説明

近赤外光吸収ガラス、近赤外光吸収フィルターおよび撮像装置

【課題】脈理や異物が少なく、優れた耐候性と可視域における優れた透過特性を有する近赤外光吸収ガラス、および近赤外光吸収フィルター、ならびに前記フィルターを備える撮像装置を提供する。
【解決手段】近赤外光吸収ガラスが、Cu含有のフツリン酸ガラスからなり、P5+の含有量が20〜45カチオン%、Al3+の含有量が1〜25カチオン%、Liの含有量が10〜30カチオン%、Naの含有量が0〜15カチオン%、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が14〜50カチオン%、Cu2+の含有量が0.1〜10カチオン%、Ce4+およびSb3+の外割り合計含有量が0.005〜2カチオン%、O2−の含有量が50〜75アニオン%、Fの含有量が25〜50アニオン%、Cl、BrおよびIの外割り合計含有量が0.001〜1アニオン%である。
である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体撮像素子の色感度補正フィルター用材料に近赤外光吸収ガラスと、前記ガラスを用いた近赤外光吸収フィルター、ならびに前記フィルターを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやVTRカメラに用いられるCCD、CMOSなどの半導体撮像素子の分光感度は、可視域から1100nm付近の近赤外域にわたる。そのため、近赤外域の光を吸収するフィルターを用いて人間の視感度に近似させている。このような近赤外光吸収ガラスとして、リン酸ガラスにCuOを添加したものがあるが、耐候性が悪く、長期間高温高湿に晒すとガラス表面に荒れや白濁が生じるという欠点があった。
【0003】
こうした問題を解決するために、主要なアニオン成分としてフッ素を含み、優れた耐候性を示すフツリン酸ガラスを基本組成とした近赤外光吸収フィルターガラスが開発、市販されている。
【0004】
この種のガラスとしては、例えば特許文献1、特許文献2などに開示されているCuO含有フツリン酸ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−137100号公報
【特許文献2】特開2007−099604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、CuO含有のフツリン酸ガラスにも次のような問題があった。
【0007】
銅イオンを含むフツリン酸ガラスは熔融温度が低く、熔融しやすいものの、ガラス融液の粘性が低く、フッ素成分の揮発も大きいので、ガラスを流出して成形する際に、揮発と低粘性状態であることにより助長される対流により、脈理と呼ばれる不均質欠陥を生じやすい。特に熔融ガラスへの不純物の混入を避けるために白金または白金合金製のガラス流出用ノズルを用いると、ノズルの外周面にガラス融液が濡れ上がり、濡れ上がったガラスが揮発によって変質するために脈理を生じやすいという問題があった。
【0008】
さらに、白金または白金合金製容器内でガラスを熔融すると、ガラス融液面と容器の境界線において容器の酸化が顕著になり、微小な白金片あるいは白金合金片が剥離し、ガラス中に混入しやすいという問題があった。
【0009】
さらに、近赤外光吸収フィルターとしては、可視域の光透過率が高いことが望まれる。可視域の透過率を高めるには、銅イオンがCu(1価)ではなく、Cu2+(2価)であることが必要である。ガラス融液が還元状態にあるとCu2+がCuとなり、その結果、波長400nm付近の透過率が低下する。このようなガラスをフィルターとして使用すると、青色が強く吸収されてしまう。デジタルカメラなどの場合は、電気信号の補正により光量が低下した波長を増幅することができるが、それによりノイズも増幅されるのでS/N比が悪くなるという欠点がある。
【0010】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、脈理や異物が少なく、優れた耐候性と可視域における優れた透過特性を有する近赤外光吸収ガラス、および近赤外光吸収フィルター、ならびに前記フィルターを備える撮像装置を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決する手段として、
(1)Cu含有のフツリン酸ガラスからなる近赤外光吸収ガラスにおいて、
5+の含有量が20〜45カチオン%、
Al3+の含有量が1〜25カチオン%、
Liの含有量が10〜30カチオン%、
Naの含有量が0〜15カチオン%、
Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が14〜50カチオン%、
Cu2+の含有量が0.1〜10カチオン%、
Ce4+およびSb3+の外割り合計含有量が0.005〜2カチオン%、
2−の含有量が50〜75アニオン%、
の含有量が25〜50アニオン%、
Cl、BrおよびIの外割り合計含有量が0.001〜1アニオン%、
であることを特徴とする近赤外光吸収ガラス、
(2)P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比(O2−/P5+)が3.5以上である上記(1)項に記載の近赤外光吸収ガラス、
(3)Ce2+を0.01〜2カチオン%含む上記(1)項または(2)項に記載の近赤外光吸収ガラス、
(4)上記(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の近赤外光吸収ガラスを用いた近赤外光吸収フィルター、
(5)上記(4)項に記載の近赤外光吸収フィルターと、半導体イメージセンサーとを備えた撮像装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脈理や異物が少なく、優れた耐候性と可視域における優れた透過特性を有する近赤外光吸収ガラス、および近赤外光吸収フィルター、ならびに前記フィルターを備える撮像装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳説する。
【0014】
[近赤外光吸収ガラス]
近赤外光吸収ガラスは、フツリン酸ガラスをベースにして、近赤外光吸収作用のあるCu2+を添加したものである。
【0015】
フツリン酸ガラスは、ガラス融液をガラス流出用ノズルから流出し、成形する際、融液がノズルの外周面に濡れ上がるという性質があり、濡れ上がった高温のガラス融液が外気に晒されて変質し、変質した融液がノズルから新たに流出するガラス融液に混入し、成形したガラスの中に脈理となって光学的均質性を低下させるという問題が発生しやすい。
【0016】
Cl、Br、Iをガラス中に添加することにより、ガラス融液がノズル先端部から外周面へと濡れ上がるのを抑制する効果が得られる。ガラス流出用ノズルには、白金製または白金合金製、あるいは金製または金合金製等のものを使用するが、ノズル表面には酸化被膜が生じ、この被膜がガラス融液の濡れ上がりを助長する。Cl、Br、Iを含むガラス融液がノズル表面の酸化被膜に触れると被膜を除去する効果が得られ、その結果、ガラス融液の濡れ上がり抑制効果が得られると考えられる。
【0017】
しかし、Cl、Br、Iは、Cu2+を還元し、波長400nm付近の透過率を低下させるとともに、ガラス融液がガラス製造器具を構成する白金、白金合金、金、金合金等を侵蝕しやすくなるという問題を引き起こす。Ce2+、Sb3+には、このような問題を解消する働きがある。
【0018】
すなわち、Ce2+、Sb3+は、Cu2+の還元を抑え、波長400nm付近の透過率低下を防止する効果と、ガラス融液によるガラス製造器具を構成する金属あるいは合金の侵蝕を抑制する効果がある。
【0019】
本発明は、所定のフツリン酸ガラスにおいて、Cu2+と、Cl、BrおよびIの少なくとも一種のハロゲンと、Ce2+、Sb3+の少なくとも一種の添加剤を共存させることにおり、可視透過率を高く維持しつつ、光学的に均質性の優れた近赤外光吸収ガラスを提供する。
【0020】
すなわち、本発明は、Cu含有のフツリン酸ガラスからなる近赤外光吸収ガラスにおいて、
5+の含有量が20〜45カチオン%、
Al3+の含有量が1〜25カチオン%、
Liの含有量が10〜30カチオン%、
Naの含有量が0〜15カチオン%、
Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が14〜50カチオン%、
Cu2+の含有量が0.1〜10カチオン%、
Ce4+およびSb3+の外割り合計含有量が0.005〜2カチオン%、
2−の含有量が50〜75アニオン%、
の含有量が25〜50アニオン%、
Cl、BrおよびIの外割り合計含有量が0.001〜1アニオン%、
であることを特徴とする。
【0021】
5+は、フツリン酸ガラスの基本成分であり、Cu2+の近赤外域の吸収をもたらす成分である。P5+の含有量が20カチオン%未満であると、近赤外光吸収効果が低下する傾向を示し、45カチオン%を超えると耐候性、耐失透性が低下する傾向を示す。したがって、P5+の含有量を20〜45カチオン%の範囲とすることが好ましい。P5+の含有量のより好ましい範囲は20〜40カチオンn%、さらに好ましい範囲は23〜36%、一層好ましい範囲は25〜35カチオン%である。
【0022】
Al3+は、耐失透性、耐熱性、耐熱衝撃性、機械的強度、化学的耐久性を向上させる効果を有する成分である。Al3+の含有量が1カチオン%未満であると、上記効果が低下する傾向を示し、25カチオン%を越えると耐失透性が悪化する傾向を示す。したがって、Al3+の含有量を1〜25カチオン%の範囲にすることが好ましい。Al3+の含有量のより好ましい範囲は5〜23カチオン%、さらに好ましい範囲は8〜23カチオン%、一層好ましい範囲は10〜22カチオン%、なお一層好ましい範囲は10〜20カチオン%である。
【0023】
Liは、ガラスの熔融性、耐失透性を改善させ、可視域の透過率を向上する効果を有する成分である。Liの含有量が10カチオン%未満であると、上記効果を十分得ることが難しく、30カチオン%を越えるとガラスの耐久性、加工性が悪化する傾向を示す。したがって、Liの含有量を10〜30カチオン%の範囲にすることが好ましい。Liの含有量のより好ましい範囲は15〜25カチオン%である。
【0024】
Naは、熔融性や耐失透性の向上に効果的な成分である。前記効果を得る上から、Naの含有量を0.1%以上とすることが好ましいが、その含有量が15%を超えると耐候性、耐失透性、加工性が低下する傾向を示す。したがって、Naの含有量を0.1〜15%の範囲とすることが好ましく、2〜13%の範囲とすることがより好ましく、3〜11%の範囲とすることがさらに好ましく、4〜10カチオン%の範囲が一層好ましい。
【0025】
Mg2+、Ca2+は、ガラスの耐失透性、耐久性、加工性を向上させる有用な成分である。Sr2+、Ba2+は、ガラスの耐失透性、熔融性を向上させる有用な成分である。Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が14カチオン%未満であると、耐失透性が悪化する傾向を示し、50カチオン%を超えても耐失透性が悪化する傾向を示す。したがって、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量を14〜50カチオン%の範囲にすることが好ましい。Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量のより好ましい範囲は14〜35カチオン%、さらに好ましい範囲は14〜30カチオン%、一層好ましい範囲は16〜28カチオン%、なお一層好ましい範囲は17〜27カチオン%である。
【0026】
耐失透性、耐久性、加工性をより向上させるためには、Mg2+の含有量を0.1〜10カチオン%の範囲とすることが好ましく、0.5〜8カチオン%の範囲とすることがより好ましく、0.5〜7カチオン%の範囲とすることがさらに好ましく、0.5〜6カチオン%の範囲とすることが一層好ましく、1〜5カチオン%の範囲とすることがなお一層好ましい。
【0027】
また、同様の理由から、Ca2+の含有量を0.1〜20カチオン%の範囲とすることが好ましく、2〜15カチオン%の範囲にすることがより好ましく、3〜14カチオン%の範囲にすることがさらに好ましく、4〜12カチオン%の範囲にすることが一層好ましく、5〜11カチオン%の範囲にすることがなお一層好ましい。
【0028】
耐失透性、熔融性をより向上させるためには、Sr2+の含有量を0.1〜20カチオン%の範囲とすることが好ましく、1〜10カチオン%の範囲とすることがより好ましく、2〜9カチオン%の範囲とすることがさらに好ましく、3〜8カチオン%の範囲とすることが一層好ましく、4〜8カチオン%の範囲とすることがなお一層好ましい。
【0029】
また、同様の理由から、Ba2+の含有量を0.1〜20カチオン%の範囲とすることが好ましく、1〜10カチオン%の範囲とすることがより好ましく、3〜10カチオン%の範囲とすることがさらに好ましく、4〜9カチオン%の範囲とすることが一層好ましい。
【0030】
Cu2+は、近赤外光を吸収する効果を有する。Cu2+の含有量が0.1カチオン%未満であると、近赤外光吸収フィルターとして必要な近赤外光の吸収効果が十分ではなく、その含有量が10カチオン%を超えると耐失透性が悪化する。したがって、Cu2+の含有量を0.1〜10カチオン%とする。Cu2+の含有量の好ましい範囲は、1〜10カチオン%、より好ましい範囲は、2〜7カチオン%、さらに好ましい範囲は3〜6カチオン%である。
【0031】
Ce2+、Sb3+は、Cl、Br、IによるCu2+の還元を抑え、波長400nm付近の透過率低下を防止する効果と、ガラス製造器具を構成する白金合金や金合金などの金属、あるいは白金合金や金合金などの合金へのガラス融液の侵蝕性を抑制する効果がある。Ce2+およびSb3+の合計含有量が0.01カチオン%未満であると、波長400nm付近の透過率低下抑制効果、金属や合金の侵蝕抑制効果を十分得ることが難しく、2カチオン%を超えると、Ce2+、Sb3+自体の可視域における光吸収が増大してしまう。したがって、Ce2+およびSb3+の合計含有量を0.005〜2カチオン%の範囲とする。Ce2+およびSb3+の合計含有量の好ましい範囲は、0.008〜1カチオン%、より好ましい範囲は0.008〜0.1カチオン%、さらに好ましい範囲は0.008〜0.08カチオン%、一層好ましい範囲は0.008〜0.06カチオン%、なお一層好ましい範囲は0.009〜0.05カチオン%である。
【0032】
Ce2+、Sb3+のうち、Ce2+は青色光線の透過率を高める働きをし、可視短波長域の青色の透過率の低下を抑制し、可視域における透過率をフラットにする働きがある。こうした働きは、半導体イメージセンサーの色感度補正の観点から好ましい。またCeは、Sbと比較し、環境への負荷が少ない。このようなり理由から、Ce2+、Sb3+のうちCe2+を使用することが好ましい。Ce2+の含有量の好ましい範囲は、0.005〜2カチオン%の範囲とする。Ce2+の含有量の好ましい範囲は0.008〜1カチオン%、より好ましい範囲は0.008〜0.1カチオン%、さらに好ましい範囲は0.008〜0.08カチオン%、一層好ましい範囲は0.008〜0.06カチオン%、なお一層好ましい範囲は0.009〜0.05カチオン%である。Sb3+の含有量は上記理由より低減することが好ましく、Sb3+の含有量の好ましい範囲は0〜1カチオン%、より好ましい範囲は0〜0.1カチオン%、さらに好ましい範囲は0〜0.08カチオン%、なお一層好ましい範囲は0〜0.05カチオン%である。Sb3+の含有量を0カチオン%とすることもできるが、なお、Sb3+添加の効果を得る場合は、Sb3+の含有量を上記範囲内において、0.008カチオン%以上にすることが好ましく、0.009カチオン%以上にすることがより好ましく、0.01カチオン%以上にすることがさらに好ましい。
【0033】
なお、Ce2+、Sb3+の各含有量、Ce2+およびSb3+の含有量は、Ce2+およびSb3+以外のカチオン成分の合計量を100%として、外割り計算した値である。
【0034】
その他、含有させることができるカチオン成分としては、Zn2+などがある。Zn2+は、熔融性や耐失透性の向上に有効な成分である。Zn2+の含有量が6カチオン%を超えると耐失透性が低下傾向を示すため、Zn2+の含有量を0〜6カチオン%の範囲にすることが好ましく、0〜4カチオン%の範囲にすることがより好ましく、0〜2カチオン%の範囲とすることがさらに好ましく、0〜1カチオン%の範囲とすることが一層好ましく、0カチオン%とすることもできる。
【0035】
なお、発明の課題を解決する上から、P5+、Al3+、Li、Na、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Cu2+の合計含有量が95カチオン%以上であることが好ましく、97カチオン%以上であることがより好ましく、98カチオン%以上であることがさらに好ましく、99カチオン%以上であることが一層好ましく、99.8カチオン%以上であることがより一層好ましく、100カチオン%であることがなお一層好ましい。
【0036】
2−およびFは、ともに主要なアニオン成分である。
【0037】
2−の含有量が50アニオン%未満であると、ガラスの耐候性が低下する。また、製造時のガラスの粘度が高くなり過ぎ、成形が困難になる。ガラスの粘度を成形に適した範囲にするためには、熔融温度を高くせざるを得ず、ガラス中のCu2+が還元して波長400nm付近の透過率が低下するという問題が生じる。一方、O2−の含有量が75アニオン%を越えると、均質なガラスを得るために、熔融温度を高くせざるを得ず、ガラス中のCu2+が還元して波長400nm付近の透過率が低下するという問題が生じる。したがって、O2−の含有量は50〜75アニオン%の範囲とする。O2−の含有量の好ましい範囲は、50〜70アニオン%、より好ましい範囲は、50〜65アニオン%、さらに好ましい範囲は50〜63アニオン%である。
【0038】
の含有量が25アニオン%未満であると、均質なガラスを得るために、熔融温度を高くせざるを得ず、ガラス中のCu2+が還元して波長400nm付近の透過率が低下するという問題が生じる。一方、Fの含有量が50アニオン%を越えると、ガラスの耐候性が低下する。また、製造時のガラスの粘度が高くなり過ぎ、成形が困難になる。したがって、Fの含有量を25〜50アニオン%の範囲とする。Fの含有量の好ましい範囲は30〜50アニオン%、より好ましい範囲は35〜50アニオン%、さらに好ましい範囲は37〜50アニオン%、一層好ましい範囲は38〜49アニオン%である。
【0039】
Cl、Br、Iの働きについては、先に説明したとおりである。Cl、BrおよびIの合計含有量が0.001アニオン%未満であると、ガラス融液の濡れ上がり抑制効果を十分得ることが難しく、1アニオン%を超えるとCu2+が還元されてCuとなり、波長400nm付近の透過率が低下したり、ノズルあるいはガラス熔融容器を構成する白金、白金合金、金、金合金等の材料のガラス融液による侵蝕が増大し、前記材料が異物としてガラスに混入するなどの問題を生じさせる。したがって、Cl、BrおよびIの合計含有量を0.001〜1アニオン%の範囲とする。Cl、BrおよびIの合計含有量の好ましい範囲は0.005〜0.5アニオン%、より好ましい範囲は0.008〜0.1アニオン%、さらに好ましい範囲は0.008〜0.07アニオン%、一層好ましい範囲は0.008〜0.06アニオン%、なお一層好ましい範囲は0.009〜0.05アニオン%である。
【0040】
なお、Cl、BrおよびIの各含有量、Cl、BrおよびIの合計含有量は、Cl、BrおよびI以外のアニオン成分の合計量を100アニオン%とし、外割り計算した値である。
【0041】
Cl、BrおよびIの中で最も優れた効果を示すものはClであるので、Cl、BrおよびIのうち、Clのみを添加することが好ましい。Clの含有量の好ましい範囲は0.005〜0.5アニオン%、より好ましい範囲は0.008〜0.1アニオン%、さらに好ましい範囲は0.008〜0.07アニオン%、一層好ましい範囲は0.008〜0.06アニオン%、なお一層好ましい範囲は0.009〜0.05アニオン%である。
【0042】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、フツリン酸ガラスであり、アニオン成分中の大部分をO2−およびFが占める。すなわち、O2−およびFの合計含有量としては、95アニオン%以上であることを目安にすることができる。優れた耐候性、波長400nm付近における高透過率の維持、優れた耐失透性を実現する上から、O2−およびFの合計含有量を96アニオン%以上とすることが好ましく、97アニオン%以上とすることがより好ましく、98アニオン%以上にすることがさらに好ましく、100アニオン%とすることが一層好ましい。発明の目的を達成する上から、アニオン成分としては、O2−、F、ならびにCl、Br、Iの中より選ばれる少なくとも1種以上のハロゲン成分からなることが好ましい。
【0043】
次に本発明の近赤外光吸収ガラスに含有させることが好ましくない成分について説明する。Pb、As、Cd、Cr、U、Thは、環境への負荷を考慮し、いずれも含有させないことが好ましい。
【0044】
Agは、熔解しにくく、ガラスの均質性を低下させ、光の散乱源になる。そのため、Agの含有量を、AgOに換算して、外割りで0.1質量%未満に抑えるべきである。上記表示法にて、Agの含有量の好ましい範囲は0.05質量%未満、より好ましい範囲は0.01質量%未満、さらに好ましい範囲は0.005質量%未満、一層好ましい範囲は0.001質量%未満であり、Agを含有させないことがより一層好ましい。
【0045】
Vは、波長400nm付近の透過率を低下させる作用がある。そのため、Vの含有量を、Vに換算して、外割りで0.02質量%未満に抑えるべきである。上記表示法にて、Vの含有量の好ましい範囲は0.01質量%以下、より好ましい範囲は0.005質量%以下、さらに好ましい範囲は0.001質量%以下であり、Vを含有させないことが一層好ましい。
【0046】
Coは、可視域の吸収を増大させ、波長400nm付近の透過率を低下させる作用がある。したがって、CoOの含有量を、CoOに換算して、外割りで0.01質量%未満にすることが好ましく、0.008質量%以下にすることがより好ましく、0.005質量%以下にすることがさらに好ましく、0.001質量%以下にすることが一層好ましく、Coを含有させないことがより一層好ましい。
【0047】
フツリン酸ガラスは融液状態でノズル外周面へ濡れ上がりやすいという性質に加え、著しい揮発性を示す。この揮発性により、ガラス融液の一部が変質し、成形したガラスに脈理が生じる原因となる。また、ガラス融液を連続的に流出、成形する工程で、揮発によってガラス組成が時間の経過とともに変化し、それに伴い、ガラスの特性も時間とともに変動してしまうという問題がおこる。
【0048】
このような問題を解消する上から、融液状態における揮発性を抑制したガラスが望まれる。フツリン酸ガラスからなる近赤外光吸収ガラスの揮発性を抑制する上から、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比(O2−/P5+)を3.5以上にすることが好ましい。ここで、P5+の含有量、O2−の含有量は、ともに、カチオン成分、アニオン成分を問わず、全ガラス成分の合計含有量を100%としたときのP5+の含有比、O2−の含有比を意味する。
【0049】
モル比(O2−/P5+)が3.5未満であると、ガラス熔融中、著しい揮発性を有するフッ化ホスホニルが生成し、ガラスの揮発性が顕著になるが、モル比(O2−/P5+)を3.5以上にすることにより、フッ化ホスホニルの生成を抑制し、ガラスの揮発性が抑制され、揮発によるガラス組成の変化、および組成変化による光学特性等の諸特性の変化を抑制することができる。また、揮発性の抑制によって脈理の発生を防止し、均質なガラスを容易に得ることができる。このような理由から、モル比(O2−/P5+)の好ましい範囲は3.5以上、より好ましい範囲は3.53以上、さらに好ましい範囲は3.55以上である。一方、ガラスの熱的安定性を良好に維持する上から、モル比(O2−/P5+)を4.0以下の範囲にすることが好ましく、3.8以下の範囲にすることがより好ましく、3.7以下にすることがさらに好ましい。
【0050】
上記ガラスの製造では、メタ燐酸塩、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、沃化物などを適宜用いて、所望の組成になるよう原料を秤量し、混合した後、耐熱性坩堝、例えば白金あるいは白金合金製坩堝中にて800〜900℃にて加熱、熔解する。その際、フッ素成分の揮発を抑制するため坩堝に白金等の耐熱蓋を被せることが望ましい。熔融状態のガラスを攪拌、清澄を行い、泡を含まず、均質なガラス融液を白金製、白金合金製、金製、金合金製のいずれからのガラス流出用ノズルから流し出して成形する。
【0051】
ガラス流出時、ガラス融液中に含まれるCl、Br、Iの少なくとも1種以上のハロゲン成分により、ノズル先端から流出するガラス融液が、ノズル先端からノズル外周面へと濡れ上がる現象を抑制する効果が得られる。その結果、濡れ上がったガラス融液が変質し、変質後に流出するガラス融液に取り込まれ、脈理や失透などの欠点になる現象を低減、防止することができる。
【0052】
半導体イメージセンサーを備えるコンパクトな撮像系を構成するための近赤外光吸収フィルターを提供する上から、本発明の近赤外光吸収ガラスにおいて、波長615nmにおける外部透過率が50%になるガラスの厚さが0.5mm以下であるガラスが好ましく、0.4mm以下であるガラスがより好ましく、0.35mm以下であるガラスがさらに好ましい。外部透過率とは、ガラスの2つの平行な平面に対して垂直に強度Iinの光線を入射し、ガラスを透過した光線の強度をIoutとしたとき、Iinに対するIoutの比(Iout/Iin)のことである。
【0053】
近赤外光のカット機能を高めつつ、可視光の透過率を高く保つことが、半導体イメージセンサーの色感度補正用フィルターに求められる。このような観点から、波長615nmにおける外部透過率が50%になる厚さのガラスにおいて、波長400nmにおける外部透過率が80%以上であることが好ましく、83%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。近赤外光の吸収に関しては、上記厚さのガラスにおいて、波長1200nmにおける外部透過率が25%で以下であることが好ましく、22%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、19%以下であることが一層好ましい。
【0054】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、上記厚さにおいて、波長615nmより長波長で外部透過率が急激に単調減少し、近赤外光をカットする。さらに長波長になると外部透過率が僅かに増加に転じるが、波長1200nmにおける外部透過率が25%以下であれば、近赤外光吸収効果に支障が出ることはない。
【0055】
ガラス成形方法は、キャスト、パイプ流出、ロール、プレスなど従来から用いられている方法を使用できる。
【0056】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、耐候性に優れている。長期的な使用に耐えるためには、優れた耐候性が必要である。耐候性が低いとガラス表面に曇りが発生し、近赤外光吸収フィルターなどの用途に耐えられないものとなってしまう。耐候性は光学研磨したガラス試料を60℃、相対湿度80%の条件で1000時間保持した後、試料の光学研磨された表面の焼け状態を目視観察して調べる。その結果、焼け状態が観察されなければ長期的な使用に十分耐え得る良好な耐候性を確認できる。本発明の近赤外光吸収ガラスは上記条件のもと焼け状態は観察されず、良好な耐候性を有していることが確認されている。
【0057】
[近赤外光吸収フィルター]
本発明の近赤外光吸収フィルターは、上記近赤外光吸収ガラスを用いたフィルターである。
【0058】
上記近赤外光吸収フィルターの作製例は以下のとおりである。
【0059】
まず、上記ガラスが得られるよう清澄、均質化した熔融ガラスを溶かして、パイプから流出し鋳型に流し込んで、板厚の厚い、大判のガラスブロックを成形する。例えば、平坦かつ水平な底面と、この底面を挟んで互いに平行に対向する一対の側壁と、一対の側壁の間に位置する一方の開口部を塞ぐ堰板によって構成された鋳型を用意し、この鋳型に白金合金製のパイプから一定の流出スピードで均質化された熔融ガラスを鋳込む。鋳込まれた熔融ガラスは鋳型内に広がり、一対の側壁によって一定の幅に規制された板状ガラスに成形される。成形された板状ガラスは、鋳型の開口部から連続的に引き出されていく。ここで鋳型の形状、寸法、熔融ガラスの流出スピードなどの成形条件を適宜設定することにより、大判かつ肉厚のガラスブロックを成形することができる。
【0060】
成形されたガラスブロックは、予めガラスの転移温度付近に加熱されたアニール炉に移され、室温まで徐冷される。徐冷によって歪が除かれたガラスブロックには精度のよいスライス、研削、研磨加工が施され、両面が光学研磨されたガラス板を得ることができる。このガラス板でも近赤外光吸収フィルターとして使用できるが、上記ガラス板を貼り合わせて近赤外光吸収フィルターを作ることもできる。両面とも光学研磨された板状の水晶を両面を光学研磨した板状の近赤外光吸収ガラスの片面に貼り合わせ、水晶の片面には可視光を透過し両面とも光学研磨された板状の光学ガラス、例えばBK−7(ホウケイ酸塩光学ガラス)を貼り合わす。このような構造によって近赤外光吸収フィルターは構成されるが、前記板状光学ガラスの片面にもう一枚、可視光を透過し両面とも光学研磨された板状の光学ガラス(例えばBK−7)を貼り合わせてもよい。フィルターの表面には必要に応じて光学多層膜を形成する。
【0061】
以上、ガラスブロックをガラス板に加工する場合について説明したが、ガラスブロックを研削、研磨してレンズを作製したり、その他の形状に加工することもできる。
【0062】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、フツリン酸ガラスであり、ガラス転移温度が低いので、精密プレス成形(モールド成形)によって成形後に光学機能面に研削や研磨などの機械加工を施すことなしに、レンズ、回折格子などの光学素子を成形することもできる。例えば、SiC、超硬材などの公知のプレス成形型材の成形面を非球面レンズのレンズ面を反転した形状に高精度に加工して、上型、下型を作製し、これら上下型、あるいは必要に応じて公知の胴型や上下型案内部材を用いて、本発明の近赤外光吸収ガラスからなるガラスプリフォームを加熱、精密プレス成形する。このようにして成形面をガラスに精密に転写し、非球面レンズを作製することができる。このような非球面レンズも、本発明の近赤外光吸収フィルターである。このようにして得られた非球面レンズは、半導体イメージセンサーの受光面に被写体の像を結像するための光学系の一部、あるいは全部を構成することもでき、撮像装置における光学部品点数を少なくできるとともに省スペース化、低コスト化に有効である。
【0063】
プレス成形型材の成形面に回折格子を反転した形状に高精度に加工して、上型、下型を作製し、上記方法と同様にしてガラスプリフォームを精密プレス成形することにより、回折格子付きの近赤外光吸収フィルターとすることもできる。
【0064】
回折格子付き近赤外光吸収フィルターは、半導体イメージセンサーに入射する光のオプティカルローパスフィルターとして機能する。したがって、近赤外光吸収フィルターとオプティカルローパスフィルターを一つの素子とすることができるので、撮像装置における光学部品点数を少なくできるとともに省スペース化、低コスト化が可能になる。
【0065】
なお、プレス成形型材の成形面をレンズ面(例えば、非球面レンズのレンズ面)を反転した形状としつつ、回折格子の溝を反転した形状に精密に加工し、上記方法と同様にして精密プレス成形すれば、近赤外光吸収機能、光学的なローパスフィルター機能およびレンズ機能を兼備する近赤外光吸収フィルターを作製することができる。
プレス成形型成形面には必要に応じて公知の離型膜を形成してもよい。その他、精密プレス成形の諸条件は公知のものを適用しつつ、目的とする近赤外光吸収フィルターの具体的仕様により適宜決めればよい。
【0066】
このように精密プレス成形により近赤外光吸収フィルターを作製することにより、非球面レンズ、回折格子付きオプティカルローパスフィルター、オプティカルローパスフィルターとして機能する回折格子を備えた非球面レンズなど、研削、研磨による量産が適さない素子も高い生産性のもとに製造することができる。
近赤外光吸収フィルターの表面には必要に応じて反射防止膜などの光学多層膜を形成してもよい。
【0067】
本発明の近赤外光吸収フィルターによれば、可視光の透過率が高く、近赤外光の吸収が大きいので、半導体撮像素子の色感度補正を良好に行うことができる。また、光学的に均質性の高いフィルターとすることもできる。
【0068】
[撮像装置]
本発明の撮像装置は、上記本発明の近赤外光吸収フィルターと、半導体イメージセンサーとを備えた撮像装置である。
【0069】
ここで、近赤外光吸収フィルターとしては、先に例示したものを使用することができる。半導体イメージセンサーは、パッケージ内にCCDやCMOSなどの半導体撮像素子を装着し、受光部を透光性部材でカバーしたものである。透光性部材を近赤外光吸収フィルターで兼ねることもできるし、透光性部材を近赤外光吸収フィルターとは別個のものとすることもできる。
【0070】
本発明の撮像装置は、半導体イメージセンサーの受光面に被写体の像を結像するためのレンズ、あるいはプリズムなどの光学素子を備えることもできる。
【0071】
本発明の撮像装置によれば、光学的均質性に優れ、可視域の透過率が高く、近赤外域の吸収が大きい近赤外光吸収フィルターを搭載しているので、色感度補正が良好になされ、優れた画質の画像を得ることが可能な撮像装置を提供することができる。
【実施例】
【0072】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1〜6)
メタ燐酸塩、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、塩化物などを適宜用いて、表1の組成になるように原料を秤量し、混合した後、耐熱性坩堝、例えば白金あるいは白金合金製坩堝中にて800〜900℃にて加熱、熔解する。その際、フッ素成分の揮発を抑制するため坩堝に白金等の耐熱蓋を被せた。熔融状態のガラスを攪拌、清澄を行い、泡を含まず、均質なガラス融液を、白金製、白金合金製、金製、金合金製の各ガラス流出用ノズルから鋳型に流し出して板状のブロックに成形し、室温までアニール処理して近赤外光吸収ガラスを得た。
【0074】
【表1】

【0075】
ガラス流出用ノズルからガラス融液を流出させる際、ノズル先端を観察したところ、ノズル外周面へのガラス融液の濡れ上がりはほとんど見られなかった。
【0076】
また、成形したガラスを観察したところ、実施例1、2、4、5のガラスについては、脈理や失透は認められず、光学的に均質なガラスが得られていることを確認した。また、ガラス中に白金異物や金異物などの異物も認められなかった。
【0077】
実施例3、6のガラスについては、ガラス表面層に融液状態での揮発により生じたと思われる脈理が僅かに認められたが、内部は光学的に均質であり、ガラス全体に失透や白金異物や金異物などの異物は認められなかった。
【0078】
次に、上記各種ガラスを用いて得られたガラスブロックより各種測定用のサンプルを切り出し、以下のようにして光線透過率を求めた。
【0079】
表1に記載の厚さ(λ50が615nmとなる厚さ)に両面光学研磨加工したガラスを用い、波長200〜1200nmの分光透過率を、分光光度計を使用して測定した。上記測定結果から、波長400nmおよび1200nmにおける外部透過率を求めた。測定結果を表1に示す。
【0080】
実施例1〜6の各ガラスは、可視光の透過および近赤外光の吸収が十分であり、近赤外光遮断コートを形成しなくても、CCDやCMOSなどの半導体イメージセンサーの色感度を良好に補正することができる透過率特性を有する。
【0081】
実施例1〜6の各ガラスからなり、表面を光学研磨したガラス試料を作製し、これら試料を60℃、相対湿度80%の条件で1000時間保持した後、光学研磨した表面のヤケ状態を目視にて観察した。その結果、いずれの試料の表面にも、ヤケ状態は観察されず、良好な耐候性を有していることを確認した。
【0082】
(比較例1)
Cl、Br、Iのいずれも含まない点を除き、実施例1〜6の各ガラスと同じ組成を有するガラスを、実施例1〜6と同様の方法で作製した。ガラス流出用ノズルからガラス融液を流出させる際、ノズル先端を観察したところ、ノズル外周面へのガラス融液の著しい濡れ上がりが見られた。また、成形したガラスを観察したところ、上記実施例の各ガラスよりも顕著な脈理が認められた。
【0083】
(比較例2)
Ce4+およびSb3+を含まない点を除き、実施例1〜6の各ガラスと同じ組成を有するガラスを、実施例1〜6と同様の方法で作製した。ガラス流出用ノズルからガラス融液を流出させる際、ノズル先端を観察したところ、ノズル外周面へのガラス融液の濡れ上がりは見られず、成形したガラスに脈理は認められなかったものの、実施例1〜6と同様、λ50が615nmとなる厚さに両面光学研磨加工したガラスを用い、波長200〜1200nmの分光透過率を測定したところ、波長400nmにおける外部透過率は80%未満であった。
【0084】
成形したガラスを観察したところ、僅かながら白金異物の混入が認められた。
【0085】
(実施例7)
実施例1〜6と同様にして、ガラスを熔解、清澄、均質化し、鋳型に鋳込んで実施例1〜6と同様の組成を有するガラスからなる板状ガラスを成形した。この板状ガラスをスライスした後、両面に光学研磨を施して所望の厚みのガラス板とした。このガラス板をダイシング加工して前記厚みを有する所望の大きさの近赤外光吸収ガラス板を得た。ガラス板の厚みは波長615±10nmにおいて透過率50%となる肉厚(表1の測定厚さに相当する肉厚)とし、サイズは10mm×10mm〜30mm×30mmとした。次に、板状に加工された水晶と2枚の光学ガラス(BK−7)からなる薄板ガラスを準備し、それぞれの両面に光学研磨を施した。そして、近赤外光吸収ガラスからなるガラス板、水晶、BK−7製薄板ガラス2枚の順に積層されるように光学研磨された面で各薄板を貼り合わせ、最外表面に反射防止膜を設けて近赤外光吸収フィルター機能を有する近赤外光吸収素子を作製した。この素子をCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の受光面前側に配置して撮影された画像を観察した結果、良好な色補正がなされていることを確認した。
【0086】
(実施例8)
実施例1〜6と同様にして、ガラスを熔解、清澄、均質化してガラス融液とし、白金製ノズルから流下させた。そして、適量のガラス融液を受け型に受けて、球状のガラスプリフォームを成形した。成形されたプリフォームを一旦、室温まで冷却し、再度、窒素ガス、あるいは窒素と水素の混合ガスのような非酸化性雰囲気中で再加熱、軟化して、プレス成形型でプレスした。プレス成形型の成形面は予め、目的とする光学素子の形状を反転した形状に精密に加工され、上記プレス工程ではこれら成形面をガラスに精密に転写した。プレス成形型中でガラスが変形しない温度にまで冷却した後、プレス成形した光学素子を成形型から取り出し、アニールした。このようにして非球面レンズや回折格子などの光学素子を得ることができた。また、レンズ表面に回折格子を有する素子を精密プレス成形によって作ることもできる。
【0087】
なお、実施例7と同様にして実施例1〜6の各ガラスからなるガラスブロックを作製して、歪みを低減し、切断、研削、研磨して球状のガラスプリフォームを作製し、上記方法と同様にして精密プレス成形法により、非球面レンズや回折格子などの光学素子、あるいは、レンズ表面に回折格子を有する近赤外光吸収フィルターを作製することもできる。
レンズの形状としては凸メニスカス形状、凹メニスカス形状、両凸形状、両凹形状、平凸形状、平凹形状などの諸形状のものを作ることができるが、レンズ光軸からの距離によってレンズ内を進む光線がレンズを通過する距離ができるだけ等しくすることにより、レンズ光軸からの距離によらず、一定の近赤外光吸収が得られるようにすることが好ましい。そのためには、レンズ形状を凸メニスカス形状あるいは凹メニスカス形状とすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、優れた可視光域の高透過性、優れた近赤外域吸収特性、優れた均質性などを有する近赤外光吸収フィルターなどの近赤外光吸収素子に好適に用いられる。また、前記近赤外光吸収フィルターは、特にデジタルカメラやVTRカメラ等に用いられるCCDやCMOS等の撮像素子の色感度を補正に好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu含有のフツリン酸ガラスからなる近赤外光吸収ガラスにおいて、
5+の含有量が20〜45カチオン%、
Al3+の含有量が1〜25カチオン%、
Liの含有量が10〜30カチオン%、
Naの含有量が0〜15カチオン%、
Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が14〜50カチオン%、
Cu2+の含有量が0.1〜10カチオン%、
Ce4+およびSb3+の外割り合計含有量が0.005〜2カチオン%、
2−の含有量が50〜75アニオン%、
の含有量が25〜50アニオン%、
Cl、BrおよびIの外割り合計含有量が0.001〜1アニオン%、
であることを特徴とする近赤外光吸収ガラス。
【請求項2】
5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比(O2−/P5+)が3.5以上である請求項1に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項3】
Ce2+を0.01〜2カチオン%含む請求項1または2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の近赤外光吸収ガラスを用いた近赤外光吸収フィルター。
【請求項5】
請求項4に記載の近赤外光吸収フィルターと、半導体イメージセンサーとを備えた撮像装置。


【公開番号】特開2011−132077(P2011−132077A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293911(P2009−293911)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】