軸受部品、軸受および軸受部品の検査方法
【課題】浸炭窒化処理された軸受部品の窒素濃度を、定量的かつ簡便に保証する検査方法、さらに窒素濃度が定量的に保証された軸受部品および軸受を提供する。
【解決手段】軸受部品としての内輪1、外輪2、玉3は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、当該表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い。
【解決手段】軸受部品としての内輪1、外輪2、玉3は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、当該表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受部品、軸受および軸受部品の検査方法に関し、より特定的には、浸炭窒化処理を施した軸受部品、軸受および軸受部品の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、定性的には浸炭窒化処理は転がり軸受の転動疲労寿命の延長に効果的であることが知られている(たとえば、”倉部兵次郎ら,1%Cr鋼の浸炭および浸炭窒化層の昇温ころがり疲れ特性, 鉄と鋼, vol.11, (1967), p.1305”(以下、非特許文献1と呼ぶ)、特許第2962817号(以下、特許文献1と呼ぶ)参照)。また、近年では特開2009−229288号公報(以下、特許文献2と呼ぶ)に示されるように、より定量的な転がり軸受の圧痕起点型はく離寿命の評価方法においても、浸炭窒化処理が有効であることが分かってきている。たとえば、研削後最表面の窒素濃度が0.1mass%以上あれば、未窒化品と比較して統計的に有意差が確実に認められるほど寿命延長されるという知見が得られている。
【0003】
従って浸炭窒化処理品の研削後最表面の窒素濃度が0.1mass%以上であることが品質保証された転がり軸受部品を提供出来れば、転がり軸受の安全性はより確実に確保され、当該転がり軸受を用いた機械装置の安全性が向上することで結果的に社会的にも大きなメリットがある。
【0004】
しかしながら、現在、鋼中の窒素濃度の定量はEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)やGDS(Glow Discharge spectrometer)等の分析装置によって実施する方法しかなく、そのような測定を行なうためには工数を非常に多く要する。そのため、品質保証のための検査方法として上記のような分析装置を用いた方法を採用すれば転がり軸受が非常に高価になり、現実的ではない。
【0005】
また、鋼中に侵入した窒素の特性である、「高温焼戻後の硬度が未窒化部より高い」ことを利用することにより、窒化の度合いを定性的に評価する方法が、たとえば”渡辺陽一ら, 浸炭窒化焼入れしたクロム含有鋼の焼入組織および焼戻し軟化抵抗に及ぼす窒素量の影響,熱処理, vol.40, (2000), p.18”(以下、非特許文献2と呼ぶ)などにおいて示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2962817号
【特許文献2】特開2009−229288号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】倉部兵次郎ら,1%Cr鋼の浸炭および浸炭窒化層の昇温ころがり疲れ特性, 鉄と鋼, vol.11, (1967), p.1305
【非特許文献2】渡辺陽一ら, 浸炭窒化焼入れしたクロム含有鋼の焼入組織および焼戻し軟化抵抗に及ぼす窒素量の影響,熱処理, vol.40, (2000), p.18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような鋼中の窒素の特性を利用し、浸炭窒化処理した軸受部品について高温焼戻後の断面硬度分布を測定することによって、当該軸受部品の窒化深さを定性的に評価することも考えられる。
【0009】
しかし、上記のような方法では、浸炭窒化処理された部材(たとえば軸受部品)の窒素濃度が定量的に保証されてはいなかった。上述のような軸受部品および軸受を用いた機械装置の安全性を経済的かつ確実に向上させるためには、簡便な方法により窒素濃度を定量的に保証する検査方法、さらにそのような窒素濃度が定量的に保証された軸受部品および軸受が求められている。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、浸炭窒化処理された軸受部品の窒素濃度を、定量的かつ簡便に保証する検査方法、さらに窒素濃度が定量的に保証された軸受部品および軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に従った軸受部品は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、当該表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い。
【0012】
後述するように、JIS規格SUJ2からなる軸受部品については、上記のような条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて所定の距離(30μm)だけシフトするという知見を発明者は得た。このため、上記のような熱処理後の表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度は、当該位置における窒素濃度(熱処理を行なう前の軸受部品表面における窒素濃度)に応じて、浸炭窒化処理されていない領域よりビッカース硬度が所定の値だけ高くなっている。そのため、熱処理を行なう前の軸受部品表面における設計窒素濃度に応じてビッカース硬度の向上代の基準値を決めておき(たとえば当該設計窒素濃度を0.1質量%とすれば、ビッカース硬度の向上代の基準値は130HVとなる)、熱処理後の表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度の測定値と、浸炭窒化層以外の領域である芯部のビッカース硬度の測定値との差が当該基準値を満足するか(基準値より当該差が大きくなっているか)否かを判別することで、軸受部品の表面における窒素濃度が設計窒素濃度以上となっているか否かを検査することができる。この結果、本発明による軸受部品は、上記熱処理前の表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証することができる。
【0013】
上記軸受部品では、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、上記芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高いことが好ましい。ここで、上記軸受部品の浸炭窒化層における、窒素濃度が0.1質量%の位置と0.06質量%の位置との間の深さ方向における距離は後述するように最大で40μmである。そのため、上述した熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて移動する距離(30μm)に加えて、さらに上記40μmだけ厚み方向の内部側に位置する領域のビッカース硬度と、上記芯部のビッカース硬度との差が80HV以上(つまり、当該領域の窒素濃度が0.06質量%以上)であれば、上記熱処理前の浸炭窒化層の表面での窒素濃度が0.1質量%以上であることを確実に保証できる。
【0014】
また、後述するように、浸炭窒化層中の領域と芯部とビッカース硬度の差分と窒素濃度とは、ほぼ窒素濃度が0〜0.1質量%程度までの範囲において線形関係を有している。そのため、判定に用いる窒素濃度を、当該線形関係を示す範囲のほぼ中央に近いたとえば0.06質量%としておけば、ビッカース硬度の差分と窒素濃度との相関が比較的よく取れているため、判別の正確性を向上させることができる。
【0015】
この発明に従った軸受部品は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い。
【0016】
ここで、上記のような条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて一定の距離(30μm)だけシフトするという知見、さらに、上述のように上記軸受部品の浸炭窒化層における、窒素濃度が0.1質量%の位置と0.06質量%の位置との間の深さ方向における距離は後述するように最大で40μmであるという知見を発明者は得た。このため、上記のような熱処理後の表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度は、当該位置における窒素濃度(熱処理を行なう前の軸受部品表面における窒素濃度)に応じて、浸炭窒化処理されていない領域よりビッカース硬度が所定の値だけ高くなっている。
【0017】
そして、後述するように窒素濃度が0.06質量%の領域におけるビッカース硬度と上記芯部のビッカース硬度との差異は80HVであり、当該差異の絶対値は窒素濃度が高くなるほど大きくなる。したがって、上記のように表面から70μmの深さの位置でのビッカース硬度に関する上記差異が80HV以上であれば、当該位置での窒素濃度は0.06質量%以上であることがわかる。また、当該位置から表面側に向かうほど窒素濃度は高くなる傾向になっており、また0.1質量%の位置と0.06質量%の位置との間の距離が最大でも40μmであることから、表面より30μmの位置での窒素濃度は0.1質量%以上となっていることがわかる。
【0018】
このように、表面から70μmの深さの位置でのビッカース硬度と芯部でのビッカース硬度との差から、上記熱処理前の軸受部品表面での窒素濃度を検証することができる。この結果、本発明による軸受部品は、上記熱処理前の表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証することができる。
【0019】
上記軸受部品では、浸炭窒化層の表面における窒素濃度が0.1体積%以上であってもよい。この場合、軸受部品の寿命延長を確実に図ることができる。
【0020】
上記軸受部品において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成することができる。なお、ここでA1点とは、鋼を加熱するときに、鋼の組織がフェライトからオーステナイトへ変態を開始する温度に相当する点を示す。また、Acm点とは、加熱時、過共析鋼中のセメンタイトが完全に溶解する温度に相当する点を示す。
【0021】
上記軸受部品において、浸炭窒化層は、たとえば処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成できる。
【0022】
この発明に従った軸受は、上記軸受部品を用いて製造された軸受である。このようにすれば、浸炭窒化層の表面における窒素濃度が定量的に保証されることにより、未窒化の軸受部品を用いた軸受よりも確実に寿命の延長された軸受を得ることができる。
【0023】
この発明に従った軸受部品の検査方法は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品を準備する工程と、当該軸受部品に対して、熱処理を行なう工程と、熱処理の後、表面から、当該表面に対する研削代に第1の距離を加えた合計の深さの位置における第1のビッカース硬度と、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部における第2のビッカース硬度とを測定する工程と、第1のビッカース硬度が第2のビッカース硬度より基準値だけ高いかどうかを判別する工程とを備える。
【0024】
このようにすれば、JIS規格SUJ2からなる軸受部品については、所定の条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて所定の距離だけシフトするという発明者の新たな知見に基づき、軸受部品の表面における窒素濃度を定量的に保証することができる。
【0025】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は30μmであってもよく、基準値は130HVであってもよい。
【0026】
この場合、上記のような熱処理を行なった後でのビッカース硬度と窒素濃度との相関関係と、当該熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側へほぼ30μmだけ移動するという発明者の知見に基づき、当該熱処理前の軸受部品の表面における窒素濃度を0.1質量%以上であるかどうかを判別できる。
【0027】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は70μmであってもよく、基準値は80HVであってもよい。
【0028】
上記検査方法において、軸受部品における浸炭窒化層の表面において確認される窒素濃度は0.1体積%以上であってもよい。
【0029】
上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。
【0030】
上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、表面の窒素濃度が0.1質量%以上となった軸受部品を確実に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による軸受の実施の形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明による軸受部品の検査方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】窒素濃度を測定するための試料を示す模式図である。
【図4】焼戻温度と、ビッカース硬度の最大値と深さ1mmの位置でのビッカース硬度との差である断面硬度差分ΔHVであるとの関係を示すグラフである。
【図5】窒素濃度と断面硬度差分との関係を示すグラフである。
【図6】窒素濃度が0.1質量%以下の範囲における窒素濃度と断面硬度差分との関係を示すグラフである。
【図7】断面硬度差分と窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図8】試料における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図9】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図10】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図11】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図12】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図13】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図14】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図15】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図16】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図17】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図18】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰返さない。
【0034】
図1を参照して、軸受10は、JIS規格JUS2からなる、環状の外輪2と、外輪2の内側に配置された環状の内輪1と、外輪2と内輪1との間に配置され、円環状の保持器4に保持された転動体としての複数の玉3とを備えている。外輪2の内周面には外輪軌道面2Aが形成されており、内輪1の外周面には内輪軌道面1Aが形成されている。そして、内輪軌道面1Aと外輪軌道面2Aとが互いに対向するように、外輪2と内輪1とは配置されている。さらに、複数の玉3は、その表面である玉転走面3Aにおいて内輪軌道面1Aおよび外輪軌道面2Aに接触し、かつ保持器4により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、軸受10の外輪2および内輪1は、互いに相対的に回転可能となっている。外輪2の少なくとも外輪軌道面2Aは浸炭窒化層が形成された領域となっている。また、内輪1の内輪軌道面1Aも浸炭窒化層が形成された領域となっている。また、玉3の表面には浸炭窒化層が形成されている。また、内輪1、外輪2、玉3の浸炭窒化層の表面における窒素濃度は0.1質量%以上となっている。
【0035】
また、異なる観点から言えば、上述した本発明による軸受部品としての内輪1、外輪2、玉3は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、後述するように加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理(高温焼戻)を行なった後において、当該表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、当該軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い。このようにすれば、後述するように軸受部品において表面における窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証でき、結果的に当該軸受部品を用いた軸受の寿命を延長することができる。
【0036】
上記軸受部品(たとえば内輪1、外輪2、玉3)では、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、上記芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高いことが好ましい。このようにすれば、上記熱処理前の浸炭窒化層の表面での窒素濃度が0.1質量%以上であることを確実に保証できる。
【0037】
また、後述するように、浸炭窒化層中の領域と芯部とビッカース硬度の差分と窒素濃度とは、ほぼ窒素濃度が0〜0.1質量%程度までの範囲において線形関係を有している。そのため、判定に用いる窒素濃度を、当該線形関係を示す範囲のほぼ中央に近い値(たとえば0.06質量%)としておけば、ビッカース硬度の差分と窒素濃度との相関が比較的よく取れているため、判別の正確性を向上させることができる。
【0038】
また、この発明に従った軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い。このようにすれば、後述するように上記熱処理前の浸炭窒化層の表面での窒素濃度が0.1質量%以上であることを確実に保証できる。
【0039】
上記軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)では、浸炭窒化層の表面であるたとえば転走面における窒素濃度が0.1体積%以上である。この場合、軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)の寿命延長を確実に図ることができる。
【0040】
上記内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成することができる。
【0041】
上記内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において、浸炭窒化層は、たとえば処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成できる。
【0042】
この発明に従った軸受10は、内輪1、外輪2、玉3などの上記軸受部品を用いて製造された軸受である。このようにすれば、浸炭窒化層の表面における窒素濃度が定量的に保証されることにより、未窒化の軸受部品を用いた軸受よりも確実に寿命の延長された軸受を得ることができる。
【0043】
図1に示した軸受10を構成する内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品について、その表面における窒素濃度は以下のような検査方法により検査することができる。以下、図2を参照して、本発明による軸受部品の検査方法を説明する。
【0044】
図2に示すように、本発明による軸受部品の検査方法では、浸炭窒化処理などを行なった内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品であるサンプルを準備し、当該サンプルを高温焼戻する工程(S10)を実施する。この工程(S10)では、たとえば焼戻温度(加熱保持温度)を300℃以上700℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下、より好ましくは500℃とし、焼戻時間(保持時間)をたとえば1時間とすることができる。このような熱処理を行なうことで、浸炭窒化層のビッカース硬度が浸炭窒化層以外の領域におけるビッカース硬度よりも高くなる。
【0045】
次に、図2に示すようにサンプルの断面硬度を測定する工程(S20)を実施する。具体的には、たとえば内輪1(図1参照)をサンプルとした場合、当該サンプルから試験片を切り出し、その試験片について外径側から内径側に向けて厚さ方向の所定の位置について、断面硬度(ビッカース硬度)を測定する。硬度を測定する位置は、たとえば表面(外径側表面)から30μmの位置と1mmの位置という2箇所、あるいは表面から70μmの位置と1mmの位置という2ヶ所、あるいは表面から30μmの位置、70μmの位置、1mmの位置という3箇所としてもよい。
【0046】
次に、図2に示すように断面硬度の差分を算出する工程(S30)を実施する。具体的には、浸炭窒化層以外の領域である芯部に対応する表面から1mmの位置でのビッカース硬度と、表面から30μmまたは70μmの位置でのビッカース硬度との差を算出する。
【0047】
次に、基準値と断面硬度の差分とを比較する工程(S40)を実施する。具体的には、予め決定された基準値と上記工程(S30)において算出した断面硬度の差分とを比較し、当該差分の値が基準値を満たしているか(基準値以上となっているか)を判別する。そして、当該差分の値が基準値を満たしていれば、サンプルの熱処理(高温焼戻)前における表面での窒素濃度が所定の値(たとえば0.1質量%)であることが確認できる。
【0048】
上述した軸受部品の検査方法の特徴的な構成を要約すれば、上記検査方法は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品(たとえば内輪1、外輪2、玉3など)を準備する工程と、当該軸受部品に対して、熱処理を行なう工程(S10)と、熱処理の後、表面から、当該表面に対する研削代に第1の距離を加えた合計の深さの位置における第1のビッカース硬度と、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部における第2のビッカース硬度とを測定する工程(S20)と、第1のビッカース硬度が第2のビッカース硬度より基準値だけ高いかどうかを判別する工程(S30、S40)とを備える。
【0049】
このようにすれば、後述するようにJIS規格SUJ2からなる内輪1などの軸受部品については、所定の条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて所定の距離だけシフトするという発明者の新たな知見に基づき、内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品の表面における窒素濃度を定量的に保証することができる。
【0050】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は30μmであってもよく、基準値は130HVであってもよい。
【0051】
この場合、上記のような熱処理(高温焼戻)を行なった後でのビッカース硬度と窒素濃度との相関関係と、当該熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側へほぼ30μmだけ移動するという発明者の知見に基づき、当該熱処理前の軸受部品の表面における窒素濃度が0.1質量%以上であるかどうかを判別できる。
【0052】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は70μmであってもよく、基準値は80HVであってもよい。この場合、より高い精度で当該熱処理前の軸受部品の表面における窒素濃度が0.1質量%以上であるかどうかを判別できる。
【0053】
上記検査方法において、軸受部品における浸炭窒化層の表面において確認される窒素濃度は0.1体積%以上である。この場合、当該表面の窒素濃度について、軸受部品の寿命延長効果を得られるレベルとなっているため、当該検査方法により合格と判定された軸受部品では寿命延長効果を確実に得ることができる。
【0054】
上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。また、上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。
【0055】
(実施例1)
以下、上述した本発明による検査方法を、実際にJIS規格SUJ2からなる軸受部品に適用するため、以下のような手順により硬度の測定位置や基準値を決定した。
【0056】
(1) 試験片および実験方法について
(1−1)はじめに
まず、窒素濃度と相関関係の高い高温焼戻での加熱保持温度および保持時間を決定する必要がある。ここで、高温焼戻による変態は熱活性化過程であるため、加熱保持温度の高温化と保持時間の長時間化とは同じ意味を持ち、両者を共に変数にすることには意味はないと考えられる。そこで、本明細書では保持時間を一定の時間(1時間)と固定した上で、加熱保持温度を300℃、400℃、500℃、600℃、700℃と変更し、最も硬度の差が明確になる加熱保持温度を調べることにより、以下に示すように検査に適した加熱保持温度を決定した。
【0057】
また、各材料の化学成分の違いによる焼入性の差や、焼入時の冷却速度の差は、焼入後硬度に影響を及ぼし、高温焼戻後の硬度にも影響を及ぼすものと考えられる。そのため、上述のように検査の指標としては断面硬度の絶対値そのものを使用せず、窒化されていない表層から深い位置(芯部)での硬度(ここではたとえば熱処理後最表面から1mmという深さでの硬度とした)と、窒化された領域内でのある深さの位置での硬度との硬度差(硬度差分)を本検査方法の指標として採用した。
【0058】
(1−2) 対象試験片
調査対象とした試験片の化学成分を表1に示す。材料はすべてJIS規格SUJ2とし、これらを様々な熱処理炉、熱処理雰囲気で浸炭窒化処理を施した。なお、浸炭窒化処理温度は840℃以上860℃以下という温度範囲に含まれていた。
【0059】
【表1】
【0060】
具体的には、試験片番号1については、浸炭窒化処理温度を850℃、処理時間を120分(min)とし(以下、「850℃×120min」というように表記する)、未分解NH3分率:0.2vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号2については、840℃×70min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.85という処理を行なった。また、試験片番号3については、850℃×120min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号4については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号5については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。
【0061】
また、試験片番号6については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.13vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号7については、850℃×150min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.85という処理を行なった。また、試験片番号8については、850℃×150min、未分解アンモニア分率:0.25vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号9については、850℃×180min、未分解アンモニア分率:0.3vol.%、炭素の活量:0.95という処理を行なった。また、試験片番号10については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.2vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。
【0062】
(1−3) 窒素濃度測定方法
高温焼戻後のサンプルの断面硬度と窒素濃度との相関を調査するため、サンプル(鋼)中の窒素濃度分布を測定する必要がある。浸炭窒化処理後の鋼中窒素濃度の測定には、EPMAの線分析を用いた。定量化は既知の窒素濃度を有する校正用試験片を分析し、その検量線を用いて実施した。EPMA分析に用いたサンプルおよび測定方法の模式図を図3に示す。
【0063】
図3に示すように、たとえば内輪1(図1参照)をサンプル11として用いる場合を考える。当該サンプル11について、浸炭窒化処理後のサンプル中11の窒素濃度を測定した。具体的には、サンプル11から図3に示すような試験片12を切り出し、当該試験片の外径側表面13から内径側表面14に向かう方向に沿って、試験片12の高さ方向の中央部(半幅となる位置)において、切り出し端面についてEPMAの線分析を行なった。
【0064】
(1−4) 断面硬度測定方法
上記(1−3)で述べた試験片において、EPMA分析を行なった切り出し端面にて硬度測定を行なった。測定方法としては、マイクロビッカース硬度計を用いてビッカース硬度測定を行なった。
【0065】
(2) 高温焼戻の保持温度の探索
(2−1) 実験内容
窒素濃度と相関関係の高い焼戻温度(加熱保持温度)を探索するため、浸炭窒化処理後に180℃という加熱温度で2時間の保持時間という焼戻を施した試験片に、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃というそれぞれの加熱保持温度で保持時間を1時間とした5種類の高温焼戻を行った。なお、高温焼戻時の雰囲気は大気雰囲気とした。そして、それぞれの高温焼戻条件で処理された試験片について断面硬度を測定した。なお、ここでは窒素侵入量が多いと考えられる浸炭窒化処理条件の試験片番号8、9の試験片について測定を行なった。
【0066】
(2−2) 実験結果
実験結果をまとめたグラフを図4に示す。図4に示したグラフは、焼戻温度を横軸とし、断面硬度の差分(すなわち(断面硬度の最大値)−(熱処理後最表面から1mmの深さ位置での断面硬度):ΔHVとも表示する)を縦軸にして実験結果を整理したものである。図4から分かるように、断面硬度の差分ΔHVは、加熱保持温度を500℃とし、保持時間を1時間とした高温焼戻後に最も大きくなっていた。この加熱保持温度を500℃としたときの断面硬度の差分ΔHVは、加熱保持温度を300℃または700℃とした高温焼戻後の当該断面硬度の差分ΔHVの約2倍の値を示していた。従って、相対的に窒素濃度と相関の高い焼戻後の硬度は、加熱保持温度を500℃程度とした焼戻後の硬度であると考えられる。このため、以下の実験では、断面硬度の測定を、加熱保持温度を500℃とし、保持時間を1時間とした高温焼戻後の試験片について実施した。
【0067】
(3) 窒素濃度と断面硬度の差分(ΔHV)との関係調査
ここでは表1に示した組成の各試験片について、高温焼戻として加熱保持温度を500℃、保持時間を1時間という熱処理を行なった後、図3を用いて説明したように試験片の窒素濃度をEPMA分析により測定した。また、当該試験片について、図3に示した試験片12の切り出し端面において深さ方向での断面硬度を測定した。そして、当該深さ方向でのある位置における断面硬度と熱処理後最表面から1mmという深さ位置における断面硬度との差分(以下、断面硬度差分(ΔHV)と定義する)の関係を調査した。その結果を図5に示す。図5の横軸は窒素濃度(単位は質量%:mass%とも表記する)であり、縦軸は断面硬度差分(ΔHV)(単位はビッカース硬度)である。図5より、窒素濃度が0越え0.1質量%以下の範囲においては、窒素濃度と断面硬度差分との相関が強く、一方で窒素濃度が0.1質量%越えの範囲では窒素濃度と断面硬度差分との相関は相対的に弱いことが分かった。これは窒素濃度が高い領域で不完全焼入が発生する場合があること、ならびに試験片中に固溶した窒素は必ずしもマルテンサイトの分解速度低下に寄与するとは限らないためと考えられる。
【0068】
具体的には、図5において破線で囲んだ点で示されるデータは、不完全焼入の発生による硬度低下に起因するものと考えられる。これらを除外し、0〜0.1質量%という範囲での窒素濃度と断面硬度差分との関係を抜き出して、図6に整理し直した。
【0069】
図6に示したグラフでは、横軸が窒素濃度(単位:質量%)であり、縦軸が断面硬度差分:ΔHV(単位:ビッカース硬度)である。図6に示したグラフのデータに基づき、窒素濃度と断面硬度差分との相関係数を算出すると、両者の相関係数は0.95と高い。このため、0〜0.1質量%という窒素濃度の範囲であれば、断面硬度差分から窒素濃度を予測することが可能であると考えられる。
【0070】
(3) 研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを品質保証する検査方法の構築
(3−1) 断面硬度差分(ΔHV)から窒素濃度(質量%)への変換
図7は、横軸が断面硬度差分:ΔHV(単位:ビッカース硬度)であり、縦軸が窒素濃度(単位:質量%)としたグラフであり、図6に示したデータをプロットしたものである。これらのデータから窒素濃度と断面硬度差分との関係を示す近似式を求め、図7では当該近似式も表示している。図7に示すように、断面硬度差分の値から窒素濃度を求める実験式は
[窒素濃度(質量%)]=[断面硬度差分(ΔHV)]×0.00085−0.011 ・・・・式(1)
という式(1)で表される。式(1)より、例えば断面硬度差分が130(ΔHV)になる位置の窒素濃度は0.1質量%と推測される。
【0071】
(3−2) 実験式に基づく検討
ここでは、軸受部品において浸炭窒化層が形成された領域の表面である転走面について、研削後での最表面(つまり最終的な軸受部品の最表面)の窒素濃度が所定の値(たとえば具体的には0.1質量%以上)であることを保証するための検査方法(品質保証方法)を提案し、当該検査方法に基づいて、窒素濃度を保証した転がり軸受の構成部品(軸受部品)を提供する。従って直接的な品質保証方法としては、浸炭窒化処理後に当該検査方法に基づく検査を実施した後、軸受部品の転走面について仕上げの研削を行なう場合には、上記式(1)から考えれば、転走面の研削取代を見込んだ深さ位置での断面硬度差分が130以上であれば良いことになる。
【0072】
しかし、図5より分かるとおり、断面硬度差分と窒素濃度との相関は窒素濃度が0.1質量%を越えると急激に低下している。そのため、0.1質量%という窒素濃度を上記検査での基準(品質保証の基準)にすると、検査結果において誤差が生じ易くなる可能性がある。そこで、ここでは図7に示したグラフにおいて、有効な窒素濃度の範囲でのほぼ中央値である、0.06質量%の窒素濃度を品質保証の基準として採用する。この場合、上記式(1)によれば、断面硬度差分が80になる位置の窒素濃度が0.06質量%になると推測される。
【0073】
(3−3) 窒素濃度が0.06質量%の深さ位置と窒素濃度が0.1質量%の深さ位置との間の距離計算
JIS規格SUJ2からなる浸炭窒化処理品の実用的な窒素濃度分布は、窒素濃度分布予測式(大木力,「SUJ2の浸炭窒化処理後の窒素濃度分布予測」, 鉄と鋼, vol.93, (2007), p.220 参照)により図8の範囲にあると考えられる。図8に示したグラフでは、横軸が浸炭窒化処理品の表面からの深さ(単位:mm)を示し、縦軸が窒素濃度(単位:質量%)を示している。図8より、窒素濃度が0.06質量%の深さ位置と、窒素濃度が0.1質量%の深さ位置との間の距離は、実用範囲内では15μm以上40μm以下の範囲に収まることが分かった。
【0074】
このように、窒素濃度が0.1質量%の深さ位置と窒素濃度が0.06質量%(すなわち断面硬度差分が80)の深さ位置との間の最大距離が40μmになる。そのため、図8などから考えると、窒素濃度が0.06質量%の深さ位置より浸炭窒化処理品の表面側へ40μmだけ近い位置から、当該表面までの範囲では、窒素濃度は0.1質量%以上であると考えられる。従って、ある深さ位置での断面硬度差分(ΔHV)が80以上であれば、当該深さ位置から40μmだけ表面に近い領域の窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証出来ることになる。なお、図8に示した4つの条件において、窒素濃度が0.06質量%となる深さ位置から40μmだけ表面側にずれた領域での窒素濃度は表2に示した値になると計算される。
【0075】
【表2】
【0076】
なお、表2では各条件での窒化時間(浸炭窒化処理時間)、未分解NH3体積分率、窒素濃度が0.06質量%となる深さ位置から40μmだけ表面側にずれた領域の窒素濃度に対応する研削後最表面の窒素濃度がそれぞれ記載されている。表2からも分かるように、図8に示された4つの条件のいずれにおいても、当該領域での窒素濃度は0.1質量%以上となっている。
【0077】
(3−4) 加熱保持温度を500℃とし、保持時間を1時間とした焼戻による窒素移動の影響
上記(3−1)に示したように、0以上0.1質量%以下の窒素濃度と、加熱保持温度を500℃とし保持時間を1時間とした焼戻後の断面硬度差分(ΔHV)とには強い相関関係があることが分かった。しかし本発明者が提案しようとしている検査方法(品質保証方法)は、加熱保持温度を500℃とし保持時間を1時間とした高温焼戻を行なう前、すなわち実製品の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを示すことである。そこで、ここでは窒素侵入量が多いと考えられる試験片番号3、8、9、10において上記高温焼戻前(浸炭窒化処理後、加熱保持温度を180℃とし保持時間を2時間とした焼戻処理後)と、上記高温焼戻後(加熱保持温度500℃で保持時間を1時間とした焼戻処理(以下、「500℃×1h焼戻」とも記載する)後)とのそれぞれの場合について、窒素濃度分布を測定した。そして、当該窒素濃度分布の実測値を比較し、上記高温焼戻による窒素の移動距離を調査した。
【0078】
上記の2つの場合についての窒素濃度分布の測定値から、上記高温焼戻前後における試料での窒素濃度0.05質量%となる領域の深さ、および窒素濃度0.1質量%となる領域の深さを読取り、当該高温焼戻により当該領域がどれくらいの距離移動したのかを算出した。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3では、左から試験片番号、試料表面からの深さを測定した領域における窒素濃度(単位:質量%)、高温焼戻を実施する前の、試験片表面から当該領域までの深さ(単位:μm)、高温焼戻を実施した後の、試験片表面から当該領域までの深さ(単位:μm)、高温焼戻により当該領域が深さ方向に移動した距離(単位:μm)、各窒素濃度ごとの領域の移動距離の平均値(単位:μm)が示されている。
【0081】
表3より、高温焼戻(500℃×1h焼戻)によって、窒素濃度が0.05質量%、あるいは窒素濃度が0.1質量%となる領域はともに試験片の内部側へ平均で約30μm移動することが分かった。そして、上記(3−3)により、窒素濃度が0.06質量%となる領域から表面側へ40μmだけ近い(浅い)領域から、当該表面までの間では窒素濃度が0.1質量%以上になると計算されたが、高温焼戻(500℃×1h焼戻)前の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上になることを保証するためには、高温焼戻(500℃×1h焼戻)による上記の窒素移動距離を考慮する必要がある。つまり、窒素濃度が0.1質量%となる深さと窒素濃度が0.06質量%となる深さとの間の最大距離が40μm、高温焼戻(500℃×1h焼戻)による窒素移動距離が30μmであるので、上記最大距離(40μm)と上記窒素移動距離(30μm)との合計距離(70μm)を考える。さらに、浸炭窒化処理後の軸受部品の研削取代(一方の表面のみ)を上記合計距離に加えた深さ位置での窒素濃度が0.06質量%以上(つまり高温焼戻(500℃×1h焼戻)後の断面硬度差分が80以上)であれば、高温焼戻(500℃×1h焼戻)前の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上になることを保証出来ることになる。
【0082】
なお、表3に示したように、高温焼戻(500℃×1h焼戻)による窒素濃度が0.05質量%、および窒素濃度が0.1質量%となる位置の深さ方向における移動距離はほぼ等しい。そのため、上記(3−3)で計算した窒素濃度が0.1質量%の深さ位置と窒素濃度が0.06質量%の深さ位置との間の最大距離は上記高温焼戻(500℃×1h焼戻)によって大きく変化しないものと考えられる。
【0083】
(3−5) 検査の具体的手順(品質保証の具体的手順)
以上の実験結果および検討結果をまとめると、軸受部品における転走面の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを品質保証するための検査方法の具体的な手順は以下の通りになる。
【0084】
1) 浸炭窒化処理サンプル(軸受部品の熱処理完了品)を切断し、上述した高温焼戻(500℃×1h焼戻)を実施する。
【0085】
2) 断面硬度測定用の試験片を準備する(たとえば、断面硬度測定が可能な様に当該試験片を樹脂埋めし、硬度測定用の試料を作製する)。このとき、軸受部品の転走面となる表面から軸受部品の内部に向かう深さ方向での所定の位置について硬度測定が可能なように、当該硬度測定を行なう端面が露出するように試験片を準備する。
【0086】
3) 試験片において軸受部品の転走面となる最表面から、深さが1mmである位置(窒素侵入のない位置:芯部ともいう)の断面硬度(ビッカース硬度)を測定する。
【0087】
4) 試験片における転走面の最表面から(片側研削取代+70μmの深さ位置)での断面硬度(ビッカース硬度)を測定する。なお、サンプルとして研削をすでに行なったものを用いる場合には、断面硬度の測定位置は上記差異表面から70μmの深さ位置としてもよい。
【0088】
5) 上記3)、4)で測定した断面硬度の差分が基準値(たとえば80)を満足するか否かを判定する。たとえば上記測定値から算出した断面硬度の差分が基準値である80以上であれば、研削後のサンプル最表面の窒素濃度は0.1質量%以上ということになり、検査に合格したとみなせる。
【0089】
上述した検査方法は、新たな設備導入を必要とせず、非常に簡便な検査であると言える。なお、検査工数が若干増加するものの、上記検査の信頼性をより高めるためには、たとえば上記工程3)、4)の測定値はN数=2としたときの当該測定値の平均値を採用することが望ましい。
【0090】
(4) 本発明による検査方法を用いた判定
上述した検査方法(品質保証方法)の妥当性を確認するため、各試験片に本検査方法を適用し、合否判定して、窒素濃度実測値と比較した。試験片としては、表1に示した試験片を用いた。そして、表4には、左欄から試験片番号、各試験片の片側研削取代(単位:μm)、高温焼戻(500℃×1h焼戻)後の、表面から研削取代+70μmという深さ位置での断面硬度と、表面から1mmでの断面硬度との差異である断面硬度差分(ΔHV)、本検査方法に基づく合否判定結果、および、上記高温焼戻を行なう前での、EPMAによる研削後最表面位置の窒素濃度実測値(単位:質量%)を示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4から分かるように、本検査方法で合格となった試験片の研削後最表面位置の窒素濃度実測値は全て0.1質量%以上であり、不合格となった試験片の研削後最表面位置の窒素濃度実測値は全て0.1質量%未満であった。従って本検査方法(品質保証方法)は研削後最表面位置の窒素濃度が0.1質量%以上であることを判定するのに適切な方法であると考えられる。
【0093】
なお、参考のため、各試験片の高温焼戻(500℃×1h焼戻)前での、窒素濃度分布の実測値を図9〜図18に示す。図9〜図18において、横軸は表面からの深さ(単位:mm)を示し、縦軸は窒素濃度(単位:質量%)を示す。
【0094】
このように、表面での窒素濃度が0.1質量%以上である、JIS規格SUJ2製の軸受部品および軸受を提供するためには、高温焼戻(500℃×1h焼戻)後に試験片の表面から片側研削取代+70μmという深さの位置、および表面から1mmという深さの位置での断面硬度を測定し、当該断面硬度の差分が80以上であることを保証すれば良いと言える。
【0095】
なお、高温焼戻より先に研削を行なっている場合には断面硬度の測定位置として上記片側研削取代は考慮しなくてもよい。また、上記高温焼戻前の試験片の表面(たとえば研削後の表面)における窒素濃度を基準値として用いる場合には、高温焼戻(500℃×1h焼戻)後に試験片の表面から片側研削取代+30μmという深さの位置、および表面から1mmという深さの位置での断面硬度を測定し、当該断面硬度の差分が130以上であることを保証すれば良いと言える。
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、浸炭窒化処理された軸受部品および軸受に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0098】
1 内輪、1A 内輪軌道面、2 外輪、2A 外輪軌道面、3 玉、3A 玉転走面、4 保持器、10 軸受、11 サンプル、12 試験片、13 外径側表面、14 内径側表面。
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受部品、軸受および軸受部品の検査方法に関し、より特定的には、浸炭窒化処理を施した軸受部品、軸受および軸受部品の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、定性的には浸炭窒化処理は転がり軸受の転動疲労寿命の延長に効果的であることが知られている(たとえば、”倉部兵次郎ら,1%Cr鋼の浸炭および浸炭窒化層の昇温ころがり疲れ特性, 鉄と鋼, vol.11, (1967), p.1305”(以下、非特許文献1と呼ぶ)、特許第2962817号(以下、特許文献1と呼ぶ)参照)。また、近年では特開2009−229288号公報(以下、特許文献2と呼ぶ)に示されるように、より定量的な転がり軸受の圧痕起点型はく離寿命の評価方法においても、浸炭窒化処理が有効であることが分かってきている。たとえば、研削後最表面の窒素濃度が0.1mass%以上あれば、未窒化品と比較して統計的に有意差が確実に認められるほど寿命延長されるという知見が得られている。
【0003】
従って浸炭窒化処理品の研削後最表面の窒素濃度が0.1mass%以上であることが品質保証された転がり軸受部品を提供出来れば、転がり軸受の安全性はより確実に確保され、当該転がり軸受を用いた機械装置の安全性が向上することで結果的に社会的にも大きなメリットがある。
【0004】
しかしながら、現在、鋼中の窒素濃度の定量はEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)やGDS(Glow Discharge spectrometer)等の分析装置によって実施する方法しかなく、そのような測定を行なうためには工数を非常に多く要する。そのため、品質保証のための検査方法として上記のような分析装置を用いた方法を採用すれば転がり軸受が非常に高価になり、現実的ではない。
【0005】
また、鋼中に侵入した窒素の特性である、「高温焼戻後の硬度が未窒化部より高い」ことを利用することにより、窒化の度合いを定性的に評価する方法が、たとえば”渡辺陽一ら, 浸炭窒化焼入れしたクロム含有鋼の焼入組織および焼戻し軟化抵抗に及ぼす窒素量の影響,熱処理, vol.40, (2000), p.18”(以下、非特許文献2と呼ぶ)などにおいて示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2962817号
【特許文献2】特開2009−229288号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】倉部兵次郎ら,1%Cr鋼の浸炭および浸炭窒化層の昇温ころがり疲れ特性, 鉄と鋼, vol.11, (1967), p.1305
【非特許文献2】渡辺陽一ら, 浸炭窒化焼入れしたクロム含有鋼の焼入組織および焼戻し軟化抵抗に及ぼす窒素量の影響,熱処理, vol.40, (2000), p.18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような鋼中の窒素の特性を利用し、浸炭窒化処理した軸受部品について高温焼戻後の断面硬度分布を測定することによって、当該軸受部品の窒化深さを定性的に評価することも考えられる。
【0009】
しかし、上記のような方法では、浸炭窒化処理された部材(たとえば軸受部品)の窒素濃度が定量的に保証されてはいなかった。上述のような軸受部品および軸受を用いた機械装置の安全性を経済的かつ確実に向上させるためには、簡便な方法により窒素濃度を定量的に保証する検査方法、さらにそのような窒素濃度が定量的に保証された軸受部品および軸受が求められている。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、浸炭窒化処理された軸受部品の窒素濃度を、定量的かつ簡便に保証する検査方法、さらに窒素濃度が定量的に保証された軸受部品および軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に従った軸受部品は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、当該表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い。
【0012】
後述するように、JIS規格SUJ2からなる軸受部品については、上記のような条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて所定の距離(30μm)だけシフトするという知見を発明者は得た。このため、上記のような熱処理後の表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度は、当該位置における窒素濃度(熱処理を行なう前の軸受部品表面における窒素濃度)に応じて、浸炭窒化処理されていない領域よりビッカース硬度が所定の値だけ高くなっている。そのため、熱処理を行なう前の軸受部品表面における設計窒素濃度に応じてビッカース硬度の向上代の基準値を決めておき(たとえば当該設計窒素濃度を0.1質量%とすれば、ビッカース硬度の向上代の基準値は130HVとなる)、熱処理後の表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度の測定値と、浸炭窒化層以外の領域である芯部のビッカース硬度の測定値との差が当該基準値を満足するか(基準値より当該差が大きくなっているか)否かを判別することで、軸受部品の表面における窒素濃度が設計窒素濃度以上となっているか否かを検査することができる。この結果、本発明による軸受部品は、上記熱処理前の表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証することができる。
【0013】
上記軸受部品では、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、上記芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高いことが好ましい。ここで、上記軸受部品の浸炭窒化層における、窒素濃度が0.1質量%の位置と0.06質量%の位置との間の深さ方向における距離は後述するように最大で40μmである。そのため、上述した熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて移動する距離(30μm)に加えて、さらに上記40μmだけ厚み方向の内部側に位置する領域のビッカース硬度と、上記芯部のビッカース硬度との差が80HV以上(つまり、当該領域の窒素濃度が0.06質量%以上)であれば、上記熱処理前の浸炭窒化層の表面での窒素濃度が0.1質量%以上であることを確実に保証できる。
【0014】
また、後述するように、浸炭窒化層中の領域と芯部とビッカース硬度の差分と窒素濃度とは、ほぼ窒素濃度が0〜0.1質量%程度までの範囲において線形関係を有している。そのため、判定に用いる窒素濃度を、当該線形関係を示す範囲のほぼ中央に近いたとえば0.06質量%としておけば、ビッカース硬度の差分と窒素濃度との相関が比較的よく取れているため、判別の正確性を向上させることができる。
【0015】
この発明に従った軸受部品は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い。
【0016】
ここで、上記のような条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて一定の距離(30μm)だけシフトするという知見、さらに、上述のように上記軸受部品の浸炭窒化層における、窒素濃度が0.1質量%の位置と0.06質量%の位置との間の深さ方向における距離は後述するように最大で40μmであるという知見を発明者は得た。このため、上記のような熱処理後の表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度は、当該位置における窒素濃度(熱処理を行なう前の軸受部品表面における窒素濃度)に応じて、浸炭窒化処理されていない領域よりビッカース硬度が所定の値だけ高くなっている。
【0017】
そして、後述するように窒素濃度が0.06質量%の領域におけるビッカース硬度と上記芯部のビッカース硬度との差異は80HVであり、当該差異の絶対値は窒素濃度が高くなるほど大きくなる。したがって、上記のように表面から70μmの深さの位置でのビッカース硬度に関する上記差異が80HV以上であれば、当該位置での窒素濃度は0.06質量%以上であることがわかる。また、当該位置から表面側に向かうほど窒素濃度は高くなる傾向になっており、また0.1質量%の位置と0.06質量%の位置との間の距離が最大でも40μmであることから、表面より30μmの位置での窒素濃度は0.1質量%以上となっていることがわかる。
【0018】
このように、表面から70μmの深さの位置でのビッカース硬度と芯部でのビッカース硬度との差から、上記熱処理前の軸受部品表面での窒素濃度を検証することができる。この結果、本発明による軸受部品は、上記熱処理前の表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証することができる。
【0019】
上記軸受部品では、浸炭窒化層の表面における窒素濃度が0.1体積%以上であってもよい。この場合、軸受部品の寿命延長を確実に図ることができる。
【0020】
上記軸受部品において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成することができる。なお、ここでA1点とは、鋼を加熱するときに、鋼の組織がフェライトからオーステナイトへ変態を開始する温度に相当する点を示す。また、Acm点とは、加熱時、過共析鋼中のセメンタイトが完全に溶解する温度に相当する点を示す。
【0021】
上記軸受部品において、浸炭窒化層は、たとえば処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成できる。
【0022】
この発明に従った軸受は、上記軸受部品を用いて製造された軸受である。このようにすれば、浸炭窒化層の表面における窒素濃度が定量的に保証されることにより、未窒化の軸受部品を用いた軸受よりも確実に寿命の延長された軸受を得ることができる。
【0023】
この発明に従った軸受部品の検査方法は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品を準備する工程と、当該軸受部品に対して、熱処理を行なう工程と、熱処理の後、表面から、当該表面に対する研削代に第1の距離を加えた合計の深さの位置における第1のビッカース硬度と、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部における第2のビッカース硬度とを測定する工程と、第1のビッカース硬度が第2のビッカース硬度より基準値だけ高いかどうかを判別する工程とを備える。
【0024】
このようにすれば、JIS規格SUJ2からなる軸受部品については、所定の条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて所定の距離だけシフトするという発明者の新たな知見に基づき、軸受部品の表面における窒素濃度を定量的に保証することができる。
【0025】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は30μmであってもよく、基準値は130HVであってもよい。
【0026】
この場合、上記のような熱処理を行なった後でのビッカース硬度と窒素濃度との相関関係と、当該熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側へほぼ30μmだけ移動するという発明者の知見に基づき、当該熱処理前の軸受部品の表面における窒素濃度を0.1質量%以上であるかどうかを判別できる。
【0027】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は70μmであってもよく、基準値は80HVであってもよい。
【0028】
上記検査方法において、軸受部品における浸炭窒化層の表面において確認される窒素濃度は0.1体積%以上であってもよい。
【0029】
上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。
【0030】
上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、表面の窒素濃度が0.1質量%以上となった軸受部品を確実に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による軸受の実施の形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明による軸受部品の検査方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】窒素濃度を測定するための試料を示す模式図である。
【図4】焼戻温度と、ビッカース硬度の最大値と深さ1mmの位置でのビッカース硬度との差である断面硬度差分ΔHVであるとの関係を示すグラフである。
【図5】窒素濃度と断面硬度差分との関係を示すグラフである。
【図6】窒素濃度が0.1質量%以下の範囲における窒素濃度と断面硬度差分との関係を示すグラフである。
【図7】断面硬度差分と窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図8】試料における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図9】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図10】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図11】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図12】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図13】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図14】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図15】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図16】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図17】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【図18】試験片の熱処理終了後における表面からの深さと窒素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰返さない。
【0034】
図1を参照して、軸受10は、JIS規格JUS2からなる、環状の外輪2と、外輪2の内側に配置された環状の内輪1と、外輪2と内輪1との間に配置され、円環状の保持器4に保持された転動体としての複数の玉3とを備えている。外輪2の内周面には外輪軌道面2Aが形成されており、内輪1の外周面には内輪軌道面1Aが形成されている。そして、内輪軌道面1Aと外輪軌道面2Aとが互いに対向するように、外輪2と内輪1とは配置されている。さらに、複数の玉3は、その表面である玉転走面3Aにおいて内輪軌道面1Aおよび外輪軌道面2Aに接触し、かつ保持器4により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、軸受10の外輪2および内輪1は、互いに相対的に回転可能となっている。外輪2の少なくとも外輪軌道面2Aは浸炭窒化層が形成された領域となっている。また、内輪1の内輪軌道面1Aも浸炭窒化層が形成された領域となっている。また、玉3の表面には浸炭窒化層が形成されている。また、内輪1、外輪2、玉3の浸炭窒化層の表面における窒素濃度は0.1質量%以上となっている。
【0035】
また、異なる観点から言えば、上述した本発明による軸受部品としての内輪1、外輪2、玉3は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、後述するように加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理(高温焼戻)を行なった後において、当該表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、当該軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い。このようにすれば、後述するように軸受部品において表面における窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証でき、結果的に当該軸受部品を用いた軸受の寿命を延長することができる。
【0036】
上記軸受部品(たとえば内輪1、外輪2、玉3)では、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、上記芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高いことが好ましい。このようにすれば、上記熱処理前の浸炭窒化層の表面での窒素濃度が0.1質量%以上であることを確実に保証できる。
【0037】
また、後述するように、浸炭窒化層中の領域と芯部とビッカース硬度の差分と窒素濃度とは、ほぼ窒素濃度が0〜0.1質量%程度までの範囲において線形関係を有している。そのため、判定に用いる窒素濃度を、当該線形関係を示す範囲のほぼ中央に近い値(たとえば0.06質量%)としておけば、ビッカース硬度の差分と窒素濃度との相関が比較的よく取れているため、判別の正確性を向上させることができる。
【0038】
また、この発明に従った軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、上記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い。このようにすれば、後述するように上記熱処理前の浸炭窒化層の表面での窒素濃度が0.1質量%以上であることを確実に保証できる。
【0039】
上記軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)では、浸炭窒化層の表面であるたとえば転走面における窒素濃度が0.1体積%以上である。この場合、軸受部品(内輪1、外輪2、玉3)の寿命延長を確実に図ることができる。
【0040】
上記内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成することができる。
【0041】
上記内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において、浸炭窒化層は、たとえば処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。この場合、内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品において確実に浸炭窒化層を形成できる。
【0042】
この発明に従った軸受10は、内輪1、外輪2、玉3などの上記軸受部品を用いて製造された軸受である。このようにすれば、浸炭窒化層の表面における窒素濃度が定量的に保証されることにより、未窒化の軸受部品を用いた軸受よりも確実に寿命の延長された軸受を得ることができる。
【0043】
図1に示した軸受10を構成する内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品について、その表面における窒素濃度は以下のような検査方法により検査することができる。以下、図2を参照して、本発明による軸受部品の検査方法を説明する。
【0044】
図2に示すように、本発明による軸受部品の検査方法では、浸炭窒化処理などを行なった内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品であるサンプルを準備し、当該サンプルを高温焼戻する工程(S10)を実施する。この工程(S10)では、たとえば焼戻温度(加熱保持温度)を300℃以上700℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下、より好ましくは500℃とし、焼戻時間(保持時間)をたとえば1時間とすることができる。このような熱処理を行なうことで、浸炭窒化層のビッカース硬度が浸炭窒化層以外の領域におけるビッカース硬度よりも高くなる。
【0045】
次に、図2に示すようにサンプルの断面硬度を測定する工程(S20)を実施する。具体的には、たとえば内輪1(図1参照)をサンプルとした場合、当該サンプルから試験片を切り出し、その試験片について外径側から内径側に向けて厚さ方向の所定の位置について、断面硬度(ビッカース硬度)を測定する。硬度を測定する位置は、たとえば表面(外径側表面)から30μmの位置と1mmの位置という2箇所、あるいは表面から70μmの位置と1mmの位置という2ヶ所、あるいは表面から30μmの位置、70μmの位置、1mmの位置という3箇所としてもよい。
【0046】
次に、図2に示すように断面硬度の差分を算出する工程(S30)を実施する。具体的には、浸炭窒化層以外の領域である芯部に対応する表面から1mmの位置でのビッカース硬度と、表面から30μmまたは70μmの位置でのビッカース硬度との差を算出する。
【0047】
次に、基準値と断面硬度の差分とを比較する工程(S40)を実施する。具体的には、予め決定された基準値と上記工程(S30)において算出した断面硬度の差分とを比較し、当該差分の値が基準値を満たしているか(基準値以上となっているか)を判別する。そして、当該差分の値が基準値を満たしていれば、サンプルの熱処理(高温焼戻)前における表面での窒素濃度が所定の値(たとえば0.1質量%)であることが確認できる。
【0048】
上述した軸受部品の検査方法の特徴的な構成を要約すれば、上記検査方法は、JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品(たとえば内輪1、外輪2、玉3など)を準備する工程と、当該軸受部品に対して、熱処理を行なう工程(S10)と、熱処理の後、表面から、当該表面に対する研削代に第1の距離を加えた合計の深さの位置における第1のビッカース硬度と、軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部における第2のビッカース硬度とを測定する工程(S20)と、第1のビッカース硬度が第2のビッカース硬度より基準値だけ高いかどうかを判別する工程(S30、S40)とを備える。
【0049】
このようにすれば、後述するようにJIS規格SUJ2からなる内輪1などの軸受部品については、所定の条件の熱処理を行なった後の浸炭窒化層でのビッカース硬度と窒素濃度とに相関があり、また、上記熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側に向けて所定の距離だけシフトするという発明者の新たな知見に基づき、内輪1、外輪2、玉3などの軸受部品の表面における窒素濃度を定量的に保証することができる。
【0050】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は30μmであってもよく、基準値は130HVであってもよい。
【0051】
この場合、上記のような熱処理(高温焼戻)を行なった後でのビッカース硬度と窒素濃度との相関関係と、当該熱処理により窒素分布が厚み方向の内部側へほぼ30μmだけ移動するという発明者の知見に基づき、当該熱処理前の軸受部品の表面における窒素濃度が0.1質量%以上であるかどうかを判別できる。
【0052】
上記軸受部品の検査方法において、熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であってもよく、第1の距離は70μmであってもよく、基準値は80HVであってもよい。この場合、より高い精度で当該熱処理前の軸受部品の表面における窒素濃度が0.1質量%以上であるかどうかを判別できる。
【0053】
上記検査方法において、軸受部品における浸炭窒化層の表面において確認される窒素濃度は0.1体積%以上である。この場合、当該表面の窒素濃度について、軸受部品の寿命延長効果を得られるレベルとなっているため、当該検査方法により合格と判定された軸受部品では寿命延長効果を確実に得ることができる。
【0054】
上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。また、上記検査方法において、浸炭窒化層は、処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されていてもよい。
【0055】
(実施例1)
以下、上述した本発明による検査方法を、実際にJIS規格SUJ2からなる軸受部品に適用するため、以下のような手順により硬度の測定位置や基準値を決定した。
【0056】
(1) 試験片および実験方法について
(1−1)はじめに
まず、窒素濃度と相関関係の高い高温焼戻での加熱保持温度および保持時間を決定する必要がある。ここで、高温焼戻による変態は熱活性化過程であるため、加熱保持温度の高温化と保持時間の長時間化とは同じ意味を持ち、両者を共に変数にすることには意味はないと考えられる。そこで、本明細書では保持時間を一定の時間(1時間)と固定した上で、加熱保持温度を300℃、400℃、500℃、600℃、700℃と変更し、最も硬度の差が明確になる加熱保持温度を調べることにより、以下に示すように検査に適した加熱保持温度を決定した。
【0057】
また、各材料の化学成分の違いによる焼入性の差や、焼入時の冷却速度の差は、焼入後硬度に影響を及ぼし、高温焼戻後の硬度にも影響を及ぼすものと考えられる。そのため、上述のように検査の指標としては断面硬度の絶対値そのものを使用せず、窒化されていない表層から深い位置(芯部)での硬度(ここではたとえば熱処理後最表面から1mmという深さでの硬度とした)と、窒化された領域内でのある深さの位置での硬度との硬度差(硬度差分)を本検査方法の指標として採用した。
【0058】
(1−2) 対象試験片
調査対象とした試験片の化学成分を表1に示す。材料はすべてJIS規格SUJ2とし、これらを様々な熱処理炉、熱処理雰囲気で浸炭窒化処理を施した。なお、浸炭窒化処理温度は840℃以上860℃以下という温度範囲に含まれていた。
【0059】
【表1】
【0060】
具体的には、試験片番号1については、浸炭窒化処理温度を850℃、処理時間を120分(min)とし(以下、「850℃×120min」というように表記する)、未分解NH3分率:0.2vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号2については、840℃×70min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.85という処理を行なった。また、試験片番号3については、850℃×120min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号4については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号5については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。
【0061】
また、試験片番号6については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.13vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号7については、850℃×150min、未分解アンモニア分率:0.1vol.%、炭素の活量:0.85という処理を行なった。また、試験片番号8については、850℃×150min、未分解アンモニア分率:0.25vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。また、試験片番号9については、850℃×180min、未分解アンモニア分率:0.3vol.%、炭素の活量:0.95という処理を行なった。また、試験片番号10については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.2vol.%、炭素の活量:0.9という処理を行なった。
【0062】
(1−3) 窒素濃度測定方法
高温焼戻後のサンプルの断面硬度と窒素濃度との相関を調査するため、サンプル(鋼)中の窒素濃度分布を測定する必要がある。浸炭窒化処理後の鋼中窒素濃度の測定には、EPMAの線分析を用いた。定量化は既知の窒素濃度を有する校正用試験片を分析し、その検量線を用いて実施した。EPMA分析に用いたサンプルおよび測定方法の模式図を図3に示す。
【0063】
図3に示すように、たとえば内輪1(図1参照)をサンプル11として用いる場合を考える。当該サンプル11について、浸炭窒化処理後のサンプル中11の窒素濃度を測定した。具体的には、サンプル11から図3に示すような試験片12を切り出し、当該試験片の外径側表面13から内径側表面14に向かう方向に沿って、試験片12の高さ方向の中央部(半幅となる位置)において、切り出し端面についてEPMAの線分析を行なった。
【0064】
(1−4) 断面硬度測定方法
上記(1−3)で述べた試験片において、EPMA分析を行なった切り出し端面にて硬度測定を行なった。測定方法としては、マイクロビッカース硬度計を用いてビッカース硬度測定を行なった。
【0065】
(2) 高温焼戻の保持温度の探索
(2−1) 実験内容
窒素濃度と相関関係の高い焼戻温度(加熱保持温度)を探索するため、浸炭窒化処理後に180℃という加熱温度で2時間の保持時間という焼戻を施した試験片に、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃というそれぞれの加熱保持温度で保持時間を1時間とした5種類の高温焼戻を行った。なお、高温焼戻時の雰囲気は大気雰囲気とした。そして、それぞれの高温焼戻条件で処理された試験片について断面硬度を測定した。なお、ここでは窒素侵入量が多いと考えられる浸炭窒化処理条件の試験片番号8、9の試験片について測定を行なった。
【0066】
(2−2) 実験結果
実験結果をまとめたグラフを図4に示す。図4に示したグラフは、焼戻温度を横軸とし、断面硬度の差分(すなわち(断面硬度の最大値)−(熱処理後最表面から1mmの深さ位置での断面硬度):ΔHVとも表示する)を縦軸にして実験結果を整理したものである。図4から分かるように、断面硬度の差分ΔHVは、加熱保持温度を500℃とし、保持時間を1時間とした高温焼戻後に最も大きくなっていた。この加熱保持温度を500℃としたときの断面硬度の差分ΔHVは、加熱保持温度を300℃または700℃とした高温焼戻後の当該断面硬度の差分ΔHVの約2倍の値を示していた。従って、相対的に窒素濃度と相関の高い焼戻後の硬度は、加熱保持温度を500℃程度とした焼戻後の硬度であると考えられる。このため、以下の実験では、断面硬度の測定を、加熱保持温度を500℃とし、保持時間を1時間とした高温焼戻後の試験片について実施した。
【0067】
(3) 窒素濃度と断面硬度の差分(ΔHV)との関係調査
ここでは表1に示した組成の各試験片について、高温焼戻として加熱保持温度を500℃、保持時間を1時間という熱処理を行なった後、図3を用いて説明したように試験片の窒素濃度をEPMA分析により測定した。また、当該試験片について、図3に示した試験片12の切り出し端面において深さ方向での断面硬度を測定した。そして、当該深さ方向でのある位置における断面硬度と熱処理後最表面から1mmという深さ位置における断面硬度との差分(以下、断面硬度差分(ΔHV)と定義する)の関係を調査した。その結果を図5に示す。図5の横軸は窒素濃度(単位は質量%:mass%とも表記する)であり、縦軸は断面硬度差分(ΔHV)(単位はビッカース硬度)である。図5より、窒素濃度が0越え0.1質量%以下の範囲においては、窒素濃度と断面硬度差分との相関が強く、一方で窒素濃度が0.1質量%越えの範囲では窒素濃度と断面硬度差分との相関は相対的に弱いことが分かった。これは窒素濃度が高い領域で不完全焼入が発生する場合があること、ならびに試験片中に固溶した窒素は必ずしもマルテンサイトの分解速度低下に寄与するとは限らないためと考えられる。
【0068】
具体的には、図5において破線で囲んだ点で示されるデータは、不完全焼入の発生による硬度低下に起因するものと考えられる。これらを除外し、0〜0.1質量%という範囲での窒素濃度と断面硬度差分との関係を抜き出して、図6に整理し直した。
【0069】
図6に示したグラフでは、横軸が窒素濃度(単位:質量%)であり、縦軸が断面硬度差分:ΔHV(単位:ビッカース硬度)である。図6に示したグラフのデータに基づき、窒素濃度と断面硬度差分との相関係数を算出すると、両者の相関係数は0.95と高い。このため、0〜0.1質量%という窒素濃度の範囲であれば、断面硬度差分から窒素濃度を予測することが可能であると考えられる。
【0070】
(3) 研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを品質保証する検査方法の構築
(3−1) 断面硬度差分(ΔHV)から窒素濃度(質量%)への変換
図7は、横軸が断面硬度差分:ΔHV(単位:ビッカース硬度)であり、縦軸が窒素濃度(単位:質量%)としたグラフであり、図6に示したデータをプロットしたものである。これらのデータから窒素濃度と断面硬度差分との関係を示す近似式を求め、図7では当該近似式も表示している。図7に示すように、断面硬度差分の値から窒素濃度を求める実験式は
[窒素濃度(質量%)]=[断面硬度差分(ΔHV)]×0.00085−0.011 ・・・・式(1)
という式(1)で表される。式(1)より、例えば断面硬度差分が130(ΔHV)になる位置の窒素濃度は0.1質量%と推測される。
【0071】
(3−2) 実験式に基づく検討
ここでは、軸受部品において浸炭窒化層が形成された領域の表面である転走面について、研削後での最表面(つまり最終的な軸受部品の最表面)の窒素濃度が所定の値(たとえば具体的には0.1質量%以上)であることを保証するための検査方法(品質保証方法)を提案し、当該検査方法に基づいて、窒素濃度を保証した転がり軸受の構成部品(軸受部品)を提供する。従って直接的な品質保証方法としては、浸炭窒化処理後に当該検査方法に基づく検査を実施した後、軸受部品の転走面について仕上げの研削を行なう場合には、上記式(1)から考えれば、転走面の研削取代を見込んだ深さ位置での断面硬度差分が130以上であれば良いことになる。
【0072】
しかし、図5より分かるとおり、断面硬度差分と窒素濃度との相関は窒素濃度が0.1質量%を越えると急激に低下している。そのため、0.1質量%という窒素濃度を上記検査での基準(品質保証の基準)にすると、検査結果において誤差が生じ易くなる可能性がある。そこで、ここでは図7に示したグラフにおいて、有効な窒素濃度の範囲でのほぼ中央値である、0.06質量%の窒素濃度を品質保証の基準として採用する。この場合、上記式(1)によれば、断面硬度差分が80になる位置の窒素濃度が0.06質量%になると推測される。
【0073】
(3−3) 窒素濃度が0.06質量%の深さ位置と窒素濃度が0.1質量%の深さ位置との間の距離計算
JIS規格SUJ2からなる浸炭窒化処理品の実用的な窒素濃度分布は、窒素濃度分布予測式(大木力,「SUJ2の浸炭窒化処理後の窒素濃度分布予測」, 鉄と鋼, vol.93, (2007), p.220 参照)により図8の範囲にあると考えられる。図8に示したグラフでは、横軸が浸炭窒化処理品の表面からの深さ(単位:mm)を示し、縦軸が窒素濃度(単位:質量%)を示している。図8より、窒素濃度が0.06質量%の深さ位置と、窒素濃度が0.1質量%の深さ位置との間の距離は、実用範囲内では15μm以上40μm以下の範囲に収まることが分かった。
【0074】
このように、窒素濃度が0.1質量%の深さ位置と窒素濃度が0.06質量%(すなわち断面硬度差分が80)の深さ位置との間の最大距離が40μmになる。そのため、図8などから考えると、窒素濃度が0.06質量%の深さ位置より浸炭窒化処理品の表面側へ40μmだけ近い位置から、当該表面までの範囲では、窒素濃度は0.1質量%以上であると考えられる。従って、ある深さ位置での断面硬度差分(ΔHV)が80以上であれば、当該深さ位置から40μmだけ表面に近い領域の窒素濃度が0.1質量%以上であることを保証出来ることになる。なお、図8に示した4つの条件において、窒素濃度が0.06質量%となる深さ位置から40μmだけ表面側にずれた領域での窒素濃度は表2に示した値になると計算される。
【0075】
【表2】
【0076】
なお、表2では各条件での窒化時間(浸炭窒化処理時間)、未分解NH3体積分率、窒素濃度が0.06質量%となる深さ位置から40μmだけ表面側にずれた領域の窒素濃度に対応する研削後最表面の窒素濃度がそれぞれ記載されている。表2からも分かるように、図8に示された4つの条件のいずれにおいても、当該領域での窒素濃度は0.1質量%以上となっている。
【0077】
(3−4) 加熱保持温度を500℃とし、保持時間を1時間とした焼戻による窒素移動の影響
上記(3−1)に示したように、0以上0.1質量%以下の窒素濃度と、加熱保持温度を500℃とし保持時間を1時間とした焼戻後の断面硬度差分(ΔHV)とには強い相関関係があることが分かった。しかし本発明者が提案しようとしている検査方法(品質保証方法)は、加熱保持温度を500℃とし保持時間を1時間とした高温焼戻を行なう前、すなわち実製品の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを示すことである。そこで、ここでは窒素侵入量が多いと考えられる試験片番号3、8、9、10において上記高温焼戻前(浸炭窒化処理後、加熱保持温度を180℃とし保持時間を2時間とした焼戻処理後)と、上記高温焼戻後(加熱保持温度500℃で保持時間を1時間とした焼戻処理(以下、「500℃×1h焼戻」とも記載する)後)とのそれぞれの場合について、窒素濃度分布を測定した。そして、当該窒素濃度分布の実測値を比較し、上記高温焼戻による窒素の移動距離を調査した。
【0078】
上記の2つの場合についての窒素濃度分布の測定値から、上記高温焼戻前後における試料での窒素濃度0.05質量%となる領域の深さ、および窒素濃度0.1質量%となる領域の深さを読取り、当該高温焼戻により当該領域がどれくらいの距離移動したのかを算出した。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3では、左から試験片番号、試料表面からの深さを測定した領域における窒素濃度(単位:質量%)、高温焼戻を実施する前の、試験片表面から当該領域までの深さ(単位:μm)、高温焼戻を実施した後の、試験片表面から当該領域までの深さ(単位:μm)、高温焼戻により当該領域が深さ方向に移動した距離(単位:μm)、各窒素濃度ごとの領域の移動距離の平均値(単位:μm)が示されている。
【0081】
表3より、高温焼戻(500℃×1h焼戻)によって、窒素濃度が0.05質量%、あるいは窒素濃度が0.1質量%となる領域はともに試験片の内部側へ平均で約30μm移動することが分かった。そして、上記(3−3)により、窒素濃度が0.06質量%となる領域から表面側へ40μmだけ近い(浅い)領域から、当該表面までの間では窒素濃度が0.1質量%以上になると計算されたが、高温焼戻(500℃×1h焼戻)前の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上になることを保証するためには、高温焼戻(500℃×1h焼戻)による上記の窒素移動距離を考慮する必要がある。つまり、窒素濃度が0.1質量%となる深さと窒素濃度が0.06質量%となる深さとの間の最大距離が40μm、高温焼戻(500℃×1h焼戻)による窒素移動距離が30μmであるので、上記最大距離(40μm)と上記窒素移動距離(30μm)との合計距離(70μm)を考える。さらに、浸炭窒化処理後の軸受部品の研削取代(一方の表面のみ)を上記合計距離に加えた深さ位置での窒素濃度が0.06質量%以上(つまり高温焼戻(500℃×1h焼戻)後の断面硬度差分が80以上)であれば、高温焼戻(500℃×1h焼戻)前の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上になることを保証出来ることになる。
【0082】
なお、表3に示したように、高温焼戻(500℃×1h焼戻)による窒素濃度が0.05質量%、および窒素濃度が0.1質量%となる位置の深さ方向における移動距離はほぼ等しい。そのため、上記(3−3)で計算した窒素濃度が0.1質量%の深さ位置と窒素濃度が0.06質量%の深さ位置との間の最大距離は上記高温焼戻(500℃×1h焼戻)によって大きく変化しないものと考えられる。
【0083】
(3−5) 検査の具体的手順(品質保証の具体的手順)
以上の実験結果および検討結果をまとめると、軸受部品における転走面の研削後最表面の窒素濃度が0.1質量%以上であることを品質保証するための検査方法の具体的な手順は以下の通りになる。
【0084】
1) 浸炭窒化処理サンプル(軸受部品の熱処理完了品)を切断し、上述した高温焼戻(500℃×1h焼戻)を実施する。
【0085】
2) 断面硬度測定用の試験片を準備する(たとえば、断面硬度測定が可能な様に当該試験片を樹脂埋めし、硬度測定用の試料を作製する)。このとき、軸受部品の転走面となる表面から軸受部品の内部に向かう深さ方向での所定の位置について硬度測定が可能なように、当該硬度測定を行なう端面が露出するように試験片を準備する。
【0086】
3) 試験片において軸受部品の転走面となる最表面から、深さが1mmである位置(窒素侵入のない位置:芯部ともいう)の断面硬度(ビッカース硬度)を測定する。
【0087】
4) 試験片における転走面の最表面から(片側研削取代+70μmの深さ位置)での断面硬度(ビッカース硬度)を測定する。なお、サンプルとして研削をすでに行なったものを用いる場合には、断面硬度の測定位置は上記差異表面から70μmの深さ位置としてもよい。
【0088】
5) 上記3)、4)で測定した断面硬度の差分が基準値(たとえば80)を満足するか否かを判定する。たとえば上記測定値から算出した断面硬度の差分が基準値である80以上であれば、研削後のサンプル最表面の窒素濃度は0.1質量%以上ということになり、検査に合格したとみなせる。
【0089】
上述した検査方法は、新たな設備導入を必要とせず、非常に簡便な検査であると言える。なお、検査工数が若干増加するものの、上記検査の信頼性をより高めるためには、たとえば上記工程3)、4)の測定値はN数=2としたときの当該測定値の平均値を採用することが望ましい。
【0090】
(4) 本発明による検査方法を用いた判定
上述した検査方法(品質保証方法)の妥当性を確認するため、各試験片に本検査方法を適用し、合否判定して、窒素濃度実測値と比較した。試験片としては、表1に示した試験片を用いた。そして、表4には、左欄から試験片番号、各試験片の片側研削取代(単位:μm)、高温焼戻(500℃×1h焼戻)後の、表面から研削取代+70μmという深さ位置での断面硬度と、表面から1mmでの断面硬度との差異である断面硬度差分(ΔHV)、本検査方法に基づく合否判定結果、および、上記高温焼戻を行なう前での、EPMAによる研削後最表面位置の窒素濃度実測値(単位:質量%)を示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4から分かるように、本検査方法で合格となった試験片の研削後最表面位置の窒素濃度実測値は全て0.1質量%以上であり、不合格となった試験片の研削後最表面位置の窒素濃度実測値は全て0.1質量%未満であった。従って本検査方法(品質保証方法)は研削後最表面位置の窒素濃度が0.1質量%以上であることを判定するのに適切な方法であると考えられる。
【0093】
なお、参考のため、各試験片の高温焼戻(500℃×1h焼戻)前での、窒素濃度分布の実測値を図9〜図18に示す。図9〜図18において、横軸は表面からの深さ(単位:mm)を示し、縦軸は窒素濃度(単位:質量%)を示す。
【0094】
このように、表面での窒素濃度が0.1質量%以上である、JIS規格SUJ2製の軸受部品および軸受を提供するためには、高温焼戻(500℃×1h焼戻)後に試験片の表面から片側研削取代+70μmという深さの位置、および表面から1mmという深さの位置での断面硬度を測定し、当該断面硬度の差分が80以上であることを保証すれば良いと言える。
【0095】
なお、高温焼戻より先に研削を行なっている場合には断面硬度の測定位置として上記片側研削取代は考慮しなくてもよい。また、上記高温焼戻前の試験片の表面(たとえば研削後の表面)における窒素濃度を基準値として用いる場合には、高温焼戻(500℃×1h焼戻)後に試験片の表面から片側研削取代+30μmという深さの位置、および表面から1mmという深さの位置での断面硬度を測定し、当該断面硬度の差分が130以上であることを保証すれば良いと言える。
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、浸炭窒化処理された軸受部品および軸受に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0098】
1 内輪、1A 内輪軌道面、2 外輪、2A 外輪軌道面、3 玉、3A 玉転走面、4 保持器、10 軸受、11 サンプル、12 試験片、13 外径側表面、14 内径側表面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、
加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、前記表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、前記軸受部品の厚み方向において前記浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い、軸受部品。
【請求項2】
加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、前記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、前記芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い、請求項1に記載の軸受部品。
【請求項3】
JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、
加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、前記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、前記軸受部品の厚み方向において前記浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い、軸受部品。
【請求項4】
前記浸炭窒化層の表面における窒素濃度が0.1体積%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項5】
前記浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項6】
前記浸炭窒化層は、処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項7】
請求項1または2に記載の軸受部品を用いて製造された軸受。
【請求項8】
JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品を準備する工程と、
前記軸受部品に対して、熱処理を行なう工程と、
前記熱処理の後、前記表面から、前記表面に対する研削代に第1の距離を加えた合計の深さの位置における第1のビッカース硬度と、前記軸受部品の厚み方向において前記浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部における第2のビッカース硬度とを測定する工程と、
前記第1のビッカース硬度が前記第2のビッカース硬度より基準値だけ高いかどうかを判別する工程とを備える、軸受部品の検査方法。
【請求項9】
前記熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であり、
前記第1の距離は30μmであり、
前記基準値は130HVである、請求項8に記載の軸受部品の検査方法。
【請求項10】
前記熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であり、
前記第1の距離は70μmであり、
前記基準値は80HVである、請求項8に記載の軸受部品の検査方法。
【請求項1】
JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、
加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、前記表面から30μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、前記軸受部品の厚み方向において前記浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より130HV以上高い、軸受部品。
【請求項2】
加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、前記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、前記芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い、請求項1に記載の軸受部品。
【請求項3】
JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品であって、
加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行なった後において、前記表面から70μmの深さの位置におけるビッカース硬度が、前記軸受部品の厚み方向において前記浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部におけるビッカース硬度より80HV以上高い、軸受部品。
【請求項4】
前記浸炭窒化層の表面における窒素濃度が0.1体積%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項5】
前記浸炭窒化層は、処理温度がA1点以上Acm点以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項6】
前記浸炭窒化層は、処理温度が840℃以上860℃以下という温度範囲の浸炭窒化処理により形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項7】
請求項1または2に記載の軸受部品を用いて製造された軸受。
【請求項8】
JIS規格SUJ2からなり、表面に浸炭窒化層が形成された軸受部品を準備する工程と、
前記軸受部品に対して、熱処理を行なう工程と、
前記熱処理の後、前記表面から、前記表面に対する研削代に第1の距離を加えた合計の深さの位置における第1のビッカース硬度と、前記軸受部品の厚み方向において前記浸炭窒化層が形成されていない領域である芯部における第2のビッカース硬度とを測定する工程と、
前記第1のビッカース硬度が前記第2のビッカース硬度より基準値だけ高いかどうかを判別する工程とを備える、軸受部品の検査方法。
【請求項9】
前記熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であり、
前記第1の距離は30μmであり、
前記基準値は130HVである、請求項8に記載の軸受部品の検査方法。
【請求項10】
前記熱処理は、加熱温度が500℃、保持時間を1時間とした熱処理であり、
前記第1の距離は70μmであり、
前記基準値は80HVである、請求項8に記載の軸受部品の検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−209021(P2011−209021A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75370(P2010−75370)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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