説明

追尾装置

【課題】高い追尾性能を得ることができ、しかも、多目標を追尾する場合であっても処理負荷を低減することができる追尾装置。
【解決手段】座標系を指定する座標系制御部6と、入力された観測値の座標系を、座標系制御部から指定された座標系に座標変換する観測値用座標変換部1aと、座標系制御部から指定された座標系において、観測値用座標変換部で座標変換することにより得られた観測値と追尾している目標の航跡との相関をとる相関処理部2aと、相関処理部で相関がとられた結果に対して、座標系制御部によって指定された座標系において、フィルタリング処理を実施するフィルタリング処理部4aとを備え、座標系制御部6は、観測値用座標変換部に入力される観測値に応じて、観測値用座標変換部、相関処理部およびフィルタリング処理部で使用する座標系を該追尾装置の運用中に切り換え制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーダに適用される追尾装置に関し、特に多目標を追尾する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、非特許文献1に開示されている追尾装置の構成を主要構成要素とする従来の追尾装置の構成を示すブロック図である。この追尾装置は、観測値用座標変換部1、相関処理部2、トラックファイルメンテナンス部3、フィルタリング処理部4、トラックファイル15および出力用座標変換部5から構成されている。観測値用座標変換部1は、図示しないレーダから送られてくる観測値の座標系Aを、予め指定された座標系Bに座標変換し、この座標変換により得られた観測値を相関処理部2へ送る。
【0003】
相関処理部2は、ゲーティング処理器11と連結処理器12とから構成されている。ゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4の予測処理器14から送られてくる予測値を中心とする所定幅(以下、「ゲート」という)を開き、観測値用座標変換部1から送られてくる観測値がゲート内にあるか否かを判定し、ゲート内にある観測値を連結処理器12に送る。連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートとを一対一に対応させ、換言すれば、観測値と予測値とを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。
【0004】
トラックファイル15は、追尾している目標に関する平滑値や予測値(詳細は後述する)等を格納する。トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2から送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15を更新する。具体的には、トラックファイルメンテナンス部3は、例えば、相関処理部2から送られてくる観測値が従来の観測値と相関がない場合は、新たな目標である旨を認識してトラックファイル15を新たに作成したり、観測値が連続的に観測されない場合は、トラックファイル15を削除したりする処理を実行する。
【0005】
フィルタリング処理部4は、平滑処理器13と予測処理器14とから構成されている。平滑処理器13は、相関処理部2から連結がとれた観測値が入力されると、予測処理器14から送られてくる予測値を用いて平滑処理を実施することにより平滑値を生成し、この生成した平滑値をトラックファイル15へ送る。予測処理器14は、トラックファイル15に格納されているデータを用いて予測処理を実施することにより予測値を生成し、この生成した予測値を相関処理部2とトラックファイル15とに送る。
【0006】
出力用座標変換部5は、外部とインタフェースするために必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、出力用座標変換部5は、座標系Bの平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。
【0007】
次に、上記のように構成される従来の追尾装置の動作を、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。以下では、入力された観測値の座標系Aを座標系Bに変換した後に、追尾処理を実行する場合を例に挙げて説明する。ここで、座標系Bは直交座標系とする。
【0008】
まず、座標系が選択される(ステップS51)。すなわち、入力された観測値の座標系Aを座標系Bに変換すべき旨が図示しない操作装置によって指定される。次いで、観測値等が入力される(ステップS52)。すなわち、図示しないレーダから送られてくる観測値およびこの観測値が得られた際の動作モード(捜索または追尾)を示すデータが観測値用座標変換部1に入力される。
【0009】
次いで、観測値の座標変換が行われる(ステップS53)。すなわち、観測値用座標変換部1は、入力された観測値の座標系Aを、ステップS51において選択された座標系Bに座標変換し、この座標変換により得られた直交座標系の観測値を相関処理部2へ送る。なお、観測値用座標変換部1から出力される観測値の座標系は、任意に選択できるが、一度座標系を決定すると、その後に変更されることはない(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
次いで、予測処理が行われる(ステップS54)。すなわち、フィルタリング処理部4の予測処理器14は、先の処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、直交座標系の予測値を算出する。次いで、ゲーティング処理が行われる(ステップS55)。すなわち、相関処理部2のゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4の予測処理器14から送られてくる直交座標系の予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1から送られてくる直交座標系の観測値がゲート内にあるか否かを調べ、ゲート内にあることが判定された観測値を連結処理器12に送る。
【0011】
次いで、連結処理が行われる(ステップS56)。すなわち、相関処理部2の連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が行われる(ステップS57)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2から送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15の新規作成や削除を行う。また、トラックファイル15に格納されている、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を更新する。
【0012】
次いで、平滑処理が行われる(ステップS58)。すなわち、フィルタリング処理部4の平滑処理器13は、相関処理部2において連結がとれた直交座標系の観測値が入力されると、予測処理器14から出力された直交座標系の予測値を用いて、直交座標系の平滑処理を実施し、この平滑処理により得られた直交座標系の平滑値をトラックファイル15へ格納する。なお、レーダの動作モードが追尾の場合、図7には図示していないが、予測処理が行われる。すなわち、予測処理器14は、トラックファイル15に格納された直交座標系のデータを用いて、直交座標系の予測処理を実施し、この予測処理により得られた直交座標系の予測値を相関処理部2とトラックファイル15へ送る。
【0013】
次いで、平滑値等の座標変換が行われる(ステップS59)。すなわち、出力用座標変換部5は、外部とのインタフェースが必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、直交座標系の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。その後、シーケンスはステップS51に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0014】
なお、関連する技術として、特許文献1は、追尾条件によって特性の好ましい座標系の追尾出力を選択し、追尾性能の維持を図ることができる追尾装置を開示している。この追尾装置は、追尾目標の観測値ベクトルのうち、追尾ゲート内に存在する観測値ベクトルを抽出するゲート内外判定手段、ゲート内外判定手段を介して入力される追尾目標の観測値ベクトルに基づいて北基準直交座標系で定義した追尾目標の運動緒元を出力する追尾フィルタ手段、ゲート内外判定手段を介して入力される追尾目標の観測値ベクトルに基づいて極座標系で定義した追尾目標の運動緒元を出力する追尾フィルタ手段、追尾目標との相対距離により、北基準直交座標系または極座標系のいずれかの追尾フィルタ手段の出力を選択する追尾出力選択手段および追尾出力選択手段の出力に基づいて追尾目標の観測値ベクトルが得られる領域の追尾ゲートを算出するゲート算出手段を備える。
【特許文献1】特開2001−83240号公報
【非特許文献1】吉田孝監修、「改訂レーダ技術」、初版、社団法人電子情報通信学会、平成15年2月15日、pp254−272
【非特許文献2】"Multiple-Target Tracking with Radar Applications", Samuel S. Blackman, ARTECH HOUSE, 1986
【非特許文献3】X. R. Li and V. P. Jilkov, "A survey of maneuvering target tracking-part III: Measurement models, "Proc. 2001 SPIE Conf. Signal and Data Processing of Small Targets, vol.4473,San Diego, CA, July-August 2001, pp. 423-446
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した従来の追尾装置は、極座標系またはRUV座標系(非特許文献3)で追尾処理を実施する場合は、レーダから送られてくる観測値は極座標系またはRUV座標系であるので、座標変換を実施する必要がなく、また、観測値の誤差、つまり距離の誤差や、アジマス誤差またはエレベーション誤差といった角度の誤差が軸独立に得られるので共分散行列の計算が簡単になり、処理負荷を低くすることができる。
【0016】
その反面、極座標系またはRUV座標系で追尾処理を実施する場合は、直交座標系で定義される目標の等速運動や加速運動といった動きを、極座標系またはRUV座標系に変換すると、非線形変換による運動モデルの近似化が行われるのでモデル化誤差が生じ、例えば直交座標系で等速運動をしている目標が、極座標系またはRUV座標系では等速運動に見えない事態が生じる。その結果、目標の追尾性能が低くなるという問題がある。
【0017】
逆に、直交座標系の追尾処理を実施する場合は、運動モデルの近似化によるモデル化誤差は生じないので追尾性能を高くすることはできるが、レーダから送られてくる極座標系またはRUV座標系の観測値を直交座標系に座標変換する必要があり、また、距離や角度の誤差がXYZ軸に分解されるので共分散行列の計算が複雑になり、処理負荷が高くなるという問題がある。
【0018】
また、特許文献1に開示された追尾装置では、極座標系と直交座標系のフィルタリング処理を並列に実施(極座標系と直交座標系の追尾フィルタを並列に動作)させ、その出力を選択または合成するので、直交座標系のフィルタリング処理を単独で実施(直交座標系の追尾フィルタのみ動作)するよりも、処理負荷が高くなる。特に、多目標を追尾する場合は目標の数に応じて処理負荷が高くなり、処理能力を超えてしまう場合があるという問題がある。
【0019】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、高い追尾性能を得ることができ、しかも、多目標を追尾する場合であっても処理負荷を低減することができる追尾装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、座標系を指定する座標系制御部と、入力された観測値の座標系を、座標系制御部から指定された座標系に座標変換する観測値用座標変換部と、座標系制御部から指定された座標系において、観測値用座標変換部で座標変換することにより得られた観測値と追尾している目標の航跡との相関をとる相関処理部と、相関処理部で相関がとられた結果に対して、座標系制御部によって指定された座標系において、フィルタリング処理を実施するフィルタリング処理部とを備え、座標系制御部は、観測値用座標変換部に入力される観測値に応じて、観測値用座標変換部、相関処理部およびフィルタリング処理部で使用する座標系を該追尾装置の運用中に切り換え制御することを特徴とする。
【0021】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、追尾している目標に関するデータを格納するトラックファイルと、トラックファイルに格納されているデータの座標系を座標系制御部によって指定された座標系に変換するトラックファイル用座標変換部とを備えたことを特徴とする。
【0022】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、相関処理部から出力される観測値を記録する記録部と、記録部に記憶されている観測値の座標系を座標系制御部によって指定された座標系に変換する記録部用座標変換部とを備えたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項4〜請求項6記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の発明において、座標系制御部は、観測値用座標変換部に入力される観測値によって示される目標の状態、観測値用座標変換部に入力される観測値によって示される、該観測値を取得した機器の動作モード、または、当該追尾装置の処理負荷にそれぞれ応じて、観測値用座標変換部、相関処理部およびフィルタリング処理部で使用する座標系を該追尾装置の運用中に切り換え制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、入力される観測値に応じて、追尾処理を実施する座標系を制御するので、高い追尾性能を得ることができ、しかも、多目標を追尾する場合であっても処理負荷を低減することができる。また、追尾処理全体の処理負荷を低く保ったまま、多目標の追尾を実施することが可能になる。
【0025】
また、請求項2記載の発明によれば、トラックファイル用座標変換部を備えることにより、追尾中の目標に対しても、追尾処理を実施する座標系の変更が可能になる。
【0026】
また、請求項3記載の発明によれば、記録部と記録部用座標変換部を備えることにより、追尾中の目標に対しても、追尾処理を実施する座標系を変更した際の追尾性能の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係る追尾装置を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、背景技術の欄で説明した追尾装置の構成要素と同一または相当する構成要素には、背景技術の欄で使用した符号と同一の符号を付して説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の実施例1に係る追尾装置の構成を示すブロック図である。この追尾装置は、図6に示した従来の追尾装置に、座標系制御部6が追加されるとともに、従来の追尾装置の観測値用座標変換部1、相関処理部2およびフィルタリング処理部4が、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aにそれぞれ変更されて構成されている。
【0029】
観測値用座標変換部1aは、図示しないレーダから送られてくる観測値の座標系Aを、座標系制御部6から指定された座標系B#(#は2以上の整数であり、実施例では1又は2)に座標変換し、この座標変換により得られた観測値を相関処理部2aへ送る。相関処理部2aは、座標系制御部6から指定された座標系において、観測値用座標変換部1aで座標変換することにより得られた観測値と追尾している目標の航跡(トラックファイル15に格納されているデータ)との相関をとり、その結果をフィルタリング処理部4aに送る。この相関処理部2aは、ゲーティング処理器11と連結処理器12とから構成されている。
【0030】
ゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4aの予測処理器14から送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1aから送られてくる観測値がゲート内にあるか否かを判定し、ゲート内にある観測値を連結処理器12に送る。連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートとを一対一に対応させ、換言すれば、観測値と予測値とを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。トラックファイル15は、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を格納する。トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2aから送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15の新規作成、削除及び更新を行う。
【0031】
フィルタリング処理部4aは、相関処理部2aで相関がとられた結果に対して、座標系制御部6によって指定された座標系において、フィルタリング処理を実施する。このフィルタリング処理部4aは、平滑処理器13と予測処理器14とから構成されている。平滑処理器13は、相関処理部2aから連結がとれた観測値が入力されると、予測処理器14から送られてくる予測値を用いて平滑処理を実施することにより平滑値を生成し、この生成した平滑値をトラックファイル15へ送る。予測処理器14は、トラックファイル15に格納されているデータを用いて予測処理を実施することにより予測値を生成し、この生成した予測値を相関処理部2aとトラックファイル15に送る。
【0032】
出力用座標変換部5は、従来の追尾装置のそれと同様に、外部とインタフェースするために必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、出力用座標変換部5は、座標系B#の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。
【0033】
座標系制御部6は、入力された観測値に基づき目標の高度を計算する機能を有し、この計算により得られた高度、つまり目標の状態に応じて、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aに対し、これらが使用する座標系を指定する。この座標系制御部6による座標系の変更は、当該追尾装置の運用中に動的に行われる。なお、この実施例1に係る追尾装置では、目標の状態として目標の高度を用いているが、これに限定されず、目標の状態としては、目標までの距離、目標に対する角度等を用いることもできる。
【0034】
上記のように構成される本発明の実施例1に係る追尾装置の動作を、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。以下では、目標の状態に応じて座標系を切り替える例として、目標が中低高度である場合は、地表を基準とした直交座標系(以下、「局所座標系」という)による追尾処理を実施し、目標が高高度である場合は、地球の重心を基準とした直交座標系(以下、「地球基準座標系」という)による追尾処理を実施する場合について説明する。
【0035】
座標系制御部6は、目標が中低高度である場合は、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B1として局所座標系を指定し、目標が高高度である場合は、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B2として、地球基準座標系を指定する。
【0036】
まず、観測値等が入力される(ステップS11)。すなわち、図示しないレーダから送られてくる観測値およびこの観測値が得られた際のレーダの動作モード(捜索または追尾)を示すデータが観測値用座標変換部1および座標系制御部6に入力される。次いで、目標の状態が調べられる(ステップS12)。すなわち、座標系制御部6は、入力された観測値に基づき目標が中低高度にあるか高高度にあるかを調べる。
【0037】
このステップS12において、目標が中低高度にあることが判断されると、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B1として局所座標系が選択される(ステップS13)。すなわち、座標系制御部6は、局所座標系を使用すべき旨を観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aに指示する。
【0038】
次いで、観測値の座標変換が行われる(ステップS14)。すなわち、観測値用座標変換部1aは、入力された観測値の座標系Aを、座標系制御部6から指定された座標系B1である局所座標系に座標変換し、この座標変換により得られた局所座標系の観測値を相関処理部2aへ送る。次いで、予測処理が行われる(ステップS15)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、先の処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、局地座標系の予測値を算出する。
【0039】
次いで、ゲーティング処理が行われる(ステップS16)。すなわち、相関処理部2aのゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4aの予測処理器14から送られてくる局所座標系の予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1aから送られてくる局所座標系の観測値がゲート内にあるか否かを調べ、ゲート内にあることが判定された観測値を連結処理器12に送る。
【0040】
次いで、連結処理が行われる(ステップS17)。すなわち、相関処理部2aの連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が行われる(ステップS18)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2aから送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15の新規作成や削除を行う。また、トラックファイル15に格納されている、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を更新する。
【0041】
次いで、平滑処理が行われる(ステップS19)。すなわち、フィルタリング処理部4aの平滑処理器13は、相関処理部2において連結がとれた局所座標系の観測値が入力されると、予測処理器14から出力された局所座標系の予測値を用いて、局所座標系の平滑処理を実施し、この平滑処理により得られた局所座標系の平滑値をトラックファイル15へ格納する。予測処理器14は、トラックファイル15に格納された局所座標系の平滑値を用いて、局所座標系の予測処理を実施し、この予測処理により得られた局所座標系の予測値を相関処理部2aとトラックファイル15へ送る。
【0042】
次いで、平滑値等の座標変換が行われる(ステップS20)。すなわち、出力用座標変換部5は、外部とのインタフェースが必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、局所座標系の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。その後、シーケンスはステップS11に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0043】
上記ステップS12において、目標が高高度にあることが判断されると、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B2として地球基準座標系が選択される(ステップS21)。すなわち、座標系制御部6は、地球基準座標系を使用すべき旨を観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aに指示する。
【0044】
次いで、観測値の座標変換が行われる(ステップS22)。すなわち、観測値用座標変換部1aは、入力された観測値の座標系Aを、座標系制御部6から指定された座標系B2である地球基準座標系に座標変換し、この座標変換により得られた地球基準座標系の観測値を相関処理部2aへ送る。次いで、予測処理が行われる(ステップS23)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、先の処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、地球基準座標系の予測値を算出する。
【0045】
次いで、ゲーティング処理が行われる(ステップS24)。すなわち、相関処理部2aのゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4aの予測処理器14から送られてくる地球基準座標系の予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1aから送られてくる地球基準座標系の観測値がゲート内にあるか否かを調べ、ゲート内にあることが判定された観測値を連結処理器12に送る。
【0046】
次いで、連結処理が行われる(ステップS25)。すなわち、相関処理部2aの連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が行われる(ステップS26)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2aから送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15の新規作成や削除を行う。また、トラックファイル15に格納されている、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を更新する。
【0047】
次いで、平滑処理が行われる(ステップS27)。すなわち、フィルタリング処理部4aの平滑処理器13は、相関処理部2において連結がとれた地球基準座標系の観測値が入力されると、予測処理器14から出力された地球基準座標系の予測値を用いて、地球基準座標系の平滑処理を実施し、この平滑処理により得られた地球基準座標系の平滑値をトラックファイル15へ格納する。予測処理器14は、トラックファイル15に格納された地球基準座標系の平滑値を用いて、地球基準座標系の予測処理を実施し、この予測処理により得られた地球基準座標系の予測値を相関処理部2aとトラックファイル15へ送る。
【0048】
次いで、平滑値等の座標変換が行われる(ステップS28)。すなわち、出力用座標変換部5は、外部とのインタフェースが必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、地球基準座標系の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。その後、シーケンスはステップS11に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0049】
以上説明したように、本発明の実施例1に係る追尾装置によれば、目標が中低高度の場合は、局所座標系の追尾処理を実施し、目標が高高度の場合は、地球基準座標系の追尾処理を実施するように構成したので、目標高度に応じてモデル化誤差が小さい座標系における追尾処理が可能となり、追尾性能を向上させることが可能となる。
【0050】
なお、座標系制御部6が指定する座標系は、地球基準座標系と局所座標系に限定されるものではなく、その他の座標系を用いることもできる。
【実施例2】
【0051】
本発明の実施例2に係る追尾装置は、当該追尾装置に観測値を供給するレーダの動作モード(捜索モードまたは追尾モード)に応じて追尾処理で使用する座標系を変更するようにしたものである。実施例2に係る追尾装置の構成は、実施例1に係る追尾装置の構成と同じであるので、説明を省略する。
【0052】
次に、本発明の実施例2に係る追尾装置の動作を、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。以下では、捜索と追尾を時分割で行う多機能レーダにおいて、捜索時に捜索ビームを用いて行う追尾処理(TWS:Track-While-Scan)を水準補正(姿勢補正):無の直交座標系にて、追尾時に追尾ビームを用いて行う追尾処理を水準補正:有の直交座標系にて実施する場合について説明する。
【0053】
座標系制御部6は、レーダの動作モードが捜索である場合は、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B1として水準補正:無の直交座標系を指定し、レーダの動作モードが追尾である場合は、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B2として、水準補正:有の直交座標系を指定する。
【0054】
まず、観測値等が入力される(ステップS31)。すなわち、図示しないレーダから送られてくる観測値およびこの観測値が得られた際のレーダの動作モード(捜索または追尾)を示すデータが観測値用座標変換部1および座標系制御部6に入力される。次いで、レーダの動作モードが調べられる(ステップS32)。すなわち、座標系制御部6は、レーダの動作モードが捜索モードを示しているか追尾モードを示しているかを調べる。
【0055】
このステップS32において、捜索モードであることが判断されると、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B1として水準補正:無の直交座標系が選択される(ステップS33)。すなわち、座標系制御部6は、水準補正:無の直交座標系を使用すべき旨を観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aに指示する。
【0056】
次いで、観測値の座標変換が行われる(ステップS34)。すなわち、観測値用座標変換部1aは、入力された観測値の座標系Aを、座標系制御部6から指定された座標系B1である水準補正:無の直交座標系に座標変換し、この座標変換により得られた水準補正:無の直交座標系の観測値を相関処理部2aへ送る。次いで、予測処理が行われる(ステップS35)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、先の処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、水準補正:無の直交座標系の予測値を算出する。
【0057】
次いで、ゲーティング処理が行われる(ステップS36)。すなわち、相関処理部2aのゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4aの予測処理器14から送られてくる水準補正:無の直交座標系の予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1aから送られてくる水準補正:無の直交座標系の観測値がゲート内にあるか否かを調べ、ゲート内にあることが判定された観測値を連結処理器12に送る。
【0058】
次いで、連結処理が行われる(ステップS37)。すなわち、相関処理部2aの連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が行われる(ステップS38)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2aから送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15の新規作成や削除を行う。また、トラックファイル15に格納されている、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を更新する。
【0059】
次いで、平滑処理が行われる(ステップS39)。すなわち、フィルタリング処理部4aの平滑処理器13は、相関処理部2において連結がとれた水準補正:無の直交座標系の観測値が入力されると、予測処理器14から出力された水準補正:無の直交座標系の予測値を用いて、水準補正:無の直交座標系の平滑処理を実施し、この平滑処理により得られた水準補正:無の直交座標系の平滑値をトラックファイル15へ格納する。予測処理器14は、トラックファイル15に格納された水準補正:無の直交座標系のデータを用いて、水準補正:無の直交座標系の予測処理を実施し、この予測処理により得られた水準補正:無の直交座標系の予測値を相関処理部2aとトラックファイル15へ送る。
【0060】
次いで、平滑値等の座標変換が行われる(ステップS40)。すなわち、出力用座標変換部5は、外部とのインタフェースが必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、水準補正:無の直交座標系の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。その後、シーケンスはステップS31に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0061】
上記ステップS32において、追尾モードであることが判断されると、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B2として水準補正:有の直交座標系が選択される(ステップS41)。すなわち、座標系制御部6は、水準補正:有の直交座標系を使用すべき旨を観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aに指示する。
【0062】
次いで、観測値の座標変換が行われる(ステップS42)。すなわち、観測値用座標変換部1aは、入力された観測値の座標系Aを、座標系制御部6から指定された座標系B2である水準補正:有の直交座標系に座標変換し、この座標変換により得られた水準補正:有の直交座標系の観測値を相関処理部2aへ送る。次いで、予測処理が行われる(ステップS43)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、先の処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、水準補正:有の直交座標系の予測値を算出する。
【0063】
次いで、ゲーティング処理が行われる(ステップS44)。すなわち、相関処理部2aのゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4aの予測処理器14から送られてくる水準補正:有の直交座標系の予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1aから送られてくる水準補正:有の直交座標系の観測値がゲート内にあるか否かを調べ、ゲート内にあることが判定された観測値を連結処理器12に送る。
【0064】
次いで、連結処理が行われる(ステップS45)。すなわち、相関処理部2aの連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が行われる(ステップS46)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2aから送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15の新規作成や削除を行う。また、トラックファイル15に格納されている、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を更新する。
【0065】
次いで、平滑処理が行われる(ステップS47)。すなわち、フィルタリング処理部4aの平滑処理器13は、相関処理部2において連結がとれた水準補正:有の直交座標系の観測値が入力されると、予測処理器14から出力された水準補正:有の直交座標系の予測値を用いて、水準補正:有の直交座標系の平滑処理を実施し、この平滑処理により得られた水準補正:有の直交座標系の平滑値をトラックファイル15へ格納する。予測処理器14は、トラックファイル15に格納された水準補正:有の直交座標系のデータを用いて、水準補正:有の直交座標系の予測処理を実施し、この予測処理により得られた水準補正:有の直交座標系の予測値を相関処理部2aとトラックファイル15へ送る。
【0066】
次いで、予測処理が行われる(ステップS48)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、ステップS47までの処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、水準補正:有の直交座標系の予測値を算出する。次いで、平滑値等の座標変換が行われる(ステップS49)。すなわち、出力用座標変換部5は、外部とのインタフェースが必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、水準補正:有の直交座標系の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。その後、シーケンスはステップS31に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0067】
以上説明したように、本発明の実施例2に係る追尾装置によれば、レーダの動作モードが捜索の場合は、追尾性能および処理負荷が共に低い水準補正:無の直交座標系の追尾処理を実施し、レーダの動作モードが追尾の場合は、追尾性能および処理負荷が共に高い水準補正:有の直交座標系の追尾処理を実施するので、捜索の多目標化と追尾の高性能化を実現することができる。
【実施例3】
【0068】
本発明の実施例3に係る追尾装置は、例えば高度の変化に伴って座標系が切り換えられた場合や、捜索ビームによる追尾処理と追尾ビームによる追尾処理との切り換えに伴って座標系が切り換えられた場合に、トラックファイル15の中のデータの座標変換を行って、切り換え後においても、切り換え前の座標系で使用していたデータの有効活用を図るものである。
【0069】
図4は、本発明の実施例3に係る追尾装置の構成を示すブロック図である。この追尾装置は、実施例2に係る追尾装置の構成に、トラックファイル用座標変換部7が追加されて構成されている。トラックファイル用座標変換部7は、座標系制御部6からの指示に応じて、航跡番号iの目標のトラックファイル15からRUV座標系のデータを入力して直交座標系のデータに変換し、または、航跡番号iの目標のトラックファイル15から直交座標系のデータを入力してRUV座標系のデータに変換し、トラックファイル15へ送る。
【0070】
次に、上記のように構成される本発明の実施例3に係る追尾装置の動作を説明する。以下では、捜索と追尾を時分割で行う多機能レーダにおいて、捜索時に捜索ビームを用いて行う追尾処理(TWS)をRUV座標系にて実施し、追尾時に追尾ビームを用いて行う追尾処理を直交座標系にて実施する例を示す。
【0071】
実施例3に係る追尾装置の動作は、基本的には、図3のフローチャートに示した実施例2に係る追尾装置の動作と同じである。したがって、以下では、図3に示すフローチャートを参照しながら、実施例2と相違する部分を中心に、追尾処理を説明する。
【0072】
座標系制御部6は、レーダの動作モードが捜索である場合は、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B1として、入力された観測値の座標系Aと同じRUV座標系を指定する。
【0073】
まず、観測値等が入力される(ステップS31)。次いで、レーダの動作モードが調べられる(ステップS32)。このステップS32において、捜索モードであることが判断されると、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B1としてRUV座標系が選択される(ステップS33)。すなわち、座標系制御部6は、RUV座標系を使用すべき旨を観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aに指示する。
【0074】
次いで、観測値の座標変換が行われる(ステップS34)。すなわち、観測値用座標変換部1aは、座標系制御部6から指定された座標系がRUV座標系の場合、観測値をそのまま相関処理部2aへ送る。次いで、予測処理が行われる(ステップS35)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、先の処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、RUV座標系の予測値を算出する。
【0075】
次いで、ゲーティング処理が行われる(ステップS36)。すなわち、相関処理部2aのゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4aの予測処理器14から送られてくるRUV座標系の予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1aから送られてくるRUV座標系の観測値がゲート内にあるか否かを調べ、ゲート内にあることが判定された観測値を連結処理器12に送る。
【0076】
次いで、連結処理が行われる(ステップS37)。すなわち、相関処理部2aの連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が行われる(ステップS38)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2aから送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15に格納されている、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を更新する。
【0077】
次いで、平滑処理が行われる(ステップS39)。すなわち、フィルタリング処理部4aの平滑処理器13は、相関処理部2において連結がとれたRUV座標系の観測値が入力されると、予測処理器14から出力されたRUV座標系の予測値を用いて、RUV座標系の平滑処理を実施し、この平滑処理により得られたRUV座標系の平滑値をトラックファイル15へ格納する。予測処理器14は、トラックファイル15に格納されたRUV座標系のデータを用いて、RUV座標系の予測処理を実施し、この予測処理により得られたRUV座標系の予測値を相関処理部2aとトラックファイル15へ送る。
【0078】
次いで、平滑値等の座標変換が行われる(ステップS40)。すなわち、出力用座標変換部5は、外部とのインタフェースが必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、RUV座標系の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。その後、シーケンスはステップS31に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0079】
上記ステップS32において、追尾モードであることが判断されると、観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aが使用する座標系B2として直交座標系が選択される(ステップS41)。すなわち、座標系制御部6は、直交座標系を使用すべき旨を観測値用座標変換部1a、相関処理部2aおよびフィルタリング処理部4aに指示する。
【0080】
次いで、観測値の座標変換が行われる(ステップS42)。すなわち、観測値用座標変換部1aは、追尾ビームによって検出された観測値が入力された場合、RUV座標系の観測値を、座標系制御部6から指定された直交座標系B2の観測値に座標変換し、この座標変換により得られた直交座標系の観測値を相関処理部2aへ送る。次いで、予測処理が行われる(ステップS43)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、先の処理によってトラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、RUV座標系の予測値を算出する。
【0081】
次いで、ゲーティング処理が行われる(ステップS44)。すなわち、相関処理部2aのゲーティング処理器11は、フィルタリング処理部4aの予測処理器14から送られてくる直交座標系の予測値を中心にゲートを開き、観測値用座標変換部1aから送られてくる直交座標系の観測値がゲート内にあるか否かを調べ、ゲート内にあることが判定された観測値を連結処理器12に送る。
【0082】
次いで、連結処理が行われる(ステップS45)。すなわち、相関処理部2aの連結処理器12は、ゲーティング処理器11から送られてくるゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させ、トラックファイルメンテナンス部3へ送る。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が行われる(ステップS46)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部3は、相関処理部2aから送られてくるゲート内の観測値とゲートとに基づいて、トラックファイル15に格納されている、追尾している目標に関する平滑値や予測値等を更新する。
【0083】
次いで、平滑処理が行われる(ステップS47)。すなわち、フィルタリング処理部4aの平滑処理器13は、相関処理部2において連結がとれた直交座標系の観測値が入力されると、予測処理器14から出力された直交座標系の予測値を用いて、直交座標系の平滑処理を実施し、この平滑処理により得られた直交座標系の平滑値をトラックファイル15へ格納する。予測処理器14は、トラックファイル15に格納された直交座標系のデータを用いて、直交座標系の予測処理を実施し、この予測処理により得られた直交座標系の予測値を相関処理部2aとトラックファイル15へ送る。
【0084】
次いで、予測処理が行われる(ステップS48)。すなわち、フィルタリング処理部4aの予測処理器14は、トラックファイル15に格納されたデータを用いて予測処理を実施し、直交座標系の予測値を算出する。次いで、平滑値等の座標変換が行われる(ステップS49)。すなわち、出力用座標変換部5は、外部とのインタフェースが必要なデータのうち、座標変換が必要なデータをトラックファイル15から入力し、予め設定された出力用座標系Cに変換して出力する。例えば、出力用座標系Cが北基準直交座標系の場合、直交座標系の平滑値を北基準直交座標系の平滑値に変換して出力する。その後、シーケンスはステップS31に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0085】
捜索ビームによる追尾処理を実施している航跡番号iの目標を追尾ビームによる追尾処理に切り替える場合は、座標系制御部6は、トラックファイル用座標変換部7に、航跡番号iの目標のトラックファイル15の座標系を直交座標系に変換するように指示する。トラックファイル用座標変換部7は、この指示に応答して、航跡番号iの目標のトラックファイル15からRUV座標系のデータを入力し、これを直交座標系のデータに変換し、トラックファイル15へ送る。これにより、従前から直交座標系で追尾処理が行われていた状態と同じになる。以降の処理は、レーダの動作モードが追尾の場合の処理と同じである。
【0086】
逆に、追尾ビームによる追尾処理を実施している航跡番号iの目標を捜索ビームによる追尾処理に切り替える場合は、座標系制御部6は、トラックファイル用座標変換部7に、航跡番号iの目標のトラックファイル15の座標系をRUV座標系に変換するように指示する。トラックファイル用座標変換部7は、この指示に応答して、航跡番号iの目標のトラックファイル15から直交座標系のデータを入力し、これをRUV座標系のデータに変換し、トラックファイル15へ送る。これにより、従前からRUV座標系で追尾処理が行われていた状態と同じになる。以降の処理は、レーダの動作モードが捜索の場合の処理と同じである。
【0087】
以上説明したように、本発明の実施例3に係る追尾装置によれば、レーダの動作モードが捜索の場合は、追尾性能および処理負荷が共に低いRUV座標系の追尾処理を実施し、レーダの動作モードが追尾の場合は、追尾性能および処理負荷が共に高い直交座標系の追尾処理を実施するので、捜索の多目標化と追尾の高性能化を実現することができる。
【実施例4】
【0088】
本発明の実施例4に係る追尾装置は、座標系の切り換え時に、過去の複数個の観測値を使用することにより、切り換え時に伴う再初期化の誤差を小さくするようにしたものである。
【0089】
図5は、本発明の実施例4に係る追尾装置の構成を示すブロック図である。この追尾装置は、実施例3に係る追尾装置の構成に、記録部8および記録部用座標変換部9が追加されて構成されている。記録部8は、レーダの動作モードに関係なく、相関処理部2aから出力される予測ゲート内のRUV座標系または直交座標系の観測値を記録する。この記録部8に記録されている観測値は、記録部用座標変換部9によって参照される。記録部用座標変換部9は、座標系制御部6からの指示に応じて、記録部8から読み出した航跡番号iの目標の過去j回分のRUV座標系の観測値を入力し、これを直交座標系のデータに変換してフィルタリング処理部4aへ送る。
【0090】
次に、上記のように構成される本発明の実施例4に係る追尾装置の動作を説明する。以下では、捜索と追尾を時分割で行う多機能レーダにおいて、捜索時に捜索ビームを用いて行う追尾処理(TWS)をRUV座標系にて実施し、追尾時に追尾ビームを用いて行う追尾処理を直交座標系にて実施する例を示す。
【0091】
実施例4に係る追尾装置の動作は、基本的には、図3のフローチャートに示した実施例2に係る追尾装置の動作と同じである。したがって、以下では、実施例2と相違する部分を中心に説明する。なお、レーダの動作モードが捜索と追尾の場合の処理は、上述した実施例3の処理と同じである。
【0092】
捜索ビームによる追尾処理を実施している航跡番号iの目標を追尾ビームによる追尾処理に切り替える場合は、座標系制御部6は、記録部用座標変換部9に、記録部8の航跡番号iの目標の座標系を直交座標系に変換するように指示する。記録部用座標変換部9は、この指示に応答して、記録部8から航跡番号iの目標の過去j回分のRUV座標系の観測値を入力し、これを直交座標系のデータに変換し、フィルタリング処理部4aへ送る。フィルタリング処理部4aは、記録部用座標変換部9から過去j回分の直交座標系のデータを入力し、j回分の平滑処理と予測処理を実施し、結果をトラックファイル15に出力する。逆に、追尾ビームによる追尾処理を実施している航跡番号iの目標を捜索ビームによる追尾処理に切り替える場合は、実施例3と同じ処理が実施される。
【0093】
なお、処理負荷は高くなるが、捜索から追尾への切り替えと同様に、記録部用座標変換部9により記録部8のデータを変換し、フィルタリング処理部4aによる処理を実施するように構成することもできる。この場合、トラックファイル用座標変換部7を省略することができる。
【0094】
以上説明したように、本発明の実施例4に係る追尾装置によれば、実施例3の追尾装置と同様に、レーダの動作モードが捜索の場合は、追尾性能および処理負荷が共に低いRUV座標系の追尾処理を実施し、レーダの動作モードが追尾の場合は、追尾性能および処理負荷が共に高い直交座標系の追尾処理を実施するので、捜索の多目標化と追尾の高性能化を実現することができる。
【0095】
さらに、記録部用座標変換部9を用いて、記録部8に記録した過去の観測値を座標変換し、カルマンフィルタ等によるフィルタリング処理を行えば、平滑値と予測値の他に、平滑と予測の共分散行列を得ることができるため、追尾へ移行した時から、安定した追尾性能を得ることができる。
【0096】
また、上述した実施例1〜実施例4に係る追尾装置では、動作モード(捜索または追尾)または目標の状態(高度の高低)に基づいて座標系を切り換えるように構成したが、当該追尾装置自体の処理負荷、例えば追尾している目標の数に応じて座標系を切り換えるように構成することもできる。例えば、捜索時に捜索ビームを用いて行う追尾処理(TWS)では、追尾する目標が所定数までは直交座標系を使用し、所定数を超えたら、処理負荷が軽い極座標系またはRUV座標系を使用するように切り換えるように構成できる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、レーダセンサやソナーセンサなどの追尾装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施例1に係る追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る追尾装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例2に係る追尾装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例3に係る追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例4に係る追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来の追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図7】従来の追尾装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0099】
1 観測値用座標変換部
1a 観測値用座標変換部
2 相関処理部
2a 相関処理部
3 トラックファイルメンテナンス部
4 フィルタリング処理部
4a フィルタリング処理部
5 出力用座標変換部
6 座標系制御部
7 トラックファイル用座標変換部
8 記録部
9 記録部用座標変換部
11 ゲーティング処理器
12 連結処理器
13 平滑処理器
14 予測処理器
15 トラックファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標系を指定する座標系制御部と、
入力された観測値の座標系を、前記座標系制御部から指定された座標系に座標変換する観測値用座標変換部と、
前記座標系制御部から指定された座標系において、前記観測値用座標変換部で座標変換することにより得られた観測値と追尾している目標の航跡との相関をとる相関処理部と、
前記相関処理部で相関がとられた結果に対して、前記座標系制御部によって指定された座標系において、フィルタリング処理を実施するフィルタリング処理部とを備え、
前記座標系制御部は、前記観測値用座標変換部に入力される観測値に応じて、前記観測値用座標変換部、前記相関処理部および前記フィルタリング処理部で使用する座標系を該追尾装置の運用中に切り換え制御することを特徴とする追尾装置。
【請求項2】
追尾している目標に関するデータを格納するトラックファイルと、
前記トラックファイルに格納されているデータの座標系を前記座標系制御部によって指定された座標系に変換するトラックファイル用座標変換部と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項3】
前記相関処理部から出力される観測値を記録する記録部と、
前記記録部に記憶されている観測値の座標系を前記座標系制御部によって指定された座標系に変換する記録部用座標変換部と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の追尾装置。
【請求項4】
前記座標系制御部は、前記観測値用座標変換部に入力される観測値によって示される目標の状態に応じて、前記観測値用座標変換部、前記相関処理部および前記フィルタリング処理部で使用する座標系を該追尾装置の運用中に切り換え制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の追尾装置。
【請求項5】
前記座標系制御部は、前記観測値用座標変換部に入力される観測値によって示される、該観測値を取得した機器の動作モードに応じて、前記観測値用座標変換部、前記相関処理部および前記フィルタリング処理部で使用する座標系を該追尾装置の運用中に切り換え制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の追尾装置。
【請求項6】
前記座標系制御部は、当該追尾装置の処理負荷に応じて、前記観測値用座標変換部、前記相関処理部および前記フィルタリング処理部で使用する座標系を該追尾装置の運用中に切り換え制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の追尾装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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