説明

透過電子顕微鏡試料作製方法

【課題】集束イオンビームを利用する微細加工により、微細粒子の凝集体からなる膜の断面を、透過電子顕微鏡観察する目的の薄片化試料を作製する際、微細加工端面に露呈する微細粒子の剥落を防止でき、また、薄片化された部位の大気暴露を防止可能な、薄片化試料の作製方法を提供する。
【解決手段】微細粒子の凝集体からなる膜から抽出した試料片に対し、その二つの断面に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、薄片化を行う工程中、各断面に微細加工を施した後、微細加工端面を被覆する、均質な材料からなる薄膜をそれぞれ形成する。形成される均質な材料からなる薄膜は、微細加工端面に露呈する微細粒子の剥落を防止し、また、微細加工端面の大気暴露を防止する、被覆膜として利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡観察用の試料を作製する方法に関し、特に、透過電子顕微鏡を用いて、粉体などの塗布膜の断面を観察する際に使用される試料を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーの発展に伴い、各種のデバイス中で使用されている材料膜、あるいは、デバイスの一部の内部を、透過電子顕微鏡を用いて観察し、その状態を評価することの重要性が増している。
【0003】
また、近年のグリーンエネルギー化の推進に伴い、リチウム電池や燃料電池の実用化、およびその開発が進められている。例えば、リチウムイオン二次電池の開発、ならびに実用化を促進するためには、電極材料である活物質、活物質を塗布した電極の評価が不可欠である。その評価をする際、活物質を塗布した電極、特に、集電体上に形成されている、電極活物質塗布膜に対する透過電子顕微鏡による観察が重要となっている。
【0004】
透過電子顕微鏡を用いた観察では、観察対象の試料の膜厚を100nm程度まで、薄片化する必要がある。例えば、半導体デバイスの作製に利用される半導体材料、金属材料、誘電体材料は、イオン・スパッターリングが可能であるため、半導体デバイスの分野では、薄片試料の作製方法として、集束イオンビームを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
通常、断面試料作製に利用される集束イオンビーム加工装置には、集束イオンビームアシスト蒸着法による薄膜形成機構が付設されている。例えば、タングステン膜あるいはカーボン膜の形成を行うため、集束イオンビームアシスト蒸着法による薄膜形成に使用する、原料ガス源複数が付設されている。この薄膜形成機構は、微細加工を施す部位以外の領域に保護膜を形成することで、微細加工時、非加工領域をイオンビームによるダメージから保護する用途に利用されている。
【0006】
また、集束イオンビームアシスト蒸着法による薄膜形成法は、集束イオンビームを用いる微細加工で形成される加工穴などを、選択的に穴埋めする、イオンビームによる穴埋め加工にも応用されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、透過電子顕微鏡を用いる観察時、照射される電子により、収縮変形を引き起こす可能性を有する試料では、集束イオンビームを用いる微細加工により薄片化を進める過程で、試料表面に薄膜を形成し、形成した薄膜を補強材として利用することで、透過電子顕微鏡観察時に、電子線照射に起因する試料の収縮変形を抑制する方法の提案がなされている(特許文献3)。
【0008】
微細加工に先立ち、試料の裏面側に補強層を形成した後、表面側から集束イオンビームを用いる微細加工を進めることで、微細加工により薄片化を進める過程で、試料の湾曲が生じることを防止する方法の提案もなされている(特許文献4)。試料の裏面側に補強層を形成することで、薄片化した試料の厚さを50nm以下にすることも可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−39926号公報
【特許文献2】特許第4302933号公報
【特許文献3】特開2007−292507号公報
【特許文献4】特開2009−198412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
半導体材料、金属材料、誘電体材料のように均質な材料からなる試料の断面を、透過電子顕微鏡観察する場合、観察対象の試料の厚さを100nm程度まで、集束イオンビームを用いる微細加工により薄片化している。その際、均質な材料からなる試料を薄片化することより露出する観察面は、微視的にも平坦な面となっている。
【0011】
一方、均質な材料ではなく、微細粉末を凝集することによって形成される、凝集体型材料では、巨視的には、微細粉末は緻密に凝集され、一体化されているものの、微視的には、その内部に微細な隙間を内在している。例えば、リチウムイオン二次電池で利用される、電極は、電極活物質塗布膜を集電体上に形成した構造とし、該電極活物質塗布膜の中に内在される微細な隙間中に、非水電解質が浸潤可能な構成とされている。集電体は、金属箔など均質な導電性材料で形成されており、その表面に形成される電極活物質塗布膜との電気的接触は、電極活物質塗布膜下面の活物質微粒粉末を金属箔の表面に密着させることで達成されている。
【0012】
リチウムイオン二次電池や燃料電池の実用化を促進するためには、その耐久寿命の延長が重要な課題である。具体的には、利用される電極の経時的な劣化を抑制することが重要な課題である。例えば、リチウムイオン二次電池で利用される電極は、電極活物質塗布膜を集電体上に形成した構造を有しているが、充電・放電サイクルを繰り返す間に、電極活物質塗布膜を形成する、活物質の微細粒子間の密着性、集電体の金属箔表面に対する活物質の微細粒子の密着性が低下する。利用される電極の経時的な劣化を引き起こす要因を特定し、劣化要因を低減する上では、活物質を塗布した電極の詳細な評価が必要である。例えば、活物質の微細粒子間の密着性の低下を評価する際には、電極活物質塗布膜の内部の微視的な構造を、透過電子顕微鏡により観察することが必要となる。
【0013】
集電体の金属箔表面に形成されている、電極活物質塗布膜は、活物質の微細粒子の凝集体であり、活物質の微細粒子間の密着性が十分でないと、活物質の微細粒子の剥落を生じ易い。作製される薄片化試料の厚さは100nm程度であり、微細加工された断面に露呈される活物質の微細粒子は、剥落を生じ易い状態となっている。通常の集束イオンビームによる断面観察用の薄片化試料を作製する方法では、薄膜化した際、微細加工された断面に露呈される活物質の微細粒子の剥落が起きる可能性が高いという問題がある。特に、サイクル試験を完了した時点では、程度の差はあるものの劣化が進行している。充電・放電を繰り返すことにより、作製当初と比較すると、活物質の微細粒子表面は脆くなっており、また、微細粒子相互間、微細粒子-集電体(金属箔)表面間の密着性も低下しており、微細加工された断面に露呈される活物質の微細粒子の剥落が起きやすいという問題がある。
【0014】
また、サイクル試験を行ったリチウムイオン二次電池の電極、特に、電極活物質塗布膜の部分は、大気に対して不安定であるという問題がある。例えば、活物質の微細粒子間の微細な隙間に金属リチウムが析出していると、析出した金属リチウムは、極薄い皮膜状、あるいは、デンドライト形状となっている。極薄い皮膜状、あるいは、デンドライト形状の金属リチウムの表面は反応性が増している。例えば、水分(水分子)が存在すると、大気中に含まる窒素分子と金属リチウムとの反応により、窒化リチウム(Li3N)が生成する。また、反応性が増している金属リチウムの表面が、大気中に含まる酸素分子により酸化を受けると、酸化リチウム(Li2O)に変換される。
【0015】
サイクル試験を行った後、電極、特に、電極活物質塗布膜の内部に金属リチウムの析出の有無、その析出した金属リチウムの形状を透過電子顕微鏡により観察する場合、大気との接触による、窒化リチウム(Li3N)、酸化リチウム(Li2O)への生成を抑制する必要がある。従って、作製される薄片化試料と大気との接触を回避可能な状態とすることが必要となる。すなわち、作製される薄片化試料の上面、ならびに、薄片化された断面に、大気との接触を阻む被覆膜で覆うことが必要となる。
【0016】
本発明は、前記の課題を解決するものである。本発明の目的は、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜のように、微細粒子が疎な状態で凝集している膜の断面を透過電子顕微鏡により観察する場合に適用可能な、微細粒子の剥落を防止可能な、透過電子顕微鏡試料の作製方法を提供することにある。特には、観察する薄片化された試料の断面が大気に露呈されることを防止する処理を施した、透過電子顕微鏡試料の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、前記の課題を解決するため、まず、微細粒子が疎な状態で凝集している膜から、薄片化試料を作製する過程において、微細粒子の剥落を引き起こす要因について、検討を行った。
【0018】
例えば、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜では、該電極活物質塗布膜の内部まで非水電解質を浸潤させる必要があるため、活物質の微細粒子が疎な状態で凝集している構造となっている。その際、結着材を利用して、活物質の微細粒子相互を結着して、凝集構造とされている。具体的には、活物質の微細粒子相互接する部位の周辺に形成される、極狭い間隙部分に結着材が充填され、活物質の微細粒子相互を結着するが、活物質の微細粒子の間には空隙が存在している。活物質の微細粒子の間に存在する空隙は相互に連結されており、その連結されている空隙中に、非水電解質が毛管現象によって、浸入することが可能となっている。
【0019】
凝集構造を構成している、活物質の微細粒子は、活物質の微細粒子相互接する部位に充填される結着材によって、その周囲の活物質の微細粒子と結着されているが、活物質の微細粒子の表面と結着材との密着性が低下すると、微細粒子の剥落が生じ易い状態となる。集束イオンビームを利用する微細加工を用いて、電極活物質塗布膜の断面を表出させると、該断面に露呈する微細粒子では、結着部位は減少しており、さらに微細粒子の剥落が生じ易い状態となっている。特に、電極活物質塗布膜の表面と、微細加工により表出される断面が直交する、角(稜線)の部分に位置する微細粒子は、一層、剥落が生じ易い状態となっている。
【0020】
塗布膜の表面と、微細加工により表出される断面が直交する、角(稜線)の部分に位置する微細粒子の一つが剥落すると、剥落した微細粒子に周囲に位置する微細粒子は、一層、剥落が生じ易い状態となる。その結果、最初に発生した剥落点の周囲に、微細粒子の剥落が拡大する可能性が高くなることを見出した。
【0021】
本発明者は、塗布膜の表面に位置する、最上層の微細粒子の上面を覆い、微細粒子の上面と密着する、金属被膜層を電極活物質塗布膜の上面に予め形成した後、集束イオンビームを利用する微細加工を施すと、角(稜線)の部分に位置する微細粒子の剥落を効果的に抑制できることを見出した。
【0022】
また、微細加工により表出される断面に露呈する微細粒子の一つが剥落すると、この断面に露呈し、剥落した微細粒子の周囲に位置する微細粒子は、一層、剥落が生じ易い状態となる。その結果、最初に発生した剥落点の周囲に、微細粒子の剥落が拡大する可能性が高くなることを見出した。
【0023】
本発明者は、集束イオンビームを利用する微細加工を施すことで断面を表出した後、少なくとも、その微細加工により表出した微細粒子の加工面を覆い、また、加工端面に露呈している微細粒子間の空隙を充填する、均質な材料からなる薄膜を、微細加工端面を被覆するように形成すると、微細加工により表出される断面に露呈する微細粒子の剥落を効果的に抑制できることを見出した。勿論、前記微細加工端面を被覆する、均質な材料からなる薄膜の形成は、集束イオンビームを利用する微細加工後、速やかに実施することが最も効果的であることも見出した。例えば、微細加工を施す際に利用する集束イオンビーム加工装置に付設される、集束イオンビームアシスト蒸着法による薄膜形成機構を利用して、微細加工に引き続き、微細加工端面を被覆する、均質な材料からなる薄膜の形成を行うことが望ましいことを見出した。また、微細加工で作製する薄片化試料において、薄片化された試料の二つの断面の何れにも、微細加工端面を被覆する、均質な材料からなる薄膜の形成を行うことが望ましいことを見出した。
【0024】
一方、微細加工端面を被覆する、均質な材料からなる薄膜は、加工端面に露呈している微細粒子間の空隙は充填するが、薄片化された試料の内部に存在する空隙を埋め込む状態に至らない、極薄い膜厚とすることが望ましい。微細加工で作製する薄片化試料の厚さは、100nm程度であり、その二つの断面(加工端面)の何れにも、微細加工端面を被覆する、均質な材料からなる薄膜の形成を行うので、各加工端面に形成される、均質な材料からなる薄膜の膜厚は、10nm〜30nmの範囲に選択することが望ましいことを見出した。
【0025】
二つの断面(加工端面)に形成される、均質な材料からなる薄膜の膜厚を、10nm〜30nmの範囲に選択すると、微細加工で作製する薄片化試料の厚さと合計しても、全体の膜厚は、200nm程度に抑えることが可能である。従って、透過電子顕微鏡を利用して、均質な材料からなる薄膜/薄片化試料/均質な材料からなる薄膜からなる積層構造の内部を観察することが可能である。
【0026】
最終的に作製される薄片化試料では、塗布膜の表面(上面)は、金属被膜層で被覆されており、微細加工端面(薄片化された断面)共には、それぞれ、均質な材料からなる薄膜で被覆された状態となる。金属被膜層、均質な材料からなる薄膜は、酸素分子、窒素分子、水分子(水分)は、金属被膜層、均質な材料からなる薄膜を透過できないため、最終的に作製される薄片化試料において、その薄片化部分は、大気との接触を防止された状態となる。換言すると、微細粒子が疎な状態で凝集している膜の断面を透過電子顕微鏡により観察する際、観察する薄片化された試料の断面が大気に露呈されることを防止する処理を施した、透過電子顕微鏡試料の作製に利用可能であることを見出した。
【0027】
以上の説明した一連の知見に基づき、本発明者は、本発明を完成するに至った。
【0028】
すなわち、本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法は、
微細粒子の凝集体からなる膜を透過電子顕微鏡により観察するため、薄片化した試料を作製する方法であって、
微細粒子の凝集体からなる膜から、試料片を抽出する工程;
該試料片断面の一部に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、試料片の幅Wsample pieceを、所定の幅Wthin sampleまで薄片化する工程を含んでおり、
前記薄片化する工程は、下記の4つのステップを含んでおり、
試料片の片側断面の一部に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、微細加工端面を形成する、第一の微細加工ステップ;
試料片の片側断面に形成される、前記微細加工端面を被覆する、膜厚Wdeposition film-1の均質な材料からなる薄膜を形成する、第一の薄膜形成ステップ;
試料片の他の片側断面の一部に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、微細加工端面を形成する、第二の微細加工ステップ;
試料片の他の片側断面に形成される、前記微細加工端面を被覆する、膜厚Wdeposition film-2の均質な材料からなる薄膜を形成する、第二の薄膜形成ステップ;
前記幅Wthin sampleまで薄片化された部分の二つの微細加工端面は、それぞれ、膜厚Wdeposition film-1の均質な材料からなる薄膜と膜厚Wdeposition film-2の均質な材料からなる薄膜により被覆が施されており、
該薄片化した試料の薄片化された部分の全体幅、(Wthin sample+Wdeposition film-1+Wdeposition film-2)は、200nmを超えない範囲に選択されている
ことを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法である。
【0029】
その際、前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
均質な材料からなる薄膜の形成に、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用することが好ましい。また、前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
均質な材料からなる薄膜の形成に、電子ビームを利用する、電子ビームアシスト蒸着法を利用することもできる。
【0030】
一方、前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、非晶質材料からなる薄膜であることが好ましい。
【0031】
前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、軽元素で構成される非晶質材料からなる薄膜であることがより好ましい。
【0032】
例えば、前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、非晶質炭素材料からなる薄膜である形態を選択することができる。
【0033】
また、前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、酸化シリコン(SiOx)からなる薄膜である形態を選択することができる。
【0034】
上述の本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法においては、
膜厚Wdeposition film-1は、10nm〜30nmの範囲に選択され、
膜厚Wdeposition film-2は、10nm〜30nmの範囲に選択されていることが望ましい。
【0035】
一方、幅Wthin sampleは、150nm以下に選択されていることが望ましい。
【0036】
加えて、上述の本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法では、
微細粒子の凝集体からなる膜から、試料片を抽出する工程に先立ち、
微細粒子の凝集体からなる膜の上面を被覆する、金属被膜層を形成し、
抽出される試料片は、微細粒子の凝集体からなる膜の上面を被覆する、金属被膜層を具えている形態を選択することが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法では、微細粒子の凝集体からなる膜を透過電子顕微鏡により観察するため、薄片化した試料を作製する際、試料片の二つの断面に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、薄片化を行う工程中、各断面に微細加工を施した後、微細加工端面を被覆する、均質な材料からなる薄膜をそれぞれ形成することにより、該微細加工端面に露呈した微細粒子の剥落を防止できるという効果を有している。
【0038】
加えて、微細粒子の凝集体からなる膜の上面を被覆する金属被膜層を予め形成する形態を採用すると、上面を被覆する金属被膜層、微細加工端面を被覆する均質な材料からなる薄膜によって、薄片化した試料中、微細加工を施した部分が直接大気に接触することが防止される。従って、集束イオンビーム装置から取り出し、透過電子顕微鏡へと搬送する間に、直接大気に接触することによって、薄片化した試料中、微細加工を施した部分が酸化等の影響を受けることを回避できるという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る透過電子顕微鏡試料作製方法の一実施形態を説明する図であり、集束イオンビームを用いる微細加工を施した後、該微細加工面を被覆保護する、軽元素非晶質膜を、集束イオンビームアシスト蒸着法による薄膜形成法を適用して、その場形成する工程を模式的に説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明にかかる透過電子顕微鏡試料作製方法の実施の形態を説明する。
【0041】
下記の説明においては、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜を例に採り、試料を作製する手順をより詳しく説明する。
【0042】
リチウムイオン二次電池の電極に利用される、負極活物質の微細粒子として、例えば、カーボン、具体的には、グラファイト、ハードカーボンの微細粒子、シリコンの微細粒子などが利用されている。これら負極活物質の微細粒子は、例えば、所定の平均粒子サイズdparticle-sizeに粉砕された微細粉末形状とされる。粉砕された微細粉末は、不定形な粒子であり、結着材を利用し微細粉末相互を結着して、電極活物質塗布膜を形成している。例えば、グラファイトでは、(LiC6)と表記される層間化合物状に侵入したLiを利用して、充電・放電反応が行われる。また、シリコンでは、例えば、(Li4.4Si)と表記される取り込まれるLiを利用して、充電・放電反応が行われる。
【0043】
また、正極活物質の微細粒子として、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiFePO4など、Co、Mn、Fe、Niなど、酸化状態の可逆的な変化が可能な金属を含む酸化物、塩化合物の微細粒子などが利用されている。該酸化物、塩化合物中に含まれる、金属の酸化状態の可逆的な変化に付随して、Li+イオンの取り込み、放出が生じ、充電・放電反応が進行する。正極活物質の微細粒子も、例えば、所定の平均粒子サイズdparticle-sizeに粉砕された微細粉末形状とされる。粉砕された微細粉末は、不定形な粒子であり、結着材を利用し微細粉末相互を結着して、電極活物質塗布膜を形成している。
【0044】
本発明に係る透過電子顕微鏡試料作製方法を適用して、充・放電サイクルを繰り返すことに伴う、経時的な劣化を評価するため、電極活物質塗布膜の薄片化試料を作製する手順を以下に説明する。
【0045】
図1に、本発明に係る透過電子顕微鏡試料作製方法の一実施形態の一連の工程を図示する。
【0046】
透過電子顕微鏡により観察する対象は、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜である。集電体である、電極金属箔2の表面に、電極活物質塗布膜が形成されている。電極活物質塗布膜は、活物質粉末粒子3の凝集体からなる膜であり、活物質粉末粒子3相互の間に空隙4が存在している。活物質粉末粒子3相互が接する部位の周囲の極狭い隙間には、結着材が充填されており、該結着材を利用して、相互に接する活物質粉末粒子3間の結着がなされている。また、電極活物質塗布膜の最下層に位置する活物質粉末粒子3は、電極金属箔2の表面と接しており、この活物質粉末粒子3と電極金属箔2の表面が接する部位の周囲に存在する極狭い隙間にも、結着材が充填されている。充填されている結着材を利用して、電極金属箔2の表面に、活物質粉末粒子3が結着されている。
【0047】
電極活物質塗布膜の最上層に位置する活物質粉末粒子3は、その周囲のある活物質粉末粒子と、その下層にある活物質粉末粒子と接する部位において、結着材を利用して、結着がなされている。電極活物質塗布膜の内部に存在する空隙4は、相互に連結されており、電極活物質塗布膜の上面から、電極金属箔2の表面と接する下面まで、この連結されている空隙4内に、非水電解質が毛管現象によって浸入することが可能となっている。
【0048】
透過電子顕微鏡による観察用の試料の作製に先立ち、電極活物質塗布膜内部の空隙4内に浸入している、非水電解質を除去する。その結果、電極活物質塗布膜内部の空隙4内には液体成分は残余していない状態(乾燥処理済状態)となっている。電極活物質塗布膜の上面には、内部の空隙4に連結される微細な穴が開口している。
【0049】
電極活物質塗布膜の面内から、観察する領域の試料片を抽出する。該試料片は、電極活物質塗布膜と、その下層の電極金属箔2を含め、切り出されている。その際、切り出される試料片の上面、すなわち、電極活物質塗布膜の最上層を被覆し、内部の空隙4に連結される微細な穴を塞ぐ、金属被膜層を形成している。該金属被膜層は、電極活物質塗布膜の最上層に位置する活物質粉末粒子の上面に密着されている。その結果、最上層に位置する活物質粉末粒子は、該金属被膜層に密着することにより、その剥落が生じない状態となっている。図1の(a)に、上面に金属被膜層として、タングステン・デポジション膜1が形成されている、抽出された試料片の断面形状を模式的に示す。抽出された試料片の高さHsample pieceは、タングステン・デポジション膜1の膜厚Wmetal layer、電極活物質塗布膜の膜厚Wparticle coating layer、電極金属箔2の膜厚Wmetal foilの合計となる(Hsample piece=Wmetal layer+Wparticle coating layer+Wmetal foil)。抽出された試料片の長さLsample pieceは、通常、試料片の高さHsample pieceと等しいか、より大きくなるように選択される(Lsample piece≧Hsample piece)。
【0050】
また、抽出された試料片の幅Wsample pieceは、抽出された試料片の高さHsample pieceより小さくし(Wsample piece<Hsample piece)、通常、電極活物質塗布膜の膜厚Wparticle coating layerより小さくし(Wsample piece<Wparticle coating layer)、その両面から集束イオンビームを利用する微細加工を施すことで、薄片化を行う。
【0051】
集束イオンビームを利用する微細加工を施すことで薄片化される領域は、上面から、深さDthinning area、長さLthinning areaの領域であり、両面から微細加工を施し、最終的に薄片化される領域の幅Wthin sampleは、100nm〜150nm程度とする。その際、両面における微細加工量は、ほぼ等しくすることが望ましい。例えば、両面における微細加工量は、一方の面の微細加工量ΔWsputtering-1は、1/2・Wsample pieceとし、他の面の微細加工量ΔWsputtering-2は、1/2・Wsample piece−Wthin sampleとすることで、最終的に薄片化される領域の幅をWthin sampleに調整することができる。
【0052】
抽出された試料片の一方の面に対して、集束イオンビームを利用して微細加工を施し、微細加工量ΔWsputtering-1をイオン・スパッターにより除去する。微細加工を施す領域は、深さDthinning area、長さLthinning areaの領域であり、図1の(b)に、この微細加工により表出の加工端面に露呈する、活物質粉末粒子3、活物質粉末粒子間の空隙4を模式的に示す。
【0053】
微細加工により表出の加工端面に露呈する、活物質粉末粒子3、活物質粉末粒子間の空隙4を被覆するように、この微細加工を施した断面の表面に、均質な材料からなる薄膜を形成する。図1の(c)に、微細加工を施した断面の表面に、均質な材料からなる薄膜として、軽元素非晶質膜5を、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して選択的に形成した段階の断面を模式的に示す。
【0054】
集束イオンビームアシスト蒸着法を利用する薄膜形成では、集束イオンビームを照射された部分に、選択的に薄膜を形成することができる。従って、微細加工を施した断面の表面に露呈している、活物質粉末粒子3の加工断面上、ならびに、活物質粉末粒子間の空隙4のうち、該断面に露呈する微細な開口部を構成する、活物質粉末粒子の周側面上は、集束イオンビームの照射により、薄膜が形成される。結果的に、空隙4のうち、該断面に露呈する微細な開口部は蓋をされ、微細加工を施した断面の表面全体を被覆する、均質な材料からなる薄膜が二次元的に形成される。
【0055】
集束イオンビームアシスト蒸着法では、イオン種を表面に照射することにより、該表面から放出される二次電子を利用して、該表面に吸着した原料分子を励起し、原料分子の分解を引き起こし、薄膜の形成を進める。従って、形成される薄膜の側端面から放出される二次電子を利用することにより、薄膜の横方向成長を起こすことも可能である。この薄膜の横方向成長を利用することによって、断面に露呈する微細な開口部に蓋をするように、薄膜の二次元的な成長を行うことが可能である。
【0056】
集束イオンビームを利用して微細加工を施す際利用するイオン種として、Ga+イオンが広く利用されている。照射されるイオン種の加速エネルギーは、5keV〜50keVの範囲に選択される。一方、微細加工に利用する集束イオンビームの照射スポット径dsputteringは、最小、3〜6nmまで絞り込むことが可能であり、例えば、図1の(b)に例示するように、活物質粉末粒子の一部を選択的にイオン・スパッターにより除去することが可能である。
【0057】
具体的には、集束イオンビームを利用して、イオン・スパッター加工される、活物質粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeに対して、微細加工に利用する集束イオンビームの照射スポット径dsputteringは、その1/10以下(dsputtering≦1/10・dparticle-size)、好ましくは、その1/20以下(dsputtering≦1/20・dparticle-size)とすることが望ましい。
【0058】
集束イオンビームを利用する、イオン・スパッター加工では、高速のイオン種による衝撃により、結合の切断を引き起こし、表面の原子のスパッターがなされる。その際、結合の切断がなされる範囲は、表面から数nmの深さに達することもある。結合の切断がなされた領域では、結晶性材料から非晶質状態への変換がなされる。従って、照射されるイオン種は、イオン・スパッターを引き起こすと共に、場合によっては、照射された表面から、数nmの深さまで非晶質化させる。少なくとも、集束イオンビームを利用して微細加工を施した際、微細加工端面に表出する、活物質粉末粒子の加工面の最表面は、非晶質化されている。
【0059】
該非晶質化されている、活物質粉末粒子の加工面上に、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して形成される薄膜も、非晶質膜となる。集束イオンビームアシスト蒸着法では、照射される集束イオンビームのイオン種として、Ga+イオン、Ar+イオンなどが利用されている。照射されるイオン種の加速エネルギーは、10keV〜40keVの範囲に選択される。また、集束イオンビームアシスト蒸着法では、照射される集束イオンビーム照射スポット径ddepositionは、最小、3nm〜6nmまで絞り込むことが可能である。
【0060】
微細加工を施した断面に、原料として、例えば、フェナントレン(C1410)やピレン(C1610)の蒸気を供給し、集束イオンビームを照射することで、非晶質炭素薄膜を形成することができる(特開2003−13226号公報、松井・藤田ら、J. Vac. Sci. Technol. B 16(6), 3181-3184 (2000)を参照)。非晶質炭素薄膜として、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して作製可能な、ダイヤモンド・ライク・カーボン薄膜を利用することができる。
【0061】
その他、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、酸化シリコン(SiOx)の非晶質膜を、微細加工を施した断面を被覆するように形成することもできる。酸化シリコン(SiOx)の非晶質膜を形成する際には、Si源として、SiCl4を、O源として、O2を利用する、あるいは、Si源として、SiH4を、O源として、O2を利用する、ことが好ましい。
【0062】
非晶質炭素薄膜による被覆を行う場合、吸着している原料ガスの分解に、集束イオンビーム照射により生成する二次電子を利用する、集束イオンビームアシスト蒸着法に代えて、電子ビーム照射を利用する、選択的な薄膜形成法を利用することも可能である(松井・藤田ら、J. Vac. Sci. Technol. B 16(6), 3181-3184 (2000)を参照)。
【0063】
その他、非晶質炭素薄膜、酸化シリコン(SiOx)の非晶質薄膜の形成手法として、レーザービームやプラズマなど利用して、原料ガスの励起を行うデポジション方法を挙げることもできる。
【0064】
図1の(c)に例示するように、微細加工を施した断面の表面を被覆する、非晶質薄膜は、全体として、均質な材料からなる薄膜を形成しており、酸素分子、窒素分子、水分子(水分)などの気体分子の透過性を示さない被覆層として機能する。また、形成される非晶質薄膜は、微細加工端面に表出する、活物質粉末粒子の加工面に密着しており、さらに、該断面に露呈する微細な開口部に蓋をするように形成される。結果的に、該非晶質薄膜により被覆される、微細加工を施した断面の表面に露呈する活物質粉末粒子の剥落は防止される。
【0065】
一方の面に対する微細加工を施した後に形成される、第一の非晶質薄膜の膜厚Wdeposition film-1は、該断面に露呈する微細な開口部に蓋をするに十分な膜厚である必要があるが、通常、10nm〜30nmの範囲に選択することができる。
【0066】
一方の面に対する、微細加工と、その後の、均質な材料からなる薄膜による被覆を施した後、他方の面に対する微細加工を行う。
【0067】
他方の面に対する微細加工は、先に行った、一方の面に対する微細加工と本質的に同じ微細加工条件を用いて行う。勿論、他方の面に対する微細加工によって薄片化される領域は、上面から、深さDthinning area、長さLthinning areaの領域であり、一方の面に対する微細加工領域と相対している。他方の面に対する微細加工を終える時点で、上面から、深さDthinning area、長さLthinning areaの領域が、幅Wthin sampleまで薄片化される。図1の(d)に、他方の面に対する微細加工を終え、幅Wthin sampleまで薄片化された状態を模式的に示す。
【0068】
該他方の面に対する微細加工を施した後、微細加工を施した断面の表面を被覆する、均質な材料からなる薄膜を形成する。集束イオンビームを利用して微細加工を施した際、微細加工端面に表出する、活物質粉末粒子の加工面は、非晶質化されている。該非晶質化されている、活物質粉末粒子の加工面上に、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して形成される薄膜も、非晶質膜となる。図1の(e)に、微細加工を施した断面の表面に、均質な材料からなる薄膜として、軽元素非晶質膜を、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して選択的に形成した段階の断面を模式的に示す。
【0069】
図1の(e)に例示するように、微細加工を施した他方の面(断面)の表面を被覆する、非晶質薄膜は、全体として、均質な材料からなる薄膜を形成しており、酸素分子、窒素分子、水分子(水分)などの気体分子の透過性を示さない被覆層として機能する。また、形成される非晶質薄膜は、微細加工端面に表出する、活物質粉末粒子の加工面に密着しており、さらに、該断面に露呈する微細な開口部に蓋をするように形成される。結果的に、該非晶質薄膜により被覆される、微細加工を施した断面の表面に露呈する活物質粉末粒子の剥落は防止される。
【0070】
該他方の面に対する微細加工を施した後に形成される、第二の非晶質薄膜の膜厚Wdeposition film-2は、該断面に露呈する微細な開口部に蓋をするに十分な膜厚である必要があるが、通常、10nm〜30nmの範囲に選択することができる。
【0071】
通常、一方の面(断面)を被覆している、第一の非晶質薄膜と、他方の面(断面)を被覆している、第二の非晶質薄膜は、同じ非晶質材料からなる薄膜とすることが好ましい。また、第一の非晶質薄膜の膜厚Wdeposition film-1と、第二の非晶質薄膜の膜厚Wdeposition film-2を、実質的に等しくすることが好ましい。従って、一方の面(断面)を被覆している、第一の非晶質薄膜を形成する条件と、他方の面(断面)を被覆している、第二の非晶質薄膜を形成する条件は、実質的に等しくすることが好ましい。
【0072】
他方の面(断面)を被覆する、第二の非晶質薄膜の選択的な形成も、上述の一方の面(断面)を被覆する、第一の非晶質薄膜の選択的な形成に好適に利用可能な、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用することが好ましい。
【0073】
非晶質炭素薄膜による被覆を行う場合、吸着している原料ガスの分解に、集束イオンビーム照射により生成する二次電子を利用する、集束イオンビームアシスト蒸着法に代えて、電子ビーム照射を利用する、選択的な薄膜形成法を利用することも可能である。
【0074】
その他、非晶質炭素薄膜、酸化シリコン(SiOx)の非晶質薄膜の形成手法として、レーザービームやプラズマなど利用して、原料ガスの励起を行うデポジション方法を挙げることもできる。酸化シリコン(SiOx)の非晶質薄膜の形成手法として、例えば、Si(OC254などをSi源とし、O2、O2-Arプラズマを利用する、低温プラズマ堆積法(low temperature plasma-enhanced chemical phase deposition)を応用することができる。
【0075】
図1の(e)に例示する薄片化済試料では、幅Wthin sampleまで薄片化された、上面から、深さDthinning area、長さLthinning areaの領域は、その上面は、膜厚Wmetal layerの金属被膜層(タングステン・デポジション膜1)により被覆され、両断面は、膜厚Wdeposition film-1の第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)と、膜厚Wdeposition film-2の第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)で被覆されている。結果的に、幅Wthin sampleまで薄片化された領域は、直接、大気と接触しない状態となっている。
【0076】
第二の非晶質薄膜を形成した後、減圧状態から、大気圧下に試料を移動する際、例えば、アルゴンガスを利用して、大気圧まで復圧を行うことで、薄片化済試料の内部に存在する空隙中をアルゴンガスで満たすことが望ましい。薄片化済試料の内部に存在する空隙中にアルゴンガスを満たすことで、大気中に含まれる、水分(水分子)、窒素分子、酸素分子の侵入を防止することが可能となる。
【0077】
実際、本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法では、図1に示す一連の工程を実施する間、大気中に含まれる、水分(水分子)、窒素分子、酸素分子との接触を避けた状態とされる。
【0078】
図1の(e)に例示する薄片化済試料を用いる場合、膜厚Wdeposition film-1の第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)、幅Wthin sampleの薄片化された領域、膜厚Wdeposition film-2の第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)を透過した電子による、イメージを観測することになる。
【0079】
第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-1と、第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-2の合計(Wdeposition film-1+Wdeposition film-2)は、薄片化された領域の幅Wthin sampleの1/2以下、好ましくは、1/3以下の範囲、より好ましくは、1/4以下の範囲とする。比(Wdeposition film-1+Wdeposition film-2)/Wthin sampleは、1/2≧(Wdeposition film-1+Wdeposition film-2)/Wthin sample≧1/8の範囲、好ましくは、1/3≧(Wdeposition film-1+Wdeposition film-2)/Wthin sample≧1/6の範囲に選択する。例えば、薄片化された領域の幅Wthin sampleを、100nm〜150nmの範囲に選択する場合、合計(Wdeposition film-1+Wdeposition film-2)は、少なくとも、60nm以下、好ましくは、50nm以下の範囲とする。
【0080】
本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法を適用することで作製される、薄片化済試料において、薄片化された領域の幅Wthin sampleは、100nm〜150nm程度であり、微細加工した端面に露呈する空隙の開口部は、第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)ならびに第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)により蓋をされた状態とする。微細加工した端面に露呈する、空隙の開口部の平均的な開口サイズdopening-sizeは、第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-1、あるいは、第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-2の10倍以下(dopening-size≦10・Wdeposition film-1、dopening-size≦10・Wdeposition film-2)であることが望ましい。空隙の開口部の平均的な開口サイズdopening-sizeは、第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-1、あるいは、第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-2の5倍以下(dopening-size≦5・Wdeposition film-1、dopening-size≦5・Wdeposition film-2)であることがより好ましい。
【0081】
一方、微細加工した端面に露呈する、空隙の開口部の平均的な開口サイズdopening-sizeは、一般に、空隙を形成する活物質粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeに依存する。勿論、空隙の開口部の平均的な開口サイズdopening-sizeは、活物質粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeよりも小さい(dparticle-size>dopening-size)。例えば、電極活物質塗布膜は、活物質粉末粒子が疎な状態で凝集体を構成しているが、活物質粉末粒子の体積の総和ΣVparticleと、空隙部分の体積の総和ΣVspaceの比率、ΣVparticle:ΣVspaceは、通常、50:50〜80:20の範囲となる。その際、空隙の開口部の平均的な開口サイズdopening-sizeは、活物質粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeの1/2以下(1/2・dparticle-size≧dopening-size)、好ましくは、1/4以下(1/4・dparticle-size≧dopening-size)の範囲であることが望ましい。但し、空隙の開口部の平均的な開口サイズdopening-sizeが、活物質粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeの1/10以下になると、活物質粉末粒子が実質的に隙間なく積み重なる状態となり、活物質粉末粒子が疎な状態で凝集体を構成していると見做せない状態となる。換言すると、空隙の開口部の平均的な開口サイズdopening-sizeは、活物質粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeの1/10より大きくする(1/10・dparticle-size<dopening-size)。
【0082】
従って、例えば、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeは、第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-1、あるいは、第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-2の200倍以下(dparticle-size≦200・Wdeposition film-1、dparticle-size≦200・Wdeposition film-2)、好ましくは、100倍以下(dparticle-size≦100・Wdeposition film-1、dparticle-size≦100・Wdeposition film-2)の範囲であることが望ましい。
【0083】
第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-1、第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)の膜厚Wdeposition film-2は、通常、薄片化された領域の幅Wthin sampleの1/4以下(Wdeposition film-2=Wdeposition film-1≦1/4・Wthin sample)、好ましくは、1/6以下(Wdeposition film-2=Wdeposition film-1≦1/6・Wthin sample)の範囲に選択されている。従って、例えば、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeは、薄片化された領域の幅Wthin sampleの40倍以下(dparticle-size≦40・Wthin sample)、好ましくは、20倍以下(dparticle-size≦20・Wthin sample)の範囲であることが望ましい。
【0084】
理想的には、図1の(e)に例示するように、薄片化された領域の幅Wthin sampleの間に、通常、活物質粉末粒子相互が接する部位が、ある頻度で存在する状態、すなわち、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeは、薄片化された領域の幅Wthin sampleの10倍を超えない程度(dparticle-size≦10・Wthin sample)であることが好ましい。
【0085】
本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法を適用して薄片化済試料を作製する際、例えば、電極活物質塗布膜に適用する場合、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeは、30μmを超えない範囲であり、1μm≦dparticle-size≦20μmの範囲、好ましくは、2μm≦dparticle-size≦5μmの範囲であることが望ましい。
【0086】
また、例えば、電極活物質塗布膜を対象とする場合、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeに基づき、図1の(a)に図示する、抽出された試料片の幅Wsample pieceを選択する。少なくとも、抽出された試料片の幅Wsample pieceは、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeより大きい範囲(Wsample piece>dparticle-size)に選択する。例えば、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeが、2μm≦dparticle-size≦5μmの範囲の場合、抽出された試料片の幅Wsample pieceを、4μm≦Wsample piece≦15μmの範囲、好ましくは、4μm≦Wsample piece≦10μmの範囲に選択することが望ましい。
【0087】
一方、抽出された試料片の幅Wsample pieceと、試料片の高さHsample pieceの比、Wsample piece/Hsample pieceは、すくなくとも、1/20以上の範囲(Wsample piece/Hsample piece≧1/20)に選択する。例えば、電極活物質塗布膜を対象とする場合、抽出された試料片の幅Wsample pieceと、電極活物質塗布膜の膜厚Wparticle coating layerの比、Wsample piece/Wparticle coating layerは、すくなくとも、1/10以上の範囲(Wsample piece/Wparticle coating layer≧1/10)、通常、1/5以上の範囲(Wsample piece/Wparticle coating layer≧1/5)に選択することが望ましい。
【0088】
幅Wsample pieceの試料片を抽出する工程では、通常、電極金属箔とともに、電極活物質塗布膜を切り出す。試料片の切り出しに先立ち、切り出される試料片の上面、すなわち、電極活物質塗布膜の最上層を被覆する、金属被膜層、例えば、タングステン・デポジション膜1を形成している。電極活物質塗布膜の最上層を構成している、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeに基づき、形成する金属被膜層、例えば、タングステン・デポジション膜1の膜厚Wmetal layerを選択する。該金属被膜層は、電極活物質塗布膜の最上層を構成している、活物質粉末粒子の剥落を防止するとともに、電極活物質塗布膜の上面の開口している、空隙の開口部に蓋をする役割を有している。従って、形成する金属被膜層、例えば、タングステン・デポジション膜1の膜厚Wmetal layerは、電極活物質塗布膜の最上層を構成している、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeの1/20以上の範囲(Wmetal layer≧1/20・dparticle-size)、好ましくは、dparticle-sizeの1/10以上の範囲(Wmetal layer≧1/10・dparticle-size)に選択することが望ましい。
【0089】
通常、例えば、活物質粉末粒子の凝集体からなる電極活物質塗布膜の場合、その最上層を構成する活物質粉末粒子に起因して、表面に微細な凹凸δWparticle coating layerが存在する。この微細な凹凸δWparticle coating layerは、最上層を構成する活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeの1/4程度である。図1の(a)に例示するように、金属被膜層を形成し、電極活物質塗布膜の最上層を構成している、活物質粉末粒子に起因する、微細な凹凸を埋め込み、平坦化することが望ましい。表面の平坦化を行う場合、形成される金属被膜層、例えば、タングステン・デポジション膜1の平均的な膜厚Wmetal layer-Av.は、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeの1/5以上の範囲(Wmetal layer≧1/5・dparticle-size)に選択することが好ましい。但し、平坦化すべき、表面に微細な凹凸δWparticle coating layerの2倍を超える必要はない。すなわち、形成される金属被膜層、例えば、タングステン・デポジション膜1の平均的な膜厚Wmetal layer-Av.は、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeの1/2以下の範囲(Wmetal layer≦1/2・dparticle-size)に選択する。
【0090】
表面の保護と被覆に利用される、金属被膜層は、それ自体、曲げ変形、撓み変形を起こす可能性が低い金属材料で形成することが望ましい。また、微細な凹凸を埋め込み、平坦化するため、該金属被膜層は、CVD(chemical vapor phase deposition)法を適用して形成することが好ましい。特には、図1の(a)に例示する、タングステン・デポジション膜等、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して形成可能な金属デポジション膜を、該金属被膜層として使用することが好ましい。集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、タングステン・デポジション膜1の形成を行う際、例えば、WF6を原料ガスとして使用することができる。
【0091】
あるいは、表面の保護と被覆に利用される、金属被膜層に代えて、それ自体、曲げ変形、撓み変形を起こす可能性が低い、非晶質炭素膜、例えば、ダイヤモンド・ライク・カーボン膜を利用して、上面被膜層として利用することもできる。
【0092】
微細加工によって薄片化される領域は、上面から、深さDthinning area、長さLthinning areaの領域であり、この領域が、透過電子顕微鏡により観察する領域となる。例えば、電極活物質塗布膜を対象とする場合、該領域のサイズ、深さDthinning area、長さLthinning areaも、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeに基づき、選択される。例えば、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeが2μm≦dparticle-size≦5μmの範囲である場合、該深さDthinning area、長さLthinning areaは、3μm≦Dthinning area≦20μm、3μm≦Lthinning area≦20μmの範囲、好ましくは、4μm≦Dthinning area≦15μm、4μm≦Lthinning area≦15μmの範囲、より好ましくは、5μm≦Dthinning area≦10μm、5μm≦Lthinning area≦10μmの範囲に選択することが望ましい。微細加工時、上面から深さDthinning area、長さLthinning areaの領域に存在する、電極活物質塗布膜と、その上面に形成される、金属被膜層を、集束イオンビームを利用して、イオン・スパッターすることで、薄片化を行う。従って、金属被膜層の平均的な膜厚Wmetal layer-Av.を考慮すると、薄片化される電極活物質塗布膜の領域のサイズは、(Dthinning area−Wmetal layer-Av.)×Lthinning areaであり、微細加工端面に、活物質粉末粒子が平均、3個〜12個程度露呈することが望ましい。換言すると、深さDthinning area、長さLthinning areaと、活物質粉末粒子平均粒子サイズdparticle-sizeの比は、2≦Dthinning area/dparticle-size≦4、2≦Lthinning area/dparticle-size≦4の範囲に選択することが望ましい。
【0093】
両断面に対する微細加工を終えた時点では、薄片化済試料は、上面から深さDthinning area、長さLthinning areaの領域は、幅Wthin sampleとなり、それ以外の領域は、幅Wsample pieceとなっている。図1の(e)に例示する薄片化済試料では、その断面全体を被覆するように、それぞれ、第一の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)と第二の非晶質薄膜(軽元素非晶質膜5)が形成されている。一方、薄片化済試料の上面に形成されている金属被膜層、例えば、タングステン・デポジション膜1の上面は、第一の非晶質薄膜、第二の非晶質薄膜のいずれも存在しない状態となっている。
【0094】
第一の非晶質薄膜、あるいは、第二の非晶質薄膜が、該薄片化済試料の断面に加えて、薄片化済試料の上面に形成されている金属被膜層、例えば、タングステン・デポジション膜1の上面をも被覆するように、形成されている形態を採用することもできる。さらに、第一の非晶質薄膜、あるいは、第二の非晶質薄膜が、該薄片化済試料の断面に加えて、その底面となっている、集電体、例えば、電極金属箔2の表面をも被覆するように、形成されている形態を採用することもできる。
【0095】
第一の非晶質薄膜が、該薄片化済試料の上面、あるいは、薄片化済試料の底面をも被覆するように、形成されている際、第二の非晶質薄膜を、該薄片化済試料の上面、あるいは、薄片化済試料の底面をも被覆するように形成することで、該薄片化済試料の上面、あるいは、薄片化済試料の底面の部分が、第一の非晶質薄膜と第二の非晶質薄膜がともに被覆する形態を採用することもできる。
【0096】
以下に、具体例を示し、本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法を、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜の薄片化試料の作製に適用する一実施態様を説明する。以下に示す具体例は、本発明の最良の実施形態の一例であるが、本発明の技術範囲は、かかる実施形態に限定されるものではない。
【0097】
(第1の実施態様)
第1の実施態様は、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜の薄片化試料の作製に、本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法を適用する事例である。
【0098】
測定の対象である、リチウムイオン二次電池の電極は、集電体として、電極金属箔2を採用しており、その表面に活物質の微細粒子(活物質粉末粒子3)を塗布することで作製される電極活物質塗布膜が形成されている。活物質粉末粒子3は、結着材として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用して、相互に結着され、電極活物質塗布膜を構成している。また、電極活物質塗布膜の下面に位置する活物質粉末粒子3は、電極金属箔2の表面と電気的な接触をしている。電極金属箔2の表面と電気的な接触する活物質粉末粒子3も、結着材として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用して、電極金属箔2の表面に結着されている。
【0099】
該リチウムイオン二次電池の電極は、電極活物質塗布膜の上面に被覆層を設けない状態で使用されているが、試料片の抽出に先立ち、電極活物質塗布膜の上面を被覆する金属被覆層として、タングステン・デポジション膜1を形成している。該タングステン・デポジション膜1を形成することで、上面の平坦化がなされている。形成されるタングステン・デポジション膜1の平均的な膜厚Wmetal layer-Av.は、0.1μmに選択されている。
【0100】
該リチウムイオン二次電池の電極のうち、負極では、負極集電体と利用する電極金属箔2には、銅箔が利用されており、該電極金属箔2の膜厚Wmetal foilは、約30μmに選択されている。負極では、電極活物質塗布膜を構成する活物質粉末粒子3として、カーボンの粉末粒子を利用している。該カーボン粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeは、2μmに選択されている。電極活物質塗布膜の膜厚Wparticle coating layerは、約20μmに選択されている。電極活物質塗布膜の上面にタングステン・デポジション膜1が形成された状態で、全体の厚さは、(Wmetal layer+Wparticle coating layer+Wmetal foil)≒50μmとなっている。
【0101】
以下に、該リチウムイオン二次電池の負極から、本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法を適用して、透過電子顕微鏡観察に利用する、薄片化試料の作製プロセスを、図1を参照して説明する。薄片化試料の作製プロセスは、下記の工程a〜工程eを含んでいる。
【0102】
(工程a)試料片の抽出工程
タングステン・デポジション膜1により上面を被覆されている、該リチウムイオン二次電池の負極から、高さHsample piece=(Wmetal layer+Wparticle coating layer+Wmetal foil)=50μm、長さLthinning area=50μm、幅Wsample piece=10μmの試料片を抽出する。抽出された試料片は、図1の(a)に模式的に示す断面形状を有している。
【0103】
前記試料片の抽出は、一般的な集束イオンビームによる透過電子顕微鏡用断面試料作製方法で利用される、試料片の抽出手順に従って、実施している。
【0104】
(工程b)試料片の片側断面に対するイオン・スパッター微細加工工程
抽出された試料片の片側断面の一部、タングステン・デポジション膜1の上面から、深さDthinning area=10μm、長さLthinning area=10μmの領域を、集束イオンビームを利用するイオン・スパッターにより、微細加工を施す。この断面における、微細加工量ΔWsputtering-1は、ΔWsputtering-1=5μmとしている。該片側断面に対するイオン・スパッター微細加工を施した段階の試料片は、図1の(b)に模式的に示す微細加工端面形状を有している。
【0105】
このイオン・スパッター微細加工に利用する、集束イオンビームは、イオン種として、Ga+イオンを使用している。照射されるイオン種の加速エネルギーは、タングステン・デポジション膜部分のイオン・スパッター時は、30keVに、電極活物質塗布膜部分のイオン・スパッター時は、30keVに選択している。一方、微細加工に利用する集束イオンビーム照射スポット径dsputteringは、10nmに調整している。照射される集束イオンビームの電流量は、タングステン・デポジション膜部分のイオン・スパッター時は、10nA、電極活物質塗布膜部分のイオン・スパッター時は、10nAに設定されている。
【0106】
(工程c)イオン・スパッター微細加工を施した片側断面に対する第一の非晶質薄膜の形成工程
イオン・スパッター微細加工を施した、試料片の片側断面を被覆するように、第一の非晶質薄膜を形成する。
【0107】
前記片側断面を被覆する、第一の非晶質薄膜として、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、軽元素非晶質膜5を選択的に形成している。具体的には、イオン・スパッター微細加工を施した片側断面に、カーボン原料ガスとして、フェナントレン蒸気を吹き付け、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、カーボン非晶質膜を形成している。
【0108】
その際、集束イオンビームアシスト蒸着法で利用する、集束イオンビームは、イオン種として、Ga+イオンを使用している。照射されるイオン種の加速エネルギーは、30keVに選択している。一方、集束イオンビームアシスト蒸着法で利用する集束イオンビームの照射スポット径ddepositionは、3nmに調整している。照射される集束イオンビームの電流量は、10nAに設定されている。
【0109】
微細加工を施した端面には、負極活物質用カーボンの粉末粒子相互間に存在する空隙4の開口部が露呈している。集束イオンビームアシスト蒸着法を利用することで、カーボン粉末粒子の微細加工面を被覆すると同時に、空隙4の開口部を埋め込み、微細加工を施した端面全体を被覆する、連続膜の形成を行うことができる。結果的に、微細加工を施した、試料片の片側断面全体を、均質なカーボン非晶質膜で被覆した状態となる。微細加工を施した、試料片の片側断面全体を、均質なカーボン非晶質膜で被覆した段階の試料片は、図1の(c)に模式的に示す、軽元素非晶質膜により選択的に被覆された形状を有している。空隙4の開口部は埋め込まれているが、電極活物質塗布膜の内部に存在する空隙は、残されている。
【0110】
その際、カーボン粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeは、2μmであるので、前記片側断面を被覆する、第一の非晶質薄膜、すなわち、軽元素非晶質膜5として形成される、カーボン非晶質膜の膜厚Wdeposition film-1は、25nmに選択している。なお、空隙4の開口部を埋め込む部分では、端面から40nm程度の範囲まで、埋め込みがなされている。
【0111】
(工程d)試料片の他の片側断面に対するイオン・スパッター微細加工工程
工程bにおいて、イオン・スパッター微細加工を施した、深さDthinning area=10μm、長さLthinning area=10μmの領域に対して、他の片側断面の相対する領域に微細加工を施す。他の片側断面における、微細加工量ΔWsputtering-2は、イオン・スパッター微細加工後、薄片化された領域の幅Wthin sampleが、目標範囲、100nm〜150nmの範囲となるように、ΔWsputtering-2=5μm−Wthin sampleに設定されている。該他の片側断面に対するイオン・スパッター微細加工を施した段階の試料片は、図1の(d)に模式的に示す微細加工端面形状を有している。
【0112】
第1の実施態様では、イオン・スパッター微細加工後、薄片化された領域の幅Wthin sampleが、150nmとなるように、他の片側断面における、微細加工量ΔWsputtering-2を設定している。
【0113】
その際、イオン・スパッター微細加工に利用する、集束イオンビームは、イオン種として、Ga+イオンを使用している。照射されるイオン種の加速エネルギーは、タングステン・デポジション膜部分のイオン・スパッター時は、30keVに、電極活物質塗布膜部分のイオン・スパッター時は、30keVに選択している。一方、微細加工に利用する集束イオンビームの照射スポット径dsputteringは、10nmに調整している。照射される集束イオンビームの電流量は、タングステン・デポジション膜部分のイオン・スパッター時は、10nA、電極活物質塗布膜部分のイオン・スパッター時は、10nAに設定されている。
【0114】
(工程e)イオン・スパッター微細加工を施した他の片側断面に対する第二の非晶質薄膜の形成工程
イオン・スパッター微細加工を施した、試料片の他の片側断面を被覆するように、第二の非晶質薄膜を形成する。
【0115】
前記他の片側断面を被覆する、第二の非晶質薄膜として、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、軽元素非晶質膜5を選択的に形成している。具体的には、イオン・スパッター微細加工を施した他の片側断面に、カーボン原料ガスとして、フェナントレン蒸気を吹き付け、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、カーボン非晶質膜を形成している。
【0116】
その際、集束イオンビームアシスト蒸着法で利用する、集束イオンビームは、イオン種として、Ga+イオンを使用している。照射されるイオン種の加速エネルギーは、30keVに選択している。一方、集束イオンビームアシスト蒸着法で利用する集束イオンビームの照射スポット径ddepositionは、3nmに調整している。照射される集束イオンビームの電流量は、10nAに設定されている。
【0117】
微細加工を施した端面には、負極活物質用カーボンの粉末粒子相互間に存在する空隙4の開口部が露呈している。集束イオンビームアシスト蒸着法を利用することで、カーボン粉末粒子の微細加工面を被覆すると同時に、空隙4の開口部を埋め込み、微細加工を施した端面全体を被覆する、連続膜の形成を行うことができる。結果的に、微細加工を施した、試料片の片側断面全体を、均質なカーボン非晶質膜で被覆した状態となる。微細加工を施した、試料片の他の片側断面全体を、均質なカーボン非晶質膜で被覆した段階の試料片は、図1の(e)に模式的に示す、軽元素非晶質膜により選択的に被覆された形状を有している。空隙4の開口部は埋め込まれているが、電極活物質塗布膜の内部に存在する空隙は、残されている。
【0118】
その際、カーボン粉末粒子の平均粒子サイズdparticle-sizeは、2μmであるので、前記他の片側断面を被覆する、第二の非晶質薄膜、すなわち、軽元素非晶質膜5として形成される、カーボン非晶質膜の膜厚Wdeposition film-2は、25nmに選択している。なお、空隙4の開口部を埋め込む部分では、端面から40nm程度の範囲まで、埋め込みがなされている。
【0119】
以上の工程a〜工程eにより、タングステン・デポジション膜1の上面から、深さDthinning area=10μm、長さLthinning area=10μmの領域が、幅Wthin sample=150nmまで薄片化されている、透過電子顕微鏡用断面試料が作製される。幅Wthin sample=150nmまで薄片化されている領域は、その両微細加工端面は、膜厚Wdeposition film-1=25nmのカーボン非晶質膜と、膜厚Wdeposition film-2=25nmのカーボン非晶質膜でそれぞれ被覆されている。最終的に、透過電子顕微鏡用断面試料の観察を行う領域は、全体の幅は、(Wdeposition film-1+Wthin sample+Wdeposition film-2)=200nmとなる。
【0120】
該カーボン非晶質膜は、微細加工端面に露呈する空隙4の開口部を埋め込んでおり、また、カーボン粉末粒子の加工端面を被覆しており、微細加工端面に露呈しているカーボン粉末粒子の剥落を防止している。結果的に、上面にタングステン・デポジション膜1を設け、さらに、両微細加工端面全体を、それぞれカーボン非晶質膜によって被覆する形状とすることで、薄片化された領域の強度が格段に向上している。
【0121】
上面にタングステン・デポジション膜1を設け、さらに、両微細加工端面全体を、それぞれカーボン非晶質膜によって被覆する形状とすることで、薄片化された領域は、直接、大気と接しない状態となっている。
【0122】
従って、作製された透過電子顕微鏡用断面試料を、集束イオンビーム装置から取り出し、透過電子顕微鏡へと搬送する過程で、薄片化された領域が大気暴露され、大気中に含まれる、水分(水分子)、窒素分子、酸素分子が関与する反応を受けることを回避できる。
【0123】
(第2の実施態様)
第2の実施態様も、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜の薄片化試料の作製に、本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法を適用する事例である。
【0124】
第1の実施態様では、(工程c)第一の非晶質薄膜の形成工程、ならびに(工程e)第二の非晶質薄膜の形成工程において、カーボン原料ガスとして、フェナントレン蒸気を吹き付け、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、カーボン非晶質膜を形成している。それに対して、第2の実施態様では、(工程c)第一の非晶質薄膜の形成工程、ならびに(工程e)第二の非晶質薄膜の形成工程では、集束イオンビームに代えて、電子ビームを照射して、カーボン非晶質膜を形成する手法を採用している。
【0125】
電子ビームを照射して、カーボン非晶質膜を形成する手法は、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、カーボン非晶質膜を形成する手法と同様に、カーボン非晶質膜を二次元的に形成でき、該カーボン非晶質膜により、微細加工端面に露呈する空隙4の開口部を埋め込むことが可能である(松井・藤田ら、J. Vac. Sci. Technol. B 16(6), 3181-3184 (2000)を参照)。
【0126】
なお、電子ビームを照射して、カーボン非晶質膜を形成する手法は、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、カーボン非晶質膜を形成する手法と比較すると、カーボン非晶質膜の成膜速度は、1/10〜1/100と遅くなる。
【0127】
一方、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用して、カーボン非晶質膜を形成する手法では、照射されるイオン種の元素が、照射した表面に吸着すると、堆積されるカーボン非晶質膜内に取り込まれる場合がある。また、照射されるイオン種の加速エネルギーによっては、照射した下地層中にイオン注入された状態となることもある。さらに、集束イオンビームの照射によって、照射した下地層の表面は非晶質化する。電子ビームを照射して、カーボン非晶質膜を形成する手法を利用する場合、照射されるイオン種の元素が、堆積されるカーボン非晶質膜内に取り込まれるという現象は本質的に回避される。また、照射されるイオン種が、照射した下地層中にイオン注入された状態となる現象は本質的に回避される。さらに、集束イオンビームの照射によって、照射した下地層の表面は非晶質化するという現象も本質的に回避される。
【0128】
(工程c)と(工程e)では、集束イオンビームを利用して、イオン・スパッターした微細加工端面上にカーボン非晶質膜を形成するため、該微細加工端面では、集束イオンビームの照射によって、照射した下地層の表面は既に非晶質化しており、さらに、照射した下地層中にイオン注入された状態となる確率が増している。また、照射した下地層の表面は既に非晶質化しているが、集束イオンビームの照射を加えると、さらに、非晶質化が進行する。
【0129】
電子ビームを照射して、カーボン非晶質膜を形成する手法を採用することで、前記の現象を回避することが可能となるという利点がある。
【0130】
市販されている、集束イオンビームを利用する微細加工装置は、通常、微細加工される領域をその場観察するため、走査電子顕微鏡の機構を具える、集束イオンビーム−走査電子顕微鏡複合装置となっている。その二次元的な走査が可能な電子ビーム源を利用することで、電子ビームを照射して、カーボン非晶質膜を形成することが可能である。
【0131】
(第3の実施態様)
第3の実施態様も、リチウムイオン二次電池の電極に利用される、活物質の微細粒子を塗布することで作製される電極活物質塗布膜の薄片化試料の作製に、本発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法を適用する事例である。
【0132】
特に、電極活物質塗布膜を構成する、活物質粉末粒子3が、炭素材料の粉末粒子である際、第一の非晶質薄膜、第二の非晶質薄膜として、カーボン非晶質膜を採用すると、炭素材料の粉末粒子と、微細加工端面に露呈する空隙4の開口部を埋め込んでいるカーボン非晶質膜の間で、透過電子顕微鏡像コントラストが判別し難いという事象が発現する場合がある。
【0133】
第3の実施態様では、前記の事象を回避するため、第一の非晶質薄膜、第二の非晶質薄膜として、カーボン非晶質膜に代えて、炭素以外の軽元素からなる、軽元素非晶質膜を採用している。例えば、炭素以外の軽元素からなる、軽元素非晶質膜として、酸化シリコン(SiOx)の非晶質薄膜を利用することで、炭素材料の粉末粒子と、その周囲の微細加工端面に露呈する空隙4の開口部を埋め込んでいる、軽元素非晶質膜5の間で、透過電子顕微鏡像コントラストを向上することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、微細粒子を凝集することで形成される膜の断面を、透過電子顕微鏡観察する際に利用する、薄膜化試料の作製に利用できる。本発明の方法は、例えば、集電体表面に、微細粒子形状の電極活物質の塗布膜を形成する構造を有する、リチウムイオン二次電池用電極、特に、電極活物質の塗布膜断面を透過電子顕微鏡観察する際、その試料作製に好適に利用できる。また、微細加工後、大気との接触を避けることが望ましい、種々の微細粒子の凝集体からなる膜について、その断面を透過電子顕微鏡観察する際、その試料作製に、本発明の方法は好適に適用できる。
【符号の説明】
【0135】
1 タングステン・デポジション膜
2 電極金属箔
3 活物質粉末粒子
4 空隙
5 軽元素非晶質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細粒子の凝集体からなる膜を透過電子顕微鏡により観察するため、薄片化した試料を作製する方法であって、
微細粒子の凝集体からなる膜から、試料片を抽出する工程;
該試料片断面の一部に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、試料片の幅Wsample pieceを、所定の幅Wthin sampleまで薄片化する工程を含んでおり、
前記薄片化する工程は、下記の4つのステップを含んでおり、
試料片の片側断面の一部に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、微細加工端面を形成する、第一の微細加工ステップ;
試料片の片側断面に形成される、前記微細加工端面を被覆する、膜厚Wdeposition film-1の均質な材料からなる薄膜を形成する、第一の薄膜形成ステップ;
試料片の他の片側断面の一部に集束イオンビームを利用する微細加工を施し、微細加工端面を形成する、第二の微細加工ステップ;
試料片の他の片側断面に形成される、前記微細加工端面を被覆する、膜厚Wdeposition film-2の均質な材料からなる薄膜を形成する、第二の薄膜形成ステップ;
前記幅Wthin sampleまで薄片化された部分の二つの微細加工端面は、それぞれ、膜厚Wdeposition film-1の均質な材料からなる薄膜と膜厚Wdeposition film-2の均質な材料からなる薄膜により被覆が施されており、
該薄片化した試料の薄片化された部分の全体幅、(Wthin sample+Wdeposition film-1+Wdeposition film-2)は、200nmを超えない範囲に選択されている
ことを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項2】
前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
均質な材料からなる薄膜の形成に、集束イオンビームアシスト蒸着法を利用する
ことを特徴とする、請求項1に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項3】
前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
均質な材料からなる薄膜の形成に、電子ビームを利用する、電子ビームアシスト蒸着法を利用する
ことを特徴とする、請求項1に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項4】
前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、非晶質材料からなる薄膜である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項5】
前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、軽元素で構成される非晶質材料からなる薄膜である
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項6】
前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、非晶質炭素材料からなる薄膜である
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項7】
前記第一の薄膜形成ステップと第二の薄膜形成ステップにおいて、
形成される均質な材料からなる薄膜は、酸化シリコン(SiOx)からなる薄膜である
ことを特徴とする、請求項1に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項8】
膜厚Wdeposition film-1は、10nm〜30nmの範囲に選択され、
膜厚Wdeposition film-2は、10nm〜30nmの範囲に選択されている
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項9】
幅Wthin sampleは、150nm以下に選択されている
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項10】
微細粒子の凝集体からなる膜から、試料片を抽出する工程に先立ち、
微細粒子の凝集体からなる膜の上面を被覆する、金属被膜層を形成し、
抽出される試料片は、微細粒子の凝集体からなる膜の上面を被覆する、金属被膜層を具えている
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−185014(P2012−185014A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47788(P2011−47788)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】