説明

近接場光アシスト磁気記録ヘッド及びそれを用いた記録装置

【課題】 本発明の目的は、近接場光及び磁界の広がりを抑制して書き込みの信頼性を向上することである。
【解決手段】 近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は、先端に近接場光を発生させる錐状ティップ41と、近接場光によって媒体表面の微小領域が加熱されることにより微小領域に磁化反転を生じさせる磁気記録素子とを備えている。磁気記録素子は、媒体表面に対して略垂直方向に磁界を与える主磁極32と、主磁極32から与えられた磁界の一部を吸収する副磁極36と、主磁極32と副磁極36との間に配置される絶縁膜35とを備える。錐状ティップ41は、媒体表面と向い合う先端において近視場光を発生させる微細ギャップ15を備えている。主磁極32は、微細ギャップ15を囲む縁部分の少なくとも一部を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な領域に光を局在化させることで回折限界を超える分解能を持つ近接場光を利用した近接場光利用ヘッド、特に近接場光と磁界の両者を利用することで超高記録密度を実現した近接場光アシスト磁気記録ヘッド及びそれを用いた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年情報化社会における画像・動画情報の急激な増加に対応するため、情報記録再生装置は大容量化・小型化が進められている。光を用いた情報記録再生装置においては、記録密度が光波長に依存するため、短い波長の光を用いることで高密度化が図られてきた。波長を短くすることには限界があり、波長に依存しない記録密度の実現が模索されてきたが、その方法として近接場光を用いることで光の回折限界を超える微小スポットに光エネルギーを局在させる技術が注目されている。
【0003】
磁気を用いた情報記録再生装置においては、記録媒体表面の微小領域を分離して磁化するために、微小領域のみに近接場光を照射することで加熱して保磁力を低下させてから磁化させる近接場光アシスト磁気記録方式が、次世代の記録再生原理の有力候補と見られている。
【0004】
磁気記録においては、記録媒体への情報の記録は従来記録層の微小領域を記録媒体表面に平行な方向に磁化させるいわゆる長手記録方式が行われてきたが、熱揺らぎの問題から記録密度の向上が困難になってきていた。この問題を解決するために、記録層の微小領域を記録媒体表面に垂直方向に磁化させるいわゆる垂直記録方式が採用され始めている。この方式では、記録層内においてN極とS極とがループを作り難いため、エネルギー的により安定で、長手記録方式に対して熱減磁に強くなっている。更に記録密度を向上させるために、隣り合う磁区同士の影響や、熱揺らぎを最小限に抑えるために、更に保磁力の強い材質が記録媒体として採用され始めている。そのため、上述した垂直記録方式であっても、記録媒体に情報を記録することが困難になっていた。
【0005】
そこで保磁力の強い記録媒体に対して、瞬間的に微小領域を加熱することで保磁力を低下させて磁化記録する方式が注目されている。これは、空気浮上スライダーに搭載された磁気記録素子の近傍に熱源となる素子を形成し、熱源から放射された熱によって記録媒体表面を加熱しつつ磁気記録素子が発生する磁界によって媒体記録層の磁化を反転させるという方式である。記録層の保磁力が高いため、いったん磁化された領域は温度が下がると隣りの領域に近接していても熱揺らぎに対して安定に存在することができる。これを熱アシスト磁気記録方式と呼ぶ。熱アシスト磁気記録方式において記録の高密度化に重要な要因は、アシストのために加熱された領域をできるだけ微小化し、記録したい領域のみを加熱することである。高周波数でオンオフの切り替えができ、かつ数〜数十nmという領域のみに熱を与える方法として上述の近接場光を利用することができる。これを近接場光アシスト磁気記録方式と呼ぶ。また、磁界を発生させる磁極の微小化も重要であり、加熱された領域のうちできるだけ微小領域のみを磁化させる必要がある。
【0006】
近接場光アシスト磁気記録方式のヘッドは、従来の磁気ヘッドの記録磁極に隣接して近接場光発生素子を持つ構造となっている。近接場光発生素子は、例えば薄膜金属から成る散乱体であり、レーザーからの光を照射することによって微小領域に近接場光を発生させる(特許文献1)。
【0007】
また、ヘッド底面にボウタイ形状(2個の三角形が頂点を対向させる形で配置された形状)の金属薄膜を形成し、光をそのボウタイの上方から垂直に照射することでボウタイ中央に在る三角形頂点間の微小ギャップに近接場光を発生させて、磁界を強くかけている領域に近接場光を重ねて発生させる構造も提案されている。この近接場光アシスト磁気記録ヘッドでは、近接場光発生素子はヘッド底面に形成された平面膜のボウタイ形状金属であり、レーザーからの光を光ファイバーなどで導入したのちミラーで反射させてボウタイに照射させることで、ボウタイ中央のギャップに近接場光を発生させる。さらにこのボウタイが磁気記録素子も兼ねていることで、近接場光によって加熱される媒体表面領域と、磁界によって磁化される領域が一致している。これにより近接場光による微小スポットを限界まで微小化することが可能となり、高密度記録に適している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−158067号公報(第5−6頁、第1図)
【特許文献2】特開2002−298302号公報(第4−6頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来の構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッドでは、近接場光発生素子が磁気記録素子に隣接して形成されており、レーザーからの入射光がヘッドの斜め前方から照射される構成になっているため、近接場光発生素子は磁気記録素子の外側すなわちスライダーの端側に配置されている。空気浮上ヘッドは空気の流入端(リーディングエッジ)が流出端(トレイリングエッジ)よりも高い浮上量となって傾いて浮上するものであり、磁気記録素子は高密度記録のために、記録媒体表面にできるだけ近接させる必要がある。このため、流出端付近に搭載される。近接場光発生素子はその外側になるため、結果として媒体から見た場合にヘッドの走査方向に対して磁気記録素子よりも常に後ろ側に配置される(特許文献1、図1〜4)。近接場光によって媒体表面の微小領域を加熱した後に磁気記録素子によって記録する近接場光アシスト磁気記録においては、近接場光発生素子は磁気記録素子よりも前側に配置されることが望ましい。
【0009】
従来技術においては近接場光発生素子が磁気記録素子よりも後ろ側に配置されているため、近接場光によって加熱する領域は、近接場光発生素子直下だけでなくその前方まで含めた広い領域にならざるを得ない。このため、近接場光発生素子が本来持っている微小スポット性能を十分に発揮できないという問題点があった。またこの従来構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッドでは、近接場光発生素子への光入射がレーザーからの空中伝播となっており、光学系を小型化単純化する上で困難があった。
【0010】
別の従来構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッドは、近接場光と磁界の両方を発生させるボウタイがヘッド底面に形成された平面膜から成っているため、発生する磁界がボウタイ全体に広がってしまう。長手記録方式の場合はボウタイ中央のギャップが記録密度を規定するが、垂直記録の場合は主磁極の媒体に対向する部分のサイズが記録密度を規定する。ボウタイを記録媒体側から見た場合に、主磁極がボウタイの片側全体となるため、高記録密度のためにはボウタイ自体を微小化する必要がある。ボウタイのサイズを小さくすると、ボウタイ周辺部が入射光スポットの中に含まれてしまい、近接場光がボウタイ中央部だけでなく周辺部でも発生し、ボウタイ周辺部において誤記録が行われてしまう。このように、近接場光が局在するボウタイ中央部にのみ強い記録用磁界が発生する構造を持つヘッドが必要とされていた。
そこで本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、近接場光及び磁界の広がりを抑制して書き込みの信頼性を向上することができる近接場光アシスト磁気記録ヘッド及びそれを用いた記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の特徴は、先端に近接場光を発生させる錐状ティップと、前記近接場光によって加熱された媒体表面の微小領域に磁界を与えることにより前記微小領域に磁化反転を生じさせる磁気記録素子とを持つ近接場光アシスト磁気記録ヘッドであって、前記磁気記録素子は、前記媒体表面に対して略垂直方向に磁界を与える主磁極と、前記主磁極から与えられた磁界の一部を吸収する副磁極と、前記主磁極と前記副磁極との間に配置される絶縁膜とを含み、前記錐状ティップは、前記媒体表面と向い合う前記先端において前記近視場光を発生させる開口部を含み、前記主磁極は、前記開口部を囲む縁部分の少なくとも一部を構成することを要旨とする。
【0012】
本発明に係る第2の特徴は、前記錐状ティップが前記開口部を囲む縁部分の少なくとも一部を構成する第一側面を含み、前記主磁極が前記第一側面に配置される第一薄膜を含み、前記副磁極が、前記第一薄膜の両側のうち前記第一側面が配置されている側とは逆側に配置されており、前記絶縁膜が前記第一薄膜と前記副磁極との間に配置されることを要旨とする。
【0013】
本発明に係る第3の特徴は、前記絶縁膜が、前記第一薄膜と、前記錐状ティップの側面のうち前記第一側面以外の全ての側面とを覆い、前記副磁極が、前記絶縁膜の両側のうち、前記第一薄膜が配置されている側とは逆側の側面の全周を囲むことを要旨とする。
【0014】
本発明に係る第4の特徴は、前記錐状ティップが平面基板をエッチング加工することにより形成されたものであることを要旨とする。
【0015】
本発明に係る第5の特徴は、前記媒体表面からの空気浮上力を受ける空気浮上面を持ち、前記空気浮上面が前記錐状ティップと高さが同一であることを要旨とする。
【0016】
本発明に係る第6の特徴は、前記媒体表面に記録された情報を再生する磁気抵抗素子を持ち、前記磁気抵抗素子が錐状形状を持つことを要旨とする。
【0017】
本発明に係る第7の特徴は、前記錐状ティップと前記空気浮上面と前記磁気抵抗素子の高さが同一であることを要旨とする。
【0018】
本発明に係る第8の特徴は、前記平面基板が透明であり、前記錐状ティップが、前記錐状ティップの両側のうち、前記媒体が配置されている側とは逆側から光が前記錐状ティップに入射されることで前記近接場光を発生することを要旨とする。
【0019】
本発明に係る第9の特徴は、回転する前記媒体表面からの空気浮上力と、前記錐状ティップを支持するサスペンションアームからの荷重の均衡によって前記媒体表面から所定の高さで浮上する空気浮上型ヘッドを持つ記録装置において、前記空気浮上ヘッドが上記のいずれかに記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッドであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、近接場光及び磁界の広がりを抑制して書き込みの信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド及びそれを用いた記録装置の第1実施形態を、図1から図7を参照して説明する。本実施形態の記録装置1は、図1に示すように、近接場光アシスト磁気記録ヘッド2と、ディスクDの面(磁気記録媒体の表面)に平行な方向に移動可能とされ、ディスクDの面に平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸とする)回りに回動自在な状態で近接場光アシスト磁気記録ヘッド2を先端側で支持するサスペンションアーム3と、光導波路4の基端側から該光導波路4に対して光束を入射させる光信号コントローラー(光源)5と、サスペンションアーム3の基端側を支持すると共に、サスペンションアーム3をディスクDの面に平行なXY方向に向けてスキャン移動させるアクチュエーター6と、ディスクを一定方向に回転させるスピンドルモーター(回転駆動部)7と、情報に応じて変調した電流を近接場光アシスト磁気記録ヘッド2に対して供給すると共に、光信号コントローラー5の作動を制御する制御部(図示略)と、これら各構成品を内部に収容するハウジング8とを備えている。
【0022】
ハウジング8は、アルミニウム等の金属材料により、上面視四角形状に形成されていると共に、内側に各構成品を収容する凹部8aが形成されている。また、このハウジング8には、凹部8aの開口を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定されるようになっている。凹部8aの略中心には、上記スピンドルモーター7が取り付けられており、該スピンドルモーター7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定される。凹部8aの隅角部には、上記アクチュエーター6が取り付けられている。このアクチュエーター6には、軸受9を介してキャリッジ10が取り付けられており、該キャリッジ10の先端にサスペンションアーム3が取り付けられている。そして、キャリッジ10及びサスペンションアーム3は、アクチュエーター6の駆動によって共に上記XY方向に移動可能とされている。
【0023】
なお、キャリッジ10及びサスペンションアーム3は、ディスクDの回転停止時にはアクチュエーター6の駆動によって、ディスクD上から退避する。また、光信号コントローラー5は、アクチュエーター6に隣接するように凹部8a内に取り付けられている。そして、このアクチュエーター6に隣接して、上記制御部が取り付けられている。近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は、導入された光束から近接場光を発生させてディスクDの微小領域を加熱すると共に磁界を与えて磁化反転を生じさせ、情報を記録する。
【0024】
図2に本実施の形態に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2、サスペンションアーム3及び光導波路4の断面図を示す。近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は厚さ200μmの石英ガラス基板から成り、上面に直径80μmのマイクロレンズ11を持ち、底面に記録素子12と再生素子13、磁気回路14を持つ。磁気回路14はこの断面図の平面外を経由して記録素子12の側面に磁気的に接続されている。底面の詳細は図3で説明するため図2では簡略化して示した。記録素子12の先端は光学的な微小開口となっているが、同時に磁気的な微小ギャップにもなっている。この部分を微細ギャップ15(開口部)と呼ぶ。光導波路4は近接場光アシスト磁気記録ヘッド2の上面に形成されたガイド溝16に接着固定され、先端が斜めに研磨されたミラー面17となっている。図示を略した光源からの入射光ILは光導波路4内を伝播した後、ミラー面17で反射して方向を変え、マイクロレンズ11によって集光されて記録素子12に入射する。この光が記録素子12の先端の微細ギャップ15から発生する近接場光となる。一方、磁気回路14によって発生する磁界は記録素子12に伝播し微細ギャップ15から発生する。
【0025】
図3は本実施の形態に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2の底面の斜視図である。石英ガラスから成る基板21の表面に、記録素子12、再生素子13及び磁気回路14が形成されている。これらは図2に断面が現れている。基板21の表面はこの他に、空気浮上面22、再生用磁気回路23を持つ。空気浮上面22は高さ10μm、幅200μm、長さ700μmの四角錐台レール状であり、基板21の表面に2本形成されているが、これはコの字状に配置する構造に設計することも可能であり、底面に3ヶ所形成するトライポッド型にすることも可能である。
【0026】
記録素子12は空気浮上面22と同じ高さの四角錐台形状であり、微小構造の詳細は図4で説明する。回転する記録媒体(図示略)に空気浮上面22を対向させることで、空気浮上面22はディスクDから空気浮上力を受ける。一方サスペンションアーム3からは近接場光アシスト磁気記録ヘッド2に負荷荷重がかけられ、空気浮上力と均衡することにより、近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は記録媒体表面から所定の微小浮上量をもって浮上する。磁気回路14は基板21上の磁性膜パターンの一部を周回するようにコイル18が形成されている。磁性膜パターンはNiFe、NiFeCoなどの軟磁性材料から成る。コイル18はCuから成る。
【0027】
図4は図3のうち記録素子12付近の拡大斜視図である。主磁極基部31は図3の磁気回路14から延びて図4の上方から現れる。副磁極基部33は同じく図3の磁気回路14から延びて図4の右方から現れる。主磁極基部31は屈曲し、副磁極基部33と対向する。この両者の間に四角錐台形状の記録素子12が配置される。記録素子12の四側面のうち主磁極基部31側(図中左下)の側面には主磁極基部31が形成され、頂面において主磁極32(第一薄膜)となる。主磁極32は、ディスクDに対して略垂直方向に磁界を与える。
【0028】
記録素子12の四側面のうち他の三側面と、上述の一側面上の主磁極基部31の上には絶縁膜35が形成される。すなわち絶縁膜35は、主磁極31と後述する副磁極36との間に配置されるものであり、四側面すべてを覆う。
【0029】
絶縁膜35の上には副磁極基部33に接続された副磁極側面部34が形成され、頂面において副磁極36となる。具体的には、副磁極36は、絶縁膜35の両側のうち、主磁極31及びティップ41が配置されている側とは逆側の側面を覆っている。副磁極36は、主磁極31から与えられた磁界の一部を吸収する。なお、主磁極31、副磁極36及び絶縁膜35は、磁気記録素子を構成する。
【0030】
このように、主磁極31及び絶縁膜35が配置されることにより、ディスクDの表面と向かい合う先端において近視場光を発生させる微細ギャップ15がティップ41に形成されることになる。
【0031】
図5aと図5bはそれぞれ図4のC−C’と、D−D’における断面図を示す。記録素子12は基板21の一部が四角錐台形状に突出したティップ41を基礎構造としている。ティップ41の四側面のうち、図5aに示した二側面では左側に主磁極基部31、右側には絶縁膜35が成膜されている。主磁極基部31はティップ41の頂面において主磁極32となる。主磁極基部31の上には絶縁膜35が成膜されている。この絶縁膜35はティップ41の他の二側面上にも成膜されていることが図5bに示されている。副磁極基部33は絶縁膜35の上に成膜され、ティップ41の頂面において副磁極36となる。図5bでは、副磁極36がティップ41頂面の他の二側面上の絶縁膜35の上にも成膜されていることを示す。
【0032】
以上説明したように、磁気回路14は、主磁極32、主磁極基部31、副磁極基部33、副磁極36が磁気的に接続され、その一部にコイル18が周回することで全体として電磁石を構成する。記録媒体表面から微小浮上量をもって浮上した状態でコイル18に電流を流すことで主磁極32の頂面からのみ磁束を放出する。上述したように記録素子12の先端の微細ギャップ15からは近接場光が発生しており、これによって記録媒体表面の所定領域を加熱することでその領域のみ保磁力を一時的に低下させる。それと同時に上述の磁束によって記録媒体の該領域の磁化を保持あるいは反転させ、情報の記録を行う。近接場光アシスト磁気記録ヘッド2の底面にはまた、再生素子13が記録素子12と同様の四角錐台形状で形成されている。再生素子13は磁気抵抗素子となっており媒体表面に磁気的に記録された情報を外部に信号として出力する。
【0033】
かかる特徴によれば、近接場光が発生する微細ギャップ15の一辺に主磁極32が配置されているため、媒体表面の最小限の加熱領域に磁界を印加することができる。また、主磁極32から発生する磁束成分のうちディスク表面に対して斜め方向成分が、主磁極32のごく近傍に配置された副磁極36によって吸収されるため、ディスク表面には極めて局在化した部分にのみ磁界を印加することができ、高密度な記録ヘッドが実現される。
【0034】
すなわち、近接場光及び磁界の広がりを抑制して書き込みの信頼性を向上することができる。
【0035】
また、近接場光アシスト磁気記録ヘッド2への光導入は光ファイバーなどの光導波路4をサスペンションアーム3に沿わせて配置することで実現するため、極めて薄型の導光構造となる。さらに、主磁極32から放出された磁束のうち記録媒体表面の記録領域に向かって進む成分以外の、斜め方向(記録媒体表面に垂直ではない方向)に向かう成分は副磁極36に吸収される。副磁極36は主磁極32を取り囲むように配置されているため、主磁極32から斜め方向に向かう磁束成分は、どの方向に斜めになっていても副磁極36が当該斜めの磁束成分をより適切に吸収することができる。このような構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッド2にすることにより、高記録密度の記録装置を小型薄型で実現できる。
【0036】
さらに、空気浮上面21が形成されていることにより、空気浮上面21がディスク表面から巻き上げられる空気によってディスクD上で浮上する。このため、近接場光が到達し得る距離内において、当該空気浮上面21を有する近接場光アシスト磁気記録ヘッド2がディスクDに極めて近接した状態で高速に走査することとなり、情報をより確実にディスクDに記録させることができる。
【0037】
また、記録素子12のみならずに、再生素子13も同一基板上に配置されている。これにより、記録素子12及び再生素子13が別々の基板上に配置されている場合よりも、記録素子12及び再生素子13の配置に必要な部品点数を減少させることができ、記録装置1を小型で且つ薄型化することができる。
【0038】
図6、図7は本実施の形態での近接場光アシスト磁気記録ヘッド2の製造方法を示す。図6、図7のA−S1からA−S6は、図3におけるA−A’に沿った断面を示し、B−S1からB−S6は、同じくB−B’に沿った断面を示す。A−A’断面とB−B’断面はともにS1から開始してS6で完了する作製プロセスの各ステップを示す。まず図6において、A−S1とB−S1に示すように石英ガラス基板21の上面にレジスト51をパターニングする。次にA−S2とB−S2に示すように等方性エッチングによって基板21をエッチングし、四角錐台ティップ41、再生素子基礎部ティップ52、空気浮上面22を同時に作製する。同一基板を同一ステップでエッチングすることにより、ティップ41、再生素子基礎部ティップ52、空気浮上面22は同一平面を成す。次に、A−S3とB−S3に示すように、再生素子のための再生用磁気回路23をパターニングする。再生素子基礎部ティップ52の斜面には斜方蒸着によって成膜することも可能である。次に、図7のA−S4とB−S4に示すように、ティップ41の側面のうちの一面(A−S4中のティップ41の左側面)と基板21上面の所定の位置(B−S4中に示す)に主磁極基部31を蒸着により成膜する。更に絶縁膜35を四側面全てにスパッタにより成膜する。この時点で、ティップ41の四側面は、一側面には主磁極基部31とその上に絶縁膜35が成膜され、他の三側面には絶縁膜35が直接成膜されている。次に、A−S5とB−S5に示すように、副磁極基部33をティップ41の四側面すべてと、基板21上の所定の位置に蒸着により成膜する。これにより、副磁極基部33はティップ41の四側面すべてを覆っているが、そのうちの一側面は絶縁膜35を介して主磁極基部31の上を覆っている。最後にA−S6とB−S6に示すように、コイル18をパターニングする。
【0039】
このようにして、通常の半導体プロセス技術の組み合わせによって本発明に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドを作製することができる。この作製方法は簡便で低コストであり、大量生産にも適している。
【0040】
本実施の形態においては絶縁膜35がティップ41の四側面すべてを覆っているが、絶縁膜35は主磁極基部31と副磁極基部33を磁気的に絶縁するために成膜されているものであり、ティップ41の四側面すべてを覆うことは不可欠ではなく、たとえば主磁極基部31のみを覆うことで副磁極基部33と絶縁する形にすることも可能である。
【0041】
なお、空気浮上面22は、空気浮上面22の高さがティップ41の高さと同一又はそれ以上であることが好ましい。この場合には、空気浮上面22の高さがティップ41の高さと同一又はそれ以上であることにより、ティップ41の先端がディスクDの表面に直接接触し難くなるため、ティップ41の破損を低減することができる。
【0042】
なお、近接場光アシスト磁気記録ヘッド2(ティップ41)は透明であってもよい。また、透明に形成されたティップ41は、ティップ41の両側のうち、ディスクDが配置されている側とは逆側から光がティップ41に入射されることで近接場光を発生してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、実施の形態1に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドを用いた情報記録装置の概略図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド、サスペンションアーム及び光導波路の断面図である。
【図3】図3は、実施の形態1に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドの底面の斜視図である。
【図4】図4は、図3のうち記録素子付近の拡大斜視図である。
【図5】図5aは、図4のC−C’における断面図である。図5bは、図4のD−D’における断面図である。
【図6】実施の形態に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドの製造方法を示すフロー図である。
【図7】実施の形態に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドの製造方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0044】
1 記録装置
2 近接場光アシスト磁気記録ヘッド
3 サスペンションアーム
4 光導波路
5 光信号コントローラー(光源)
6 アクチュエーター
7 スピンドルモーター(回転駆動部)
8 ハウジング
8a 凹部
9 軸受
10 キャリッジ
11 マイクロレンズ
13 再生素子
14 磁気回路
15 微細ギャップ
16 ガイド溝
17 ミラー面
18 コイル
21 基板
22 空気浮上面
23 再生用磁気回路
31 主磁極基部
32 主磁極
33 副磁極基部
34 副磁極側面部
35 絶縁膜
36 副磁極
41 ティップ
51 レジスト
52 再生素子基礎部ティップ
IL 入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に近接場光を発生させる錐状ティップと、前記近接場光によって加熱された媒体表面の微小領域に磁界を与えることにより前記微小領域に磁化反転を生じさせる磁気記録素子とを持つ近接場光アシスト磁気記録ヘッドであって、
前記磁気記録素子は、前記媒体表面に対して略垂直方向に磁界を与える主磁極と、前記主磁極から与えられた磁界の一部を吸収する副磁極と、前記主磁極と前記副磁極との間に配置される絶縁膜とを含み、
前記錐状ティップは、前記媒体表面と向い合う前記先端において前記近視場光を発生させる開口部を含み、
前記主磁極は、前記開口部を囲む縁部分の少なくとも一部を構成することを特徴とする近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項2】
前記錐状ティップは、前記開口部を囲む縁部分の少なくとも一部を構成する第一側面を含み、
前記主磁極は、前記第一側面に配置される第一薄膜を含み、
前記副磁極は、前記第一薄膜の両側のうち、前記第一側面が配置されている側とは逆側に配置されており、
前記絶縁膜は、前記第一薄膜と前記副磁極との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記第一薄膜と、前記錐状ティップの側面のうち前記第一側面以外の全ての側面とを覆い、
前記副磁極は、前記絶縁膜の両側のうち、前記第一薄膜が配置されている側とは逆側の側面の全周を囲むことを特徴とする請求項2に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記錐状ティップは、平面基板をエッチング加工することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記媒体表面からの空気浮上力を受ける空気浮上面を持ち、前記空気浮上面が前記錐状ティップと高さが同一であることを特徴とする請求項1に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項6】
前記媒体表面に記録された情報を再生する磁気抵抗素子を持ち、前記磁気抵抗素子が錐状形状を持つことを特徴とする請求項1に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項7】
前記錐状ティップと前記空気浮上面と前記磁気抵抗素子の高さが同一であることを特徴とする請求項6に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項8】
前記平面基板は透明であり、
前記錐状ティップは、前記錐状ティップの両側のうち、前記媒体が配置されている側とは逆側から光が前記錐状ティップに入射されることで前記近接場光を発生することを特徴とする請求項4に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項9】
回転する前記媒体表面からの空気浮上力と、前記錐状ティップを支持するサスペンションアームからの荷重の均衡によって前記媒体表面から所定の高さで浮上する空気浮上型ヘッドを持つ記録装置において、前記空気浮上ヘッドが請求項1から8のいずれかに記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッドであることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−152854(P2008−152854A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339601(P2006−339601)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】