説明

軸受構造

【課題】 本発明は、回転軸の回転時における分割ベアリングの抵抗の増加が抑えられる軸受構造を提供する。
【解決手段】 本発明の軸受構造は、回転軸4aを含む平面で分割された隣り合う分割ベアリング7a、7b同士の接触面bにおける各端部7c,7bの径方向の厚みを、回転軸の回転方向進み側に位置する一端7cの方が、回転方向遅れ側に位置する他端7dよりも薄く形成した。同構成により、予め分割ベアリング7a、7bの回転方向進み側に位置する端部7cの厚みを薄くしてあるから、たとえ組付誤差や製作誤差等が有っても、同端部7cが、回転方向遅れ側の端部7dよりも径方向内側に突出するのが抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転軸を、分割した環状のベアリングメタルを介して回転自在に支持する軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるレシプロ式エンジンのコンロッドでは、分割式の環状のベアリングメタルで構成される軸受構造を用いて、コンロッドの大端部をクランクシャフトのクランクピン(回転軸)に回転自在に支持し、ピストンの往復運動を回転運動に変換することが行われている。
こうしたクランクピンなど回転軸を受けるベアリングメタルは、一般に特許文献1に開示されているようにクランクピンを含む平面で分割した複数の分割ベアリングで形成され、当該分割ベアリングでクランクピンを回転自在に支持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1− 96519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、分割ベアリングの端部は、クランクピンなど回転軸に組み付ける際に、隣り合う端部同士の接触面(分割面)から圧力が加わり、径方向内側に変形することがある。この影響を考慮して、端部を中央部よりも薄く定めている分割ベアリングもある。
ところが、分割ベアリングは、組付誤差やベアリングの製作誤差等により、回転軸に組み付けた際に、回転軸の回転方向進み側に位置する端部が遅れ側の端部よりも径方向内側に突出してしまい、回転軸の回転時の抵抗が増加してしまう虞がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、回転軸の回転時における分割ベアリングの抵抗の増加が抑えられる軸受構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、回転軸を含む平面で分割された隣り合う分割ベアリング同士の接触面における各端部の径方向の厚みを、回転軸の回転方向進み側に位置する一端の方が、回転方向遅れ側に位置する他端よりも薄く形成した。
同構成によると、予め分割ベアリングの回転方向進み側に位置する端部の厚みを薄くしたことにより、たとえ組付誤差や製作誤差等が有っても、同端部が、回転方向遅れ側の端部よりも径方向内側に突出するのが抑えられる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、さらに本体とキャップとに二分割されたコンロッドにおいて、軸穴に組み付けた分割ベアリングが、コンロッドの本体とキャップとの分割面と平行な方向へのずれないよう、内燃機関は、前記回転軸が挿通される軸穴を有するコンロッドを備え、コンロッドは、軸穴を二分割するキャップと本体とから形成され、分割ベアリングは、接触面をキャップと本体との分割面から軸穴の周方向にオフセットして軸穴に嵌合されるものとした。
【0008】
請求項3に記載の発明は、さらに厚みが薄い回転方向進み側の端部に高い面圧が加わらないよう、分割ベアリングは、接触面を、本体とキャップとの分割面よりも回転軸の回転方向遅れ側となる周方向にオフセットして軸穴に嵌合するものとした。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、予め分割ベアリングの回転方向進み側に位置する端部の厚みは薄くしてあるから、たとえ組付誤差や製作誤差等があっても、同端部が回転方向遅れ側に位置する端部よりも径方向内側に突出するのを抑えることができる。
それ故、回転軸の回転時における分割ベアリングの抵抗の増加を抑制することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、本体とキャップとから形成されたコンロッドにおいては、軸穴に嵌る分割ベアリング同士の接触面が、本体とキャップとの分割面からオフセットしてあるため、分割ベアリングの、コンロッドの本体とベアリングの分割面と平行な方向へのずれを抑えることができる。
請求項3の発明によれば、さらに分割ベアリング同士の接触面を、本体とキャップとの分割面よりも回転軸の回転方向遅れ側となる周方向にオフセットしたことにより、分割ベアリングの回転方向進み側の端部、つまり厚みの薄い端部は、コンロッドからは高い面圧が加わり難くなり、分割ベアリングの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受構造を適用したコンロッドを、内燃機関のピストン、クランクシャフトと共に示す斜視図。
【図2】同コンロッド廻りを示す一部断面した正面図。
【図3】図2中のA部の詳細を示す斜視図。
【図4】コンロッドの本体、キャップを、分割ベアリングと共に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図1〜図4に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1はレシプロ式エンジン(内燃機関)のクランクシャフト廻りを示し、図2は同クランクシャフトに組付いているコンロッド、図3は同コンロッドの要部分を示し、図4はコンロッドの全体を示している。
すなわち、図1,2中1はシリンダブロックであり、2は、同シリンダブロック1に形成されたシリンダであり、3は、同シリンダ2内に往復動可能に収められたピストンであり、4は、同シリンダ2と対応するシリンダブロック1に組付けられたクランクシャフトであり、5は、ピストン3のピストンピン3aとクランクシャフト4のクランクピン4a間をつなぐコンロッド(コネクティングロッド)である。
【0013】
コンロッド5は、図4に示されるように上端部(一方の端部)に小端部5aを有し、下端部(他方の端部)に大端部5aを有したロッド部材で形成される。小端部5aはピストン4のピストンピン3aに嵌り、大端部5bはクランクピン4aに嵌り、ピストン4の往復運動を回転運動に変換する構造にしている。
このうち大端部5bは、図2に示されるように環状のベアリングメタル7を用いた軸受構造によって、クランクピン4a(本願発明の回転軸に相当)に回転自在に支持される。同大端部5bの軸受構造には、図2および図4に示されるようにクランクピン4aが挿通する軸穴9の中心を境に、同軸穴9を二分割するように大端部5bを、ロッド本体11(本願の本体に相当)とキャップ12とに分ける。aは、ロッド本体11とキャップ12の分割面を示す。ベアリングメタル7は、クランンクピン4aを含む平面で複数に分割、ここでは二分割した半円形状の分割ベアリング7a,7bから構成され、同分割ベアリング7a,7bを上記ロッド本体11の半円形状の軸穴9a、キャップ12の半円形状の軸穴9bに嵌めて、クランクピン4aを回転自在に支持する構造が用いられる。
【0014】
具体的には、ロッド本体11の軸穴9a(半円形状)およびキャップ12の軸穴9b(半円形状)に、半円形状の分割ベアリング7a,7bをそれぞれセットし、これらロッド本体11とキャップ12とを、クランクシャフト4の縦壁4b(カウンタウェイトなど)間に有るクランクピン4aに対して挟み込むように配置し、クランプピン4aの周りに分割ベアリング7a,7bを配置させる。分割面aでロッド本体11とキャップ12とを重ね合わせ、分割ベアリング7a,7bの端部同士を、同ベアリング7a,7bの分割面b(本願の接触面に相当)で合わせ、ロッド本体11とキャップ12とをキャップボルト14で締結する構造が用いられる。
【0015】
このコンロッド5の大端部5bの軸受構造に本発明が適用されている。
これは、図2中のA部、図3に示すA部を拡大した斜視図および図4に示されるように隣り合う分割ベアリング7a,7b同士のうち、分割面b(接触面)で隣り合う各端部7c、7dの径方向の厚みを、クランクピン4a(回転軸)の回転方向の進み側、遅れ側で変えたものである。具体的には、隣り合う分割ベアリング7a,7b同士の分割面bを挟んで一方に配置されるクランクピン4a(回転軸)の回転方向(矢印方向)進み側に位置する端部7c端の径方向の厚み寸法T1を、回転方向(矢印方向)遅れ側に位置する端部7d端の径方向の厚み寸法T2よりも薄く形成している(T1>T2)。ここでは端部7cは、内周面を端に向かうにしたがって厚みが減少するように斜めに切欠いて、厚みを薄くしている(内周側から薄く)。
【0016】
また同構造に加え、分割ベアリング7a,7bは、図2および図4に示されるように分割面b(接触面)を、ロッド本体11とキャップ12との分割面aから、軸穴9a,9bの周方向へオフセットさせて、軸穴9a,9bに嵌合されている。ここでは、分割面bを分割面aよりも所定の角度αだけ、クランクピン4aの回転方向の回転方向遅れ側へオフセットして軸穴9a,9bに嵌合させている。
【0017】
このような分割ベアリング7a,7bの組み付けに際し、組付誤差や製作誤差等により、分割面bへ圧力が加わり、分割ベアリング7a,7bのクランクピン4aの回転方向進み側の端部7cが変形して、回転方向遅れ側の端部7dより、径方向内側に突出することが懸念される。
このとき、予め分割ベアリング7a,7bの回転方向進み側に位置する端部7cの厚みは、回転方向遅れ側に位置する端部7dの厚みよりも薄くしてある。
【0018】
このため、たとえ組付誤差や製作誤差等が有っても、分割ベアリング7a,7bの回転方向進み側の端が、回転方向遅れ側の端よりも径方向内側に突出するのが抑えられる。それ故、クランクピン4a(回転軸)の回転時の抵抗の増加を抑制することができる。
しかも、ロッド本体11とキャップ12とから形成されたコンロッド5においては、軸穴9a,9bに嵌る分割ベアリング7a、7b同士の分割面b(接触面)を、ロッド本体11とキャップ12との分割面aから周方向にオフセットしたことにより、分割ベアリング7a,7bの、ロッド本体11とキャップ12との分割面aと平行な方向へずれを抑えることができる。
【0019】
そのうえ、分割ベアリング7a,7bは、分割面b(接触面)を、ロッド本体11とキャップ12との分割面aよりも,クランクピン4aの回転方向遅れ側となる周方向にオフセットしたことにより、厚みを薄くした回転方向進み側の端部7cに高い面圧が加わり難くすることができる。すなわち、コンロッド5からクランクピン4aに加わる力に起因して、分割ベアリング7a,7bは、コンロッド本体11とキャップ12との分割面aよりも回転方向進み側で比較的高い面圧が加わる。そこで、分割ベアリング7a,7bは、ロッド本体11とキャップ12との分割面aよりも、分割面bをクランクピン4aの回転方向遅れ側にオフセットして、厚みが他の部分よりも薄い分割ベアリング7a,7bの端部に高い面圧を加わり難くした。これにより、分割ベアリング7a,7bの耐久性を向上させることができる。
【0020】
なお、本発明は一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば一実施形態では、コンロッドの大端部に本発明を適用したが、他の軸受構造に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0021】
3 ピストン
4 クランクシャフト
4a クランクピン(回転軸)
5 コンロッド
9a,9b 軸穴
7a,7b 分割ベアリング
7c 回転方向進み側の端部
7d 回転方向遅れ側の端部
11 ロッド本体(本体)
12 キャップ
a 本体とキャップとの分割面
b 分割ベアリングの分割面(接触面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転軸を環状のベアリングメタルを介して回転自在に支持する軸受構造であって、
前記ベアリングメタルは、前記回転軸を含む平面で分割される複数の分割ベアリングから形成され、
隣り合う前記分割ベアリング同士の接触面における各端部の径方向の厚みは、前記回転軸の回転方向進み側に位置する一端の方が、前記回転方向遅れ側に位置する他端よりも薄く形成されている
ことを特徴とする軸受構造。
【請求項2】
前記内燃機関は、前記回転軸が挿通される軸穴を有するコンロッドを備え、
前記コンロッドは、前記軸穴を二分割するキャップと本体とから形成され、
前記分割ベアリングは、前記接触面を前記キャップと本体との分割面から前記軸穴の周方向にオフセットして前記軸穴に嵌合される
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受構造。
【請求項3】
前記分割ベアリングは、前記接触面を前記分割面よりも前記回転軸の回転方向遅れ側となる前記周方向にオフセットして前記軸穴に嵌合される
ことを特徴とする請求項2に記載の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2556(P2013−2556A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134265(P2011−134265)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】