説明

透明高分子組成物および光学部材

【課題】表面修飾無機微粒子と透明高分子化合物とを共に分散させることで、優れた光学特性、特に優れた透明性と高い屈折率、波長分散性を有する透明高分子組成物と光学部材を提供すること。
【解決手段】
(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子と、(B)透明高分子化合物とを含有する透明高分子組成物において、(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子を、金属ハライドおよび金属アルコキシドからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属含有化合物と、第1のカルボン酸含有化合物との非水溶媒中における非加水分解型反応によって製造し、第2のカルボン酸含有化合物を作用させた時に、第1のカルボン酸含有化合物から構成される表面修飾分子部の少なくとも一部が第2のカルボン酸含有化合物で置換され、有機溶媒中に分散させた時に透明コロイドを形成することを特徴とする透明高分子組成物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材に用いられる透明高分子組成物(透明樹脂組成物)に関する。より詳細には、本発明は、分散性に優れ、透明性や光学特性を確保しつつ、屈折率を高めることが可能な表面修飾無機微粒子を含む透明高分子組成物、及びそれを用いて構成される光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明高分子化合物の高屈折率化は、高分子化合物の側鎖や主骨格に硫黄、ハロゲン原子またはベンゼン環などの置換基を導入することによって行われてきた。しかし、そのような方法によって屈折率を向上させる技術には限界があり、さらに高分子化合物への置換基の導入は、吸湿率、屈折率温度依存性、複屈折率などの光学特性の低下を招く場合があった。そのため、近年、透明高分子化合物に微粒子を分散させて組成物を構成し、高分子化合物に種々の光学特性を付与する一方で、それらの屈折率を高める試みが盛んに行われている。
【0003】
透明高分子組成物は、透明高分子化合物に微粒子を分散させることによって得られる。そのような組成物において良好な透明性を実現する最も容易な方法は、微粒子および透明高分子化合物のそれぞれの屈折率が互いに近似しているものを混合することである。この場合、微粒子の大きさや分散性はあまり問題にならない。しかし、透明高分子組成物の屈折率を高めるために、高い屈折率を有する微粒子を、それよりも低い屈折率を有する透明高分子化合物に分散させる場合には、微粒子の粒子径や分散性について十分に配慮する必要がある。一般に、透明高分子組成物において優れた透明性を実現できるのは、高分子化合物中に光の波長よりも十分に小さい微粒子が完全に独立して分散された場合に限られると考えられている。
【0004】
しかし、実際には、粒径が光の波長よりも十分に小さい微粒子、特に粒径が100nm以下の微粒子を透明高分子化合物中に分散させると、微粒子同士が容易に凝集を起こし、組成物の透明性は低下する。特に、チタンなどの金属酸化物の微粒子は、高屈折率化と高波長分散性に寄与することが期待されるものの、それらは凝集力が大きく、光学用途の条件を満足する透明性を維持しながら、それらを高分子化合物中に高充填分散させることは困難である。
このような状況下、無機微粒子の表面を修飾することによって高分子化合物への分散性を改善し、高充填分散を可能とする技術が検討されている。例えば、低分子量の修飾分子と高分子量の修飾分子との両方によって表面が修飾された無機微粒子は、透明高分子化合物中に高充填しても凝集することなく、優れた分散性を示し、高い透明性と屈折率を有する透明高分子組成物を構成し得ることが報告されている。
【0005】
上述の無機微粒子は低分子量および高分子量の各修飾分子によってその表面が修飾されており、各修飾分子を変更することによって、透明高分子組成物により多様な特性を付与可能になると期待される。しかし、従来の無機微粒子では、修飾分子によって表面を一旦修飾すると、その修飾部をさらに異なる修飾分子で置換することは非常に困難である。無機微粒子表面の修飾分子の置換には、一般に、長時間にわたる加熱が必要とされる。そのため、熱によって分解や反応が進行するような化合物を修飾分子として導入することは困難である。また、修飾分子の置換に使用する化合物に存在する官能基の反応性が低い場合、置換反応が進行しにくく、長時間の反応時間を要するなど、実用面で大きな課題が存在する。
【0006】
また、無機微粒子の分散性を改善するさらなる方法として、無機微粒子を合成する際、微粒子表面に第1の官能基を導入し、そのような微粒子と、その第1の官能基と反応可能な第2の官能基を有する高分子化合物とを複合する方法が報告されている(特許文献1を参照)。しかし、そのような方法によれば、無機微粒子を合成する際に、2種類以上の官能基を有する化合物が必要となる。また、無機微粒子を分散させる高分子化合物についても先の官能基と反応する官能基の導入が別途必要となり、修飾分子として使用可能な化合物には制限が多い。
【0007】
【特許文献1】特許第3683076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の状況を鑑みて、本発明では、透明高分子化合物と共に分散させることによって、優れた光学特性、特に、優れた透明性と高い屈折率、波長分散性を実現することが可能な、分散性に優れた無機微粒子を含む透明高分子組成物及び光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本研究者らは、鋭意検討の結果、金属ハライドおよび金属アルコキシドから選ばれる少なくとも一種の金属含有化合物とカルボン酸とを使用し、非水溶媒中における非加水分解型反応を行うことによって、所期の目的に適した無機微粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に関する。
【0010】
本発明の透明高分子組成物は、(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子と、(B)透明高分子化合物とを含有する透明高分子組成物であって、上記(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子は、金属ハライドおよび金属アルコキシドからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属含有化合物と、第1のカルボン酸含有化合物との非水溶媒中における非加水分解型反応によって製造され、金属微粒子の表面が第1のカルボン酸含有化合物で修飾されており、第2のカルボン酸含有化合物を作用させた時に、第1のカルボン酸含有化合物から構成される表面修飾部の少なくとも一部が上記第2のカルボン酸含有化合物で置換され、有機溶媒中に分散させた時に透明コロイドを形成することを特徴とする。
【0011】
ここで、上記金属微粒子は、チタン、ジルコニウム、亜鉛およびアルミニウムからなる群から選択される金属を1種以上含有する酸化物または硫化物であることが好ましい。
【0012】
また、上記金属微粒子の平均粒子径が、1〜50nmであることが好ましい。
【0013】
上記金属微粒子の表面修飾は、(a)分子量1000未満の第1の修飾部と、(b)重量平均分子量1000以上の第2の修飾部とから構成されることが好ましい。
【0014】
上記第1の修飾部(a)と前記第2の修飾部(b)との割合は、(a):(b)=1000:1〜1:10000のモル比であることが好ましい。
【0015】
上記第2の修飾部(b)を構成する修飾分子は、上記(B)透明高分子化合物と相溶性を示す高分子化合物から誘導されることが好ましい。
【0016】
(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子の含有量は、透明高分子組成物の全重量を基準として20〜95重量%であることが好ましい。
【0017】
上記透明高分子組成物は、膜厚100〜1000nmの薄膜とした時、濁度計による測定でヘイズが1.0%以下であることが好ましい。また、膜厚100〜1000nmの薄膜とした時、波長400〜800nmにおける屈折率が1.60〜2.80であり、アッベ数が40以下であることが好ましい。
【0018】
本発明による光学部材は上述の透明高分子組成物を用いて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分散性に優れ、屈折率および波長分散性といった光学特性を良好に向上させることが可能な無機微粒子が得られる。そのため、それらを透明高分子化合物と共に溶媒に分散させることによって、優れた透明性および光学特性を有する透明高分子組成物およびそれを用いた光学部材を提供することが可能となる。本発明の透明高分子組成物は、波長分散性が大きいため、従来の光学用透明高分子組成物では対応できなかった用途にも適用することが可能であり、その有用性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。本発明は、光学部材の用途に好適な無機微粒子およびそれを含有する透明高分子組成物に関する。本発明で製造される無機微粒子は、金属ハライド(MX)および金属アルコキシド(MOR)からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属含有化合物と、第1のカルボン酸含有化合物(RCOOH)との非水溶媒中における非加水分解型反応によって得られる、第1のカルボン酸で表面が修飾された金属微粒子(以下、「カルボン酸表面修飾無機微粒子」と称す)である。より具体的には、反応は以下に示す2段階以上の工程を経て進行するものと考えられる。
【0021】
MX(またはMOR)+RCOOH→RCOOM+HX(またはHOR
→RCOOM+MOR → RCOOR+M-O-M
【0022】
上述の所定の反応によって得られるカルボン酸表面修飾無機微粒子は、金属微粒子がその表面に存在する水酸基と第1のカルボン酸含有化合物に由来するカルボン酸部位との間に形成されたエステル結合を介して修飾されている形態を有する。このようなカルボン酸表面修飾無機微粒子の第1の特徴は、それらを有機溶媒中に分散させた時に透明コロイドを形成することである。特に、それらをトルエンやクロロホルム等の非水溶性有機溶媒に分散させた時は、高い透明性を示す分散液となり得る。これは、上述の無機微粒子が光の波長に比べて媒体中で十分に小さな粒子として挙動していることを示している。なお、本明細書において使用する「透明」という用語は、光学用途に使用できる程度に光が透過することを意味し、具体的には、波長400〜800nmにおける光の透過率が90%以上で、かつヘイズが1%以下であることが望まれる。
【0023】
また、カルボン酸表面修飾無機微粒子の第2の特徴は、その粒子に第2のカルボン酸含有化合物を作用させると、金属微粒子の表面を修飾している第1のカルボン酸含有化合物に由来する修飾部の一部または全部が、第2のカルボン酸含有化合物からの第2のカルボン酸含有化合物によって容易に置換されることである。本発明で使用するカルボン酸表面修飾無機微粒子は優れた分散性を有し、置換処理を行っている最中であっても、粒子同時の凝集や反応は確認されず、処理後も独立した粒子として振舞い、優れた分散性を維持することが可能である。
【0024】
上述の修飾部の置換は、カルボン酸表面修飾無機微粒子と、分子内にカルボン酸基を有する化合物とを混合することによって容易に達成することができる。置換処理には、僅かに加熱を必要とする場合もあるが、その場合、加熱温度はせいぜい100℃以下で、処理時間も短くてよい。大抵の場合、処理時間を長くすることによって、加熱せずに室温下で置換を達成することも可能である。置換処理後は、反応系中に無機微粒子が分散できない溶媒を加えることによって、作用させた未反応のカルボン酸含有化合物、および置換によって表面修飾部から遊離したカルボン酸から、無機微粒子を沈殿物として分離し、それらを遠心分離、けい斜等の手段を用いて容易に取り出すことが可能である。
【0025】
従来、無機微粒子表面の修飾部の置換は、多くの場合、溶媒の還流条件下で実施され、長時間にわたって加熱する必要があった。しかし、本発明によれば、所定の方法によって得られるカルボン酸表面修飾無機微粒子を使用することによって、穏やかな条件下で修飾部の置換を容易に実施することが可能である。そのため、一般に反応し難い高分子化合物などの化合物を用いた場合でも、修飾部の置換を効率良く実施することができ、透明高分子組成物に様々な光学特性を付与することが可能となる。
【0026】
以下、カルボン酸表面修飾無機微粒子の製造およびそれを用いて構成される透明高分子組成物についてさらに詳細に説明する。
【0027】
本発明で製造するカルボン酸表面修飾無機微粒子は、一般的な光学用透明高分子の屈折率よりも高屈折率となるものを選択することが好ましい。具体的には、チタン、ジルコニム、亜鉛、およびアルミニウムからなる群から選択される金属を1種以上含有する酸化物または硫化物を金属微粒子として含むことが好ましい。その形状および構造については、特に限定はない。例えば、1種以上の金属による結晶構造を形成するもの、または1種の無機微粒子に他の1種以上の無機物を被覆したコア−シェル構造を有するものが挙げられる。
【0028】
上述の無機微粒子を使用して透明高分子組成物を構成する場合、光散乱による透明性の低下を防ぐためには、50nm以上の粒子径を有する粒子が観察されないことが好ましい。特に、より高い透明性を実現するためには20nm以上の粒子径を有する粒子が観察されないことが望ましい。そのため、カルボン酸表面修飾無機微粒子における金属微粒子は、1nm以上、50nm以下の平均粒子径を有することが好ましい。特に、光路長の長い用途に透明高分子組成物を適用する場合、より高い透明性を実現するために、カルボン酸表面修飾無機微粒子における金属微粒子は、1nm以上、20nm以下の平均粒子径を有することが望ましい。金属微粒子の粒径の調整は、カルボン酸のアルキル鎖の長さを変えることによって達成することが可能であり、アルキル鎖が長くなるにつれて粒子径は小さくなる。
【0029】
なお、本明細書で使用する用語「平均粒子径」とは、球状、棒状、および不定形といった様々な形状を有する表面修飾無機微粒子の中から、少なくとも百個以上の金属微粒子を無作為に選択し、透過型電子顕微鏡(TEM)によって各々の粒子像の面積を測定し、その値と同面積の円の直径をもって粒子径とし、公知の統計処理によって平均粒子径として算出したものである。
【0030】
カルボン酸表面修飾無機微粒子の製造に使用される金属含有化合物は、代表的な金属ハライドおよび金属アルコキシドから選択することが可能である。しかし、先に説明したように、各種光学特性の観点から、無機微粒子には金属微粒子としてチタン、ジルコニウム、亜鉛、およびアルミニウムからなる群から選択される1種以上の金属酸化物または金属硫化物を含むことが好ましい。そのため、金属ハライドおよび金属アルコキシドは、チタン、ジルコニウム、亜鉛、およびアルミニウムからなる群から選択される金属元素を含むことが好ましい。それら金属元素は、1種または2種以上の組み合わせで選択することが可能である。金属ハライドのハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれでもよく、これらを一種またはそれ以上の組み合わせで選択することが可能である。また、アルコキシドにおけるアルキル基は、炭素数が1〜18までの炭化水素基であれば特に制限はない。特に制限するものではないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0031】
特に限定するものではないが、金属酸化物を含むカルボン酸表面修飾無機微粒子を調製する場合、例えば、チタン含有アルコキシドとしてはメチル基以外のアルキル基を有するものを使用することが好ましい。ジルコニウムまたはアルミニウム含有アルコキシドとしてはiso−プロピル基、n−ブチル基、または2−エチルヘキシル基を有するものを使用することが好ましい。
【0032】
一方、無機微粒子の製造に使用可能なカルボン酸としては、飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、および芳香族カルボン酸が挙げられる。好ましいカルボン酸の例としては、プロピオン酸、酪酸、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸、n−デカン酸、n−ウンデカン酸、n−ドデカン酸、n−トリデカン酸、n−テトラデカン酸、n−ペンタデカン酸、n−ヘキサデカン酸、n−ヘプタデカン酸、n−オクタデカン酸、n−イコサン酸、n−ドコサン酸、n−テトラコサン酸、n−ヘキサコサン酸、n−オクタコサン酸、n−トリアコンタン酸、アクリル酸、プロピオル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガトレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、イソ酪酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、およびセバシン酸が挙げられる。
【0033】
上述のカルボン酸は、1種のみで、または2種以上の組み合わせで使用することも可能である。無機微粒子の製造時に使用したカルボン酸は、エステル結合を介して無機微粒子表面を修飾するが、そのような修飾は、NMRやIRなどのスペルクトル分析を行うことで容易に同定することが可能である。なお、上述のカルボン酸は、表面修飾部の置換処理に使用する第2のカルボン酸含有化合物として使用することも可能である。
【0034】
本発明によるカルボン酸表面修飾無機微粒子の製造に使用可能な非水溶媒としては、特に限定されるものではない。例えば、直鎖の飽和炭化水素、直鎖のアルキル基を有するベンゼンが挙げられる。特に、限定するものではないが、アルキルベンゼンが好ましい。アルキル基の長さとしては、沸点との兼ね合いからデシル基程度の長さを有するものが好ましい。また反応条件として、好ましくは200℃以上、特に好ましくは250℃以上に加熱することが望ましい。
【0035】
上述の所定の方法に従って製造されるカルボン酸表面修飾無機微粒子は、分散性に優れている。そのため、それらと透明高分子化合物とを組み合わせることによって、高い屈折率を有し、かつ高い透明性を示す透明高分子組成物を構成することが可能となる。さらに、上述の無機微粒子表面の修飾部は、カルボン酸を作用させることによって容易に置換可能であるため、無機微粒子の製造時に使用する第1のカルボン酸含有化合物、および修飾部置換処理時に使用する第2のカルボン酸含有化合物を適切に組み合わせることによって、組成物に所望の光学特性を付与することも可能である。
【0036】
本発明による透明高分子組成物の好ましい実施形態では、第2のカルボン酸含有化合物として、1以上のカルボン酸基を有する高分子化合物を選択することによって、表面修飾部を構成する元の有機基の一部または全てをより高分子量の有機基に置換することも可能である。このように表面修飾部の一部あるいは全部を高分子量の有機基に置換することによって、樹脂などの高分子化合物に対する無機微粒子の分散性をさらに向上させることが可能である。その結果、無機微粒子を高充填分散させた場合であっても、優れた透明性を示す高分子組成物を実現することが可能となる。
【0037】
上述の実施形態において、第2の修飾分子(b)は、無機微粒子が分散される透明高分子化合物と相溶する高分子化合物であることが好ましい。なお、本明細書において「相溶する」とは、両方の高分子化合物を直接混合または混錬する方法、または一旦溶媒に溶解した後に混合して溶媒を留去する方法等で得られる混合物が、優れた透明性を示すことを意味している。第2の修飾分子(b)を構成する修飾分子は、特に限定されるものではなく、例えば直鎖型または枝分かれ型の高分子鎖のいずれであってもよい。高分子鎖の形成方法は、同一のモノマーを重合したもの、または異なる2種類以上のモノマーを重合したもののいずれであってもよい。ただし、透明高分子化合物に良好に分散させるためには、第2の修飾分子(b)の重量平均分子量は、1000以上、1000〜1000000であることがより好ましい。
【0038】
そのような高分子組成物の具体例としては、透明高分子化合物中に(a)分子量1000未満の第1の修飾分子と、(b)重量平均分子量1000以上の第2の修飾分子とから構成される表面修飾を有する無機微粒子を含むものが挙げられる。分子量1000未満の修飾分子は、主に金属微粒子同士が直接接触して不可逆な凝集が生じることを防止するのに効果的である。しかし、そのような修飾部のみを有する無機微粒子は、透明高分子化合物との相溶性に限界がある。すなわち、そのような無機微粒子を透明高分子化合物中に高充填で分散させると、組成物中で凝集体を形成し、結果的に組成物の透明性が低下する場合が多い。そのため、本発明では、分子量1000未満の修飾分子(a)によって金属微粒子同士の凝集を防止し、その一方で重量平均分子量1000以上の修飾高分子(b)によって金属微粒子と透明高分子化合物との相溶性を高めている。
【0039】
第1の修飾分子(a)と第2の修飾分子(b)との割合は、カルボン酸表面修飾無機微粒子が透明高分子化合物に良好に分散し、透明な高分子組成物を構成する限り、特に制約はない。具体的には、配合する修飾分子(a)と(b)とのモル比として、(a):(b)=1000:1〜1:10000の範囲で調整することが可能である。但し、無機微粒子を高充填分散させて透明な高分子組成物を構成する場合には、修飾分子(a)に対する修飾分子(b)の割合が少ないことが望ましい。具体的には、(a):(b)=1:0.1〜1:10000のモル比とすることが好ましい。
【0040】
本発明による透明高分子組成物の好ましい別の実施形態では、第2のカルボン酸含有化合物として、分子内に1以上のカルボン酸基と共に反応基を有する高分子化合物を選択することも可能である。本発明によれば、穏やかな条件下で金属微粒子表面の修飾分子を容易に置換することが可能であるため、加熱に不安定な反応性基を有する化合物についても修飾分子として導入することが可能である。なお、本明細書における用語「反応性基」とは、加熱条件下で化学反応または分解が生じる可能性のある官能基を意味している。具体的には、ビニル基、エポキシ基、アゾ基、ハロゲン基、水酸基、アミノ基、チオール基などが挙げられる。このような反応性基を有するカルボン酸含有化合物を使用することによって、表面修飾部に反応性基を容易に導入することが可能となり、それらを光硬化型または熱硬化型樹脂などの高分子化合物中に分散させることによって、組成物に光学特性に加えて様々な機能を付与することが可能となる。例えば、表面修飾部に反応性基を有する無機微粒子を、その反応性基と反応可能な官能基を予め導入した高分子化合物と組み合わせて使用し、それら反応性基間を反応させることによって、高分子化合物のネットワーク化を図り、無機微粒子の分散性をさらに向上させることも可能である。
【0041】
本発明による透明高分子組成物は、上述のように様々な形態をとり得るカルボン酸表面修飾無機微粒子と透明高分子化合物とを、共に分散処理することによって得られる。分散処理は、例えば、本発明による所定の方法によって製造されたカルボン酸表面修飾無機微粒子と透明高分子化合物とをそれぞれ任意の溶媒に溶解したものを混合する方法、または溶融混錬法などによって実施することが可能である。また、透明高分子化合物が透明樹脂である場合には、上述の2つの方法に加えて、モノマー溶液中に本発明による無機微粒子を分散させた後、熱や光などを照射することによってモノマーを重合させ、透明樹脂組成物の硬化物を製造することも可能である。
【0042】
本発明による透明高分子組成物に使用可能な透明高分子化合物としては、光学用途に一般に使用され、その成形物または硬化物が透明性を有するものであれば、特に制限はない。具体的には、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリシクロオレフィン、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリ−1、2−ブタジエン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリ−2−ヘプチル−1、3−ブタジエン、ポリ−2−t−ブチル−1、3−ブタジエン、ポリ−1、3−ブタジエンなどの(ジ)エン類、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルヘキシルエーテル、ポリビニルブチルエーテルなどのポリエーテル類、ポリビニルアセテート、ポリビニルプロピオネートなどのポリエステル類、ポリウレタン、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスルホン、ポリスルフィド等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが可能である。
【0043】
上述の他にも、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体変性物、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸塩共重合体、アクリル酸エステル系ゴム、ポリイソブチレン、アタクチックポリプロピレン、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、エチレンセルロース、ポリアミド、シリコーン系ゴム、ポリクロロプレン等の合成ゴム類、シリコーン、ポリビニルエーテル等を高分子化合物として適用することが可能であり、これらを単独であるいは2種以上組み合わせて使用することも可能である。
【0044】
また、先に説明したように、表面修飾部に反応性基を有する無機微粒子を使用する場合、その反応性基と反応可能な官能基を高分子化合物に予め導入し、それら反応性基間を反応させることによって、高分子化合物のネットワーク化を図り、無機微粒子の分散性をさらに向上させることも可能である。さらに、無機微粒子および透明高分子化合物に加えて、様々な反応重合性分子を単独であるいは2種以上組み合わせて使用し、分子同士の重合による高分子量化あるいはネットワーク化を図ることも可能である。
【0045】
本発明による透明高分子組成物におけるカルボン酸表面修飾無機微粒子の含有量は、特に限定されるものではないが、高屈折率化のためには組成物の全重量を基準として20〜95重量%であることが好ましく、40〜95重量%であることがより好ましい。含有量は、例えば、透明高分子組成物を空気雰囲気下、昇温速度10〜50度/分で900度まで加熱し、熱分解によって得られる残渣から正確に測定することが可能である。なお、本発明によれば、無機微粒子における金属微粒子の表面は有機基によって修飾されているため、修飾分子を適切に選択することによって、高分子化合物を併用することなく、無機微粒子のみから透明な薄膜を形成することも可能である。薄膜を形成する方法は特に制限はないが、例えば、無機微粒子を有機溶媒に分散させて透明な分散液を形成し、その分散液をスピンキャスト等の周知の技術に従って支持体上に塗布することによって、高い透明性および高い屈折率を有する薄膜が得られる。
【0046】
本発明による透明高分子組成物の形態は、液状(ワニス状)であっても固形状(硬化物)であってもよく、用途に応じて薄膜状に成形することも可能である。本発明による透明高分子組成物は、いかなる形態においても、優れた透明性および高い屈折率を維持することが望ましい。例えば、膜厚100〜1000nmの薄膜とした時、ヘイズが濁度計による測定で1%以下であることが好ましい。また、膜厚100〜1000nmの薄膜にした時、波長400〜800nmにおける屈折率が1.60〜2.80であることが好ましく、またアッベ数が40以下であることがより好ましい。なお、これら物性の測定方法の詳細については、以下の実施例で説明する。
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、高い透明性を有する一方で、高い屈折率および波長分散性といった優れた光学特性を有する透明高分子組成物を実現することが可能となる。そのような組成物は、各種光学部材(光学用材料)として有用であり、例えば、カメラや眼鏡用のレンズ、光記録・再生用機器のピックアップレンズおよびフィルムレンズのハードコート材、液晶ディスプレイ、ELディスプレイおよびCRTディスプレイの反射防止層、ELディスプレイの輝度向上層として適用することが可能である。また、無機微粒子表面の修飾部の置換が容易であることから、従来の透明高分子組成物では対応が難しかった用途についても、好適に使用することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0049】
<実施例1>
(酸化チタン微粒子の合成例1)
温度計、還流コンデンサーを備えた100ml三つ口フラスコに、オレイン酸16.95g(アルドリッチ製)およびイソプロポキシチタン4.26g(和光純薬工業製)を加え、反応液を窒素雰囲気下で攪拌しながら280℃まで加熱した。280℃に到達後、その温度を維持しながら、反応液をそのまま3時間にわたって攪拌した。その後、反応液を放冷したところ沈殿物が析出した。その反応液にアセトン30mlを加え、傾斜して上澄み液を除き、沈殿物をアセトンで洗浄し、次いで乾燥させることによって、修飾分子を有する酸化チタン微粒子5.57gを粉末として得た。
【0050】
上述のようにして得られた酸化チタン微粒子の粒径について、日立製作所製H−9000NAR型透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、平均粒径は5nmであった。また、得られた酸化チタン微粒子を重クロロホルムに溶解し、ブルカー製核磁気共鳴装置(1H NMR、300MHz)による測定を実施した。図1に合成例1で得られた酸化チタン微粒子のNMRチャートを示す。NMRチャートによれば、オレイン酸に特徴的なピークが存在することにより、酸化チタンの表面はオレイン酸で修飾されていることが確認できた。
【0051】
(他カルボン酸による金属微粒子の修飾分子置換例1)
上述の合成例1で調製した酸化チタン微粒子1.0gおよびプロピオン酸2.0gをそれぞれサンプル瓶に秤取し、そのまま室温下(25℃)で攪拌することによって反応を進行させた。2時間後、反応混合物にアセトン5mlを加えたところ沈殿物が析出した。傾斜によって反応混合物から上澄み液を除き、さらに沈殿物をアセトンで洗浄し、次いで減圧乾燥することによって、プロピオン酸を用いて置換処理を施した酸化チタン微粒子0.90gを粉末として得た。
【0052】
上述のようにして修飾部を置換処理した酸化チタン微粒子について、日立製作所製H−9000NAR型透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、平均粒径は5nmであった。TEMによる写真を図2に示す。
【0053】
また、上述の酸化チタン微粒子を重クロロホルムに溶解し、ブルカー製核磁気共鳴装置(1H NMR、300MHz)による測定を実施した。図3に修飾部置換処理後の酸化チタン微粒子のNMRチャートを示す。NMRチャートから、オレイン酸による表面修飾部の一部がプロピオン酸で置換されていることが確認できた。なお、ピークの積分比から、表面修飾部を構成するオレイン酸とプロピオン酸との存在比が1:1であることが分かった。また、測定時に酸化チタン微粒子は重クロロホルム中に均一に分散し、目視によれば溶液は透明であった。
【0054】
<比較例1>
(酸化チタン微粒子の合成例2)
温度計、還流コンデンサーを備えた100ml三つ口フラスコに、トリオクチルホスフィンオキシド5.0g(アルドリッチ製、分子量386.63)、四塩化チタン0.76g(和光純薬工業製)、ノルマルヘプタデカン30.0g(和光純薬工業製)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら280℃まで加熱した。280℃に到達後、その温度を維持しながら、テトライソプロポキシチタン1.14g(和光純薬工業製)を加えた。反応液をそのまま5分間にわたって攪拌した後に放冷したところ、沈殿物が析出した。反応液を傾斜して上澄み液を除き、沈殿物を2−プロパノール、アセトンの順で洗浄し、修飾分子を有する酸化チタン微粒子0.33gを沈殿物して得た。
【0055】
なお、得られた酸化チタン微粒子の粒径を先と同様にTEMによって測定したところ、平均粒径は14nmであった。また、得られた酸化チタン微粒子を重クロロホルムに溶解し、ブルカー製核磁気共鳴装置(1H NMR、300MHz)による測定を実施した。図3に合成例2で得られた酸化チタン微粒子のNMRチャートを示す。NMRチャートによれば、トリオクチルホスフィンオキサイドに特徴的なピークが存在することにより、酸化チタンの表面はトリオクチルホスフィンオキサイドで修飾されていることが確認できた。
【0056】
(他カルボン酸による金属微粒子の修飾分子置換例2)
上述の合成例2で得た酸化チタン微粒子1.0gおよびプロピオン酸2.0gをサンプル瓶に秤取し、そのまま室温(25℃)で攪拌した。2時間後、アセトン5mlを加えたところ沈殿が析出した。反応液を傾斜して上澄みを除き、沈殿物をアセトンで洗浄し、次いで減圧乾燥することによって、プロピオン酸を用いて置換処理を施した酸化チタン微粒子0.90gを粉末として得た。
【0057】
上述のようにして得られた酸化チタン微粒子を重クロロホルムで溶解し、ブルカー製核磁気共鳴装置(1H NMR、300MHz)による測定を実施した。NMRチャートによれば、トリオクチルホスフィンオキサイドに特徴的なピークに変化はなく、プロピオン酸を作用させても表面修飾部は置換されないことが分かった。
【0058】
<実施例2>
(高分子化合物の合成例)
4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(和光純薬工業製)0.18g、トルエン30ml、メタクリル酸メチル(和光純薬工業製)6.0gを反応容器に加え、アルゴンバブリングして溶存酸素を除いた。反応溶液を攪拌しながらアルゴン雰囲気下、70℃で5時間にわたって加熱した後に放冷することによって、下記一般式(式中、nは10〜40である)で示される、末端官能ポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA」と称す)修飾高分子化合物(重量平均分子量35000)のトルエン溶液を得た。
【0059】
【化1】

【0060】
(高分子化合物による金属微粒子の修飾分子置換例1)
分子量1000未満の修飾分子によって修飾された酸化チタン微粒子として、実施例1の合成例1に従ってオレイン酸で修飾された酸化チタン微粒子を準備した。この酸化チタン微粒子0.50gをトルエン0.35mlに分散させた分散液と、先に調製した末端官能PMMA修飾高分子化合物のトルエン溶液0.15mlとをサンプル瓶に加え、100℃で2時間にわたって攪拌した。次いで、反応液を放冷して室温(25℃)に戻し、ヘキサン20ml中に滴下したところ、沈殿物が析出した。この沈殿物を濾別し、乾燥させることによって、PMMA高分子化合物を用いて置換処理を施した酸化チタン微粒子0.40gを固体として得た。
【0061】
なお、得られた酸化チタン微粒子の粒径を実施例1と同様にTEMによって測定したところ、平均粒径は5nmであった。また、得られた酸化チタン微粒子を重クロロホルムに溶解し、ブルカー製核磁気共鳴装置(1H NMR、300MHz)による測定を実施したところ、PMMAユニットの繰り返し単位に帰属するものが観測されたことにより、酸化チタンの表面修飾部の一部がPMMAによって修飾されていることが確認できた。
【0062】
(透明高分子組成物の調製例1)
上述の置換処理で得たPMMA修飾酸化チタン微粒子0.4gをトルエン2.0mlに溶解した溶液と、PMMA(三菱レイヨン製、分子量40000、屈折率1.49)0.100gをトルエン5.0mlに溶解したPMMAトルエン溶液とを混合することによって高分子組成物を調製した。得られた透明な高分子組成物をスライドガラスおよびシリコンウェハの各表面にスピンコートした後に乾燥させることによって、複数の薄膜を作製した。
【0063】
得られた薄膜の各種特性の評価を以下のように実施した。
(1)ヘイズおよび透過率
スライドガラス上に作製した厚み980nmの薄膜について、日本電色工業製ヘイズメーターNDH2000を使用してヘイズ値を測定した。また、スライドガラス上に作製した厚み980nmの薄膜について、日本分光製紫外可視近赤外分光計を使用し、400nm〜800nmにおける光の透過率について測定した。なお、スライドガラスの透過率は91%である。ヘイズおよび透過率の評価を表1に示す。
【0064】
(2)屈折率および重量比分析
シリコンウェハ上に作製した厚み240nmの薄膜について、溝尻光学工業所製の自動エリプソメーターDVA−36LAを使用し、波長633nmにおける光の屈折率を測定した。また、トルエンに溶解させる前の酸化チタン微粒子の固体について、エスエスアイ・ナノテクノロジー製のTG/DTA6300を使用して重量比分析を実施し、透明高分子組成物中の無機物の重量比を測定した。屈折率および重量比の結果を図5にそれらの相関を示すグラフとして示す。図5のグラフから明らかなように、本発明による高分子組成物では、無機微粒子を40%程度まで高充填分散させた場合であっても、高い透明性を確保することが可能であることが分かる。
【0065】
<比較例2>
(高分子化合物による金属微粒子の修飾分子置換例2)
分子量1000未満の修飾分子によって修飾された酸化チタン微粒子として、実施例2の合成例2に従ってトリオクチルホスフィンオキシドで修飾された酸化チタン微粒子を準備した。この酸化チタン微粒子0.50gをトルエン5.0mlに分散させた分散液と、先に調製した末端官能PMMA修飾高分子化合物のトルエン溶液1.0mlとをサンプル瓶に加え、100℃で2時間にわたって攪拌した。次いで、反応液を放冷して室温(25℃)に戻し、メタノール20ml中に滴下したところ、沈殿物が析出した。この沈殿物を濾別し、乾燥させることによって、PMMA高分子化合物を用いて置換処理を施した酸化チタン微粒子0.40gを固体として得た。
【0066】
(透明高分子組成物の調製例2)
上述の置換処理で得たPMMA修飾酸化チタン微粒子0.4gをトルエン2.0mlに溶解させた溶液と、PMMA(三菱レイヨン製、分子量40000、屈折率1.49)0.100gをトルエン5.0mlに溶解したPMMAトルエン溶液とを混合することによって高分子組成物を調製した。得られた高分子組成物をスライドガラスおよびシリコンウェハの各表面にスピンコートした後に乾燥させることによって、複数の薄膜を作製した。得られた薄膜のヘイズおよび透過率の評価を実施例2と同様に実施した。それぞれの評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(ヘイズの評価)
○:ヘイズ1%以下
×:ヘイズ1%以上
(透過率の評価)
○:透過率が90%以上
×:透過率が90%未満
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例1における合成例1で得られた酸化チタン微粒子のNMRチャートであり、オレイン酸ピーク部のみを示すものである。
【図2】実施例1における合成例1で得られた酸化チタン微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真である。
【図3】実施例1における修飾分子置換処理後の酸化チタン微粒子のNMRチャートであり、オレイン酸とプロピオン酸のピーク部のみを示すものである。
【図4】比較例1における合成例2で得られた酸化チタン微粒子のNMRチャートであり、トリオクチルホスフィンオキサイドのピーク部のみを示すものである。
【図5】実施例2で作製した薄膜の光の屈折率と無機微粒子の重量比との相関を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子と、(B)透明高分子化合物とを含有する透明高分子組成物であって、前記(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子は、
金属ハライドおよび金属アルコキシドからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属含有化合物と、第1のカルボン酸含有化合物との非水溶媒中における非加水分解型反応によって製造され、金属微粒子の表面が第1のカルボン酸含有化合物で修飾されており、
第2のカルボン酸含有化合物を作用させた時に、第1のカルボン酸含有化合物から構成される表面修飾部の少なくとも一部が前記第2のカルボン酸含有化合物で置換され、
有機溶媒中に分散させた時に透明コロイドを形成する
ことを特徴とする、透明高分子組成物。
【請求項2】
前記金属微粒子が、チタン、ジルコニウム、亜鉛およびアルミニウムからなる群から選択される金属を1種以上含有する酸化物または硫化物であることを特徴とする請求項1に記載の透明高分子組成物。
【請求項3】
前記金属微粒子の平均粒子径が、1〜50nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の透明高分子組成物。
【請求項4】
前記金属微粒子の表面修飾が、(a)分子量1000未満の第1の修飾部と、(b)重量平均分子量1000以上の第2の修飾部とから構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項5】
前記第1の修飾部(a)と前記第2の修飾部(b)との割合が、(a):(b)=1000:1〜1:10000のモル比であることを特徴とする請求項4に記載の透明高分子組成物
【請求項6】
前記第2の修飾部(b)を構成する修飾分子が、前記(B)透明高分子化合物と相溶性を示す高分子化合物から誘導されることを特徴とする請求項4または5に記載の透明高分子組成物。
【請求項7】
前記(A)カルボン酸表面修飾無機微粒子の含有量が、透明高分子組成物の全重量を基準として20〜95重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項8】
膜厚100〜1000nmの薄膜とした時、濁度計による測定でヘイズが1.0%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項9】
膜厚100〜1000nmの薄膜とした時、波長400〜800nmにおける屈折率が1.60〜2.80であり、アッベ数が40以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の透明高分子組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれに記載の透明高分子組成物を用いて構成されることを特徴とする光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−75078(P2008−75078A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214946(P2007−214946)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】