説明

軸貫通スクロール圧縮機

【課題】従来技術では、固定スクロールに軸受部を設けているので、吐出ポートの大きさが制約され、吐出通路面積を広く確保できないといった課題がある。また、不足圧縮時に吐出ポートから高圧ガスが圧縮室内に逆流する可能性もある。本発明は、軸貫通スクロール圧縮機の吐出圧損を低減するとともに不足圧縮時であっても高圧ガスの圧縮室への逆流を防止することを目的とする。
【解決手段】本発明の目的は、固定スクロールに圧縮したガスを吐出する複数の吐出口を設けることによって達成される。特に、固定スクロールが、旋回スクロールと固定スクロールとで形成される圧縮室のうち旋回スクロールの渦巻の外側に形成される旋回外線室に開口する第1の吐出口と、旋回スクロールと固定スクロールとで形成される圧縮室のうち旋回スクロールの渦巻の内側に形成される旋回内線室に開口する第2の吐出口と、を有することによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸貫通スクロール圧縮機に係り、特に、吐出流路面積を拡大するとともに、不足圧縮時におけるガスの逆流を防止するものである。
【背景技術】
【0002】
軸貫通スクロール圧縮機としては、特許文献1が知られている。特許文献1は、旋回スクロール部材の中心部に旋回軸受を設け、ここにクランク軸の偏心部を挿入するとともに、偏心部の固定スクロール側にも軸心軸部を設け、これを固定スクロールに設けた軸受部で支持する構造である。また、特許文献1の吐出通路面積を拡大する方法として特許文献2と特許文献3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−131896号公報
【特許文献2】特開平8−74760号公報
【特許文献3】特開平8−200250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、固定スクロールに軸受部を設けているので、旋回軸受に圧縮ガスにより働く軸受荷重が作用した際、旋回軸受の両側を軸受で支持する両持ち構造となっている。このため、クランク軸のたわみが小さく、旋回スクロールの傾斜が小さくなり、圧縮室内部の隙間の拡大を抑制でき効率が向上することや、軸受部の信頼性が向上するといった利点がある。しかし、固定スクロールに軸受部を設けているので、吐出ポートの大きさが制約され、吐出通路面積を広く確保できないといった課題がある。
【0005】
特許文献2は、特許文献1の課題を解決するために固定スクロールの軸受部を廃止し、吐出通路面積を広く確保し吐出時の圧力損失を低減するものであるが、クランク軸の支持構造が片持ち構造となり、軸のたわみが大きくなる課題がある。
【0006】
特許文献3は、特許文献2の構造において、固定スクロールの反ラップ側に軸受部を設け、クランク軸の支持構造を両持ち構造にしたものであるが、旋回軸受と固定スクロールの反ラップ側に設けた軸受部の支持点距離が長くなり、特許文献2のような片持ち構造よりクランク軸のたわみは小さくなるが、特許文献1に対してはクランク軸のたわみが大きくなるといった課題が残る。
【0007】
また、上記三つの特許文献に共通する点として、不足圧縮時に吐出ポートから高圧ガスが圧縮室内に逆流する可能性がある。
【0008】
本発明は、スクロール圧縮機の吐出圧損を低減するとともに不足圧縮時であっても高圧ガスの圧縮室への逆流を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、
固定スクロールに圧縮したガスを吐出する複数の吐出口を設けることによって達成される。特に、固定スクロールが、
旋回スクロールと固定スクロールとで形成される圧縮室のうち旋回スクロールの渦巻の外側に形成される旋回外線室に開口する第1の吐出口と、
旋回スクロールと固定スクロールとで形成される圧縮室のうち旋回スクロールの渦巻の内側に形成される旋回内線室に開口する第2の吐出口と、
を有することによって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吐出圧損を低減するとともに不足圧縮時であっても高圧ガスの圧縮室への逆流を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施例におけるスクロール圧縮機の縦断面図。
【図2】圧縮機構部の拡大図。
【図3】固定スクロールをラップ側から見た図。
【図4】固定スクロールを反ラップ側から見た図。
【図5】圧縮動作説明図。
【図6】吐出行程説明図。
【図7】吐出口1個と吐出口2個の時の吐出通路面積を比較した図。
【図8】旋回内線室の設計容積比を下げた時の固定スクロールをラップ側から見た図。
【図9】吐出口1個で旋回内線室の設計容積比を下げた時の吐出行程説明図。
【図10】吐出口2個で旋回内線室の設計容積比を下げた時の吐出行程説明図。
【図11】図10の右上図の拡大図。
【図12】背圧制御弁の拡大図。
【図13】旋回スクロールのスリット溝の説明図。
【図14】吐出口1個の時の旋回内線室の吐出ガスの流れの様子を示した図。
【図15】吐出口1個と吐出口2個の時の容積と圧力変化の関係図。
【図16】第2の実施形態において固定スクロールをラップ側から見た図。
【図17】図16に示した第1の吐出口をB−Bの断面で見た図。
【図18】第2の実施形態において固定スクロールを反ラップ面から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の実施形態を以下詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
スクロール圧縮機の基本動作について図1乃至図15を用いて説明する。
【0014】
スクロール圧縮機1は、渦巻状のラップ6aと5cを立設した旋回スクロール6及び固定スクロール5からなる圧縮機構部3と、この圧縮機構部3を駆動する電動機4と、この圧縮機構部3と電動機4を収納する密閉容器2を備えている。密閉容器2内の下部には圧縮機構部3が、上部には電動機4が配置されている。そして、密閉容器2の底部には潤滑油13が貯留されている。
【0015】
密閉容器2は、円筒状のケース2aに蓋チャンバ2bと底チャンバ2cが上下に溶接されて構成されている。蓋チャンバ2bには吐出パイプ2eが設けられ、ケース2a側面には吸込パイプ2dが設けられている。密閉容器2の内部は吐出圧室2fとなる。この圧縮機は、いわゆる高圧チャンバ型の圧縮機である。
【0016】
圧縮機構部3は、台板5d上に渦巻状のラップ5cを有する固定スクロール5と、台板6b上に渦巻状のラップ6aを有する旋回スクロール6と、固定スクロール5にボルト8で一体化されて旋回スクロール6を支持するフレーム9とを備えて構成されている。
【0017】
固定スクロール5には相対向して旋回スクロール6が旋回自在に配置されている。旋回スクロール6の上面には、固定スクロール5のラップ5cとかみ合う渦巻状のラップ6aが設けられており、ラップ5cとラップ6aとの間に吸込室10と圧縮室11が形成されている。
【0018】
フレーム9は、その外周側が溶接によって密閉容器2の内壁面に固定されている。固定スクロール5には、リリース弁15が設けられている。フレーム9には、クランク軸7を回転自在に支持する上軸受9aが備えられており、固定スクロール5には、前記クランク軸7を回転自在に支持する下軸受5jが備えられている。旋回スクロール6に、クランク軸7の偏心部7bが連結されている。
【0019】
旋回スクロール6とフレーム9との間には、オルダムリング12が配置されており、オルダムリング12は旋回スクロール6の上面側に形成された溝とフレーム9の下面側に形成された溝に嵌挿されている。このオルダムリング12は、旋回スクロール6を自転させることなく、クランク軸7の偏心部7bの偏心回転を受けて公転運動をさせる働きをする。
【0020】
電動機4は、固定子4aおよび回転子4bを備えている。固定子4aは密閉容器2に圧入および溶接などにより締結されている。回転子4bは固定子4a内に回転可能に配置されている。回転子4bにはクランク軸7が固定されている。
【0021】
クランク軸7は、上軸7aと偏心部7bと下軸7hを備えて構成されており、フレーム9に設けた上軸受9aと固定スクロール5に設けた下軸受5jとで支持されている。偏心部7bはクランク軸7の上軸7aと下軸7hに対して偏心して一体に形成されており、旋回スクロール6に設けた旋回軸受6cに嵌合されている。ここで、上軸7aと下軸7hとは同軸である。
【0022】
クランク軸7は電動機4によって駆動され、偏心部7bは上軸7aに対して偏心回転運動し、旋回スクロール6を旋回運動させるようになっている。また、クランク軸7は、上軸受9a,下軸受5jおよび旋回軸受6cへ潤滑油13を導く給油通路7cが設けられ、下軸7hの端部に潤滑油13を吸い上げて給油通路7cに導く給油管7dが装着されている。ここで、潤滑油13を搬送する手段としては、遠心ポンプ方式やトロコイドポンプなどの容積形ポンプ方式がある。
【0023】
冷媒ガスは、電動機4で駆動されるクランク軸7を介して旋回スクロール6が旋回運動すると、吸込パイプ2dから旋回スクロール6および固定スクロール5により形成される圧縮室11に導かれ、ここで冷媒ガスは、スクロールの中心方向に移動するに従い容積を縮小し圧縮される。圧縮された冷媒ガスは固定スクロール5の台板5dの略中央に設けられた第1の吐出口5eと第2の吐出口5hから密閉容器2内の吐出圧室2fへ吐出され、吐出通路28を通って吐出パイプ2eから外部へと流出していく。第1の吐出口5eの反ラップ側には、第1の吐出弁26と第2の吐出弁27が設置されており、圧縮室11の圧力が吐出圧室2fの圧力より少しでも高くなると開くようになっている。
【0024】
リリース弁15は、圧縮室11の圧力が吐出圧力以上になったとき、圧縮室11から吐出圧室2fに吐出するためのものである。一般に圧縮室内の圧力は(1)式で表され、押除容積と圧縮室容積の比率で決まる。
【0025】
圧縮室圧力=吸込圧力×(押除容積/圧縮室容積)^断熱指数 ・・・(1)
運転される圧力条件によっては、圧縮室の圧力が吐出圧力より高くなる場合があり、この時はリリース弁穴15aより冷媒ガスが排出される。ラップ外周に位置するリリース弁15は、さほど圧力が上昇していないので、定常運転時に開くことはあまりないが、起動直後など液冷媒が吸い込まれた時に液圧縮を回避するために設けられている意味合いが大きい。
【0026】
つぎに背圧室14の圧力調整機構である背圧制御弁16について図2,図3,図12,図13を用いて説明する。
【0027】
旋回スクロール6の反ラップ側には、吐出圧力Pdと吸込圧力Psとの間の圧力Pbを維持する背圧室14が設けられている。図2に示すように、背圧室14はフレーム9中央部に取り付けられたシールリング25によりクランク軸7の周辺空間と区画されており、このシールリング25と旋回スクロール6とフレーム9により中間圧力Pbを維持する空間、すなわち背圧室14を形成している。
【0028】
貫通穴5gは背圧制御弁16に通じている。固定スクロール5には、貫通穴5gと、ばね収納穴5fが形成されている。ばね収納穴5fの背圧室14側に貫通穴5gが、前記ばね収納穴5fと溝5aを連通する連通穴16bが形成されている。溝5aは圧縮室と連通している。ばね収納穴5fには貫通穴5gを塞ぐように弁体16cが、ばね16dによって押付けられている。ばね16dはシール部材16eに取り付けられており、シール部材16eは、ばね収納穴5fと吐出圧室2fを区画するように固定スクロール5に圧入されている。
【0029】
背圧制御弁16の動作について説明する。密閉容器2下部に溜められた潤滑油13は給油管7dと給油通路7cを通って各軸受部に給油される。上軸受9aに給油された潤滑油13は、図13に示すように旋回スクロール6の反ラップ側に設けられた深さ数十ミクロンのスリット溝6dを通って背圧室14に入り、ここで潤滑油13内に溶け込んでいた冷媒が発泡し背圧室14の圧力を上昇させる。背圧室14とばね収納穴5fの圧力差による弁体16cにかかる力が、ばね16dの押付力より勝ると弁体16cが開き、背圧室14内の潤滑油13は連通穴16bから溝5aを通って旋回外線室11aに供給される。溝5aと旋回外線室11aが連通している間の旋回外線室11a内圧力はあまり上昇しない区間であり、背圧室14の圧力は、おおよそ、吸込圧力+一定値(この一定値は、ばね力によって決まる)となる。また、背圧室14への給油量は前記スリット溝6dの流路抵抗によって決まる。
【0030】
図5にスクロール圧縮機の圧縮動作を示す。ここでθはクランク軸7の回転角度で、θ=0゜は旋回外線室11aが吸込完了したタイミングであり、180゜は旋回内線室11bが吸込完了したタイミングである。クランク軸7が回転すると圧縮室がラップ中央部に移動しながら容積が縮小していく。
【0031】
次に図6と図14を用いて吐出行程に関して詳細に説明する。図6の左上の図は吐出開始のタイミングで、旋回外線室11aの吸込完了をθ=0゜とした時、θ≒540゜である。図6は、そこからクランク軸を30゜ずつ回転した様子を示している。従来スクロール圧縮機の吐出口は1個であり、このスクロール圧縮機においても吐出口を1個としても吐出は可能である。
【0032】
図14に第1の吐出口5eのみの場合の吐出ガスの流れを示す。図に示すように、第1の吐出口1個の場合は旋回内線室11bのガスは、固定スクロール5と旋回スクロール6の各ラップの間を通って第1の吐出口5eから吐出される。この時、特に、吐出開始直後は、固定スクロール5と旋回スクロール6とのラップ間隙間が小さく吐出通路面積が広く確保できない。
【0033】
しかし、第1の吐出口5eと第2の吐出口5hと二つの吐出口を設けておけば、図6から分かるように、吐出が開始されると、旋回外線室11aのガスは第1の吐出口5eから、旋回内線室11bのガスは第2の吐出口5hから吐き出されるので、固定スクロール5と旋回スクロール6の各ラップの間をガスが通る必要がなく吐出通路面積が広く確保できるようになっている。
【0034】
図7に吐出口1個の場合と吐出口2個の場合の吐出通路面積の変化を示す。横軸の左端は吐出開始のクランク角度である。図7に示されるように、吐出口1個の場合は、旋回内線室11bの吐出通路面積■が旋回外線室11aの吐出通路面積◆より小さい。対して、吐出口2個の場合は、旋回内線室11bの吐出通路面積△が旋回外線室11aの吐出通路面積◆と同等の面積になっている。
【0035】
次に、旋回内線室11bの設計容積比を変えた時の作用効果について説明する。設計容積比は次式で表される。
【0036】
設計容積比=押除容積/吐出開始の圧縮室容積
=(吐出圧力/吸込圧力)^(1/断熱指数) ・・・(2)
式(2)から分かるように吐出圧力と吸込圧力の圧力比によって圧縮機の効率上の最適な設計容積比が存在する。しかし、ルームエアコンでは1年間を通して、この圧力比が大きく変わる。例えば、夏期を想定した冷房定格条件、冬期を想定した暖房定格条件、春秋を想定した冷房中間および暖房中間条件で、圧力比が1.7から3.0程度まで変化する。この時、設計容積比はラップの形状から一つに決まってしまうので、どこかの条件に合わせなければならない。
【0037】
通常、一年を通して最もエネルギー消費の多い条件に設計容積比を合わせることとしており、近年では、圧力比の低い中間条件が重要視されている。設計容積比を圧力比の低い中間条件に合わせると、圧力比の高い定格条件では圧縮不足により、吐出ガスが圧縮室に逆流する不足圧縮損失が生じる。しかし、吐出口を2個設けると、この不足圧縮損失を防止することが可能である。以下詳細に説明する。
【0038】
図8に示した固定スクロール5は、図3に示した固定スクロール5の第2の吐出口5hの位置を変更して旋回内線室11bの設計容積比を小さくしたものである。具体的には、図3の固定スクロールは旋回内線室の設計容積比が定格条件に合わせた2.6で、図8に示した固定スクロールの旋回内線室の設計容積比は中間条件に合わせた2.0である。このように、第2の吐出口5hの位置を変更することにより、旋回内線室11bの設計容積比を変更できる。
【0039】
吐出口の位置の変更ではなく、ラップの設計自体を変えて低い設計容積比にすることもできるが、軸貫通スクロールの場合、旋回スクロール5の中央部が軸受として構成されるため、もともと、設計容積比を大きく取りにくく旋回外線室の設計容積比が中間条件に適した値よりも低くなり過ぎるので、ラップの設計自体は高い設計容積比で設計を行い、吐出口の位置を変更して旋回内線室11bの設計容積比を小さくする方が圧縮機の効率上良いと思われる。吐出口1個の場合でも旋回内線室11bの設計容積比を縮小可能であるが、吐出口1個で設計容積比を縮小する場合と吐出口2個で設計容積比を縮小する場合で定格条件における不足圧縮損失に違いが出てくる。
【0040】
図9に吐出口1個で旋回内線室の設計容積比を中間条件に合わせた状態の吐出行程を、図10に吐出口2個で旋回内線室の設計容積比を中間条件に合わせた状態の吐出行程を示す。図9に示すように、吐出口1個で旋回内線室11bの設計容積比を中間条件に合わせる場合、旋回スクロール5の一部に切欠部29を設ける必要がある。図9の左上図は旋回内線室11bの吐出開始のタイミングで、ここから、クランク軸7が回転すると旋回内線室11bは吐出口30と連通し、冷媒ガスの吐き出しを行う。
【0041】
ここで、定格条件では、旋回内線室11bが吐出口30と連通すると、旋回内線室11bの圧力は吐出圧力に到達していないので、吐出口30と連通した瞬間、吐出圧力のガスが旋回内線室11bに逆流してくる。特に、吐出口30に取り付けられた吐出弁は開いている状態なので吐出圧室2fのガスが流れ込んでくる。これに対し、図10に示した、吐出口を2個設けて旋回内線室11bの設計容積比を中間条件に合わせた場合の吐出行程では、旋回内線室11bが吐出を開始し、第2の吐出口5hと連通しても第2の吐出弁27は閉じているので吐出圧室2fのガスが逆流することはない。
【0042】
また、図11に図10の右上図(吐出開始+30°)の拡大図を示すが、旋回内線室11bの吐出開始後から旋回外線室11aが吐出開始するまで、旋回外線室11aと旋回内線室11bと吐出室11cの三つの部屋が形成されるので、旋回内線室11bが吐出を開始しても、前記旋回内線室11bは吐出室11cと連通することはなく、第1の吐出口5eから旋回外線室11aへ向かってガスが流れ込むことがない。この第2の吐出口5hは、旋回内線室11bに開口する吐出口であるが、その輪郭形状の一部は旋回スクロール6の内側渦巻と外側渦巻を結ぶ曲線と同じ曲率の円弧である。
【0043】
図15に図9と図10に示したスクロール圧縮機を暖房定格条件で運転した時の旋回内線室11bの圧力と容積の関係を示す。図15に示すように、図9の吐出口1個の場合は吐出開始すると吐出口30(図9記載)から吐出ガスが旋回内線室11bに逆流してくるので、一気に圧力が上昇し無駄な動力を消費してしまう。これに対して、図10に示した吐出口2個の場合は、旋回内線室11bが吐出開始しても、吐出口30と連通することはなく、急激な圧力上昇がなく無駄な動力を消費することがない。
【0044】
以上の実施例によれば、旋回スクロールのラップの外側と内側に形成される外線室と内線室、それぞれに吐出ポートを設けることにより、内線室の吐出通路面積を広く確保でき、それとともに、不足圧縮時であっても吐出ポートから高圧ガスが内線室に逆流するのを防止することができる。
【実施例2】
【0045】
本発明の第2の実施形態を以下詳細に説明する。ここで、第1の実施形態を同一の符号を付けたものは同じ作用効果をなす。第2の実施形態が第1の実施形態と違う点は吐出口の形状である。
【0046】
図16に示すように、第1の吐出口5eは略弓形形状している。第2の実施形態では、図17に示すように、固定スクロール5の反ラップ面側から前記第1の吐出口5eに連通するように円筒穴31が形成されている。この円筒穴31は弁板32によって塞がれており、前記弁板32はリテーナ33で押えられ、圧縮室11の圧力が吐出圧室2fの圧力より高くなると、前記弁板32が開く。以上の構造とすることにより、図18に示すように吐出口を塞ぐ部分の弁板の形状を円形にすることができる。
【0047】
では、吐出口を塞ぐ部分の弁板形状を円形にすることにより、どのような利点があるか説明する。弁板32が閉まっている状態は、弁板32が固定スクロールを接触することにより圧縮室11と吐出圧室2fの密閉を保つが、部品の面粗さを考えると、完全に密閉できている訳ではなく、面粗さの凹凸による隙間が存在し、ここからガスが逆流する。第1の実施形態の図4のように、ラップ面側から反ラップ面側まで、吐出口を略弓形形状で形成すると、吐出口を塞ぐ部分の弁板の形状も略弓形形状となる。
【0048】
しかし、本実施形態のように吐出口を塞ぐ部分の弁板形状を円形にすると、略弓形形状より周長が短くなり弁板でシールする距離が短くなって、弁板が閉じている時の面粗さによって生じる隙間からのガスの逆流を低減することができる。例えば、図16に示した略弓形形状の周長は31.1mmで面積は32.6mm2である。これと同じ面積となる円の直径は6.4mmで、この時の周長は20.2mmで、円形にすると周長が約30%強短くなる。
【0049】
本実施形態では、第1の吐出口を例にとって説明したが、第2の吐出口も同様な構造が可能であり同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0050】
1 スクロール圧縮機
2 密閉容器
2a ケース
2b 蓋チャンバ
2c 底チャンバ
2d 吸込パイプ
2e 吐出パイプ
2f 吐出圧室
3 圧縮機構部
4 電動機
4a 固定子
4b 回転子
5 固定スクロール
5a 溝
5c,6a ラップ
5d,6b 台板
5e 第1の吐出口
5f ばね収納穴
5g 貫通穴
5h 第2の吐出口
5j 下軸受
6 旋回スクロール
6c 旋回軸受
6d スリット溝
7 クランク軸
7a 上軸
7b 偏心部
7c 給油通路
7d 給油管
7h 下軸
8 ボルト
9 フレーム
9a 上軸受
10 吸込室
11 圧縮室
11a 旋回外線室
11b 旋回内線室
11c 吐出室
12 オルダムリング
13 潤滑油
14 背圧室
15 リリース弁
15a リリース弁穴
16 背圧制御弁
16b 連通穴
16c 弁体
16d ばね
16e シール部材
25 シールリング
26 第1の吐出弁
27 第2の吐出弁
28 吐出通路
29 切欠部
30 吐出口
31 円筒穴
32 弁板
33 リテーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、旋回スクロールを貫通するクランク軸と、前記クランク軸の軸受が配設された固定スクロールを有する高圧チャンバ型の軸貫通スクロール圧縮機において、
前記固定スクロールに圧縮したガスを吐出する複数の吐出口を設けたことを特徴とする軸貫通スクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記固定スクロールは、
前記旋回スクロールと前記固定スクロールとで形成される圧縮室のうち前記旋回スクロールの渦巻の外側に形成される旋回外線室に開口する第1の吐出口と、
前記旋回スクロールと前記固定スクロールとで形成される圧縮室のうち前記旋回スクロールの渦巻の内側に形成される旋回内線室に開口する第2の吐出口と、
を有することを特徴とする軸貫通スクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
前記旋回内線室が吐出を開始後、前記旋回外線室が吐出を開始するまで、
前記旋回内線室と、
前記旋回外線室と、
前記高圧となる密閉容器内の空間である吐出室と、
の三つの空間が形成される
ことを特徴とする軸貫通スクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項2において、
旋回内線室に開口する吐出口の輪郭形状の一部が、前記旋回スクロールの内側渦巻と外側渦巻を結ぶ曲線と同じ曲率の円弧である
ことを特徴とする軸貫通スクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項1において、
前記各吐出口に、前記圧縮室内の圧力と前記密閉容器内の圧力との差圧によって開閉を行う弁を設けた
ことを特徴とする軸貫通スクロール圧縮機。
【請求項6】
上記請求項の何れかにおいて、
前記クランク軸が、
前記固定スクロールと組み合わさって、その内部に前記旋回スクロールを保持するフレームに形成された上軸受、
前記固定スクロールに形成された下軸受、
前記旋回スクロールに形成された旋回軸受、
の三つで軸支されることを特徴とする軸貫通スクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−241631(P2012−241631A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112992(P2011−112992)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】