説明

軸組用緊締ナット

【課題】 軸組材に対して可及的に裂傷を与えることがなく、しかも、当初の締付け状態を維持する。
【解決手段】 軸組用のボルト10に螺合する雌螺子2を形成した筒状主体1の一側に、前記ボルト10を挿通した軸組材11に係止する円形状の鍔片4を設ける。鍔片4の平坦状にした裏面に、前記筒状主体1と前記ボルト10との螺合方向側を刃先とし、前記螺合方向と交叉する方向に長く、少くも全体としての移動軌跡が前記裏面とほぼ一致する複数の切削刃5を前記螺合方向に並べて突設する。そして、切削刃5,5間には、該切削刃5と同等の突出量にして、しかも、前記刃先と対向する刃先を備えた係止刃を突設する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば、土台(木材より成る)を挿通させたアンカーボルト(基礎コンクリートに突設した)に螺合して前記土台を基礎コンクリートに緊締するなどのために用いる軸組用緊締ナットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】アンカーボルト等の軸組用のボルトに螺合する雌螺子を形成した筒状主体の一側に、前記ボルトを挿通する軸組材に係止する円形状の鍔片を設け、該鍔片の、碗形状(若くは傾斜状)にした裏面に木製の軸組材を切削する複数の切削刃を設けた構造のものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来例は、概し、基礎コンクリートに突設したアンカーボルトを土台に形成した貫通孔に挿通し、該アンカーボルトに筒状主体を螺合しつつ、鍔片に設けた切削刃によって土台表面を切削して鍔片(緊締ナット自身)を土台内に埋(没)入させ、表面に無用な突出部が存在しないように土台を基礎コンクリートに緊締するために用いるものであるが、鍔片の裏面が碗形状(筒状主体をアンカーボルトに螺合する方向において、いわば先細状)であるため、工具によって当該ナットを回転させたとき、切削刃に該回転力が負荷されて土台を急激に切削するため、ときとして土台に亀裂を生じさせてその強度を弱めることがある。
【0004】本発明は、斯様な点に着目し、軸組材に対して可及的に裂傷を与えることのない軸組用緊締ナットを提供することを目的として創案したものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】軸組用のボルトに螺合する雌螺子を形成した筒状主体の一側に、前記ボルトを挿通した軸組材に係止する円形状の鍔片を設け、該鍔片の平坦状にした裏面に、前記筒状主体と前記ボルトとの螺合方向側を刃先とし、前記螺合方向と交叉する方向に長く、少くも全体としての移動軌跡が前記裏面とほぼ一致する複数の切削刃を前記螺合方向に並べて突設し、該切削刃間には、該切削刃と同等の突出量にして、しかも、前記刃先と対向する刃先を備えた係止刃を突設したことを基本的手段とし、鍔片の表面を凹入させて回転工具係止用の受止溝を設け、該受止溝を構成する前記鍔片の部分で切削刃を構成することにより、切削刃による軸組材(木材)の切削操作を円滑に行うようにするのである。
【0006】
【実施例】図面は本発明に係る軸組用緊締ナットの一実施例を示し、図1は一部欠截正面図、図2は平面図、図3R>3は底面図、図4は使用状態を示す断面図である。
【0007】図中、1は軸組用緊締ナットAの筒状主体で、筒状主体1は内腔部にアンカーボルト10に螺合する雌螺子2を設けた円筒体で構成し、この筒状主体1の一側である上端には該筒状主体1を中心とする円形状の鍔片4を連設して緊締ナットAを構成する。
【0008】鍔片4は裏面(下面)4´を平坦状とした前記円形状の平板体で成り、前記裏面4´には、前記筒状主体1のアンカーボルト10との螺合方向と交差する方向に長く、かつ、互いに等間隔を置いて配した複数個の切削刃5,…と、該切削刃5と同様に、前記筒状主体1のアンカーボルト10との螺合方向と交差する方向に長い係止刃6をそれぞれ突設してある。
【0009】切削刃5は、先端(下端)を前記螺合方向側を刃先5aと成し、すなわち、鍔片5を筒状主体1がアンカーボルト10に螺合する方向に回転させることにより土台11表面を切削できるようにしてあり、前記係止刃6にはこの切削刃5の刃先5aと反対方向にして構成した刃先6aを設け、鍔片4(ナットA)が前記螺合方向と反対方向に回転しようとしたとき、切削刃5で切削して土台11に形成した切削面12´に係止(引っ掛かる)するようにしてある。
【0010】実施例の切削刃5および係止刃6は、図1で示す通り、断面三角形を成すが、図示の形状に限定する必要はなく、切削刃5にあっては鍔片4を前記螺合方向に回転させたとき、土台1の表面が切削されて鍔片5が土台11内に没入される切削穴12が形成される形状であれば良く、また、係止刃6は、鍔片5による切削操作(ナットAの締付け操作)後に、切削穴12の底面である切削面12´に圧接して(喰い込んで)、鍔片5すなわちナットAの前記螺合方向と反対方向の回転(わずかな)を規制するものであれば良い。
【0011】木材である土台11の表面を切削刃5で切削して形成した切削穴12は、木材に形成されることから表面が粗く形成され、切削面12´の表面は凹凸状となり、実施例のものは斯様な木材で構成される切削面12´の粗さ(凹凸状)を利用して係止刃6が切削面12´に引っ掛かり、ナットA全体の反螺合方向への回転を防ぐもので、実施例にあっては、係止刃6は切削刃5と高さ(肉厚)を同じにしてあるが、同じにしてあるのは、螺合方向においては係止刃6が土台(木材)11に引っ掛かることがなく、切削刃5による切削が円滑に行われ、反螺合方向にあっては、切削面12´(木材)に係止刃6が引っ掛かり易くなってナットA全体の回転を規制し易くなるためである。
【0012】従って、係止刃はこの規制を行えば足りるから、規制を行える関係にあれば、切削刃5との間で多少の高低差があっても差し支えがない。請求項で係止刃が切削刃と同等の突出量をなすとは、斯様な意味である。
【0013】なお、切削刃5は、4個にして円周方向に等間隔を存して配してあるが、これはナットA(鍔片4)を工具(概し、電動工具)によって切削方向(前記螺合方向)に回転させたとき、鍔片4の円周方向全体に均一に力が負荷されて土台11(木材)の切削を円滑に行うためで、必ずしも実施例の個数に限る必要はないが、複数個を等間隔にして配置したほうが、一方に偏らずに土台11表面を円滑に切削でき、従って、筒状主体1のアンカーボルト10に対する螺合が円滑に行われる。
【0014】いずれにしても、切削刃が成す前期螺合方向に沿う移動軌跡が全体として前記裏面とほぼ一致していれば良い、つまり、切削刃5で形成される切削穴12内に鍔片4が没入(嵌入)してナットAと軸組材である土台11が同面になれば良いのである。
【0015】係止刃6は、その数および切削面12´との接触量は少ければ少いほど良いが、実施例のように切削刃5の刃先5aと反対方向の形状(三角形状)にしておくと、切削面12´に引っ掛かり易くなってその機能を合理的に果すことができる。
【0016】前記鍔片4の表面(上面)には、前記切削刃5と対応する位置にして受入溝8を設け、該受入溝8に工具先端を係止して、工具の回転により鍔片4すなわちナットAに回転力を伝達するようにしてある。
【0017】なお、筒状主体1の内腔部(雌ねじ部)に連通させて設けた中央の角孔7は、受入溝8と同時に又は異時に工具先端を係止させるためのもので省略しても本発明の実施には支承がない。
【0018】受入溝8は、鍔片4の表面をプレス手段によって凹入して形成することができるが、この場合、鍔片4の表面の凹入によって前記切削刃5が同時に形成されるようにすると、すなわち、切削刃5を受入溝8を構成する鍔片4部分で構成するようにすると、受入溝8に係合する工具先端が切削刃5を、該切削刃5の回動方向に直接押圧することになり(切削刃5がぶれることなく土台11に確実に圧接され)、この結果、切削刃5に対しては間接的に押圧されるより大きな押圧力が確実に負荷され、土台11(木材)表面の切削刃5による切削を円滑に行うことができる。
【0019】しかして、この軸組用緊締ナットAを、基礎コンクリート13に立設して該基礎コンクリート13上に載置した土台11に挿通したアンカーボルト10に筒状主体1において螺合し、前記角孔7および受入溝8に電動工具(専用の先端材)を係合してナットAを回転させると、緊締ナットAはアンカーボルト10に沿って降下して土台11を基礎コンクリート13に締付ける一方、切削刃5が土台9の、前記アンカーボルト10を挿通した貫通孔14の周辺部を切削して前記切削穴12を形成し、形成すると同時に鍔片4は該切削穴12に、すなわち土台11内に埋入し、土台11上に無用な突出部が生じることなく、土台11は基礎コンクリート13に緊締固定される。
【0020】そして、外力が負荷されてナットAが反螺合方向に回転しようとしても、係止刃6が切削面12´に係止してそれを阻止し、ナットAは当初の締付け状態を維持する。
【0021】実施例は、本発明製品を土台11に用いた例を示すが、例えば、柱と横架材を接合する際のボルト体に螺合して適用しても良いことは勿論である。
【0022】
【発明の効果】本発明は前記の通りの構成であるから、鍔片が重なり合う軸組材の表面部を、前記鍔片の半径方向に均一にして、しかも、浅く切削することができ、従来例のように切削荷重が部分的に集中することがないから木材である軸組材に生起する亀裂を未然に防ぐことができることは勿論、ナットが緩もうとしても、係止刃が切削刃で形成された切削穴の切削面に係止して該緩みを防ぎ、初期の軸組状態を可及的に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一部欠截正面図。
【図2】平面図。
【図3】底面図。
【図4】使用状態を示す断面図。
【符号の説明】
1 筒状主体
2 雌螺子
4 鍔片
4´ 裏面
5 切削刃
5a 刃先
6 係止刃
6a 刃先
10 アンカーボルト
11 土台

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸組用のボルトに螺合する雌螺子を形成した筒状主体の一側に、前記ボルトを挿通した軸組材に係止する円形状の鍔片を設け、該鍔片の平坦状にした裏面に、前記筒状主体と前記ボルトとの螺合方向側を刃先とし、前記螺合方向と交叉する方向に長く、少くも全体としての移動軌跡が前記裏面とほぼ一致する複数の切削刃を前記螺合方向に並べて突設し、該切削刃間には、該切削刃と同等の突出量にして、しかも、前記刃先と対向する刃先を備えた係止刃を突設した、軸組用緊締ナット。
【請求項2】 鍔片の表面を凹入させて回転工具係止用の受止溝を設け、該受止溝を構成する前記鍔片の部分で切削刃を構成した、請求項1記載の軸組用緊締ナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2002−242318(P2002−242318A)
【公開日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−43068(P2001−43068)
【出願日】平成13年2月20日(2001.2.20)
【出願人】(591027499)株式会社カネシン (49)
【Fターム(参考)】