説明

透明薄膜積層体の製造装置及びその製造方法

【課題】透明樹脂基材に吸着しているガスの放出を抑え、ロール巻取りの際の巻きシワを抑制することができる透明薄膜積層体の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】基材巻出し室1の基材ロール2より透明樹脂基材3を巻出し、搬送ロール4を通過後、スパッタ室5のアノードドラム6を通過させる。その際にカソード7a、7b、7cとの間に電力を印加しスパッタリングで透明導電性膜の成膜を行ない、搬送ロール4を通してフィルム巻き取り室8で再びロール9に巻き上げることにより、長尺、具体的には数100m以上、場合により数1000mの透明薄膜積層体を連続的に製造する。基材ロール2に巻かれている透明樹脂基材3は、基材巻出し室1の調温装置1aによって温度0℃に冷却する。また、搬送ロール4a、4b、4c、4dとアノードドラム6及びスパッタ室5内雰囲気の温度を、調温装置12により、透明樹脂基材3と同じ0℃に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のディスプレイ上に入力デバイスとして取り付けられる透明なタッチパネルや、フレキシブルディスプレイの電極などに用いられる透明薄膜積層体の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ画面を指で触れたり、ペンで押圧するだけで入力できる透明タッチパネルが普及している。このタッチパネルの電極として使用される透明導電性フィルムは基本的にガラスもしくは高分子フィルムに導電膜を積層した構成を有している。特に近年では可撓性、加工性に優れ、軽量である等の点からポリエチレンテレフタレートをはじめとする高分子フィルムを使用した透明導電性フィルムが使用されている。
【0003】
透明導電性フィルムの製造方法として最近はスパッタ法での製膜が主流になってきている。しかし、基材となる高分子フィルムに吸着している水成分を含むガス等がスパッタ室で大量又は不均一に放出され、反応性スパッタとなる透明導電性層のスパッタでは酸素成分の多い又は不均一な膜質となり、場合により制御不能となる問題があった。
そのため、特許文献1ではスパッタ室の上流に加熱装置を備えた脱ガス設備を設ける方法が提案されている。しかし、この方法ではスパッタ時には基材温度が高い状態で高温のプラズマに曝されるためにさらに基材温度が上昇し、大きく熱膨張が起こる。そして、スパッタ後のロール巻取りの際に急激に温度低下が起こり、高分子フィルムが収縮するために巻きシワが発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−195035
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、透明樹脂基材に吸着しているガスの放出を抑え、ロール巻取りの際の巻きシワを抑制することができる透明薄膜積層体の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであり、本発明の請求項1に係る発明は、長尺の透明樹脂基材を連続的に搬送ローラーにより搬送しつつ、その上に透明薄膜をスパッタリング法により連続的に形成するようにした透明薄膜積層体の製造装置において、
スパッタリングの際に前記透明樹脂基材の温度と、該透明樹脂基材が接触しているアノードドラム及び前記搬送ローラーの温度とを略同じに保つ温度調整手段を有する、
ことを特徴とする透明薄膜積層体の製造装置である。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記温度調整手段が、前記スパッタ室とは別の部分に配置されて前記透明樹脂基材を前記アノードドラム、前記搬送ローラーと略同じ温度にする冷却室を備えていることを特徴とする請求項1に記載の透明薄膜積層体の製造装置である。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記アノードドラム、前記搬送ローラー及び前記透明樹脂基材の温度が−30℃以上10℃以下であることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の透明薄膜積層体の製造装置である。
【0009】
請求項4に係る発明は、透明導電性膜を含む前記透明薄膜積層体を製造することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の透明薄膜積層体の製造装置及び製造方法である。
【0010】
請求項5に係る発明は、前記透明樹脂基材と前記透明導電性膜の間に、金属または無機化合物を有する前記透明薄膜積層体を製造することを特徴とする請求項4に記載の透明薄膜積層体の製造装置及び製造方法である。
【0011】
請求項6に係る発明は、長尺の透明樹脂基材を連続的に搬送ローラーにより搬送しつつ、その上に透明薄膜をスパッタリング法により連続的に形成するようにした透明薄膜積層体の製造方法において、
スパッタリングの際に前記透明樹脂基材が接触しているアノードドラム及び前記搬送ローラーの温度を略同じに保つようにしたことを特徴とする透明薄膜積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成膜中の透明樹脂基材の温度を低温にすることで透明樹脂基材に吸着しているガスの放出を低減し、ガス中の水による透明薄膜積層体の膜質への悪影響を抑え、さらに、ロール巻取りの際の巻きシワの発生を抑制しての透明薄膜積層体の製造を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の透明薄膜積層体の製造装置の一実施形態の基本構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、透明導電性膜が積層されている透明薄膜積層体の製造装置の図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【0015】
図1のように、本形態は基材巻出し室1の基材ロール2より透明樹脂基材3を巻出し、搬送ロール4を通過後、スパッタ室5のアノードドラム6を通過させる。その際にカソード7a、7b、7cとの間に電力を印加しスパッタリングで透明導電性膜の成膜を行ない、搬送ロール4を通してフィルム巻き取り室8で再びロール9に巻き上げることにより、長尺、具体的には数100m以上、場合により数1000mの透明薄膜積層体を連続的に製造するように構成されている。
また、各室は所定の長さのスリット等雰囲気を分離できる通路10a、10bにより連結され、また各室には室毎に独立してその排気を調整できる真空排気系の排気調整手段11a、11b、11cが設けてある。ここで、本形態では各室ごとに排気調整手段11a、11b、11cを設けているが、全体に共通としてもよい。
なお、透明導電性膜を成膜する際に全てのカソードに電力印加をする必要はなく、任意のカソードを用いてでスパッタリングを行なえばよい。また、透明導電性膜の下地として別の膜を積層することも可能である。
【0016】
基材巻出し室1は、図示省略したが巻出し軸にセットされた基材ロール2から透明樹脂基材3を一定張力で連続的に巻き出す巻出し手段が設けられている。また、基材巻出し室1は、排気調整手段11aの実施前の大気圧下で、巻出し軸にセットされた基材ロール2を所定の温度に冷却する調温装置1aを備えている。この調温装置1aには、例えば、公知の空調装置を用いることができる。
【0017】
この基材巻出し室1よりスパッタ室5に直接透明樹脂基材3を搬送して透明導電性膜を堆積すると、透明樹脂基材3から水成分を含む大量又は不均一なガスが放出され、反応性スパッタで形成される透明導電性膜が酸素成分過多又は不均一な品質のものとなる問題が生じた。この問題は、透明樹脂基材3が機能層が多層コーティングされた積層フィルムや複数のフィルムをラミネートしたラミネートフィルムの場合には、特に顕著であった。それにより、スパッタ室5内での透明樹脂基材3からのガス放出を抑制する必要があることが分かった。
【0018】
そのため、本形態の基材ロール2に巻かれている透明樹脂基材3は、基材巻出し室1の調温装置1aによって温度0℃に冷却され、さらに、搬送ロール4a、4b、4c、4dとアノードドラム6及びスパッタ室5内雰囲気の温度が透明樹脂基材3と同じ0℃になるように設定されている。
これにより、スパッタ室5内における透明樹脂基材3を低温に保てることから、透明樹脂基材3からのガス放出を抑制することができる。
なお、本形態では、基材巻出し室1が請求項中の冷却室に相当することになる。
【0019】
本形態では透明樹脂基材3を基材巻き出し室1の巻き出し軸にセットされた状態で基材巻き出し室1の調温装置1aにより低温にしているが、外部であらかじめ冷却したものを基材巻き出し室1に搬入する形態にしても構わない。
【0020】
本形態では透明樹脂基材3が搬送ロール4a、4b、4c、4dとアノードドラム6の通過前にあらかじめ冷却されている。これにより、透明樹脂基材3からのガス放出を抑制するとともに、巻きシワの発生を抑制する効果が見込まれる。
もし、透明樹脂基材3が事前に冷却されずに常温で投入され、搬送ロール4a、4b、4c、4dとアノードドラム6の通過時に冷却されると、張力がかかった状態で収縮が発生するために巻きシワが発生しやすくなってしまう。
【0021】
搬送ロール4a、4b、4c、4dとアノードドラム6の温度調整は以下のようにした。すなわち、搬送ロール4a、4b、4c、4dとアノードドラム6を、その中に熱媒体を循環させる熱媒循環式の調温装置12で温度制御するようにした。
【0022】
透明樹脂基材3の温度と、搬送ロール4a、4b、4c、4dやアノードドラム6の温度とを同じに保つ方法は、それぞれを予め定められた規定の温度(本形態では0℃)にするよう個別にコントロールする方法でもよい。この場合は、調温装置1a,12によって、請求項中の温度調整手段を構成することができる。また、調温装置1aが検出する透明樹脂基材3の温度と、調温装置12が検出する搬送ロール4a、4b、4c、4dやアノードドラム6の温度との、どちらか一方が他方と同じになるように、図1に示すコントローラ13によって調温装置1a,12の両方又は片方を制御するようにしてもよい。この場合は、調温装置1a,12にコントローラ13を加えることによって、請求項中の温度調整手段を構成することができる。
【0023】
本形態で用いることができる透明樹脂基材3は、プラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムとしては、成膜工程および後工程において十分な強度があり、表面の平滑性が良好であれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセチルロースなどが挙げられる。その厚さは部材の薄型化と基材の可撓性とを考慮し、10μm以上200μm以下程度のものが用いられる。
【0024】
前記透明樹脂基材3に含有される材料としては、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、易接着剤などが使用されてもよい。各層との密着性を改善するため、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理などを施してもよい。
【0025】
本形態によれば、In、Sn、Oを主成分とし、それらの2種類もしくは3種類の混合酸化物、さらには、その他必要に応じて、Al、Zr、Ga、Si、W等の添加物を含有した透明薄膜積層体を製造することができる。本形態の製造装置で製造する透明薄膜積層体には、目的・用途により種々の材料が使用でき、特に限定されるものではない。現在のところ、最も信頼性が高く、多くの実績のある材料は酸化インジウムスズ(ITO)である。
【0026】
本形態に係る製造装置で製造する透明薄膜積層体において、透明樹脂基材と透明導電性膜との間に密着層を形成してもよい。密着層を形成する材料としては、金属またはその酸化物、硫化物、フッ化物等の無機化合物を用いることができる。実用上は酸化珪素、酸化アルミニウムなどが特に好適に用いられる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明の詳細を具体的に説明する。
【0028】
<実施例1>
図1の構成の製造装置で以下のように透明導電性膜がITO膜の透明薄膜積層体を製造した。
透明樹脂基材に膜厚50μmのポリカーボネートフィルムを用い、その一方の面に搬送速度2m/minで直流マグネトロンスパッタ法により密着層と透明導電性膜を順に成膜した。ここで、密着層には膜厚7nmの酸化珪素を、透明導電性膜には膜厚20nmのITOを成膜した。
この際、透明樹脂基材の巻出し時の温度は0℃、搬送ロールとアノードドラムの温度は0℃となっている。
【0029】
<比較例1>
図1の構成の製造装置で以下のように透明導電性膜がITO膜の透明薄膜積層体を製造した。
透明樹脂基材に膜厚50μmのポリカーボネートフィルムを用い、その一方の面に搬送速度2m/minで直流マグネトロンスパッタ法により密着層と透明導電性膜を順に成膜した。ここで、密着層には膜厚7nmの酸化珪素を、透明導電性膜には膜厚20nmのITOを成膜した。
この際、透明樹脂基材の巻き出し時の温度は23℃(常温)、搬送ロールとアノードドラムの温度は0℃となっている。
【0030】
<比較例2>
図1の構成の製造装置で以下のように透明導電性膜がITO膜の透明薄膜積層体を製造した。
透明樹脂基材に膜厚50μmのポリカーボネートフィルムを用い、その一方の面に搬送速度2m/minで直流マグネトロンスパッタ法により密着層と透明導電性膜を順に成膜した。ここで、密着層には膜厚7nmの酸化珪素を、透明導電性膜には膜厚20nmのITOを成膜した。
この際、透明樹脂基材の巻き出し時の温度は23℃(常温)、搬送ロールとアノードドラムの温度は23℃(常温)となっている。
【0031】
実施例1及び比較例1〜2の成膜時のスパッタ室の水分圧及び製造された透明薄膜積層体の評価結果を表1に示す。透明薄膜積層体の評価方法については以下に記載する。
【0032】
【表1】

【0033】
[加熱後結晶性]
透明薄膜積層体の膜質の評価として、透明薄膜積層体を加熱処理装置で加熱処理し、透明導電性膜面側をX線解析装置(リガク社製)で分析して、加熱後結晶性の評価を行なった。
【0034】
[巻きシワ]
透明薄膜積層体の成膜後にフィルム巻取り室8のロール9を目視観察し、巻きシワが無いか評価を行なった。
【0035】
<評価結果>
表1に示す結果から、実施例1は比較例1及び2と比べてスパッタ室内の酸素分圧を低く抑えられ、それにより加熱後結晶性の良い優れた膜質を得られた。また、巻きシワについても実施例1は良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0036】
1 基材巻出し室
1a 調温装置
2 基材ロール
3 透明樹脂基材
4a〜4d 搬送ロール
5 スパッタ室
6 アノードドラム
7a〜7c カソード
8 フィルム巻取り室
9 ロール
10a〜10b 通路
11a〜11c 排気調整手段
12 調温装置
13 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の透明樹脂基材を連続的に搬送ローラーにより搬送しつつ、その上に透明薄膜をスパッタリング法により連続的に形成するようにした透明薄膜積層体の製造装置において、
スパッタリングの際に前記透明樹脂基材の温度と、該透明樹脂基材が接触しているアノードドラム及び前記搬送ローラーの温度とを略同じに保つ温度調整手段を有する、
ことを特徴とする透明薄膜積層体の製造装置。
【請求項2】
前記温度調整手段が、前記スパッタ室とは別の部分に配置されて前記透明樹脂基材を前記アノードドラム、前記搬送ローラーと略同じ温度にする冷却室を備えていることを特徴とする請求項1に記載の透明薄膜積層体の製造装置。
【請求項3】
前記アノードドラム、前記搬送ローラー及び前記透明樹脂基材の温度が−30℃以上10℃以下であることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の透明薄膜積層体の製造装置。
【請求項4】
透明導電性膜を含む前記透明薄膜積層体を製造することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の透明薄膜積層体の製造装置。
【請求項5】
前記透明樹脂基材と前記透明導電性膜の間に、金属または無機化合物を有する前記透明薄膜積層体を製造することを特徴とする請求項4に記載の透明薄膜積層体の製造装置。
【請求項6】
長尺の透明樹脂基材を連続的に搬送ローラーにより搬送しつつ、その上に透明薄膜をスパッタリング法により連続的に形成するようにした透明薄膜積層体の製造方法において、
スパッタリングの際に前記透明樹脂基材が接触しているアノードドラム及び前記搬送ローラーの温度を略同じに保つようにしたことを特徴とする透明薄膜積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−72112(P2013−72112A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211780(P2011−211780)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】