺旋転位領域が成長方向の最頂部となるように、一次種結晶表面に3面の傾斜加工を施し、表面を鏡面加工し、これを転位制御種結晶とした。
[1.2 SiC単結晶の作製]
得られた転位制御種結晶を用いて本成長を行い、SiC単結晶を得た。
【0106】
[2. 結果]
成長結晶中には異種多形が発生せず、高品質であった。また、実施例1〜3のように端部に螺旋転位領域を形成する場合に比べて、c面ファセット位置の移動がほとんどないので、比較的長時間の成長が可能であった。
成長結晶を縦(成長方向に平行、かつオフセット方向にも平行な方向)にスライスし、結晶の断面観察を行った。c面ファセットの位置は螺旋転位領域上であり、c面ファセットは、螺旋転位領域上に確実に発生することがわかった。
【0107】
(実施例5)
[1. 試料の作製]
[1.1 転位制御種結晶の作製]
実施例1と同様に本成長を行い、SiC単結晶を得た。次いで、図13に示すように、成長結晶から種結晶を切り離し、その表面に鏡面加工を施し、転位制御種結晶とした。
[1.2 SiC単結晶の製造]
得られた転位制御種結晶を用いて本成長を行い、SiC単結晶を得た。
[2. 結果]
成長結晶中には異種多形は発生せず、高品質であった。このように、予備成長で作製した転位制御種結晶は、裏面側からの劣化(炭化)が成長面に到達しない限り、ある程度、繰り返し使用が可能であり、毎回予備成長を繰り返す必要がないことを確認した。
【0108】
(実施例6)
[1. 試料の作製]
[1.1 転位制御種結晶の作製]
実施例1と同様に本成長を行い、SiC単結晶を得た。次いで、図12に示すように、成長結晶を薄くスライスし、その表面に鏡面加工を施し、転位制御種結晶とした。
[1.2 SiC単結晶の製造]
得られた転位制御種結晶を用いて本成長を行い、SiC単結晶を得た。
[2. 結果]
成長結晶中には異種多形は発生せず、高品質であった。このように、転位制御種結晶を用いて成長した成長結晶は、薄くても転位制御種結晶としての機能を持つ。そのため、容易に多数枚の転位制御種結晶を得ることが可能であることがわかった。
【0109】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係る転位制御種結晶及びその製造方法は、欠陥の少ないSiC単結晶を製造するための種結晶及びその製造方法として用いることができる。
また、本発明に係るSiC単結晶の製造方法は、超低電力損失パワーデバイスの半導体材料として使用することが可能なSiC単結晶の製造方法として用いることができる。
【符号の説明】
【0111】
10 転位制御種結晶
12 高品質領域
14 螺旋転位領域
16 第1傾斜面(後退部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた転位制御種結晶。
(1)前記転位制御種結晶は、α型のSiCからなる。
(2)前記転位制御種結晶は、前記SiCからなる新たな単結晶を成長させるための成長面を備え、前記成長面のオフセット角は、1°以上15°以下である。
(3)前記成長面は、螺旋転位密度が低い高品質領域と、前記高品質領域より螺旋転位密度が高い螺旋転位領域とを備え、前記螺旋転位領域の面積は、前記成長面の面積の50%以下である。
(4)前記螺旋転位領域は、
(a)前記高品質領域となる一次種結晶の一次成長面の一部に、前記螺旋転位領域を形成するための後退部を形成し、
(b)少なくとも前記後退部上にSiC単結晶を予備成長させ、
(c)前記成長面のオフセット方向端部に前記螺旋転位領域が含まれるように、前記一次種結晶の表面を鏡面研磨し、前記成長面を露出させる
ことにより得られるものからなる。
但し、
「成長面のオフセット角」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルと、前記高品質領域上にある前記成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
「成長面のオフセット方向」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルを前記高品質領域上にある前記成長面に投影したベクトルの方向をいう。
【請求項2】
前記螺旋転位領域は、前記転位制御種結晶の端部に形成されており、
前記成長面は、平面である
請求項1に記載の転位制御種結晶。
【請求項3】
前記螺旋転位領域内に形成された、θ<θs2≦60°の関係を満たす第2傾斜面をさらに備えた請求項2に記載の転位制御種結晶。
但し、
θは、前記成長面のオフセット角である。
θs2は、前記第2傾斜面の傾斜角である。
「第2傾斜面の傾斜角」とは、前記高品質領域上にある前記成長面の法線ベクトルと、前記第2傾斜面の法線ベクトルとのなす角をいう。
【請求項4】
前記螺旋転位領域は、前記転位制御種結晶の中央部分に形成されおり、
前記成長面は、前記螺旋転位領域を最頂部とする錐面である
請求項1に記載の転位制御種結晶。
【請求項5】
前記高品質領域は、少なくとも1回のa面成長を行うことにより得られるものである請求項1から4までのいずれかに記載の転位制御種結晶。
【請求項6】
前記高品質領域は、螺旋転位密度が100cm-2未満である請求項1から5までのいずれかに記載の転位制御種結晶。
【請求項7】
前記螺旋転位領域は、螺旋転位密度が100cm-2以上である請求項1から6までのいずれかに記載の転位制御種結晶。
【請求項8】
以下の工程を備えた転位制御種結晶の製造方法。
(1)α型SiCからなり、一次成長面のオフセット角が15°以下である一次種結晶を用意し、前記一次成長面の一部に、前記一次種結晶よりも螺旋転位密度が高い螺旋転位領域を形成するための後退部を形成する後退部形成工程。
(2)少なくとも前記後退部上にSiC単結晶を予備成長させる予備成長工程。
(3)本成長のための成長面のオフセット方向端部に前記螺旋転位領域が含まれ、前記成長面の面積に対する前記螺旋転位領域の面積が50%以下となり、かつ前記成長面のオフセット角が1°以上15°以下となるように、前記一次種結晶の表面を鏡面研磨し、前記成長面を露出させる成長面露出工程。
但し、
「一次成長面のオフセット角」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルと、前記後退部以外の領域上にある前記一次成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
「成長面のオフセット方向」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルを前記転位制御種結晶の前記螺旋転位領域以外の領域上にある前記成長面に投影したベクトルの方向をいう。
「成長面のオフセット角」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルと、前記螺旋転位領域以外の領域上にある前記成長面の法線ベクトルとのなす角をいう。
【請求項9】
前記後退部形成工程は、
(a)前記一次種結晶として、前記一次成長面のオフセット角が1°以上15°以下であるものを用いて、
(b)θ'<θ's1≦60°の関係を満たし、かつその表面が非鏡面研磨面である第1傾斜面からなる前記後退部を、前記一次成長面のオフセット方向端部に形成するものである
請求項8に記載の転位制御種結晶の製造方法。
但し、
「一次成長面のオフセット方向」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルを、前記後退部以外の領域上にある前記一次成長面に投影したベクトルの方向をいう。
θ'は、前記一次成長面のオフセット角である。
θ's1は、前記第1傾斜面の傾斜角である。
「第1傾斜面の傾斜角」とは、前記後退部以外の領域上にある前記一次成長面の法線ベクトルと、前記第1傾斜面の法線ベクトルとのなす角をいう。
【請求項10】
前記後退部形成工程は、
(a)前記一次種結晶として、前記一次成長面のオフセット角が1°以上15°以下であるものを用いて、
(b)D>Ltanθ'の関係を満たす段差からなる前記後退部を、前記一次成長面のオフセット方向端部に形成するものである
請求項8に記載の転位制御種結晶の製造方法。
但し、
「一次成長面のオフセット方向」とは、前記SiCの{0001}面の法線ベクトルを前記後退部以外の領域上にある前記一次成長面に投影したベクトルの方向をいう。
Dは、前記段差の深さである。
Lは、前記一次成長面のオフセット方向に伸びる前記段差の幅である。
θ'は、前記一次成長面のオフセット角である。
【請求項11】
前記成長面露出工程の後に、θ<θs2≦60°の関係を満たす第2傾斜面を前記螺旋転位領域内に形成する第2傾斜面形成工程
をさらに備えた請求項9又は10に記載の転位制御種結晶の製造方法。
但し、
θは、前記成長面のオフセット角である。
θs2は、前記第2傾斜面の傾斜角である。
「第2傾斜面の傾斜角」とは、前記螺旋転位領域以外の領域上にある前記成長面の法線ベクトルと、前記第2傾斜面の法線ベクトルとのなす角をいう。
【請求項12】
前記後退部形成工程は、
(a)前記一次種結晶として、前記一次成長面のオフセット角が1°未満であるものを用いて、
(b)前記後退部を、前記一次成長面の中央部分に形成するものであり、
前記成長面露出工程は、前記成長面が前記後退部上に形成された前記螺旋転位領域を最頂部とする錐面となるように、前記一次種結晶の表面を鏡面研磨するものである
請求項8に記載の転位制御種結晶の製造方法。
【請求項13】
前記予備成長工程の前に、前記後退部以外の領域上にある前記一次成長面上に保護層を形成する保護層形成工程をさらに備えた請求項8から12までのいずれかに記載の転位制御種結晶の製造方法。
【請求項14】
前記一次種結晶は、少なくとも1回のa面成長を行うことにより得られるものである請求項8から13までのいずれかに記載の転位制御種結晶の製造方法。
【請求項15】
前記一次種結晶は、螺旋転位密度が100cm-2未満である請求項8から14までのいずれかに記載の転位制御種結晶の製造方法。
【請求項16】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の転位制御種結晶の成長面に、SiC単結晶をc面成長させる本成長工程を備えたSiC単結晶の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法により得られるSiC単結晶をスライスするスライス工程を備えた転位制御種結晶の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法により得られる転位制御種結晶。
【請求項19】
累積のc面成長高さが10cm以下である請求項18に記載の転位制御種結晶。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の転位制御種結晶の成長面に、SiC単結晶をc面成長させる本成長工程を備えたSiC単結晶の製造方法。
【請求項21】
請求項1から請求項7まで、請求項18、又は請求項19のいずれかに記載の転位制御種結晶の第1の成長面に、第1のSiC単結晶をc面成長させた後、前記第1のSiC単結晶と前記転位制御種結晶とを分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された前記転位制御種結晶の表面を鏡面研磨し、第2の成長面を再露出させる成長面再露出工程と、
再露出させた前記第2の成長面の上に、第2のSiC単結晶をc面成長させる本成長工程と
を備えたSiC単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−235390(P2010−235390A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85178(P2009−85178)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】