説明

輸送用積層チューブおよびその製造方法

【課題】
ガスバリア性に優れ、かつ柔軟性等の熱可塑性エラストマーの機械特性を保持した輸送用積層チューブとその製造方法を提供する。
【解決手段】
粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含むガスバリア層が、熱可塑性エラストマーからなるチューブの内面および/または外面に積層されてなる輸送用積層チューブおよび該輸送用積層チューブの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は輸送用積層チューブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、加硫ゴムとしての性質を有しながら熱可塑性を併せ持ち、引張り強度、耐候性及び柔軟性などの特性に優れ、更にリサイクルが容易なことから、家電部品、ドア・インパネ等の表皮材やウェザーストリップ類のような自動車部品、ガスケット等の建築部品、ボールペンのグリップなど雑貨類などに使用されている。
【0003】
しかしながら熱可塑性エラストマーは、例えばガス輸送用チューブとして用いるためにはガスバリア性が不十分であることが多かった。また液体を輸送するためのチューブとして用いる場合にも、酸化されやすい液体の輸送には使用できないことがあった。
【0004】
かかる問題を解決する方法としては、例えば前記熱可塑性エラストマーの表面をハロゲン処理して変性ナイロンやポリ塩化ビニリデンとポリウレタンのブレンド物などの溶液を塗布してガスバリア性を向上させる方法(特許文献1参照)や、合成樹脂からなるフィルムと長尺状の熱可塑性エラストマー成形体より構成されるインク供給チューブ表面にアルミ箔などを貼る方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−127205号公報
【特許文献2】特開2003−320680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら前記したいずれの方法で得られる輸送用チューブも、そのガスバリア性と柔軟性において必ずしも満足できる性能を有するものではなかった。
【0007】
本発明はガスバリア性に優れ、かつ柔軟性等の熱可塑性エラストマーの機械特性を保持した輸送用積層チューブとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含むガスバリア層が、熱可塑性エラストマーからなるチューブの内面および/または外面に積層されてなる輸送用積層チューブである。
また本発明の他の態様は、熱可塑性エラストマーからなるチューブの外面および/または内面に、前処理液を塗工した後乾燥して前処理層を形成した後、前記前処理層上にガスバリア層を積層する前記輸送用積層チューブの製造方法である。
また本発明の他の態様は、熱可塑性エラストマーからなるチューブを長さ方向に延伸しながらあるいは延伸した後、ガスバリア層を積層する前記輸送用積層チューブの製造方法である。
また本発明の他の態様は、熱可塑性エラストマーからなるチューブに、表面が鏡面であるロールを圧してロール表面を転写させた後、ガスバリア層を積層する前記輸送用積層チューブの製造方法である。
また本発明の他の態様は、粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む塗工液に、熱可塑性エラストマーからなるチューブを浸漬した後乾燥することにより、前記チューブの少なくとも外面にガスバリア層を積層する前記輸送用積層チューブの製造方法である。
また本発明の他の態様は、粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む塗工液を、熱可塑性エラストマーからなるチューブ内が充塞されるように通した後乾燥することにより、前記チューブの内面にガスバリア層を積層する前記輸送用積層チューブの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の輸送用チューブは、ガスバリア性に優れ、かつ柔軟性等の熱可塑性エラストマーの機械特性を保持した輸送用積層チューブである。また本発明の輸送用積層チューブの製造方法により、ガスバリア性に優れ、かつ柔軟性等の熱可塑性エラストマーの機械特性を保持した輸送用積層チューブを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0011】
本発明における輸送用積層チューブとは、液体や気体を輸送するための管状成形体(図1参照)あるいは管状空間を有する成形体である。管状空間を有する成形体としては、図2に示すような管状成形体の集合体や、特開2003−320680号に記載されたような、長尺状の熱可塑性エラストマー部材と、該熱可塑性エラストマー部材の長手方向に沿って当該熱可塑性エラストマー部材に対して気密状態に接合されたフィルム部材とにより構成され、前記熱可塑性エラストマー部材とフィルム部材とにより形成される空間部を液体および/または気体供給路とした、液体および/または気体供給チューブが例示される。液体や気体を輸送するための管あるいは管状空間の断面の形状に制限はないが、円形や三角形、四角形のものなどが好ましく用いられる。
【0012】
本発明のチューブを構成する熱可塑性エラストマーとしては公知の熱可塑性エラストマーを使用することができ、スチレン系、オレフィン系、エステル系、アミド系、塩化ビニル系など熱可塑性エラストマーが例示される。
チューブを製造しやすいことや、得られるチューブの耐水性、耐溶剤性の観点から、オレフィン系あるいはスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。熱可塑性エラストマーの製造方法も特に限定されるものではなく、特開平1−103639号公報や特開昭63−48352号公報などに開示された公知の方法で製造することができる。
【0013】
本発明の輸送用積層チューブは、前記した熱可塑性エラストマーからなるチューブの内面および/または外面にガスバリア層が積層されてなる。ガスバリア層は単層であってもよく、多層であってもよい。全ガスバリア層の合計厚みは、所望のガスバリア性能と柔軟性の観点から適宜設定されるが、通常0.01〜10μmであり、好ましくは0.1μm以上である。
【0014】
本発明におけるガスバリア層は、粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む層である。本発明における高水素結合性樹脂とは、樹脂中の水素結合性基またはイオン性基の重量百分率が20%〜60%の樹脂であり、水素結合性基またはイオン性基の重量百分率が30%〜50%の高水素結合性樹脂を用いることが好ましい。水素結合性基としては水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基などが挙げられ、イオン性基としてはカルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基などが挙げられる。
高水素結合性樹脂の具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)やPVAの変性体、多糖類、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)やEVOHの変性体、ポリアクリル酸やポリアクリル酸エステル類、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンおよびその4級アンモニウム塩、ポリビニルチオール、ポリグリセリンが挙げられる。
【0015】
これらの高水素結合性樹脂の中でも、PVAやPVAの変性体、多糖類、EVOHやEVOHの変性体を用いることが好ましく、とりわけPVAが最も好ましく用いられる。バリア層を構成する高水素結合性樹脂としては一種類のみを用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。また本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、バリア層が高水素結合性樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。このような高水素結合樹脂以外の樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0016】
本発明のガスバリア層に含まれる無機層状化合物としては、特開平7−247374号公報に記載された各種化合物、例えばグラファイト、リン酸塩系誘導体型化合物(リン酸ジルコニウム系化合物)、カルコゲン化物、粘土系鉱物、ハイドロタルサイト類化合物などが挙げられ、これらの中でも粘土系鉱物が好ましい。
【0017】
上記粘土系鉱物の中でもスメクタイト族、バーミキュライト族およびマイカ族の粘土系鉱物が好ましく、スメクタイト族が特に好ましい。スメクタイト族の好ましい粘土鉱物としては、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、これらの粘土系鉱物を有機物で処理したもの(以下、有機修飾粘土鉱物と称する場合がある)などが挙げられる。
【0018】
本発明におけるガスバリア層は、通常前記した高水素結合性樹脂、粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および分散媒からなる塗工液を塗工した後乾燥することによって形成される。ガスバリア性の観点から、無機層状化合物は分散媒中で膨潤しへき開するものが好ましい。具体的には、下記の膨潤性試験による膨潤値が5以上のものが好ましく、膨潤値が20以上のものがより好ましい。また、下記の劈開性試験による劈開値が5以上のものが好ましく、劈開値が20以上のものがより好ましい。
【0019】
〔膨潤性試験〕
100mlメスシリンダーに溶媒100mlを入れ、これに無機層状化合物2gを徐々に加える。23℃にて24時間静置後、上記メスシリンダー内における無機層状化合物分散層と上澄みとの界面の目盛から無機層状化合物分散層の体積(ml)を読む。この数値(膨潤値)が大きい程、膨潤性が高いことを示す。
【0020】
〔劈開性試験〕
無機層状化合物30gを溶媒1,500ml中に徐々に加え、分散機(浅田鉄工株式会社製、デスパMH−L、羽根径52mm、回転数3,100rpm、容器容量3L、底面−羽根間の距離28mm)にて、周速8.5m/分、23℃で90分間分散させた後、この分散液100mlをメスシリンダーに採取する。
60分静置後、上記メスシリンダー内における無機層状化合物分散層と上澄みとの界面の目盛から無機層状化合物分散層の体積(ml)を読む。この数値(劈開値)が大きい程、劈開性が高いことを示す。
【0021】
無機層状化合物を膨潤・劈開させる分散媒としては、無機層状化合物が天然の膨潤性粘土鉱物の場合には、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、とりわけ水、アルコール、水−アルコール混合物が好ましい。
【0022】
また、無機層状化合物が有機修飾粘土鉱物の場合の分散媒としては、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、脂肪族炭化水素類(n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタンなど)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレンなど)、酢酸エチル、メタクリル酸メチル(MMA)、フタル酸ジオクチル(DOP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、シリコンオイルなどが挙げられる。
【0023】
ガスバリア性の観点から本発明における無機層状化合物は、平均粒径が5μm以下であり、アスペクト比が200〜3000の範囲内のものを用いる。
本発明における無機層状化合物のアスペクト比(Z)とは、式:Z=L/aを用いて求められる値であり、平均粒径とは、回折/散乱法で求めた分散媒中の粒径(体積基準のメジアン径)Lである。
aは、粉末X線回析法(「機器分析の手引き(a)」(1985年、化学同人社発行、塩川二朗監修)69頁参照)により求められる無機層状化合物の単位厚さ、即ち、無機層状化合物の単位結晶層の厚みを示す。
【0024】
無機層状化合物の平均粒径とは、分散媒中の回折/散乱法による公知の方法で求めた粒径である。すなわち、無機層状化合物の分散液に光を通過させたときに得られる回折/散乱パターンから、ミー散乱理論等により、上記回折/散乱パターンに最も矛盾のない粒度分布を計算することにより求めることができる。無機層状化合物の平均粒径を回折/散乱法で求める際に用いた分散媒と同種の分散媒で無機層状化合物を充分に膨潤し劈開させた後に樹脂等と混合した場合には、樹脂中の膨潤し劈開した無機層状化合物の粒径は、分散媒中で測定した無機層状化合物の粒径とほぼ等しいと見なすことができる。
【0025】
本発明のガスバリア層における無機層状化合物の含有量は、無機層状化合物と高水素結合性樹脂の合計重量を100%としたときに3〜70%であることが好ましい。無機層状化合物の含有量が低すぎるとガスバリア性が不十分となる傾向があり、多すぎると可撓性に劣ることがある。
【0026】
本発明の輸送用積層チューブは、前記したようなガスバリア層を外面または内面のいずれか一方に、あるいは外面および内面の両方に有していてもよい。ここでチューブの外面、あるいは内面とは、チューブを構成する熱可塑性エラストマー層よりも外側、あるいは内側であればよく、必ずしも輸送用積層チューブの最外層、あるいは最内層を意味するものではない。また本発明の輸送用積層チューブは、例えば熱可塑性エラストマー層より外側に無機層状化合物の含有量の異なるガスバリア層が2層以上積層されていてもよい。熱可塑性エラストマー層より内側にガスバリア層を有する場合も同様である。ガスバリア層は、チューブのバリア性が求められる部分にのみ積層されていてもよいが、チューブの外面および/または内面の全面に積層されていることが好ましい。
【0027】
本発明の輸送用積層チューブの製造方法は特に限定されるものではなく、例えば熱可塑性エラストマーからなるチューブの外面および/または内面に、前記した無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む塗工液を塗工した後乾燥することによってガスバリア層を積層することにより得ることができる。塗工液は通常、無機層状化合物が膨潤・へき開することができ、高水素結合性樹脂が分散または溶解可能な分散媒を含む。
熱可塑性エラストマーからなるチューブとしては、公知の押出し成形や射出成形により製造されるチューブを用いることができる。
【0028】
ガスバリア層を形成するために用いられる粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む塗工液の製造方法に制限はなく、特開平6−93133号公報や特開平9−241386号公報に記載された方法により製造することができる。また塗工液には、本発明の効果を損なわない程度に紫外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤、界面活性剤などの種々の添加剤が含まれていてもよい。前記界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0029】
熱可塑性エラストマーからなるチューブに塗工液を塗工する方法は特に限定されるものではなく、チューブを塗工液に浸漬する方法、塗工液をスプレーする方法や刷毛で塗る方法、ロールコーター、スリットコーター、バーコーター等公知のコーティング方法が挙げられる。塗工液を塗工した後乾燥することにより分散媒が除去され、ガスバリア層が形成される。
【0030】
ガスバリア層が外面に積層された輸送用積層チューブを製造する方法としては、図3に例示するように、熱可塑性エラストマーからなるチューブを押出し成形した後連続してガスバリア層を積層する方法が好ましい。図3に示す方法とは、チューブ用ダイスが付設された押出機を用い、前記押出機において溶融混練した熱可塑性エラストマーをチューブ用ダイスからチューブ状に押出し、該チューブ状成形体を一旦冷却した後乾燥し、引き続き塗工液中に浸漬してチューブ外面に塗工液を塗工した後、乾燥工程を経て巻き取る、あるいは所望の長さに切断する方法である。チューブに塗工液を塗工した後、柔軟なブレードや刷毛等の刷毛状治具を用いてチューブ表面のチューブ長さ方向にせん断応力を加えることが好ましい。これによりチューブ表面の塗工液中の無機層状化合物を配向させることができ、よりガスバリア性に優れる輸送用積層チューブの製造が可能となる。
【0031】
ガスバリア層をチューブ内面に積層する方法としては、熱可塑性エラストマーからなるチューブの一方向から、チューブ内が充塞されるように塗工液を通した後、空気などのガスでチューブ内を乾燥させる方法が挙げられる。チューブの内面および外面にガスバリア層が積層された輸送用積層チューブを製造する場合には、前記した方法を組み合わせることにより製造することができる。
熱可塑性エラストマーからなるチューブにガスバリア層を積層する場合には、複数回塗工液を塗布してもよい。
【0032】
熱可塑性エラストマーからなるチューブに、粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物と高水素結合性樹脂を含む塗工液を塗工する前に、チューブ表面とガスバリア層との密着性(接着性)を向上させる目的で、予め塗工液を塗工するチューブ表面にコロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、オゾン処理、電子線処理等の表面処理を施しておいてもよい。またチューブ表面に、前処理液を塗工した後乾燥して前処理層を形成した後、前記前処理層上にガスバリア層を積層してもよい。前処理液としては、ポリエチレンイミン系、アルキルチタネート系、ポリブタジエン系、ウレタン系、アイオノマー系等のアンカーコート剤等が挙げられ、耐水性の面より、イソシアネート化合物と活性水素化合物とから調製されたウレタン系がより好ましく用いられる。
る。また無機層状化合物濃度の低い塗工液を用いてガスバリア層を形成した後、無機層状化合物濃度の高い塗工液を塗工することにより、きわめてガスバリア性に優れる輸送用積層チューブを得ることができる。
【0033】
熱可塑性エラストマーからなるチューブを長さ方向に延伸しながら、あるいは延伸した後にガスバリア層を積層することにより、均一な厚みのガスバリア層を積層することができる。前処理液を塗工する際にも同様の方法が効果的である。また熱可塑性エラストマーからなるチューブに、表面が鏡面であるロールを圧してロール表面を転写した後ガスバリア層を積層する方法も、均一にガスバリア層を積層する方法として有効である。
【0034】
熱可塑性エラストマーからなるチューブの外面および/または内面にガスバリア層を積層する他の方法としては、熱可塑性エラストマーからなるチューブに、粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含むガスバリア層が積層されてなるフィルムを積層する方法が挙げられる。ガスバリア層が積層されてなるフィルムが熱収縮性フィルムである場合は、チューブ状の熱収縮性フィルムに熱可塑性エラストマーからなるチューブを通した後加熱することにより、本発明のガスバリア層を有する輸送用積層チューブを得ることができる。
【0035】
本発明の輸送用積層チューブは、ガスバリア層を保護するために保護層が設けられていてもよい。かかる保護層は、ガスバリア層との密着性があり、ある程度の機械的強度を有するものであれば特に制限はない。例えばガスバリア層上に前記したようなアンカーコート剤等の樹脂溶液を塗工してもよいし、フィルム状のものを貼合したり、熱収縮性のあるチューブ状成形体にガスバリア層を積層したチューブを通した後熱で収縮させて積層してもよい。
【0036】
本発明の輸送用積層チューブは、柔軟性等の熱可塑性エラストマーの機械特性を保持し、かつガスバリア性に極めて優れるため、輸送される気体や液体が外部環境から悪影響を受けることを防止することができ、また輸送される気体や液体が外部へ蒸散することも防止することができる。したがって、臭気のあるガスや液体の輸送、酸化されやすい飲料原体や香水原体、インクなどの輸送など、さまざまな気体や液体の輸送用に用いることができる。
【実施例】
【0037】
[塗工液の製造方法]
合成マイカ(テトラシリリックマイカ(Na−Ts);トピー工業(株)製)をイオン交換水(0.7μS/cm以下)に0.65wt%となるように分散させ、これを無機層状化合物分散液(A液)とする。当該合成マイカ(NA−TS)の粒径は977nm、粉末X線回折から得られるa値は0.9557nmであり、アスペクト比Zは1043である。また、ポリビニルアルコール(PVA210;(株)クラレ製,ケン化度;88.5%,重合度1000)をイオン交換水(0.7μS/cm以下)に0.325wt%となるように溶解させこれを樹脂溶液(B液)とする。A液とB液とをそれぞれの固形成分比(体積比)が無機層状化合物/樹脂=3/7となるように混合し、これを塗工液とした。なお、無機層状化合物の粒径およびアスペクト比は以下の方法により求めた。
[粒径測定]
超微粒子粒度分析計(BI−90,ブルックヘブン社製)、温度25℃、水溶媒の条件で測定した。動的光散乱法による光子相関法から求めた中心径を粒径Lとした。
[アスペクト比計算]
X線回折装置(XD−5A、(株)島津製作所製)を用い、無機層状化合物そのものについて粉末法による回折測定を行った。これにより無機層状化合物の単位厚さaを求め、上述の方法で求めた粒径Lを用いて、アスペクト比Zを、Z=L/aの式により算出した。なお塗工液を乾燥したものについてもX線回折測定を行ない、無機層状化合物の面間隔が広がっていることを確認した。
【0038】
[酸素透過度の測定]
酸素透過度測定装置(OX−TRAN10/50A;MOCON社製)を用いて、温度23℃、湿度60%の条件下で測定した。
【0039】
[比較例1]
市販のオレフィン系熱可塑性エラストマー (住友TPE WT485)を200℃に熱した熱プレスにより7MPaで熱成形し1mm厚みのシート(TPO−1)を得た。TPO−1の酸素透過度を測定したところ、200cc/m2・atm・day以上であった。
【0040】
[実施例1]
TPO−1の片面をコロナ処理して表面自由エネルギーを45dyne/cm2とし、塗工液を刷毛で一方向に塗工した後、乾燥してガスバリア層が積層されたTPO−1−Oを得た。該TPO−1−Oの酸素透過度を測定したところ、12cc/m2・atm・dayであった
【0041】
[実施例2]
実施例1で得たTPO−1−Oのガスバリア層上に、実施例1と同様の方法で再度塗工液を刷毛で一方向に塗工して乾燥させ、TPO−1−Tを得た。塗工液を塗る際には、1度目と2度目の刷毛の方向が同じになるように塗工した。
【0042】
[実施例3]
TPO−1のシート両面に実施例1と同様の方法で塗工液を塗工し、乾燥させてTPO−1−Wを得た。
【0043】
[比較例2]
東洋精機製コニカル押出機に環状ダイスを付設し、設定温度200℃で、熱可塑性エラストマー (住友化学(株)製 住友TPE WT485)を押出し、外径20mm、内径19mmの管状成形体TPO−C−1を得た。これを500mmの長さに切断し、一端を200℃のヒートシーラーで封止した後、水を入れ、もう一端も封止して重量を測定した。23℃、湿度55%の恒温恒湿室に2ヵ月保管した後の重量変化を調べる。
【0044】
[実施例4]
比較例2で得た管状成形体TPO−C−1の外面にフレーム処理を行い、表面自由エネルギーを45dyne/cm2とし、実施例1と同様にしてフレーム処理した管状成形体外面にガスバリア層を積層した。これを500mmの長さに切断し、一端を200℃のヒートシーラーで封止した後、水を入れ、もう一端も封止して重量を測定した。23℃、湿度55%の恒温恒湿室に2ヵ月保管した後の重量変化を調べる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の輸送用積層チューブの斜視図である。 (a) 断面が円形である管状成形体の斜視図 (b) 断面が三角形である管状成形体の斜視図 (c) 断面が四角形である管状成形体の斜視図
【図2】本発明の輸送用積層チューブの他の態様の斜視図である。 (a) 断面が円形である管状成形体の集合体の斜視図 (b) 断面が三角形である管状成形体の集合体の斜視図 (c) 断面が四角形である管状成形体の集合体の斜視図
【図3】本発明の輸送用積層チューブの製造方法の概略図である。
【符号の説明】
【0046】
1: 押出機
2: チューブ用ダイス
3: 冷却水槽
4: 乾燥設備
5: 表面処理機
6: 塗工液槽
7: 刷毛
8: 乾燥設備
9: 裁断機
A: 熱可塑性エラストマーからなるチューブ
B: 塗工液
C: 輸送用積層チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含むガスバリア層が、熱可塑性エラストマーからなるチューブの内面および/または外面に積層されてなる輸送用積層チューブ。
【請求項2】
ガスバリア層における無機層状化合物と高水素結合性樹脂の合計重量を100%としたときの無機層状化合物の含有量が3〜70%である請求項1に記載の輸送用積層チューブ。
【請求項3】
高水素結合性樹脂がポリビニルアルコールである請求項1または2に記載の輸送用積層チューブ。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーがオレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載の輸送用積層チューブ。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーがスチレン系熱可塑性エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載の輸送用積層チューブ。
【請求項6】
請求項1に記載の輸送用積層チューブの製造方法であって、熱可塑性エラストマーからなるチューブの外面および/または内面に、前処理液を塗工した後乾燥して前処理層を形成した後、前記前処理層上にガスバリア層を積層する輸送用積層チューブの製造方法。
【請求項7】
熱可塑性エラストマーからなるチューブを長さ方向に延伸しながらあるいは延伸した後、ガスバリア層を積層する請求項1に記載の輸送用積層チューブの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性エラストマーからなるチューブに、表面が鏡面であるロールを圧してロール表面を転写させた後、ガスバリア層を積層する請求項1に記載の輸送用積層チューブの製造方法。
【請求項9】
粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む塗工液に、熱可塑性エラストマーからなるチューブを浸漬した後乾燥することにより、前記チューブの少なくとも外面にガスバリア層を積層する請求項1に記載の輸送用積層チューブの製造方法。
【請求項10】
粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む塗工液を、熱可塑性エラストマーからなるチューブ内が充塞されるように通した後乾燥することにより、前記チューブの内面にガスバリア層を積層する請求項1に記載の輸送用積層チューブの製造方法。
【請求項11】
粒径が5μm以下であって、アスペクト比が200〜3000である無機層状化合物および高水素結合性樹脂を含む塗工液に、熱可塑性エラストマーからなるチューブを浸漬した後、刷毛状治具でチューブ表面のチューブ長さ方向にせん断変形を加え、次いで乾燥することにより、前記チューブの少なくとも外面にガスバリア層を積層する請求項9に記載の輸送用積層チューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−175631(P2006−175631A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368950(P2004−368950)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】