説明

追尾装置

【課題】追尾の初期段階から予測誤差を少なくして、安定した目標の追尾を行う。
【解決手段】新たに観測された目標に対して使用するフィルタゲインの初期値を設定する初期化ゲイン設定部6と、観測値に基づく目標の追尾が初期段階である場合に、観測値に基づき目標が到達すると予測される位置を示す第1予測値を算出するとともに、観測値に基づき第1平滑値を算出し、第1平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成する初期化処理部4aと、観測値に基づく目標の追尾が初期段階でない場合に、目標の過去の航跡情報に基づき目標が到達すると予測される位置を示す第2予測値を算出するとともに、第1予測値又は第2予測値と観測値とに基づき第2平滑値を算出し、第2平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成するフィルタリング処理部3と、第1予測値又は第2予測値と観測値とに基づき目標の相関を判断する相関処理部1とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標の観測値に基づき目標を追尾する追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動している目標を検出して追尾する追尾装置が知られている(例えば、非特許文献1参照)。従来の追尾装置は、例えばレーダ等に用いられる電波センサや赤外センサ等を有する観測装置により得られた観測結果に基づき、目標の追尾処理を行う。図7は、従来の追尾装置の構成を示すブロック図である。図7に示すように、従来の追尾装置は、相関処理部1、トラックファイルメンテナンス部2、フィルタリング処理部3、初期化処理部4、追尾制御部5、及びトラックファイル11で構成される。
【0003】
相関処理部1は、目標が観測された場合に、フィルタリング処理部3又は初期化処理部4により算出された予測値と入力された観測値とに基づき目標の相関を判断する。具体的な相関の判断方法については、後述する。
【0004】
トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11に記憶された航跡情報を管理する。具体的な管理方法については後述する。
【0005】
フィルタリング処理部3は、目標の過去の航跡情報に基づき目標が到達すると予測される位置を示す予測値を算出するとともに、観測値と予測値とに基づき平滑値を算出して相関のある目標に対する航跡情報を生成する。また、フィルタリング処理部3は、算出した平滑値を航跡情報の1つとしてトラックファイル11に出力する。
【0006】
なお、観測値が新規に発見された目標である場合、目標の過去の航跡情報は存在しない。そこで、初期化処理部4は、フィルタに用いる初期値を算出するとともに、フィルタリング処理部3によるフィルタリング処理が可能となるまでの間に、観測値に基づき平滑値及び予測値を算出する。具体的な算出方法は、後述する。
【0007】
追尾制御部5は、外部とのインターフェースを行い、必要な情報を各部へ出力する。
【0008】
トラックファイル11は、フィルタリング処理部3により生成された目標に関する航跡情報を記憶する。このトラックファイル11は、位置や速度等の航跡情報の他に、観測回数やフィルタリング処理に用いるフィルタゲインに関する情報を記憶する。
【0009】
次に、上述のように構成された従来の追尾装置の作用を説明する。図8は、従来の追尾装置の処理の流れを示すフローチャート図である。
【0010】
最初に、観測値が追尾装置の相関処理部1に入力される(ステップS201)。相関処理部1は、フィルタリング処理部3又は初期化処理部4により算出された予測値と入力された観測値とに基づき目標の相関を判断する。具体的には、相関処理部1は、フィルタリング処理部3又は初期化処理部4から出力された予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理を行う(ステップS203)。なお、ゲートは、目標が到達すると予測される範囲を示すものであるため、ゲートの範囲や形状は、追尾装置に観測値を入力するレーダ装置等の観測精度に左右される。一般的には、角度方向の観測精度よりも距離方向の観測精度が高いため、ゲートの形状は楕円形状になる場合が多い。
【0011】
さらに、相関処理部1は、ゲート内の観測値とゲートを一対一に対応させる連結処理を行う(ステップS205)。これにより、過去の目標の航跡情報と連続した値であるか否かを判断し、判断結果をトラックファイルメンテナンス部2に出力する。
【0012】
トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1により入力された判断結果に基づき、トラックファイル11に記憶された航跡情報を管理、すなわちトラックファイルメンテナンス処理を行う(ステップS207)。まず、トラックファイルメンテナンス部2は、いずれのゲートにも対応しない観測値があった場合、新しい目標が発生したと判断して、その目標に対応する航跡情報を新たにトラックファイル11に作成する。
【0013】
またトラックファイルメンテナンス部2は、過去の航跡情報がトラックファイル11に記憶されているにもかかわらず、ゲート内に観測値が入らず、且つその状態が連続した場合に、目標が失われたとしてトラックファイル11により記憶された該当する目標に対する航跡情報を削除する。
【0014】
ステップS207において、新たな目標が観測され、その目標に対応する航跡情報がトラックファイル11に作成された場合、初期化処理部4及びフィルタリング処理部3は、その目標に対する観測が3回以上行われたか否かを判断し(ステップS209)、3回以上行われていない場合に、初期化処理部4は、初期化処理を行う(ステップS213)。ここで、目標が1次元空間の等速直線運動モデルであると仮定すると、運動モデルは、以下の式で表される。
【数1】


x(k)と速度v(k)からなる。
【数2】


で表される。
【数3】

また、目標の観測モデルは、以下の式で表される。
【数4】

ここで、y(k)は、k回目の観測値である。また、w(k)は、k回目の観測誤差で

【数5】

観測1回目の場合には観測が3回以上行われていないため(ステップS209)、初期化処理部4は、ステップS213において、以下の式に基づき、1回目の観測値に対する平

【数6】

次に、初期化処理部4及びフィルタリング処理部3は、その目標に対する観測が2回以上行われたか否かを判断し(ステップS215)、2回以上行われていない場合に、初期化処理部4は、初期化処理を行う(ステップS219)。ここで、観測1回目の場合、初期化

出する。
【数7】


|1)とは、同じ値となる。次に、観測2回目の場合、初期化処理部4は、ステップS2

【数8】

ここで、Rは、観測誤差の分散である。なお、追尾制御部5は、目標の位置、外部から入力されるセンサーの諸元等に基づいて観測誤差の分散Rを算出し、フィルタリング処理部3に出力する。
【0015】
その際、観測2回以上であるため(ステップS215)、フィルタリング処理部3は、フィルタリング処理を行う(ステップS217)。なお、フィルタリング処理部3は、カルマンフィルタを用いてフィルタリング処理を行うものとする。具体的には、フィルタリング

【数9】


ング処理部3は、ステップS217において、目標の過去の航跡情報に基づき目標が到達すると予測される位置を示す予測値を算出する。
【数10】

ここで、目標の過去の航跡情報は、トラックファイル11に目標ごとに記憶されている。
【0016】
次に、3回以上の観測が行われた場合について述べる。ステップS209において、観測3回以上の判断がされると、フィルタリング処理部3は、フィルタリング処理を行う(ステップS211)。ステップS211において、フィルタリング処理部3は、相関処理部1により連結が取れた観測値(過去の目標の航跡情報と連続した値であると判断された観測値)と予測値を用いて、平滑値を算出する。また、フィルタリング処理部3は、算出された平滑値をトラックファイル11に出力する。ここで、k回目(k;3以上)の目標の観

【数11】


また、トラックファイル11は、フィルタリング処理部3又は初期化処理部4により生成された航跡情報を記憶する。ここで、航跡情報は、追尾している目標に関する情報データを示し、位置、速度等の情報の他、観測回数やフィルタリング処理のフィルタゲインに関する情報等を含む。
【0017】
図9は、従来の追尾装置における予測値の算出処理と平滑値の算出処理の関係を示す図である。図9に示すように、従来の追尾装置は、追尾処理を周期的に行って観測値を取得し、カルマンフィルタによるフィルタリング処理を用いて、平滑値の算出処理と予測値の算出処理を再帰的に実施している。その際、初期化処理部4は、カルマンフィルタで用いる初期値を算出するとともに、カルマンフィルタによるフィルタリング処理が可能となるまでの間に、平滑値の算出処理と予測値の算出処理とを行う。
【0018】
また、特許文献1には、追尾初期化において現サンプリングにおける信頼度を計算する際に、過去のサンプリングにおける推定誤差も含めることにより、過去のサンプリングにおいて推定誤差の大きい航跡の仮説の信頼度を小さくし、追尾している航跡と目標の対応をとる際の誤りを少なくした目標追尾装置が記載されている。この目標追尾装置によれば、目標航跡についてスムージング処理を行った後、各サンプルにおける信頼度を算出し、信頼度の平均値を評価基準として使用することにより追尾初期化において、航跡と目標の対応をとる際の誤りを少なくすることができ、追尾初期化の性能が改善される。
【特許文献1】特開2000−199788号公報
【非特許文献1】“改訂 レーダ技術”,吉田孝監修,電子情報通信学会,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上述した従来の追尾装置は、新規に観測された目標を追尾する際、1回目の観測値から目標の速度情報を得ることができない。したがって、(6)式に示したように、1回目の観測時における速度は0であるといった初期値を代入することになる。
【0020】
また、観測2回目において得られた目標の速度情報は、(4)式及び(8)式に示すように観測誤差の影響により誤差を有する。観測誤差による影響は、観測回数が増加するにつれて減少して行くが、観測回数の少ない追尾の初期段階では、追尾が不安定であると言う問題がある。
【0021】
図10は、従来の追尾装置における観測回数に対する予測誤差共分散行列の位置成分P11(k|k−1)を実線により示す図である。なお、破線で示された本発明の追尾装置のおける観測回数に対する予測誤差共分散行列の位置成分については、後述する。図10の実線で示すように、予測誤差共分散行列P11(k|k−1)成分は、観測3回目が最も大きく、観測誤差の分散Rの5倍であり、観測回数が増加するにつれて徐々に減少する。予測誤差共分散行列P11(k|k−1)成分は、予測誤差の位置のランダム成分を表し、この値が大きいことは、追尾が不安定になる要因の一つである。
【0022】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、追尾の初期段階から予測誤差を少なくして、安定した目標の追尾を行うことができる追尾装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る追尾装置は、上記課題を解決するために、目標の観測値に基づいて前記目標の追尾処理を行う追尾装置であって、新たに観測された前記目標に対して使用するフィルタゲインの初期値を設定する初期化ゲイン設定部と、前記観測値に基づく目標の追尾が初期段階である場合に、前記観測値に基づき前記目標が到達すると予測される位置を示す第1予測値を算出するとともに、前記観測値に基づき第1平滑値を算出し、前記第1平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成する初期化処理部と、前記観測値に基づく目標の追尾が初期段階でない場合に、前記目標の過去の航跡情報に基づき前記目標が到達すると予測される位置を示す第2予測値を算出するとともに、前記第1予測値又は前記第2予測値と前記観測値とに基づき第2平滑値を算出し、前記第2平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成するフィルタリング処理部と、前記第1予測値又は前記第2予測値と前記観測値とに基づき目標の相関を判断する相関処理部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、追尾の初期段階から予測誤差を少なくして、安定した目標の追尾を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の追尾装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施例1の追尾装置の構成を示すブロック図である。なお、図1及び後述の実施例2の形態を示す図において、従来例の図7における構成要素と同一ないし均等のものは、前記と同一符号を以て示し、重複した説明を省略する。
【0027】
この追尾装置は、目標の観測値に基づいて目標の追尾処理を周期的に行う。図1に示すように、従来の追尾装置と異なる点は、初期化ゲイン設定部6を備えている点である。その他の構成は、従来の追尾装置と同様である。
【0028】
初期化ゲイン設定部6は、新たに観測された目標に対して使用するフィルタゲインの初期値を設定する。具体的には、初期化ゲイン設定部6は、同一の目標に対する2回目の観測値に対応するフィルタゲインを設定する。
【0029】
初期化処理部4aは、観測値に基づく目標の追尾が初期段階である場合に、観測値に基づき目標が到達すると予測される位置を示す第1予測値を算出するとともに、観測値に基づき第1平滑値を算出し、第1平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成する。
【0030】
具体的には、初期化処理部4aは、2回目の観測値に対する第1予測値と、1回目の観測値に対する第1平滑値と、初期化ゲイン設定部により設定されたフィルタゲインの初期値と観測値とに基づく2回目の観測値に対する第1平滑値と、初期化ゲイン設定部により設定されたフィルタゲインの初期値と観測誤差の分散とに基づく2回目の観測値に対する平滑誤差共分散行列を算出する。
【0031】
フィルタリング処理部3は、観測値に基づく目標の追尾が初期段階でない場合に、目標の過去の航跡情報に基づき目標が到達すると予測される位置を示す第2予測値を算出するとともに、第2予測値と観測値とに基づき第2平滑値を算出し、第2平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成する。
【0032】
具体的には、フィルタリング処理部3は、初期化処理部4aにより算出された第1平滑値と平滑誤差共分散行列とを初期値に用いるカルマンフィルタであるとともに、3回目以降の観測値に対する第2予測値と3回目以降の観測値に対する予測誤差共分散行列とを算出し、予測誤差共分散行列と観測誤差の分散とに基づきフィルタゲインを更新し、更新されたフィルタゲインと観測値と第2予測値とに基づく3回目以降の観測値に対する第2平滑値と、更新されたフィルタゲインと予測誤差共分散行列とに基づく3回目以降の観測値に対する平滑誤差共分散行列とを算出する。
【0033】
また、相関処理部1は、第1予測値又は第2予測値と観測値とに基づき目標の相関を判断する。
【0034】
次に、上述のように構成された本実施の形態の追尾装置の作用を説明する。図2は、本実施例の形態の追尾装置の処理の流れを示すフローチャート図である。基本的には、図8で説明した従来の追尾装置の処理の流れと同様である。ただし、ステップS113とステップS119における初期化処理が異なる。それに伴い、ステップS111とステップS117におけるフィルタリング処理の際の平滑値の算出に違いが出る。
【0035】
最初に、観測値が追尾装置の相関処理部1に入力される(ステップS101)。相関処理部1は、フィルタリング処理部3により算出された第2予測値又は初期化処理部4aにより算出された第1予測値と入力された目標の観測値とに基づき目標の相関を判断する。第1予測値及び第2予測値については後述する。相関処理部1によるゲーティング処理(ステップS103)及び連結処理(ステップS105)は、従来と同様である。
【0036】
トラックファイルメンテナンス部2によるトラックファイルメンテナンス処理(ステップS107)も、従来と同様であり、重複した説明を省略する。
【0037】
ステップS107において、新たな目標が観測され、その目標に対応する航跡情報がトラックファイル11に作成された場合、初期化処理部4a及びフィルタリング処理部3は、その目標に対する観測が3回以上行われたか否かを判断し(ステップS109)、3回以上行われていない場合に、初期化処理部4aは、初期化処理を行う(ステップS113)。
【0038】
新たな目標を観測した場合(観測1回目)、初期化処理部4aは、1回目の観測値に対する第1平滑値を算出する。ここで、1回目の観測値に対する第1平滑値である平滑ベクトル

は、第1平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成し、トラックファイル11に出力する。
【0039】
次に、初期化処理部4a及びフィルタリング処理部3は、その目標に対する観測が2回以上行われたか否かを判断し(ステップS115)、2回以上行われていない場合に、初期化処理部4aは、初期化処理を行う(ステップS119)。ここで、観測1回目の場合、初

を従来と同様に(7)式を用いて算出する。
【0040】
次に、観測2回目の場合、初期化ゲイン設定部6は、ステップS113において、同一

部4aに出力する。
【数12】

初期化ゲイン設定部6は、例えば、追尾制御部5を経由して外部から指示された値をフ

定部6は、近距離の場合には大きなフィルタゲインとし、遠距離の場合には小さなフィルタゲインとする。
【0041】
初期化処理部4aは、ステップS113において、初期化ゲイン設定部6により設定されたフィルタゲインの初期値と観測値とに基づく2回目の観測値に対する第1平滑値であ

|2)を算出する。
【数13】

ここで、y(1)は、1回目の観測値である。また、y(2)は、2回目の観測値である。さらに、Rは、追尾制御部5により出力される観測誤差の分散である。なお、(18)

とKとに略記されている。また、K=1であり、K=1/tである場合に、(18)

|2)とは、(8)式及び(9)式に示される従来技術の結果と一致する。
【0042】

目標に対する航跡情報として生成し、トラックファイル11に出力する。
【0043】
次に、観測2回以上であるため(ステップS115)、フィルタリング処理部3は、フィルタリング処理を行う(ステップS117)。本実施例において、フィルタリング処理部3は、初期化処理部4aにより算出された第1平滑値と平滑誤差共分散行列とを初期値に用いるカルマンフィルタである。ここで、フィルタリング処理部3は、3回目の観測値に対

従来と同様に(10)式及び(11)式を用いて算出する。
【0044】
なお、観測2回目以降の場合、フィルタリング処理部3は、ステップS117において、3回目以降の観測値に対する第2予測値と3回目以降の観測値に対する予測誤差共分散行列とを従来と同様に(12)式及び(13)式を用いて算出する。
【0045】
次に、3回以上の観測が行われた場合について述べる。ステップS109において、観測3回以上の判断がされると、フィルタリング処理部3は、フィルタリング処理を行う(ステップS111)。k回目(k;3以上)の目標の観測値に対し、フィルタリング処理部3

|k)を(16)式を用いて算出する。その後、ステップS115、ステップS117に進み、当該追尾装置は、上述した動作を行う。
【0046】
すなわち、フィルタリング処理部3は、観測3回目以降の観測値に対応する平滑ベクトル及び平滑誤差共分散行列と予測ベクトル及び予測誤差共分散行列を(12)式乃至(16)式を用いて再帰的に算出できる。
【0047】
なお、上記においては、観測1回目と観測2回目の観測誤差の分散が等しいとしたが、センサーの信号処理諸元が観測1回目と観測2回目以降とで異なる等の場合、観測1回目の観測誤差の分散R(1)と観測2回目の観測誤差の分散R(2)とは、互いに異なる値を有する。
【0048】
追尾制御部5は、目標の位置、外部から入力されるセンサーの信号処理諸元等に基づいて、観測1回目の観測誤差の分散R(1)と観測2回目の観測誤差の分散R(2)とを算出し、初期化処理部4aに出力する。
【0049】
初期化処理部4aは、1回目の観測値に対する観測誤差の分散R(1)と2回目の観測値に対する観測誤差の分散R(2)とが異なる値を有する場合に、初期化ゲイン設定部6により設定されたフィルタゲインの初期値と1回目の観測値に対する観測誤差の分散R(1)と2回目の観測値に対する観測誤差の分散R(2)とに基づいて2回目の観測値に

【数14】


とKとに略記されている
1回目の観測値に対する観測誤差の分散R(1)と2回目の観測値に対する観測誤差の分散R(2)とが異なる値を有する場合で、且つ3回以上の観測が行われた場合、フィルタリング処理部3は、フィルタリング処理を行う(ステップS111)。k回目(k;3以上)の目標の観測値に対し、フィルタリング処理部3は、予測誤差共分散行列と観測誤差

式に用いられている観測誤差の分散Rは、信号対雑音比の関数であり、信号対雑音比は、センサーの信号処理諸元、目標距離等によって変化する。追尾観測時間間隔に対して目標距離の変化率は小さいため、観測2回目以降のセンサーの信号処理諸元が等しいとすると、追尾の初期段階における観測誤差の分散Rは、2回目の観測値に対する観測誤差の分散R(2)に等しいとみなせる。なお、長時間の追尾のように目標距離が大きく変化する場合、周期的に観測誤差の分散Rを更新する必要がある。
【0050】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係る追尾装置によれば、フィルタゲインの初期値の設定が可能な初期化ゲイン設定部6を備えることにより、追尾の初期段階から予測誤差を少なくして、安定した目標の追尾を行うことができる。
【0051】

の成分K(2)をパラメータとした場合の、追尾の初期段階における予測誤差共分散行

うに、初期化ゲイン設定部6を用いてフィルタゲインK(2)成分の値を従来の値である1よりも小さな値に設定することにより、予測誤差共分散行列P11(k|k−1)成分は小さくすることができる。上述したように、予測誤差共分散行列P11(k|k−1)成分は、予測誤差の位置のランダム成分を表すため、この値を小さくすることで、安定した目標の追尾が可能となる。
【0052】
また、図10は、本発明の実施例1の追尾装置における観測回数に対する予測誤差共分散行列の位置成分P11(k|k−1)を破線により示す。ここで、2回目の観測値のフィ

誤差共分散行列P11(k|k−1)成分は、観測3〜4回目が最も大きく、観測誤差の分散Rの等倍であり、実線で示す従来の予測誤差共分散行列P11(k|k−1)成分に比べて非常に小さな値となるので、目標の追尾の安定性を向上できる。
【0053】
また、観測1回目の観測誤差の分散R(1)と観測2回目の観測誤差の分散R(2)とが互いに異なる値を有する場合でも、初期化処理部4aは、(20)式を用いて2回目の観

て、当該追尾装置は、カルマンフィルタによる安定したフィルタリング処理ができる。
【実施例2】
【0054】
次に実施例2の形態に係る追尾装置について説明する。図4は、本発明の実施例2の追尾装置の構成を示すブロック図である。図1に示した実施例1の追尾装置の構成と異なる点は、フィルタゲイン設定部7を新たに備えた点である。
【0055】
フィルタゲイン設定部7は、初期化ゲイン設定部6により設定されたフィルタゲインの初期値と観測回数とに対応するフィルタゲインの情報を記憶するテーブルを参照してフィルタゲインを設定する。
【0056】
また、フィルタゲイン設定部7は、2回目の観測値に対するフィルタゲインと観測誤差の分散とに基づいて算出される平滑誤差共分散行列をカルマンフィルタの初期値とした場合に導き出されるカルマンフィルタのフィルタゲインの情報を予めテーブルに記憶する。
【0057】
初期化処理部4bは、1回目の観測値に対する第1平滑値と2回目の観測値に対する第1予測値とを算出する。
【0058】
フィルタリング処理部3aは、初期化処理部4bにより算出された第1予測値を初期値に用いるαβフィルタであるとともに、3回目以降の観測値に対する第2予測値を算出し、第1予測値又は第2予測値と観測値とフィルタゲイン設定部7により設定されたフィルタゲインとに基づき2回目以降の観測値に対する第2平滑値を算出する。
【0059】
その他の構成は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0060】
次に、上述のように構成された本実施の形態の追尾装置の作用を説明する。図5は、本発明の実施例2の形態の追尾装置の処理の流れを示すフローチャート図である。本施例において、フィルタリング処理部3aは、フィルタリング処理にαβフィルタを用いるため、ステップS111aにおける平滑値の算出方法が実施例1と異なる。
【0061】
まず、ステップS101aからステップS107aまでの動作は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0062】
ステップS107aにおいて、新たな目標が観測され、その目標に対応する航跡情報がトラックファイル11に作成された場合、初期化処理部4b及びフィルタリング処理部3aは、その目標に対する観測が2回以上行われたか否かを判断し(ステップS109)、2回以上行われていない場合に、初期化処理部4bは、初期化処理を行う(ステップS113a)。
【0063】
新たな目標を観測した場合(観測1回目)、初期化処理部4bは、1回目の観測値に対する第1平滑値を算出する。ここで、1回目の観測値に対する第1平滑値である平滑ベクト

第1平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成し、トラックファイル11に出力する。
【0064】
次に、初期化処理部4b及びフィルタリング処理部3aは、その目標に対する観測が2回以上行われたか否かを判断し(ステップS115a)、2回以上行われていない場合に、初期化処理部4bは、初期化処理を行う(ステップS119a)。ここで、観測1回目の場

|1)を従来と同様に(7)式を用いて算出する。
【0065】
次に、観測2回目の場合、初期化ゲイン設定部6は、ステップS111aにおいて、フィルタゲインの初期値を設定する。その際、初期化ゲイン設定部6は、例えば、追尾制御部5を経由して外部から指示された値をフィルタゲインの初期値として設定する。あるいは、初期化ゲイン設定部6は、目標の位置に基づきフィルタゲインの初期値を設定することもできる。
【0066】
本実施例において、当該追尾装置のフィルタリング処理部3aは、実施例1と異なり、αβフィルタを用いてフィルタリング処理を行う。αβフィルタは、カルマンフィルタと比較して、(14)式のフィルタゲインと(13)式及び(16)式の共分散行列の計算を必要としないため、演算負荷が軽い。しかしながら、αβフィルタは、別途フィルタゲインが入力される必要がある。一般的に、αβフィルタのフィルタゲインは、観測回数に依らない定数又は、観測回数が2以上の場合、以下の式で表される値が用いられる。
【数15】

しかしながら、本実施例においては、フィルタゲイン設定部7が、初期化ゲイン設定部6により設定されたフィルタゲインの初期値と観測回数とに対応するフィルタゲインの情報を記憶するテーブルを参照してフィルタゲインを設定する。
【0067】
すなわち、フィルタゲイン設定部7は、2回目の観測値に対するフィルタゲインと観測誤差の分散とに基づいて算出される平滑誤差共分散行列をカルマンフィルタの初期値とした場合に導き出されるカルマンフィルタのフィルタゲインの情報を予めテーブルに記憶し、観測毎に、テーブルを参照してフィルタゲインを読み出し、フィルタリング処理部3aに出力する。
【0068】
図6は、本実施例の追尾装置のフィルタゲイン設定部によるフィルタゲインの情報を記憶するテーブルの1例を示す図である。図6(a)は、αβフィルタのフィルタゲインαを示し、例えばカルマンフィルタのフィルタゲインK(k)の情報を予め記憶したものである。図6(b)は、αβフィルタのフィルタゲインβを示し、例えばカルマンフィルタのフィルタゲインK(k)に追尾間隔tを乗じた値の情報を予め記憶したものである。
【0069】
観測2回目の場合、フィルタリング処理部3aは、初期化処理部4bにより算出された第1予測値と観測値とフィルタゲイン設定部7により設定されたフィルタゲインとに基づき2回目の観測値に対する第2平滑値を以下の式に基づき算出する(ステップS111a)。
【数16】

なお、観測3回目以降の場合、フィルタリング処理部3aは、3回目以降の観測値に対する第2予測値と観測値とフィルタゲイン設定部7により設定されたフィルタゲインとに基づき3回目以降の観測値に対する第2平滑値を算出する(ステップS111a)。
【0070】
フィルタリング処理部3aは、フィルタゲイン設定部7により出力されたフィルタゲインを用いることにより、演算負荷の大きな共分散行列等の演算を行うことなく、カルマンフィルタに近い性能を実現することができる。
【0071】
また、フィルタリング処理部3aは、算出した第2平滑値や、観測回数等の情報を、相関のある目標に対する航跡情報として生成し、トラックファイル11に出力する。
【0072】
次に、観測2回以上であるため(ステップS115a)、フィルタリング処理部3aは、フィルタリング処理を行う(ステップS117a)。具体的には、フィルタリング処理部3aは、3回目の観測値に対する第2予測値を以下の式に基づき算出する。
【数17】

なお、上記においては、観測1回目と観測2回目の観測誤差の分散が等しいとしたが、センサーの信号処理諸元が観測1回目と観測2回目以降とで異なる等の場合、観測1回目の観測誤差の分散R(1)と観測2回目の観測誤差の分散R(2)とは、互いに異なる値を有する。
【0073】
観測1回目の観測誤差の分散R(1)と観測2回目の観測誤差の分散R(2)とが大きく異なる場合、フィルタゲイン設定部が参照するテーブルのサイズは大きなものとなるが、フィルタゲイン設定部7は、2回目の観測値に対するフィルタゲインと1回目の観測値に対する観測誤差の分散と2回目の観測値に対する観測誤差の分散とに基づいて算出される平滑誤差共分散行列をカルマンフィルタの初期値とした場合に導き出されるカルマンフィルタのフィルタゲインの情報を予めテーブルに記憶し、観測毎に、テーブルを参照してフィルタゲインを読み出し、フィルタリング処理部3aに出力する(ステップS111a)。
【0074】
なお、カルマンフィルタのフィルタゲインをフィルタゲイン設定部7が参照するテーブルに対して記憶させるタイミングは、追尾装置の起動時等、オフライン(追尾フィルタの動作中以外)であれば、いつでも良い。
【0075】

(k)を更新し、航跡情報としてトラックファイル11に出力するので、実施例1の追尾装置のフィルタリング処理部3又はトラックファイル11が、カルマンフィルタのフィルタゲインをフィルタゲイン設定部7が参照するテーブルに対して記憶させる構成でもよい。そのような場合、まず当該追尾装置は、図4に示す本実施例の追尾装置の構成を有するが、実施例1と同様の動作を行う。したがって、フィルタリング処理部3aは、カルマンフィルタとしてフィルタリング処理を行う。その後、フィルタゲインがテーブルに記憶されると、フィルタリング処理部3aは、フィルタゲイン設定部7により設定されたフィルタゲインに基づき、αβフィルタとしてフィルタリング処理を行う。
【0076】
また、フィルタゲイン設定部7は、テーブルを参照してフィルタゲインを設定する他に、近似式を用いてフィルタゲインを算出する構成でもよい。
【0077】
上述のとおり、本発明の実施例2の形態に係る追尾装置によれば、実施例1の効果に加え、フィルタゲイン設定部7が予めテーブルに記憶されたフィルタゲインを参照して設定するので、フィルタリング処理部3aは、演算負荷の大きな共分散行列等の演算を行うことなく、カルマンフィルタに近い性能を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る追尾装置は、レーダセンサーやソナーセンサー等の追尾装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施例1の形態の追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1の形態の追尾装置の動作を示すフローチャート図である。
【図3】本発明の実施例1の形態の追尾装置における2回目の観測値のフィルタゲインK(2)に対する予測誤差共分散行列の位置成分P11(k|k−1)を示す図である。
【図4】本発明の実施例2の形態の追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例2の形態の追尾装置の動作を示すフローチャート図である。
【図6】本発明の実施例2の形態の追尾装置のフィルタゲイン設定部によるフィルタゲインの情報を記憶するテーブルの1例を示す図である。
【図7】従来の形態の追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図8】従来の形態の追尾装置の動作を示すフローチャート図である。
【図9】従来の形態の追尾装置における予測値の算出処理と平滑値の算出処理の関係を示す図である。
【図10】従来及び本発明の形態の追尾装置における観測回数に対する予測誤差共分散行列の位置成分P11(k|k−1)を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 相関処理部
2 トラックファイルメンテナンス部
3,3a フィルタリング処理部
4,4a,4b 初期化処理部
5 追尾制御部
6 初期化ゲイン設定部
7 フィルタゲイン設定部
11 トラックファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の観測値に基づいて前記目標の追尾処理を行う追尾装置であって、
新たに観測された前記目標に対して使用するフィルタゲインの初期値を設定する初期化ゲイン設定部と、
前記観測値に基づく目標の追尾が初期段階である場合に、前記観測値に基づき前記目標が到達すると予測される位置を示す第1予測値を算出するとともに、前記観測値に基づき第1平滑値を算出し、前記第1平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成する初期化処理部と、
前記観測値に基づく目標の追尾が初期段階でない場合に、前記目標の過去の航跡情報に基づき前記目標が到達すると予測される位置を示す第2予測値を算出するとともに、前記第1予測値又は前記第2予測値と前記観測値とに基づき第2平滑値を算出し、前記第2平滑値を含む相関のある目標に対する航跡情報を生成するフィルタリング処理部と、
前記第1予測値又は前記第2予測値と前記観測値とに基づき目標の相関を判断する相関処理部と、
を備えることを特徴とする追尾装置。
【請求項2】
前記初期化処理部は、2回目の観測値に対する前記第1予測値と、1回目の観測値に対する前記第1平滑値と、前記初期化ゲイン設定部により設定されたフィルタゲインの初期値と前記観測値とに基づく2回目の観測値に対する前記第1平滑値と、前記初期化ゲイン設定部により設定されたフィルタゲインの初期値と観測誤差の分散とに基づく2回目の観測値に対する平滑誤差共分散行列とを算出し、
前記フィルタリング処理部は、前記初期化処理部により算出された第1平滑値と平滑誤差共分散行列とを初期値に用いるカルマンフィルタであるとともに、3回目以降の観測値に対する第2予測値と3回目以降の観測値に対する予測誤差共分散行列とを算出し、前記予測誤差共分散行列と観測誤差の分散とに基づきフィルタゲインを更新し、更新された前記フィルタゲインと前記観測値と前記第2予測値とに基づく3回目以降の観測値に対する第2平滑値と、更新された前記フィルタゲインと前記予測誤差共分散行列とに基づく3回目以降の観測値に対する平滑誤差共分散行列とを算出することを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項3】
前記初期化処理部は、1回目の観測値に対する観測誤差の分散と2回目の観測値に対する観測誤差の分散とが異なる値を有する場合に、前記初期化ゲイン設定部により設定されたフィルタゲインの初期値と1回目の観測値に対する観測誤差の分散と2回目の観測値に対する観測誤差の分散とに基づいて2回目の観測値に対する平滑誤差共分散行列を算出することを特徴とする請求項2記載の追尾装置。
【請求項4】
前記初期化ゲイン設定部により設定されたフィルタゲインの初期値と観測回数とに対応するフィルタゲインの情報を記憶するテーブルを参照してフィルタゲインを設定するフィルタゲイン設定部を備え、
前記初期化処理部は、1回目の観測値に対する第1平滑値と2回目の観測値に対する第1予測値とを算出し、
前記フィルタリング処理部は、前記初期化処理部により算出された第1予測値を初期値に用いるαβフィルタであるとともに、3回目以降の観測値に対する第2予測値を算出し、前記第1予測値又は前記第2予測値と前記観測値と前記フィルタゲイン設定部により設定されたフィルタゲインとに基づき2回目以降の観測値に対する第2平滑値を算出することを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項5】
前記フィルタゲイン設定部は、2回目の観測値に対するフィルタゲインと観測誤差の分散とに基づいて算出される平滑誤差共分散行列をカルマンフィルタの初期値とした場合に導き出される前記カルマンフィルタのフィルタゲインの情報を予めテーブルに記憶することを特徴とする請求項4記載の追尾装置。
【請求項6】
前記フィルタゲイン設定部は、2回目の観測値に対するフィルタゲインと1回目の観測値に対する観測誤差の分散と2回目の観測値に対する観測誤差の分散とに基づいて算出される平滑誤差共分散行列をカルマンフィルタの初期値とした場合に導き出される前記カルマンフィルタのフィルタゲインの情報を予めテーブルに記憶することを特徴とする請求項4記載の追尾装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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