説明

透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正方法及び装置

【課題】本発明は、観察条件に最適な感度ムラ補正の補正係数の設定を自動的に行なうことができる透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】試料を透過した透過電子線を入射して透過電子線像を撮影する透過型電子顕微鏡用カメラ24と、透過型電子顕微鏡21の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数を記憶するコンピュータ23と接続された外部記憶装置27と、観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラ24で撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置27に記憶された感度ムラ補正係数を乗算するコンピュータ内演算手段と、該演算手段により乗算された画像データを表示する表示手段23aとを具備して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正方法及び装置に関し、更に詳しくは感度ムラ補正を観察条件に最適な設定で実行できるようにして、ピクセル毎の感度の違い(感度ムラ)を補正し、像質を向上した透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡は、加速された電子線を試料に照射し、該試料を透過した電子線を倍率をあげて透過電子線像として観察することができるようにした電子顕微鏡である。図6は透過型電子顕微鏡の外観構成例を示す図である。図において、21が透過型電子顕微鏡、23は内部に収納されたコンピュータ、24が透過電子像を撮影する透過型電子顕微鏡用カメラである。23aは該透過型電子顕微鏡用カメラ24で撮影された画像をコンピュータ23で画像処理し、表示できるようにしたコンピュータモニタ(ディスプレイ)である。5は、可視光に変換された透過電子像を観察することができる光学顕微鏡である。
【0003】
図7は透過型電子顕微鏡の結像系の模式図である。図において、11は試料である。試料11を透過した電子線12は、シンチレータ13に入射して該シンチレータ13で可視光に変換される。変換された可視光14は、集光レンズ15で集光された後、撮像素子16に入射される。撮像素子16で可視光を電荷に変換し、更にデジタル変換を経て画像データにされ、付属のコンピュータモニタ23aに表示される。或いは光学顕微鏡5で透過電子像を観察することができる。
【0004】
次に、透過型電子顕微鏡用カメラにおける感度ムラ補正の原理について説明する。シンチレータの全面に、均一に広がった電子線を照射しても、最終的に得られる画像データは、全面均一な画像となることはない。図8はシンチレータ全面に均一な電子線を照射した時に得られる画像を示す図である。これは、シンチレータ13の製造過程で不可避的に発生する蛍光体の塗布不均一性や、撮像素子16において、光から電子に変換する効率がピクセル毎に異なること等が要因となって、電子線に対する感度がピクセル毎に異なるためである。
【0005】
ピクセル毎に異なる感度の違いを補正し、同一の電子線量に対して、全てのピクセルが同一の値となるようにするのが、感度ムラ補正である。図8の画像に対して感度ムラ補正を行なったものを図9に示す。画像の全面にわたり、均一な画像が得られている。
【0006】
次に、感度ムラ補正の原理を定式的に説明する。
電子線の入射量に対して、出力値(画像データ)は、次式のように表現することができる。
【0007】
V(x,y)=A(x,y)×I(x,y)+B(x,y) (1)
ここで、
V(x,y):出力値。x,yはピクセルの位置を表す
A(x,y):ピクセル毎の感度
I(x,y):ピクセル位置での入射電子量
B(x,y):オフセット
A(x,y)は、電子線をシンチレータ13で受光し、撮像素子16でデジタル化されて画像データとなる系全体を通して、総合としてのピクセル毎の感度となる。
【0008】
B(x,y)は、電子線が入射していない時にも出力される値である(ダークカレントともいう)。電子線の量に依存せず、不要な成分であるため、取得されたデータから差し引くべき成分である。この値も、ピクセル毎に異なる値となるが、電子線が入射しない状態での取得した画像データが、この値として利用することができる。
【0009】
(1)式からオフセットを差し引くと、
Vsub(x,y)=V(x,y)−B(x,y)=A(x,y)×I(x,y)
(2)
となる。
【0010】
ここで、ピクセル位置によらずに均一に広がった電子線Ioを入射すると、(1)式より、
Vo(x,y)=A(x,y)×Io+B(x,y)
となる。これにオフセットを差し引いて、
Vosub(x,y)=A(x,y)×Io (3)
となる。感度A(x,y)が、ピクセル毎に異なる値を持つために、出力値は異なる値を持つ(図8のような画像)。しかしながら、ピクセル位置によらず均一に広がった電子線を照射しているので、出力値もピクセル位置によらず一様になるはずである。ここで、A(x,y)に補正係数C(x,y)を掛けることで、一様な出力値Vnが得られるとする。Vnは次式で表される。
【0011】
Vn(x,y)=C(x,y)×A(x,y)×Io
(3)式より、上式は以下のようになる。
Vn(x,y)=C(x,y)×Vosub(x,y)
となり、C(x,y)は、
C(x,y)=Vn/Vosub=Vn/[Vo(x,y)−B(x,y)] (4)
と求められる。
【0012】
A(x,y)に補正係数C(x,y)を掛けることによって、感度ムラが補正されることから(1)式を書き直して、
Vc(x,y)
=A(x,y)×I(x,y)+B(x,y)
=C(x,y)×Vsub(x,y)+B(x,y)
=C(x,y)×[V(x,y)−B(x,y)]+B(x,y)
となる。
【0013】
最終的に得る画像データは、オフセットを差し引いたものであることから、
Vcsub(x,y)=Vc(x,y)−B(x,y)
=C(x,y)×[V(x,y)−B(x,y)] (5)
となる(図9のような画像)。
【0014】
実際の処理では、
1)事前に、ピクセル位置によらず均一に広がった電子線を撮影して、(4)式より補正係数C(x,y)を求める。
2)観察画像に対して、(5)式の計算を施すことにより、感度ムラを補正する。
ようにしている。
【0015】
従来の技術では、補正係数を求めるための処理が行われる。この処理は、カメラに電子線を当てないようにして、オフセット分の画像データを取得した後、シンチレータ全面に均一な電子線を照射した状態で画像データを取得する。取得された画像データより、補正係数を算出する。一連のデータ取得にかかる時間は、およそ5分である。
【0016】
この時、求められた補正係数をファイルなどの形で保存することができ、複数保存しておくことで、必要に応じて使用する補正係数を切り替えられる。
従来のこの種の装置としては、電子線エネルギーを蓄積する2次元センサを用意し、試料を透過させない電子線を前記2次元センサに真空状態で蓄積記録し、この2次元センサに光照射或いは加熱を行なって蓄積されたエネルギーを光として放出させ、この放出光を光電的に検出検出して参照画像信号を得ると共に、この参照画像信号と前記画像信号の対応する画素の信号間で演算を行なって信号を得、この信号によって前記試料の電子顕微鏡像を再生する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0017】
また、記録媒体として超高感度の蓄積性蛍光体シートを用いた電子顕微鏡において、蓄積性蛍光体シートに電子線を照射させない手段と、蓄積性蛍光体シートに撮影された画像を読み出す読み出し手段と、読み出した画像データを処理する演算手段とを備え、電子線像と電子線を照射しない時の像の各画像データを引き算することにより、センタースポットを除去するようにしたセンタースポット除去手段を備えた電子顕微鏡が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0018】
また、電子銃と、照射電子光学系と、結像電子光学系と、試料透過後の電子線をエネルギー分光するエネルギーフィルタと、エネルギー分光された電子線のうち特定のエネルギーを有する電子線のみを選択する手段と、エネルギー選択された電子線による像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像されたエネルギー選択像を記憶するための複数枚のフレームメモリと、前記フレームメモリを周期的に選択して選択されたフレームメモリに前記撮影手段によって撮像された画像を記憶させるフレームメモリ選択手段と、前記フレームメモリ選択手段によるフレームメモリの選択と同期して電子線の加速電圧を変更する手段と、前記フレームメモリのうちの少なくとも2枚に記憶された画像をその画素毎に比較演算し、画像信号として出力する手段を備えたことを特徴とする透過型電子顕微鏡が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭61−163594号公報(第3頁右下欄第12行〜第6頁右上欄第19行)
【特許文献2】特開平1−265442号公報(第3頁左上欄第13行〜同頁右下欄第17行)
【特許文献3】特許第3435949号公報(段落0026〜0040)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
透過電子顕微鏡の観察条件により、ピクセルごとの感度の特性が変化する。以下に、透過型電子顕微鏡の観察条件である、加速電圧を変化させた時に、感度ムラが変化する様子を示す。各図は、シンチレータの全面に、均一に広がった電子線を照射した時の画像である。感度ムラの変化を示すため、感度ムラ補正は施していない。
【0021】
図10は加速電圧120kVの時を、図11は加速電圧100kVの時の様子を、図12は加速電圧80kVの時をそれぞれ示している。何れもスポットサイズ3、ビーム電流密度が60pA/cm2である。
【0022】
加速電圧を変化させることにより、シンチレータの全面に、均一に広がった電子線を照射した時に取得できる画像に変化があることが見てとれる。このことから、ピクセル毎の感度の違い(感度ムラ)が、透過電子顕微鏡の観察条件である、加速電圧に依存していることが分かる。
【0023】
従来技術では、透過型電子顕微鏡の観察条件を変更する度に、感度ムラ補正の補正係数を取得する手順を行わなければならない。この補正係数を取得する手順については、前述した((1)式〜(5)式参照)。この手順は時間を要する(5分以上)ため、顕微鏡の操作性を大きく悪化させる。
【0024】
補正係数をファイルなどの形で保存し、観察条件毎に複数保存しておくことで、必要に応じて使用する補正係数を切り替え、この手順にかかる時間を減らすことができる。しかしながら、透過型電子顕微鏡の観察条件を変更する度に、感度ムラ補正の補正係数を変更しなければならないが、これを忘れてしまうと、間違った補正係数のまま、観察データを取得することになり、最悪の場合、そのデータは使い物にならず、改めて補正係数を取得しなければならず、多大な労力を要する。
【0025】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、透過型電子顕微鏡の観察条件を変更する度に、その観察条件に最適な感度ムラ補正の補正係数の設定を自動的に行なうことができる透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の問題を解決するために、本発明は以下に示すように構成される。
(1)請求項1記載の発明は、透過型電子顕微鏡に用いられる透過型電子顕微鏡用カメラにおいて、透過型電子顕微鏡の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数をコンピュータの記憶装置に記憶させておき、観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラで撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置に記憶された感度ムラ補正係数を乗算することにより、ピクセル毎の感度ムラを補正した画像データを得るようにしたことを特徴とする。
【0027】
(2)請求項2記載の発明は、前記透過型電子顕微鏡の観察条件とは、加速電圧,電子線発生器の設定,試料に電子線を照射する光学系の条件,拡大像を結像する光学系の条件の少なくとも一つであることを特徴とする。
【0028】
(3)請求項3記載の発明は、透過型電子顕微鏡において、試料を透過した透過電子線を入射して透過電子線像を撮影する透過型電子顕微鏡用カメラと、感度ムラ補正を行なう他、各種の制御を行なうコンピュータと、透過型電子顕微鏡の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数を記憶するコンピュータと接続された記憶装置と、観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラで撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置に記憶された感度ムラ補正係数を乗算するコンピュータ内演算手段と、該演算手段により乗算された画像データを表示する表示手段と、を具備し、前記コンピュータは、前記演算手段によりピクセル毎の感度ムラを補正した画像を前記表示手段に表示させるように構成したことを特徴とする。
【0029】
(4)請求項4記載の発明は、前記透過型電子顕微鏡用カメラは、電子線を可視光に変換するシンチレータと、該シンチレータで発生した光を導く光学系と、該光学系からの光を受けて、電気信号に変換する光検出素子と、該光検出素子で検出した電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とから構成されることを特徴とする。
【0030】
(5)請求項5記載の発明は、前記光検出素子として、CCD又はCMOSを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
(1)請求項1記載の発明によれば、透過型電子顕微鏡の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数をコンピュータの記憶装置に記憶させておき、観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラで撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置に記憶された感度ムラ補正係数を乗算することにより、ピクセル毎の感度ムラを自動的に補正した画像データを得ることができる。
【0032】
(2)請求項2記載の発明によれば、透過型電子顕微鏡の観察条件として、加速電圧、電子線発生器の設定、試料に電子線を照射する光学系の条件、拡大像を結像する光学系の条件を用いることができる。
【0033】
(3)請求項3記載の発明によれば、透過型電子顕微鏡の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数をコンピュータの記憶装置に記憶させておき、観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラで撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置に記憶された感度ムラ補正係数を乗算することにより、ピクセル毎の感度ムラを自動的に補正した画像データを得ることができる。
【0034】
(4)請求項4記載の発明によれば、電子線を可視光に変換するシンチレータと、該シンチレータで発生した光を導く光学系と、該光学系からの光を受けて、電気信号に変換する光検出素子と、該光検出素子で検出した電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とから構成される透過型電子顕微鏡用カメラを用いることができる。
【0035】
(5)請求項5記載の発明によれば、光検出素子としてCCD又はCMOSを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を実施するシステム構成例を示す図である。
【図2】本発明の動作の一例を示すフローチャートである。
【図3】感度ムラ補正データの構成例を示す図である。
【図4】感度ムラ補正なしの時の画像を示す図である。
【図5】本発明の感度ムラ補正を行なった時の画像を示す図である。
【図6】透過型電子顕微鏡の外観構成例を示す図である。
【図7】透過型電子顕微鏡の結像系の模式図である。
【図8】シンチレータ全面に均一な電子線を照射した時に得られる画像を示す図である。
【図9】感度ムラ補正を施した後の画像を示す図である。
【図10】加速電圧を変化させた時に感度ムラが変化する様子を示す図である。
【図11】加速電圧を変化させた時に感度ムラが変化する様子を示す図である。
【図12】加速電圧を変化させた時に感度ムラが変化する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明を実施するシステム構成例を示す図である。図において、21は透過型電子顕微鏡(TEM)、23はコンピュータ、23aは取得した画像を表示するモニタ、22は透過型電子顕微鏡21とコンピュータ23間を接続する通信用ケーブル、24は透過型電子顕微鏡用カメラ、25はコンピュータ23から透過型電子顕微鏡用カメラ24を制御するためのカメラ制御信号ケーブル、26は透過型電子顕微鏡用カメラ24が取得した画像データをコンピュータ23へ転送するケーブル、27はコンピュータ23に接続された外部記憶装置で、透過型電子顕微鏡21の観察条件と透過型電子顕微鏡用カメラの感度補正係数を保存する外部記憶装置である。モニタ23aとしては、例えばLCD(液晶ディスプレイ)が好適に用いられる。28はコンピュータ23にコマンドや透過型電子顕微鏡の観察条件を入力する操作部である。該操作部28としては、例えばキーボードやマウスが用いられる。コンピュータ23としては、例えばパーソナルコンピュータ(PC)が用いられ、外部記憶装置27としては、例えばハードディスク装置(HDD)が用いられる。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0038】
コンピュータ23は、透過型電子顕微鏡21との通信用ケーブル22を介して、透過型電子顕微鏡21の観察条件の設定を行ない、また情報を取得する。コンピュータ23は画像データ転送ケーブル26を介して、透過型電子顕微鏡用カメラ24から取得した画像データを受け取る。コンピュータ23は、取得した画像データを自身に接続されているモニタ23aに表示、出力する。コンピュータ23は、透過型電子顕微鏡21との通信用ケーブル22を介して透過型電子顕微鏡21の観察条件の情報を取得して、その時の観察条件に合致する補正係数データを外部記憶装置27より読み込み、感度ムラ補正に利用する。
【0039】
図2は感度ムラ補正データの構成例を示す図である。図に示す例は加速電圧100kVの時の感度ムラ補正データの例を示す。a11〜amnは、ピクセル毎の感度ムラ補正データを示している。つまり、透過型電子顕微鏡用カメラ24の出力である各ピクセル毎の画像データにピクセル毎の感度ムラ補正データaij(i=1〜m,j=1〜n)を乗算することにより、各ピクセル毎の感度ムラが補正された画像データを得ることができる。図に示す例は、加速電圧100kVの場合であるが、実際には加速電圧80kV,加速電圧120kVというように加速電圧の種類に応じて、図2に示すような感度ムラ補正データが外部記憶装置27に記憶されている。
【0040】
図3は本発明の動作の一例を示すフローチャートである。このフローチャートを用いて本発明の動作を説明する。システムとしては、図1に示すものを用いる。装置が駆動されると、コンピュータ23は装置の初期化を行なう(S1)。次に、オペレータが操作部28から透過型電子顕微鏡の観察条件を入力する。観察条件とは、加速電圧,電子線発生機構の設定(フィラメント電流,バイアス設定),試料に電子線を照射する光学系の条件(スポットサイズ,α(照射レンズ系の照射角度),ブライトネス,若しくは各レンズ(スポットサイズ設定用レンズ,ブライトネス設定用レンズ,α設定用レンズ)に流す電流の設定値,絞り径),拡大像を結像する光学系の条件(倍率,フォーカス,若しくは各レンズ(対物レンズ,中間レンズ,投影レンズ)に流す電流の設定値,対物絞り径,制限視野絞り径)等である。
【0041】
次に、コンピュータ23は外部記憶装置27をサーチし、観察条件に合致する感度ムラ補正係数データがあるかどうかチェックする(S3)。感度ムラ補正係数データは、前述した(4)式である、
C(x,y)=Vn/Vosub=Vn/[Vo(x,y)−B(x,y)] (4)
を用いて求め、観察条件毎にまた各ピクセル毎に求まったデータを外部記憶装置27に記憶しておくものである。
【0042】
感度ムラ補正係数データがある場合、コンピュータ23は外部記憶装置27をサーチして観察条件に合致する感度ムラ補正係数データを読み込む(S4)。読み込まれた感度ムラ補正データ(図2参照)はコンピュータ23内部のメモリ(主記憶メモリ)に記憶される。次に、コンピュータ23は透過型電子顕微鏡用カメラ24の感度ムラ補正処理に設定する(S5)。
【0043】
次に、コンピュータ23は、透過型電子顕微鏡用カメラ24の感度ムラ補正処理を実行し、画像データを出力する(S6)。具体的には、透過型電子顕微鏡用カメラの出力に、図2に示すような感度ムラ補正データを乗算することにより、感度ムラ補正処理を実行する。次にコンピュータ23は、観察条件を変更するかどうかチェックする(S7)。観察条件を変更しない場合には、装置停止命令があるかどうかチェックする(S8)。
【0044】
装置停止命令がない場合には、コンピュータ23はステップS6に戻り、次のピクセルの感度ムラ補正処理を実行する。このようにして、ステップS6の処理を繰返し、全てのピクセルについての感度ムラ補正処理を行なう。全てのピクセルについての感度ムラ補正処理が終了したら、コンピュータ23は装置停止命令があるので、装置を停止する。この時、感度ムラ補正処理を実行された画像データは、コンピュータ23によりモニタ23aに表示される。なお、観察条件が変更されたら、ステップS2に戻り、オペレータは操作部28から新たな観察条件の設定を行なう。
【0045】
以上の処理は、外部記憶装置27に観察条件の感度ムラ補正データが記憶されている場合の動作である。ステップS3において感度ムラ補正データがない場合には、感度ムラ補正データを作成する処理に移行する。先ず、補正係数データ取得処理を実行するかどうかチェックする(S9)。補正係数データ取得処理を実行しない場合には、ステップS6に進む。即ち、この場合にはそれまで使用されていた感度ムラ補正係数データをそのまま用いる。
【0046】
ステップS9で、補正データ取得処理を実行する場合には、コンピュータ23は前述した補正係数データ取得処理を実行する(S10)。そして、得られた感度ムラ補正係数を透過型電子顕微鏡の観察条件と関連付けて外部記憶装置27に保存し(S11)、ステップS4に進む。この結果、観察条件が変更された時の感度ムラ補正データに基づいて画像出力処理を行なうことになる。
【0047】
なお、感度ムラ補正係数データを取得する処理を実行しない場合、その時使用している感度ムラ補正係数データをそのまま用いて画像処理処理を実行するが、使用している感度ムラ補正係数データが無い場合には、感度ムラ補正処理を実行せず、補正されないままの生画像データを出力する。
【0048】
図4は感度ムラ補正なしの時の画像を示す図、図5は本発明の感度ムラ補正を行なった時の画像を示す図である。双方の画像を比較すると、感度ムラ補正なしの場合、画像中に画像ムラが発生している。これに比較して、感度ムラ補正を行なった場合には、画像中に画像ムラは発生していないことが分かる。
【0049】
上述の実施例では、観察条件として加速電圧を用いた場合を例にとったが、本発明はこれに限るものではなく、電子線発生器の設定、試料に電子線を照射する光学系の条件、拡大像を結像する光学系の条件を用いることができる。
【0050】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、透過型電子顕微鏡の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数をコンピュータの記憶装置に記憶させておき、観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラで撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置に記憶された感度ムラ補正係数を乗算することにより、ピクセル毎の感度ムラを自動的に補正した画像データを得ることができる。
【0051】
また、電子線を可視光に変換するシンチレータと、該シンチレータで発生した光を導く光学系と、該光学系からの光を受けて、電気信号に変換する光検出素子と、該光検出素子で検出した電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とから構成される透過型電子顕微鏡用カメラを用いることができる。
【0052】
また、光検出素子としてCCD又はCMOSを用いることができる。更に、透過型電子顕微鏡の観察条件として、加速電圧の他、電子線発生器の設定、試料に電子線を照射する光学系の条件、拡大像を結像する光学系の条件を用いることができる。
【0053】
以上、説明したように、本発明によれば、透過型電子顕微鏡の観察条件を変更する度に、その観察条件に最適な感度ムラ補正の補正係数の設定を、自動的にシステムが行なうことにより、感度ムラ補正の補正係数の再取得や、手動での設定といったオペレータにとって煩わしい手順を無くすことが可能になった。
【符号の説明】
【0054】
21 透過型電子顕微鏡(TEM)
22 通信用ケーブル
23 コンピュータ
23a モニタ
24 透過型電子顕微鏡用カメラ
25 カメラ制御信号ケーブル
26 画像データ転送ケーブル
27 外部記憶装置
28 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡に用いられる透過型電子顕微鏡用カメラにおいて、
透過型電子顕微鏡の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数をコンピュータの記憶装置に記憶させておき、
観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラで撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置に記憶された感度ムラ補正係数を乗算する、
ことにより、ピクセル毎の感度ムラを補正した画像データを得るようにしたことを特徴とする透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正方法。
【請求項2】
前記透過型電子顕微鏡の観察条件とは、加速電圧,電子線発生器の設定,試料に電子線を照射する光学系の条件,拡大像を結像する光学系の条件の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正方法。
【請求項3】
透過型電子顕微鏡において、試料を透過した透過電子線を入射して透過電子線像を撮影する透過型電子顕微鏡用カメラと、
感度ムラ補正を行なう他、各種の制御を行なうコンピュータと、
透過型電子顕微鏡の観察条件に合わせてピクセル毎の感度ムラ補正係数を記憶するコンピュータと接続された記憶装置と、
観察画像を得るに際し、前記透過型電子顕微鏡用カメラで撮影されたピクセル毎の画像データに、前記記憶装置に記憶された感度ムラ補正係数を乗算するコンピュータ内演算手段と、
該演算手段により乗算された画像データを表示する表示手段と、
を具備し、
前記コンピュータは、前記演算手段によりピクセル毎の感度ムラを補正した画像を前記表示手段に表示させる、
ように構成したことを特徴とする透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正装置。
【請求項4】
前記透過型電子顕微鏡用カメラは、
電子線を可視光に変換するシンチレータと、
該シンチレータで発生した光を導く光学系と、
該光学系からの光を受けて、電気信号に変換する光検出素子と、
該光検出素子で検出した電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、
から構成されることを特徴とする請求項3記載の透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正装置。
【請求項5】
前記光検出素子として、CCD又はCMOSを用いることを特徴とする請求項4記載の透過型電子顕微鏡用カメラの感度ムラ補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−3336(P2011−3336A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143932(P2009−143932)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】