説明

透明保護材の製造方法及び該保護材を備える携帯端末

【課題】透過率や見栄えを低下させることなく、指紋等の汚れの付着を防止することができる透明保護材の製造方法及び該透明保護材で保護された表示部を備える携帯端末の提供。
【解決手段】合成樹脂などの部材からなるフィルム状、シート状又は板状の透明基材8上に、スピンコート法により、フッ素樹脂液をサブミクロンオーダーの薄膜状にコーティングした後、好ましくは常温で溶媒を揮発させることによってフッ素樹脂膜9を形成し、透過率や見栄えを低下させることなく、指紋等の汚れの付着しにくい透明保護材7を形成する。そして、ユーザが触ることの多い携帯電話機1やゲーム機、各種操作端末などの表示部2に対してこの透明保護材7を使用することにより、装置の視認性や操作性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明保護膜の製造方法及び該保護膜を備える携帯端末に関し、特に、指紋等が付着しにくいフッ素樹脂膜を備える透明保護材の製造方法及び該保護材で保護された表示部を備える携帯端末に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やパーソナルコンピュータ、ファクシミリ装置、コピー機等には、情報伝達のために、液晶表示装置や有機EL(Electroluminescence)表示装置などの表示部が不可欠である。上記表示部には破損しやすい部材が使用されているため、その保護のために、ユーザが触れる部分に合成樹脂やガラスなどからなるフィルム状、シート状又は板状の透明保護材が具備されている。
【0003】
上記透明保護材を使用した装置の一実施形態について図面を参照して説明する。図3(a)は表示部を備えた携帯電話機の外観を示す斜視図であり、図3(b)は(a)のXーX’線に沿った表示部の構造を示す断面図である。
【0004】
図3に示すように、携帯電話機1は表示部2と操作部3などからなり、表示部2は、上ケース4と下ケース5とその内部に実装された液晶パネル6などを備え、液晶パネル6の表示面には透明保護材13が配置されている。このような透明保護材として、例えば、下記特許文献1には、液晶表示装置に使用する、高温下あるいは高湿度下での寸法安定性に優れた表面保護板が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−249596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記透明保護材13は、液晶パネル6を保護することを目的としており、汚れの付着を防止するための処理が施されていないため、ユーザが透明保護材13に触れると、図4に示すように、透明保護材13の表面に指紋14がついて曇ってしまい、その結果、液晶パネル6の表示が見えにくくなるという問題があった。
【0007】
また、近年タッチパネルタイプの装置も増加してきているが、タッチパネルタイプでは画面に絶えず指が触れるため、指紋14が大量に付着してしまい、これにより、操作の妨げになるなどの問題もあった。
【0008】
これらの問題は、携帯電話機1に限らず、ユーザに触れられることの多いPDA(Personal Digital Assistants)やゲーム機などの携帯端末、ATMなどの各種操作端末などにおいても同様に生じる。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、透過率や見栄えを低下させることなく、指紋等の汚れの付着を防止することができる透明保護材の製造方法及び該透明保護材で保護された表示部を備える携帯端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、部材の表面を保護する透明保護材の製造方法であって、透明基材上に、スピンコート法により、フッ素樹脂を溶媒に溶かしたフッ素樹脂液を塗布する工程と、塗布した前記フッ素樹脂液の前記溶媒を揮発させて、前記透明基材上にフッ素樹脂膜を形成する工程と、を少なくとも有するものである。
【0011】
本発明においては、前記透明基材として、フィルム状、シート状又は板状の合成樹脂を使用する構成とすることができる。
【0012】
また、本発明は、少なくとも表示部を備える携帯端末において、前記表示部の表面に透明保護材を備え、前記透明保護材は、フィルム状、シート状又は板状の合成樹脂からなる透明基材上に指紋の付着を抑制する膜を備えるものである。
【0013】
また、本発明は、少なくとも表示部を備える携帯端末において、前記表示部の表面に、上記記載の方法で製造された透明保護材を備えるものである。
【0014】
このように、スピンコート法により、フィルム状、シート状又は板状の透明基材上にフッ素樹脂液をサブミクロンオーダーの薄膜状にコーティングし、溶媒を揮発させてフッ素樹脂膜を形成することにより、透過率や見栄えを低下させず、かつ、指紋を付着させない透明保護材を製造することができる。特に、指で触れることが多い携帯端末の表示部に上記透明保護材を配置することにより、使いやすい携帯端末をユーザに提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の透明保護材の製造方法及び該透明保護材で保護された表示部を備える携帯端末によれば、透明保護材の透過率や見栄えを低下させることなく、指紋等の汚れの付着を防止することができる。
【0016】
その理由は、合成樹脂などの部材からなるフィルム状、シート状又は板状の透明基材上に、スピンコート法により薄く均一にフッ素樹脂液をコーティングし、好ましくは常温で溶媒を揮発させることにより、フッ素樹脂膜を形成しているからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
従来技術で示したように、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示部の表面には透明保護材が配置されているが、携帯電話機やPDA、ゲーム機などの表示部はユーザに触れられることが多く、特に、タッチパネルなどの操作部を兼ねた表示部はユーザに触れられることを前提にしているため、指紋等が付着して透過率が低下したり、見栄えが悪くなったり、操作性が悪化するなどの問題があった。
【0018】
ここで、指紋は皮脂成分であるため、指紋を付着させないためには油分を浸透させない材料で指紋が付着する可能性のある面をコーティングする必要があり、油分を浸透させない材料としてはフッ素系樹脂材が最適である。しかしながら、透明基材の表面にフッ素系樹脂膜をコーティングする場合に、従来の焼付けコーティング(スプレー工法)では厚さにバラツキが生じて屈折率が変化し、見栄えや透過率を著しく低下させるという問題があった。また、焼付けコーティングでは加熱により透明基材が変形、変質する場合があり、透明基材の材料が耐熱性の高い材料に限定されるといった問題もあった。
【0019】
そこで、本発明では、合成樹脂などの部材からなるフィルム状、シート状又は板状の透明基材上に、スピンコート法により、フッ素樹脂液をサブミクロンオーダーの薄膜状にコーティングした後、好ましくは常温で溶媒を揮発させることによってフッ素樹脂膜を形成し、透過率や見栄えを低下させることなく、指紋等の汚れの付着しにくい透明保護材を提供できるようにする。そして、ユーザが触ることの多い携帯端末やゲーム機、各種操作端末などの表示部に対してこの透明保護材を使用することにより、装置の視認性や操作性を向上させることができる。
【実施例】
【0020】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の一実施例に係る透明保護材の製造方法及び携帯端末について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係る携帯電話機の構造を示す図であり、(a)は携帯電話機の外観図、(b)は(a)のX−X’線に沿った断面図、(c)は透明保護材の拡大図である。また、図2は、透明基材上にフッ素樹脂膜を形成する方法を模式的に示す図である。
【0021】
図1(a)に示すように、携帯電話機1は、一般に、液晶表示装置や有機EL表示装置などで構成される表示部2と、方向キーや数字キー、特殊キーなどで構成される操作部3と、図示しないアンテナや無線部、制御部、RAM(Random Access Memory)などのメモリ、音声コーデック部、スピーカ、マイクなどで構成される。
【0022】
そして、無線部はアンテナにて信号を受信し、信号周波数を選択し周波数変換を行い、これを増幅、復調して受信データを制御部に出力する。制御部は受信データを処理して音声信号を音声コーデック部に出力し、音声コーデック部は音声信号をアナログ信号に変換し、スピーカは音声を出力する。また、マイクにより入力された音声は、音声コーデック部にてPCM信号にA/D変換され、制御部がその信号を送信データに処理し、無線部が送信データを変調し、規定の周波数の搬送波として増幅し、アンテナから送信される。
【0023】
ここで、携帯電話機1は手で持って使用されるために表示部2を指で触ってしまうことが多く、また、折り畳み型の携帯電話機では、開く時に表示部2を指で触ってしまうことも多い。更に、表示部2の近傍にスピーカが配置されることから通話の際に表示部2に耳が接触してことも多い。そして、このような場合に表示部2に皮脂が付着して透過率が変化し、見栄えが著しく悪化してしまう。
【0024】
そこで、本実施例では、図1(b)に示すように、上ケース4と下ケース5の内部に実装された液晶パネル6の表面に透明保護材7を配置し、図1(c)に示すように、その透明保護材7を合成樹脂やガラスなどからなる透明基材8と、透明基材8の上面を薄く均一に被覆するフッ素樹脂膜9とで構成する。
【0025】
なお、透明基材8は可視光を透過する材料であればよく、その厚さや構造は特に限定されず、フィルム状、シート状又は板状のいずれでもよい。また、本発明では常温でフッ素樹脂膜9を形成可能なため、耐熱性の低い合成樹脂を用いることができる。また、透明基材8は光をそのまま透過する構造としてもよいし、例えば、視野角を制限する偏光フィルムなどとしてもよい。
【0026】
また、フッ素樹脂膜9は透明基材8から容易に剥離せず、可視光が透過する限りにおいて、その厚さや材料は限定されず、材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)などのフッ素樹脂を用いることができる。
【0027】
次に、図2を参照して、透明基材8上に上記フッ素樹脂膜9を形成する方法について説明する。
【0028】
従来より、撥水膜としてフッ素樹脂膜が使用されているが、このフッ素樹脂膜を透明基材8上に形成する方法として、従来は焼付けコーティング(スプレー工法)を用いていたため、厚さにバラツキが生じ、また、加熱により透明基材3が変形、変質するなどの問題があった。そこで、本実施例では、透明基材8上にフッ素樹脂を揮発性の溶媒に溶かした溶液(フッ素樹脂液)をスピンコートによって塗布して常温で乾燥させる。
【0029】
具体的には、まず、上述したフッ素樹脂を揮発性の溶媒(例えば、揮発性の高い有機溶媒)に混入、分散、又は溶解して速乾性のフッ素樹脂液12を作成する。
【0030】
次に、必要に応じて、透明基材8にプライマー(下地剤)を塗布した後、図2に示すように、回転台11の上に透明基材8を載置し、透明基材8の略中心に液飛散防止カバー10を介してフッ素樹脂液12を滴下する。その際、始めは低速で回転台11を回転させ、ある程度透明基材8の全体にフッ素樹脂液12を行き渡らせ、その後、高速で回転台11を回転させて、遠心力によって均一に膜を広げていき、余分なフッ素樹脂液12を除去する。なお、フッ素樹脂液12は透明基材8との濡れ性がよいため、完全に飛び散ることはない。
【0031】
この薄膜は液膜状態であるが、高速で回転しているために、ある程度乾燥している。これは、表面の気圧が回転によって下がるために溶媒がある程度揮発するからである。その後、常温若しくは透明基材8が変形、変質しない温度雰囲気で放置して溶媒を完全に揮発させてフッ素樹脂を透明基材8上に固着させ、フッ素樹脂膜9を形成する。
【0032】
このように、本実施例では速乾性のフッ素樹脂液12を使用しているため、フッ素樹脂膜9を常温で形成可能であり、また、スピンコート法でフッ素樹脂液12を塗布しているため、膜厚の調整は回転数や濃度により可能であり、薄くかつ均一なフッ素樹脂膜9を簡単に形成することができる。これにより、透過率や見栄えを低下させることなく、指紋等の汚れの付着を防止することができる透明保護材7を簡単に製造することができ、また、この透明保護材7を携帯端末1の表示部2の保護材として使用することにより、使い勝手のよい携帯端末1を提供することができる。
【0033】
なお、上記実施例では、本発明の透明保護材7を携帯電話機1の表示部2の保護材として利用する場合を示したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、任意の携帯端末やタッチパネルを備える操作端末などに対しても同様に適用することができる。また、本発明の透明保護材7は表示部2の保護用途に限らず、携帯電話機1の上ケース4や下ケース5などの筐体が光沢を有する場合(例えば、金属の鏡面など)には、筐体の保護用途に利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、指紋等が付着しやすい部材を保護するための透明保護材の製造方法及びその透明保護材で保護された任意の装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例に係る携帯電話機の構造を示す図であり、(a)は携帯電話機の外観図、(b)は、XーX’線に沿った表示部の断面図、(c)は透明保護材を拡大した断面図である。
【図2】本発明の一実施例に係る透明保護材の製造方法を模式的に示す図であり、透明基材上にフッ素樹脂膜をスピンコート法で塗布する状態を示している。
【図3】従来の携帯電話機の構造を示す図であり、(a)は携帯電話機の外観図、(b)はXーX’線に沿った表示部の断面図である。
【図4】従来の透明保護材に指紋がついた状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 携帯電話機
2 表示部
3 操作部
4 上ケース
5 下ケース
6 液晶パネル
7 透明保護材
8 透明基材
9 フッ素樹脂膜
10 液飛散防止カバー
11 回転台
12 フッ素樹脂液
13 透明保護材
14 指紋(皮脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の表面を保護する透明保護材の製造方法であって、
透明基材上に、スピンコート法により、フッ素樹脂を溶媒に溶かしたフッ素樹脂液を塗布する工程と、
塗布した前記フッ素樹脂液の前記溶媒を揮発させて、前記透明基材上にフッ素樹脂膜を形成する工程と、を少なくとも有することを特徴とする透明保護材の製造方法。
【請求項2】
前記透明基材として、フィルム状、シート状又は板状の合成樹脂を使用することを特徴とする請求項1記載の透明保護材の製造方法。
【請求項3】
少なくとも表示部を備える携帯端末において、
前記表示部の表面に透明保護材を備え、
前記透明保護材は、フィルム状、シート状又は板状の合成樹脂からなる透明基材上に指紋の付着を抑制する膜を備えることを特徴とする携帯端末。
【請求項4】
少なくとも表示部を備える携帯端末において、
前記表示部の表面に、請求項1又は2に記載の方法で製造された透明保護材を備えることを特徴とする携帯端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−136963(P2008−136963A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326832(P2006−326832)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】