軸受損傷評価装置、軸受損傷評価方法、軸受損傷評価プログラム、およびこのプログラムを記録した記憶媒体
【課題】 異常性の判断基準を確保し、評価装置における検知方法を確立して異常範囲の特定および異常の程度を把握して、軸受損傷の評価を的確に行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。特に、軸受損傷を定性的だけでなく定量的に評価を行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。
【解決手段】 前記超音波探触子9が受信した前記反射波からエコー高さ比Hを求めるエコー高さ比算出手段63aと、求められた前記エコー高さ比Hから、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出手段63bと、前記エコー高さ比Hまたは/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出手段63cと、前記エコー高さ比H、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比Hの波形信号の変形度合いを解析する波形解析手段63dと、を備えたことを特徴とする。
【解決手段】 前記超音波探触子9が受信した前記反射波からエコー高さ比Hを求めるエコー高さ比算出手段63aと、求められた前記エコー高さ比Hから、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出手段63bと、前記エコー高さ比Hまたは/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出手段63cと、前記エコー高さ比H、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比Hの波形信号の変形度合いを解析する波形解析手段63dと、を備えたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械運転に伴い軸受に発生する損傷の評価を行うことのできる軸受損傷評価装置及び軸受損傷評価方法及び軸受損傷評価プログラム及びこのプログラムを記録した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受(特に転がり軸受)は、回転する軸を支持する機械要素としてよく知られている。一般的に、機械は運転中に振動や衝撃を伴うことが多く、軸受は使用していくうちに内輪等に損傷を発生する。従って、損傷の発生は軸受の寿命を予測する上では重要なファクターであり、損傷の評価をすることにより軸受の寿命を評価することができる。
【0003】
一方、かかる軸受の損傷が発生すると軸受(の転動体)に作用する荷重の値も変動(変化)することから、転動体に作用する荷重を知ることができれば、軸受の寿命(余寿命)を知ることができると考えられ、軸受損傷評価装置あるいは軸受損傷評価方法について提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−257797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした評価方法においては、測定波形が異常か否か(以下「異常性」という。)の判断が重要となる一方、波形の立ち上がりや立ち下がりにおける測定値が常に変化する状態で異常性の判断を行う必要があることから、異常性の判断は非常に困難であった。波形のピーク付近についても、安定領域が非常に少ないことから、同様の条件であるといえる。
【0005】
具体的には、異常性の判断基準となる標準的なエコーのパターン(波形)の確保、あるいは異常性の判断となる演算処理、判断のための閾値の設定方法など、定量的な判断を客観的に行うための手法あるいはシステムは不可欠であった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、異常性の判断基準を確保し、評価装置における検知方法を確立して異常範囲の特定および異常の程度を把握して、軸受損傷の評価を的確に行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。特に、軸受損傷を定性的だけでなく定量的に評価を行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す軸受損傷評価装置、軸受損傷評価方法、軸受損傷評価プログラム、およびこのプログラムを記録した記憶媒体によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価装置であって、(1)前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出手段と、(2)求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出手段と、(3)前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出手段と、(4)前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行うために、(1)前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、(2)求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出ステップと、(3)前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出ステップと、(4)前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析ステップと、を備えたことを特徴とする、軸受損傷評価方法に関する発明であり、これをコンピュータに実行させるための軸受損傷評価プログラムに関する発明である。
【0010】
軸受損傷評価の精度の向上を図るには、超音波探触子の高感度化に伴う測定波形の精緻性の向上と合せて、超音波探触子の出力を処理したエコー高さ比の波形信号から如何に客観的に変形度合いを認定できるかが重要であり、本発明においては、エコー高さ比を基に、その勾配である1次差分値や1次差分値の差分である2次差分値あるいはこれらの平均値を算出することによって、異常位置の特定および損傷の認定を高い精度で行うことを可能としたものである。つまり、従来一般的であった波形信号の微分値の比較など1次的な処理のみでは十分な異常判断ができないことに着目し、軸受において生じる損傷の種類(具体的には、磨耗粉(凸状)や損傷(凹状)などが発生するが、以下、通常「損傷」として括り、前者のみをいう場合には「凸状損傷」といい、後者のみをいう場合には「凹状損傷」という)によって現れる波形の特徴を利用して、その勾配の変化あるいは平均値からのズレなど波形信号の2次的な処理信号を求めることによって、客観的な算出基準を基に、異常な測定部位を特定するとともに、損傷状態を明示することが可能となった。
【0011】
具体的には、超音波探触子は軸受ハウジングに取り付けられ、軸受に向けて超音波を発生し、軸受ハウジングと軸受の外輪との境界あるいは軸受の外輪と転動体の境界からの反射波を受信する。そして、軸受ハウジングと軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との密着度が大きい(固体接触面積が大きい)と発せられた超音波は境界から透過し、この透過率は上記密着度に比例する。ここで、軸受に損傷があればこの密着度は変化し、凹状損傷の程度が大きいときは、密着度が小さくなるので超音波の透過率が小さくなり、反射波の大きさは大きくなる。と同時に、損傷部とその周辺との間における透過率の勾配(本発明においては1次差分値で表現する。)あるいはその勾配の差分値(2次差分値)も大きくなる。逆に、凹状損傷の程度が小さいときは、 反射波の大きさは小さくなることになると同時に、軸受の損傷部とその周辺との間における透過率の勾配あるいはその勾配の差分値も小さくなる。従って、この反射波を測定することにより凹状損傷の程度を推定することができる。また、凹状損傷と逆の状態として軸受への磨耗粉の発生・付着による凸状損傷がある。軸受に凸状損傷の発生があればこの密着度は変化し、凸状損傷の発生の程度が大きいときは、密着度が大きくなるので超音波の透過率が大きくなり反射波の大きさは小さくなる。と同時に、軸受の損傷部とその周辺との間における1次差分値あるいは2次差分値も小さくなる。逆に、凸状損傷の程度が小さいときは、 反射波の大きさは大きくなることになる。従って、この反射波を測定することにより凸状損傷の程度を推定することができる。
【0012】
以上のように、本発明は超音波探触子によって測定した結果を利用して、軸受の損傷の発生を評価しようとするものである。つまり、損傷部を含む反射波の情報(超音波探触子の出力波形)の平均値は、反射波の変化の外郭を表すことから、仮定的に正常な軸受からの反射波に近い波形と扱うことが可能となり、上記差分値との比較によって損傷部あるいは異常部の推定を行うことができる。
【0013】
また、従来、閾値の値の設定や、変化率を求めるときに用いるデータ点数などによって「異常」の範囲や異常値が変化することがあったが、本発明は、これらに極力依存せずに判断することを目指し、最小限の閾値、具体的には後述する平均値に対する重み付けや平均値に対する所定幅の設定など、に限定することで、こうした問題点を解消した。
【0014】
従って、この反射波を測定し、その1次差分値あるいは平均値を算出することにより損傷の有無、損傷箇所、および損傷の程度を、精度よく推定することが可能な軸受損傷評価技術を提供することができる。
【0015】
なお、ここでいう「差分値」とは、ある特定のエコー高さやその勾配などについて、その値を含むデータの前後数点の値を平均し、その特定値とその平均した値の差、あるいはその特定値をその平均した値で除した値をいい、以下「5点差分値」(前後の2点と用いた5点平均値で除した値)、「13点差分値」(前後の6点と用いた13点平均値で除した値)などと表現する。
【0016】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、対象となる軸受固有の閾値を超える前記2次差分値に係る測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする。
【0017】
エコー高さ比の波形信号の解析において、損傷の発生と波形信号の2次差分値とが非常に相関関係があることを見出したもので、損傷部の端部におけるエコー高さ比の波形信号が大きく変化する点を捉え損傷部の特定を行うことができる。具体的には、エコー高さ比の波形信号の2次差分値が所定の範囲を超える測定部位が、波形信号の変形度が高い部位(つまり損傷部の端部)に相当すると推定する。こうした演算ステップおよび波形解析ステップを行うことによって、精度の高い軸受損傷評価プログラムを形成することができる。
【0018】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする。
【0019】
エコー高さ比の波形信号の解析において、1次差分値が所定の範囲を超え、かつ、その1次差分値の平均値の上下に所定の幅を有する範囲を超える測定部位が、波形信号の変形(つまり損傷の発生)と非常に相関関係があることを見出したもので、こうした測定部位を波形信号の変形度が高い部位に相当すると推定する。こうした演算ステップおよび波形解析ステップを行うことによって、精度の高い軸受損傷評価プログラムを形成することができるとともに、上記「波形信号の2次差分値」による解析結果と合せて評価することによって、さらに高い精度を得ることが可能となる。
【0020】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする。
【0021】
上記同様、1次差分値とその平均値とを組み合わせることによって、エコー高さ比の波形信号の解析を精度よく行うことができることを見出したもので、1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲の設定に代えて、1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲の設定することによって、波形信号の変形度が高い部位を推定することができる。従って、こうした演算ステップおよび波形解析ステップを行うことによって、精度の高い軸受損傷評価プログラムを形成することができる。併せて、上記「波形信号の2次差分値」および/または「1次差分値とその平均値の加減範囲」による解析結果と合せて評価することによって、より一層高い精度を得ることが可能となる。
【0022】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、前記波形解析手段において、変形度が高いと判断された測定部位について、損傷の大きさを算出することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記軸受損傷評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に係ることを特徴とする。つまり、上記軸受損傷評価プログラムは、記録媒体(CD−ROM等)に記録させておくことができる。この記録媒体を用いてコンピュータにインストールすることで、コンピュータを軸受損傷評価装置として機能させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、従来困難であった損傷などによる軸受の異常性の判断基準を確保し、評価装置における検知方法を確立して異常範囲の特定および異常の程度を把握して、軸受損傷の評価を的確に行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することができる。また、軸受損傷を定性的だけでなく定量的に評価を行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、軸受損傷評価装置の構成を例示する概念図である。
【0026】
<軸受損傷評価装置の構成>
軸受ハウジング1の中央部に軸受2が支持されている。軸受ハウジング1の周辺部を一部カットし、超音波探触子3が取り付けられている。軸受2は、転がり軸受であり、外輪20と内輪21)との間に挟持される多数の転動体22とを備えている。内輪21の内径部分には回転軸4が圧入等の適宜の方法により固定される。また、軸受外輪20の外径部分も軸受ハウジング1に形成された孔部に密着嵌合される。
【0027】
超音波探触子3は、取り付け面に対して垂直な方向に超音波を発生する。発生した超音波は、軸受外輪20と軸受ハウジング1との境界あるいは外輪20と転動体22との間で反射し、その反射波を受信することができるように構成されている(反射式)。
【0028】
超音波探触子3は超音波探傷器5と接続されている。超音波探傷器5には、超音波探触子3を駆動する駆動回路や、反射波を受信するための受信回路等が組み込まれている。また、超音波探傷器5はパソコン6に接続されており、超音波探触子3により受信した信号はAD変換されてパソコン6に送信される。パソコン6には、受信した反射波の信号から軸受損傷を評価するプログラムが組み込まれており、このパソコン6が軸受損傷評価装置として機能するように構成されている。
【0029】
超音波探触子3を構成する素子としては、ローレンツ力を用いた電磁式の振動子と圧電セラミックのピエゾ効果を用いた振動子を用いることができる。具体的には、直径数mm〜10数mm程度の振動子を用い、数MHz〜数10MHzの超音波を1秒間に数回〜数万回のパルスとして入射する。図1では、センサの取り付けの便利などの観点から発信部と受信部を一体化した部材として例示しているが、これに限定されるものではなく、別体を組み合わせて用いることも可能である。また、転動体22と外輪20の間の接触面からの反射波を対象とする場合には、測定部位が2面の接触している部分(弾性流体潤滑部)となるため、そこに焦点を結ぶように発信部から超音波を照射する方法(焦点式)を採ることが好ましい。
【0030】
また、超音波探触子3の取り付け位置は、転動体22に対向するとともに、軸受外輪20と軸受ハウジング1との境界あるいは転動体22と外輪20との接触部から、いわゆる近距音場限界距離D以上とすることが好ましい。超音波の照射領域内での複雑な音圧分布が反射特性に及ぼす影響を避けるためである。近距音場限界距離Dは、
D=d2/4λ ・・(式1)
として表される。ここで、dは振動子の直径、λは超音波の波長を表す。
【0031】
なお、超音波探触子3を複数用い、複数個所の軸受外輪20と軸受ハウジング1との境界あるいは転動体22と外輪20との接触状態を監視することによって、単数の監視ではできない観点での測定が可能となる。例えば、複数の超音波探触子3からの出力の分布状態から、軸心に均等に荷重が掛かっているか否か、あるいは瞬間的に荷重が掛かったときに軸受1全体としてどのような挙動(例えば回転位置のズレなど)をするか、など非定常状態での測定が可能となる点においても優位性が高い。
【0032】
<超音波探触子による軸受の動作を観測する方法>
次に、超音波探触子3を用いて軸受の動作を観測する方法の原理を説明する。図1において、超音波探触子3から発せられた超音波は、軸受ハウジング1と軸受外輪20とのあるいは転動体22と外輪20との境界に向かい、一部はその境界から透過し、残りは境界で反射する。この反射波を超音波探触子3により受信する。例えば、軸受ハウジング1と軸受外輪20との密着度が大きい(固体接触面積が大きい)と発せられた超音波は境界から透過しやすくなり、この透過率は上記密着度にほぼ比例する。
【0033】
本発明において、上記反射波の大きさを定量的に表すために、エコー高さ比と呼ばれる物理量を用いる。エコー高さ比(H)とは、
H=(1−h/h0)×100 ・・(式2)
により定義される。hは外的な軸受荷重(図1にWで示す。)が作用している時のエコー高さであり、h0は外的な軸受荷重が作用していない時(無負荷時)のエコー高さである。なお100倍しているのは%表示するためであり、これに限定されるものではない。軸受荷重が大きいほど軸受2と軸受ハウジング1の密着度は大きくなり、hは小さくなる(反射波の大きさは小さくなる)ため、エコー高さ比Hは大きくなる。
【0034】
図2は、回転軸4を回転駆動した場合の観測例を示す図である。縦軸はエコー高さ比H(%)を示し、横軸は時間(μs)を示す。エコー高さ比曲線は周期的な繰り返し波形で表されるが、転動体22が超音波探触子3の直下に来たときにエコー高さ比Hは最大値HMを示し、転動体22と転動体22の間が超音波探触子3の直下にあるときにエコー高さ比Hは最小値Hmを示す。
【0035】
<軸受損傷評価装置の主要部の構成>
次に、軸受損傷評価装置として機能するパソコン6の主要部の構成を図3に示す。パソコン6は、表示装置60と、CPU61と、RAM62を有している。また、軸受損傷評価プログラムが格納されているプログラムファイル63と、データファイル64とを有している。これらはデータバスを介して接続されている。軸受損傷評価プログラムは、パソコン6にエコー高さ比算出手段63a、差分値算出手段63b、平均値算出手段63c、波形解析手段63d等の機能を実現させるためのプログラムが格納されている。このプログラムは、RAM62に読み込まれた状態で実行される。また、このプログラムはCD−ROMやフロッピー(登録商標)ディスク等の記録媒体を用いてパソコン本体内にインストールすることができる。
【0036】
エコー高さ比算出手段63aの機能については前述したとおりである。
【0037】
また、差分値算出手段63bは、前述の差分値を演算する手段をいい、具体的には、特定計測時間txの前後n個の単位時間t−n〜t+nを設定し、計測時間txにおけるエコー高さ比Hxと計測時間t−n〜t+nのエコー高さ比の平均値Havとの差、あるいは計測時間txにおけるエコー高さ比Hxを、計測時間t−n〜t+nのエコー高さ比の平均値Havで除した値を算出する(2n+1点差分値という)。絶対値としてのエコー高さ比に影響されずに変化率を算出し、各時間でのエコー高さ比を標準化することができる。また、実際の評価においては、顕著化のために差分結果をさらに4乗(あるいは2乗)した結果を使用することが好ましい。
【0038】
平均値算出手段63cでは、所定の時間幅を設定し、その時間経過毎に平均値を算出する方法もあるが、所定の時間幅を設定し、単位時間毎に新たなエコー高さ比を取入れて(最も古いデータは廃棄する)算出する移動平均値を算出する方法が好ましい。スムージングされた瞬時のデータを入手することができるためである。なお、本願においては、平均する母数nに応じて「n点平均値」と表現することがある。ここで、nは、評価する対象の損傷の大きさや精度などによって任意に設定することができる。
【0039】
データファイル64には、軸受荷重をゼロに設定したとき、または2つの転動体の中央の位置を測定したときに得られたエコー高さ(h0)のデータがエコー高さデータファイル64aとして書き込まれている。また、エコー高さ比Hと軸受荷重Wの関係を表す関係式(または、関係を表すテーブル)として関係式データファイル64bが書き込まれている。
【0040】
<軸受の損傷部位の評価方法>
次に、軸受の損傷部位の評価方法を概略的に説明する。
【0041】
(1)軸受の実動中に得られるエコー高さ比の波形信号は、図2のような概略正弦波となる。すなわち、実動中は軸受の転動体も回転移動する。超音波探触子の直下に転動体が位置するときと、そうでないときでは軸受ハウジングと軸受外輪との境界における密着度が異なる。超音波探触子の直下に転動体が位置するときは、エコー高さ比は最大となり、超音波探触子の直下に転動体と転動体の間が位置するときは、エコー高さ比は最小となる。従って、転動体の移動に応じてエコー高さ比の波形信号は、正弦波あるいは正弦波に近い周期的な繰り返し波形である。軸受に異常が発生していない状態では、エコー高さ比波形は滑らかな曲線となる。
【0042】
ここで、軸受に損傷が発生するとエコー高さ比の波形信号が正常な状態から変形する。例えば、図4のように、軸受に異常が発生した状態のエコー高さ比波形に局部的(突発的)な凸部(Aで示す)と、局部的な凹部(Bで示す)が見られる。局部的な凸部は、軸受の転動体が磨耗粉を噛みこんだために転動体の支持荷重が上昇したものと考えられる。また、局部的な凹部は、軸受の内輪に損傷が生じ転動体の支持荷重が下降したために発生したものである。さらに、凸部や凹部の幅、および凸部の高さや凹部の深さについても損傷の大きさと深い関係があり、損傷の程度が大きくなると波形の凸部や凹部の幅、および凸部の高さや凹部の深さも大きくなると考えられる。従って、凸部や凹部の幅、および凸部の高さや凹部の深さから損傷の大きさを推定することが可能である。
【0043】
このように、凸部や凹部を解析することにより軸受損傷の評価を行うことができ、凸部や凹部の幅や高さ(深さ)を求めることにより、損傷の大きさを推定することができ、定性的だけでなく定量的な損傷の評価も行うことができる。
【0044】
なお、損傷の評価においては、エコー高さ比Hがゼロに近い値の場合、以下の演算において差分値が非常に大きく変動する場合があって正確な処理ができないことから、図4のように、エコー高さ比Hに所定の閾値H0を設定し、それ以下のエコー高さ比Hについては、演算の対象外とする方法が好ましい。閾値の設定は、対象となる軸受や負荷の大きさあるいは負荷の掛け方などによって経験的に決めることが可能である。
【0045】
(2)正弦波状の波形信号が変形して波形の一部に凸部や凹部が発生すると、凸部や凹部の端部に相当する波形信号の勾配(1次差分値)が急激に変化する。具体的には、前後において正方向の勾配が急に負方向の勾配となる場合、あるいは逆に負の勾配が急に正勾配に変化する場合が該当する。従って、1次差分値の大きさを、損傷評価の1つの指標とすることができる。また、1次差分値の急激な変化は波形信号の2次差分値の大きさとして捉えることができる。従って、1次差分値の大きさを、損傷評価の1つの指標とすることができる(指標A)。
【0046】
ここで、勾配の算出において、曲線を多次元の関数に近似してその微分を算出する方法もあるが、発明者の知見として、損傷によって生じる凹部は、その損傷の状態によって種々の曲線となることから、上記の差分値による評価がより正確にその形状にあった勾配(1次差分値)あるいは勾配の変化率(2次差分値)を示していることを見出した。
【0047】
具体的には、図5(A)のようにK部に損傷が生じた場合を例に挙げると、図5(B)では、図5(A)において閾値H0としてエコー高さの約10%を設定し、1次差分を行った結果を示している(具体的には、13点差分を行った結果を4乗した値を示している)。この場合、1次差分では、K部を含め、多くの測定点(計測時間)において異常の存在を示唆しているが、K点において特異的に大きな値を示すことから、この部分における損傷の可能性を示唆している。
【0048】
実際の損傷部位の推定のためには、1次差分の結果を5点平均し、さらに2次差分(具体的には、2点差分後4乗する)している。その結果、図5(C)に示すように、測定点900近傍に異常があることを示唆しており、損傷の範囲をさらに限定することが可能となる。
【0049】
(3)次なる検討結果として、正弦波状の波形信号に変形が生じた場合、凸部や凹部の端部に相当する波形信号の瞬時値だけではなく平均値あるいは差分値の平均値との組合せのよって、損傷評価の1つの指標とし、波形信号の変形を推定することができる(指標B)。
【0050】
(3−1)図6(A)のように、測定点460近傍に損傷が生じた場合を例に挙げる。測定された波形信号の勾配を求め、1次差分を行った結果を図6(B)に示している(具体的には、2点差分を行った結果を示している)。また、1次差分の結果を10点平均した結果を、図6(C)に示している。
【0051】
この場合、1次差分では、測定点460近傍を含め、多くの測定点において大きな変化が見られ、損傷の特定は困難である。特に、ベース付近のデータの1次差分値は非常に大きな変化をすることがあることから、損傷部位の推定にはこうしたデータを基にしないことが好ましい。以下の評価手順においては、図7に例示するように、図6(A)における勾配ゼロ付近のデータを取り除き、例えば、閾値を波形出力のピーク高さHMの20%として評価を行う。
【0052】
(3−2)次に、図8に例示するように、測定点における1次差分を行い、該1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲を超えた場合を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断する方法を挙げることができる(指標B1)。エコー高さ比の波形の頂点では、1次差分値がゼロに近い値であり、その近傍での変化は非常に敏感に1次差分値に影響され、異常の判断が他の部位と大きく異なるものとなる場合があり、本発明のように1次差分値の平均値に幅としての閾値を設定することによって、誤った判断を防止することができる。具体的には、1次差分値(2点差分)を10点平均し、さらに、その結果に±0.35幅の閾値を設定し、それを超えたものを取り出し評価する。
【0053】
図8の例においては、1次差分では、多くの測定点において大きな変化の存在を示唆しているが、1次差分値の平均値から設定された閾値の範囲を超える変化からは、測定点460および470近傍に異常があることを示唆している。ここで、閾値は±0.35を選択したが、軸受固有で設定可能な場合は予め設定することが好ましく、もし設定不可能な場合には、閾値を仮定し順次変更していくことで、1次差分値における大きな変化を生じた点と合致した点を異常と判断する方法も可能である。
【0054】
(3−3)また、異なる判断方法としては、図9に例示するように、特定の測定点における1次差分値が、対象となる軸受固有の閾値を超えた場合であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲を超えた場合を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断する方法を挙げることができる(指標B2)。具体的には、波形信号の勾配の突発的変化を検出するために、1次差分(2点差分)し、さらにその10点平均を求める。次に1次差分値が、その測定点における10点平均値を上閾値1.8倍した値以上である場合、あるいは下閾値0.1倍した値以下である場合には、その値を取り出し評価する。
【0055】
1次差分値では、多くの測定点において大きな変化の存在を示唆しているが、1次差分値の10点平均値から設定された閾値を0.1〜1.8とする範囲では、測定点365、370、460、470および540近傍に異常があることを示唆している。
【0056】
(3−4)さらに、図9から判るように、1次差分値あるいはその平均値がゼロとクロスする近傍における動きは、勾配の符号が変化するという非常にダイナミックな変化が生じるところであり、特に異常を判断する上で重要な役割を果たすと考えられる。図7においても、測定点460および470近傍に異常があることを示唆している(指標B3)。従って、1次差分値とその平均値を基にした判断基準にゼロクロスの要素を基準として加える方法も異常判断に有効である。
【0057】
(3−5)また、図9から判るように、1次差分値の平均値が負の領域にある測定点における1次差分値が急に正の領域に変化する場合、あるいは逆に1次差分値の平均値が正の領域にある測定点における1次差分値が急に負の領域に変化する場合についても異常を判断する上で重要な役割を果たすと考えられる。図9においても、測定点470近傍に異常があることを示唆している(指標B4)。
【0058】
(4)上記基準となる指標A、指標B1〜B4は、単独でも十分異常と推定することが可能であるとともに、これらの指標を任意に組み合わせ、複数の指標を満たすことを条件として損傷部位を推定することも可能であり、より精度の高い推定が可能となる。
【0059】
(5)なお、上記観測において、軸受の劣化が進むと軸受自体のガタが増加するため精度が低下する。つまり、軸受が正常な場合は、波形がキレイなため、ノイズとの分離が容易でありノイズも少ないが、劣化が進むと軸受のガタが増加するため、ノイズの増加自体が異常と判断される可能性がある。このとき、上記の閾値を変更することで、精度の低下を防止することができる。
【0060】
以上のように、本発明においては、波形解析手段63dによって、エコー高さ比の波形信号における局部的な凸部あるいは凹部から、軸受の内輪あるいは転動体に発生した損傷部位を推定することができる。また、同時に、損傷の両端部位を特定できる場合には損傷の幅を推定することができる。
【0061】
<軸受の損傷の大きさの評価方法>
損傷を評価するにあたり、その評価項目として凹部の大きさの評価が挙げられる。以下、図10(A)に示す観測例において、上記の方法でK部に凹部があることが判った場合について、軸受の損傷大きさの評価、つまり損傷の定量化の方法を概略的に説明する。
【0062】
(1)凹部の大きさは、図10(B)に示すように、凹部の幅Lfと凹部の深さ−ΔHfにより表すことができる。逆に、凸部の大きさは凸部の幅Lfと凸部の高さΔHfにより表すことができる。以下の説明では、凹部について述べるが、凸部についても同様の処理が可能である。つまり、本発明においては、磨耗粉(凸状)や損傷(凹状)の発生を同レベルで評価することができる。
【0063】
ここで、波形信号における凹部の開始点をp1とし凹部の終了点をp2とすると、Lfは点p1と点p2の横方向(時間軸方向)の幅を示す。また、凹部がないと仮定した場合の点p1と点p2の中間位置を点p3とし、点p3と凹部の最深位置の縦方向の距離を−ΔHfとする。Lfや−ΔHfは、波形解析手段63dによって演算する。かかる機能により、軸受の損傷を定量的に評価することができる。
【0064】
(2)上記において異常と判断した範囲について、以下の演算を行う。
(2−1)図10(A)のK部の近傍について、図5における処理と同様、所定の閾値H0を設定し、それ以下のデータを除く。
(2−2)上記閾値H0以上のエコー高さ比について1次差分値を算出する。ここでは、例えば9点差分を行い、その後4乗した値を絶対値化処理を行うことによって、図11(A)に示す結果を得ることができる。上記において異常と判断した範囲について限定し、データを拡大表示したものを図11(B)に示す。883近傍に大きなピークを有していることが判る。
(2−3)図11(B)に示す範囲における上記1次差分値に対し、図12(A)に示すように、所定の閾値ΔH0を設定し、それ以下のデータを排除する。ここでは、閾値ΔH0=0.02とした。
(2−4)次に、図12(B)に示すように、閾値ΔH0以上の差分値に対し、「01化」処理を行う。つまり、差分値が正の場合には「1」、ゼロの場合には「0」とする2値化処理を行う。
(2−5)上記の結果に対し、差分値の平均値を算出する(図12(C)参照)。例えば、9点の移動平均を求める。
(2−6)この平均値に所定の閾値Hsを設定し、それ以上の値の範囲幅Lf’を求める。図12(D)のように異常と確定しうる範囲を設定することができる。
(2−7)求めた幅Lf’を基に、図13(A)のように裕度(幅Lf’に所定の係数mを掛ける)を与えた範囲幅Lf”を求める。求めた幅Lf”を構成する波形上の点p4と点p5を求める。異常のない波形に限定することができる。係数mは損傷の状態や測定精度に応じて任意に設定する。
(2−8)次に、エコー高さ比の波形上の点p4〜点p5の間のデータを削除し、点p4までの実線部分データKaおよび点p5からの実線部分データKbを用いて、最小二乗法に基づき点p4〜点p5の間の破線部分データを推定する(図13(B)参照)。異常のない波形を確定することができる。本発明者の知見によれば、5次または6次の近似式を用いて最小二乗法を行うことによって精度の高い推定ができることが判った。
(2−9)図13(B)のように、推定されたエコー高さ比の破線部分データと実測データを基に、その差を算出し、異常値を求める。得られた異常値から損傷範囲の大きさを定量的に把握することができる。
【0065】
以上のように、本発明においては、波形解析手段63dによって、エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部の大きさを推定することによって、軸受の内輪あるいは転動体に発生した損傷の大きさを推定することが可能となる。
【0066】
<軸受の劣化の評価方法>
上記の内容は、損傷部分の評価に関するものであるが、エコー高さ比の波形の評価に際しては、全体の波形の乱れから、軸受自体の劣化を判断することができる。つまり、図12に例示するように、正常時の波形に比較して劣化が進むと、微小な揺らぎ成分が波形全体に乗ってくる。つまり、波形の部分的な評価ではなく、波形全体の評価を行うことによって軸受の劣化を判断することができる。
【0067】
具体的には、エコー高さ比は理論的に面圧に比例することから、エコー高さ比の1次差分は、面圧の変動つまり支持荷重の変動を表すこととなる。また、エコー高さ比の2次差分は、支持荷重がどの程度の率で変化したか、つまり、ある意味では衝撃力に相当する現象(以下「衝撃」という)の発生に結び付いている。従って、図13のように、エコー高さ比の波形について全体の1次差分および2次差分を同一軸受の評価において経時的に追求すれば、軸受自体の劣化すなわち軸受のガタの発生に伴う衝撃の増加を検知することができる。
【0068】
また、このとき、上記の損傷評価のデータを併せて表記すると図13のように、損傷評価のデータは増減を繰り返しながら全体的に増加する結果が得られた。つまり、こうした評価方法は、軸受の劣化の評価においても非常に有効な方法となることを示している。
【0069】
以上のように、軸受の損傷の評価方法は、軸受の劣化の評価方法にも適用することができとともに、これらを総合的に評価することによって、従来にない優れた精度の軸受評価装置あるいは評価システムおよび評価プログラムを構成することができることとなった。
【0070】
<別実施形態>
(1)本発明が適用される軸受は特定の構造の軸受に限定されるものではない。例えば,通常の玉軸受だけでなくアンギュラ玉軸受にも応用することができる。例えば、ボールは単列ではなく複列の場合にも応用することができる。
【0071】
(2)本実施形態では、軸受損傷評価プログラムについてのみ説明しているが、このプログラムが他の目的のプログラムと一体になっていても良い。例えば、既知の軸受荷重を用いて軸受荷重とエコー高さ比の関係式を予め求めておけば、機械運転中に計測されるエコー高さ比から異常に伴う転動体支持荷重の変動量や軸受荷重を推定することができる。したがって、かかる軸受荷重を推定するプログラムと一体になっていてもよい。また、左右の超音波探触子3から得られるデータから偏荷重を得ることができるので、かかる機能を有するプログラムと一体になっていても良い。さらに別の機能を有するプログラムと一体になっていても良い。もちろん、このプログラムが記録される記録媒体についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る軸受損傷評価装置の構成を例示する概念図。
【図2】エコー高さ比波形の観測結果を示す説明図。
【図3】軸受損傷評価装置の主要部の構成を示す説明図。
【図4】損傷発生時におけるエコー高さ比波形の観測結果を示す説明図。
【図5】本発明に係る損傷部位の評価方法の1つを示す説明図。
【図6】本発明に係る損傷部位の評価方法の1つを示す説明図。
【図7】本発明に係る損傷部位の他の評価方法を示す説明図。
【図8】本発明に係る損傷部位の他の評価方法を示す説明図。
【図9】本発明に係る損傷部位の他の評価方法を示す説明図。
【図10】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法の最初のステップを示す説明図。
【図11】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法を次なるステップを示す説明図。
【図12】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法を次なるステップを示す説明図。
【図13】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法を最終のステップを示す説明図。
【図14】本発明に係る他の軸受の劣化の状態を示す説明図。
【図15】本発明に係る他の軸受の劣化の評価方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0073】
1 軸受ハウジング
2 軸受
3 超音波探触子
4 回転軸
5 超音波探傷器
20 外輪
21 内輪
22 転動体
H エコー高さ比
63a エコー高さ比算出手段
63b 差分値算出手段
63c 平均値算出手段
63d 波形解析手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械運転に伴い軸受に発生する損傷の評価を行うことのできる軸受損傷評価装置及び軸受損傷評価方法及び軸受損傷評価プログラム及びこのプログラムを記録した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受(特に転がり軸受)は、回転する軸を支持する機械要素としてよく知られている。一般的に、機械は運転中に振動や衝撃を伴うことが多く、軸受は使用していくうちに内輪等に損傷を発生する。従って、損傷の発生は軸受の寿命を予測する上では重要なファクターであり、損傷の評価をすることにより軸受の寿命を評価することができる。
【0003】
一方、かかる軸受の損傷が発生すると軸受(の転動体)に作用する荷重の値も変動(変化)することから、転動体に作用する荷重を知ることができれば、軸受の寿命(余寿命)を知ることができると考えられ、軸受損傷評価装置あるいは軸受損傷評価方法について提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−257797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした評価方法においては、測定波形が異常か否か(以下「異常性」という。)の判断が重要となる一方、波形の立ち上がりや立ち下がりにおける測定値が常に変化する状態で異常性の判断を行う必要があることから、異常性の判断は非常に困難であった。波形のピーク付近についても、安定領域が非常に少ないことから、同様の条件であるといえる。
【0005】
具体的には、異常性の判断基準となる標準的なエコーのパターン(波形)の確保、あるいは異常性の判断となる演算処理、判断のための閾値の設定方法など、定量的な判断を客観的に行うための手法あるいはシステムは不可欠であった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、異常性の判断基準を確保し、評価装置における検知方法を確立して異常範囲の特定および異常の程度を把握して、軸受損傷の評価を的確に行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。特に、軸受損傷を定性的だけでなく定量的に評価を行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す軸受損傷評価装置、軸受損傷評価方法、軸受損傷評価プログラム、およびこのプログラムを記録した記憶媒体によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価装置であって、(1)前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出手段と、(2)求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出手段と、(3)前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出手段と、(4)前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行うために、(1)前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、(2)求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出ステップと、(3)前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出ステップと、(4)前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析ステップと、を備えたことを特徴とする、軸受損傷評価方法に関する発明であり、これをコンピュータに実行させるための軸受損傷評価プログラムに関する発明である。
【0010】
軸受損傷評価の精度の向上を図るには、超音波探触子の高感度化に伴う測定波形の精緻性の向上と合せて、超音波探触子の出力を処理したエコー高さ比の波形信号から如何に客観的に変形度合いを認定できるかが重要であり、本発明においては、エコー高さ比を基に、その勾配である1次差分値や1次差分値の差分である2次差分値あるいはこれらの平均値を算出することによって、異常位置の特定および損傷の認定を高い精度で行うことを可能としたものである。つまり、従来一般的であった波形信号の微分値の比較など1次的な処理のみでは十分な異常判断ができないことに着目し、軸受において生じる損傷の種類(具体的には、磨耗粉(凸状)や損傷(凹状)などが発生するが、以下、通常「損傷」として括り、前者のみをいう場合には「凸状損傷」といい、後者のみをいう場合には「凹状損傷」という)によって現れる波形の特徴を利用して、その勾配の変化あるいは平均値からのズレなど波形信号の2次的な処理信号を求めることによって、客観的な算出基準を基に、異常な測定部位を特定するとともに、損傷状態を明示することが可能となった。
【0011】
具体的には、超音波探触子は軸受ハウジングに取り付けられ、軸受に向けて超音波を発生し、軸受ハウジングと軸受の外輪との境界あるいは軸受の外輪と転動体の境界からの反射波を受信する。そして、軸受ハウジングと軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との密着度が大きい(固体接触面積が大きい)と発せられた超音波は境界から透過し、この透過率は上記密着度に比例する。ここで、軸受に損傷があればこの密着度は変化し、凹状損傷の程度が大きいときは、密着度が小さくなるので超音波の透過率が小さくなり、反射波の大きさは大きくなる。と同時に、損傷部とその周辺との間における透過率の勾配(本発明においては1次差分値で表現する。)あるいはその勾配の差分値(2次差分値)も大きくなる。逆に、凹状損傷の程度が小さいときは、 反射波の大きさは小さくなることになると同時に、軸受の損傷部とその周辺との間における透過率の勾配あるいはその勾配の差分値も小さくなる。従って、この反射波を測定することにより凹状損傷の程度を推定することができる。また、凹状損傷と逆の状態として軸受への磨耗粉の発生・付着による凸状損傷がある。軸受に凸状損傷の発生があればこの密着度は変化し、凸状損傷の発生の程度が大きいときは、密着度が大きくなるので超音波の透過率が大きくなり反射波の大きさは小さくなる。と同時に、軸受の損傷部とその周辺との間における1次差分値あるいは2次差分値も小さくなる。逆に、凸状損傷の程度が小さいときは、 反射波の大きさは大きくなることになる。従って、この反射波を測定することにより凸状損傷の程度を推定することができる。
【0012】
以上のように、本発明は超音波探触子によって測定した結果を利用して、軸受の損傷の発生を評価しようとするものである。つまり、損傷部を含む反射波の情報(超音波探触子の出力波形)の平均値は、反射波の変化の外郭を表すことから、仮定的に正常な軸受からの反射波に近い波形と扱うことが可能となり、上記差分値との比較によって損傷部あるいは異常部の推定を行うことができる。
【0013】
また、従来、閾値の値の設定や、変化率を求めるときに用いるデータ点数などによって「異常」の範囲や異常値が変化することがあったが、本発明は、これらに極力依存せずに判断することを目指し、最小限の閾値、具体的には後述する平均値に対する重み付けや平均値に対する所定幅の設定など、に限定することで、こうした問題点を解消した。
【0014】
従って、この反射波を測定し、その1次差分値あるいは平均値を算出することにより損傷の有無、損傷箇所、および損傷の程度を、精度よく推定することが可能な軸受損傷評価技術を提供することができる。
【0015】
なお、ここでいう「差分値」とは、ある特定のエコー高さやその勾配などについて、その値を含むデータの前後数点の値を平均し、その特定値とその平均した値の差、あるいはその特定値をその平均した値で除した値をいい、以下「5点差分値」(前後の2点と用いた5点平均値で除した値)、「13点差分値」(前後の6点と用いた13点平均値で除した値)などと表現する。
【0016】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、対象となる軸受固有の閾値を超える前記2次差分値に係る測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする。
【0017】
エコー高さ比の波形信号の解析において、損傷の発生と波形信号の2次差分値とが非常に相関関係があることを見出したもので、損傷部の端部におけるエコー高さ比の波形信号が大きく変化する点を捉え損傷部の特定を行うことができる。具体的には、エコー高さ比の波形信号の2次差分値が所定の範囲を超える測定部位が、波形信号の変形度が高い部位(つまり損傷部の端部)に相当すると推定する。こうした演算ステップおよび波形解析ステップを行うことによって、精度の高い軸受損傷評価プログラムを形成することができる。
【0018】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする。
【0019】
エコー高さ比の波形信号の解析において、1次差分値が所定の範囲を超え、かつ、その1次差分値の平均値の上下に所定の幅を有する範囲を超える測定部位が、波形信号の変形(つまり損傷の発生)と非常に相関関係があることを見出したもので、こうした測定部位を波形信号の変形度が高い部位に相当すると推定する。こうした演算ステップおよび波形解析ステップを行うことによって、精度の高い軸受損傷評価プログラムを形成することができるとともに、上記「波形信号の2次差分値」による解析結果と合せて評価することによって、さらに高い精度を得ることが可能となる。
【0020】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする。
【0021】
上記同様、1次差分値とその平均値とを組み合わせることによって、エコー高さ比の波形信号の解析を精度よく行うことができることを見出したもので、1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲の設定に代えて、1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲の設定することによって、波形信号の変形度が高い部位を推定することができる。従って、こうした演算ステップおよび波形解析ステップを行うことによって、精度の高い軸受損傷評価プログラムを形成することができる。併せて、上記「波形信号の2次差分値」および/または「1次差分値とその平均値の加減範囲」による解析結果と合せて評価することによって、より一層高い精度を得ることが可能となる。
【0022】
本発明は、上記軸受損傷評価プログラムであって、前記波形解析手段において、変形度が高いと判断された測定部位について、損傷の大きさを算出することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記軸受損傷評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に係ることを特徴とする。つまり、上記軸受損傷評価プログラムは、記録媒体(CD−ROM等)に記録させておくことができる。この記録媒体を用いてコンピュータにインストールすることで、コンピュータを軸受損傷評価装置として機能させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、従来困難であった損傷などによる軸受の異常性の判断基準を確保し、評価装置における検知方法を確立して異常範囲の特定および異常の程度を把握して、軸受損傷の評価を的確に行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することができる。また、軸受損傷を定性的だけでなく定量的に評価を行うことのできる軸受損傷評価技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、軸受損傷評価装置の構成を例示する概念図である。
【0026】
<軸受損傷評価装置の構成>
軸受ハウジング1の中央部に軸受2が支持されている。軸受ハウジング1の周辺部を一部カットし、超音波探触子3が取り付けられている。軸受2は、転がり軸受であり、外輪20と内輪21)との間に挟持される多数の転動体22とを備えている。内輪21の内径部分には回転軸4が圧入等の適宜の方法により固定される。また、軸受外輪20の外径部分も軸受ハウジング1に形成された孔部に密着嵌合される。
【0027】
超音波探触子3は、取り付け面に対して垂直な方向に超音波を発生する。発生した超音波は、軸受外輪20と軸受ハウジング1との境界あるいは外輪20と転動体22との間で反射し、その反射波を受信することができるように構成されている(反射式)。
【0028】
超音波探触子3は超音波探傷器5と接続されている。超音波探傷器5には、超音波探触子3を駆動する駆動回路や、反射波を受信するための受信回路等が組み込まれている。また、超音波探傷器5はパソコン6に接続されており、超音波探触子3により受信した信号はAD変換されてパソコン6に送信される。パソコン6には、受信した反射波の信号から軸受損傷を評価するプログラムが組み込まれており、このパソコン6が軸受損傷評価装置として機能するように構成されている。
【0029】
超音波探触子3を構成する素子としては、ローレンツ力を用いた電磁式の振動子と圧電セラミックのピエゾ効果を用いた振動子を用いることができる。具体的には、直径数mm〜10数mm程度の振動子を用い、数MHz〜数10MHzの超音波を1秒間に数回〜数万回のパルスとして入射する。図1では、センサの取り付けの便利などの観点から発信部と受信部を一体化した部材として例示しているが、これに限定されるものではなく、別体を組み合わせて用いることも可能である。また、転動体22と外輪20の間の接触面からの反射波を対象とする場合には、測定部位が2面の接触している部分(弾性流体潤滑部)となるため、そこに焦点を結ぶように発信部から超音波を照射する方法(焦点式)を採ることが好ましい。
【0030】
また、超音波探触子3の取り付け位置は、転動体22に対向するとともに、軸受外輪20と軸受ハウジング1との境界あるいは転動体22と外輪20との接触部から、いわゆる近距音場限界距離D以上とすることが好ましい。超音波の照射領域内での複雑な音圧分布が反射特性に及ぼす影響を避けるためである。近距音場限界距離Dは、
D=d2/4λ ・・(式1)
として表される。ここで、dは振動子の直径、λは超音波の波長を表す。
【0031】
なお、超音波探触子3を複数用い、複数個所の軸受外輪20と軸受ハウジング1との境界あるいは転動体22と外輪20との接触状態を監視することによって、単数の監視ではできない観点での測定が可能となる。例えば、複数の超音波探触子3からの出力の分布状態から、軸心に均等に荷重が掛かっているか否か、あるいは瞬間的に荷重が掛かったときに軸受1全体としてどのような挙動(例えば回転位置のズレなど)をするか、など非定常状態での測定が可能となる点においても優位性が高い。
【0032】
<超音波探触子による軸受の動作を観測する方法>
次に、超音波探触子3を用いて軸受の動作を観測する方法の原理を説明する。図1において、超音波探触子3から発せられた超音波は、軸受ハウジング1と軸受外輪20とのあるいは転動体22と外輪20との境界に向かい、一部はその境界から透過し、残りは境界で反射する。この反射波を超音波探触子3により受信する。例えば、軸受ハウジング1と軸受外輪20との密着度が大きい(固体接触面積が大きい)と発せられた超音波は境界から透過しやすくなり、この透過率は上記密着度にほぼ比例する。
【0033】
本発明において、上記反射波の大きさを定量的に表すために、エコー高さ比と呼ばれる物理量を用いる。エコー高さ比(H)とは、
H=(1−h/h0)×100 ・・(式2)
により定義される。hは外的な軸受荷重(図1にWで示す。)が作用している時のエコー高さであり、h0は外的な軸受荷重が作用していない時(無負荷時)のエコー高さである。なお100倍しているのは%表示するためであり、これに限定されるものではない。軸受荷重が大きいほど軸受2と軸受ハウジング1の密着度は大きくなり、hは小さくなる(反射波の大きさは小さくなる)ため、エコー高さ比Hは大きくなる。
【0034】
図2は、回転軸4を回転駆動した場合の観測例を示す図である。縦軸はエコー高さ比H(%)を示し、横軸は時間(μs)を示す。エコー高さ比曲線は周期的な繰り返し波形で表されるが、転動体22が超音波探触子3の直下に来たときにエコー高さ比Hは最大値HMを示し、転動体22と転動体22の間が超音波探触子3の直下にあるときにエコー高さ比Hは最小値Hmを示す。
【0035】
<軸受損傷評価装置の主要部の構成>
次に、軸受損傷評価装置として機能するパソコン6の主要部の構成を図3に示す。パソコン6は、表示装置60と、CPU61と、RAM62を有している。また、軸受損傷評価プログラムが格納されているプログラムファイル63と、データファイル64とを有している。これらはデータバスを介して接続されている。軸受損傷評価プログラムは、パソコン6にエコー高さ比算出手段63a、差分値算出手段63b、平均値算出手段63c、波形解析手段63d等の機能を実現させるためのプログラムが格納されている。このプログラムは、RAM62に読み込まれた状態で実行される。また、このプログラムはCD−ROMやフロッピー(登録商標)ディスク等の記録媒体を用いてパソコン本体内にインストールすることができる。
【0036】
エコー高さ比算出手段63aの機能については前述したとおりである。
【0037】
また、差分値算出手段63bは、前述の差分値を演算する手段をいい、具体的には、特定計測時間txの前後n個の単位時間t−n〜t+nを設定し、計測時間txにおけるエコー高さ比Hxと計測時間t−n〜t+nのエコー高さ比の平均値Havとの差、あるいは計測時間txにおけるエコー高さ比Hxを、計測時間t−n〜t+nのエコー高さ比の平均値Havで除した値を算出する(2n+1点差分値という)。絶対値としてのエコー高さ比に影響されずに変化率を算出し、各時間でのエコー高さ比を標準化することができる。また、実際の評価においては、顕著化のために差分結果をさらに4乗(あるいは2乗)した結果を使用することが好ましい。
【0038】
平均値算出手段63cでは、所定の時間幅を設定し、その時間経過毎に平均値を算出する方法もあるが、所定の時間幅を設定し、単位時間毎に新たなエコー高さ比を取入れて(最も古いデータは廃棄する)算出する移動平均値を算出する方法が好ましい。スムージングされた瞬時のデータを入手することができるためである。なお、本願においては、平均する母数nに応じて「n点平均値」と表現することがある。ここで、nは、評価する対象の損傷の大きさや精度などによって任意に設定することができる。
【0039】
データファイル64には、軸受荷重をゼロに設定したとき、または2つの転動体の中央の位置を測定したときに得られたエコー高さ(h0)のデータがエコー高さデータファイル64aとして書き込まれている。また、エコー高さ比Hと軸受荷重Wの関係を表す関係式(または、関係を表すテーブル)として関係式データファイル64bが書き込まれている。
【0040】
<軸受の損傷部位の評価方法>
次に、軸受の損傷部位の評価方法を概略的に説明する。
【0041】
(1)軸受の実動中に得られるエコー高さ比の波形信号は、図2のような概略正弦波となる。すなわち、実動中は軸受の転動体も回転移動する。超音波探触子の直下に転動体が位置するときと、そうでないときでは軸受ハウジングと軸受外輪との境界における密着度が異なる。超音波探触子の直下に転動体が位置するときは、エコー高さ比は最大となり、超音波探触子の直下に転動体と転動体の間が位置するときは、エコー高さ比は最小となる。従って、転動体の移動に応じてエコー高さ比の波形信号は、正弦波あるいは正弦波に近い周期的な繰り返し波形である。軸受に異常が発生していない状態では、エコー高さ比波形は滑らかな曲線となる。
【0042】
ここで、軸受に損傷が発生するとエコー高さ比の波形信号が正常な状態から変形する。例えば、図4のように、軸受に異常が発生した状態のエコー高さ比波形に局部的(突発的)な凸部(Aで示す)と、局部的な凹部(Bで示す)が見られる。局部的な凸部は、軸受の転動体が磨耗粉を噛みこんだために転動体の支持荷重が上昇したものと考えられる。また、局部的な凹部は、軸受の内輪に損傷が生じ転動体の支持荷重が下降したために発生したものである。さらに、凸部や凹部の幅、および凸部の高さや凹部の深さについても損傷の大きさと深い関係があり、損傷の程度が大きくなると波形の凸部や凹部の幅、および凸部の高さや凹部の深さも大きくなると考えられる。従って、凸部や凹部の幅、および凸部の高さや凹部の深さから損傷の大きさを推定することが可能である。
【0043】
このように、凸部や凹部を解析することにより軸受損傷の評価を行うことができ、凸部や凹部の幅や高さ(深さ)を求めることにより、損傷の大きさを推定することができ、定性的だけでなく定量的な損傷の評価も行うことができる。
【0044】
なお、損傷の評価においては、エコー高さ比Hがゼロに近い値の場合、以下の演算において差分値が非常に大きく変動する場合があって正確な処理ができないことから、図4のように、エコー高さ比Hに所定の閾値H0を設定し、それ以下のエコー高さ比Hについては、演算の対象外とする方法が好ましい。閾値の設定は、対象となる軸受や負荷の大きさあるいは負荷の掛け方などによって経験的に決めることが可能である。
【0045】
(2)正弦波状の波形信号が変形して波形の一部に凸部や凹部が発生すると、凸部や凹部の端部に相当する波形信号の勾配(1次差分値)が急激に変化する。具体的には、前後において正方向の勾配が急に負方向の勾配となる場合、あるいは逆に負の勾配が急に正勾配に変化する場合が該当する。従って、1次差分値の大きさを、損傷評価の1つの指標とすることができる。また、1次差分値の急激な変化は波形信号の2次差分値の大きさとして捉えることができる。従って、1次差分値の大きさを、損傷評価の1つの指標とすることができる(指標A)。
【0046】
ここで、勾配の算出において、曲線を多次元の関数に近似してその微分を算出する方法もあるが、発明者の知見として、損傷によって生じる凹部は、その損傷の状態によって種々の曲線となることから、上記の差分値による評価がより正確にその形状にあった勾配(1次差分値)あるいは勾配の変化率(2次差分値)を示していることを見出した。
【0047】
具体的には、図5(A)のようにK部に損傷が生じた場合を例に挙げると、図5(B)では、図5(A)において閾値H0としてエコー高さの約10%を設定し、1次差分を行った結果を示している(具体的には、13点差分を行った結果を4乗した値を示している)。この場合、1次差分では、K部を含め、多くの測定点(計測時間)において異常の存在を示唆しているが、K点において特異的に大きな値を示すことから、この部分における損傷の可能性を示唆している。
【0048】
実際の損傷部位の推定のためには、1次差分の結果を5点平均し、さらに2次差分(具体的には、2点差分後4乗する)している。その結果、図5(C)に示すように、測定点900近傍に異常があることを示唆しており、損傷の範囲をさらに限定することが可能となる。
【0049】
(3)次なる検討結果として、正弦波状の波形信号に変形が生じた場合、凸部や凹部の端部に相当する波形信号の瞬時値だけではなく平均値あるいは差分値の平均値との組合せのよって、損傷評価の1つの指標とし、波形信号の変形を推定することができる(指標B)。
【0050】
(3−1)図6(A)のように、測定点460近傍に損傷が生じた場合を例に挙げる。測定された波形信号の勾配を求め、1次差分を行った結果を図6(B)に示している(具体的には、2点差分を行った結果を示している)。また、1次差分の結果を10点平均した結果を、図6(C)に示している。
【0051】
この場合、1次差分では、測定点460近傍を含め、多くの測定点において大きな変化が見られ、損傷の特定は困難である。特に、ベース付近のデータの1次差分値は非常に大きな変化をすることがあることから、損傷部位の推定にはこうしたデータを基にしないことが好ましい。以下の評価手順においては、図7に例示するように、図6(A)における勾配ゼロ付近のデータを取り除き、例えば、閾値を波形出力のピーク高さHMの20%として評価を行う。
【0052】
(3−2)次に、図8に例示するように、測定点における1次差分を行い、該1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲を超えた場合を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断する方法を挙げることができる(指標B1)。エコー高さ比の波形の頂点では、1次差分値がゼロに近い値であり、その近傍での変化は非常に敏感に1次差分値に影響され、異常の判断が他の部位と大きく異なるものとなる場合があり、本発明のように1次差分値の平均値に幅としての閾値を設定することによって、誤った判断を防止することができる。具体的には、1次差分値(2点差分)を10点平均し、さらに、その結果に±0.35幅の閾値を設定し、それを超えたものを取り出し評価する。
【0053】
図8の例においては、1次差分では、多くの測定点において大きな変化の存在を示唆しているが、1次差分値の平均値から設定された閾値の範囲を超える変化からは、測定点460および470近傍に異常があることを示唆している。ここで、閾値は±0.35を選択したが、軸受固有で設定可能な場合は予め設定することが好ましく、もし設定不可能な場合には、閾値を仮定し順次変更していくことで、1次差分値における大きな変化を生じた点と合致した点を異常と判断する方法も可能である。
【0054】
(3−3)また、異なる判断方法としては、図9に例示するように、特定の測定点における1次差分値が、対象となる軸受固有の閾値を超えた場合であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲を超えた場合を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断する方法を挙げることができる(指標B2)。具体的には、波形信号の勾配の突発的変化を検出するために、1次差分(2点差分)し、さらにその10点平均を求める。次に1次差分値が、その測定点における10点平均値を上閾値1.8倍した値以上である場合、あるいは下閾値0.1倍した値以下である場合には、その値を取り出し評価する。
【0055】
1次差分値では、多くの測定点において大きな変化の存在を示唆しているが、1次差分値の10点平均値から設定された閾値を0.1〜1.8とする範囲では、測定点365、370、460、470および540近傍に異常があることを示唆している。
【0056】
(3−4)さらに、図9から判るように、1次差分値あるいはその平均値がゼロとクロスする近傍における動きは、勾配の符号が変化するという非常にダイナミックな変化が生じるところであり、特に異常を判断する上で重要な役割を果たすと考えられる。図7においても、測定点460および470近傍に異常があることを示唆している(指標B3)。従って、1次差分値とその平均値を基にした判断基準にゼロクロスの要素を基準として加える方法も異常判断に有効である。
【0057】
(3−5)また、図9から判るように、1次差分値の平均値が負の領域にある測定点における1次差分値が急に正の領域に変化する場合、あるいは逆に1次差分値の平均値が正の領域にある測定点における1次差分値が急に負の領域に変化する場合についても異常を判断する上で重要な役割を果たすと考えられる。図9においても、測定点470近傍に異常があることを示唆している(指標B4)。
【0058】
(4)上記基準となる指標A、指標B1〜B4は、単独でも十分異常と推定することが可能であるとともに、これらの指標を任意に組み合わせ、複数の指標を満たすことを条件として損傷部位を推定することも可能であり、より精度の高い推定が可能となる。
【0059】
(5)なお、上記観測において、軸受の劣化が進むと軸受自体のガタが増加するため精度が低下する。つまり、軸受が正常な場合は、波形がキレイなため、ノイズとの分離が容易でありノイズも少ないが、劣化が進むと軸受のガタが増加するため、ノイズの増加自体が異常と判断される可能性がある。このとき、上記の閾値を変更することで、精度の低下を防止することができる。
【0060】
以上のように、本発明においては、波形解析手段63dによって、エコー高さ比の波形信号における局部的な凸部あるいは凹部から、軸受の内輪あるいは転動体に発生した損傷部位を推定することができる。また、同時に、損傷の両端部位を特定できる場合には損傷の幅を推定することができる。
【0061】
<軸受の損傷の大きさの評価方法>
損傷を評価するにあたり、その評価項目として凹部の大きさの評価が挙げられる。以下、図10(A)に示す観測例において、上記の方法でK部に凹部があることが判った場合について、軸受の損傷大きさの評価、つまり損傷の定量化の方法を概略的に説明する。
【0062】
(1)凹部の大きさは、図10(B)に示すように、凹部の幅Lfと凹部の深さ−ΔHfにより表すことができる。逆に、凸部の大きさは凸部の幅Lfと凸部の高さΔHfにより表すことができる。以下の説明では、凹部について述べるが、凸部についても同様の処理が可能である。つまり、本発明においては、磨耗粉(凸状)や損傷(凹状)の発生を同レベルで評価することができる。
【0063】
ここで、波形信号における凹部の開始点をp1とし凹部の終了点をp2とすると、Lfは点p1と点p2の横方向(時間軸方向)の幅を示す。また、凹部がないと仮定した場合の点p1と点p2の中間位置を点p3とし、点p3と凹部の最深位置の縦方向の距離を−ΔHfとする。Lfや−ΔHfは、波形解析手段63dによって演算する。かかる機能により、軸受の損傷を定量的に評価することができる。
【0064】
(2)上記において異常と判断した範囲について、以下の演算を行う。
(2−1)図10(A)のK部の近傍について、図5における処理と同様、所定の閾値H0を設定し、それ以下のデータを除く。
(2−2)上記閾値H0以上のエコー高さ比について1次差分値を算出する。ここでは、例えば9点差分を行い、その後4乗した値を絶対値化処理を行うことによって、図11(A)に示す結果を得ることができる。上記において異常と判断した範囲について限定し、データを拡大表示したものを図11(B)に示す。883近傍に大きなピークを有していることが判る。
(2−3)図11(B)に示す範囲における上記1次差分値に対し、図12(A)に示すように、所定の閾値ΔH0を設定し、それ以下のデータを排除する。ここでは、閾値ΔH0=0.02とした。
(2−4)次に、図12(B)に示すように、閾値ΔH0以上の差分値に対し、「01化」処理を行う。つまり、差分値が正の場合には「1」、ゼロの場合には「0」とする2値化処理を行う。
(2−5)上記の結果に対し、差分値の平均値を算出する(図12(C)参照)。例えば、9点の移動平均を求める。
(2−6)この平均値に所定の閾値Hsを設定し、それ以上の値の範囲幅Lf’を求める。図12(D)のように異常と確定しうる範囲を設定することができる。
(2−7)求めた幅Lf’を基に、図13(A)のように裕度(幅Lf’に所定の係数mを掛ける)を与えた範囲幅Lf”を求める。求めた幅Lf”を構成する波形上の点p4と点p5を求める。異常のない波形に限定することができる。係数mは損傷の状態や測定精度に応じて任意に設定する。
(2−8)次に、エコー高さ比の波形上の点p4〜点p5の間のデータを削除し、点p4までの実線部分データKaおよび点p5からの実線部分データKbを用いて、最小二乗法に基づき点p4〜点p5の間の破線部分データを推定する(図13(B)参照)。異常のない波形を確定することができる。本発明者の知見によれば、5次または6次の近似式を用いて最小二乗法を行うことによって精度の高い推定ができることが判った。
(2−9)図13(B)のように、推定されたエコー高さ比の破線部分データと実測データを基に、その差を算出し、異常値を求める。得られた異常値から損傷範囲の大きさを定量的に把握することができる。
【0065】
以上のように、本発明においては、波形解析手段63dによって、エコー高さ比の波形信号における局部的な凹部の大きさを推定することによって、軸受の内輪あるいは転動体に発生した損傷の大きさを推定することが可能となる。
【0066】
<軸受の劣化の評価方法>
上記の内容は、損傷部分の評価に関するものであるが、エコー高さ比の波形の評価に際しては、全体の波形の乱れから、軸受自体の劣化を判断することができる。つまり、図12に例示するように、正常時の波形に比較して劣化が進むと、微小な揺らぎ成分が波形全体に乗ってくる。つまり、波形の部分的な評価ではなく、波形全体の評価を行うことによって軸受の劣化を判断することができる。
【0067】
具体的には、エコー高さ比は理論的に面圧に比例することから、エコー高さ比の1次差分は、面圧の変動つまり支持荷重の変動を表すこととなる。また、エコー高さ比の2次差分は、支持荷重がどの程度の率で変化したか、つまり、ある意味では衝撃力に相当する現象(以下「衝撃」という)の発生に結び付いている。従って、図13のように、エコー高さ比の波形について全体の1次差分および2次差分を同一軸受の評価において経時的に追求すれば、軸受自体の劣化すなわち軸受のガタの発生に伴う衝撃の増加を検知することができる。
【0068】
また、このとき、上記の損傷評価のデータを併せて表記すると図13のように、損傷評価のデータは増減を繰り返しながら全体的に増加する結果が得られた。つまり、こうした評価方法は、軸受の劣化の評価においても非常に有効な方法となることを示している。
【0069】
以上のように、軸受の損傷の評価方法は、軸受の劣化の評価方法にも適用することができとともに、これらを総合的に評価することによって、従来にない優れた精度の軸受評価装置あるいは評価システムおよび評価プログラムを構成することができることとなった。
【0070】
<別実施形態>
(1)本発明が適用される軸受は特定の構造の軸受に限定されるものではない。例えば,通常の玉軸受だけでなくアンギュラ玉軸受にも応用することができる。例えば、ボールは単列ではなく複列の場合にも応用することができる。
【0071】
(2)本実施形態では、軸受損傷評価プログラムについてのみ説明しているが、このプログラムが他の目的のプログラムと一体になっていても良い。例えば、既知の軸受荷重を用いて軸受荷重とエコー高さ比の関係式を予め求めておけば、機械運転中に計測されるエコー高さ比から異常に伴う転動体支持荷重の変動量や軸受荷重を推定することができる。したがって、かかる軸受荷重を推定するプログラムと一体になっていてもよい。また、左右の超音波探触子3から得られるデータから偏荷重を得ることができるので、かかる機能を有するプログラムと一体になっていても良い。さらに別の機能を有するプログラムと一体になっていても良い。もちろん、このプログラムが記録される記録媒体についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る軸受損傷評価装置の構成を例示する概念図。
【図2】エコー高さ比波形の観測結果を示す説明図。
【図3】軸受損傷評価装置の主要部の構成を示す説明図。
【図4】損傷発生時におけるエコー高さ比波形の観測結果を示す説明図。
【図5】本発明に係る損傷部位の評価方法の1つを示す説明図。
【図6】本発明に係る損傷部位の評価方法の1つを示す説明図。
【図7】本発明に係る損傷部位の他の評価方法を示す説明図。
【図8】本発明に係る損傷部位の他の評価方法を示す説明図。
【図9】本発明に係る損傷部位の他の評価方法を示す説明図。
【図10】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法の最初のステップを示す説明図。
【図11】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法を次なるステップを示す説明図。
【図12】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法を次なるステップを示す説明図。
【図13】本発明に係る他の損傷の大きさの評価方法を最終のステップを示す説明図。
【図14】本発明に係る他の軸受の劣化の状態を示す説明図。
【図15】本発明に係る他の軸受の劣化の評価方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0073】
1 軸受ハウジング
2 軸受
3 超音波探触子
4 回転軸
5 超音波探傷器
20 外輪
21 内輪
22 転動体
H エコー高さ比
63a エコー高さ比算出手段
63b 差分値算出手段
63c 平均値算出手段
63d 波形解析手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価装置であって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出手段と、
求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出手段と、
前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出手段と、
前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析手段と、
を備えたことを特徴とする軸受損傷評価装置。
【請求項2】
軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価方法であって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、
求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出ステップと、
前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出ステップと、
前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析ステップと、
を備えたことを特徴とする軸受損傷評価方法。
【請求項3】
軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価プログラムであって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、
求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出ステップと、
前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出ステップと、
前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析ステップと、
をコンピュータに実行させるための軸受損傷評価プログラム。
【請求項4】
対象となる軸受固有の閾値を超える前記2次差分値に係る測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする請求項3に記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項5】
対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする請求項3または4に記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項6】
対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項7】
前記波形解析手段において、変形度が高いと判断された測定部位について、損傷の大きさを算出することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれかに記載の軸受損傷評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【請求項1】
軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価装置であって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出手段と、
求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出手段と、
前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出手段と、
前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析手段と、
を備えたことを特徴とする軸受損傷評価装置。
【請求項2】
軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価方法であって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、
求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出ステップと、
前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出ステップと、
前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析ステップと、
を備えたことを特徴とする軸受損傷評価方法。
【請求項3】
軸受が支持される軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を前記軸受に向けて発生させ、前記軸受ハウジングと前記軸受の外輪あるいは軸受の外輪と転動体との境界からの反射波を測定することにより、軸受に発生した損傷の評価を行う軸受損傷評価プログラムであって、
前記超音波探触子が受信した前記反射波からエコー高さ比を求めるエコー高さ比算出ステップと、
求められた前記エコー高さ比から、少なくとも1次または2次の差分値を求める差分値算出ステップと、
前記エコー高さ比または/および1次差分値または/および2次差分値の平均値を求める平均値算出ステップと、
前記エコー高さ比、1次差分値、2次差分値、および平均値から、エコー高さ比の波形信号の変形度合いを解析する波形解析ステップと、
をコンピュータに実行させるための軸受損傷評価プログラム。
【請求項4】
対象となる軸受固有の閾値を超える前記2次差分値に係る測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする請求項3に記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項5】
対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を加減する範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする請求項3または4に記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項6】
対象となる軸受固有の閾値を超える前記1次差分値に係る測定部位であって、かつ、該1次差分値の平均値に閾値を乗ずる範囲を超える測定部位を、エコー高さ比の波形信号の変形度が高いと判断することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項7】
前記波形解析手段において、変形度が高いと判断された測定部位について、損傷の大きさを算出することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の軸受損傷評価プログラム。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれかに記載の軸受損傷評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−214901(P2006−214901A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28714(P2005−28714)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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