説明

透湿防水性布帛および繊維製品

【課題】蓄熱性に優れた透湿防水性布帛および該透湿防水性布帛を用いてなる繊維製品を提供すること。
【解決手段】基布の片面に透湿防水層を積層し、該透湿防水層の表面に、赤外線吸収剤を部分的に付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱性に優れた透湿防水性布帛および該透湿防水性布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツ衣料やユニフォーム衣料などに使用されている透湿防水性布帛において、透湿性および防水性を備えた樹脂製の薄膜が広く使用されている。例えば、織編物などの基布に、多孔質または無孔質ポリウレタンをコーティングしたものや、ポリウレタンなどの多孔質または無孔質樹脂製フィルムを接着剤により基布にラミネーションしたものなどがある(例えば、特許文献1参照)。多孔質樹脂製薄膜はその孔の大きさにより、また、無孔質樹脂製薄膜の場合は孔が無いものの吸湿性物質を含有することで親水性となり、雨やその他の水を通さず、湿気(水蒸気)を通すことにより透湿防水性を呈している。
【0003】
他方、透湿防水性布帛を用いた衣料は、雨天時など比較的寒い環境下で使用されることが多いため、蓄熱性を向上させたり、布帛に付着した水滴を速やかに蒸発させることが望まれていた。
なお、布帛に赤外線吸収剤を付着させることにより保温性を高めることは例えば特許文献2などにより提案されているが、かかる布帛は透湿防水性を有するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−248052号公報
【特許文献2】特開2003−96663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は蓄熱性に優れた透湿防水性布帛および該透湿防水性布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、基布の片面に透湿防水層が積層された透湿防水性布帛において、透湿防水層の表面に赤外線吸収剤を特定のパターンで付着させることにより、透湿防水性を損なわずに優れた蓄熱性が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「基布の片面に透湿防水層が積層され、該透湿防水層の表面に、赤外線吸収剤が部分的に付着していることを特徴とする透湿防水性布帛。」が提供される。
【0008】
その際、前記赤外線吸収剤が、付着部と非付着部とからなるパターンで付着していることが好ましい。また、前記赤外線吸収剤がカーボンブラックであることが好ましい。また、前記のパターンが格子状パターンであることが好ましい。また、前記基布に、単繊維繊度2.0dtex以下かつフィラメント数60本以上のポリエステルマルチフィラメントが含まれることが好ましい。また、前記基布が、下記式により定義されるカバーファクターCFが300〜3500の織物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0009】
また、前記基布に撥水加工が施されていることが好ましい。また、前記透湿防水層が、厚さ2〜50μmの透湿防水性ポリエステル膜であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の透湿防水性布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蓄熱性に優れた透湿防水性布帛および該透湿防水性布帛を用いてなる繊維製品が得られる。かかる透湿防水性布帛および該透湿防水性布帛を用いてなる繊維製品によれば、透湿防水性が得られるだけでなく、布帛の蓄熱性を向上させたり、布帛に付着した水滴を速やかに蒸発させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明において、採用することのできる、赤外線吸収剤の付着パターンであり、黒色部が赤外線吸収剤の付着部である。
【図2】本発明において、採用することのできる、赤外線吸収剤の付着パターンであり、黒色部が赤外線吸収剤の付着部である。
【図3】本発明において、採用することのできる、赤外線吸収剤の付着パターンであり、黒色部が赤外線吸収剤の付着部である。
【図4】本発明において、採用することのできる、赤外線吸収剤の付着パターンであり、黒色部が赤外線吸収剤の付着部である。
【図5】比較例1で用いた、全面付着パターンである。
【図6】本発明において、採用することのできる、赤外線吸収剤の付着パターンであり、黒色部が赤外線吸収剤の付着部である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の透湿防水性布帛において、基布の片面に透湿防水層が積層され、該透湿防水層の表面に、赤外線吸収剤が部分的に付着している。すなわち、基布の片面に、透湿防水層および赤外線吸収剤がこの順で積層されている。
ここで、前記赤外線吸収剤としては、波長700〜2000nmの赤外線領域で10%以上の吸収率を有する物質であれば特に限定されず、金属酸化物系微粒子、カーボンブラック、有機化合物の赤外線吸収色素などが例示される。特に、優れた赤外線吸収性能を得る上でカーボンブラックが好ましい。
【0013】
また、透湿防水層の表面に赤外線吸収剤が、付着部と非付着部とからなるパターンで付着していることが好ましい。その際、好ましいパターンとしては、格子状パターン、縞状パターン、水玉状パターン、市松パターンなどが例示される。なかでも、パターンの全領域が図1に示すような格子状パターンであることが好ましく、かかる格子状パターンを採用することにより、赤外線吸収剤が太陽光線等の赤外線により加熱された際、熱が格子状パターンに沿って、迅速に伝わり、布帛が速やかに暖められる。
【0014】
また、赤外線吸収剤付着部面積比率としては10〜85%(より好ましくは25〜70%)であることが好ましい。なお、赤外線吸収剤付着部面積比率は下記式で示されるものである。
赤外線吸収剤付着部面積比率=(赤外線吸収剤付着部面積)/(赤外線吸収剤付着部面積+非付着部面積)×100(%)
【0015】
該赤外線吸収剤付着部面積比率が10%よりも小さいと、布帛に赤外線があたっても、布帛が十分には暖められないおそれがある。逆に、赤外線吸収剤付着部面積比率が85%よりも大きい場合は、布帛の透湿防水性や風合いが低下する恐れがある。また、上記格子状パターンにおいて、タテ方向またはヨコ方向に互いに隣りあう格子間の間隔W(一方の付着部端部〜他方の付着部端部までの最短距離)は2〜30mm程度が適当である。
【0016】
本発明の透湿防水性布帛において、基布を構成する繊維は特に限定されず、ポリエステル繊維、アセテート繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、炭素繊維、綿や羊毛などの天然繊維などいずれでもよい。なかでも、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどからなるポリエステル繊維が50重量%以上(特に好ましくは100重量%)基布に含まれることがリサイクル性の点で好ましい。なお、かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0017】
前記基布を構成する繊維形態は特に限定されないが、透湿防水層との接着性の点で長繊維(マルチフィラメント)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。単糸繊維繊度、総繊度、フィラメント数は特に限定されないが、蓄熱性およびソフトな風合いを得る上で、それぞれ単糸繊維繊度2.0dtex以下(好ましくは0.1〜2.0dtex)、総繊度30〜200dtex、フィラメント数30本以上(より好ましくは60本以上、さらに好ましくは60〜200本)の範囲内であることが好ましい。
【0018】
前記基布の布帛組織は特に限定されず織物、編物、不織布などいずれでもよい。なかでも、引裂き強力の強さの点で織物または編物が好ましい。特に織物が好ましい。織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるがこれらに限定されない。層数は単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。特に、下記式により定義されるカバーファクターCFが300〜3500(より好ましくは1500〜3500)の織物であるとさらに優れた蓄熱性が得られ好ましい。なお、以上のような布帛は常法により製造することが可能である。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0019】
前記基布の目付けとしては、30〜900g/m(より好ましくは40〜700g/m)の範囲内であることが好ましい。
また、前記基布には、通常の染色加工、減量加工、起毛加工、撥水加工、蓄熱加工、吸汗加工などの後加工を適宜施しても良い。特に、染色加工および撥水加工が好ましい。その際、染色に用いる染料は分散染料、カチオン性染料など特に限定はされないが、カチオン性染料はカチオン性染料で染色可能な繊維を選択する必要があるため、より汎用性が高い分散染料を染色に用いるほうが好適である。また、撥水加工に用いられる撥水剤としては、パラフィン系撥水剤やポリシロキサン系撥水処理剤、フッ素系撥水処理剤などの公知のものが使用でき、その処理も一般に行われているパディング法、スプレー法などの公知の方法で行えばよい。
【0020】
本発明の透湿防水性布帛において、基布の片面に積層される透湿防水層としては、透湿性を有するウレタン樹脂からなるフィルム、ウレタン樹脂コーティング、アクリル樹脂コーティング、ポリテトラフロロエチレン樹脂フィルム、ポリエステルフィルムなどがあげられが限定されるものではない。特に、ケミカルリサイクル処理により再度ポリエステルの原料として再生可能であり何度でもリサイクル使用できる点で省資源かつ環境保全できる点より、より好ましくは無色透明のポリエステルフィルムであるほうがよい。
【0021】
かかるポリエステルフィルムとしては、ポリエーテル−エステル系エラストマーやPBT(ポリブチレンテレフタレート)からなるポリエステルフィルムが好適に用いられる。また、上記フィルムは透湿性を有するが、該フィルムは多孔質でもよいが、透湿性を有するポリエステルを主成分とする無孔質フィルムであることが好ましい。多孔質フィルムである場合、無色透明にはなり得ないからである。ポリエステルに透湿性を付与するには、特に限定されるものではないが、ポリエチレングリコールなどの吸湿性材料をポリエステルに共重合する方法が好適に用いられる。
【0022】
上記ポリエーテル−エステル系エラストマーは、長鎖エステル単位および短鎖エステル単位からなり、該短鎖エステル単位は、全ポリエーテル−エステル系エラストマーの30〜70重量%の範囲にあることが好ましい。上記短鎖エステル単位の割合が、30重量%未満であるポリエーテル−エステル系エラストマーは比較的低融点であって、加工性が不良であり、また、該短鎖エステル単位が、70重量%を超えるポリエーテル−エステル系エラストマーの場合には、比較的高融点であり、加工性が不良である。
【0023】
前記ポリエーテル-エステル系エラストマーの酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、または、これらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種が挙げられるが、好ましくは、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が例示される。
【0024】
もちろん、このような酸成分の一部(通常は、全酸成分を基準として30モル%以下)は、他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていてもよい。
なお、上記ポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤などが必要に応じて配合されていてもよい。
【0025】
次に、前記ポリエーテル−エステル系エラストマーの長鎖エステル単位のグリコール成分としては、ポリエチレングリコール、ポリ1,2−プロピレングリコール、ポリ1,3−プロピレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体などのポリアルキレングリコールのうち少なくとも1種が挙げられるが、満足できる透湿性を得るためにはポリエチレングリコールが最も好ましく例示され、その平均分子量が600〜8,000の範囲にあるものが好ましい。上記平均分子量が600未満であると、満足できる機械的物性が得られず、一方、該平均分子量が8,000を超えた場合には、相分離のためにポリエーテル-エステルの調製において問題を引き起こす場合がある。
【0026】
また、ポリエーテル−エステル系エラストマーの短鎖エステル単位のグリコール成分は、エチレングリコールおよびテトラメチレングリコールからなり、該エチレングリコールおよびテトラメチレングリコール中に占めるテトラメチレングリコールのモル分率が70モル%未満のものが好ましく使用される。上記テトラメチレングリコールが70モル%を超えると、コート層又はフィルム層自体は柔軟となるが、布帛とのモジュラス差が大きすぎるため、耐揉み性が悪く、コート層またはフィルム層と布帛の界面に剥離が生じやすい。
【0027】
上記テトラメチレングリコールのモル分率のさらに好ましい範囲は、70モル%未満〜50モル%以上の範囲である。
このようなポリエーテル−エステル系エラストマーが少なくとも布帛の片側面の一部にコーティングされるか、若しくは、ポリエーテル−エステル系エラストマーからなるフィルムが少なくとも基布の片側面にラミネートされていることが好ましい。
【0028】
ポリエーテル−エステル系エラストマーを布帛の片側面の一部にコーティングする方法としては、ポリエーテル−エステル系エラストマーを該エラストマーが溶解可能な溶剤で溶解した後に、該布帛表面上にコーティングし、乾式法、または、湿式法により溶剤を除去することにより得られる。
【0029】
該ポリエーテル−エステル系エラストマーが溶解可能な溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、エチレンホルマール、トルエン、クロロホルム、塩化メチレンの1種、又は、2種以上の有機溶剤があげられるが、低沸点および毒性を考慮した場合、エチレンホルマールを使用するものが最も好ましい。
【0030】
エチレンホルマールを用いる場合は、該ポリエーテル−エステル系エラストマーを2〜30重量%、好ましくは、5〜20重量%の範囲で使用して、50〜60℃の温度でエチレンホルマールに溶解させ溶液を調合する。
【0031】
また、布帛上にコーティングする方法としては、通常のコーティング法、例えば、ナイフコーター等を用いて行えばよいが、コーティングの量としては、コーティング層が2〜50μm、好ましくは、10〜20μmの範囲となるように行えばよい。該コーティング層が2μm未満の場合には、均一な皮膜を形成することが困難であり、また、50μmを超える場合には風合として弾性が強くなり、また、透湿性も低下するので好ましくない。
【0032】
該エチレンホルマールを除去する方法としては、乾式法と湿式法とがあるが、乾式法においては、温度:70〜170℃の乾熱条件下、好ましくは、温度:70〜150℃の範囲で行われる。湿式法においては、ポリエステル 系エラストマーが不溶で、エチレンホルマールが可溶な溶液、例えば、温水中にてエチレンホルマールを抽出した後、乾燥を行う。
【0033】
また、ポリエーテル−エステル系エラストマーからなるフィルムを作成する方法としては、公知の方法、例えば、インフレーション法やダイ押出し法により得た、厚さが好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは5〜20μmの均一なフィルムを使用するものがよい。上記フィルムの厚さが2μm未満の場合には、ラミネートの作業が困難となり均一な耐水圧が得られないおそれがあり、また透湿防水層の強度が著しく低下してしまい、一方、フィルムの厚さが50μmを超える場合には、透湿性が低下するおそれがあり、また防水透湿層の曲げ硬さが硬くなってしまうことで布帛全体が硬くなってしまう。
【0034】
なお、ポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとしては、上記以外に、例えば「主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントとを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体」であってもよい。このポリエステルブロック共重合体の詳細は、例えば特開平11−170461号公報の段落「0009」〜「0015」に詳述されている。
【0035】
得られたフィルムは、種々の方法、例えば、熱処理、ミシン掛け、あるいは、接着剤の使用により、基布となる布帛とラミネートすることができる。好ましくは、接着剤である。
上記基布となる布帛と透湿防水性フィルムとの接着剤としては、ポリエーテルエステル系エラストマーなどのポリエステル樹脂からなる接着剤がリサイクル効率の上で好適ではあるが、重量比率が少ないので、ポリウレタン系接着剤であってもよい。
【0036】
また、前記透湿防水層の上に、例えば無機微粒子を含む透湿性高分子樹脂が全面にまたは部分的に積層されていてもよい。また、透湿防水層には目止めテープが貼られていてもよい。
本発明の透湿防水性布帛において、前記透湿防水層上に前記赤外線吸収剤が積層されている。すなわち、本発明の透湿防水性布帛において、基布、透湿防水層、赤外線吸収剤がこの順に配されている。
【0037】
本発明の透湿防水性布帛は、例えば以下の製造方法により製造することができる。
まず、前記のように、基布の片面に透湿防水層を積層した後、該透湿防水層の表面に、
例えば、特開2003−96663号公報に記載された方法により、赤外線吸収剤を付着部と非付着部とからなるパターンで付着させる。
【0038】
すなわち、布帛に対して0.02〜50g/m2(より好ましくは0.5〜20g/m2)の範囲内の前記赤外線吸収剤を用意する。赤外線吸収剤の付着量が該範囲よりも少ないと、布帛に太陽光等の赤外線があたっても、布帛が十分には暖められないおそれがある。逆に赤外線吸収剤の固着量が該範囲よりも多いと保温効果は十分であるものの経済的でない。
【0039】
一方、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂などのバインダー樹脂を用意する。バインダー樹脂の付着量は、樹脂固形分基準で、布帛に対して0.01〜40g/m2(より好ましくは5〜30g/m2
)の範囲内であることが好ましい。
【0040】
次いで、前記赤外線吸収剤とバインダー樹脂とを、両者の配合組成物として布帛に付与される。その際、かかる配合組成物は水系、溶剤系のいずれで構成してもよいが、加工工程の作業環境上水系の方が好ましい。溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどが例示される。この配合組成物には、エポキシ系などの架橋剤を併用してもよい。さらに、布帛本体に対する付着性を向上させる等の目的で適当な添加剤をさらに配合してもよい。
【0041】
前記赤外線吸収剤とバインダー樹脂(樹脂固形分基準)との配合比率として1:0.5〜1:50(好ましくは1:5〜1:40)の範囲内であることが好ましい。バインダー樹脂の配合比率が該範囲よりも少ないと、布帛を製品となした後、洗濯時に赤外線吸収剤が脱落しやすいため、保温性の洗濯耐久性が低下する恐れがある。逆に、バインダー樹脂の配合比率を該範囲よりも多くしても、洗濯耐久性の効果はあまり変わらず経済的でない。
【0042】
次に、前述のように、前記赤外線吸収剤とバインダー樹脂とを、部分的に(すなわち、全面ではなく)、好ましくは、付着部と非付着部とからなるパターンで、前記透湿防水層上に付着させる。
布帛への、赤外線吸収剤とバインダー樹脂の付与手段として、まず両者を前述のような配合組成物となした後、該配合組成物を、グラビヤコーテイング法、スクリーンプリント法などの、公知の付与手段を用いることができる。
かくして得られた透湿防水性布帛において、基布の片面に透湿防水層が積層され、さらにその上に、赤外線吸収剤が付着しているので蓄熱性に優れる。さらには、赤外線吸収剤が付着部と非付着部とからなるパターンで付着しているので透湿防水性が損なわれることがない。
【0043】
次に、本発明によれば、前記の透湿防水性布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
ここで、繊維製品がスポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服の場合、通常、赤外線吸収剤が人体側となるよう使用される。
かかる繊維製品は前記の透湿防水性布帛を用いているので、透湿防水性だけでなく蓄熱性にも優れる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
<目付>
JISL1096 6.4により測定した。
<蓄熱性>
23℃、45%RHの環境下で、発泡スチロール製試料台の上に試料を設置し、該試料と試料台との間に熱電対温度センサーを挿入した。
次いで、試料表面(基布表面)の上方30cmの距離から試料表面を、Panasonic社製写真用ランプ「PRF−500WB」で10分間照射し、前記熱電対温度センサーで温度を測定した。
<通気性>
JIS L1096 6.27.1 A法(フラジール法)により通気性(cc/cm・sec)を測定した。
<織物のカバーファクターCF>
下記式により、織物のカバーファクターCFを算出した。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0045】
[実施例1]
基布としてポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸84dtex/72filを経糸および緯糸に用いて公知の平組織の生機を織成した後、撥水加工を含む通常の染色工程にて分散染料により黒色に染色することにより、基布としてポリエステル織物(カバーファクターCF1660、目付93gr/m)を得た。その後、デュポン(株)製無孔質透湿性透明ポリエステルフィルム(商品名:アクティブレイヤー、厚み10μm)を前記基布の片面にラミネーションすることにより透湿防水層を形成した。
次いで、赤外線吸収剤としてカーボンブラック(平均1次粒子径0.1μm)を固形分比で15重量%含有するウレタン系樹脂(バインダー樹脂)を、通常のグラビアプリントロール機を使用して、前記基布のカレンダー加工を施された面に、図1に示す縦横格子状パターン(付着部の面積比率50%、格子間の間隔10mm、すなわち10mm×10mmの正方形状の非付着部が飛島状に散在している)でプリントすることにより赤外線吸収剤を透湿防水層の表面に付着させ、透湿防水性布帛を得た。
得られた布帛において、赤外線吸収剤の付着量は0.8g/mであった。該布帛は、蓄熱性評価で温度が下記の比較例1対比6.5℃高く、蓄熱性に優れたものであった。
次いで、前記透湿防水性布帛を用いて、赤外線吸収剤を基布よりも人体側に位置するようスポーツウェアを縫製して着用したところ、透湿防湿性に優れ、また、蓄熱性にも優れるものであった。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、赤外線吸収剤を含む樹脂層を積層しないこと以外は実施例1と同様にした。
【0047】
[比較例2]
実施例1において、カーボンブラックを含有するウレタン系樹脂を、透湿防水層の全表面(図5のパターン)に付着させること以外は実施例1と同様にした。
次いで、該布帛を用いて、赤外線吸収剤を基布よりも人体側に位置するようスポーツウェアを縫製して着用したところ、蓄熱性にも優れるものであったが、透湿防湿性には劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、蓄熱性に優れた透湿防水性布帛および該透湿防水性布帛を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の片面に透湿防水層が積層され、該透湿防水層の表面に、赤外線吸収剤が部分的に付着していることを特徴とする透湿防水性布帛。
【請求項2】
前記赤外線吸収剤が、付着部と非付着部とからなるパターンで付着している、請求項1に記載の透湿防水性布帛。
【請求項3】
前記赤外線吸収剤がカーボンブラックである、請求項1または請求項2に記載の透湿防水性布帛。
【請求項4】
前記のパターンが格子状パターンである、請求項1〜3のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
【請求項5】
前記基布に、単繊維繊度2.0dtex以下かつフィラメント数60本以上のポリエステルマルチフィラメントが含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
【請求項6】
前記基布が、下記式により定義されるカバーファクターCFが300〜3500の織物である、請求項1〜5のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【請求項7】
前記基布に撥水加工が施されてなる、請求項1〜6のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
【請求項8】
前記透湿防水層が、厚さ2〜50μmの透湿防水性ポリエステル膜である、請求項1〜7のいずれかに記載の透湿防水性布帛。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の透湿防水性布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−91411(P2012−91411A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241007(P2010−241007)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】