説明

近接センサ

【課題】感度を増し、切換距離を増加することができ、更に費用を低減して製造することのできる誘導形近接センサを提供する。
【解決手段】第1送信コイル及び第2送信コイル並びに少なくとも1つの受信コイルと、前記第1及び第2送信コイルに接続された励起装置と、一方で少なくとも1つの送信コイル及び/又は前記励起装置に、他方で前記少なくとも1つの受信コイルに接続され、且つ、一方で少なくとも1つの送信コイル及び/又は前記励起装置の信号と、他方で前記少なくとも1つの受信コイルの信号との間の位相シフトに応じた評価信号を発生させるように設計された評価装置とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接センサ、特に誘導形近接センサに関する。
【背景技術】
【0002】
このような誘導形近接センサは、目標と呼ばれる物体、特に金属物体又は良好な導電性の物体を認識するように働く。目標は、近接センサの作用領域へと案内される。従来の近接センサは発振器を含み、発振器は、発振器が振動している時に磁場を発生させるコイルを含む。磁場へと案内される被検目標内に渦電流が誘起され、渦電流は磁場に向けられる逆磁場を発生させ、発振器からのエネルギーを後退させる。既知の近接センサ内にある発振器は、このエネルギー後退により発振器の振動が特定の目標距離において消失するように寸法されている。こうして、目標を検出するためにこの手順が検出される。
【0003】
このような近接センサは、概して、特定の用途にとって切換距離が過度に短い。切換距離とは、センサによる目標の検出がなお確実に可能である、近接センサからの目標の最大距離を示す。
【0004】
交番磁界を発生させるための送信コイル、並びに交番磁界により電圧が誘起される受信コイルを有する誘導形近接センサが、DE 38 39 386 A1から公知である。この点において、目標を検出するために目標が磁場へと案内されることにより生じる、受信コイル内で誘起される電圧の変化と、この電圧の変化から生じる磁場の変化とが感知されることが実現される。
【0005】
作用方向において互いに前後に配置されている2つの送信コイルと、少なくとも1つの受信コイルとを有し、2つの送信コイルに電流が反対向きに供給される誘導形近接センサが、DE 197 774 C2から公知である。
【0006】
金属体を捜し出すための第1及び第2送信コイルと受信コイルとを有する検出器がDE 101 22 741 A1から公知であり、2つの送信コイル及びこれらの送信コイルに送られる送信電流は、2つの送信コイルにより受信コイル内で励起される流れが互いを補償するように設計される。
【0007】
容量場又は誘導場の通過時間を測定するための機器がWO 2007/012502 A1から公知であり、磁場変化を発生させる電極又はコイルの形態である少なくとも2つの要素からのクロック信号が受信器に供給される。この機器では、複雑な電子調節システムが必要である。
【0008】
先行技術により公知である概念は、許容される切換距離及び感度が限定的なものでしかないという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】DE 38 39 386 A1
【特許文献2】DE 197 774 C2
【特許文献3】DE 101 22 741 A1
【特許文献4】WO 2007/012502 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の基礎を成す目的は、先行技術に対して感度を増し、切換距離を増加することができ、更に費用を低減して製造することのできる誘導形近接センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を満足するために、請求項1の特徴を有する誘導形近接センサが実現される。
【0012】
本発明に係る前記誘導形近接センサは、第1送信コイル及び第2送信コイル並びに少なくとも1つの受信コイルと、前記第1及び第2送信コイルに接続された励起装置と、一方で少なくとも1つの送信コイル及び/又は前記励起装置に、他方で前記少なくとも1つの受信コイルに接続され、且つ、一方で少なくとも1つの送信コイル及び/又は前記励起装置の信号と、他方で前記少なくとも1つの受信コイルの信号との間の位相シフトに応じた評価信号を発生させるように設計された評価装置とを有する。
【0013】
本発明に係る前記誘導形近接センサのこの設計に基づいて、切換距離を特に大きくし、感度を高くすることができる。
【0014】
本発明に係る前記近接センサの働きを考察する前に、まずその構成要素がより詳細に説明されるべきである。
【0015】
本発明に係る前記誘導形近接センサは、いずれも励起装置に電気的に接続され且つこの励起装置により励起される第1送信コイル及び第2送信コイルを有する。
【0016】
本発明の枠組みの中で、前記励起装置は、1つのユニットから成ることができ、又は、互いに電気的に接続され空間的に離れている複数の構成要素を有することもできる。前記励起装置は更に、前記第1及び第2送信コイルを励起する単一の電圧源又は電流源を有することができ、又は、前記第1及び前記第2送信コイルをそれぞれ励起する別個の電圧源又は電流源を有することができ、複数の電圧源又は電流源がある場合、前記電圧源又は電流源の同期も適切な電子的結合を介して保証することができる。それ故に、前記励起装置が前記第1及び第2送信コイルに及ぼす前記励起信号は、双方の送信コイルで同一であってもよく、又は双方の送信コイルで異なっていてもよい。励起信号が双方の送信コイルで異なる場合、これらの励起信号は特に、予設定済み位相シフトを有するように同期させておくことができる。
以下で電流源に言及されている場合、一般に、この電流源の代わりに電圧源を使用することもできる。
【0017】
前記第1及び第2送信コイルは各々、前記少なくとも1つの受信コイルに誘導結合されている。これによって、前記第1及び第2送信コイルの励起により生成される時間的に変化する磁場が、前記受信コイル内で電圧を誘起する。
【0018】
本発明によれば、一方で前記送信コイルのうちの少なくとも1つに及び/又は前記励起装置に、他方で前記少なくとも1つの受信コイルに電気的に接続された評価装置が更に設けられ、この評価装置は、前記送信コイルのうちの少なくとも一方及び/又は前記励起装置の信号、並びに前記少なくとも1つの受信コイルの信号を受信し且つ評価する。この信号評価により、やはりより詳細に説明されるべきやり方で、一方で少なくとも1つの送信コイル及び/又は前記励起装置の信号と、他方で前記少なくとも1つの受信コイルの信号との間の位相シフトに依存し、且つ、前記近接センサへの目標の接近についての情報、又は前記近接センサからの前記目標の距離についての情報をそれぞれ包含する評価信号が発生する。
【0019】
本発明によれば、目標が前記近接センサの検出領域へと案内されると、一方で前記受信コイル内で誘起される前記電圧信号又は電流信号(二次信号)と、他方で前記励起装置の信号及び/又は送信コイルの信号(一次信号)との間の位相シフトが非常に大きく変化するので、この位相シフトは目標の存在にとって、及び/又は、距離測定が所望される場合には前記目標距離にとって極めて高感度な目安となり、従って大きい切換距離が許容される、ということが既に認識されている。前記近接センサの設計によっては、例えば180°の相転移を特定の目標距離にて生じさせることができ、この目標距離を極めて大きいものとすることができる。このような位相シフト又は相転移を前記近接センサにより検出することができ、前記近接センサは相応に大きい切換距離を有する。
【0020】
本発明の有利な実施形態が、従属請求項、明細書及び図面において説明される。
【0021】
好ましくは、前記2つの送信コイルのうちの一方が、前記近接センサの作用方向において前記近接センサから離間された目標に、他方の送信コイルよりも強い力で誘導結合されるよう、前記送信コイルが設計され且つ配置される。本発明の意味において、異なる強い力で前記目標に誘導結合するというのは、前記2つの送信コイルが前記目標と共にそれぞれ形成する逆誘導率が異なることを意味する。この点において、特に前記目標と前記2つの送信コイルとの間の誘導結合係数も異なっていてもよい。この設計により、目標の存在又は前記距離に応じて前記位相シフトが特に著しく変化することを保証することができる。
【0022】
更なる有利な実施形態によれば、目標が前記近接センサの作用方向において前記近接センサから予設定済み有限切換距離に位置するときに、前記近接センサの送信関数がゼロ点を有するよう、前記2つの送信コイルが設計され且つ配置され且つ励起されることができると共に、前記受信コイルが設計され且つ配置されることができる。この点において、前記近接センサの前記送信関数は、前記近接センサに接近する目標に応じた、前記受信コイルの信号と送信コイルの信号との間の関係を表す。
換言すれば、このことは、予測される被検目標が前記近接センサの作用方向において前記近接センサから予設定済み切換距離に位置するとき、前記送信コイル及び前記予測される被検目標により前記受信コイル内で誘起される電流信号又は送信信号が無効になるよう、前記2つの送信コイルが設計され且つ配置され且つ励起されると共に、前記受信コイルが設計され且つ配置されることを意味する。この目的で、前記受信コイル、前記送信コイル、及び前記目標の間の相互の逆誘導率と誘導結合係数は、前記送信コイルの励起に応じて適切に適合されなければならない。このことは、図の説明の枠組みの中でより詳細に説明される。
【0023】
この点において、前記受信コイルの前記信号は例えば、前記受信コイルに印加される前記誘起電流信号又は誘起電圧信号であり、前記送信コイルの前記信号は、例えば前記送信コイルに印加される前記電流信号又は電圧信号である。複数の受信コイルを使用している際、前記受信コイルの前記信号は、異なる受信コイルの複数の電流信号又は電圧信号から導出又は合成された信号とすることができる。例えば複数の受信コイルが直列接続されていれば、前記電圧は前記直列接続全体の電圧となる。同様に、送信コイルの前記信号は、複数の送信コイルの信号からの合成信号とすることができ、電圧は例えば一連の送信コイル全体の電圧である。
【0024】
前記送信関数の上述のゼロ点が予設定済み切換距離にあることは、前記位相シフトが被検目標の存在及び前記距離に特に強く依存することにより、前記切換距離内に前記近接センサの環境領域が配置されるという利点を有する。このようにして、規定された切換距離のところに位置する目標の存在を特に確実に検出することができる。同様に、前記切換距離の領域内に位置する目標の前記距離を特に正確に検出することができる。従って、前記予設定済み切換距離の領域では、前記近接センサの感度が特に高いことを保証することができる。
【0025】
この点において、好ましくは前記ゼロ点に対応する前記予設定済み切換距離は、被検目標が予測される、作用方向において前記近接センサからの最大距離に対応するように、又はそれより僅かに大きくなるように選択することができ、対象の領域では特に高い感度が保証される。それ故に、前記予設定済み切換距離は、例えば0mm〜100mmの間の範囲の値、好ましくは0.5mm〜20mmの間の範囲の値、特に好ましくは1mm〜10mmの間の範囲の値、最も好ましくは2mm〜5mmの間の範囲の値を採用することができる。前記予設定済み切換距離は、前記送信コイル又は前記受信コイルのうちの1つの多様な直径に対応するように、及び、例えば前記送信コイル又は前記受信コイルのうちの1つの直径の0〜10倍の範囲、好ましくは0.1〜8倍の範囲、特に好ましくは0.5〜6倍の範囲、最も好ましくは2〜5倍の範囲にあるように選択することもできる。前記送信関数がそれに適合されている、前記予測される目標は、例えば数ミリメートルから数センチメートルまでの程度を有する金属ブロック等、部分的又は全体的に金属体であるものとすることができる。
【0026】
前記評価ユニットにより発生し、特定の距離のところでの目標の存在についての情報を包含する前記評価信号は、存在又は前記距離に応じた関数を制御するために使用することができる。好ましくは、前記評価装置は、前記位相シフト又はこの位相シフトに応じた前記評価信号が例えばゼロとすることのできる予設定済み閾値を超えると、前記評価信号に応じてスイッチを開閉するように設計される。このようにして、例えば目標として振る舞う製品の存在に応じた処理ステップは、自動化された製品処理手順において開始又は終了することができ、又は安全停止を実現することができる。同様に、前記評価信号を使用して目標が認識されると、特に前記センサからの前記目標の前記距離についての情報をも包含することのできるステータス信号を制御装置に送信することができる。この点において、前記評価信号は目標距離の目安として、アナログ又はデジタル形式で出力部にて実現することができる。
送信コイル又は前記励起装置の信号と前記受信コイルの信号との間の前記位相シフトに応じた前記評価信号は、双方の信号が別々に受信され、対応する評価回路により互いに合成されるという点において発生させることができる。この点において、例えば乗算器により双方の信号を乗算するか又はこれらの信号を混合し、特に、結果として生じる信号を、積分器を用いて前記信号の予設定済み継続期間数等、予設定済み時間周期で積分することが可能である。前記評価信号を発生させるために、高速デジタルカウンタを使用することもできる。
【0027】
上述の評価方法を用いて、前記位相シフトに少なくともほぼ比例する評価信号を発生させることができる。本発明の枠組みの中で、このことは一般的に好ましい。というのも、既に言及したような前記位相シフトが、目標の存在及び前記近接センサからの目標の前記距離に対する極めて高い感度の目安となるからである。
【0028】
更なる有利な実施形態は、前記励起装置が少なくとも1つの送信コイルを、周期信号で、好ましくはAC電圧信号で、特に好ましくは正弦波AC電圧信号で励起するように設計されることを実現する。これらの信号は、前記受信コイル内で電圧を誘起する送信コイルにより時間的に変化する磁場を発生させることに特に良く適している。この磁場の時間展開は、目標の前記距離に応じた励起信号に対する位相シフトを有する。この点において、前記励起装置は例えば、1つ以上のAC電流源、又は1つ以上の発振器、又は1つ以上のインバータを有することができる。
【0029】
この点において、好ましくは励起の周波数は、前記近接センサの幾何学形状、及び前記近接センサで使用される材料を考慮するように選択される。つまり、前記近接センサは、例えば前記コイルを収容するためのスリーブと、特に金属の前側キャップとを有することができる。この事例において励起の周波数は好ましくは非常に低く選択されるので、前記送信コイルにより発生する磁場が前記前側キャップに充分に侵入することが保証される。
【0030】
別法として、前記励起装置は少なくとも1つの送信コイルを疑似ランダム系列で励起するように同じく設計することができ、これによって前記近接センサの干渉に対する安全性が増す。
【0031】
前記励起装置が、前記第1送信コイル及び前記第2送信コイルを、同じ振幅、同じ信号形状であり、位相シフトが−5〜5°の間、特に0°である2つの励起信号で励起するように設計されると更に好適である。この目的で、前記励起装置は例えば、双方の送信コイルを同じ電流源で励起することができるが、特に双方の送信コイルは、並列接続させることができ、前記励起装置の接続部に接続させることができる。一方、同期した2つの異なる電流源を使用することもできる。
【0032】
前記励起装置は、前記第1送信コイルを第1励起信号で励起し、前記第2送信コイルを第2励起信号で励起するように設計することもでき、前記第1励起信号及び前記第2励起信号は、175〜185°の間の位相シフト、特に180°の位相シフトを有する。この目的で、前記励起装置は位相の異なる信号位置により信号を送出する2つの電流源を有することができる。
【0033】
既に上述したように、前記第1送信コイル及び前記第2送信コイルは、好ましくは、前記2つの送信コイルのうちの一方が、作用方向において接近している目標に、他方の送信コイルよりも強い力で誘導結合するように設計され且つ配置される。前記近接センサの作用方向というのは、目標の検出が意図される方向を示しており、例えば中に前記コイルが位置している円筒形又は平行六面体のスリーブの長手方向軸と同一とすることができる。作用方向において接近している目標との、このような異なる強い力での誘導結合は、例えば前記第1送信コイル、前記少なくとも1つの受信コイル、及び前記第2送信コイルが、前記近接センサの作用方向において互いに前後に配置されるという点で実現することができる。
【0034】
別法として、又は付加的に、作用方向において前記近接センサから離間された目標から前記送信コイルのうちの一方を磁気的に遮蔽し、前記目標から他方の送信コイルを磁気的に遮蔽せず、又は、より弱い力で遮蔽する磁気遮蔽物を設けることができる。前記遮蔽物は例えば、前記近接センサの作用方向に対して直交方向に延びていてもよい。
【0035】
この点において、目標が接近する際、前記受信コイル内で誘起される前記信号の位相シフトが特に顕著になることは有利である。
【0036】
前記第1送信コイル及び前記第2送信コイル、並びに前記少なくとも1つの受信コイルが、特に前記近接センサの作用方向に対して少なくとも略平行に延びる前記コイルの共通の軸と少なくとも略同軸に配置されていると特に好適である。これにより、前記第1及び第2送信コイル、並びに前記受信コイルの特に有利な誘導結合が達成され、このことにより特に、前記一次信号(励起信号)に対する前記二次信号(前記少なくとも1つの受信コイルの前記信号)の位相シフトが顕著になる。この別法として、前記受信コイル及び送信コイル、特に、前記近接センサの作用領域に位置する目標に、より強い力で誘導結合する前記送信コイルが一平面内に配置されることも有利とすることができる。
【0037】
前記少なくとも1つの受信コイルが、前記第1及び第2送信コイルから少なくともほぼ等しい距離だけ離間していると更に好適である。このような実施形態において、以下で記載するような前記第1及び第2送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧の相互無効を、例えば前記第1及び第2送信コイルの位相の異なる励起により、単純なやり方で行うことができる。
【0038】
好適な実施形態によれば、前記第1及び第2コイルの誘導率は互いに相違しておらず、又は、公差の枠組みの中で、好ましくは10%未満、特に好ましくは5%未満でしか相違しない。ここでこの公差は、例えば製造に起因し得るものである。前記第1及び第2送信コイルは少なくとも略同一の構成であり、特に同じ巻取り数、同じ抵抗率、及び同じ直径を有すると更に好適である。
【0039】
本発明の特に好適な実施形態は、前記第1送信コイル及び前記第2送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧が相互を少なくともほぼ無効にするように、前記第1及び第2送信コイルが前記少なくとも1つの受信コイルに対して寸法され配置され、更に前記第1及び第2送信コイルが前記励起装置により励起されることを実現している。このことは、換言すれば、上述のように、受信コイル信号(二次信号)と送信コイル信号(一次信号)との間の目標の存在の依存性における関係を表す前記近接センサの伝達関数が、目標の非存在時、即ち不在時にゼロ点を有することを意味する。
【0040】
この実施形態において、前記受信コイル内で誘起される前記電圧信号(二次信号)は、実際に目標により誘起される前記電圧によって専ら形成される。この電圧は、前記一次信号に対して位相シフトされており、通常はマイクロボルトの範囲内にある。対照的に、前記送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧は、通常はボルトの範囲内にある。前記送信コイルにより誘起される前記電圧の相互無効によって、目標により誘起される前記位相シフトされた比較的低い電圧信号が、前記送信コイルにより誘起される、位相シフトされない比較的高い電圧信号と重畳することが防止される。従って、この実施形態では、前記送信コイル内で位相シフトを検出することが促進される。これによって、特に、前記近接センサの感度を特別に高くすることができ、特に大きい切換距離が可能となる。
【0041】
直前に記載した実施形態において、前記受信コイル内で誘起される前記電圧信号(二次信号)は、その後、前記近接センサの作用領域内に目標がない場合、本来ゼロとなる。前記近接センサの作用領域内に目標がある場合は、前記受信コイル内で誘起され前記一次信号に対する位相シフトを有する二次信号により、そのことが可視となる。
【0042】
既に説明した前記第1及び第2送信コイルにより誘起される前記電圧の相互無効は例えば、上述したように、以下のようにして保証することができる。
・前記第1及び第2送信コイル並びに前記受信コイルが、作用方向において同軸に互いに前後に配置される。
・前記受信コイルが、前記送信コイルから等距離だけ離間されている。
・双方の送信コイルが、同一に構成され、
・同じ誘導率を有し、更に、
・励起信号を与える2つの接続部の間で並列接続されている。
・作用方向に見て右へ回転する前記第1及び第2送信コイルの端部が、それぞれ、作用方向に見て左へ回転する他方の送信コイルの端部にそれぞれ接続されている。
【0043】
作用方向において右へ回転するコイルの端部とは前記近接センサ内に配置されている前記コイルの端部のことであるが、前記近接センサの作用方向において前記コイルを観察すると、コイル線又はコイル導線が、この端部から開始して、時計回りに回転する前記コイル内へ延びている。これと同様に、作用方向において左へ回転するコイルの端部とは前記コイルの端部のことであるが、前記近接センサの作用方向において前記コイルを観察すると、コイル線又はコイル導線がこの端部から開始して、逆時計回りに回転する前記コイル内へ延びている。
【0044】
前記第1及び第2送信コイルの上述の同軸配置により、及び、この第1及び第2送信コイルが前記受信コイルから等しい間隔であることにより、前記第1送信コイルと前記少なくとも1つの受信コイルとの間の結合の誘導度が、前記第1送信コイルと前記少なくとも1つの受信コイルとの間の結合の誘導度と同一であることが達成される。前記第1送信コイルと前記少なくとも1つの受信コイルとの間の結合の誘導度が、前記第2送信コイルと前記少なくとも1つの受信コイルとの間の結合の誘導度と同一となり、前記第1送信コイルの誘導率が前記第2送信コイルの誘導率と同一となるように、前記第1及び第2送信コイル、並びに前記受信コイルが寸法され配置されると基本的に好適である。
【0045】
用途によっては、目標の不在時に前記第1及び第2送信コイルにより誘起される前記信号が相互無効となる代わりに、又はこれに加えて、前記近接センサは、前記第1送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧と、前記第2送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧と、作用方向において特定の切換距離のところにある遠く離れた目標により前記受信コイル内で誘起される前記電圧とが互いを少なくともほぼ無効とするように、前記第1及び前記第2送信コイルが、互いに対して及び前記少なくとも1つの受信コイルに対して寸法され配置され、更に、前記第1及び第2送信コイルが前記励起装置により励起されることを特徴とすることができる。このことは、上述のように、目標が作用方向において前記近接センサから予設定済み切換距離だけ離間するときに伝達関数がゼロ点を有することを意味する。
この実施形態において、目標が前記近接センサの作用領域における予設定済み距離のところにあるとき、前記受信コイル内で誘起される前記二次信号は本来ゼロとなり、二次信号が前記一次信号に対する位相シフトをもつことにより前記目標の位置又は距離の変化が可視となる。
幾つかの方法のうち、この実施形態は、前記第1及び第2送信コイルを僅かに異なる整相で励起することにより、又は前記第1及び第2送信コイルを前記受信コイルから僅かに異なる距離のところに配置することにより、実現することができる。
【0046】
前記第1送信コイル及び前記第2送信コイルが巻取られ、前記第1送信コイルの巻取りの向きが前記第2送信コイルの巻取りの向きとは反対であると特に好適である。前記コイルのこの実施形態は、双方のコイルが同様に励起される場合、前記一方の送信コイル内の前記電流の回転の向きが前記他方の送信コイル内の前記電流の回転の向きとは常に反対となるという効果を有する。これにより、特に単に前記送信コイルの配線及び配置を対応させることにより、前記第1及び第2送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧が互いを無効とすることを達成することができる。
【0047】
一方、所望する任意の巻取りの幾何学形状をもつ巻取り済みコイルに加えて、一般的に考えられる全てのその他のコイルの種類、例えば平面コイル、並びに、異なる種類のコイルの所望する任意の組み合わせをも使用することができる。
本発明によれば、前記コイルは各々、単一のコイル、又は複数の部分コイルを含むことができる。
【0048】
この点において、前記第1及び第2送信コイルが前記励起装置の第1及び第2接続部の間で並列接続され、この電気的な並列接続が第1直列接続と第2直列接続との並列接続を含み、前記第1直列接続が、前記第1送信コイル、及び前記第1送信コイルに直列接続されている第1電気抵抗器を含み、前記第2直列接続が、前記第2送信コイル、及び前記第2送信コイルに直列接続されている電気抵抗器を含み、特に前記第1及び/又は第2電気抵抗器が、調節可能な電気抵抗器であると特に有利である。
【0049】
前記第1送信コイルに第3電気抵抗器が電気的に並列接続され、前記第2送信コイルに第4電気抵抗器が電気的に並列接続され、特に前記第3及び/又は第4電気抵抗器が、調節可能な電気抵抗器であると更に好適である。
【0050】
このような電気抵抗器は有利である。というのも、この電気抵抗器は特に、前記目標距離について前記評価装置内で評価された前記信号の前記位相シフトを連続的に変化させ、従って前記目標距離をそれにわたって確実に決定することのできる距離範囲を拡張するからである。
【0051】
更に、このような抵抗器により、前記送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧の振幅及び位相が設定される。従って、前記電気抵抗器は、前記送信コイルの誘導率の任意の偏差、又は前記受信コイルからの前記送信コイルの前記距離の任意の偏差、又は前記近接センサの、その他のパラメータを、所望するそれぞれの値に対して相殺するように働くことができ、このような偏差がある場合、前記送信コイルにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧を無効にすることを保証することもできる。この点において、調節可能な抵抗値をもつ電気抵抗器は前記近接センサの調節を可能にし、前記送信コイルにより発生する磁場の相互無効をいつでも、つまり製造後でも保証するので特に有利である。
【0052】
前記第1送信コイル及び/又は前記第2送信コイルは、有利には、それらの誘導率が可変であるように、特にいつでも可変的に設定できるように設計することもできる。これにより、前記コイル配置の任意の偏差又はその他のパラメータを較正し相殺することが可能となる。
【0053】
前記励起装置が第1接続部と第2接続部との間に励起信号を与え、前記第1送信コイル及び前記第2送信コイルが前記第1及び第2接続部の間で電気的に直列接続されることを実現することもできる。
【0054】
本発明に係る有利な更なる展開は、第1受信コイル及び第2受信コイルが設けられ、特に前記第1及び第2送信コイル、並びに前記第1及び第2受信コイルが作用方向において互いに前後に配置されることを実現する。この点において、前記送信コイルのうちの一方が、前記受信コイルのうちの一方に作用方向において交互に続くと特に有利である。
【0055】
前記第1及び第2受信コイルが電気的に直列接続されると更に好適である。
【0056】
前記第1送信コイル及び前記第1受信コイルがコイル対を形成し、前記第2送信コイル及び前記第2受信コイルがコイル対を形成し、前記コイル対のうちの一方が、作用領域内に位置する目標に、前記第2コイル対よりも弱い力で誘導結合するように配置されると特に好適である。この目的で、本発明によれば、例えば磁気遮蔽物、特に、作用方向において前記2つのコイル対の間に配置される、作用方向に対して直交方向に延びており、特に金属要素を含むことができる磁気遮蔽物を設けることができる。このような、強さの異なる力での誘導結合は、作用方向に位置する目標からの前記コイル対の間隔が異なることにより、又は、コイル対の前記コイルが同軸に配置されており、このコイル対の前記共通の軸が、他方のコイル対の前記コイルの共通の軸に直交するという点で、保証することもできる。
【0057】
1つの受信コイルを備えた実施形態において、上述のように、1つの送信コイルが、作用領域内に位置する目標に、他方の送信コイルよりもはるかに弱く誘導結合し、同時に双方の送信コイルが前記受信コイルにほぼ同様の強い力で誘導結合するように配置されると有利である。2つの受信コイルを備えた実施形態では、双方のコイル対は、上述のように例えば磁気遮蔽物又は直交配置により、主として磁気的に分離することができる。前記2つの送信コイル間の間隔が低減されることに起因して、2つの受信コイルを有する対応する近接センサを極めてコンパクトな構成の形態にして実現することができる。
【0058】
前記2つの送信コイルにより前記第1及び第2受信コイル内でそれぞれ誘起される前記電圧の和が少なくとも本来ゼロになるように、前記励起装置が前記第1及び第2送信コイルを励起し、前記送信コイル及び前記受信コイルが互いに対して配置され寸法されていると特に好適である。従って、この実施形態において前記受信コイルを直列接続させると、この直列接続全体の電圧降下は本来ゼロになる。
【0059】
この実施形態において、前記第1及び第2受信コイルにて降下する前記電圧の和において、前記一次信号に対して高い位相シフトを有する信号、及び前記2つの送信コイルにより誘起される前記電圧と特に重畳しない信号として、目標が作用領域内に位置することが可視となることが保証される。
【0060】
別法として、又は付加的に、前記受信コイル及び送信コイルの励起、寸法取り、及び配置は、前記2つの送信コイルと、特定の予設定済み切換距離のところに位置する目標とにより前記受信コイル内で誘起される前記電圧の和が、作用方向において互いを無効にするように設計することもできる。この事例では、前記一次信号に対して位相シフトされた前記受信コイル電圧の和において、目標が異なる距離を有すること、又は目標が不在であることが信号の形態で可視となる。
【0061】
2つの受信コイルを有する実施形態において、有利には、双方のコイル対は各々、回路基板上で、特に前記コイル対の前記それぞれの送信コイルが、平面コイルとして前記それぞれの回路基板の上側で実現され、前記受信コイルが下側で実現されるように実現することができる。前記回路基板のうちの1つは、好ましくは、センサエレクトロニクスつまり前記励起装置及び/又は前記評価装置等の部品を含むことができる。双方の平面コイル対は、同じく、互いに前後に配置することができ、磁気隔壁としてそれらの間に金属片を有することができる。
【0062】
本発明は、以下で純粋に例示によって、有利な実施形態及び添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る誘導形近接センサ内で送信コイル又は受信コイルとして使用されるコイルの略図。
【図2】本発明に係る誘導形近接センサの前側領域及び目標を通る縦断面図。
【図3】本発明に係る近接センサ及び図2の目標の回路図。
【図4】本発明に係る近接センサのコイルと目標との間の誘起過程の図。
【図5】誘導結合により引き起こされる逆誘導率を印した図3の回路図。
【図6】電気的直列抵抗器を備えた本発明に係る更なる近接センサ及び目標の、誘導結合により引き起こされる逆誘導率を印した回路図。
【図7】図6の近接センサの位相シフト及び損失抵抗の、目標距離への依存を示す線図。
【図8】調節可能な電気的直列抵抗器及び調節可能な電気的並列抵抗器を備えた、本発明に係る更なる近接センサの回路図。
【図9】2つの受信コイル及び磁気シールドを有する、本発明に係る更なる近接センサの略図。
【図10】図9の近接センサの回路図。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図1は、本発明に係る近接センサで使用するための、送信コイル又は受信コイルと見なすことのできるような巻取り済みコイル10の略図を示す。コイルの長手方向軸12も示されている。
【0065】
図2は本発明に係る誘導形近接センサを示しており、この誘導形近接センサは、第1送信コイルS1、第2送信コイルS2、及び、送信コイルS1、S2間に配置される受信コイルEを有する。3つのコイルS1、S2、及びEは、巻取り済みコイルとして設計されており、同軸に配置されている。コイルS1、S2、及びEの長手方向軸は、近接センサの作用方向14と平行に整列している。受信コイルEは、2つの送信コイルS1及びS2から、等しい距離だけ離間している。
3つのコイルS1、S2、及びEは、その長手方向軸が近接センサの作用方向14に延びるスリーブ16内に配置されている。
【0066】
更に、近接センサの作用領域内に位置しており、作用方向14でコイルS1、S2、及びEから離間された目標18が示される。
【0067】
図1には、送信コイルS1及びS2に接続される近接センサの励起装置と、送信コイルS1及びS2のうちの少なくとも1つ、並びに受信コイルEに接続される評価装置とは示されていない。
【0068】
2つの送信コイルS1及びS2は同一の構成で設計されており、本実施形態では、特に同じ誘導率、及び同じ巻取りの向きを有する。送信コイルS1及びS2は励起装置により励起され、2つの送信コイルS1及びS2により受信コイルE内で誘起される電圧は互いをほぼ無効にする。図3に、送信コイルS1及びS2の対応する配線を示す。
【0069】
図3は、図2の本発明に係る近接センサの回路図を示す。
【0070】
2つの送信コイルS1及びS2は、正弦波AC電圧、つまり送信電圧Usで励起される。ここで、2つの送信コイルS1及びS2はそれらの誘導率LS1及びLS2により回路図に示されている。正弦波AC電圧は、更には図示しない励起装置の2つの接続部20及び22の間で実現される。2つの送信コイルS1及びS2は、接続部20及び22の間で並列接続される。
【0071】
2つの送信コイルS1及びS2は、近接センサにおけるそれらの幾何学的配置に対して反対の極性で送信電圧Usに接続される。近接センサの作用側15に近い方に配置されている、送信コイルS1及びS2のそれぞれの端部は、図3の回路図では、対応する誘導率LS1及びLS2の隣にそれぞれドットで印がつけてある。従って、図3は、送信コイルS1及びS2の並列接続において、作用側15に近い方に配置されている第1送信コイルS1の端部が、作用側15から離れている方の第2送信コイルS2の端部に接続されており、逆に言えば、第1送信コイルS1の離れている方の端部が、第2送信コイルの近い方の端部に接続されていることを示す。2つの送信コイルS1及びS2が同一の巻取りの向きを有することから、作用方向14に見て右に回転する第1送信コイルS1の端部は、作用方向に見て左に回転する第2送信コイルS2の端部に接続されており、逆もまた同様である。
このやり方では、送信電圧Usにより送信コイルS1及びS2に送られる電流は、第2送信コイルS2内で逆時計回りに回転すると、第1送信コイルS1内では作用方向14に見て時計回りに回転し、逆もまた同様であるので、2つの送信コイルS1及びS2は換言すれば反対向きに励起されるということが保証される。
2つの送信コイルS1及びS2が同一の幾何学形状であり、同一の誘導率LS1及びLS2であること、並びに受信コイルEに対するそれらの幾何学的配置に起因してこのように反対向きで励起することにより、第1送信コイルS1及び第2送信コイルS2により受信コイルE内で誘起される電圧が互いを無効にし、目標18の不在時に受信コイルE内で電圧が誘起されない、つまり受信電圧Uがゼロになるということが達成される。
【0072】
図3の回路図には、受信コイルEが誘導率Lにより示されている。受信コイルE全体の電圧降下は、接続部22と接続部24との間の受信電圧Uとして実現される。本実施形態において、受信電圧Uは送信電圧Usと共に、図示しない評価装置により評価される。
【0073】
図3には、目標18を目標18の誘導率Lと、目標18の並列な電気的内部抵抗Rにより更に示す。
【0074】
本実施形態では、目標18を検出するために、送信電圧Usと受信電圧Uとの間の位相シフトが評価ユニット内で測定される。以下では、特に図4〜図7を参照して、本実施形態においてこの位相シフトがどのように目標18の作用を受けるのか、及びこの位相シフトをどのように評価できるのかを簡単に示す。
【0075】
図4に近接センサのコイルS1、S2、及びEの、互いとの、及び目標18との相互誘導結合に起因している、誘導率過程を示す。この誘導率過程により受信コイルE内で受信電圧Uが誘起される。
【0076】
基本的に、励起された送信コイルS1及びS2、又はそれらの誘導率LS1及びLS2は各々、受信コイルE内で一次信号と呼ぶこともできる電圧Sp1及びSp2をそれぞれ誘起する。本実施形態において、2つの送信コイルS1及びS2は、上述のように、電圧Sp1及びSp2がちょうど互いを無効にするように設計され且つ配置され且つ励起される。
【0077】
目標18が存在するとき、送信コイルS1及びS2により目標18内で電圧が誘起される。その際、目標18は、受信コイルE内で電圧Ssを誘起する。以下でより詳細に説明するように、この付加的な誘起電圧Ssは、送信電圧Ssに対する位相シフトを有する。
【0078】
図5は図3の回路図を示しており、更に、送信コイルS1及びS2、並びに受信コイルEの、互いとの、及び目標との誘導結合を対応する逆誘導率M1〜M5により示す。この場合、この誘導結合は上述の誘起過程を生じる。
【0079】
これらの逆誘導率M1〜M5を用いて、近接センサ及び目標を記述する以下の微分方程式を求めることができる。
【数1】

【0080】
まず、2つの送信コイルS1及びS2が同一の誘導率LS1及びLS2を有することを考慮しなければならない。更に、送信コイルS1及びS2が同一の幾何学形状であること及びこれらの送信コイルの配置に起因して、第1送信コイルS1と受信コイルEとの間の逆誘導率M1が、第2送信コイルS2と受信コイルEとの間の逆誘導率M2と同一であることを考慮しなければならない。簡約化された項において、第2送信コイルS2と目標18との間の逆誘導率M5がゼロであることが更に想定される。この簡約化は正当化される。というのも、コイルS1、S2、Eが幾何学的配置であるため、第2送信コイルS2は、近接センサの作用側15からかなり遠くに配置され、従って作用方向において接近している目標18に、はるかに弱い力で誘導結合するからである。第2送信コイルS2と目標18との間に磁気遮蔽物があれば、逆誘導率M5を消滅させることもできるであろう。以下の関係が生じる。
【数2】

【0081】
ラプラス変換の助けによって、ラプラス領域における送信電圧Usと受信電圧Uとの間の伝達関数を、ラプラスパラメータsを用いて計算することができる。
【数3】

【0082】
次に逆誘導率は、誘導結合係数K1〜K5及び誘導率Ls、L、Lからの対応する式を代入することができる。
【数4】

【0083】
伝達関数と呼ばれる、受信電圧UとUsとの間のラプラス表現でのこの関係は、結合係数K1、K3、及びK4を特定の組み合わせにすると、つまり条件K1・K3=K4が満たされると、伝達関数の符号が変化する、即ち伝達関数がK1・K3=K4にてゼロ点を有するということを示す。理想的な場合、位相シフトの段階的な変化、換言すれば位相ステップは、この点にて生じることができる。この点は、例えば180°とすることができる。
【0084】
結合係数K1、K3、及びK4が、近接センサからの目標18の距離に依存することから、伝達関数の符号の変化、もしくはゼロ点は特定の目標距離のところで生じる。
評価装置は、位相シフトの測定によりこの転移を認識することができ、従って、特定の距離のところに目標18が存在することを検出することができる。次に、予測される目標18が、近接センサの作用方向14で近接センサから予設定済み切換距離に位置する場合に条件K1・K3=K4が満たされるように、送信コイルS1、S2、及び受信コイルEは設計し配置することができる。この場合、条件は目標距離に依存する。コイルのうちの1つと誘導結合する目標が存在しない場合、換言すればK3=0の場合、上の伝達関数が第2ゼロ点となること、つまりK3=0でゼロ点であることは、送信コイルS1、S2により受信コイルE内で誘起される信号が互いを無効にするという近接センサの上述の特性に対応している。
【0085】
基本的な相互関係を僅かな数式にまで低減することができることから上述の例示的な実施形態が選ばれたのであり、従って例示は特に説明的なものであるということに留意しなければならない。一方、例えば、条件M5=0が満たされない場合、もしくは充分に正確な程度まで満たされない場合にも、コイルS1、S2、Eが所与の設計及び配置であるため、伝達関数のゼロ点が、目標18の予設定済み切換距離のところで生じるように、及び/又は目標の不在時に生じるように、コイルS1、S2、Eを設計し配置し励起することができる。一般的に、伝達関数がより複雑な数学式を前提とし得る場合であっても、このようなゼロ点をもつ伝達関数を有する多数のコイル配置を思い付くことができる。このために、コイルS1、S2、Eの逆誘導率は、送信コイルS1、S2、及び受信コイルEを相応に適切に寸法し配置し、及び送信コイルS1、S2を励起することによって、対応する伝達関数が生じるように選ばれるべきである。
【0086】
図6は、既に説明した例示的な実施形態に対して更に改良された本発明に係る近接センサの回路図を示す。
【0087】
この実施形態では、目標18の検出可能性に対して、送信電圧Us及び受信電圧Uへの位相シフトの依存を更に改良するために、更に第1電気抵抗器Rが第1送信コイルS1に直列接続され、第2電気抵抗器Rが第2送信コイルS2に直列接続される。この実施形態により、センサと目標18との間の距離が変化すると、送信電圧Usと受信電圧Uとの間の位相シフトが連続的に変化する結果、位相シフトを測定することで決定できる目標距離の範囲が増加する。
【0088】
上述の計算と同様に、図6の近接センサ及び目標18を記述する微分方程式は以下のように書かれる。
【数5】

【0089】
図6のコイル配置が図5のコイル配置に対応しており、ここでも2つの送信コイルS1、S2が同様に励起される(R=R)ことから、受信電圧Uと、それぞれの励起コイルS1、S2全体で降下する励起電圧ULS1又はULS2との間の関係は、図5を参照して上述した伝達関数U/Usに対応しており、この伝達関数も、K1・K3=K4及びK3=0にてゼロ点を呈する。既に上述した同一状態及び簡約化を用いて、並びに、使用される第1及び第2電気抵抗器R及びRが本実施形態において同じ値を有することにより、励起装置により実現される送信電圧Usと受信電圧Uとの間の伝達関数、並びに双方の信号の間の位相シフトφは、ラプラス変換により以下のように決定することができる。
【数6】

【0090】
図7は、作用方向14で近接センサから離間された目標18の距離に応じた、目標18の作用により発生し受信コイルE内で測定することのできる損失抵抗Rのノルム曲線、及び送信電圧Usと受信電圧Uとの間の位相シフトφのノルム曲線を示す。
特に目標距離が大きい範囲では、位相シフトのノルム曲線の勾配が損失抵抗の曲線の対応する勾配よりも大きいことを、明らかに認識することができる。このことは、本発明に係る近接センサでは、損失抵抗の測定のみによるよりも大きい切換距離を達成することができ、本発明の枠組みにおいて、一般的に、位相シフトの検出のほかに信号振幅又は損失抵抗の検出又は評価もそれぞれ可能であることを示している。
【0091】
図8は、本発明に係る近接センサの更なる実施形態の回路図を示す。この点において、2つの調節可能な電気抵抗器R’及びR’が各々、送信コイルS1及びS2にそれぞれ直列接続されており、2つの調節可能な電気抵抗器R’及びR’が、それぞれ送信コイルS1及びS2にそれぞれ並列接続されている。
【0092】
調節可能な電気抵抗器により、図7に示す、例えば特定の被検目標距離に対する送信電圧Usと受信電圧Uとの間の位相シフトの曲線を最適化することが可能となる。更に、調節可能な電気抵抗器により、製造によって誘起される偏差に起因する、予設定済み配置からのコイルS1、S2、及びEの配置の偏差、例えば、送信コイルS1及びS2間にある受信コイルEの、正確には中央でない配置の偏差を、2つの送信コイルS1及びS2により受信コイル内で誘起される電圧が、偏差にもかかわらずちょうど互いを無効にするように相殺することができる。
【0093】
同じく、調節可能な電気抵抗器を使用して、2つの送信コイルS1及びS2により、並びに作用方向14で特定の距離のところに位置する目標18により受信コイル内で誘起される電圧がちょうど互いを無効にするように、近接センサを調節することができる。特定の用途にとって、近接センサのこの設定は有利とすることができる。
【0094】
図9は、本発明に係る近接センサの更なる実施形態を通る縦断面図を示し、第1送信コイルS1、第1受信コイルE1、第2送信コイルS2、及び第2受信コイルE2が、作用方向14で互いに前後に配置されている。第1送信コイルS1及び第1受信コイルE1を含む第1コイル対と、第2送信コイルS2及び第2受信コイルE2を含むコイル対との間には、作用方向14に対して垂直に延びる磁気遮蔽物26が設けられている。この磁気遮蔽物26があることにより、第2コイル対が、作用方向14で接近している目標18の作用をより弱い力でしか受けない、もしくはこのような目標18に、より弱い力で誘導結合するという結果が得られる。
【0095】
図10は、図9の近接センサの回路図を示す。第1送信コイルS1及び第2送信コイルS2は、それらの誘導率LS1及びLS2により表されている。同様に、第1受信コイルE1及び第2受信コイルE2は、それらの誘導率LE1及びLE2により表されている。ドットは各々、図9による近接センサの作用側15に近い方に配置されている、それぞれのコイルの端部を特徴付けている。巻取りの向きが同じである第1送信コイルS1及び第2送信コイルS2は、作用側15に近い方に配置されている第1送信コイルS1の端部が、作用側15から更に遠く離れた第2送信コイルS2の端部に接続されるように並列接続されており、逆もまた同様である。巻取りの向きが反対である受信コイルE1及びE2は、作用側15に近い方に配置されている第1受信コイルE1の端部が、作用側15から更に遠く離れた第2受信コイルE2の端部に接続されるように直列接続されている。一般的に、2つの受信コイルE1及びE2の他方の端部をそれぞれ互いに接続させることもできるであろう。
【0096】
並列接続されている送信コイルS1及びS2は、送信電圧Usをもつ励起装置により励起される。誘導結合する目標18が存在しない場合、それぞれ双方の送信コイルS1及びS2により第1受信コイルE1及び第2受信コイルE2内に含まれる電圧の和つまり受信電圧Uが、本来ゼロとなることが、送信コイルS1及びS2のこの配線並びに配置により達成される。それ故に、一方で受信電圧ULE1及びULE2の和U=ULE1+ULE2と、他方で送信電圧Usとの間の伝達関数U/Usは、目標18の不在時にゼロ点を示す。更に、目標18が近接センサの作用方向14で近接センサから予設定済み切換距離に位置するときに伝達関数U/Usはゼロ点を示す。
【0097】
図示する実施形態では、目標18が作用領域へと案内されると、送信電圧Usに対して位相シフトされた受信電圧Uが生じる。
【0098】
図示しない評価装置は、励起装置により実現される送信電圧Usと、双方のコイルにて降下する受信電圧Uとの間のこの位相シフトを測定する。
【符号の説明】
【0099】
10 コイル
12 長手方向軸
S1 送信コイル
S2 送信コイル
E 受信コイル
14 作用方向
15 作用側
16 スリーブ
18 目標
S1 S1の誘導率
S2 S2の誘導率
Us 送信電圧
受信電圧
20 接続部
22 接続部
24 接続部
受信コイルの誘導率
目標の誘導率
目標の内部抵抗
Sp1 誘起電圧
Sp2 誘起電圧
Ss 誘起電圧
M1 逆誘導率
M2 逆誘導率
M3 逆誘導率
M4 逆誘導率
M5 逆誘導率
電気抵抗器
電気抵抗器
’ 調節可能な電気抵抗器
’ 調節可能な電気抵抗器
’ 調節可能な電気抵抗器
’ 調節可能な電気抵抗器
26 磁気シールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1送信コイル(S1)と、
第2送信コイル(S2)と、
少なくとも1つの受信コイル(E)と、
前記第1及び第2送信コイル(S1、S2)に接続された第1励起装置と、
少なくとも1つの送信コイル(S1、S2)及び/又は前記励起装置に、並びに前記少なくとも1つの受信コイル(E)に接続され、且つ、少なくとも1つの送信コイル(S1、S2)及び/又は前記励起装置の信号と、前記少なくとも1つの受信コイル(E)の信号との間の位相シフトに応じた評価信号を発生させるように設計された評価装置と、
を含む近接センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の近接センサであって、前記2つの送信コイル(S1、S2)のうちの一方が、該近接センサの作用方向(14)において該近接センサから離間された目標(18)に、他方の送信コイル(S1、S2)よりも強い力で誘導結合されるよう、前記第1送信コイル(S1)及び前記第2送信コイル(S2)が設計され且つ配置されることを特徴とする近接センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の近接センサであって、接近した目標(18)に応じた前記受信コイル(E)の信号(U)と送信コイル(S1、S2)の信号(Us)との間の関係を表す該近接センサの伝達関数が、目標(18)が該近接センサの作用方向(14)において該近接センサから所定の切換距離に位置するときにゼロ点を有するよう、前記送信コイル(S1、S2)が設計され且つ配置され且つ励起されると共に、前記受信コイル(E)が設計され且つ配置されることを特徴とする近接センサ。
【請求項4】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記評価装置が、前記位相シフトが予設定済み閾値を超えると、前記評価信号に応じてスイッチを開閉するように設計されることを特徴とする近接センサ。
【請求項5】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記評価信号が前記位相シフトに比例することを特徴とする近接センサ。
【請求項6】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記励起装置が、少なくとも1つの送信コイル(S1、S2)を、周期信号(Us)で、好ましくはAC電圧信号で、特に好ましくは正弦波AC電圧信号で励起するように設計されることを特徴とする近接センサ。
【請求項7】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記励起装置が、前記第1送信コイル(S1)及び前記第2送信コイル(S2)を、同じ振幅及び同じ信号形状であって、位相シフトが−5〜5°の間、特に0°である2つの励起信号(Us)で励起するように設計されることを特徴とする近接センサ。
【請求項8】
請求項1〜5の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記励起装置が、前記第1送信コイル(S1)を第1励起信号で励起すると共に前記第2送信コイル(S2)を第2励起信号で励起するように設計されており、前記第1励起信号及び前記第2励起信号が、175〜185°の間の位相シフト、特に180°の位相シフトを有することを特徴とする近接センサ。
【請求項9】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、作用方向(14)において該近接センサから離間された目標(18)から送信コイル(S1、S2)を磁気的に遮蔽する磁気遮蔽物(26)が設けられることを特徴とする近接センサ。
【請求項10】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記第1送信コイル(S1)及び前記第2送信コイル(S2)並びに前記少なくとも1つの受信コイルが(E)、少なくとも略同軸に、特に、該近接センサの作用方向(14)に対して少なくとも略平行に延びる前記コイル(S1、S2、E)の共通の軸と少なくとも略同軸に配置されることを特徴とする近接センサ。
【請求項11】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記少なくとも1つの受信コイル(E)が、前記第1送信コイル(S1)及び前記第2送信コイル(S2)から、少なくともほぼ等距離だけ離間されることを特徴とする近接センサ。
【請求項12】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記第1送信コイル(S1)及び前記第2送信コイル(S2)が、同一の誘導率(LS1、LS2)を有し、特に、少なくとも略同一に構成されることを特徴とする近接センサ。
【請求項13】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記第1送信コイル(S1)により前記受信コイル(E)内で誘起される前記電圧及び前記第2送信コイル(S2)により誘起される前記電圧が互いを少なくともほぼ無効にするよう、前記第1及び第2送信コイル(S1、S2)が、互いに対し且つ前記少なくとも1つの受信コイル(E)に対し寸法され且つ配置されると共に、更に前記第1及び第2送信コイル(S1、S2)が前記励起装置により励起されることを特徴とする近接センサ。
【請求項14】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記第1送信コイル(S1)及び前記第2送信コイル(S2)が巻取られ、前記第1送信コイル(S1)の巻取りの向きが前記第2送信コイル(S2)の巻取りの向きと反対であることを特徴とする近接センサ。
【請求項15】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記励起装置が第1接続部(20)と第2接続部(22)との間に少なくとも1つの励起信号(Us)を与え、且つ、前記第1送信コイル(S1)及び前記第2送信コイル(S2)が前記第1接続部(20)と前記第2接続部(22)との間で電気的に並列接続されることを特徴とする近接センサ。
【請求項16】
請求項15に記載の近接センサであって、前記第1及び第2送信コイル(S1、S2)の電気的な並列接続が第1直列接続と第2直列接続との並列接続から成り、前記第1直列接続が、前記第1送信コイル(S1)と、前記第1送信コイル(S1)に直列接続された第1電気抵抗器(R、R’)とを含み、前記第2直列接続が、前記第2送信コイル(S2)と、前記第2送信コイル(S2)に直列接続された第2電気抵抗器(R、R’)とを含み、特に、前記第1及び/又は第2電気抵抗器(R’、R’)が調節可能な電気抵抗器であることを特徴とする近接センサ。
【請求項17】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、前記第1送信コイル(S1)に第3電気抵抗器(R、R’)が電気的に並列接続され、前記第2送信コイル(S4)に第4電気抵抗器(R、R’)が電気的に並列接続され、特に、前記第3及び/又は第4電気抵抗器(R’、R’)が調節可能な電気抵抗器であることを特徴とする近接センサ。
【請求項18】
先行する請求項の少なくとも1項に記載の近接センサであって、第1受信コイル(E1)及び第2受信コイル(E2)が設けられ、特に、前記第1及び第2送信コイル(S1、S2)、並びに前記第1及び第2受信コイル(E1、E2)が、作用方向(14)において互いに前後に配置されることを特徴とする近接センサ。
【請求項19】
請求項18に記載の近接センサであって、前記第1及び第2受信コイル(E1、E2)が電気的に直列接続されていることを特徴とする近接センサ。
【請求項20】
請求項18又は19のいずれか1項に記載の近接センサであって、前記第1送信コイル(S1)及び前記第1受信コイル(E1)がコイル対を形成し、前記第2送信コイル(S2)及び前記第2受信コイル(E2)がコイル対を形成し、前記コイル対のうちの一方が、前記第2コイル対よりも弱い力で誘導結合するように配置されることを特徴とする近接センサ。
【請求項21】
請求項18〜20のいずれか1項に記載の近接センサであって、前記2つの送信コイル(S1、S2)により前記第1及び第2受信コイル(E1、E2)内でそれぞれ誘起される電圧の和が少なくともほぼゼロになるよう、前記励起装置が前記第1及び第2送信コイル(S1、S2)を励起し、且つ、前記送信コイル(S1、S2)及び前記受信コイル(E1、E2)が互いに対し配置され且つ寸法されることを特徴とする近接センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−213265(P2010−213265A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−28456(P2010−28456)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(591005615)ジック アーゲー (34)
【Fターム(参考)】