説明

軸受装置

【課題】ステアリングシャフトなどのシャフトを支持する軸受の内輪内周側に設けられたインナースリーブに対するシャフトの挿入荷重を低く抑えることのできる軸受装置を提供する。
【解決手段】インナースリーブ11の内周面とステアリングシャフト13の外周面との接触部の一部が締めしろ嵌合となるように、インナースリーブ11の内径をステアリングシャフト13の外径より小さく絞った絞り部31を、インナースリーブ11の両端部のうち少なくとも一方の端部に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリング機構などに組み込まれる軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング機構は、図20に示すように、アッパーステアリングシャフト1と、このアッパーステアリングシャフト1の上端部に取り付けられたステアリングホイール2とを有しており、アッパーステアリングシャフト1の下端部には、中間ステアリングシャフト4の上端部が自在継手3を介して連結されている。
中間ステアリングシャフト4の下端部は車室とエンジンルームとを区画するトーボード5を貫通してステアリングギヤボックス7の入力軸に自在継手6を介して連結されており、中間ステアリングシャフト4のトーボード貫通部には、中間ステアリングシャフト4をトーボード5に対して回転自在に支持する軸受装置が設けられている。
【0003】
ところで、ステアリング操作時のステアリングシャフトに生ずるラジアル荷重を支持しながら角度変位を吸収するために、揺動運動を許容する自動車用ステアリングコラム用軸受装置としては、すべり軸受のインナーブッシュに自動調芯部を設けたもの(特許文献1参照)や、すべり軸受のインナーブッシュに設けられた球面状自動調芯部の中心部を両端部よりも高くし、インナーブッシュ両端の接触面圧を下げることで揺動トルクを小さくしたもの(特許文献2参照)などがある。一方、転がり軸受を備えたステアリングコラム用軸受装置としては、特許文献3に開示されたものがある。
【特許文献1】特開平8−114220号公報
【特許文献2】特開2000−205264号公報
【特許文献3】特開平8−198122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のステアリング用軸受装置においては、ステアリングシャフトに発生するガタツキ等を吸収しながら、ステアリングシャフト組付け時におけるシャフト挿入荷重を低く抑えることは相反する性能であり、両立が困難であった。
本発明は、ステアリングシャフトなどのシャフトを支持する軸受の内輪内周側に設けられたインナースリーブに対するシャフトの挿入荷重を低く抑えることのできる軸受装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、シャフトを支持する軸受の内輪内周側にインナースリーブを有する軸受装置において、前記インナースリーブの内周面と該インナースリーブ内に挿入されたシャフトの外周面との接触部を軸方向の一部で締めしろ嵌合にする締めしろ嵌合部を、前記インナースリーブが有することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1記載の軸受装置において、前記締めしろ嵌合部が前記インナースリーブの内周面から突出して前記シャフトの外周面の円周方向の一部を弾性的に押圧する突起部であることを特徴とする。
【0006】
請求項3の発明は、請求項1記載の軸受装置において、前記締めしろ嵌合部が前記インナースリーブの内径を前記シャフトの外径より小さく絞って前記シャフトの外周面の軸方向の一部を弾性的に締め付ける絞り部であることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1記載の軸受装置において、前記締めしろ嵌合部が前記シャフトの外周面を前記インナースリーブの内径方向に弾性的に押圧する弾性押え片であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項記載の軸受装置において、前記軸受が前記内輪と前記インナースリーブとの間に自動調芯部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る軸受装置では、インナースリーブ内を挿通するシャフトの外周面の一部がインナースリーブに設けられた締めしろ嵌合部により締め付けられる。これにより、インナースリーブの内周面全体をシャフトの外径より小さい内径にする必要がないので、インナースリーブに対するシャフトの挿入荷重を低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係るステアリング用軸受装置の一部を示す断面図、図2は図1のII−II断面図、図3は図1に示すステアリングシャフトの斜視図、図4は図1に示すインナースリーブの左側端部の一部を示す断面図、図5は図1に示すインナースリーブの右側端部の一部を示す断面図であり、図1に示されるステアリング用軸受装置は、トーボード5(図20参照)に固定されたハウジング9及びインナースリーブ11を備えている。
【0009】
ハウジング9は例えばナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレートなどの合成樹脂材を円筒状に成形して形成されており、このハウジング9内には、インナースリーブ11を介してステアリングシャフト13を回転自在に支持する転がり軸受12が設けられている。
転がり軸受12は外輪121、内輪122及び複数の転動体123を有しており、ハウジング9の内周面には、C字状の外輪固定リング22と協働して外輪121をハウジング9の内周面上に固定するための外輪固定溝23が形成されている。
【0010】
インナースリーブ11はハウジング9と同様に合成樹脂材を射出成形して形成されており、インナースリーブ11の外周面には、転がり軸受12の内輪122をインナースリーブ11の外周面上に固定するための内輪固定溝24が形成されている。
ステアリングシャフト13が挿入される側のインナースリーブ11の一端部(図1中右側端部)には、インナースリーブ11の内径をステアリングシャフト13の外径より小さく絞った絞り部31が第1の締めしろ嵌合部として形成されている。
【0011】
一方、絞り部31と反対側のインナースリーブ11の一端部(図1中左側端部)には、図2に示すように、インナースリーブ11の内周面から突出してステアリングシャフト13の外周面の円周方向の一部を弾性的に押圧する複数(例えば三つ)の突起部30が第2の締めしろ嵌合部としてインナースリーブ11の円周方向にほぼ一定ピッチで設けられている。
【0012】
ステアリングシャフト13はインナースリーブ11内に挿入されており、ステアリングシャフト13の外周面には二つの平面部(図2参照)131が形成されている。これらの平面部131はステアリングシャフト13の外周面に互いに平行に形成されており、ステアリングシャフト13が挿入されるインナースリーブ11の内周面には、上記平面部131と協働してステアリングシャフト13の円周方向の回動を抑制する二つの平面状回り止め部111(図2参照)が相対向して形成されている。また、ステアリングシャフト13の外周面132(図3参照)は断面が円形状をなしており、この外周面132と前述した平面部131との境界部は段部(円錐面部または傾斜面部)133となっている。そして、インナースリーブ11の内周面11a(図1参照)は断面が円形状をなしており、この内周面11aと前述した平面状回り止め部111との間には、ステアリングシャフト13の軸方向位置を位置決めするために、ステアリングシャフト13の段部133と係合する段部11b(図1参照)が形成されている。なお、ステアリングシャフト13は中間ステアリングシャフトであってもよいし、アッパーステアリングシャフトであってもよい。また、インナースリーブ11の内周面に形成された段部11bは、ステアリングシャフト13の段部133と同様に、円錐面部または傾斜面部であることが好ましい。
【0013】
このように構成される本発明の第1の実施形態では、インナースリーブ11内にステアリングシャフト13を図1中右方から挿入すると、ステアリングシャフト13の外周面に形成された二つの平面部131がインナースリーブ11の内周面に形成された二つの平面状回り止め部111と各々嵌合することによって、ステアリングシャフト13の円周方向の回動が平面状回り止め部111によって抑制される。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11に対して円周方向にがたつくことがないので、ステアリングシャフト13のがたつきに起因する操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0014】
また、インナースリーブ11内にステアリングシャフト13を図1中右方から挿入すると、図5に示すように、インナースリーブ11の右側端部に形成された締めしろ嵌合としての絞り部31がインナースリーブ11の外径方向に弾性変形する。このとき、絞り部31が形成されたインナースリーブ11の端部に絞り部31を元の位置に戻そうとする弾性力が発生し、この弾性力によってステアリングシャフト13の外周面が締め付けられる。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11から容易に抜け出るのを防止するために、インナースリーブ11の内周面全体をステアリングシャフト13の外径より小さい内径にする必要がないので、インナースリーブ11に対するステアリングシャフト13の挿入荷重を低く抑えることができ、比較的大きな力を要することなくステアリングシャフト13をインナースリーブ11内に挿入することができる。
【0015】
さらに、インナースリーブ11内にステアリングシャフト13を図1中右方から挿入すると、図4に示すように、インナースリーブ11の内周面に設けられた締めしろ嵌合部としての突起部30がインナースリーブ11の外径方向に弾性変形する。このとき、インナースリーブ11には突起部30を元の位置に戻そうとする弾性力が発生し、この弾性力によってステアリングシャフト13の外周面が締め付けられる。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11から容易に抜け出るのを防止するために、インナースリーブ11の内周面全体をステアリングシャフト13の外径より小さい内径にする必要がないので、インナースリーブ11に対するステアリングシャフト13の挿入荷重を低く抑えることができ、比較的大きな力を要することなくステアリングシャフト13をインナースリーブ11内に挿入することができる。
【0016】
図1及び図2に示した第1の実施形態ではインナースリーブ11の内径をステアリングシャフト13の外径より小さく絞った絞り部31をステアリングシャフト13が挿入される側のインナースリーブ11の一端部に形成したものを例示したが、これに限られるものではなく、例えばステアリングシャフト13が挿入される側と反対側のインナースリーブ11の端部に絞り部31を設けても同様の効果を得ることができる。また、図1及び図2に示した第1の実施形態ではインナースリーブ11の内周面から突出してステアリングシャフト13の外周面の円周方向の一部を弾性的に押圧する突起部30をステアリングシャフト13が挿入される側と反対側のインナースリーブ11の端部に設けたものを例示したが、これに限られるものではなく、例えばステアリングシャフト13が挿入される側のインナースリーブ11の端部に突起部30を設けても同様の効果を得ることができる。さらに、図1及び図2に示した第1の実施形態ではインナースリーブ11の一端部に三つの突起部30を設けたが、インナースリーブ11の一端部に設けられる突起部30の数は一つでもよいし、あるいは四つ以上でもよい。
【0017】
上述した第1の実施形態ではインナースリーブ11の内周面に二つの平面状回り止め部111を形成したものを例示したが、これに限定されるものではなく、例えば図6及び図7に示す第2の実施形態のように、ステアリングシャフト13の外周面に三つの平面部131をステアリングシャフト13の断面の一部が三角形状となるように形成するとともに、これらの平面部131に協働してステアリングシャフト13の回動を抑制する三つの平面状回り止め部111をインナースリーブ111の内周面に形成しても同様の効果が得られる。また、図8及び図9に示す第3の実施形態のように、ステアリングシャフト13の外周面に一つの平面部131を形成するとともに、この平面部131に協働してステアリングシャフト13の回動を抑制する一つの平面状回り止め部111をインナースリーブ111の内周面に形成しても同様の効果が得られる。さらに、図10及び図11に示す第4の実施形態のように、ステアリングシャフト13の外周面に六つの平面部131をステアリングシャフト13の断面の一部が六角形状となるように形成するとともに、これらの平面部131に協働してステアリングシャフト13の回動を抑制する六つの平面状回り止め部111をインナースリーブ111の内周面に形成しても同様の効果が得られる。
【0018】
上述した第1〜第4の実施形態では、インナースリーブ11の内径をステアリングシャフト13の外径より小さく絞った絞り部31をインナースリーブ11の一端部に形成したものを例示したが、これに限られるものではなく、図12及び図13に示す第5の実施形態のように、インナースリーブ11の内径をステアリングシャフト13の外径より小さく絞った絞り部31をインナースリーブ11の両端部に設けてもよい。
【0019】
上述した第1の実施形態ではインナースリーブ11の内周面から突出してステアリングシャフト13の外周面に当接する突起部30をインナースリーブ11の端部に設けたものを例示したが、これに限られるものではなく、例えばインナースリーブ11の内周面中央部あるいは内周面中央部と内周面端部との間に突起部30を設けてもよい。また、回り止め部111の全てに突起部30を設ける必要はなく、少なくとも1つの回り止め部111に突起部30を設ければよい。
【0020】
図14は本発明の第6の実施形態に係るステアリング用軸受装置の一部を示す断面図、図15は図14のXV−XV断面図、図16は図14に示すインナースリーブの左側端部の一部を拡大して示す図であり、図14に示されるステアリング用軸受装置は、ハウジング9及びインナースリーブ11を備えている。
ハウジング9は例えばナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレートなどの合成樹脂材から形成されており、このハウジング9内には、インナースリーブ11を介してステアリングシャフト13を回転自在に支持する転がり軸受12が設けられている。
【0021】
転がり軸受12は外輪121、内輪122及び複数の転動体123を有しており、ハウジング9の内周面には、C字状の外輪固定リング22と協働して外輪121をハウジング9の内周面上に固定するための外輪固定溝23が形成されている。
ステアリングシャフト13はインナースリーブ11内に挿入されており、ステアリングシャフト13の外周面には二つの平面部131が形成されている。これらの平面部131はステアリングシャフト13の外周面に互いに平行に形成されており、ステアリングシャフト13が挿入されるインナースリーブ11の内周面には、上記平面部131と協働してステアリングシャフト13の円周方向の回動を抑制する二つの平面状回り止め部111が相対向して形成されている。なお、ステアリングシャフト13は図3に示したものと形状が同一のものである。
【0022】
インナースリーブ11はハウジング9と同様に合成樹脂材を射出成形して形成されており、ステアリングシャフト13が挿入される側のインナースリーブ11の一端部(図中右側端部)には、インナースリーブ11の内径をステアリングシャフト13の外径より小さく絞った絞り部31が締めしろ嵌合部として形成されている。
一方、ステアリングシャフト13が挿入される側と反対側のインナースリーブ11の一端部(図中左側端部)には、ステアリングシャフト13の外周面に形成された二つの平面部131をインナースリーブ11の内径方向に押圧する二つの弾性押え片34が締めしろ部としてインナースリーブ11と一体に形成されている。
【0023】
弾性押え片34は、その先端部に突起部34a(図15参照)を有している。この突起部34aはインナースリーブ11の内径方向に突出しており、弾性押え片34の左右両側と上面側には、突起部34aをステアリングシャフト13の平面部131に弾接させるために、スリット35,35,35a(図15参照)がインナースリーブ11の軸方向に沿って形成されている。スリット35aはインナースリーブ11の肉厚内を軸方向に形成され、スリット35,35はスリット35aに連続して回り止め部111内に連通するように形成され、これにより弾性押え片34がその一辺においてインナースリーブ11と一体化されている。
【0024】
このように構成されるステアリング用軸受装置では、ステアリングシャフト13をインナースリーブ11内に挿入すると、図16に示すように、インナースリーブ11に設けられた締めしろ嵌合部としての弾性押え片34がインナースリーブ11の外径方向に弾性変形する。このとき、インナースリーブ11には弾性押え片34を元の位置に戻そうとする弾性力が発生し、この弾性力によってステアリングシャフト13の外周面が締め付けられる。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11から容易に抜け出るのを防止するために、インナースリーブ11の内周面全体をステアリングシャフト13の外径より小さい内径にする必要がないので、インナースリーブ11に対するステアリングシャフト13の挿入荷重を低く抑えることができ、比較的大きな力を要することなくステアリングシャフト13をインナースリーブ11内に挿入することができる。
【0025】
ステアリングシャフト13をインナースリーブ11内に挿入すると、インナースリーブ11の右側端部に形成された締めしろ嵌合としての絞り部31がインナースリーブ11の外径方向に弾性変形する。このとき、絞り部31が形成されたインナースリーブ11の端部に絞り部31を元の位置に戻そうとする弾性力が発生し、この弾性力によってステアリングシャフト13の外周面が締め付けられる。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11から容易に抜け出るのを防止するために、インナースリーブ11の内周面全体をステアリングシャフト13の外径より小さい内径にする必要がないので、インナースリーブ11に対するステアリングシャフト13の挿入荷重を低く抑えることができ、比較的大きな力を要することなくステアリングシャフト13をインナースリーブ11内に挿入することができる。
【0026】
さらに、インナースリーブ11内にステアリングシャフト13を図中右方から挿入すると、ステアリングシャフト13の外周面に形成された二つの平面部131がインナースリーブ11の内周面に形成された二つの平面状回り止め部111と各々嵌合することによって、ステアリングシャフト13の円周方向の回動が平面状回り止め部111によって抑制される。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11に対して円周方向にがたつくことがないので、ステアリングシャフト13のがたつきに起因する操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0027】
次に、図17及び図18を参照して本発明の第7の実施形態について説明する。
図17は本発明の第7の実施形態に係るステアリング用軸受装置を示す断面図であり、同図に示されるステアリング用軸受装置は、ハウジング9、アウタースリーブ10、インナースリーブ11及び転がり軸受12を備えている。
ハウジング9は円筒状に形成されており、このハウジング9の内周面には、アウタースリーブ10の外周面に突設された回り止め突起17と係合する回り止め溝16がハウジング9の軸方向に沿って設けられている。なお、ハウジング9の外周面には、図示しない複数のボルトによりハウジング9をトーボード5に固定するためのフランジ15が形成されている。
【0028】
アウタースリーブ10及びインナースリーブ11は例えばナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレートなどの合成樹脂材から形成されており、アウタースリーブ10の図中左側の端面には、ハウジング9の端面に係合してアウタースリーブ10の軸方向のがたつきを抑制する複数の爪部材18がアウタースリーブ10と一体に樹脂成形されている。また、アウタースリーブ10は図中右側の外周面端部にフランジ19を有しており、このフランジ19とハウジング9の内周面に形成された段部20との間には、アウタースリーブ10をステアリングシャフト13の挿入方向と反対方向(図中右方)に付勢するために、アクリルゴムなどの弾性材からなるリング状の弾性部材21が設けられている。
【0029】
転がり軸受12はアウタースリーブ10とインナースリーブ11との間に設けられており、この転がり軸受12の両端側には、アウタースリーブ10とインナースリーブ11との間を密封する弾性シール部材14がそれぞれ設けられている。また、転がり軸受12は固定輪としての外輪121を有しており、この外輪121には外周面に凸状球面部25が設けられた外嵌部材25aが外嵌されている。さらに、転がり軸受12は合成樹脂材からなるインナースリーブ11と一体化された内輪122を有しており、この内輪122と外輪121との間には、球状に形成された複数の転動体123が設けられている。
【0030】
凸状球面部25はアウタースリーブ10の内周面に形成された凹状球面部26と摺接しており、凸状球面部25及び凹状球面部26は転がり軸受12の調芯機構を構成している。
弾性シール部材14は円環状の芯金141に弾性材142を加硫接着して形成されており、アウタースリーブ10の両端面には、弾性シール部材14を保持するためのシール保持溝36がアウタースリーブ10の全周に亘って形成されている。シール保持溝36には、図17に示すように、芯金141とこれに接着された弾性材142が挿入されている。
インナースリーブ11はアウタースリーブ10と同様に合成樹脂材を射出成形して形成されており、このインナースリーブ11の内周面には、ステアリングシャフト13の外周面に形成された平面部131と協働してステアリングシャフト13の回動を抑制する二つの平面状回り止め部111が形成されている。
【0031】
ステアリングシャフト13はインナースリーブ11内に挿入されており、ステアリングシャフト13が挿入される側と反対側のインナースリーブ11の一端部(図中右側端部)には、ステアリングシャフト13の平面部131をインナースリーブ11の内径方向に弾性的に押圧する二つの弾性押え片34が相対向して設けられている。これらの弾性押え片34はインナースリーブ11と一体に樹脂成形されており、弾性押え片34の両側には、弾性押え片34をインナースリーブ11の外径方向に弾性変形させるために、スリット35,35,35a(図18参照)がインナースリーブ11の軸方向に沿って形成されている。スリット35aはインナースリーブ11の肉厚内を軸方向に形成され、スリット35,35はスリット35aに連続して回り止め部111内に連通するように形成され、これにより弾性押え片34がその一辺においてインナースリーブ11と一体化されている。また、弾性押え片34はインナースリーブ11の内径方向に突出する突起部34a(図17参照)を先端部にそれぞれ有している。
【0032】
このように構成されるステアリング用軸受装置では、ステアリングシャフト13をインナースリーブ11に挿入すると、弾性押え片34がインナースリーブ11の外径方向に弾性変形する。このとき、インナースリーブ11には弾性押え片34を元の位置に戻そうとする弾性力が発生し、この弾性力によってステアリングシャフト13の外周面が締め付けられる。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11から容易に抜け出るのを防止するために、インナースリーブ11の内周面全体をステアリングシャフト13の外径より小さい内径にする必要がないので、インナースリーブ11に対するステアリングシャフト13の挿入荷重を低く抑えることができ、比較的大きな力を要することなくステアリングシャフト13をインナースリーブ11内に挿入することができる。
【0033】
また、インナースリーブ11内にステアリングシャフト13を図中左方から挿入すると、ステアリングシャフト13の外周面に形成された二つの平面部131がインナースリーブ11の内周面に形成された二つの平面状回り止め部111と各々嵌合することによって、ステアリングシャフト13の円周方向の回動が平面状回り止め部111によって抑制される。これにより、ステアリングシャフト13がインナースリーブ11に対して円周方向にがたつくことがないので、ステアリングシャフト13のがたつきに起因する操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0034】
上述した第7の実施形態では凸状球面部25と凹状球面部26とからなる球面すべり軸受を転がり軸受12の外周側に配置したものを例示したが、これに限られるものではなく、例えば図19に示す第8の実施形態のように、凸状球面部25と凹状球面部26とからなる球面すべり軸受を転がり軸受12の内周側に配置してもよい。
また、上述した各実施形態ではハウジング9またはアウタースリーブ10とインナースリーブ11との間に配置される転がり軸受として玉軸受を例示したが、これに限られるものではなく、玉軸受の代わりに、ころ軸受をハウジング9またはアウタースリーブ10とインナースリーブ11との間に配置してもよい。
上述した各実施形態では、シャフトがステアリングシャフトである場合の実施形態を例示したが、これに限定されるものではなく、ステアリングシャフト以外のシャフト(例えば図20に示すアッパーステアリングシャフトなど)についても本発明を適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るステアリング用軸受装置の軸方向断面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】図1に示すステアリングシャフトの斜視図である。
【図4】図1に示すステアリング用軸受装置の作用を説明するための図である。
【図5】図1に示すステアリング用軸受装置の作用を説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るステアリング用軸受装置の軸方向断面図である。
【図7】図6のVII−VII断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るステアリング用軸受装置の軸方向断面図である。
【図9】図8のIX−IX断面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係るステアリング用軸受装置の軸方向断面図である。
【図11】図10のXI−XI断面図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係るステアリング用軸受装置の軸方向断面図である。
【図13】図12のXIII−XIII断面図である。
【図14】本発明の第6の実施形態に係るステアリング用軸受装置の軸方向断面図である。
【図15】図14のXV−XV断面図である。
【図16】図14に示すステアリング用軸受装置の作用を説明するための図である。
【図17】本発明の第7の実施形態に係るステアリング用軸受装置の軸方向断面図である。
【図18】図17のXVIII−XVIII断面図である。
【図19】本発明の第8の実施形態に係るステアリング用軸受装置の一部を示す断面図である。
【図20】自動車用ステアリング機構の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 アッパーステアリングシャフト
2 ステアリングホイール
3 自在継手
4 中間ステアリングシャフト
5 トーボード
7 ステアリングギヤボックス
8 ステアリング用軸受装置
9 ハウジング
10 アウタースリーブ
11 インナースリーブ
111 回り止め部
12 転がり軸受
121 外輪
122 内輪
123 転動体
13 ステアリングシャフト
131 平面部
14 弾性シール部材
16 回り止め溝
17 回り止め突起
18 爪部材
21 弾性部材
25 凸状球面部
26 凹状球面部
30 突起部
31 絞り部
34 弾性押え片
35 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトを支持する軸受の内輪内周側にインナースリーブを有する軸受装置において、前記インナースリーブの内周面と該インナースリーブ内に挿入されたシャフトの外周面との接触部を軸方向の一部で締めしろ嵌合にする締めしろ嵌合部を、前記インナースリーブが有することを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記締めしろ嵌合部は前記インナースリーブの内周面から突出して前記シャフトの外周面の円周方向の一部を弾性的に押圧する突起部であることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
前記締めしろ嵌合部は前記インナースリーブの内径を前記シャフトの外径より小さく絞って前記シャフトの外周面の軸方向の一部を弾性的に締め付ける絞り部であることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
【請求項4】
前記締めしろ嵌合部は前記シャフトの外周面を径方向に弾性的に押圧する弾性押え片であることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の軸受装置において、前記軸受が前記内輪と前記インナースリーブとの間に自動調芯部を有することを特徴とする軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−71381(P2007−71381A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58449(P2006−58449)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】