説明

透明ガスバリア性フィルムおよびその製造方法

【課題】真空蒸着法を用いて透明高分子フィルム基材の上に酸化珪素膜を蒸着したフィルムで、着色せず透明であり、かつ、ガスバリア性能を有する、両面の利点を兼ね備えた透明ガスバリア性フィルムを得る。
【解決手段】減圧下で酸化珪素材料をビーム加熱蒸着法により蒸発させることで酸化珪素粒子を得、かつ、前記酸化珪素材料の近傍に水蒸気および二酸化炭素の反応性ガスを導入し、前記酸化珪素粒子を透明高分子フィルム基材の片面もしくは両面に蒸着することで前記透明高分子フィルム基材上に酸化珪素膜を形成することで透明ガスバリア性フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素および水蒸気を遮断する透明ガスバリア性フィルムに関する。特に食品、日用品、医薬品等の包装分野に用いられる透明ガスバリア性フィルム、あるいは非包装分野での酸素および水蒸気を遮断が必要な部材分野に用いられる透明ガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品や日用品、医薬品の包装分野では内容物の変質を防止することが求められてきた。これら内容物の変質は、酸素や水蒸気などのガスが包装材料を透過して内容物と反応してしまう。よって、酸素や水蒸気などのガスを透過させない性質(ガスバリア性能)を備えていることが求められており、温度、湿度などに影響されないアルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フイルムが用いられてきた。ところが、アルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フイルムを用いた包装材料は、ガスバリア性能に優れるが、包装材料を透視して内容物を確認することができないだけではなく、使用後の廃棄の際は不燃物として処理しなければならない点や包装後の内容物などの検査の際に金属探知器が使用できない点などの欠点を有していた。同様に、包装用途ではなくとも酸素や水蒸気の進入で耐久性が劣化するようなエレクトロニクス部材等にもガスバリア性能が必要とさる。同時に可視光線の透過が求められるときは、金属箔やアルミニウム蒸着フィルムでは対応しきれない問題があった。
【0003】
そこで、これらの欠点を克服した包装用材料として、最近では酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素などの無機酸化物を透明な基材フイルム上に蒸着した透明ガスバリア性フィルムが上市されている。これらの透明ガスバリア性フィルムは透明性及び酸素、水蒸気等のガス遮断性を有していることが知られ、金属箔などでは得る事が出来ない透明性、ガスバリア性能の両方を有する包装材料として好適とされている。金属酸化物を蒸着した透明ガスバリア性フィルムの中で、酸化珪素を蒸着した透明ガスバリア性フィルムは、ガスバリア性能が優れているが、多少の着色が避けられないものであった。特に、真空蒸着法では成膜速度が速いがガスバリア性能を得るためには、透明性を犠牲にしなければ、十分なガスバリア性能が得られないという問題があった(特許文献1、2)。
【0004】
以下に公知文献を記す。
【特許文献1】特公昭51−48511号公報
【特許文献2】特開平6−136161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空蒸着法を用いて透明高分子フィルム基材の上に酸化珪素膜を蒸着したフィルムで、着色せず透明であり、かつ、ガスバリア性能を有する、両面の利点を兼ね備えた透明ガスバリア性フィルムを得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、この課題を解決するために、透明高分子フィルム基材の片面もしくは両面に、反応性ガスに少なくとも二酸化炭素を用いた蒸着により形成した酸化珪素膜を有し、前記酸化珪素膜の組成のSiOxの酸化度のxが1.8以上で2以下であり、前記酸化珪素膜の圧縮応力が70MPa以上で200MPa以下であることを特徴とする透明ガスバリア性フィルムである。
【0007】
本発明は、上記酸化珪素膜の最表面の炭素濃度が前記酸化珪素膜の内部の炭素濃度の3倍以上6倍以下であることを特徴とする上記の透明ガスバリア性フィルムである。
【0008】
本発明は、減圧下で酸化珪素材料をビーム加熱蒸着法により蒸発させることで酸化珪素粒子を得、かつ、前記酸化珪素材料の近傍に水蒸気および二酸化炭素の反応性ガスを導入し、前記酸化珪素粒子を透明高分子フィルム基材の片面もしくは両面に蒸着することで前記透明高分子フィルム基材上に酸化珪素膜を形成することを特徴とする透明ガスバリア性フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
透明性を損なう事もなく、酸素および水蒸気の遮断性が高い透明ガスバリア性フィルムが得られる効果がある。さらに、真空蒸着法を用いることで他のスパッタリングや化学的気相堆積法(CVD法)に比べ成膜速度が高いため、高分子フィルムにおいて巻取真空成膜の生産性にも優れた透明ガスバリア性フィルムが得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図1を参照して詳細に説明する。図1は本発明の透明ガスバリア性フィルムの断面図を示す。透明ガスバリア性フィルムは、透明高分子フィルム基材2の上に酸化珪素膜1を、真空成膜によって作成することがガスバリア性能や均一性の観点から好ましい。成膜手段は、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法で作成することができるが、真空蒸着方式のうち、電子ビームやレーザービーム等による酸化珪素材料のビーム加熱蒸着法が特に成膜速度や酸化珪素材料への昇温降温が短時間で行える点で有効である。また、本発明の透明ガスバリア性フィルムは、酸化珪素膜1の上に更に高分子膜を形成して用いることもできる。
【0011】
本発明は、減圧下で酸化珪素材料をビーム加熱蒸着法で蒸発させて、透明高分子フィルム基材2に蒸着して酸化珪素膜1を形成する。その酸化珪素膜1は、組成がSiOxで表わされるアモルファス構造であり、酸化度のxを大きくすると組成がSiO2に近づき透明性が増加する。しかしながら、xを大きくし過ぎて酸化珪素膜1をSiO2の組成にしてしまうとガスバリア性能が低下してしまう。そこで、内部圧縮応力があり200MPa以下70MPa以上の圧縮応力がある酸化珪素膜1を作成することで、ガスバリア性能を十分に保ちながら高い透明性を実現する本発明に至った。
【0012】
酸化珪素膜1の内部応力には、引張り応力と圧縮応力がある。透明高分子フィルム基材2が下側、酸化珪素膜1が上側にある例を示すと、通常引張り応力は「∪」のように酸化珪素膜1を内側にする力が働き、圧縮応力は「∩」のように酸化珪素膜1を外側にする力が働く。つまり酸化珪素膜1が圧縮する方向に歪んだ力が常に加わっている。すなわち圧縮応力の場合は、酸化珪素膜1の一部にガスを透過するような欠陥を含んでいても、欠陥を塞ぐような力が内部で加わっておりガスバリア性能が保てる。
【0013】
本発明における酸化珪素膜1の膜厚は、5nm〜300nmの範囲内であることが望ましく、その値は適宜選択される。ただし、酸化珪素膜1の膜厚が5nm以下であると透明高分子フィルム基材2の全面に酸化珪素膜1が形成されないことがあり、バリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚を300nm以上にした場合は酸化珪素膜1にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、酸化珪素膜1に亀裂を生じるおそれがあるためである。
【0014】
透明高分子フィルム基材2として用いる高分子透明プラスチック基材は、特に限定されるものではなく公知のものを使用することができる。例えばポリオレフィン系(ポリエチ
レン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン−6、ナイロン−66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定されない。また、透明プラスチック基材を用いた場合、ロール・トゥ・ロールによって大量生産に適するため、好ましい。実際的には、用途や要求物性により適宜選定をすることが望ましく、限定をする例ではないが医療用品、薬品、食品等の包装には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンなどがコスト的に用いやすく、電子部材、光学部材等の極端に水分を嫌う内容物を保護する包装には、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド類、ポリエーテルスルホンなどのそれ自体も高いガスバリア性能を有する基材を用いることが望ましい。また、透明高分子フィルム基材2の厚みは限定するものではないが、用途に応じて、6μmから200μm程度が使用しやすい。更に、透明高分子フィルム基材2は、高分子透明プラスチック基材の上に別の高分子膜を形成した多層基材を用いても良い。
【0015】
内部応力を含んだ酸化珪素膜1は透明ガスバリア性フィルムをカールすることがある。そのカールの大きさは、透明ガスバリア性フィルムのフィルム厚によって異なるが、同じ内部応力を含む膜を仮定した場合に6、12μmのような薄い透明ガスバリア性フィルムではカールが大きくなり、100μm以上の厚さの透明ガスバリア性フィルムはカールが小さくなる傾向がある。カールが大きいとハンドリングの点で煩雑になる欠点があるが、透明ガスバリア性フィルムを単体で用いることは少なく他のフィルム等に貼り合わせて使用することが多いため、接着などで問題が生じなければ用いることができる。
【0016】
酸化珪素膜1の圧縮応力の調整は、反応性ガスを用いることで調整する。特に、水蒸気と二酸化炭素を導入することで蒸着中の気相中に発生した酸素を酸化珪素膜1の珪素と反応して酸化珪素膜1を形成する。これにより、圧縮応力が増加し、着色が無く、かつ、高いガスバリア性能を備えたフィルムを得ることができた。なお、反応性ガスとして水蒸気と二酸化炭素を導入する位置は、酸化珪素材料の近傍が好ましく、ビーム加熱蒸着法で酸化珪素材料を蒸発した得た酸化珪素の粒子が透明高分子フィルム基材2へ付着する軌跡上に設置することがより好ましい。反応性ガスの導入方法は、パイプ方式やシャワーヘッド方式などの公知の方法を用いることができる。
【0017】
着色が無く高いガスバリア性能を備えたフィルムが得られた理由は以下のように考えられる。高いガスバリア性能を備えたフィルムでは、圧縮応力が70MPa以上あった。この圧縮応力は酸化珪素膜1を広げる方向に力が働き、それにより透明ガスバリア性フィルムが曲げられることにより観測した。この圧縮応力により、酸化珪素膜1中にガスを通過させる欠陥があっても、圧縮応力がその欠陥を塞ぐ作用が働くため高いガスバリア性能が得られると考えられる。また、高いガスバリア性能を備えたフィルムでは、酸化珪素膜1の最表面の炭素濃度が膜内の炭素濃度の3倍以上高かった。酸化珪素膜1の最表面は炭素濃度が高いことによりSiOC成分となり最表面の応力は少なくなる。一方、酸化珪素膜1内部での圧縮応力は依然強いことにより、内部にだけ圧縮応力が集中することになり、欠陥にかかる圧縮応力がより大きく、塞ぐ作用が強くなると考えられる。酸化珪素膜1の炭素濃度とガスバリア性能との関係は、最表面の炭素濃度が膜内部の炭素濃度よりも2倍多くなると効果が現れはじめ、おおよそ3倍になるとガスバリア性能が良好となった。少なくとも炭素濃度が3倍以上6倍以下の範囲内では酸化珪素膜1のガスバリア性能が良好であった。
【0018】
二酸化炭素の反応性ガスにより酸化珪素膜1の圧縮応力が増した。それと同時に、水蒸気の反応性ガスにより、Siと水酸化物とが結合され、SiOxの酸素欠損部分に反応しSiOxの酸化度のxを増すと考えられる。酸化珪素膜1において、水酸化物や水素結合によりSiOx
のxが1.8を超えた組成において着色が無く透明性も高くガスバリア性能の良好な膜となった。ただし、酸化珪素膜1に形成された膜の硬度が高過ぎると、圧縮応力が強い場合に膜が破壊されクラックの原因となり、逆にガスバリア性能は劣ってしまう恐れがある。ここで、蒸着膜では比較的膜の硬度が低いため、圧縮応力が強くてもクラックが発生するほどには至らずガスバリア性能が上がるものと考えられる。
【0019】
酸化珪素膜1の圧縮応力の測定方法は、公知のStoneyの式を用いて圧縮応力σを算出したものと、シリコンウェハ上にも同様に成膜し、シリコンウェハの曲率半径をレーザーにより測定した方法の二通り行った。酸化珪素膜1が成膜された透明高分子フィルム基材2を、長さLを40mm、幅wを3mmの短冊状にした。透明高分子フィルム基材2が延伸フィルムの場合は全て同じ延伸方向で長辺・短辺を合わせた。このような短冊状のサンプルは片方を固定し、もう片方の変位量rを実測した。短冊状の透明高分子フィルム基材2のStoneyの式を下記の式1に示す。ここで、Esは透明高分子フィルム基材2のヤング率、νsは透明高分子フィルム基材2のポワソン比、tsは透明高分子フィルム基材2の厚さ、tfは酸化珪素膜1の厚さ、Rは透明高分子フィルム基材2の反りの曲率半径である。これらの関係から圧縮応力σを算出した。
【0020】
【数1】

ここで、R=r/L2である。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
電子ビーム加熱方式真空蒸着装置で、開閉可能なシャッターを有する蒸発装置の内部で、電子銃から放出する電子ビームを酸化珪素材料に照射し、酸化珪素材料を蒸発させた。そして、シャッターを開くことにより、この真空蒸着装置内に設置した透明高分子フィルム基材2に、蒸発した酸化珪素の粒子を吹付け酸化珪素膜1を成膜した。透明高分子フィルム基材2としては、PET(ポリエチレンテレフタレート、東レ社製T60)の25μm厚のフィルムを用いた。蒸発装置の電子銃から放出する電子ビームの加速電圧を40kV、電子ビームの電流を0.25Aとして酸化珪素材料(SiO、キヤノンオプトロン社製)を加熱した。そして、酸化珪素の蒸発粒子が透明高分子フィルム基材2へ付着する軌跡上にパイプ方式で水蒸気を1sccm、二酸化炭素を3sccm導入した。酸化珪素材料の蒸発が始まった時点で蒸発装置のシャッターを開け、透明高分子フィルム基材2の上に酸化珪素膜1が250nm積層された透明ガスバリア性フィルムが形成されるように成膜時間を調整した。圧力は0.043Paであった。同時に、シリコンウェハ(直径76mm)上にも酸化珪素膜1を成膜した。
【0022】
<実施例2>
実施例1と同様の透明高分子フィルム基材2と酸化珪素材料の加熱条件で、蒸発装置内に水蒸気を3sccm、二酸化炭素を5sccm導入した。透明高分子フィルム基材2の上に酸化珪素膜1が50nm積層された透明ガスバリア性フィルムが形成されるように成膜時間を調整した。圧力は0.043Paであった。同時に、シリコンウェハ(直径76mm)上にも酸化珪素膜1を成膜した。
【0023】
<実施例3>
実施例1と同様の透明高分子フィルム基材2と酸化珪素材料の加熱条件で、酸化珪素の蒸発粒子が透明高分子フィルム基材2へ付着する軌跡上にパイプ方式で水蒸気を10sccm、二酸化炭素を2sccm導入した。酸化珪素材料の蒸発が始まった時点で蒸発装置のシャッターを開け、酸化珪素膜1が50nm積層された透明ガスバリア性フィルムが形成されるように成膜時間を調整した。圧力は0.049Paであった。同時に、シリコンウェハ(直径76mm)上にも酸化珪素膜1を成膜した。
【0024】
<比較例1>
実施例1と同様の透明高分子フィルム基材2と酸化珪素材料の加熱条件で、蒸発装置内に水蒸気を3sccm導入し、二酸化炭素を入れずに成膜をした。膜厚は250nmとなるように成膜時間を調整した。圧力は0.031Paであった。同時に、シリコンウェハ(直径76mm)上にも酸化珪素膜1を成膜した。
【0025】
<比較例2>
実施例1と同様の透明高分子フィルム基材2と酸化珪素材料、加熱条件で、蒸発装置内に水蒸気を入れずに、二酸化炭素を5sccm導入し、透明高分子フィルム基材2の上に成膜をした。酸化珪素膜1が膜厚50nm積層された透明ガスバリア性フィルムが形成されるように成膜時間を調整した。圧力は0.033Paであった。同時に、シリコンウェハ(直径76mm)上にも酸化珪素膜1を成膜した。
【0026】
<比較例3>
実施例1と同様の透明高分子フィルム基材2と酸化珪素材料の加熱条件で、蒸発装置内に水蒸気も二酸化炭素も入れず、透明高分子フィルム基材2の上に成膜をした。圧力は0.028Paであった。酸化珪素膜1の膜厚が50nm積層された透明ガスバリア性フィルムが形成されるように成膜時間を調整した。同時に、シリコンウェハ(直径76mm)上にも酸化珪素膜1を成膜した。
【0027】
以下に実施例、比較例で作成した透明ガスバリア性フィルムとシリコンウェハの酸化珪素膜1の評価方法を示す。
【0028】
○透明ガスバリア性フィルムの評価方法
1)光線透過率・・・分光光度計(島津製作所社製 UV−3100)を用いて、波長400nmの光の透過率を測定
2)水蒸気透過率・・・モダンコントロール社製(MOCON PERMATRAN W3/33)を用いて、40℃−90%RH雰囲気下で測定した。
3)元素組成比・・・ESCA(島津製作所社製 ESCA−3200)により、SiとOの元素組成比を測定。酸化珪素膜1表面とエッチング(120sec)により酸化珪素膜1内部の炭素成分濃度を測定。
4)圧縮応力・・・基材の反り量をマイクロメータで実測し、Es(基材のヤング率):4GPa、νs(基材のポワソン比):0.3、tsは基材の厚さ、tfは6)によって得られた酸化珪素膜1の膜厚を代入して算出。
【0029】
○ シリコンウェハの酸化珪素膜1の評価方法
5)酸化珪素膜の圧縮応力・・・薄膜応力測定装置(Tensor社製、FLX2320)を用いて、6)によって得られた酸化珪素膜1の膜厚を代入し測定
6)酸化珪素膜の膜厚・・・X線反射法によって測定(リガク社製、ATX-G)
表1、表2に評価した結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

表1から、実施例1〜3までは、酸化珪素膜1の圧縮応力が200MPa以下70MPa以上、かつ透明ガスバリア性フィルムの光線透過率が84%以上あった。そして、透明ガスバリア性フィルムは、SiOxのxが1.8を超えるものであっても水蒸気透過率が1.3g/m2-day以下であり十分なガスバリア性能を有した。一方、比較例1〜3いずれも、水蒸気透過率が8g/m2-day以上で大きく、透明ガスバリア性フィルムのガスバリア性能は不十分だ
った。水蒸気を導入しなかった場合を実験した比較例2及び3では、酸化珪素膜1の組成のSiOxの酸化度を表わすxの値が1.8未満であり、酸化度が悪かったが、この場合のガスバリア性能は悪かった。水蒸気を導入し二酸化炭素を導入しない場合を実験した比較例1では、酸化度xの値は1.8以上になったが、酸化珪素膜1の圧縮応力が70MPa未満であり、圧縮応力が不十分であり、この場合のガスバリア性能は悪かった。
【0032】
比較例1では、酸化珪素膜1の組成のSiOxの酸化度xの値が1.8以上あったが、圧縮応力が小さく70MPaに達しないため、ガスバリア性能が悪くなったと考える。酸化珪素膜1の圧縮応力を増すためには二酸化炭素の導入が必要であった。また、実施例1から3まで水蒸気濃度を増すと圧縮応力は低下するが、圧縮応力が70MPa以上あればガスバリア性能は十分あった。比較例2では酸化珪素膜1の圧縮応力が200MPa以上あったが、酸化度xの値が1.8未満だったのでガスバリア性能が悪かったと考える。比較例3では、透明ガスバリア性フィルムの光線透過率が低く黄色化した。表2から、実施例1〜3が比較例1〜3と特に異なる点は、実施例1〜3では、酸化珪素膜1の最表面の炭素濃度が酸化珪素膜1の内部の炭素濃度の6倍以下で3倍以上あることだった。最表面の炭素濃と内部の炭素濃度の3倍以上の違いが、良いガスバリア性能を与える酸化珪素膜1の特徴であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
生産性も高く、安価に透明かつ高いガスバリア性能を持つ透明ガスバリア性フィルムを提供できることで、食品、日用品、医薬品等の包装分野あるいは非包装分野での酸素および水蒸気を遮断が必要な部材分野に広く適応でき、透明でありながらも保存性や耐久性を大きく向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の透明ガスバリア性フィルムの断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1・・・酸化珪素膜
2・・・透明高分子フィルム基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明高分子フィルム基材の片面もしくは両面に、反応性ガスに少なくとも二酸化炭素を用いた蒸着により形成した酸化珪素膜を有し、前記酸化珪素膜の組成のSiOxの酸化度のxが1.8以上で2以下であり、前記酸化珪素膜の圧縮応力が70MPa以上で200MPa以下であることを特徴とする透明ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記酸化珪素膜の最表面の炭素濃度が前記酸化珪素膜の内部の炭素濃度の3倍以上6倍以下であることを特徴とする請求項1記載の透明ガスバリア性フィルム。
【請求項3】
減圧下で酸化珪素材料をビーム加熱蒸着法により蒸発させることで酸化珪素粒子を得、かつ、前記酸化珪素材料の近傍に水蒸気および二酸化炭素の反応性ガスを導入し、前記酸化珪素粒子を透明高分子フィルム基材の片面もしくは両面に蒸着することで前記透明高分子フィルム基材上に酸化珪素膜を形成することを特徴とする透明ガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−87182(P2008−87182A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267314(P2006−267314)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】