説明

軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジン

【課題】 軽油等の燃料を潤滑油として兼用することを考慮して噴射系燃料流通経路に配設される噴射系部品の配置を定めた軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンを提供することを課題とする。
【解決手段】 エンジン(1)は、燃料を潤滑剤としてエンジン潤滑系(7)に流通させる潤滑系燃料流通経路(8、11)、燃料を噴射系(12)へ流通させる噴射系燃料流通経路(13、16)とを備える。この噴射系燃料流通経路(13、16)に配設される噴射系部品であるコモンレール(12a)、インジェクタ(12b)、噴射ポンプ(15)、さらに、供給ポンプ(6)等は、シール部材を介装して組み合わせたエンジンブロックとエンジンヘッドとにより形成される領域(19)内に収容されている。領域(19)内に収容された部品から漏洩した燃料はエンジン潤滑系(7)に潤滑剤として作用し、エンジン(1)に不具合をきたすことはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油等の燃料を潤滑油として兼用する軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンに関し、とくに噴射系部品の配置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンクとディーゼルエンジンとの間に気泡分離を行うリザーバを配設し、そのリザーバとエンジンとの間に潤滑系燃料循環回路と、燃焼系燃料循環回路とを構成した軽油潤滑式ディーゼルエンジンが開示されている(特許文献1)。このような軽油潤滑式ディーゼルエンジンでは、燃料となる軽油がエンジン各部の潤滑剤としても用いられ、エンジン各部を循環する。このため、潤滑専用のオイルは不要であり、オイル交換の手間も省くことができる。
【0003】
図2は、特許文献1に記載された燃料潤滑式ディーゼルエンジン100の主として燃料供給部分の概略構成を示した説明図である。燃料潤滑式ディーゼルエンジン100は、燃料タンク101、リザーバタンク102、オイルパン(オイルタンク)103を備えている。燃料タンク101とリザーバタンク102とは、セジメンタ(油水分離器)104、供給ポンプ(送油ポンプ)105を備えた油路106により連通している。
【0004】
燃料潤滑式ディーゼルエンジン100は、潤滑剤の供給を必要とするエンジン各部107へ潤滑剤としての燃料を供給する潤滑系燃料循環回路108を有している。この潤滑系燃料循環回路108には、冷却器112、フィルタ109、潤滑ポンプ110が配設されており、潤滑ポンプ110を駆動することにより燃料をリザーバタンク102から吸い上げてエンジン各部107へ供給している。エンジン各部107へ供給された後の燃料は、オイルパン103内へ流下し、スカベンジポンプ111により吸い上げられて再びリザーバタンク102へ戻されるようになっている。
【0005】
また、燃料潤滑式ディーゼルエンジン100は、筒内へ燃料を噴射する噴射系114へ燃料を供給する燃焼系燃料循環回路113を有している。この燃焼系燃料循環回路113には、前記潤滑系燃料循環回路108と共通の冷却器112、フィルタ115、噴射ポンプ116が配設されており、噴射ポンプ116を駆動することにより燃料をリザーバタンク102から吸い上げて噴射系114へ供給している。噴射系114に供給された燃料のうち、燃焼に供されなかった燃料は再びリザーバタンク102へ戻される。
【0006】
このように特許文献1に記載された燃料潤滑式ディーゼルエンジン100は、潤滑系燃料循環回路108と燃焼系燃料循環回路113の二系統の燃料循環回路を有している。
【0007】
ところで、通常のエンジン、すなわち、潤滑剤として燃料とは別のエンジンオイルを用いるディーゼルエンジンやガソリンエンジンでは、燃料が噴射系に供給される経路と、潤滑剤の供給が必要となる各部(エンジン潤滑系)へエンジンオイルを供給する経路とは分離されている。これは潤滑剤であるエンジンオイルと燃料とが全く異なる成分であることに鑑みれば当然に採られる措置である。このような通常のエンジンでは、エンジン潤滑系の主要部分は、シール処理されたシリンダヘッドやシリンダブロック内へ配置される。一方の噴射系は、インジェクタの先端側がシリンダヘッド内へ配置される以外は、噴射系に含まれる他の構成部品(噴射系部品)は一般的にシリンダヘッドの外側に配置され、エンジンオイルと燃料とが混合しないような構成となっている。また、このようにシリンダヘッドの外側に配置される噴射系部品は、流通する燃料が外部へ漏れ出さないように必要に応じて各所にOリング等のシール部材が装着されている。
【特許文献1】実開昭60−194112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載された燃料潤滑式ディーゼルエンジン100は、前記のように潤滑系燃料循環回路108と燃焼系燃料循環回路113の二系統の燃料循環回路を有していることが開示されている。
しかし、これらの回路、特に噴射系114へ燃料を供給している燃焼系燃料循環回路113に配設される噴射系部品の具体的な配置については何ら記載されていない。
【0009】
そこで、本発明は、軽油等の燃料を潤滑油として兼用することを考慮して噴射系燃料流通経路に配設される噴射系部品の配置を定めた軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を達成するための本発明の軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンは、軽油等の燃料を潤滑剤としてエンジン潤滑系に流通させる潤滑系燃料流通経路と、前記燃料を噴射系へ流通させる噴射系燃料流通経路と、を備えた軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンにおいて、前記噴射系燃料流通経路に配設される噴射系部品をエンジンヘッド内へ収容したことを特徴とする(請求項1)。
【0011】
潤滑剤(潤滑油)としてエンジン潤滑系に供給される燃料と噴射系に供給される燃料とが共通であることから、仮に噴射系を構成する噴射系部品や、これらの部品間を接続する接続パイプとの接合部分から燃料が漏れ、エンジン潤滑系に流入したとしても何ら不都合はない。すなわち、漏れ出た燃料は潤滑剤としての燃料と同一であり、シリンダブロック内等のエンジン内部を潤滑している限りは潤滑剤として機能することとなり、エンジン動作に支障をきたすことはない。このため、シリンダヘッド内へ収容した噴射系部品からの多少の燃料の漏洩は許容されることになるから、通常であれば噴射系部品に備えられるべきシール部材の装着を省略することができる場合がある。すなわち、シール部材の装着を省略する等、シール処理を簡略化することによる燃料の漏洩量がポンプの圧送量に対して十分に小さく、エンジンの動作にさほど影響がない場合にはシール部材の装着の省略等、シール処理の簡略化をすることができる。
【0012】
ここで、前記エンジンヘッド内へ収容した噴射系部品には、少なくともコモンレール、噴射ポンプ、インジェクタ及びこれらの部品間の接続パイプが含まれる(請求項2)。これらの部品には燃料が流通することになるが、これらの部品をエンジンヘッド内へ収容すれば、これらの部品、その接続部分から漏洩した燃料はエンジンヘッド、シリンダブロック等からなるエンジン本体の内部で潤滑系から供給された燃料と共に循環するのみでエンジン本体の外部へ漏れ出ることはない。
【0013】
なお、軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンは、前記コモンレールや噴射ポンプ等の他にも噴射系部品に含められる部品を備えていることがあるが、これらの部品もエンジンヘッド内へ収容することができる。要は、噴射系燃料流通経路に配設することがある部品で燃料が流通することがある部品はエンジンヘッド内へ収容することができる。
【0014】
また、軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンは、その配管の構成は種々の組み合わせが考えられるが、潤滑系燃料流通経路と、噴射系燃料流通経路とを備えてさえいれば、各経路の出発点や分岐点、終点はどのような構成であってもよい。さらに、供給ポンプにより燃料タンクからオイルタンクへ燃料を供給する燃料供給経路を備えた軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンも対象とすることができ、この場合は、前記供給ポンプをエンジンヘッド内へ収容した構成とすることができる(請求項3)。この結果、例え供給ポンプから燃料が漏洩したとしてもこの燃料がエンジン本体の外部へ漏れ出ることを回避することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、潤滑剤と共通となる燃料が流通する噴射系燃料流通経路に配設される噴射系部品をエンジンヘッド内へ収容したので、噴射系部品周辺から燃料が漏洩してもエンジンの動作に支障をきたすことがない。また、噴射系部品周辺からの燃料の漏洩はある程度許容されることとなるので、噴射系部品及びその接続部におけるシール部材を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、実施例の軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジン(以下、「エンジン」という)1の概略構成を示した説明図である。エンジン1は、燃料タンク2、オイルパン3を備えている。燃料タンク2とオイルパン3とは燃料供給経路4によって連通している。この燃料供給経路4にはセジメンタ5、電動の供給ポンプ6が配設されており、この供給ポンプ6により燃料タンク2からオイルパン3へ燃料が供給されるようになっている。ここで、オイルパン3は、本発明におけるオイルタンクに相当するものであり、シリンダブロックの下部にシール部材を介装させて一体的に設けられたものを指すが、別置きのオイルタンクであってもよい。
【0018】
エンジン1は、潤滑剤の供給を必要とするエンジン潤滑系7へ潤滑剤としての燃料を供給する潤滑系燃料供給経路8を有している。この潤滑系燃料供給経路8にはフィルタ9、50kPa程度の圧力で燃料を圧送可能な潤滑ポンプ10が配設されており、潤滑ポンプ10を駆動することにより燃料をオイルパン3から吸い上げてエンジン各部7へ供給している。また、エンジン1は、潤滑系燃料供給経路8を通じてエンジン潤滑系7へ供給された燃料をオイルパン3へ戻す潤滑系燃料リターン経路11を有している。潤滑系燃料供給経路8と潤滑系燃料リターン経路11が本発明における潤滑系燃料流通経路を形成している。
【0019】
さらに、エンジン1は、筒内へ燃料を噴射する噴射系12へ燃料を供給する噴射系燃料供給経路13を有している。この噴射系燃料供給経路13には、フィルタ14、低圧ポンプと高圧ポンプとを組み合わせ高圧で燃料を圧送可能な噴射ポンプ15が配設されており、噴射ポンプ15を駆動することにより燃料をオイルパン3から吸い上げて噴射系12へ供給している。この噴射ポンプ15は図示しないカムシャフトによって駆動されるため、内部のポンプシャフトがオルダムカップリングを介してカムシャフトと連結されている。このような噴射ポンプ15は、通常であればポンプシャフトの装着箇所に装着されるシール部材が省略されている。このようにシール部材を省略したことにより、噴射ポンプ15から漏れ出た燃料によりオルダムカップリングの潤滑が行われる。このような噴射ポンプ15から高圧の燃料が供給される噴射系12にはコモンレール12a、筒内へ燃料を噴射する気筒毎のインジェクタ12bが含まれている。
【0020】
エンジン1はさらに噴射系燃料供給経路13を通じて噴射系12へ供給された後の噴射系リターン燃料を燃料タンク2へ戻す噴射系燃料リターン経路16を有している。なお、噴射系リターン燃料とは、噴射ポンプ15に一体的に設けられた供給ポンプ(低圧ポンプ)、コモンレール12aおよびインジェクタ12bの各々から戻されるリターン燃料を指す。噴射系燃料供給経路13と噴射系燃料リターン経路16とが本発明における噴射系燃料流通経路を形成している。
【0021】
さらに、エンジン1は、オイルパン3にオイルパン3内の燃料の量(油量)を判定するためのオイルレベルセンサ17が装着されている。このオイルレベルセンサ17は、ECU18に接続されている。ECU18は、供給ポンプ6へ接続されており、オイルレベルセンサ17からのデータに基づく供給ポンプ6の駆動制御を行い、燃料タンク2からオイルパン3への燃料の供給量を調整してオイルパン3内の燃料の量を所定レベルに保つようになっている。
【0022】
以上のようなエンジン1の構成部品の一部は、エンジンヘッド内へ収容されている。図1において、破線で囲った領域19は、シール部材を介装して組み合わされたエンジンブロックとエンジンヘッドとによりエンジン1の本体内部に形成される領域を示しているが、この領域19内にエンジン1の構成部品の一部が収容されている。まず、潤滑系燃料流通経路に配設されるフィルタ9、潤滑ポンプ10、エンジン潤滑系7自体、さらにこれらを接続している接続パイプ等は領域19内に配置、収容されている。このような構成とすることによりエンジン1の外部へ潤滑剤としての燃料を漏洩することなく、エンジン潤滑系7の潤滑を行っている。また、噴射系燃料流通経路に配設される噴射系部品、すなわち、コモンレール12a、噴射ポンプ15、インジェクタ12b及びこれらの部品間の接続パイプも領域19内に収容されている。さらに、供給ポンプ6も領域19内に収容されている。
【0023】
以上のように構成されるエンジン1では、供給ポンプ6により燃料タンク2からオイルパン3内に供給された燃料が、潤滑ポンプ10によりエンジン潤滑系7に供給され、噴射ポンプ15により噴射系12に供給される。その後、潤滑系リターン燃料は潤滑系燃料リターン経路11を通じてオイルパン3内へ戻され、噴射系リターン燃料は、噴射系燃料リターン経路16を通じて燃料タンク2内へ戻される。このような燃料の流通過程のなかで、各構成部品において、又は、構成部品間の接続パイプ、さらにはその接続箇所において、故障等の原因によって燃料が漏洩しても、領域19の外部へ漏れ出るおそれは少ない。また、漏洩した燃料は潤滑剤としてエンジン潤滑系7の潤滑に利用されることとなり、エンジン1の動作自体に不具合を生じるおそれは少ない。噴射系部品からの燃料漏洩により、オイルパン3内の燃料の量が多くなることが考えられるが、オイルパン3にはオイルレベルセンサ17が装着されており、このオイルパンレベルセンサ17の測定データに基づいてECU18がオイルパン3内の油量制御を行っていることから、オイルパン3内の燃料量が所定量以上に増量されることは回避される。
【0024】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例の軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンの概略構成を示した説明図である。
【図2】従来の燃料潤滑式ディーゼルエンジンの主として燃料供給部分の概略構成を示した説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 エンジン
2 燃料タンク
3 オイルパン
4 燃料供給経路
5 セジメンタ
6 供給ポンプ
7 エンジン潤滑系
8 潤滑系燃料供給経路
9、14 フィルタ
10 潤滑ポンプ
11 潤滑系燃料リターン経路
12 噴射系
12a コモンレール
12b インジェクタ
13 噴射系燃料供給経路
15 噴射ポンプ
16 噴射系燃料リターン経路
17 オイルレベルセンサ
18 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽油等の燃料を潤滑剤としてエンジン潤滑系に流通させる潤滑系燃料流通経路と、
前記燃料を噴射系へ流通させる噴射系燃料流通経路と、
を備えた軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンにおいて、
前記噴射系燃料流通経路に配設される噴射系部品をエンジンヘッド内へ収容したことを特徴とする軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジン。
【請求項2】
請求項1記載の軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンにおいて、
前記エンジンヘッド内へ収容した噴射系部品には、少なくともコモンレール、噴射ポンプ、インジェクタ及びこれらの部品間の接続パイプを含むことを特徴とする軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジン。
【請求項3】
請求項1又は2記載の軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジンにおいて、
供給ポンプにより燃料タンクからオイルタンクへ燃料を供給する燃料供給経路を備え、前記供給ポンプをエンジンヘッド内へ収容したことを特徴とする軽油等燃料潤滑ディーゼルエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−40167(P2007−40167A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224766(P2005−224766)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】