説明

逆止弁

【課題】 チタン酸バリウム等の硬質粒子のスラリーの送液の場合であっても、バルブシートやパッキンが損傷し難く、封止状態における弁体のシール性を良好に維持でき、従来より寿命の長期化が図れる逆止弁の提供。
【解決手段】 スラリー液が一端側入口から他端側出口へ通過する弁本体の貫通流路中に配置されて一端が貫通流路入口に連通すると共に他端が貫通流路出口に開口する環状弁座部材と、該弁座部材の他端側開口縁にテーパー状に形成される弁座面に出口側から着座する可動弁体と、該可動弁体を出口側から付勢して弁座面に押圧して貫通流路を封止させる第1のバネ部材とを備えた逆止弁において、環状弁座部材が、内側領域の弁座面を形成する高硬度部材からなる環状バルブシートと、該環状バルブシートの外周で外側領域の弁座面を形成する弾性体からなる環状パッキンとを有し、環状バルブシートの入口側から該バルブシートを位置決め固定するバルブシート押さえと、環状パッキンの少なくとも一部を入口側で押圧挟持する裏漏れ防止手段と、をさらに備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば微粒化装置の高圧プランジャポンプに用いられる逆止弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微粒化装置は、材料物質の衝突、粉砕による微粒化または乳化や微細粒子の分散などの流体の均質化を行うために用いられており、例えば図4に示すような装置構成において、増圧機として2つの高圧プランジャポンプを用いて各種スラリー液を直接加圧して衝突空間が形成されるチャンバー内に高圧噴射している。
【0003】
このような微粒化装置では、通常、原料タンクの給液ポンプから高圧プランジャポンプのシリンダへの吸引配管(IN側)とシリンダからチャンバーへ連通する送液配管(OUT側)との流路中にそれぞれ逆止弁が設けられている。これらの逆止弁は、例えば図5に示すように、弁本体32の貫通流路39中に配置されたウレタンエラストマー等の弾性素材からなる環状パッキン35と、ステンレス鋼、超硬合金、セラミックス等の超硬質素材からなる環状バルブシート34と、球状可動弁体としてのセラミックスボール37とで主に構成されている。
【0004】
セラミックスボール37は、自然状態において低圧部側(流出口側)から第1のバネ38の付勢により、バルブシート34とパッキン35が形成する入口側の弁座面に押圧されて着座し密着しており、この密着状態によってスラリー液が流入口側へ漏れないように逆止されている。さらに、セラミックスボール37をバルブシート34に隙間なく密着させることで、パッキン35が高圧により低圧部側に「はみ出し損傷」するのを防いだものもある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−283309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年のセラミックス電子部品の需要増加とあいまって、電子部品材料としての高性能化が求められているチタン酸バリウム等の硬質粒子を含んだ強アルカリ性のスラリーに対しては、上記のような従来の逆止弁では、以下のような問題により、パッキンの損傷、弁体の封止状態におけるシール不良等で高圧スラリーの漏れが起こり易かった。
【0007】
例えば、セラミックスボールが繰り返し押し付けられるバルブシートの接触面は、ボールとの間に原料の硬質粒子も挟み込まれることになるため、運転に伴って磨耗が進行し、最終的にシール不良を起こす原因となっていた。しかしバルブシートを硬度の高いステンレス鋼や超硬合金製あるいはセラミックス製とすることで耐摩耗性を高くするとチッピングも起こしやすくなり、それが全体的な破断につながることもある。
【0008】
また、高圧プランジャが前進する昇圧時には、OUT側バルブシートには内圧が作用するが、超硬合金、セラミックスなどの脆性材料においては前記内圧による引っ張り応力により破断してしまう。このため、エラストマーなどの弾性体を介してバルブシート外径部からも昇圧した圧力をかけてバランスさせることにより破断を防止する構造としたものもある。しかしながら、バルブシートの外径を規制しているものがエラストマーであるため、円周方向に動いてしまうこともあり、ボールとの接触時にずれた位置に過大な荷重がかかり、チッピングを起こす原因となっていた。一方、プランジャ後退時にはOUT側バルブシートには外圧のみが作用するため、圧縮に対してもある程度の強度が必要となる。
【0009】
また、ウレタンエラストマー製のパッキンは、プラスチックに比べて変形し易く、凝集粉および大きな粒子に対するシール性に優れ、また引き裂き強度も高く、高圧に耐えられるため、微粒化装置の逆止弁のパッキンとして適したものであったが、水溶液、特に40℃以上のアルカリ液中では、加水分解により体積減少を起こす欠点があり、例えば、図5に示すように、入口側で弁本体との間でスラリー液のいわゆる裏漏れを生じることがあった。これは、弁体ホルダー31によって加えられる押圧力で環状パッキン35が変形することにより生じる液漏れである。
【0010】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、微粒化装置の高圧プランジャポンプにおいて、チタン酸バリウム等の硬質粒子のスラリーの送液の場合であっても、バルブシートやパッキンが損傷し難く、封止状態における弁体のシール性を良好に維持でき、従来より寿命の長期化が図れる逆止弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る逆止弁は、高圧プランジャポンプのシリンダに連通するスラリー送液用の配管流路に設けられ、入口から流入してくる順方向流れを出口へ通過させると共に、出口から入口側へ向かう逆方向流れを阻止する逆止弁において、スラリー液が一端側入口から他端側出口へ通過する貫通流路を有する弁本体と、貫通流路中に配置されて一端が貫通流路入口に連通すると共に他端が貫通流路出口に開口する環状弁座部材と、該弁座部材の他端側開口縁にテーパー状に形成される弁座面に出口側から着座する可動弁体と、該可動弁体を出口側から付勢して弁座面に押圧して貫通流路を封止させる第1のバネ部材とを備え、前記弁座面は、互いに連続する内側領域と外側領域とから構成され、前記弁座部材は、前記内側領域の弁座面を形成する高硬度部材からなる環状バルブシートと、該環状バルブシートの外周で前記外側領域の弁座面を形成する弾性体からなる環状パッキンとを有し、前記環状バルブシートの入口側から該バルブシートを位置決め固定するバルブシート押さえと、前記環状パッキンの少なくとも一部を入口側で押圧挟持する裏漏れ防止手段と、をさらに備えたものである。
【0012】
請求項2に記載の発明に係る逆止弁は、請求項1に記載の逆止弁において、前記裏漏れ防止手段が、前記環状バルブシート押さえの一部を含むことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載の発明に係る逆止弁は、請求項1又は請求項2に記載の逆止弁において、前記貫通流路内に軸方向移動可能に配置され、前記可動弁体を外周方向から包持するキャビティを入口側端部に有すると共に第2のバネ部材による出口側から入口側への付勢力によりその先端部が前記環状パッキンに当接して少なくとも該環状パッキンの一部を前記可動弁体に押し付ける略筒形状の弁体ホルダーを更に備え、該弁体ホルダーは、前記環状パッキンに当接するテーパ面を備えた環状部と、該管状部を等角度間隔で支持して内部に前記キャビティを形成する複数本のアーム部とを有するものである。
【0014】
請求項4に記載の発明に係る逆止弁は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の逆止弁において、前記バルブシートが、ニッケルをバインダーとし、破壊靭性値K1Cが10〜20MPa・m1/2である超硬合金からなるものである。
【0015】
請求項5に記載の発明に係る逆止弁は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の逆止弁において、前記環状パッキンが、ショア硬度Hs80〜95のエーテル系ウレタンエラストマーからなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の逆止弁においては、出口側から可動弁体が着座することにより弁本体の貫通流路が封止される環状弁座部材の他端側開口縁にテーパー状に形成される弁座面が、互いに連続する内側領域と外側領域とから構成され、内側領域の弁座面を形成する環状バルブシートが、環状バルブシート押さえによってその入口側端縁に全周に亘って係合して位置決め固定することで、バルブシートの弁本体内でのずれを防止するため、バルブシート自体が脆性材料から構成されるものであっても、可動弁体の接触時に、ずれによる先端部への過大荷重に起因するチッピングの発生は回避されると共に、外側領域の弁座面を形成する環状パッキンが、裏漏れ防止手段によってその少なくとも一部を入口側で押圧挟持されることよって、この挟み込み力により環状パッキンは入口側から押圧されて外周領域に亘って弁本体等の周囲の部材領域に押圧密着され、スラリー液の裏漏れが防止されて従来より封止状態における弁体のシール性がより良く維持でき、逆止弁としての寿命を長期化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、微粒化装置の高圧プランジャポンプ用の逆止弁において、弁本体のスラリー液が一端側入口から他端側出口へ通過する貫通流路中に配置されて一端が貫通流路入口に連通すると共に他端が貫通流路出口に開口する環状弁座部材の他端側開口縁にテーパー状に形成される弁座面に着座される可動弁体が、第1のバネ部材により出口側から付勢されて弁座面に押圧されることにより貫通流路が封止されるものであり、その弁座面が、互いに連続する内側領域と外側領域とから構成され、前記弁座部材が、前記内側領域の弁座面を形成する高硬度部材からなる環状バルブシートと、該環状バルブシートの外周で前記外側領域の弁座面を形成する弾性体からなる環状パッキンとを有し、前記環状バルブシートの入口側端縁に全周に亘って係合し、該バルブシートを位置決め固定するバルブシート押さえと、環状パッキンの少なくとも一部を入口側で押圧挟持する裏漏れ防止手段とを備えたものである。
【0018】
従って、本発明においては、バルブシートが嵌合状態でバルブシート押さえに位置固定されるため、バルブシートが弁本体内でずれることがないため、バルブシート自体が脆性材料から構成されるものであっても、可動弁体の接触時に、ずれによる先端部への過大荷重に起因するチッピングの発生は回避されるだけでなく、裏漏れ防止手段によって環状パッキンの少なくとも一部が入口側で押圧挟持されることよって、環状パッキンの弁本体との接触部が弁本体に良好に押圧されてスラリー液の裏漏れが防止され、従来より封止状態における弁体のシール性がより良く維持でき、逆止弁の長寿命化が図れる。
【0019】
なお、本発明における環状バルブシートを構成する高硬度部材としては、例えば、超硬合金やCo基合金(ステライト)、析出硬化型高珪素鋼(シリコロイ)などが挙げられ、特に限定するものではない。
【0020】
本発明の裏漏れ防止手段としては、環状パッキンの一部を押圧挟持するための専用の部材を別体に設けてもよいが、この場合、逆止弁としての設計が複雑になってしまうため、環状バルブシート押さえの一部を利用して構成することが望ましい。例えば、バルブシート押さえの環状パッキン入口側からの接触領域に、環状バルブシートの上面に対して環状パッキンの一部を挟み込むような突出部を設けると共に、環状パッキンもこれに対応する形状とする。即ち、入口側に前記バルブシート押さえの突出部と環状バルブシートの上面との間に嵌合する部分が形成されるような環状パッキンの形状とすれば良い。
【0021】
なお、可動弁体は従来と同様に球状とし、弁座面をその外形に合致して可動弁体を受け入れる鉢状のものとするのが構成上簡便であるが、これに限らず弁座面に着座して弁本体の貫通流路を封止できるものであれば、種々の形状を採用できる。例えば、入口側に頂点を、出口側に底面を有する略円錐形状の可動弁体と弁座面とを着座状態で互いに嵌合する形態が挙げられる。また、環状バルブシートの可動弁体に接する端縁の稜部を面取りしておくことにより、バルブシートのチッピングを防ぐことができる。この場合、面取りは曲面とすることがより望ましい。
【0022】
また、従来から、微粒化装置の高圧プランジャポンプ用逆止弁には、弁本体貫通流路内に、前記可動弁体を外周方向から包持するキャビティを入口側端部に有すると共に第2のバネ部材による出口側から入口側への付勢力によりその先端部が環状パッキンに当接して少なくとも該環状パッキンの一部を可動弁体に押し付ける略筒形状の弁体ホルダーが、軸方向移動可能に配置されている。
【0023】
従来の弁体ホルダーは、可動弁体を外周囲全てで規制するように包持すると、弁体ホルダーの外側にスラリー液が通れなくなって支障が生じることから、可動弁体とホルダーとの間に径方向で2mm程度の隙間を設けていた。しかしながら、図4に示すように増圧機の高圧プランジャポンプを縦置きとして、逆止弁を貫通流路が水平方向に沿った横向きとした場合、弁体ホルダーと弁体との間に上記のような隙間があると、弁体は下方寄りで移動するため、弁座面に同軸で着座しなくなり、シール不良となる恐れがあった。
【0024】
そこで、弁体ホルダーを、環状パッキンに当接するテーパ面を備えた環状部と、該環状状部を等角度間隔で支持して内部に前記キャビティを形成する複数本のアーム部とを有する構成にすることによって、可動弁体の外周を包持するキャビティ形成部分は、アーム部同士の間にスラリー液が流通できる開口が形成されるものであるため、弁体ホルダーをほぼ可動弁体の外周面に近接状態で規制する構成を採用でき、可動弁体を軸心に沿って弁座面中心に着座させ、シール性を高めることができる。
【0025】
なお、アーム部の本数は、多すぎてはスラリー液流通用の開口領域が狭くなるだけでなく構成が複雑で部材製作が困難となり、またあまり少ないと構成は簡単であるがキャビティ内への弁体ホルダーの包持のバランスが悪くなるため、実際の可動弁体、弁体ホルダーのサイズに応じて、適度なものを選択すればよい。例えば、構成が容易でありながらスラリー液の良好な流通のための開口が充分確保できると同時に、可動弁体をキャビティ内の中央に良好に包持できるものとして、アーム部が3本である構成が挙げられる。
【0026】
また、バルブシート自体を硬さと耐食性の共に優れたものとすることにより、耐チッピング性を持たせて外圧による破損をより良く防止できる。例えば、従来からバルブシートは超硬合金製であったが、これはコバルトをバインダーとしたものであった。そこで、バインダーをニッケルにして破壊靭性値K1Cが10〜20MPa・m1/2である高靭性の超硬合金からバルブシートを構成すれば、上記のような耐食性が向上し、逆止弁としての寿命のさらなる長期化にも寄与する。
【0027】
また、環状パッキンについても、確実なシール性と適度な強度を併せ持ち、長寿命化を図れる部材を用いることが望ましい。例えば、従来から高圧プランジャポンプの逆止弁用パッキンには、引裂抵抗や磨耗抵抗などの力学的特性に優れたウレタンエラストマーが用いられてきているが、なかでも、加水分解を起こしやすいエステル系ウレタンエラストマーよりも耐水性、反発弾性の高いエーテル系ウレタンエラストマー、特にショア硬度Hs80〜95の範囲にあるものを用いれば、強度及び耐久性の確保とともに直径約2〜数十μmの粒子に対する優れたシール性も得られる。
【0028】
なお、この環状パッキンの外側弁座面を、着座する可動弁体の外表面形状に沿った形状とすれば、両表面はより密着し易く、シール性の向上に繋がる。例えば、可動弁体が球状であれば、外側弁座面をその球状に沿う凹曲面にすれば良い。
【実施例】
【0029】
本発明の一実施例として、可動弁体に窒化珪素セラミックスボールを用いて構成した高圧プランジャポンプ用の逆止弁を図1、図2に示す。図1は本実施例による逆止弁のセラミックスボールの環状弁座部材に対する着座領域の構成を示す部分縦断面図である。図2は、本逆止弁の弁体ホルダーの構成図で(a)は弁体ホルダーの側面図、(b)は本弁体ホルダーのA−A断面矢視図、(c)は本弁体ホルダーのB−B断面矢視図である。
【0030】
本実施例の逆止弁は、例えば、図4に示すような微粒化装置において、原料スラリータンクの給液ポンプから高圧プランジャポンプのシリンダへの吸引配管(IN側)とシリンダからチャンバーへ連通する送液配管(OUT側)との流路中にそれぞれ設けられるものである。
【0031】
本逆止弁1は、基本構成においては従来の例えば図5に示すものと同様であり、高圧プランジャポンプのシリンダに連通する配管100内に固定された弁本体2のスラリー液が一端側入口から他端側出口へ通過する貫通流路9中に配置されて一端が貫通流路9の入口側に連通すると共に他端が貫通流路9の出口側に開口する環状弁座部材3に対して、該弁座部材3の他端側開口縁にテーパー状に形成される弁座面に着座するセラミックスボール7が出口側から第1のバネ部材8により付勢されて弁座面に押圧されることによって貫通流路9を封止する構成を備えたものである。
【0032】
環状弁座部材3は、弁本体2および貫通流路9の中心軸寄りの内側に配置された超硬合金製の環状バルブシート4と、該バルブシート4の外周側に配置された弾性部材からなる環状パッキン5とから構成され、それぞれの出口側開口端面が互いに連続して環状弁座部材3の弁座面となる内側領域の弁座面(内側弁座面)4xと外側領域の弁座面(外側弁座面)5xとをそれぞれ形成している。なお、バルブシート4は、超硬合金製に限らず、例えば、Co基合金(ステライト)や析出硬化型高珪素鋼(シリコロイ)などの他の高硬度部材で構成しても良い。
【0033】
セラミックスボール7は、貫通流路9内を軸方向移動可能に配置された略円筒形状の弁体ホルダー10の入口側に設けられたキャビティ11内に包持され、第1のバネ部材8がこの弁体ホルダー10内でセラミックスボール7を弁座面に向かって押圧付勢している。また弁体ホルダー10は、さらに入口側から第2のバネ部材(不図示)により出口側へ付勢される。
【0034】
以上のように、本逆止弁1では、セラミックスボール7が着座する弁座面は、環状パッキン5と環状バルブシート4とから構成されているが、本実施例では、環状バルブシートは、例えばステンレス鋼などからなるバルブシート押さえ6によって入口側から位置決め固定されている。
【0035】
即ち、バルブシート押さえ6の出口側の対応位置には、環状バルブシート4の入口側端縁に全周に亘って当接すると共に、バルブシート押さえ6の突出部6xが後述する環状パッキン5の一部5yを介してバルブシート4を入口側上部で押圧することによって該バルブシート4が固定されている。従って、本逆止弁1においては、バルブシート押さえ6によって位置固定されたバルブシート4は、弁本体2内でずれることがないため、セラミックスボール7の接触時に、ずれによる先端部への過大荷重に起因するチッピングの発生は回避され、バルブシート4の長寿命化と結果として逆止弁1の長寿命化が図れる。
【0036】
また本実施例では、さらなるチッピング防止のために、図1中円(○)Tで囲んで示したバルブシート4のセラミックスボール7が接する端縁の稜部を曲面状に丸く面取りした。これによってバルブシート4の寿命のさらなる長期化が図れる。
【0037】
一方、環状パッキン5は、バルブシート4の外径を規制するようにバルブシート4の外周領域に密着配置されており、その出口側先端の外周面が弁体ホルダー10のテーパ状の入口側先端面を受け止める傾斜面を備えており、この弁体ホルダー10の入口側先端面の押圧で環状パッキン5の先端内周面がセラミックスボール7の外周面に押し付けられることによって、セラミックスボール7との密着性を高め、より確実な封止状態を得る構成となっている。
【0038】
さらに、この環状パッキン5は、入口側が略Y字状に分岐した形状を有し一方の分岐部分5yが、環状バルブシート4の入口側外周面とバルブシート押さえ6の突出部6xとの間で挟み込まれた状態となり、この押圧挟持力によって、環状パッキン5は一方の分岐部分5yから押圧されて他方の分岐部分が弁本体2に押し付け密着させられるため、この弁本体2との接触領域におけるスラリー液のいわゆる裏漏れが回避され、逆止弁1によるより良好な封止状態が得られる。
【0039】
また、本実施例における弁体ホルダー10は、図2に示すように、環状パッキン5に当接するテーパ面12を備えた環状部13と、該環状部13を等角度間隔で支持して内部に前記キャビティ11を形成する3本のアーム部14とを有するものである。従って、セラミックスボール7の外周を包持するキャビティ11の形成部分は、アーム部14同士の間にスラリー液が充分流通できる開口15が形成されるため、スラリー液流通のためにキャビティ形成部分とセラミックスボールとの間に広い間隙を設ける必要がなくなり、このアーム部14によって囲われるキャビティ11部分をセラミックスボール7の外周面に近接状態で規制できる構成とすることができた。
【0040】
例えば、従来の弁体ホルダーでは、直径12.7mmのセラミックスボールに対してホルダーのキャビティ形成部分の内径は14.7mmとして両者の間に最大2mmもの隙間があいていたが、本実施例では、直径12.7mmのセラミックスボール7に対して、キャビティ形成部分のアーム部14間の最大内径を13.1mmとして両者の隙間を最大で0.4mm程度に抑えることができた。このように、弁体ホルダー10のアーム部14によるキャビティ形成部分をセラミックスボール7の外周面に近接して包持できる構成とすることによって、セラミックスボール7をより軸心に沿って弁座面中心に着座させ、シール性を高めることができる。
【0041】
なお、本実施例におけるバルブシート4の内側弁座面4xを、セラミックスボール7との外周形状に沿った凹曲面とすれば、さらなるシール性の向上が図れる。例えば、セラミックスボール7を直径12.7mmの球状とした場合、内側弁座面4xを丸み半径R=6.35mmとなる形状にすれば、両者はより密着できる。もちろん、環状パッキン5の外側弁座面5xもまた同様にセラミックスボール7の外周形状に沿う凹曲面としても良い。
【0042】
以上の構成を備えた逆止弁1について、図4の微粒化装置の増圧機を構成する2つの高圧プランジャポンプの配下に組み込んで、チタン酸バリウムの微粒化処理を行った際の逆止弁の寿命評価を図5と同様の従来型と比較して行った。以下にその結果を説明する。
【0043】
まず、図4における双方の高圧プランジャポンプの所定位置(IN側およびOUT側)に従来型の逆止弁を配置した場合と、本実施例の構成による逆止弁を配置した場合とで微粒化処理を行い、動作不良が生じた時点で寿命とする。
【0044】
なお、従来型はパッキンがエステル系ウレタンエラストマーからなりバルブシートがSUS630製であるもの(従来型1)と、パッキンがアルカリに強いエーテル系ウレタンエラストマーからなりバルブシートがSUS630製であるもの(従来型2)と、パッキンはエーテル系ウレタンエラストマーからなりバルブシートがWC−Ni系超硬合金製であるもの(従来型3)のそれぞれとし、本実施例による逆止弁は環状パッキン5がアルカリに強いエーテル系ウレタンエラストマーからなるものでありバルブシート4がWC−Ni系超硬合金製のものである。バルブシートに用いられるWC−Ni系超硬合金は、いずれも破壊靭性値K1Cが10〜20MPa・m1/2である。
【0045】
微粒化処理は、各高圧プランジャポンプで原料スラリーをチャンバーに245MPa、流量0.73kg/minで送り込み、チャンバー内でスラリー同士の衝突を行い、衝突後スラリーを回収して再度チャンバーへ送るという循環系で衝突処理を複数パス繰り返していくものである。
【0046】
具体的には、チタン酸バリウム6kgプラス水14kg=20kg(30wt%、pH12.4)をスラリー1ロットとし、1ロット8パスの処理時間が(20kg×8÷0.73kg/min÷60min=)約3.5時間という処理速度で行った。これらを連続的に行った。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から明らかなように、まず同じ素材からなるバルブシートを備えた同じ構成の逆止弁では、従来型1のパッキンがエステル系ウレタンエラストマーの場合に対して従来型2のエーテル系ウレタンエラストマーの場合で倍の寿命となった。これは、エーテル系ウレタンエラストマーがアルカリに強く、pH12以上の強アルカリスラリーの微粒化においてパッキン素材の高い耐久性が発揮されたことに起因する。またこれらの逆止弁は、パッキンの破損と同時にバルブシートも割れて動作不良が生じた。
【0049】
さらに、従来型3においてバルブシートをWC−Ni系超硬合金としたものでは、微粒化処理開始後80時間でパッキンに破損が生じたが、その時点でバルブシートに破損はなく、パッキンのみの交換で110時間の寿命であった。これに対して、本実施例型の構成では、同様に微粒化処理開始後80時間でパッキンのみ破損し、パッキンを交換することでバルブシートは160時間の寿命と従来型に対して長期化した。
【0050】
この結果から、本実施例による逆止弁は、硬質粒子スラリーの微粒化において、従来型に比べてバルブシートの長寿命化により弁自体の寿命の長期化も期待できることが確認された。これは、本実施例の逆止弁においては、バルブシート4がバルブシート押さえ6による位置決め固定でセラミックスボール7との接触時に位置ずれせず、ずれによって部分的に過大な荷重がかかることによるチッピングの発生が回避されたと同時に、環状パッキン5に対する裏漏れ防止により、高圧スラリー液の部材間への浸入が低減されたためである。
【0051】
以上のように、本実施例による逆止弁においては、上記のような構成に加えて、環状バルブシート、環状パッキン等の各部材に関しても好適な素材を選択することによって、スラリーが硬質粒子であるだけでなく、強アルカリ性である場合にも、より長期に亘って充分な封止状態を維持でき、微粒化装置においては従来困難であった原料スラリーに対しても逆止弁として良好に機能することができる。
【0052】
なお、上記実施例では、裏漏れ防止手段として、バルブシート押さえの一部(突出部)と環状バルブシートの入口側外周面との間で環状パッキンの一部(分岐部分)を押圧挟持させる構成を示したが、図3に示したように、バルブシート押さえ26の突出部26xと環状バルブシート24との間で環状パッキン25の略Y字状の一方の分岐部分25yを押圧挟持するという裏漏れ防止手段としての機能するのであれば、環状バルブシート24とバルブシート押さえ26とを同一部材で一体に形成した構成としても良い。
【0053】
この場合の逆止弁21においては、環状バルブシート24およびバルブシート押さえ26とが一体である以外は図1に示した逆止弁1と同じ構成とすれば、図1で示した逆止弁1と同様に封止状態におけるシール性が高く、従来より長い寿命を備えたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例による逆止弁の構成を示す概略縦断面図である。
【図2】本逆止弁の弁体ホルダーを説明する概略構成図であり、(a)は側面図、(b)はA−A断面矢視図、(c)はB−B断面矢視図である。
【図3】本発明の他の例による逆止弁の構成を示す概略縦断面図である。
【図4】高圧プランジャポンプによる増圧機を備えた微粒化装置の一例を示す概略全体構成図である。
【図5】従来の逆止弁の一例を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1,21,30:逆止弁
2,22,32:弁本体
3,23:環状弁座部材
4,24,34:環状バルブシート
4x,24x:内側弁座面
4y:入口側端縁角部
4z:出口側最外端縁
5,25,35:環状パッキン
5x,25x:外側弁座面
5y,25y:環状パッキン分岐部分
6,26:バルブシート押さえ
6x,26x:突出部
7,27,37:セラミックスボール
8,28,38:第1のバネ部材
9,29,39:貫通流路
10,31:弁体ホルダー
11:キャビティ
12:テーパ面
13:環状部
14:アーム部
100:配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧プランジャポンプのシリンダに連通するスラリー送液用の配管流路に設けられ、入口から流入してくる順方向流れを出口へ通過させると共に、出口から入口側へ向かう逆方向流れを阻止する逆止弁において、
スラリー液が一端側入口から他端側出口へ通過する貫通流路を有する弁本体と、貫通流路中に配置されて一端が貫通流路入口に連通すると共に他端が貫通流路出口に開口する環状弁座部材と、該弁座部材の他端側開口縁にテーパー状に形成される弁座面に出口側から着座する可動弁体と、該可動弁体を出口側から付勢して弁座面に押圧して貫通流路を封止させる第1のバネ部材とを備え、
前記弁座面は、互いに連続する内側領域と外側領域とから構成され、前記弁座部材は、前記内側領域の弁座面を形成する高硬度部材からなる環状バルブシートと、該環状バルブシートの外周で前記外側領域の弁座面を形成する弾性体からなる環状パッキンとを有し、
前記環状バルブシートの入口側から該バルブシートを位置決め固定するバルブシート押さえと、
前記環状パッキンの少なくとも一部を入口側で押圧挟持する裏漏れ防止手段と、をさらに備えたことを特徴とする高圧プランジャポンプ用の逆止弁。
【請求項2】
前記裏漏れ防止手段が、前記環状バルブシート押さえの一部を含むことを特徴とする請求項1に記載の逆止弁。
【請求項3】
前記貫通流路内に軸方向移動可能に配置され、前記可動弁体を外周方向から包持するキャビティを入口側端部に有すると共に第2のバネ部材による出口側から入口側への付勢力によりその先端部が前記環状パッキンに当接して少なくとも該環状パッキンの一部を前記可動弁体に押し付ける略筒形状の弁体ホルダーを更に備え、
該弁体ホルダーは、前記環状パッキンに当接するテーパ面を備えた環状部と、該管状部を等角度間隔で支持して内部に前記キャビティを形成する複数本のアーム部とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の逆止弁。
【請求項4】
前記バルブシートが、ニッケルをバインダーとし、破壊靭性値K1Cが10〜20MPa・m1/2である超硬合金からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の逆止弁。
【請求項5】
前記環状パッキンが、ショア硬度Hs80〜95のエーテル系ウレタンエラストマーからなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の逆止弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−214539(P2006−214539A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29026(P2005−29026)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】