軸受装置および軸受部材の製造方法
【課題】 この種の軸受装置における軸受隙間を低コストに設定する。
【解決手段】 電鋳部4をインサート部品とする軸受部材3のインサート成形を、成形金型11、12の、形成すべき円弧面3bと同数でかつ各円弧面3bの周方向中央に対応した箇所に点状ゲート14を配設して行うことで、樹脂部5の周方向点状ゲート14間にウェルド発生領域16を生じる。このウェルド発生領域16とこれ以外の周方向領域との間に生じる成形収縮量差で真円状軸受面3a’を一部外径側に後退させ、軸受部材3の軸受面3aに複数の円弧面3bを形成する。
【解決手段】 電鋳部4をインサート部品とする軸受部材3のインサート成形を、成形金型11、12の、形成すべき円弧面3bと同数でかつ各円弧面3bの周方向中央に対応した箇所に点状ゲート14を配設して行うことで、樹脂部5の周方向点状ゲート14間にウェルド発生領域16を生じる。このウェルド発生領域16とこれ以外の周方向領域との間に生じる成形収縮量差で真円状軸受面3a’を一部外径側に後退させ、軸受部材3の軸受面3aに複数の円弧面3bを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受面となる軸受部材の内周面を円筒状の金属部で構成した軸受装置、および軸受部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受装置は自動車、一般機器、精密機器、電気、電子といった各分野で機構部品として広く用いられている。特に回転体を支持する滑り軸受や流体軸受等では、その軸受面精度が軸受性能を大きく左右することから、高い軸受面精度を得るため、従来から多種多様の提案がなされている。
【0003】
例えば、特開2003−56552号公報(特許文献1)では、電鋳部をインサート部品として一体に型成形した軸受部材(電鋳軸受部材)が提案されている。この軸受部材は、電鋳部の成形母体となるマスター軸のマスキング部以外の領域に電鋳殻である円筒状の電鋳部を形成し、この電鋳部をインサート部品として軸受部材を型成形した後、軸受部材の電鋳部をマスター軸から分離することで、分離面となる電鋳部の内周面をそのまま軸受面として使用可能としたことを特徴とするものである。
【特許文献1】特開2003−56552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の軸受を、特にHDD等のディスク駆動装置をはじめとする情報機器用のスピンドルモータに組み込んで使用する場合には、より高い回転精度および高軸受剛性が求められ、上記要求性能を満足するためには、軸受面の精度のみならず、軸受面とこの面に対向する軸部材の外周面との間の軸受隙間を高精度に管理することが必要になる。しかしながら、この種の軸受では、その隙間幅が微小であることから、隙間設定のために機械加工等で入念な仕上げ加工を行う必要があり、製造コストの高騰を招く。
【0005】
本発明の課題は、この種の軸受装置における軸受隙間を低コストに設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形品で、かつ金属部の内周面で軸受面を構成する軸受部材と、軸受部材の内周に挿入される軸部材とを備え、樹脂部の円周方向の複数箇所に他所と比べて内周面の成形収縮量を増加させる収縮量増加部を設け、収縮量増加部とこれ以外の部分との間に生じる成形収縮量差で軸受面を変形させ、変形した軸受面とこれに対向する軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成した軸受装置を提供する。
【0007】
このように、本発明では、樹脂部の円周方向の複数箇所に収縮量増加部を設け、この収縮量増加部とこれ以外の部分との間に生じる成形収縮量差で軸受面を変形させ、変形した軸受面とこれに対向する軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成した。これによれば、軸受部材の型成形と同時に、軸受隙間を設定することができるので、型成形後、軸受隙間を設定するための仕上げ加工等を別途追加する手間を省いて、かかるコストを低減することができる。
【0008】
上記軸受面の変形により、軸受面を例えば複数の円弧面で構成し、対向する軸部材の外周面との間に、その隙間幅が円周方向に漸次縮小する軸受隙間を形成することもできる。かかる構成によれば、例えば真円状外周面を有する軸部材との間に潤滑流体の動圧作用を生じ、これを以って軸部材をラジアル方向に非接触支持することが可能となる。従って、軸部材のラジアル支持力をより一層高めて、この種の軸受装置の軸受剛性や回転精度を高めることができる。特に、多円弧面の場合には、仕上げ加工が困難となるが、上述のように軸受面を変形させることで、この種の円弧面を容易に形成することができる。
【0009】
上記収縮量増加部は、例えばウェルドで形成することができる。この種のウェルド(ウェルドマーク、ウェルドラインともいう。以下同じ。)は、成形型内に充填された溶融樹脂が、ゲート形状やその数、あるいは配置態様に起因して型内で異なる方向から合流することで生じるものであり、本来は成形品強度の低下を招くものとして敬遠されがちであるが、本発明では、このウェルドを積極的に活用することにより、樹脂部内周面の成形収縮量差を生じさせることを特徴とするものである。すなわち、ウェルド発生領域では、ウェルドを生じない周方向他所に比べて外径方向への成形収縮量が大きいことから、このウェルド発生領域を中心に樹脂部の内周面が収縮するのに伴い、内径側に位置する円筒状の金属部が外径側に引張られ、その内周面(軸受面)が変形する。この結果、外径側への変形量が最大となる箇所を内周面の最外径部、つまり各円弧面のつなぎ目部分とする多円弧面が軸受部材の内周に形成される。
【0010】
樹脂部内周面の成形収縮量差は、上記ウェルドを利用したものの他、樹脂部の肉厚の変化を以って生じることが可能である。すなわち、収縮量増加部を厚肉部で形成することによって、厚肉部と厚肉部以外の箇所との間で樹脂部内周面の成形収縮量差を生じることができる。これにより、厚肉部では、他所に比べて樹脂部内周面の成形収縮量が増加し、この厚肉部を中心に電鋳部が外径側に引張られ、その内周面が変形する。もちろん、収縮量増加部を、ウェルドおよび厚肉部の双方で形成しても構わない。
【0011】
金属部は、例えば電鋳加工で形成された電鋳部とすることもできる。電鋳加工は、マスター表面に金属イオンを電着(電解析出)させて金属層を形成する技術であり、電鋳加工の特性上、電鋳部の内面にはマスターの表面形状がミクロンオーダーまで高精度に転写される。そのため、マスターの表面精度を高め、かつ電鋳部の内周面を軸受面として使用すれば、特段の後加工を施すことなく、高い面精度を有する軸受面を低コストに得ることができる。
【0012】
また、前記課題を解決するため、本発明は、円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形により、金属部の内周に挿入した軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成する軸受部材を製造するに際し、樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の固化時に金属部の内周面を変形させて、軸受隙間の隙間幅を円周方向でコントロールすることを特徴とする軸受部材の製造方法を提供する。
【0013】
上述の方法によれば、軸受部材の型成形と同時に軸受隙間を設定することができるので、機械加工等による軸受隙間の設定工程を省略して、かかるコストを低減することができる。また、軸受隙間の隙間幅を円周方向でコントロールすることで、任意形状、例えば隙間幅を不均一とする軸受隙間を形成することができる。従って、必要に応じて、例えば潤滑流体の動圧作用で軸部材を非接触支持する動圧軸受を形成することもでき、かかる軸受剛性や回転精度をより高めることができる。
【0014】
動圧軸受として、例えば軸受隙間の隙間幅を、円周方向の複数箇所で円周方向に漸次縮小させた、いわゆる多円弧軸受を構成することもできる。
【0015】
軸受隙間の隙間幅は、例えば点状ゲートを円周方向の複数箇所に設けることにより、樹脂部にウェルドを形成して樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせてコントロールすることができる。
【0016】
あるいは、樹脂部の肉厚を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせてコントロールすることができる。
【0017】
上記構成の軸受装置、および上記製造方法で製造された軸受部材を有する軸受装置は、例えばこの軸受装置を備えたモータとして好適に提供可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、この種の軸受装置における軸受隙間を低コストに設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る軸受装置1の断面図を示す。同図において、軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2を内周に挿入可能な軸受部材3とを備える。このうち軸受部材3は、円筒状の電鋳部4と、電鋳部4を樹脂でモールドした樹脂部5とを備える。
【0021】
軸受部材3の内周面の全面又は軸方向の一部領域に設けられる軸受面3aは電鋳部4の内周面で構成され、この軸受面3aには例えば図2に示す複数の円弧面3bが形成される。この実施形態では、円弧面3bは、回転軸心Oからそれぞれ等距離オフセットした点を中心とする偏心円弧面であり、円周方向で等間隔に3面形成される。この偏心円弧面3bは、対向する軸部材2の真円状外周面2aとの間に、後述するラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間3cを形成する。各ラジアル軸受隙間3cは、その隙間が最大となる偏心円弧面3b、3b間のつなぎ目部分から互いに離隔する方向に対して漸次縮小した形状をなす。なお、図2では、軸受部材3と軸部材2との間の径方向隙間の形状を理解し易くするため、その隙間寸法を、軸部材2の径方向寸法に比べて大きく(誇張して)描いている。
【0022】
上記構成の軸受装置1において、軸部材2の回転時、軸受部材3の軸受面3aに形成された複数の円弧面3bはラジアル軸受面として、軸部材2の外周面2aとラジアル軸受隙間3cを介して対向し、それぞれ多円弧軸受(テーパ軸受とも称される)を構成する。軸部材2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間3c内に満たされた潤滑油が隙間3cの漸次縮小側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような円弧面3b(くさび状隙間)の動圧作用によって、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部Rが構成される。
【0023】
以下、軸受装置1の製造工程を、軸受部材3の製造工程を中心に説明する。
【0024】
軸受部材3は、電鋳加工で使用するマスター軸6の所要領域をマスキングする工程、電鋳加工を行って非マスキング部に電鋳殻である電鋳部4を形成する工程、電鋳部4およびマスター軸6をインサート部品として軸受部材3の型成形(インサート成形)を行う工程、および電鋳部4とマスター軸6とを分離する工程を経て製作される。
【0025】
電鋳部4の成形母体となるマスター軸6は、例えば焼入処理をしたステンレス鋼で断面輪郭真円状に形成される。マスター軸6の材料としては、ステンレス鋼以外にも、例えばクロム系合金やニッケル系合金など、マスキング性、導電性、耐薬品性を有するものであれば金属、非金属を問わず任意に選択可能である。マスター軸6を軸部材2として使用する場合には、上記特性の他、軸受の構成部品として求められる、機械的強度、剛性、摺動性、耐熱性等を満たす材料であることが望ましい。この場合、マスター軸6の外表面の少なくとも電鋳部4の形成予定領域に、電鋳部4との間の摩擦力を減じるための表面処理、例えばフッ素系の樹脂コーティングを施すのが望ましい。
【0026】
マスター軸6は、むく軸(中実軸)の他、中空軸あるいは中空部に樹脂を充填した中実軸であってもよい。また、マスター軸6の外周面精度は、軸受部材3の軸受面3aとなる電鋳部4の内周面の面精度を直接左右するので、なるべく高精度に仕上げておくことが望ましい。
【0027】
マスター軸6の外表面には、図3に示すように、電鋳部4の形成予定領域を除き、マスキングが施される。マスキング部8形成用の被覆材としては、非導電性、および電解質溶液に対する耐食性を有する材料が選択使用される。
【0028】
電鋳加工は、NiやCu等の金属イオンを含んだ電解質溶液にマスター軸6を浸漬し、電解質溶液に通電して目的の金属をマスター軸6の外表面のうち、マスキング部8以外の領域に電解析出させることにより行われる。電解質溶液には、カーボンなどの摺動材、あるいはサッカリン等の応力緩和材を必要に応じて含有させてもよい。析出金属の種類は、軸受の軸受面に求められる硬度、疲れ強さ等の物理的性質、化学的性質に応じて適宜選択される。
【0029】
以上の工程を経ることにより、図4に示すように、マスター軸6外周のマスキング部8以外の領域に円筒状の電鋳部4を形成した電鋳軸7が製作される。この段階で、マスター軸6の外周面と密着状態にある電鋳部4の内周面は断面真円状をなす。なお、電鋳部4の厚みは、これが薄すぎると軸受面3aの耐久性低下等につながり、厚すぎるとマスター軸6からの剥離性が低下する可能性があるので、求められる軸受性能や軸受サイズ、さらには用途等に応じて最適な厚み、例えば10μm〜200μmの範囲に設定される。
【0030】
上記工程を経て製作された電鋳軸7は、軸受部材3をインサート成形する成形型内にインサート部品として供給配置される。
【0031】
図5は、軸受部材3のインサート成形工程を概念的に示すもので、固定型11、および可動型12からなる金型には、ランナ13および点状ゲート14と、キャビティ15とが設けられる。点状ゲート14は、同図に示すように、成形金型の、樹脂部5の軸方向一端面に対応する位置に形成され、かつこの実施形態では、図6に示すように、円周方向等間隔に3箇所形成される。また、各点状ゲート14のゲート面積は、充填する溶融樹脂の粘度や、成形品の形状に合わせて適切な値に設定される。
【0032】
上記構成の金型において、電鋳軸7を位置決め配置した状態で可動型12を固定型11に接近させて型締めする。次に、型締めした状態で、スプール(図示は省略する)、ランナ13、および点状ゲート14を介してキャビティ15内に溶融樹脂Pを射出・充填し、樹脂部5を電鋳軸7と一体に成形する。この際、各点状ゲート14からキャビティ15内に送り込まれた溶融樹脂Pは、各点状ゲート14からそれぞれ円周方向(図6中矢印の方向)に向けて流動し、各点状ゲート14、14間の中間位置(図6中、16で示す位置)で合流する。そのため、この中間位置では、いわゆるウェルド(ウェルドライン)が円周方向等間隔に3箇所生じる
【0033】
樹脂材料は、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂等の高機能結晶性ポリマーが使用可能であるが、この中でも特にウェルドを生じ易い液晶ポリマー(LCP)が好適である。もちろんこれらは一例にすぎず、既存の各種樹脂材料の中から軸受の用途や使用環境に適合した樹脂材料が選択され得る。必要に応じて強化材(繊維状、粉末状等の形態は問わない)や潤滑剤、導電化剤等の各種充填材を加えてもよい。
【0034】
型開き後、マスター軸6、電鋳部4、および樹脂部5が一体となった成形品を金型11、12から脱型する。この成形品は、その後の分離工程において電鋳部4および樹脂部5からなる軸受部材3(図1を参照)と、マスター軸6とに分離される。これにより、電鋳部4の内周面(マスター軸6との分離面)の全面又は一部を軸受面3aとする軸受部材3が得られる。また、樹脂部5に連結した点状ゲート14は、型開きに伴い樹脂部5と分断され、完成品としての軸受部材3の軸方向一端面に点状ゲート跡14’として残る。
【0035】
ところで、電鋳部4を薄肉円筒状に形成する場合、マスター軸6と分離する前の電鋳部4には、その内周面がマスター軸6から剥がれる方向に変位するのを妨げる向きの内部応力(残留応力)が生じる場合が多い。この残留応力は、例えば電鋳軸7に衝撃を与える等して電鋳部4の内周面とマスター軸6の外周面との間の密着状態を解消することにより解放される。この応力解放に伴い電鋳部4の内周面(軸受面3a)とマスター軸6の外周面との間に径方向の隙間が形成されるので、両者を分離することが可能となる。
【0036】
分離工程では、この原理を利用して軸受部材3とマスター軸6との分離が行われる。具体的には、電鋳軸7あるいは軸受部材3に衝撃を与え、電鋳部4の内周面を半径方向に拡径させて、マスター軸6の外周面との間に微小隙間(半径寸法で1μm〜数十μm程度)を形成する。この微小隙間は、本実施形態のように、マスター軸6をそのまま軸受装置1の軸部材2として使用する場合、軸受部材3と軸部材2との間のラジアル軸受隙間3c(図2を参照)として機能する。また、電鋳部4の分離手段としては、上記手段以外に、例えば電鋳部4とマスター軸6とを加熱(又は冷却)し、両者間に熱膨張量差を生じさせることによる方法、あるいは両手段(衝撃と加熱)を併用する手段等が使用可能である。なお、電鋳部4の拡径量は、例えば電鋳部4の肉厚や、電鋳部4の成形条件(電解液濃度、電流密度等)を変更することによって適宜調整することができる。
【0037】
このように、電鋳部4の軸受面3aがマスター軸6との分離に伴い拡径するが、これと同時に、樹脂部5の成形(固化)に伴い樹脂部5内部に生じた残留応力がマスター軸6の分離によって解放され、図7に示すように、樹脂部5の内周面5a(図7中実線部分)が外径方向への収縮(図7中1点鎖線部分)を生じる。この径方向収縮に伴い、樹脂部5の内周面5aと密着した電鋳部4も外径側に変位する。この場合、内周面5aの外径方向への収縮量は、特にウェルド発生領域16において大となるため、図7に示すように、予めマスター軸6の外周面に倣って形成された電鋳部4の真円状軸受面3a’のうち、ウェルド発生領域16と周方向に一致する領域では、他所に比べて外径側への後退量が大きくなる。これにより、電鋳部4の真円状軸受面3a’(図7中実線部分)が一部外径側に後退し、複数の円弧面3bを連続させた形状(図7中1点鎖線部分)に変形する。
【0038】
このように、軸受部材3の型成形後、電鋳部4とマスター軸6とを分離して、収縮量増加部としてのウェルド発生領域16とそれ以外の周方向他所との間で生じる外径方向への成形収縮量差を生じ、予め電鋳加工で形成された電鋳部4の真円状軸受面3a’の一部を外径側に変形(後退)させることで、複数の円弧面3bを形成し、円弧面3bとこれに対向する軸部材2の外周面2aとの間にくさび状のラジアル軸受隙間3cを形成することができる。これにより、真円状外周面を有するマスター軸6を使用した場合であっても、別途他の加工を追加することなく軸受部材3の軸受面3aを多円弧面形状とすることができ、かかる加工コストを大幅に低減することができる。
【0039】
特に、繊維等の充填材が配合された樹脂(溶融樹脂P)を使用する場合、成形後(固化後)の繊維配向は、繊維のサイズや配合比にもよるが、充填時の樹脂Pの流れ方向(例えば、図6を参照)に沿う形となることが多い。そのため、ウェルドが生じる領域(ウェルド発生領域)16では、異なる方向から合流した溶融樹脂Pが一部径方向へ流れ、これに倣って繊維が径方向に配向する。これにより、ウェルド発生領域16とそれ以外の周方向他所との間で生じる外径方向への成形収縮量差をより一層大きくすることができ、かかるラジアル軸受隙間3cの形成を確実かつ容易なものとすることができる。
【0040】
また、この実施形態では、マスター軸6をそのまま軸部材2として使用した場合を説明したが、例えば、マスター軸6とは別に製作した軸状の部材を軸部材2として用いることもできる。これによれば、一度高精度に製作したマスター軸6を繰返し転用することができるので、マスター軸6の製作コストを抑え、軸受装置1のさらなる低コスト化を図ることが可能となる。
【0041】
以上、収縮量増加部をウェルドで形成し、これを以って軸受面3aに複数の円弧面3bを形成した場合を説明したが、これ以外の方法により円弧面3bを形成することも可能である。
【0042】
図8は、軸受装置1の他の構成例を示す断面図である。同図における軸受装置1’は、特に軸受部材3を構成する樹脂部5の形状を、図1に示す形態とは異ならせた点を特徴とするものである。すなわち、樹脂部5は、その肉厚を周方向で異ならせた形状をなし、例えば他所に比べて肉厚な部分(厚肉部)5bを周方向等間隔に3箇所設けた形状をなす。
【0043】
この場合、樹脂部5の径方向への成形収縮量は、収縮量増加部を形成する厚肉部5bで最大となり、図8に示すように、電鋳部4の真円状軸受面3a’における外径側への後退量(内周面5aの収縮量)も厚肉部5bの内径側で最大となる。これにより、真円状の軸受面3a’(図8中1点鎖線部分)が複数の円弧面3b(図8中実線部分)形状に変形する。
【0044】
このように、樹脂部5の収縮量増加部を厚肉部5bで形成することによっても、厚肉部5bと厚肉部5b以外の箇所との間で径方向への成形収縮量差を生じ、軸受面3aを、複数の円弧面3bで構成される軸受面3aと軸部材2の外周面2aとの間にくさび状のラジアル軸受隙間3cを形成することができる。また、図8に示すように、厚肉部5bの周方向位置を、軸受面3aの内径が最大となる周方向位置、すなわち各円弧面3b間のつなぎ目部分と一致させることで、周方向幅を等しくした複数の円弧面3bを形成することができる。
【0045】
また、図8に示す形態では、樹脂部5の厚肉部5bを段状に外径側に突出させた形態を例示しているが、例えば樹脂部5の肉厚を周方向で滑らかに変化させた形態をとることもできる。その一例として、厚肉部5bをその周方向離隔方向に向けて漸次縮径させた構成を図9に示す。
【0046】
これら樹脂部5の外径側に厚肉部5bを設ける場合、図示は省略するが、さらに厚肉部5bの周方向位置を、各点状ゲートの周方向中間位置に一致させるように構成することで、より一層厚肉部5bにおける径方向収縮量を増加させることができる。これによれば、より確実に、軸受部材3の軸受面3aを多円弧面形状とすることが可能となる。また、両者を併用することで、軸受面3aの外径側への後退量をより大きくとることができるので、これら円弧面3bと、軸部材2の外周面2aとの間のラジアル軸受隙間3cのくさび形状をさらに鋭くすることができ、このくさび状隙間による動圧作用をより一層高めることができる。
【0047】
なお、何れの形態を採用する場合でも、軸受面3aを構成する電鋳部4の肉厚と、この電鋳部4の外径側に位置する樹脂部5の肉厚との比率(肉厚比)は、軸受部材3の真円状軸受面3a’の変形量(外径側への後退量)に影響を及ぼすことから、この肉厚比を適宜調整して外径側への後退量を制御することも可能である。
【0048】
また、電鋳部4の軸方向への抜止めを狙ったものとして、例えば図10に示す構成を挙げることができる。これは、電鋳部4の軸方向端部4aをフランジ状に塑性変形させた状態で軸受部材3をインサート成形したもので、この場合、フランジ状の端部4aが電鋳部4の軸方向の抜止めとして作用する。端部4aの塑性変形は、例えば図示は省略するが、樹脂部5のインサート成形時、より詳しくは金型11、12の型締め時に、金型11、12の型締め力によって電鋳部4の軸方向端部のみを外径側に塑性変形させるよう、金型11、12の形状を工夫する等して対応することができる。なお、この種の塑性変形は、マスキング部8の厚みが薄い場合など、電鋳部4の軸方向端部がマスキング部8側に突出し、かつマスター軸6の外周面と径方向に離隔した状態で形成される場合に特に有効である。なお、同様に図示は省略するが、上記塑性変形時、電鋳部4の端部(抜止め部)の外周面形状を、ランダムな凹凸を有する形状とすることで、高い回り止め効果が得られる。
【0049】
以上の実施形態では、円筒状の金属部として、電鋳部4を使用した場合を説明したが、本発明は、もちろん電鋳部4以外の円筒状金属部にも採用することができる。その場合、軸部材2と別体に形成された円筒状の金属部は、上記同様の方法でインサート部品として樹脂部5と一体に型成形され、樹脂部5に設けた収縮量増加部(ウェルド発生領域16、厚肉部5b)により外径側に変形することで、円弧面3bをはじめとする軸受面3aを形成可能となる。また、使用可能な金属部の材質や厚みは、樹脂部5の成形収縮に伴う外径側への変形量の他、軸部材との摺動特性等を考慮して適宜選択するのが好ましい。
【0050】
また、以上に説明したラジアル軸受部Rの多円弧軸受は、何れもいわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらには6円弧以上の数の円弧面3bで構成された多円弧軸受を採用してもよい。この場合には、点状ゲート14や、あるいは厚肉部5bを、円弧面3bの数に合わせて設けることで対応が可能となる。また、ラジアル軸受部Rは、例えば軸受面となる軸受面3aを軸方向に離隔して形成する等して、ラジアル軸受部Rを軸方向に離隔して2以上設けた構成とすることもできる。
【0051】
また、以上の実施形態では、軸受装置1、1’の内部に充満し、ラジアル軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも軸受隙間に動圧作用を生じ得る流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【0052】
以上説明した軸受装置1、1’は、例えば情報機器用のモータに組み込んで使用可能である。以下、軸受装置1を上記モータ用の軸受に適用した構成例を、図11に基づいて説明する。なお、図1、図2に示す実施形態と構成・作用を同一にする部位および部材については、同一の参照番号を付し、重複説明を省略する。
【0053】
図11は、軸受装置1を組み込んだモータ21の断面図を示している。このモータ21は、例えばHDD等のディスク駆動装置用のスピンドルモータとして使用されるものであって、軸部材22を回転自在に非接触支持する軸受装置1と、軸部材22に装着されたロータ(ディスクハブ)24と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル25およびロータマグネット26とを備えている。ステータコイル25は、ブラケット27の外周に取付けられ、ロータマグネット26はディスクハブ24の内周に取付けられている。ディスクハブ24には、磁気ディスク等のディスク状情報記憶媒体(以下、単にディスクと呼ぶ。)Dが一又は複数枚保持されている。ステータコイル25に通電すると、ステータコイル25とロータマグネット26との間の電磁力でロータマグネット26が回転し、それによって、ディスクハブ24及びディスクハブ24に保持されたディスクDが軸部材22と一体に回転する。
【0054】
この実施形態において、軸受装置1は、軸受部材3と、軸受部材3の内周に挿入される軸部材22と、軸受部材3の一端に装着され、軸部材22の下端と接触するスラストプレート23とを備えている。そして、軸部材22の回転時、軸部材22の外周面と軸受部材3の軸受面3aとのラジアル軸受隙間には、図示は省略するが、くさび状のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材22をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部Rが形成され、同時に、軸部材22の下端とスラストプレート23の上端面との間に、軸部材22をスラスト方向に回転自在に支持するスラスト軸受部Tが形成される。
【0055】
図11では、スラスト軸受部Tをいわゆるピボット軸受で構成した場合を例示しているが、この他にも、動圧溝等の動圧発生手段で軸部材22をスラスト方向に非接触支持する動圧軸受も使用可能である。
【0056】
本発明の軸受装置は、以上の例示に限らず、モータの回転軸支持用として広く適用可能である。この軸受装置は、ラジアル軸受部Rにおいて例えば多円弧軸受を構成することで、高い回転精度と軸受剛性を得ることができるため、上記HDD等の磁気ディスク駆動用のスピンドルモータを初めとして、高回転精度が要求される情報機器用の小型モータ、例えば光ディスクの光磁気ディスク駆動用のスピンドルモータ、あるいはレーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ等における回転軸支持用としても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受装置の断面図である。
【図2】軸受装置のA−A断面図である。
【図3】マスキングを施した状態のマスター軸を示す斜視図である。
【図4】電鋳軸の斜視図である。
【図5】軸受部材の型成形工程を概念的に示す図である。
【図6】軸受部材の型成形工程を概念的に示す図である。
【図7】樹脂部の成形時収縮を模式的に示す図である。
【図8】軸受装置の他の構成例を概念的に示す図である。
【図9】軸受装置の他の構成例を概念的に示す図である。
【図10】軸受部材の他の構成例を示す断面図である。
【図11】軸受装置を備えたモータの一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1、1’ 軸受装置
2 軸部材
3 軸受部材
3a 軸受面
3a’ 真円状軸受面
3b 偏心円弧面
3c ラジアル軸受隙間
4 電鋳部
5 樹脂部
5b 厚肉部
6 マスター軸
14 点状ゲート
16 ウェルド発生領域
21 モータ
R ラジアル軸受部
T スラスト軸受部
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受面となる軸受部材の内周面を円筒状の金属部で構成した軸受装置、および軸受部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受装置は自動車、一般機器、精密機器、電気、電子といった各分野で機構部品として広く用いられている。特に回転体を支持する滑り軸受や流体軸受等では、その軸受面精度が軸受性能を大きく左右することから、高い軸受面精度を得るため、従来から多種多様の提案がなされている。
【0003】
例えば、特開2003−56552号公報(特許文献1)では、電鋳部をインサート部品として一体に型成形した軸受部材(電鋳軸受部材)が提案されている。この軸受部材は、電鋳部の成形母体となるマスター軸のマスキング部以外の領域に電鋳殻である円筒状の電鋳部を形成し、この電鋳部をインサート部品として軸受部材を型成形した後、軸受部材の電鋳部をマスター軸から分離することで、分離面となる電鋳部の内周面をそのまま軸受面として使用可能としたことを特徴とするものである。
【特許文献1】特開2003−56552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の軸受を、特にHDD等のディスク駆動装置をはじめとする情報機器用のスピンドルモータに組み込んで使用する場合には、より高い回転精度および高軸受剛性が求められ、上記要求性能を満足するためには、軸受面の精度のみならず、軸受面とこの面に対向する軸部材の外周面との間の軸受隙間を高精度に管理することが必要になる。しかしながら、この種の軸受では、その隙間幅が微小であることから、隙間設定のために機械加工等で入念な仕上げ加工を行う必要があり、製造コストの高騰を招く。
【0005】
本発明の課題は、この種の軸受装置における軸受隙間を低コストに設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形品で、かつ金属部の内周面で軸受面を構成する軸受部材と、軸受部材の内周に挿入される軸部材とを備え、樹脂部の円周方向の複数箇所に他所と比べて内周面の成形収縮量を増加させる収縮量増加部を設け、収縮量増加部とこれ以外の部分との間に生じる成形収縮量差で軸受面を変形させ、変形した軸受面とこれに対向する軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成した軸受装置を提供する。
【0007】
このように、本発明では、樹脂部の円周方向の複数箇所に収縮量増加部を設け、この収縮量増加部とこれ以外の部分との間に生じる成形収縮量差で軸受面を変形させ、変形した軸受面とこれに対向する軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成した。これによれば、軸受部材の型成形と同時に、軸受隙間を設定することができるので、型成形後、軸受隙間を設定するための仕上げ加工等を別途追加する手間を省いて、かかるコストを低減することができる。
【0008】
上記軸受面の変形により、軸受面を例えば複数の円弧面で構成し、対向する軸部材の外周面との間に、その隙間幅が円周方向に漸次縮小する軸受隙間を形成することもできる。かかる構成によれば、例えば真円状外周面を有する軸部材との間に潤滑流体の動圧作用を生じ、これを以って軸部材をラジアル方向に非接触支持することが可能となる。従って、軸部材のラジアル支持力をより一層高めて、この種の軸受装置の軸受剛性や回転精度を高めることができる。特に、多円弧面の場合には、仕上げ加工が困難となるが、上述のように軸受面を変形させることで、この種の円弧面を容易に形成することができる。
【0009】
上記収縮量増加部は、例えばウェルドで形成することができる。この種のウェルド(ウェルドマーク、ウェルドラインともいう。以下同じ。)は、成形型内に充填された溶融樹脂が、ゲート形状やその数、あるいは配置態様に起因して型内で異なる方向から合流することで生じるものであり、本来は成形品強度の低下を招くものとして敬遠されがちであるが、本発明では、このウェルドを積極的に活用することにより、樹脂部内周面の成形収縮量差を生じさせることを特徴とするものである。すなわち、ウェルド発生領域では、ウェルドを生じない周方向他所に比べて外径方向への成形収縮量が大きいことから、このウェルド発生領域を中心に樹脂部の内周面が収縮するのに伴い、内径側に位置する円筒状の金属部が外径側に引張られ、その内周面(軸受面)が変形する。この結果、外径側への変形量が最大となる箇所を内周面の最外径部、つまり各円弧面のつなぎ目部分とする多円弧面が軸受部材の内周に形成される。
【0010】
樹脂部内周面の成形収縮量差は、上記ウェルドを利用したものの他、樹脂部の肉厚の変化を以って生じることが可能である。すなわち、収縮量増加部を厚肉部で形成することによって、厚肉部と厚肉部以外の箇所との間で樹脂部内周面の成形収縮量差を生じることができる。これにより、厚肉部では、他所に比べて樹脂部内周面の成形収縮量が増加し、この厚肉部を中心に電鋳部が外径側に引張られ、その内周面が変形する。もちろん、収縮量増加部を、ウェルドおよび厚肉部の双方で形成しても構わない。
【0011】
金属部は、例えば電鋳加工で形成された電鋳部とすることもできる。電鋳加工は、マスター表面に金属イオンを電着(電解析出)させて金属層を形成する技術であり、電鋳加工の特性上、電鋳部の内面にはマスターの表面形状がミクロンオーダーまで高精度に転写される。そのため、マスターの表面精度を高め、かつ電鋳部の内周面を軸受面として使用すれば、特段の後加工を施すことなく、高い面精度を有する軸受面を低コストに得ることができる。
【0012】
また、前記課題を解決するため、本発明は、円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形により、金属部の内周に挿入した軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成する軸受部材を製造するに際し、樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の固化時に金属部の内周面を変形させて、軸受隙間の隙間幅を円周方向でコントロールすることを特徴とする軸受部材の製造方法を提供する。
【0013】
上述の方法によれば、軸受部材の型成形と同時に軸受隙間を設定することができるので、機械加工等による軸受隙間の設定工程を省略して、かかるコストを低減することができる。また、軸受隙間の隙間幅を円周方向でコントロールすることで、任意形状、例えば隙間幅を不均一とする軸受隙間を形成することができる。従って、必要に応じて、例えば潤滑流体の動圧作用で軸部材を非接触支持する動圧軸受を形成することもでき、かかる軸受剛性や回転精度をより高めることができる。
【0014】
動圧軸受として、例えば軸受隙間の隙間幅を、円周方向の複数箇所で円周方向に漸次縮小させた、いわゆる多円弧軸受を構成することもできる。
【0015】
軸受隙間の隙間幅は、例えば点状ゲートを円周方向の複数箇所に設けることにより、樹脂部にウェルドを形成して樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせてコントロールすることができる。
【0016】
あるいは、樹脂部の肉厚を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせてコントロールすることができる。
【0017】
上記構成の軸受装置、および上記製造方法で製造された軸受部材を有する軸受装置は、例えばこの軸受装置を備えたモータとして好適に提供可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、この種の軸受装置における軸受隙間を低コストに設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る軸受装置1の断面図を示す。同図において、軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2を内周に挿入可能な軸受部材3とを備える。このうち軸受部材3は、円筒状の電鋳部4と、電鋳部4を樹脂でモールドした樹脂部5とを備える。
【0021】
軸受部材3の内周面の全面又は軸方向の一部領域に設けられる軸受面3aは電鋳部4の内周面で構成され、この軸受面3aには例えば図2に示す複数の円弧面3bが形成される。この実施形態では、円弧面3bは、回転軸心Oからそれぞれ等距離オフセットした点を中心とする偏心円弧面であり、円周方向で等間隔に3面形成される。この偏心円弧面3bは、対向する軸部材2の真円状外周面2aとの間に、後述するラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間3cを形成する。各ラジアル軸受隙間3cは、その隙間が最大となる偏心円弧面3b、3b間のつなぎ目部分から互いに離隔する方向に対して漸次縮小した形状をなす。なお、図2では、軸受部材3と軸部材2との間の径方向隙間の形状を理解し易くするため、その隙間寸法を、軸部材2の径方向寸法に比べて大きく(誇張して)描いている。
【0022】
上記構成の軸受装置1において、軸部材2の回転時、軸受部材3の軸受面3aに形成された複数の円弧面3bはラジアル軸受面として、軸部材2の外周面2aとラジアル軸受隙間3cを介して対向し、それぞれ多円弧軸受(テーパ軸受とも称される)を構成する。軸部材2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間3c内に満たされた潤滑油が隙間3cの漸次縮小側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような円弧面3b(くさび状隙間)の動圧作用によって、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部Rが構成される。
【0023】
以下、軸受装置1の製造工程を、軸受部材3の製造工程を中心に説明する。
【0024】
軸受部材3は、電鋳加工で使用するマスター軸6の所要領域をマスキングする工程、電鋳加工を行って非マスキング部に電鋳殻である電鋳部4を形成する工程、電鋳部4およびマスター軸6をインサート部品として軸受部材3の型成形(インサート成形)を行う工程、および電鋳部4とマスター軸6とを分離する工程を経て製作される。
【0025】
電鋳部4の成形母体となるマスター軸6は、例えば焼入処理をしたステンレス鋼で断面輪郭真円状に形成される。マスター軸6の材料としては、ステンレス鋼以外にも、例えばクロム系合金やニッケル系合金など、マスキング性、導電性、耐薬品性を有するものであれば金属、非金属を問わず任意に選択可能である。マスター軸6を軸部材2として使用する場合には、上記特性の他、軸受の構成部品として求められる、機械的強度、剛性、摺動性、耐熱性等を満たす材料であることが望ましい。この場合、マスター軸6の外表面の少なくとも電鋳部4の形成予定領域に、電鋳部4との間の摩擦力を減じるための表面処理、例えばフッ素系の樹脂コーティングを施すのが望ましい。
【0026】
マスター軸6は、むく軸(中実軸)の他、中空軸あるいは中空部に樹脂を充填した中実軸であってもよい。また、マスター軸6の外周面精度は、軸受部材3の軸受面3aとなる電鋳部4の内周面の面精度を直接左右するので、なるべく高精度に仕上げておくことが望ましい。
【0027】
マスター軸6の外表面には、図3に示すように、電鋳部4の形成予定領域を除き、マスキングが施される。マスキング部8形成用の被覆材としては、非導電性、および電解質溶液に対する耐食性を有する材料が選択使用される。
【0028】
電鋳加工は、NiやCu等の金属イオンを含んだ電解質溶液にマスター軸6を浸漬し、電解質溶液に通電して目的の金属をマスター軸6の外表面のうち、マスキング部8以外の領域に電解析出させることにより行われる。電解質溶液には、カーボンなどの摺動材、あるいはサッカリン等の応力緩和材を必要に応じて含有させてもよい。析出金属の種類は、軸受の軸受面に求められる硬度、疲れ強さ等の物理的性質、化学的性質に応じて適宜選択される。
【0029】
以上の工程を経ることにより、図4に示すように、マスター軸6外周のマスキング部8以外の領域に円筒状の電鋳部4を形成した電鋳軸7が製作される。この段階で、マスター軸6の外周面と密着状態にある電鋳部4の内周面は断面真円状をなす。なお、電鋳部4の厚みは、これが薄すぎると軸受面3aの耐久性低下等につながり、厚すぎるとマスター軸6からの剥離性が低下する可能性があるので、求められる軸受性能や軸受サイズ、さらには用途等に応じて最適な厚み、例えば10μm〜200μmの範囲に設定される。
【0030】
上記工程を経て製作された電鋳軸7は、軸受部材3をインサート成形する成形型内にインサート部品として供給配置される。
【0031】
図5は、軸受部材3のインサート成形工程を概念的に示すもので、固定型11、および可動型12からなる金型には、ランナ13および点状ゲート14と、キャビティ15とが設けられる。点状ゲート14は、同図に示すように、成形金型の、樹脂部5の軸方向一端面に対応する位置に形成され、かつこの実施形態では、図6に示すように、円周方向等間隔に3箇所形成される。また、各点状ゲート14のゲート面積は、充填する溶融樹脂の粘度や、成形品の形状に合わせて適切な値に設定される。
【0032】
上記構成の金型において、電鋳軸7を位置決め配置した状態で可動型12を固定型11に接近させて型締めする。次に、型締めした状態で、スプール(図示は省略する)、ランナ13、および点状ゲート14を介してキャビティ15内に溶融樹脂Pを射出・充填し、樹脂部5を電鋳軸7と一体に成形する。この際、各点状ゲート14からキャビティ15内に送り込まれた溶融樹脂Pは、各点状ゲート14からそれぞれ円周方向(図6中矢印の方向)に向けて流動し、各点状ゲート14、14間の中間位置(図6中、16で示す位置)で合流する。そのため、この中間位置では、いわゆるウェルド(ウェルドライン)が円周方向等間隔に3箇所生じる
【0033】
樹脂材料は、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂等の高機能結晶性ポリマーが使用可能であるが、この中でも特にウェルドを生じ易い液晶ポリマー(LCP)が好適である。もちろんこれらは一例にすぎず、既存の各種樹脂材料の中から軸受の用途や使用環境に適合した樹脂材料が選択され得る。必要に応じて強化材(繊維状、粉末状等の形態は問わない)や潤滑剤、導電化剤等の各種充填材を加えてもよい。
【0034】
型開き後、マスター軸6、電鋳部4、および樹脂部5が一体となった成形品を金型11、12から脱型する。この成形品は、その後の分離工程において電鋳部4および樹脂部5からなる軸受部材3(図1を参照)と、マスター軸6とに分離される。これにより、電鋳部4の内周面(マスター軸6との分離面)の全面又は一部を軸受面3aとする軸受部材3が得られる。また、樹脂部5に連結した点状ゲート14は、型開きに伴い樹脂部5と分断され、完成品としての軸受部材3の軸方向一端面に点状ゲート跡14’として残る。
【0035】
ところで、電鋳部4を薄肉円筒状に形成する場合、マスター軸6と分離する前の電鋳部4には、その内周面がマスター軸6から剥がれる方向に変位するのを妨げる向きの内部応力(残留応力)が生じる場合が多い。この残留応力は、例えば電鋳軸7に衝撃を与える等して電鋳部4の内周面とマスター軸6の外周面との間の密着状態を解消することにより解放される。この応力解放に伴い電鋳部4の内周面(軸受面3a)とマスター軸6の外周面との間に径方向の隙間が形成されるので、両者を分離することが可能となる。
【0036】
分離工程では、この原理を利用して軸受部材3とマスター軸6との分離が行われる。具体的には、電鋳軸7あるいは軸受部材3に衝撃を与え、電鋳部4の内周面を半径方向に拡径させて、マスター軸6の外周面との間に微小隙間(半径寸法で1μm〜数十μm程度)を形成する。この微小隙間は、本実施形態のように、マスター軸6をそのまま軸受装置1の軸部材2として使用する場合、軸受部材3と軸部材2との間のラジアル軸受隙間3c(図2を参照)として機能する。また、電鋳部4の分離手段としては、上記手段以外に、例えば電鋳部4とマスター軸6とを加熱(又は冷却)し、両者間に熱膨張量差を生じさせることによる方法、あるいは両手段(衝撃と加熱)を併用する手段等が使用可能である。なお、電鋳部4の拡径量は、例えば電鋳部4の肉厚や、電鋳部4の成形条件(電解液濃度、電流密度等)を変更することによって適宜調整することができる。
【0037】
このように、電鋳部4の軸受面3aがマスター軸6との分離に伴い拡径するが、これと同時に、樹脂部5の成形(固化)に伴い樹脂部5内部に生じた残留応力がマスター軸6の分離によって解放され、図7に示すように、樹脂部5の内周面5a(図7中実線部分)が外径方向への収縮(図7中1点鎖線部分)を生じる。この径方向収縮に伴い、樹脂部5の内周面5aと密着した電鋳部4も外径側に変位する。この場合、内周面5aの外径方向への収縮量は、特にウェルド発生領域16において大となるため、図7に示すように、予めマスター軸6の外周面に倣って形成された電鋳部4の真円状軸受面3a’のうち、ウェルド発生領域16と周方向に一致する領域では、他所に比べて外径側への後退量が大きくなる。これにより、電鋳部4の真円状軸受面3a’(図7中実線部分)が一部外径側に後退し、複数の円弧面3bを連続させた形状(図7中1点鎖線部分)に変形する。
【0038】
このように、軸受部材3の型成形後、電鋳部4とマスター軸6とを分離して、収縮量増加部としてのウェルド発生領域16とそれ以外の周方向他所との間で生じる外径方向への成形収縮量差を生じ、予め電鋳加工で形成された電鋳部4の真円状軸受面3a’の一部を外径側に変形(後退)させることで、複数の円弧面3bを形成し、円弧面3bとこれに対向する軸部材2の外周面2aとの間にくさび状のラジアル軸受隙間3cを形成することができる。これにより、真円状外周面を有するマスター軸6を使用した場合であっても、別途他の加工を追加することなく軸受部材3の軸受面3aを多円弧面形状とすることができ、かかる加工コストを大幅に低減することができる。
【0039】
特に、繊維等の充填材が配合された樹脂(溶融樹脂P)を使用する場合、成形後(固化後)の繊維配向は、繊維のサイズや配合比にもよるが、充填時の樹脂Pの流れ方向(例えば、図6を参照)に沿う形となることが多い。そのため、ウェルドが生じる領域(ウェルド発生領域)16では、異なる方向から合流した溶融樹脂Pが一部径方向へ流れ、これに倣って繊維が径方向に配向する。これにより、ウェルド発生領域16とそれ以外の周方向他所との間で生じる外径方向への成形収縮量差をより一層大きくすることができ、かかるラジアル軸受隙間3cの形成を確実かつ容易なものとすることができる。
【0040】
また、この実施形態では、マスター軸6をそのまま軸部材2として使用した場合を説明したが、例えば、マスター軸6とは別に製作した軸状の部材を軸部材2として用いることもできる。これによれば、一度高精度に製作したマスター軸6を繰返し転用することができるので、マスター軸6の製作コストを抑え、軸受装置1のさらなる低コスト化を図ることが可能となる。
【0041】
以上、収縮量増加部をウェルドで形成し、これを以って軸受面3aに複数の円弧面3bを形成した場合を説明したが、これ以外の方法により円弧面3bを形成することも可能である。
【0042】
図8は、軸受装置1の他の構成例を示す断面図である。同図における軸受装置1’は、特に軸受部材3を構成する樹脂部5の形状を、図1に示す形態とは異ならせた点を特徴とするものである。すなわち、樹脂部5は、その肉厚を周方向で異ならせた形状をなし、例えば他所に比べて肉厚な部分(厚肉部)5bを周方向等間隔に3箇所設けた形状をなす。
【0043】
この場合、樹脂部5の径方向への成形収縮量は、収縮量増加部を形成する厚肉部5bで最大となり、図8に示すように、電鋳部4の真円状軸受面3a’における外径側への後退量(内周面5aの収縮量)も厚肉部5bの内径側で最大となる。これにより、真円状の軸受面3a’(図8中1点鎖線部分)が複数の円弧面3b(図8中実線部分)形状に変形する。
【0044】
このように、樹脂部5の収縮量増加部を厚肉部5bで形成することによっても、厚肉部5bと厚肉部5b以外の箇所との間で径方向への成形収縮量差を生じ、軸受面3aを、複数の円弧面3bで構成される軸受面3aと軸部材2の外周面2aとの間にくさび状のラジアル軸受隙間3cを形成することができる。また、図8に示すように、厚肉部5bの周方向位置を、軸受面3aの内径が最大となる周方向位置、すなわち各円弧面3b間のつなぎ目部分と一致させることで、周方向幅を等しくした複数の円弧面3bを形成することができる。
【0045】
また、図8に示す形態では、樹脂部5の厚肉部5bを段状に外径側に突出させた形態を例示しているが、例えば樹脂部5の肉厚を周方向で滑らかに変化させた形態をとることもできる。その一例として、厚肉部5bをその周方向離隔方向に向けて漸次縮径させた構成を図9に示す。
【0046】
これら樹脂部5の外径側に厚肉部5bを設ける場合、図示は省略するが、さらに厚肉部5bの周方向位置を、各点状ゲートの周方向中間位置に一致させるように構成することで、より一層厚肉部5bにおける径方向収縮量を増加させることができる。これによれば、より確実に、軸受部材3の軸受面3aを多円弧面形状とすることが可能となる。また、両者を併用することで、軸受面3aの外径側への後退量をより大きくとることができるので、これら円弧面3bと、軸部材2の外周面2aとの間のラジアル軸受隙間3cのくさび形状をさらに鋭くすることができ、このくさび状隙間による動圧作用をより一層高めることができる。
【0047】
なお、何れの形態を採用する場合でも、軸受面3aを構成する電鋳部4の肉厚と、この電鋳部4の外径側に位置する樹脂部5の肉厚との比率(肉厚比)は、軸受部材3の真円状軸受面3a’の変形量(外径側への後退量)に影響を及ぼすことから、この肉厚比を適宜調整して外径側への後退量を制御することも可能である。
【0048】
また、電鋳部4の軸方向への抜止めを狙ったものとして、例えば図10に示す構成を挙げることができる。これは、電鋳部4の軸方向端部4aをフランジ状に塑性変形させた状態で軸受部材3をインサート成形したもので、この場合、フランジ状の端部4aが電鋳部4の軸方向の抜止めとして作用する。端部4aの塑性変形は、例えば図示は省略するが、樹脂部5のインサート成形時、より詳しくは金型11、12の型締め時に、金型11、12の型締め力によって電鋳部4の軸方向端部のみを外径側に塑性変形させるよう、金型11、12の形状を工夫する等して対応することができる。なお、この種の塑性変形は、マスキング部8の厚みが薄い場合など、電鋳部4の軸方向端部がマスキング部8側に突出し、かつマスター軸6の外周面と径方向に離隔した状態で形成される場合に特に有効である。なお、同様に図示は省略するが、上記塑性変形時、電鋳部4の端部(抜止め部)の外周面形状を、ランダムな凹凸を有する形状とすることで、高い回り止め効果が得られる。
【0049】
以上の実施形態では、円筒状の金属部として、電鋳部4を使用した場合を説明したが、本発明は、もちろん電鋳部4以外の円筒状金属部にも採用することができる。その場合、軸部材2と別体に形成された円筒状の金属部は、上記同様の方法でインサート部品として樹脂部5と一体に型成形され、樹脂部5に設けた収縮量増加部(ウェルド発生領域16、厚肉部5b)により外径側に変形することで、円弧面3bをはじめとする軸受面3aを形成可能となる。また、使用可能な金属部の材質や厚みは、樹脂部5の成形収縮に伴う外径側への変形量の他、軸部材との摺動特性等を考慮して適宜選択するのが好ましい。
【0050】
また、以上に説明したラジアル軸受部Rの多円弧軸受は、何れもいわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらには6円弧以上の数の円弧面3bで構成された多円弧軸受を採用してもよい。この場合には、点状ゲート14や、あるいは厚肉部5bを、円弧面3bの数に合わせて設けることで対応が可能となる。また、ラジアル軸受部Rは、例えば軸受面となる軸受面3aを軸方向に離隔して形成する等して、ラジアル軸受部Rを軸方向に離隔して2以上設けた構成とすることもできる。
【0051】
また、以上の実施形態では、軸受装置1、1’の内部に充満し、ラジアル軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも軸受隙間に動圧作用を生じ得る流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【0052】
以上説明した軸受装置1、1’は、例えば情報機器用のモータに組み込んで使用可能である。以下、軸受装置1を上記モータ用の軸受に適用した構成例を、図11に基づいて説明する。なお、図1、図2に示す実施形態と構成・作用を同一にする部位および部材については、同一の参照番号を付し、重複説明を省略する。
【0053】
図11は、軸受装置1を組み込んだモータ21の断面図を示している。このモータ21は、例えばHDD等のディスク駆動装置用のスピンドルモータとして使用されるものであって、軸部材22を回転自在に非接触支持する軸受装置1と、軸部材22に装着されたロータ(ディスクハブ)24と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル25およびロータマグネット26とを備えている。ステータコイル25は、ブラケット27の外周に取付けられ、ロータマグネット26はディスクハブ24の内周に取付けられている。ディスクハブ24には、磁気ディスク等のディスク状情報記憶媒体(以下、単にディスクと呼ぶ。)Dが一又は複数枚保持されている。ステータコイル25に通電すると、ステータコイル25とロータマグネット26との間の電磁力でロータマグネット26が回転し、それによって、ディスクハブ24及びディスクハブ24に保持されたディスクDが軸部材22と一体に回転する。
【0054】
この実施形態において、軸受装置1は、軸受部材3と、軸受部材3の内周に挿入される軸部材22と、軸受部材3の一端に装着され、軸部材22の下端と接触するスラストプレート23とを備えている。そして、軸部材22の回転時、軸部材22の外周面と軸受部材3の軸受面3aとのラジアル軸受隙間には、図示は省略するが、くさび状のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で軸部材22をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部Rが形成され、同時に、軸部材22の下端とスラストプレート23の上端面との間に、軸部材22をスラスト方向に回転自在に支持するスラスト軸受部Tが形成される。
【0055】
図11では、スラスト軸受部Tをいわゆるピボット軸受で構成した場合を例示しているが、この他にも、動圧溝等の動圧発生手段で軸部材22をスラスト方向に非接触支持する動圧軸受も使用可能である。
【0056】
本発明の軸受装置は、以上の例示に限らず、モータの回転軸支持用として広く適用可能である。この軸受装置は、ラジアル軸受部Rにおいて例えば多円弧軸受を構成することで、高い回転精度と軸受剛性を得ることができるため、上記HDD等の磁気ディスク駆動用のスピンドルモータを初めとして、高回転精度が要求される情報機器用の小型モータ、例えば光ディスクの光磁気ディスク駆動用のスピンドルモータ、あるいはレーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ等における回転軸支持用としても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受装置の断面図である。
【図2】軸受装置のA−A断面図である。
【図3】マスキングを施した状態のマスター軸を示す斜視図である。
【図4】電鋳軸の斜視図である。
【図5】軸受部材の型成形工程を概念的に示す図である。
【図6】軸受部材の型成形工程を概念的に示す図である。
【図7】樹脂部の成形時収縮を模式的に示す図である。
【図8】軸受装置の他の構成例を概念的に示す図である。
【図9】軸受装置の他の構成例を概念的に示す図である。
【図10】軸受部材の他の構成例を示す断面図である。
【図11】軸受装置を備えたモータの一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1、1’ 軸受装置
2 軸部材
3 軸受部材
3a 軸受面
3a’ 真円状軸受面
3b 偏心円弧面
3c ラジアル軸受隙間
4 電鋳部
5 樹脂部
5b 厚肉部
6 マスター軸
14 点状ゲート
16 ウェルド発生領域
21 モータ
R ラジアル軸受部
T スラスト軸受部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形品で、かつ金属部の内周面で軸受面を構成する軸受部材と、軸受部材の内周に挿入される軸部材とを備え、
樹脂部の円周方向の複数箇所に他所と比べて内周面の成形収縮量を増加させる収縮量増加部を設け、収縮量増加部とこれ以外の部分との間に生じる成形収縮量差で軸受面を変形させ、変形した軸受面とこれに対向する軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成した軸受装置。
【請求項2】
軸受面を複数の円弧面で構成し、対向する軸部材の外周面との間に、その隙間幅が円周方向に漸次縮小する軸受隙間を形成した請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
収縮量増加部をウェルドで形成した請求項1又は2記載の軸受装置。
【請求項4】
収縮量増加部を厚肉部で形成した請求項1又は2記載の軸受装置。
【請求項5】
収縮量増加部を、ウェルドおよび厚肉部の双方で形成した請求項1又は2記載の軸受装置。
【請求項6】
金属部が、電鋳加工で形成された電鋳部である請求項1〜5何れか記載の軸受装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか記載の軸受装置を備えるディスク装置のスピンドルモータ。
【請求項8】
円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形により、金属部の内周に挿入した軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成する軸受部材を製造するに際し、
樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の固化時に金属部の内周面を変形させて、軸受隙間の隙間幅を円周方向でコントロールすることを特徴とする軸受部材の製造方法。
【請求項9】
軸受隙間の隙間幅を、円周方向の複数箇所で円周方向に漸次縮小させた請求項8記載の軸受部材の製造方法。
【請求項10】
点状ゲートを円周方向の複数箇所に設けることにより、樹脂部にウェルドを形成して樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせる請求項8又は9記載の軸受部材の製造方法。
【請求項11】
樹脂部の肉厚を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせる請求項8又は9記載の軸受部材の製造方法。
【請求項1】
円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形品で、かつ金属部の内周面で軸受面を構成する軸受部材と、軸受部材の内周に挿入される軸部材とを備え、
樹脂部の円周方向の複数箇所に他所と比べて内周面の成形収縮量を増加させる収縮量増加部を設け、収縮量増加部とこれ以外の部分との間に生じる成形収縮量差で軸受面を変形させ、変形した軸受面とこれに対向する軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成した軸受装置。
【請求項2】
軸受面を複数の円弧面で構成し、対向する軸部材の外周面との間に、その隙間幅が円周方向に漸次縮小する軸受隙間を形成した請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
収縮量増加部をウェルドで形成した請求項1又は2記載の軸受装置。
【請求項4】
収縮量増加部を厚肉部で形成した請求項1又は2記載の軸受装置。
【請求項5】
収縮量増加部を、ウェルドおよび厚肉部の双方で形成した請求項1又は2記載の軸受装置。
【請求項6】
金属部が、電鋳加工で形成された電鋳部である請求項1〜5何れか記載の軸受装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか記載の軸受装置を備えるディスク装置のスピンドルモータ。
【請求項8】
円筒状の金属部をインサート部品とする樹脂の型成形により、金属部の内周に挿入した軸部材の外周面との間に軸受隙間を形成する軸受部材を製造するに際し、
樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の固化時に金属部の内周面を変形させて、軸受隙間の隙間幅を円周方向でコントロールすることを特徴とする軸受部材の製造方法。
【請求項9】
軸受隙間の隙間幅を、円周方向の複数箇所で円周方向に漸次縮小させた請求項8記載の軸受部材の製造方法。
【請求項10】
点状ゲートを円周方向の複数箇所に設けることにより、樹脂部にウェルドを形成して樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせる請求項8又は9記載の軸受部材の製造方法。
【請求項11】
樹脂部の肉厚を円周方向で異ならせることにより、樹脂部の成形収縮量を円周方向で異ならせる請求項8又は9記載の軸受部材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−322522(P2006−322522A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145793(P2005−145793)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(501251219)株式会社アクトワン (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(501251219)株式会社アクトワン (23)
【Fターム(参考)】
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