説明

透明導電性薄膜及びその製造方法

【課題】簡便に膜の高透過性と低比抵抗性を両立させることができる透明導電性薄膜の製造方法を提供し、さらに該製造方法により製造されてなる透明導電性薄膜を提供する。
【解決手段】スパッタリング法により透明導電性薄膜を基板11上に成膜する透明導電性薄膜の製造方法において、AlがドープされたZnOまたはGaがドープされたZnOからなるターゲット3を用い、Arガス雰囲気下で酸素ガスを導入することなく、基板11とターゲット3との間にパルスDC電源5より高周波のパルス状の直流電圧を印加してスパッタ成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスDC電源を用いたスパッタ法により成膜される透明導電性薄膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電性薄膜としてITO(In23にSnO2をドープしたもの)が広く用いられているが、昨今のIn枯渇に伴う価格の高騰が問題視されており、Inに替わる新規材料における透明導電性薄膜の開発が近年行われている。その中でInに比べ、安価であるために有望視されているのがZnO系材料であり、Al23をドーパントとした、AZO(ZnOにAl23がドープされた材料)はITO代替材料として注目されている。
【0003】
スパッタ法にて透明導電性薄膜を製造するプロセスにおいて、例えば、AZO酸化物ターゲット、あるいは、酸化ガリウム(Ga23)をドープしたGZO酸化物ターゲットを用い、Arガスなどの不活性ガスのみを導入して成膜した場合には低比抵抗な膜を得られるが、膜の光の吸収が多く、透明性を要求するアプリケーションには適していなかった。
【0004】
そこで、AZO酸化物ターゲットを用い、酸素を含む不活性ガス雰囲気中で所定の条件で前記ターゲットと基板の間に直流電圧を印加してスパッタリングすることにより、透明性を改善する透明導電性薄膜の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−188707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法において、高透過性と低比抵抗性とを両立させるためには、微量導入する酸素の導入量をマスフローコントローラー(MFC)によって精度よくコントロールする必要があった。また、その製造方法によって得られる薄膜でも、透明性や比抵抗は十分なものではなかった。
【0007】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、簡便に膜の高透過性と低比抵抗性を両立させることができる透明導電性薄膜の製造方法を提供し、さらに該製造方法により製造されてなる透明導電性薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために提供する本発明は、スパッタリング法により透明導電性薄膜を基板11上に成膜する透明導電性薄膜の製造方法において、AlがドープされたZnOまたはGaがドープされたZnOからなるターゲット3を用い、スパッタガス(Arガス)雰囲気下で酸素ガスを導入することなく、前記基板11とターゲット3との間に(パルスDC電源5より)高周波のパルス状の直流電圧を印加してスパッタ成膜することを特徴とする透明導電性薄膜の製造方法である(図1)。
ここで、前記直流電圧のパルス周波数が20〜150kHzであることが好ましい。
【0009】
また前記課題を解決するために提供する本発明は、AlがドープされたZnOまたはGaがドープされたZnOからなるターゲットを用い、スパッタガス雰囲気下で酸素ガスを導入することなく、基板とターゲットとの間に高周波のパルス状の直流電圧を印加して、基板上にスパッタ成膜されてなることを特徴とする透明導電性薄膜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の透明導電性薄膜の製造方法によれば、酸素ガスを導入することなくスパッタリングするので簡便にかつ安定的に、高透過性と低比抵抗性を両立させた透明導電性薄膜をスパッタ成膜することができる。
また、本発明の透明導電性薄膜によれば、従来の透明導電性薄膜の透過性、比抵抗と同等以上のものを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る透明導電性薄膜の製造方法について説明する。なお、本発明を図面に示した実施形態をもって説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、実施の態様に応じて適宜変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0012】
図1は、本発明に係る透明導電性薄膜の製造方法を実施する上で使用するスパッタ装置の構成を示す概略図である。
図1に示すように、スパッタ装置は直流方式のスパッタ装置であり、チャンバー1内に基板11を保持する基板ホルダー2とターゲット3を保持するターゲットホルダー4とが対向配置されており、基板11とターゲット3との間に高周波のパルス状の直流電圧が印加されるようになっている。詳しくは、基板11は基板ホルダー2を経由してグランドに接地され、ターゲット3はターゲットホルダー4を経由してパルスDC電源5につながっており、基板11のアース電位に対してターゲット3にはパルスDC電源5から所定のパルスパターンのマイナスの直流電圧が印加される。
【0013】
図2に、パルスDC電源5から供給される直流電圧のパルスパターン例を示す。
パルスパターンは、印加電圧Vs、周期T、反転パルス送出時間τで規定される矩形波であり、電極電圧を定期的に反転させて反転パルスを送出しターゲット3におけるチャージアップを除去し、マイクロアーク放電を防止することが可能である。本発明では、投入電力;100〜500W、印加電圧Vs;−300〜−500(V)、周波数(1/T);20〜150(kHz)、反転パルス送出時間τ;2.0〜4.0(μs)の範囲で適宜パルスパターンの条件が設定される。なお、反転パルスは0Vを目標に送出されるが、回路上プラス電圧側に若干(図2では電圧aだけ)オーバーシュートしている。
【0014】
また、スパッタ装置は、チャンバー1内の排気系として排気ポンプ6を有している。さらに、ガス供給系としてArガスボンベ8及びガスボンベ8からのArガスをチャンバー1内へ導くガス配管9を有しており、該Arガスはガス配管9に設けられたArガス流量コントローラ8aによって所定の流量がコントロールされプロセスガス導入口9aからチャンバー1内に導入されるようになっている。
【0015】
本スパッタ装置により基板1上に透明導電膜を成膜するに当っては、つぎの手順で処理を行う。
(S11)基板ホルダー2に基板1をセットする。
ここで、基板1は、表面が清浄な透明ガラス基板またはポリカーボネイト(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリオレフィン(PO)のいずれかからなる透明な樹脂基板である。
(S12)ターゲットホルダー4にターゲット3をセットする。
ここで、ターゲット3は、ZnOにAlがドープされているAZOターゲットであり、Al含有量は熱的に安定な膜が得られる2wt%程度がよく、例えば1.0〜10.0wt%であることが好ましい。あるいは、ZnOにGaがドープされているGZOターゲットであり、Ga含有量は熱的に安定な膜が得られる2wt%程度がよく、例えば1.0〜10.0wt%であることが好ましい。
【0016】
(S13)チャンバー1内を排気ポンプ6により排気し真空にする。残留ガスとしてのOガスの影響を排除するためにできるだけ高真空に排気することが好ましく、例えば背圧としての真空度を1×10−3Pa以下とする。
(S14)ついで、排気を継続しながらチャンバー1内にArガスボンベ8からのArガスをプロセスガス導入口9aから導入し、チャンバー1内が一定の雰囲気圧力になるようにする。
(S15)ついで、パルスDC電源5よりターゲット3と基板1間に高周波のパルス状の直流電圧を印加し、雰囲気ガス(Ar)についてグロー放電させプラズマ状態Pとする。
(S16)プラズマ状態Pが安定したらスパッタリングを開始し、基板1上にAlを含むZnO、あるいはGaを含むZnOからなる透明導電性薄膜を形成する。
【実施例】
【0017】
本発明の透明導電性薄膜の製造方法により製造した透明導電性薄膜の試験例を以下に示す。
(試験例1)
図1に示すスパッタ装置を使用し、以下の条件で透明導電性薄膜サンプルを作製した。
・基板11:ガラス基板
・ターゲット3:ZnO−2wt%Al
・真空度(背圧):1.7×10−4Pa以下
・導入ガス:Arガス(流量60sccm)(酸素ガス導入せず)
・パルスDC電源条件
・・パルスDC電源5:Advanced Energy(AE)社製、PinnacleTMPlus+
・・パルスパターン(図2)
・・・印加電圧:−300〜−500(V)
・・・周波数:0,20,50,75,100,125,150kHz
・・・反転パルス送出時間τ:2.0〜4.0(μs)
・・目標投入電力:450W
・透明導電性薄膜の膜厚:120nm
【0018】
図3に、得られたサンプルの比抵抗測定結果を、図4にキャリア密度の測定結果を示す。なお、比抵抗、キャリア密度はHall効果測定機(ナノメトリクス・ジャパン社製)を用いて測定した。
パルスDC電源のパルスパターンの周波数が増加するにつれてキャリア密度が低下し、比抵抗値が上昇する傾向が認められた。
【0019】
図5に、比較例として、従来方法の反応性スパッタリングによって作製したAZO透明導電性薄膜の比抵抗測定結果を示す。ここでは、試験例1の条件のうち、図1のスパッタ装置の電源を直流電源とし、導入ガスとしてArガス(スパッタリングガス)を60sccm、酸素ガス(反応性ガス)をO/Ar流量比として0〜4%となるように変化させ、目標投入電力を100,400Wの2水準として、透明導電性薄膜サンプルを作製した。その結果、酸素ガスを導入していない場合(O/Ar流量比=0%)に最も比抵抗が小さい値を示した。また、投入電力が100Wと低いほうが酸素導入後の比抵抗の増加率が大きかった。
【0020】
つぎに、図6にパルスパターンの周波数0,100kHzの本試験例サンプルの透過特性を示す。周波数100kHzのサンプルのほうがパルスなし(周波数0kHz)よりも透過率が増加しており、図4の結果と合わせるとキャリア密度の低下に伴って薄膜の透過率が増加しているといえる。
【0021】
ここで、本試験例と比較例のサンプル(透明導電性薄膜)の比抵抗と吸収係数(K)についての比較を行なった。表1に、本試験例の周波数0,20,75kHzのサンプル、並びに比較例の投入電力400W、O/Ar流量比=0,0.7,1.4%のサンプルの結果を示す。なお、吸収係数は、分光エリプソメトリー(J.A.Woollam社製)を用いて波長457,532,642nmの値を測定した。
透明導電性薄膜として比抵抗、吸収係数がともに優れているものは、本試験例の周波数20,75kHzのサンプルであった。
【0022】
【表1】

【0023】
また、図7に、本試験例サンプルの成膜中のターゲット3上の異常放電(マイクロアーク)の発生量を示す。パルスなし(周波数0kHz)の場合にはマイクロアークが1000(個/10分)程度発生したが、高周波のパルスパターンの直流電圧印加によりマイクロアークの発生が抑制されていた。
【0024】
つぎに、図8に、本試験例サンプルについてX線回折分析を行い、AZO透明導電性薄膜の結晶性について調査した結果を示す。
その結果、パルスパターンの周波数を増加させると2θ=34.5°付近のZnO(002)面に起因するピークが低角度側にシフトする傾向が認められた(図8(a))。また、それによってZnOのc軸の格子定数は増加し、面間隔が広がる傾向にあった(図8(b))。なお、ZnOのa軸の格子定数はほとんど変化していなかった(図8(c))。
【0025】
以上より、従来方法ではスパッタ成膜時にMFCによって微量の酸素ガスを導入することにより比抵抗を少し犠牲にしながら透過率を改善することを行なっていたが、本発明では高周波のパルス状の直流電圧を印加することにより、酸素ガスの導入なしでも再現性よく透過率を改善することができる。また、パルスDC方式によりターゲット上のマイクロアークを抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る透明導電性薄膜の製造方法を実施する上で使用するスパッタ装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る透明導電性薄膜の製造方法において使用する印加電圧のパルスパターンの模式図である。
【図3】試験例1のサンプルの比抵抗測定結果を示す図である。
【図4】試験例1のサンプルのキャリア密度の測定結果を示す図である。
【図5】比較例のサンプルの比抵抗測定結果を示す図である。
【図6】試験例1のサンプルの透過率の測定結果を示す図である。
【図7】試験例1のサンプルの成膜時のマイクロアーク発生量を示す図である。
【図8】試験例1のサンプルのX線回折分析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1…チャンバー、2…基板ホルダー、3…ターゲット、4…ターゲットホルダー、5…パルスDC電源、6…排気ポンプ、8…Arガスボンベ、8a…ガス流量コントローラ、9…ガス配管、9a…プロセスガス導入口、11…基板、P…プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法により透明導電性薄膜を基板上に成膜する透明導電性薄膜の製造方法において、
AlがドープされたZnOまたはGaがドープされたZnOからなるターゲットを用い、スパッタガス雰囲気下で酸素ガスを導入することなく、前記基板とターゲットとの間に高周波のパルス状の直流電圧を印加してスパッタ成膜することを特徴とする透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記直流電圧のパルス周波数が20〜150kHzであることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項3】
AlがドープされたZnOまたはGaがドープされたZnOからなるターゲットを用い、スパッタガス雰囲気下で酸素ガスを導入することなく、基板とターゲットとの間に高周波のパルス状の直流電圧を印加して、基板上にスパッタ成膜されてなることを特徴とする透明導電性薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−140626(P2009−140626A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313100(P2007−313100)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】