説明

転炉排ガスの処理方法

【課題】CO濃度が低く難燃性の転炉排ガスを放散塔での燃焼に際して失火が発生しないように処理する方法を提案することにある。
【解決手段】燃焼成分であるCO濃度が低く着火しにくい難燃性副生ガスを、放散塔内に導いてそこで燃焼させることにより無害化した上で大気中に放散する処理方法において、放散塔上部に配設される燃焼装置の上流側にて、該難燃性副生ガスを転炉の高温副生ガスの顕熱を使って予熱し昇温させる転炉排ガスの処理。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉排ガスの処理方法に関し、特に放散する転炉排ガス(以下、「副生ガス」とも言う)の無害化に有効な処理方法について提案する。
【背景技術】
【0002】
転炉から発生した排ガスは、特許文献1にも記載されているように、空気と混合しないようにして、集塵機にてダスト等を除去した後に燃料ガスとして回収するのが普通である。しかし、転炉排ガスの全部がこのような燃料ガスとして回収されている訳ではない。それは、転炉吹錬の開始直後や吹錬終了直前の排ガスについては回収対象となるCO濃度の低いガスもあるからである。そこで、回収すべき転炉排ガス(副生ガス)としては、一定の熱量を有するもののみ、即ち、CO濃度が一定値以上のガスのみを回収対象としているのである。
【0003】
一方、CO濃度の低い未回収となる転炉で発生する副生ガスについては、放散塔(フレアスタック)より放散するのが普通である。しかし、放散されるこうした副生ガスはCO濃度が低いとは言ってもなお、数十%以下のCOを含んでいるため、そのまま放散したのでは、地表において有害なCOが検知されるようになることから、一般には、放散塔上部において燃焼させている。即ち、特許文献2に示すように、放散塔上部において副生ガスを燃焼させ、しかるのちに放散することしている。
【0004】
しかし、放散塔より放出しようとする副生ガスというのはCO濃度が低いために発熱量が小さく、通常操業時の転炉副生ガスに比べて難燃性である。この場合、放散塔上部において燃焼させようとしても、しばしば失火が起こり、地表付近においてもCOが検出されるようになる。
【0005】
この点、特許文献3に開示の方法では、放散塔上部において放散する副生ガスの流速を大きくすることで、特に流量の減少や横風等によるダウンウォッシュの影響を小さし、このことによって、上記の失火等の危険を除去するようにしている。しかし、地表で検出されるときに問題となるCO濃度は数百〜数十PPMオーダーであり、放出される副生ガスのCO濃度に比べて非常に小さいこと、しかも風速、気温などの気象条件にも影響されやすいため、充分な対策とは言えないのが実情である。
【0006】
さらに、特許文献4では、悪天候時などに一次的なバッファ装置を使用することで、失火による有害物質の漏洩を防ぐ方法を提案している。しかし、この方法の場合、副生ガスを一時的にバッファタンクに貯蔵し、天候の回復などを待ってから放散するのであるから、大容量の設備が必要となり、経済的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−105929号公報
【特許文献2】特開平05−209212号公報
【特許文献3】特開2005−105342号公報
【特許文献4】特開平10−238748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3、4に記載されている従来技術の対応は、失火を防ぐための一定の効果を挙げてはいるが、それはいずれも消極的な手段とも言える方法であって、効果が薄く確実に失火を防ぐまでに到っていないのが実情である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、CO濃度が低く難燃性の転炉排ガスを放散塔での燃焼に際して失火が発生しないように処理する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来技術が抱えている上述した課題を解決することができ、上掲の目的を実現するための方法として、本発明は、以下に述べる方法をその課題解決手段として提案する。
【0011】
即ち、本発明は、燃焼成分であるCO濃度が低く着火しにくい難燃性副生ガスを、放散塔内に導いてそこで燃焼させることにより無害化した上で大気中に放散する処理方法において、放散塔上部に配設される燃焼装置の上流側にて、該難燃性副生ガスを転炉の高温副生ガスの顕熱を使って予熱し昇温させることを特徴とする転炉排ガスの処理方法である。
【0012】
また、本発明に係る前記の処理方法では、
(1)難燃性副生ガスの予熱・昇温を、加熱側流体が転炉高温副生ガスで受熱側流体が難燃性副生ガスである熱交換器にて行なうこと、
(2)前記熱交換器としてヒートポンプを用いること、
(3)前記加熱側流体が、1次乾式除塵器通過後の2次湿式除塵器通過前の高温副生ガスであること、
(4)前記加熱側流体が、排ガス煙道中の冷却器通過前の高温副生ガスであること、
(5)排ガス煙道中の冷却器通過前の高温副生ガスを、放散塔内難燃性副生ガス中に直接添加すること、
(6)難燃性副生ガスのCO濃度が10vol%超のときは、放散塔内上部におけるガスの温度を400℃以上に昇温させること、
(7) 難燃性副生ガスのCO濃度が10vol%以下のときは、放散塔内上部におけるガスの温度を600℃以上に昇温させること、
が、より好ましい解決手段を提案できると考える。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成された本発明方法によれば、放散塔の上部において、転炉吹錬初期、末期に発生する、所謂、燃焼成分であるCO濃度の低い難燃性副生ガスの温度を確実に燃焼下限温度以上に上昇させることができるので、失火させることなくしかも無害化した上で大気中への放散ができ、ひいては地表におけるCOの検知量を大幅に減らすことができる。
【0014】
また、本発明の或る種の方法では、ヒートポンプ式熱交換装置を用い導入することで、仮に熱交換器に損傷が生じても圧力差が生じている除塵前の高温副生ガスと、放散塔における難燃性副生ガスとの熱交換をガスリークを招くようなことなく行なうことができるようになる。
【0015】
また、本発明の或る種の方法では、冷却器(フードボイラ)を通過する前の超高温の副生ガス(温度≧1000℃)を用いるので、熱交換量を増やすことができる。即ち、この方法で難燃性副生ガスの予熱を実施すれば、燃焼熱量の小さい副生ガスであっても燃焼性を確実に確保することができる。
【0016】
また、本発明の或る種の方法では、副生ガスのCO濃度を測定しておき、CO濃度が低い場合にはガス温度を高温にできるように、熱交換の方法を切り替えることで、さらに燃焼性を確実にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】転炉排ガス処理設備の概略図である。
【図2】COガス燃焼時の火炎温度と排ガスCO濃度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の転炉排ガス処理方法の一実施形態を示す略線図である。
【図4】本発明の転炉排ガス処理方法の一実施形態を示す略線図である。
【図5】本発明の転炉排ガス処理方法の一実施形態を示す略線図である。
【図6】本発明の転炉排ガス処理方法の一実施形態を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、一般的な転炉排ガス(副生ガス)の処理設備を示す。この図において、転炉1より発生する高温副生ガスは、下部フード部2において、通常1000℃超であり、フードボイラ(冷却器)3により熱回収がなされたとしても、なお、600℃以上の高温である。しかし、この高温副生ガスは多くのダストを含むため、通常、1次乾式除塵器4、2次湿式除塵器5によりダストを除去している。この過程において転炉の前記高温副生ガスは、60〜70℃程度まで冷却され、そのうちの燃焼成分の多い、即ちCO濃度の高い副生ガスはガスホルダー6に、一方、CO濃度の低い、所謂、燃焼成分の少ないガスは難燃性副生ガスとして、放散塔7を経て燃焼させた後に放散される。
【0019】
一般に、COガスは燃焼するためには、断熱火炎温度で1300〜1400K程度が必要とされている。転炉の前述した難燃性副生ガスについても、図2に示すとおり、これを予熱することで、断熱火炎温度を上昇させることができるようになる。
【0020】
転炉の副生ガスについては、通常、CO濃度にして、20vol%未満、より安全には30vol%未満の副生ガスを難燃性副生ガスとして放散塔7から放散することにしている。その理由は、図2に示すとおり、もしこの副生ガスを予熱することなく60〜70℃の温度のままで燃焼させようとすると、CO濃度は少なくとも、20vol%程度以上でないと火炎温度が不足し燃焼しないからである。これに対して、図2に示すとおり、副生ガスを少なくとも400℃程度まで予熱すると、該副生ガスのCO濃度は10vol%程度までは放散塔7上部での燃焼が可能になる。さらに該副生ガスを600℃まで予熱昇温できれば、約2vol%のCO濃度までは燃焼が可能であることがわかる。
【0021】
以上説明したように、本発明では、少なくとも湿式除塵器5を通過する前の高温の転炉の高温副生ガスの顕熱を用いて、放散塔7内の難燃性副生ガスを予熱昇温させることで、あらたに別の熱源を使用しなくともよいのである。
【実施例】
【0022】
図1に示すように、転炉1において発生した1100℃以上の高温副生ガスは、上部・下部のフード2を経て、冷却器3にて冷却され、1次乾式集塵器4に向う。このとき該副生ガスに空気が混合しないように圧力制御すると共に、誘引量の調整を行う。なお、高温副生ガスはまず、冷却器3(フードボイラ)において、ガス顕熱の一次の排熱回収が行なわれる。そして、1次、2次集塵機4、5において集塵された後、その副生ガスはガス分析計8にてCO濃度が測定され、回収が可能であればガスホルダー6へ送り、一方、CO濃度の低い難燃性副生ガスの場合は放散塔7へと送られる。
【0023】
本発明の第1の実施形態は、図3に示すように、冷却器3での熱回収を経て1次乾式集塵器4を通過するものの、未だ2次湿式除塵器5を通過する前の高温副生ガス(≒600℃)を加熱側流体として、これを放散塔7内の副生ガス熱交換装置9に一部を導入して、放散塔7内の難燃性副生ガスである受熱側流体を400℃程度まで昇温させる熱交換を行なう例である。
【0024】
本発明の第2の実施形態は、図4に示すように、1次乾式集塵器4を通過したのち、2次湿式集塵器5通過前の段階の排ガス煙道内にヒートパイプ10を設置すると共に、放散塔7内にもヒートパイプ10’を設置してそれぞれを連続して空気を循環流動させ、高温副生ガスの顕熱(加熱側流体)によって予熱された(ヒートパイプ10内)空気を、放散塔7内のヒートパイプ10’に循環させて受熱側流体である難燃性副生ガスを400℃程度に昇温させる例である。
【0025】
本発明の第3の実施例は、図5に示すように、排ガス煙道中の冷却器3通過前の超高温副生ガス(≧1000℃)を加熱側流体として、このガスを放散塔7内の熱交換装置11を介して受熱側流体である難燃性副生ガスを昇温させる熱交換の例である。
【0026】
本発明の第4の実施例は、図6に示すように、冷却器3を通過した後の1次乾式除塵器4通過前の超高温副生ガスの一部を、まず耐熱に優れるセラミックフィルタにより除塵した際、これを加熱側流体として放散塔7内に送り込み、その放散塔7内では、低温の受熱側である難燃性副生ガスと直接混合して昇温(600℃程度)させる例である。
【0027】
以上の1〜4の方法により、転炉副生ガスの燃焼性を制御することによって、難燃性副生ガスを放散塔で燃焼させる際に確実に失火をなくすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の技術は、転炉排ガスの処理、とくに放散する難燃性副生ガスの昇温を果して確実に燃焼させて無害化する方法であるが、この方法は単に転炉だけでなく、高温の排ガスが生成する他の冶金炉等の排ガス処理にも当然応用が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 転炉
2 下部フード
3 冷却器
4 1次乾式除塵器
5 2次湿式除塵器
6 ガスホルダー
7 放散塔
8 ガス分析計
9、10、10’、11 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼成分であるCO濃度が低く着火しにくい難燃性副生ガスを、放散塔内に導いてそこで燃焼させることにより無害化した上で大気中に放散する処理方法において、放散塔上部に配設される燃焼装置の上流側にて、該難燃性副生ガスを転炉の高温副生ガスの顕熱を使って予熱し昇温させることを特徴とする転炉排ガスの処理方法。
【請求項2】
難燃性副生ガスの予熱・昇温を、加熱側流体が転炉高温副生ガスで受熱側流体が難燃性副生ガスである熱交換器にて行なうことを特徴とする請求項1に記載の転炉排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記熱交換器としてヒートポンプを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の転炉排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記加熱側流体が、1次乾式除塵器通過後の2次湿式除塵器通過前の高温副生ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の転炉排ガスの処理方法。
【請求項5】
前記加熱側流体が、排ガス煙道中の冷却器通過前の高温副生ガスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の転炉排ガスの処理方法。
【請求項6】
排ガス煙道中の冷却器通過前の高温副生ガスを、放散塔内難燃性副生ガス中に直接添加することを特徴とする請求項1に記載の転炉排ガスの処理方法。
【請求項7】
難燃性副生ガスのCO濃度が10vol%超のときは、放散塔内上部におけるガスの温度を400℃以上に昇温させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の転炉排ガスの処理方法。
【請求項8】
難燃性副生ガスのCO濃度が10vol%以下のときは、放散塔内上部におけるガスの温度を600℃以上に昇温させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の転炉排ガスの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53360(P2013−53360A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193891(P2011−193891)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】