説明

通気量可変布帛、吸音材、車両用部品

【課題】通電により通気度が可逆的に変化する通気量可変布帛、吸音材、車両用部品を提供する。
【解決手段】 導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有する複合繊維から成る繊維体を少なくとも一部含み、かつ、前記繊維体に取り付けられた電極を含むことを特徴とする通電により通気度の変化の可能な布帛、吸音材および車両用部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電により通気度の変化が可能な布帛に関する。また、本発明は、通電により通気度が可逆的に変化する布帛、かかる布帛を用いた吸音材、車両用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多くの機能性素材の開発がなされ、機能性商品にあっては、更に高度な機能、新たな機能を発現させるために、繊維素材、布帛構造、機能後加工などを組み合わせた開発も積極的に進められている。
【0003】
近年、新しい機能性繊維としては、複合化、高次化が進化し、衣料業界においては着用環境の変化に応じ機能性の変化する、いわゆる動的な機能性を備えた繊維の提案が多くなされている。光エネルギーの吸収量に応じ保温性の向上を追及した蓄熱性素材などはその一例である。
【0004】
この特化された機能の一つとして、衣服内気候の調整機能、いわゆる呼吸する衣服が要望されている。衣服内の温度や湿気、水分などの動的な変化に応じ、衣服の通気性が可逆的に変化し、衣服内の温湿度をコントロールし、常に快適な状態に調整するための可逆性通気布帛が提案されている(特許文献1)。
【0005】
この布帛は、湿気や水分に応じ、捲縮率の変化する素材を用いて通気度が可逆的に変化する特性を有する。
【0006】
これらの衣料用素材では、外気温、湿度などの外的環境と、体温、衣服内の湿度などの内的環境の差により、適宜通気度が適合するよう設計されている。しかし、別の用途に適用する際には、必ずしも温度、湿度に連動した変化を求めない場合がある。
【0007】
例えば、吸音材や遮音材に用いる不織布では、通気度に基づいて、その吸遮音についての性能を変化させることができる。ところが、騒音環境に応じ、必要な吸音性能を得るためには、制御可能な因子での調整機能を有する必要がある。
【0008】
一方、制御可能な機械式の駆動源としては、モーター、油圧・空気圧式アクチュエータなどが挙げられる。しかし、これらは概ね金属製のものが多く、質量、スペースを大きくとり、また、必要な動力源としても多大なエネルギーを必要とするものが多い。
【0009】
また、布帛、不織布や衣類などに用いることを鑑みれば、高分子などからできていることが望ましい。その観点では、刺激に応答するピロール系高分子を用いた電気的な変形方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【0010】
さらに、軽量・省スペースを目的として得られる有機材料を用いたアクチュエータの例では、特許文献3などに記載の導電性高分子は、電気化学的な酸化還元反応を利用して、有機材料の伸縮を前記課題に適用しようとするものである。しかしながら、得られた形状の具体例は、フィルム状で伸縮方向も長手方向の一例しか示されていない。
【0011】
その他、ゲルと溶媒との組合せによるアクチュエータの例では、特許文献4などに、そもそも溶媒中で駆動するゲルアクチュエータを空気中で駆動させるため、溶媒槽ごとシステムとして抱えることになり、電解液の漏れや、電気分解による性能の低下が起こる可能性がある。
【特許文献1】特開2005−23431
【特許文献2】特開平11−159443号公報
【特許文献3】特開2004−162035
【特許文献4】特開2004−188523
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の問題点に鑑みて、これらの材料を繊維形状として得る工夫をすることにより、織物、編物、不織布などの布帛の形態で通気度の制御が可能になる通気度の可変布帛を得ることを課題とする。
【0013】
また、本発明は、従来の吸音材、遮音材などに用いる織物、編物、不織布などの布帛における前記課題に着目してなされたものであって、従来の機械式の可変機構に比較し、軽量化、省スペース化が可能であるとともに、入力エネルギーを機械的な出力に変換して通気度を変化させる吸音材を、自動車などの内装材部品に用い、新たな機能を付加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有する複合繊維からなる繊維体を少なくとも一部含み、かつ、前記繊維体に取り付けられた電極を含むことを特徴とする通電により通気度の変化の可能な布帛、に関する。
【0015】
さらに、本発明は、導電性高分子材料と、前記材料と異なる材料とを含み、いずれか一方の材料が他方の材料の長手方向に貫通した構造を有する複合繊維を少なくとも一部含み、かつ、前記複合繊維に取り付けられた電極を含むことを特徴とする通電により通気度の変化の可能な布帛、に関する。
【0016】
本発明は、また、導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有する複合繊維および導電性高分子材料と、前記材料と異なる材料とを含み、いずれか一方の材料が他方の材料の長手方向に貫通した構造を有する複合繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の複合繊維、および前記複合繊維の軟化点より少なくとも20℃は低い高分子を含み且つその軟化点成分の軟化点70℃以上であるバインダー繊維を混合し、カードレイヤー方式またはエアレイヤー方式によって捕集堆積してウェブを形成し、次いで前記ウェブを圧縮し、バインダー繊維の軟化点以上でその他の繊維が軟化しない温度以下で加熱し、さらに成形固化してなることを特徴とする通電により通気度の変化の可能な布帛の製造方法、に関する。
【0017】
本発明は、さらに、前記布帛を用いた吸音材、に関する。
【0018】
本発明は、そのうえ、前記布帛および/または吸音材を用いた車両用部品、に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の通電により通気度の変化の可能な布帛によれば、新たな駆動方向を有する材料および吸音材を提供することができる。
【0020】
本発明の布帛の製造方法によれば、新たな駆動方向を有する布帛および吸音材を提供することができる。
【0021】
本発明によれば、前記通電により通気度の変化の可能な布帛を用いているので、吸音率の変化の大きな吸音材を提供することができる。
【0022】
前記通電により通気度の変化の可能な布帛および/または吸音材を用いた車両用部品によれば、従来の繊維材料と置き換えることにより、繊維製品に新たな機能を付与することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(通気量可変布帛)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明の通気量可変布帛は、導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有する複合繊維からなる繊維体を少なくとも一部含み、かつ、前記複合繊維体に取り付けられた電極を含み、通電により通気度の変化の可能な通気量可変布帛である。ここで、繊維体としては、一つの複合繊維からなる単繊維体、または導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有し、必要により導電性高分子を含まない材料からなる倦縮糸とを含む複合繊維の複数からなる繊維束を例示できる。
【0025】
また、本発明の通気量可変布帛は、導電性高分子材料と、前記材料と異なる材料とを含み、いずれか一方の材料が他方の材料の長手方向に貫通した構造を有する複合繊維を少なくとも一部含み、かつ、前記複合繊維に取り付けられた電極を含むことを特徴とする。
【0026】
さらに、本発明の通気量可変布帛は、導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有する複合繊維および導電性高分子材料と、前記材料と異なる材料とを含み、いずれか一方の材料が他方の材料の長手方向に貫通した構造を有する複合繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の複合繊維、および前記複合繊維の軟化点より少なくとも20℃は低い高分子を含み且つその軟化点成分の軟化点70℃以上であるバインダー繊維を混合し、カードレイヤー方式またはエアレイヤー方式によって捕集堆積してウェブを形成し、次いで前記ウェブを圧縮し、バインダー繊維の軟化点以上でその他の繊維が軟化しない温度以下で加熱し、さらに成形固化してなることを特徴とする。
【0027】
さらに、その変化は、可逆的であることが好ましい。
【0028】
本発明に用いられる複合繊維、通気量可変布帛について順次説明する。
【0029】
<積層構造の複合繊維>
本発明における複合繊維は、導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部が前記材料と異なる材料を積層した構造を有し、かつ、その制御手段として電流を流す電流印加手段、すなわち、電極、必要により、導線、電源を有することで、通電によりその複合繊維自体が、倦縮−伸長という動きをすることができ、布帛の通気量を変化させることが可能になる。ここでいう複合繊維は、導電性高分子と、その表面層の全部もしくは一部が前記と異なる材料と積層された構造を有することを特徴としている。
【0030】
一般的な繊維材料においては、図1に示すような、均一な材料からできているものや、断面で見て芯鞘構造のようなもの(図2)、サイドバイサイド構造のようなもの(図3)、海島(多芯)構造のようなもの(図4)、断面が円形ではない変形断面形状(図5、6)、中空構造(図7)などがある。これらは、繊維の機能化の一つの手段として、繊維自体が自然によじれた形状になり、風合いを変える、または、繊維の表面積を大きくして軽量化・断熱性を狙うなどに用いられる。
【0031】
本発明の意図するところは、これらの繊維の静的特性を変化させるための工夫ではなく、アクチュエーションなどの動的な機能を発現させることにより、布帛、または吸音材とした際の組合せによって、前記機能を実現することにある。従って、繊維を所望方向に変形させるために、他の材料を表面に積層することで、変形方向を制御することができる。これは積層により、動きが阻害される面が発生し、それにより、繊維形状としてマクロ的に見た場合には、所定方向に曲がり、あるいは倦縮することになる。
【0032】
本発明において繊維とは、一般に繊維製品に用いられる程度の太さのものであり、概ね1〜500μm程度の直径を持つものをいう。太さが数mmに及ぶものでは、このような機能を持つものも見受けられるが、これらの原理や製品を、編物、織物、不織布などの布帛に用いることはできない。本発明における複合繊維では、従来は難しかった編物、織物、不織布などの布帛中などでもアクチュエーション機能を付与できる。
【0033】
本発明で用いられる導電性高分子は、導電性を示す高分子であれば特に制限されることはないが、例えば、アセチレン系、複素5員環系(モンマーとして、ピロールの他、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−ドデシルピロールなどの3−アルキルピロール;3,4−ジメチルピロール、3−メチル−4−ドデシルピロールなどの3,4−ジアルキルピロール;N−メチルピロール、N−ドデシルピロールなどのN−アルキルピロール;N−メチル−3−メチルピロール、N−エチル−3−ドデシルピロールなどのN−アルキル−3−アルキルピロール;3−カルボキシピロールなどを重合して得られたピロール系高分子、チオフェン系高分子、イソチアナフテン系高分子など)、フェニレン系、アニリン系の各導電性高分子やこれらの共重合体などが挙げられる(図8:アセチレン系導電性高分子、図9:ピロール系導電性高分子、図10:チオフェン系導電性高分子、図11:フェニレン系導電性高分子、図12:アニリン系導電性高分子)。なかでも、繊維として得やすい材料としては、チオフェン系導電性高分子のポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にポリ4−スチレンサルフォネート(PSS)をドープしたPEDOT/PSS(Bayer社、Baytron P(登録))や、フェニレン系のポリパラフェニレンビニレン(PPV)などが挙げられる。
【0034】
さらに導電性高分子において、その導電性にドーパントが劇的な効果をもたらす。ここで用いられるドーパントとしては、塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、六フッ化ヒ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、六フッ化ケイ酸イオン、燐酸イオン、フェニル燐酸イオン、六フッ化燐酸イオンなどの燐酸系イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トシレートイオン、エチルベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンなどのアルキルベンゼンスルホン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、エチルスルホン酸イオンなどのアルキルスルホン酸イオン、ポリアクリル酸イオン、ポリビニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)イオンなどの高分子イオンのうち、少なくとも一種のイオンが使用される。ドーパントの添加量は、導電性に効果を与える量であれば特に制限はされないが、通常、導電性高分子100質量部に対し、3〜50質量部、好ましくは10〜30質量部の範囲である。
【0035】
複合繊維のタイプとしては、たとえば積層構造のものと、貫通構造のものが挙げられる。積層構造とは、導電性高分子材料の表面の一部が繊維を構成する材料と異なる材料で積層された構造であることをいう。ここで、「表面」とは、繊維の長手方向に対し、垂直に切断した断面における外周をいう。また、「表面の一部」とは、該外周の一部分であって、その一部分が、繊維の一端から他端まで連続的に、または間欠的に続くものをいう。例えば、導電性高分子を芯とした繊維体の表面に、他の材料からなる積層体を形成するもののうち、前記導電性高分子などの該外周に沿う表面のすべてを均一に覆うことがない状態をいう。
【0036】
導電性高分子材料と異なる材料としては、導電性高分子材料と異なれば特に制限はされないが、例えば、樹脂を形成するための樹脂材料、さらには熱可塑性樹脂であることが好ましい。これは、導電成分として主に高分子材料を用いることもあり、より似た材質のものと組み合わせることで、導電性高分子の動きをできるだけ阻害することなく、繊維形状とすることが可能になるからである。さらに、これを熱可塑性樹脂とすることで、その後、製品化して用いる際に、容易にその所望の形状に成形することができるからである。具体例として、ナイロン6,ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、共重合成分を含むポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、アクリルエマルジョン、ポリエステルエマルジョンなどを単独あるいは混合して用いることもできる。
【0037】
積層構造において、繊維の長手方向に垂直な断面形状は、例えば、図13に示されるように、円形、円形以外でも、異形断面形状としては、扁平断面、中空断面、三角形やY型、複数本の繊維が張り付いた形状のだるま型、ぶどう型などの繊維形態や、繊維表面に微細な凹凸や筋を有する繊維形態などを採用することができる。かかる断面を半円、扇形、半円上、半円下、三日月、丸扇、玉子などの形状にすることにより、導電成分である導電性高分子などに通電した際、これらの高分子が縮むことにより、繊維の表面に積層された材料と長さの差が生じることで、この繊維をマクロ的に見た場合に、所定方向に曲がる挙動(アクチュエーション)、すなわち平面上で曲がる挙動、さらに大きな動きになると、倦縮の挙動を示すこととなる。
【0038】
図13に示される断面形状では、ハッチングの種類により材質が異なることを示す。面積の大小を問わず、2種類の材質で組み合わせれば、本機能を発現させることができる。本明細書において、断面を示す図面をおいては、ハッチングは同じことを意味する。
【0039】
かかる断面において、導電性の駆動層を形成する面積と駆動力を拘束する拘束層を形成する面積との比率は、所定方向に曲がる挙動を示せば特に制限されることはないが、通常、1:10〜10:1、好ましくは1:3〜3:1の範囲である。この範囲とすることにより、本発明の複合繊維は所定方向に曲がる挙動を示すことができる。ここで、拘束層は、導電性高分子材料とは異なる材料から構成される層を意味する。
【0040】
さらに、積層構造をサイドバイサイド型とすることが好ましい。ここで、サイドバイサイドとは、断面形状において、導電性の駆動層を形成する面積と駆動力を拘束する拘束層を形成する面積との比率がおよそ1:1のものをいう。しかし、機能を得る上では、前記と同様に、1:10〜10:1、好ましくは1:3〜3:1の範囲でよい。この比率とすることで、アクチュエーション機能が得られることはもちろん、本機能を持たせた複合繊維の繊維自体の強度も向上させることができる。
【0041】
また、繊維の長手方向の伸縮量を所望の量に設定する工夫として、繊維の長手方向に、樹脂材料を分断して設置してもよい。これにより、長手方向の倦縮量の微調整も容易になる。
【0042】
例えば、拘束層が一端から他端まで連続したと仮定し、一端から他端までを100(体積)とした場合に、拘束層の割合が、通常、10(体積)以上、好ましくは30体積以上の範囲にすることが望ましい。
【0043】
以下、図面に基づいて積層型の複合繊維の製造方法について説明する。
【0044】
積層構造型の複合繊維は、例えば、湿式紡糸や電界重合などの方法で得られた芯部となる導電性高分子の繊維に、連続工程で、積層成分として芯部の材料とは異なる樹脂材料などの材料を積層することにより製造できる。
【0045】
例えば、チオフェン系材料では、湿式紡糸により製造できる。図14は、本発明に用いられる湿式紡糸装置の模式図である。図14に示される湿式紡糸装置10おいて、例えば、PEDOT/PSSの水分散液(Bayer社Baytron P(登録))を湿式紡糸用口金11から押し出し、押し出された複合繊維の前駆体12をアセトンなどの溶媒が入った湿式紡糸溶媒槽13を通過させる。該前駆体12は、該溶媒槽13を通過させた後、繊維送り器14を経て乾燥し、繊維巻き取り器15で巻き取って導電性高分子を含む複合繊維19を得る。
【0046】
他方、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレンなどのフェニレン系材料の場合には、ベンゼン環上のπ結合とそれに繋がる直鎖上のπ結合を利用して導電するタイプで、これらの導電性高分子は、エレクトロスピニング法により、繊維化することが可能である。
【0047】
図15は、本発明に係わるエレクトロスピニング装置の模式図である。図15に示されるエレクトロスピニング装置20において、シリンダー21のシリンダー針22の針先と、シリンダー21の下方に設置された絶縁材(土台)24上に載置された電極23との間に、電線26を介して電圧の印加装置25が設けられている。例えば、ポリパラフェニレンなどのフェニレン系材料とメタノールなどのアルコールを混合して、紡糸用原液を調製する。電圧を印加しながら、調製した原液をシリンダー21のシリンダー針22の針先から電極23に向けて押し出す。この方法により、複合繊維の前駆体繊維27が電極23上に析出する。得られた前駆体繊維を真空乾燥などの公知の方法で乾燥して、繊維を得る。
【0048】
このような公知の繊維製造工程によって、積層構造型の複合繊維に用いられる駆動源となる繊維を製造することができる。
【0049】
得られた繊維に、塗布またはコーティングなどの公知の方法で、繊維の表面に繊維の材料とは別の樹脂材料などの材料を連続的に積層することができる。
【0050】
繊維の塗布またはコーティング法について、図面を用いて説明する。
【0051】
図16は、本発明に係わる湿式紡糸装置に塗布工程を設けた装置の模式図である。図16に示される湿式紡糸装置30おいて、紡糸原液を湿式紡糸用口金31から押し出し、押し出された複合繊維の前駆体32を、アセトンなどの溶媒が入った湿式紡糸溶媒槽33を通過させる。該前駆体32は、該溶媒槽33を通過した後、繊維送り器34を経て、塗布乾燥装置36で樹脂材料などを塗布、乾燥させた後、複合繊維39を得て、繊維巻き取り器35で巻き取られる。
【0052】
図17は、本発明に係わる湿式紡糸装置にコーティング工程を設けた装置の模式図である。図17に示される湿式紡糸装置40おいて、紡糸原液を湿式紡糸用口金41から押し出し、複合繊維の前駆体42を、アセトンなどの溶媒が入った湿式紡糸溶媒槽43を通過させる。該前駆体42は、該溶媒槽43を通過した後、繊維送り器44a、44bを経て、ポリエステルエマルジョンなどが含まれるコーティング槽47に送られる。該エマルジョンを浸漬した繊維を繊維送り器44cで乾燥装置46に送って乾燥させた後、複合繊維49を得て、繊維巻き取り器45で巻き取る。
【0053】
乾燥工程の時間・温度を調整することで表面に残る樹脂量を調節することが可能であるため、さまざまな乾燥条件により、異なる断面形状のものを得ることができる。
【0054】
また、複合繊維の長手方向に、樹脂材料を分断して設置する方法としては、繊維の表面に間欠的に樹脂材料を含む揮発性溶液を塗布することにより得られる。
【0055】
<貫通構造の複合繊維>
他方、積層構造の他に、繊維の長手方向に垂直な断面または内径断面の一部が導電性高分子と異なる材料を貫通させた構造とすることでも、複合繊維を得ることが可能である。なお、通常、貫通するとは、一端から他端まで達することをいうが、本発明では、貫通すべき材料が分断されていても、分断された箇所にかかる材料を加えた場合に、貫通構造とみなせる場合も含まれる。
【0056】
前記断面または内径断面の一部を構成する材料には、樹脂材料を用いること、さらに熱可塑性樹脂であることが好ましい。ここで、内径断面の一部とは、図18〜20に示すように、繊維断面を見た際に、駆動部分となる材料、もしくは駆動しない材料のどちらかが断面の外周のすべてを占める形状で、かつ、その外周を占めていない方の成分が断面の芯部に含まれる状態を示す。この形状とすることで、芯部に導電成分を用いた場合には、繊維自体の表面の耐久性は、その他の材料に依存することになり、樹脂材料を用いた場合には概ね向上する。また、特に導電成分を鞘部に用いた場合には、表面に導電部分が現れることになり、導通して使用する際に、接点の接触を得やすい状態で得ることができる。
【0057】
なお、導電性高分子、樹脂材料および熱可塑性樹脂については、積層構造に用いられる材料と同じ材料を用いることができる。
【0058】
貫通構造において、繊維の長手方向に垂直な断面形状は、例えば、図18に示されるように、円形、円形以外でも、異形断面形状としては、扁平断面、中空断面、三角形やY型などの繊維形態や、繊維表面に微細な凹凸や筋を有する繊維形態などを採用することができる。かかる断面を半円、扇形、半円上、半円下、三日月、丸扇、玉子などの形状にすることにより、導電成分である導電性高分子などに通電した際、これらの高分子が縮むことにより、繊維の表面に積層された材料との長さの差が生じることで、この繊維をマクロ的に見た際に、ある方向に曲がる挙動(アクチュエーション)、すなわち平面上で曲がる挙動、さらに大きな動きになると、倦縮の挙動を示すことになる。
【0059】
図18に示される断面形状では、ハッチングの種類により材質が異なることを示す。面積の大小を問わず、2種類の材質で組み合わされていれば、本機能を発現させることができる。
【0060】
なお、かかる断面において、導電性の駆動層を形成する面積と駆動力を拘束する拘束層を形成する面積との比率は、積層構造の場合と同じである。
【0061】
なかでも、かかる断面を芯鞘型とすることが好ましい。ここで、芯鞘型とは、断面において芯部と鞘部との面積比が1:1のものをいう。機能を得る上では、前記と同様に、1:10〜10:1、好ましくは1:3〜3:1の範囲でよい。このような構成とすることにより、繊維の強度・駆動のバランスを考えた際に、機能を最もよく発現させることができる。芯部は1つに限らず、多芯(海島構造)でも断面に対し、中心からの距離を不均一に配置したり、偏芯させた配置にしたりすることで同様の効果が得られる。
【0062】
さらに、芯鞘型のなかでも、特に偏心型(図19〜20)であることがより好ましい。芯部と鞘部が円形の場合には、特に芯部の中心を繊維の中心から外し、偏心させておくことにより、曲がる挙動を顕著に現すことができる。
【0063】
また、複合繊維の倦縮量を所望の量に設定する工夫として、該繊維の長手方向において、樹脂材料を分断して設置してもよい(図21:繊維長手方向の側断面図)。図21において、(a)は電源を印加する前の状態を示し、(b)は曲がった状態を示す。これにより、倦縮量の微調整も容易になる。
【0064】
次に、芯鞘構造の複合繊維の製造方法について説明する。
【0065】
該複合繊維は、繊維製造業で公知の芯鞘型の湿式紡糸器を用いて製造する。口金の芯部からはN,N−ジメチルアセトアミドなどを溶媒とするアクリロニトリル溶液、鞘部からはポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンにポリ4−スチレンサルフォネートをドープした材料などを、同時にN,N−ジメチルアセトアミドなどの溶媒中に吐出させ、溶媒を除去して芯鞘繊維を得ることができる。
【0066】
また、別の手法としては、湿式紡糸の場合に芯鞘型用の吐出口金を用いることによって、一回の液相からの引上げで芯鞘型の複合繊維を作製することも可能である。
【0067】
また、複合繊維の長手方向に、樹脂材料を分断して設置する方法としては、芯鞘型湿式紡糸器を用いる場合に、鞘部において、原液の吐出−停止を繰り返すことにより得られる。
【0068】
<繊維束>
本発明で用いられる繊維束は、導電性高分子材料に、その表面層の一部に前記材料と異なる材料と積層された構造を持つ複合繊維と、必要により導電性高分子を含まない材料からなる倦縮糸とを含んでいる。その繊維束に電極を取り付けた構成とすることにより、通電により繊維径が可逆的に変化する。ここで、前記積層構造の複合繊維の欄で記載した部材や材料と共通するものを用いることができる。
【0069】
本発明における繊維束の構成要素である複合繊維が、その束中に倦縮糸を含んだ束とすること、且つその制御手段として電流を流す電流印加手段を持つことで、通電によりその複合繊維自体が、倦縮−伸長という動きをすることができる。またその動きと、倦縮糸の反発力を用いることで、この動きをよりスムースに、大きく、且つ正確に繊維径の変化に反映させることが可能になる。
【0070】
本発明の繊維束は、ある直径を持つ1本の繊維を、例えば数十本〜数千本を束にしたものである。
【0071】
本発明でいう倦縮糸とは、天然繊維や、合成繊維の紡糸過程で自然に倦縮が発生したもの、または紡糸後、機械により倦縮をかけたものをいう。倦縮とは、縮れた状態のことをいい、一般的な繊維では、数百μmから数mmに1回の割合で曲がっているものである。具体例としては、ナイロン6,ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、共重合成分を含むポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリルなどを単独あるいは混合して用いたものなどを挙げることができる。
【0072】
一般的には、この倦縮糸のもつ倦縮に由来する反発力、回復力を、布帛や不織布の厚さを持たせることや、柔らかな風合いを持たせるために用いられるものである。
【0073】
本発明では、この倦縮糸を、複合繊維と組み合わせることで、繊維束の繊維径を擬似的に制御できる構成を実現した。すなわち、繊維束の中に複合繊維を含ませることで、この倦縮糸を束ねたり緩めたりできる構成を実現した。
【0074】
ここでいう擬似的な繊維径の変化とは、構成された繊維束に空気流中に置いた場合に、繊維と空気の摩擦が小さく繊維束中を空気が通れる状態と、繊維束中の通気抵抗が非常に大きくなるため空気が実質的に繊維束中を通れない状態との変化をいう。
【0075】
前者は、繊維束として見たときに、束の見かけの外径は大きくなるが、構成している繊維1本1本の表面積が独立に露出している状態となっているため、本発明では「繊維径が擬似的に細い」、として扱う。また、後者のように、繊維束内の通気抵抗が大きい場合には、束としての見かけの外径は小さくなるが、この束自体が実質的に1本の繊維として振る舞い、その表面積も束の外径からくるものとなり、繊維径が大きいものと同等の振る舞いとなるため、本発明では「繊維径が擬似的に太い」として扱う。
【0076】
次に、この繊維径の可変な繊維束の具体的な構成としては、繊維束に用いる複合繊維を、繊維束の表層側に沿って設置することが好ましい。
【0077】
ここでいう繊維束の表層側とは、繊維束断面の中心部から遠い外周部側のことをいう。この複合繊維の配置により、複合繊維の変形をより効率的に、繊維径の擬似的な変化につなげることができる。
【0078】
繊維束の表面層に沿わせることで、複合繊維の変形で、倦縮糸の反発力を押さえ込むことができる。
【0079】
さらには、繊維径可変繊維束に用いる複合繊維を、繊維束の表層側に沿って螺旋状に設置することがより好ましい。
【0080】
ここでいう「螺旋状に設置する」とは、倦縮糸の束の長手方向に対してある角度を成して、ねじるように巻きつけた状態をいう。
【0081】
この構成が一番効率良く、繊維束の擬似的な繊維径変化を大きくすることが可能で、数十本の繊維束から、数千本の繊維束まで、径を変化させることができる。
【0082】
特に限定はしないが、螺旋状に複合繊維を巻きつける場合には、擬似的な直径に対し、長さ方向で直径の10〜100倍程度を目安に1回転巻きつける。例えば、擬似的な直径が150μmの場合には、繊維の長さ方向で1500μm(1.5mm)〜15000μm(15mm)程度の長さに対して、複合繊維を一回転巻きつけることになる。
【0083】
このときに、その繊維束を構成する繊維の総断面積に対し、複合繊維が0.1%以上、50%以下の面積を占めることが好ましい。
【0084】
これは、断面積全てを複合繊維で形成すると、複合繊維同士が動きを妨げたり、複合繊維間の隙間ができにくくしたりして、繊維径の可変能を得にくい構成となる虞がある。そのため、上述の範囲とすることで、より効率の良い可変能を得ることが可能となる。
【0085】
同様に、繊維束の表層側に沿って螺旋状に設置し、その繊維束の径が最小となった際の概表面積に対し、複合繊維が0.1%以上、50%以下の面積を占めることも好ましい。
これも上述の断面積に対する構成と同様に、表面全てを複合繊維で形成すると、複合繊維同士が動きを妨げたり、複合繊維間の隙間ができにくくしたりして、繊維径の可変能を得にくい構成となる。そのため、上述の範囲とすることで、より効率のよい可変能を得ることが可能となる。それとともに、電源をONとOFFにした際の吸音率の差を大きくすることに貢献することができる。
【0086】
この外周への設置の際に、繊維束の表層側に沿って螺旋状に、且つ繊維束の概外周に対し、分割して設置することも好ましい。
【0087】
表面積比のみならず、分割設置することでより、各複合繊維の変形が自由になり、繊維径変化を大きくすることができる。この分割数は、繊維束の概外周に対し、中心点を介して対向する外周または外周近傍に、または対角線上に2〜20箇所に分割して設置することがより好ましい。前記複合繊維は、前記繊維束を構成する繊維の総断面積に対し、0.1%以上、20%以下の面積を占めることが望ましい。また、前記複合繊維は、前記繊維束の径が最小となった時、前記総断面積に対し、5%以上、50%以下の面積を占めることが望ましい。
【0088】
さらには、繊維束が、複合繊維と倦縮糸を撚り糸として束ねてなることも好ましい。撚ることにより、繊維としての強度が上がることもあるが、撚りが加わることで、複合繊維の変形方向が揃いやすくなるため、擬似的な繊維径をより正確にコントロールできるようになる。
【0089】
より大きな通気量の差を得るために、前記複合繊維を、繊維束のように複合繊維の集合体、もしくは撚り糸として束ねて用いてもよい。
【0090】
繊維束としては、概繊維径の変化を、流体の制御や、触感提示デバイスなどに用いることができる。
【0091】
流体の制御デバイスとしては、ゴム製の管内にこの繊維束を設置し、導電性を持たない流体を流しながら、繊維束に通電することで、管径を変化させられ、流体の流速、圧力を変えることができる。
【0092】
また、触感提示デバイスとして用いた場合には、そのデバイス中で、繊維径が変わることで、手触りの変化をもたらすことができる。直接、デバイスの表面(人が触る面)に設置することで、その効果はより大きく感じることができる。
【0093】
<布帛>
さらに本発明においては、前記複合繊維を用いて布帛を作製する。
【0094】
前記複合繊維を編んだり、織ったりして布帛を得ることができる。この場合、より大きな通気量の差を得るためには、複合繊維を繊維束などの集合体としたり、あるいは撚り糸として束ねたりして用いることが好ましい。ここで、公知の方法を利用し、編んだり、織ったりして布帛を得ることができる。
【0095】
不織布は糸条の交絡を多く有することから、布帛を形成した場合に、空間が多く、複合繊維である不織布は効果的に作用する。
【0096】
不織布では、通気量の変化を大きくするために、複合繊維を100%用いることが好ましいが、化学繊維や天然繊維との混繊糸や混紡糸を用いてもよい。
【0097】
不織布を作製する際には、複合繊維や、その他の化学繊維、天然繊維、バインダー繊維などの構成繊維を、たとえば、平均カット長を20〜100mmの範囲にして用いる。これらの繊維を、カードレイヤーまたはエアレイヤー法によって捕集・堆積させてウェブを形成し、次いで該ウェブを圧縮し、バインダー繊維の軟化点以上でその他の複合繊維や構成繊維が軟化しない温度で加熱して、おおよそ厚み2〜80mm、および平均見かけ密度0.01〜0.8g/cmの範囲となるように成形・固化する。
【0098】
ここでいう平均見かけ密度とは、吸音材の外形寸法と質量から導き出される密度のことをいう。寸法の測定は、一般の定規、スケールなどで、質量についても質量計で測定をし、求められる。
【0099】
この明細書中において「軟化点」とは、繊維を構成する材料が加熱により軟化して接着性を発現する温度をいうものとする。
【0100】
またここでいうバインダー繊維とは、複合繊維の軟化点より少なくとも20℃は低い高分子を含み、かつ、その軟化点成分の軟化点70℃以上である繊維をいう。バインダー繊維は、かかる低軟化点成分のみにより構成されていてもよいことはいうまでもない。なお、複合繊維の軟化点との温度差を少なくとも20℃とした理由は、不織布としての形状を維持させる必要があるからである。これよりも軟化点の差が小さくなると、不織布全体が軟化してしまい、プレスを行うと板状になってしまい、吸音性能が著しく低下するからである。また、低軟化成分の軟化点が70℃以下になると、不織布としての使用環境が高温にさらされた場合、不織布としての形状を維持することが困難になるからである。
【0101】
次に本発明に用いられる布帛の製造方法は、ここでは不織布の製造方法についてさらに具体的に述べる。所定カット長、所定繊維を開繊し、適宜の混合比率で調合した後、カードレイヤー方式若しくはエアレイヤー方式によりコンベア上に噴送し、必要に応じて吸引してコンベア上にウェブを形成し、更にこのウェブを所定の見かけ密度および厚みに圧縮し、所定温度の熱風または加熱蒸気により成形・固化する。
【0102】
または、コンベア上のウェブをニードルパンチングによって規定の厚みおよび規定の見かけ密度に仕上げ、同様に熱処理を行う。
【0103】
前記製造方法で得られた本発明の布帛、すなわち不織布は、前記繊維の集合体の少なくとも片面に、例えばトリコット、不織布、織布などの表皮を積層することができる。この表皮の材料は特に限定されない。
【0104】
また、前記カードレイヤー方式若しくはエアレイヤー方式は、ウェブ形成方法に用いるもので、その後の後処理工程に関しては特に限定されない。
【0105】
本発明において、前記構成繊維の平均カット長は20〜100mmの範囲にあることが好ましい。平均カット長が20mm未満になると、繊維相互の交絡が少なくなり、そのため、融着繊維との接点の減少によって凝集性が悪化し、さらに成形時の形状の保持が困難になるからである。それとともに、車両や建築物などに取り付けたとき、輸送時などに短い繊維がフライとなって繊維の集合体からの抜け落ちや、吸音性を低下させる可能性がある。一方、100mmを超えると、繊維相互の交絡が大きくなるためウェブ形成時に開繊が不十分で集合体の密度分布が過大となり、厚みや通気量が不織布中で一定にならないなどの問題を生じるおそれがある。
【0106】
本発明において、前記布帛の成形加工後の平均厚みは2〜80mmの範囲にあることが好ましい。平均厚みが2mm未満になると、通気抵抗が大きくなりすぎ、所望の通気量が得られず、吸音機能を得ることが困難となってしまう。一方、80mmを超えると、吸音材の見かけ密度が小さくなってしまい、通気抵抗が小さくなりすぎ、所望の吸音性能を得ることが困難となってしまう。
【0107】
本発明により成形加工された布帛、すなわち不織布の平均見かけ密度は、0.01〜0.8g/cmの範囲にあることが好ましい。平均見かけ密度が0.01g/cm未満になると、同一体積内における繊維の割合が少なくなるため、不織布としての十分な凝集性を備えることが困難なるからである。それとともに、通気抵抗が小さくなり、十分な吸音性能が得られない。一方、平均見かけ密度が0.8g/cmを超えると、不織布が固く、通気抵抗が大きすぎ、満足な吸音性能が得られない。
【0108】
本発明の布帛の製造方法によれば、新たな駆動方向を有する布帛および吸音材を提供することができる。
【0109】
<通気量可変布帛>
本発明の通気量可変布帛は、少なくとも複合繊維を含み、それを構成要素として織物、編物、不織布などの布帛を構成し、かつ、前記複合繊維または前記布帛に電極、必要により導線、および電源を取り付けてなるものである。なお、電極は、導電ペーストと塗布して、銅線を接続するなどの公知の方法を採用して作製することができる。
【0110】
その特徴とするところは、通電時に、導電性高分子成分が収縮することにより、例えば、複合繊維の倦縮が消失し、織物、編物、不織布などの布帛の織目、編目又は布帛の空間部が開き、その結果、通気量が大きくなる。他方、通電を止めた時には、導電性高分子成分が元の状態に戻ることにより、再び複合繊維の倦縮が発現することにより、それらが閉じて通気量が小さくなる(図22:平織、23:平編み)。
【0111】
この通気量を変化させるために電圧を印加する電源には、一般の安定化電源などを用いることができる。ここで印加する電圧によって変形量は異なるが、たとえば、1〜10V程度の範囲で用いれば、可逆的な複合繊維の倦縮−伸長の繰返しが可能である。
【0112】
この可逆的な複合繊維の動きが、布帛中で起こることにより、前述の通気量の変化を起こすことができる。
【0113】
これらの通電時の倦縮−伸長の動きは、導電性高分子に積層する材料により、逆にすることも可能である。
【0114】
通電前の状態で、あらかじめ伸長した形になるように積層する材料を選定しておけば、通電時の導電性高分子の収縮により、導電性高分子側を内側にして曲がる、倦縮する挙動が起こる(図24)。
【0115】
あらかじめ倦縮が発生している組み合わせとする場合には、通電前の導電性高分子成分が見かけ上、膨張した状態で他の材料と積層されることで、導電性高分子側を外側にして曲がった、倦縮した状態を取ることができる。この状態から通電すると、導電性高分子が収縮することにより、倦縮が解けて、伸長する方向の動きとなる(図25)。
【0116】
さらに通電を続けることで、まだ、導電性高分子が収縮できる余地があれば、図24と同様に、再度倦縮が発生する。このような組み合わせを選ぶには、材料を繊維に整形する際の温度と、常温との熱収縮差を利用して、設定することができる。
【0117】
より大きな通気量の差を得るために、複合繊維を、図26(複合繊維集合体)のように複合繊維の集合体、もしくは撚り糸として束ねて用いることが好ましい。
【0118】
複合繊維をあらかじめ集めた繊維の集合体では、複合繊維同士が密着している状態で、繊維径が擬似的に大きい状態になる(図27:図26のA−A’断面)。複合繊維が完全にほぐれ、繊維径がそのまま通気抵抗となって通気量が小さい状態をとる布帛に比較して、この擬似的に直径が大きくなった状態では、布帛の通気量に影響を及ぼす繊維の総表面積は、擬似的に小さくなり、通気量は大きい状態を取る。
【0119】
これを利用し、あらかじめ複合繊維の集合体により繊維径が擬似的に大きい状態(図27)と、倦縮がかかることで複合繊維の集合体がほぐれて、繊維径が擬似的に小さくなった状態(図28:図26のA−A’断面)とを、通電したり、通電を止めたりすることで、より大きな通気量の変化、ひいては吸音率の変化を得ることができるようになる。
【0120】
逆に、ゆるく集めた繊維の集合体としておき、通電による収縮で、繊維の倦縮をなくすことで、通気量を大きくする方法もとることができる。
【0121】
複合繊維の集合体として、上記の他に、複合繊維を、繊維の束の表層側に沿って設置された繊維束(図29〜30)、複合繊維を、繊維の束の表層側に沿って螺旋状に設置された繊維束(図31〜33)などが挙げられる。
【0122】
また、この繊維の集合体を撚り糸状とした場合でも、先にほぐれた状態、硬く絞った状態を使い分けることで、通気量の制御を行いやすい(図34〜35)。
【0123】
たとえば、倦縮糸と複合繊維からなる繊維束を横糸に、倦縮糸のみからなる繊維束を縦糸に用い、布帛(平織物)を作製することができる(図36)。もちろん、双方に複合繊維を含ませてもよい。
【0124】
このような特徴ある可逆通気性布帛を得るには、特に限定はしないが、複合繊維が布帛中に10質量%以上含まれることが好ましい。
【0125】
(吸音材)
本発明の、通電により通気度の変化の可能な布帛を吸音材として用いることができる。吸音材においては、吸音率の変化を大きく得るには、複合繊維が布帛中に20質量%以上含まれることがより望ましい。
【0126】
吸音性能を得るための通気量は、10〜300cm/cm・sの範囲であることが好ましい。この範囲とすることで、垂直入射吸音率(JIS A1405 音響―インピーダンス管による吸音率及びインピーダンスの測定―定在波比法)は、1kHzの波長で、おおよそ0.2〜0.7程度の吸音率を持つこととなる。
【0127】
(車両用部品)
本発明の、通電により通気度の変化の可能な布帛を車両に適用することができる。新たな吸音率の変化能を持つ吸音材を車両に適用することができる。これらの吸音材は、従来の吸音材と置き換えることにより、吸音材に新たに吸音率が変化する機能を付与することが可能になる。
【0128】
たとえば、ヘッドレストや天井材に、この吸音材を設置した車両用部品を用いる。耳元に近い車両用部品において吸音率が変化すると、乗員にその変化を感じさせることができる(図37)。
【0129】
本車両用部品では、通常の車両に用いられている電圧で、複合繊維の収縮および伸び(およそ元の位置に戻る)を繰返し行わせることができる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0131】
(実施例1)
湿式紡糸法で溶媒相にアセトン(和光化学製:019−00353)を用い、導電性高分子成分であるPEDOT/PSS(スタルク製Baytron P(登録))を0.5mL/hの速度で、マイクロシリンジ(伊藤製作所製、MS−GLL100、針部内径260μm)から押し出すことによって、約10μmの導電性高分子繊維を得た。次にこの繊維に、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。得られた複合繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ17μmであった。
平均カット長を50mmとした該複合繊維を80質量%と、直径14μmのバインダー繊維〔芯成分:PET、鞘成分:共重合ポリエステル(非晶性ポリエステル)軟化点:110℃〕20質量%とから構成される混合繊維をカードレイヤー方式にてウェブを形成し、規定厚み(およそ8mm)に圧縮した後、160℃で7分間加熱することにより、平均見かけ密度0.025g/cm、および厚さ10mmの布帛を得た。
この布帛を通気量の評価用に、2cm×2cmの正方形に切り出し、電源接続用の電極として導電ペースト(藤倉化成製D−500)を図38の位置に塗布し、そこに電線として直径0.025mmの銅線(ニラコ製CU−111086)をつないで通気量可変布帛を得た。
また、吸音率の評価用に、直径10cmの円形に切り出し、同様に、図39の位置に電源接続用の電極、電線を設置し、通気量可変布帛を得た。
【0132】
(実施例2)
実施例1と同様の湿式紡糸法で溶媒相にアセトンを用い、導電性高分子成分であるPEDOT/PSS(スタルク製Baytron P(登録))と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の水分散液(アルドリッチ製、製品番号56122−3)を10倍に希釈した水溶液を2本のマイクロシリンジから、同一の溶媒相に0.5mL/hの速度でマイクロシリンジ(伊藤製作所製、MS−GLL100、針部内径260μm)から押し出す(図40)ことで、断面がだるま型の約14μmの複合繊維を得た。図40に示される湿式紡糸装置90おいて、紡糸原液を二つの湿式紡糸用口金91から押し出し、押し出された複合繊維の前駆体92を、アセトンなどの溶媒が入った湿式紡糸溶媒槽93を通過させる。該前駆体92は、該溶媒槽93を通過した後、繊維送り器94を経て複合繊維99を得て、繊維巻き取り器95で巻き取られる。
この複合繊維を用い、実施例1と同様に、通気量可変布帛を得た。
【0133】
(実施例3)
実施例1と同様の湿式紡糸法で約10μmの導電性高分子繊維を得て、次にこの導電性高分子繊維に連続工程で、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、70℃で乾燥させた(図20)。
得られた繊維は、断面形状で芯鞘型、偏心円形状となり、直径は、約17μmであった。この複合繊維を用い、実施例1と同様に、通気量可変布帛を得た。
【0134】
(実施例4)
実施例2と同様の湿式紡糸法で約14μmの複合繊維を得た。次にこの繊維を100本束ねて集合体とした。平均カット長を50mmとした繊維の集合体80質量%と、直径14μmのバインダー繊維〔芯成分:PET、鞘成分:共重合ポリエステル(非晶性ポリエステル)軟化点:110℃〕20質量%とから構成された混合繊維をエアレイヤー方式でウェブを形成し、規定厚み(およそ8mm)に圧縮した後、160℃で7分間加熱することにより、平均見かけ密度0.025g/cm、および厚さ10mmの布帛を得た。
この布帛を用い、実施例1と同様に、通気量可変布帛を得た。
【0135】
(実施例5)
実施例2と同様の湿式紡糸法で約14μmの複合繊維を得た。次にこの繊維を100本束ねて集合体を、10cmあたりに4回転となるように撚りを与えた撚り糸とした。平均カット長が50mmとしたこの撚り糸80質量%と、直径14μmのバインダー繊維〔芯成分:PET、鞘成分:共重合ポリエステル(非晶性ポリエステル)軟化点:110℃〕20質量%とから構成された混合繊維をエアレイヤー方式にてウェブを形成し、規定厚み(およそ8mm)に圧縮した後、160℃で7分間加熱することにより、平均見かけ密度0.025g/cm、および厚さ10mmの布帛を得た。
この布帛を用い、実施例1と同様に、通気量可変布帛を得た。
【0136】
(実施例6)
導電性高分子をエレクトロスピニング法で繊維を合成すべく、原液としてパラキシレンテトラヒドロチオフェニウムクロライドの2.5%水溶液にメタノールを50vol.%となる様に添加した溶液を用いた。これを内径340μmの針先から電圧5kVを印加して、針先より20cm下のアルミホイル基板上に、前駆体繊維を析出させた。得られた前駆体繊維を、250℃で24時間真空乾燥を行い、得られたナノファイバーを撚り糸とし、直径約10μmの導電性高分子繊維を得た。次にこの繊維に、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。得られた複合繊維の断面形状は積層型、三日月形状となり、直径は、およそ17μmであった。
この複合繊維を用い、実施例1と同様に、通気量可変布帛を得た。
【0137】
(実施例7)
実施例1と同様の湿式紡糸法で約10μmの導電性高分子繊維を得て、そこから連続工程で水系アクリルエマルジョン(日本NSC社、AA−28)を最終の繊維径が17μmになる様に塗布し、70℃で乾燥させた。繊維径が得られた繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ17μmであった。
この複合繊維を用い、実施例1と同様に、通気量可変布帛を得た。
【0138】
(比較例1)
複合繊維の代わりに、平均カット長が51mmである直径15μmのポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた以外は、実施例1と同様に電極、電線を設置した布帛を得た。
【0139】
(比較例2)
複合繊維の代わりに、平均カット長が51mmである直径15μmのポリエチレンテレフタレート(PET)を100本束ねた繊維の集合体とし、ウェブ形成工程をエアレイヤー方式とした以外は、比較例1と同様に、電極、電線を設置した布帛を得た。
【0140】
(比較例3)
比較例2の繊維の集合体に長さ10cmあたり4回転となるように撚りをかけた撚り糸とした以外は、比較例2と同様に、電極、電線を設置した布帛を得た。
【0141】
(比較例4)
実施例1のエマルジョン塗布を行なわずに布帛を得た以外は、実施例1と同様に電極、電線を設置した布帛を得た。
【0142】
(比較例5)
実施例6のエマルジョン塗布を行なわずに布帛を得た以外は、実施例1と同様に電極、電線を設置した布帛を得た。
【0143】
〔評価試験1〕通気量
20℃、65%RHの恒温恒湿室で、JIS L1096一般織物試験方法8.27.1A法(フラジール形法)に従って、テクステスト(TEXTEST)社製、通気度試験機FX3300で測定した。
【0144】
〔評価試験2〕吸音率
20℃、65%RHの恒温恒湿室で、JIS A1405 音響―インピーダンス管による吸音率及びインピーダンスの測定―定在波比法に準拠し、垂直入射吸音率を、B&K社製インピーダンスチューブで測定した。
【0145】
〔通電方法〕
各評価試験で用いるサンプルに通電するために、直流安定化電源を用いた。電源を入れた場合の測定は、電源ONの後、5分後より、評価を行なった。
これらの評価結果を表1に示す。
【0146】
【表1】

【0147】
表1から、次のことがわかる。
1.電圧を印加すると、通気量、吸音率が変化した。
2.比較例では、いずれの値も変化しなかった。
【0148】
(実施例8)
実施例1の通気量可変布帛を10cm角に切り出し、車両の運転席のヘッドレストに設置した。
12Vを通電し、1分毎にON−OFFを繰り返したところ、運転席の耳元における音圧の変化が観測できた。
また、これは運転席に着座した乗員にも変化したことが感じられ、通気量可変布帛は吸音率の大小(元の位置に戻る)を繰返し行うことができる材料であることが認められた。
【0149】
(実施例II−1)
以下、繊維径可変繊維束を用いた実施例及び比較例をIIのシリーズとして示す。
湿式紡糸法で溶媒相にアセトン(和光化学製:019−00353)を用い、導電性高分子成分としてPEDOT/PSSの1.3%水分散液(スタルク製Baytron P−AG(登録))を0.5mL/hの速度でマイクロシリンジ(伊藤製作所製、MS−GLL100、針部内径260μm)から押し出すことで、約10μmの導電性高分子繊維を得た。次にこの繊維に、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。得られた複合繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ17μmであった。
倦縮糸として、直径15μmのポリエステル長繊維(鐘紡合繊製、サイドバイサイド型)を用いた。
この倦縮糸92本撚りをかけて束とし、その表層側に複合繊維8本を2本ずつ束にしたものを、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした(図31及び32参照)。
これを長さ5cmに切り出し、その両端部から5mmの位置に0.025mmの銅線(ニラコ製CU−111086)を導電ペースト(藤倉化成製、D−500)で固定し、電極とし、繊維径可変繊維束を得た(図41参照)。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ590μmとなった。
【0150】
(実施例II−2)
倦縮糸として、直径7μmのポリエステル長繊維(鐘紡合繊製、サイドバイサイド型)を450本用いた以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ630μmとなった。
【0151】
(実施例II−3)
倦縮糸の本数を1100本とした以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1870μmとなった。
【0152】
(実施例II−4)
複合繊維の本数16本を4本ずつの束として用い、また、倦縮糸の本数を450本とした以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ410μmとなった。
【0153】
(実施例II−5)
複合繊維の本数を40本、倦縮糸の本数を1100本とした以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1440μmとなった。
【0154】
(実施例II−6)
表層側に複合繊維8本を1本ずつ、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした(図33参照)以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ590μmとなった。
【0155】
(実施例II−7)
その表層側に複合繊維8本を2本ずつ束にしたものを、倦縮糸の長手方向に沿わせて設置した構造とした(図29及び30参照)以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ590μmとなった。
(実施例II−8)
複合繊維の本数を40本、倦縮糸の本数1100本を断面方向にランダム混ざるように束ねて撚った(図34及び35参照)以外は、実施例II−5と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1920μmとなった。
(実施例II−9)
倦縮糸92本を撚らずに束として用いた以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ660μmとなった。
【0156】
(実施例II−10)
複合繊維の本数40本を2本ずつ束にし、倦縮糸の束の表層側に、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした以外は、実施例II−5と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1350μmとなった。
【0157】
(実施例II−11)
複合繊維の本数40本を20本ずつ束にし、倦縮糸の束の表層側に、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした以外は、実施例II−5と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1720μmとなった。
【0158】
(実施例II−12)
複合繊維の本数40本を1本の束にし、倦縮糸の束の表層側に、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした以外は、実施例II−5と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1860μmとなった。
【0159】
(実施例II−13)
複合繊維の本数40本を1本ずつ、倦縮糸の束の表層側に、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした以外は、実施例II−5と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1290μmとなった。
【0160】
(実施例II−14)
湿式紡糸法で溶媒相にアセトン(和光化学製:019−00353)を用い、導電性高分子成分としてPEDOT/PSSの1.3%水分散液(スタルク製Baytron P−AG(登録))を0.1mL/hの速度でマイクロシリンジ(伊藤製作所製、MS−GLL100、針部内径260μm)から押し出すことで、約3μmの導電性高分子繊維を得た。次にこの繊維に、水系ポリエステルエマルジョン(日本NSC社製、AA−64)を表面に塗布し、25℃で24時間乾燥させた。得られた複合繊維は、断面形状で積層型、三日月形状となり、直径は、およそ7μmであった。
倦縮糸として、直径2μmのポリエステル長繊維(鐘紡合繊製、サイドバイサイド型)を用いた。
この倦縮糸5500本に撚りをかけて束とし、その表層側に複合繊維8本を2本ずつ束にしたものを、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした。
この条件以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ770μmとなった。
【0161】
(実施例II−15)
複合繊維の本数4本を1本ずつ、倦縮糸の束の表層側に、長手方向の長さが5mmごとに1回転になるように螺旋状に巻きつけた構造とした以外は、実施例II−1と同様に繊維径可変束を得た。
通電を行わない時の繊維径可変繊維束の見かけの外径をマイクロゲージで測定すると、およそ1610μmとなった。
【0162】
(実施例II−16)
実施例II−1で作製した電極を固定する前の倦縮糸と複合繊維からなる繊維束を、平均カット長を50mmとし、この繊維束を80質量%と、直径14μmのバインダー繊維〔芯成分:PET、鞘成分:共重合ポリエステル(非晶性ポリエステル)軟化点:110℃〕20質量%とから構成される混合繊維をカードレイヤー方式にてウェブを形成し、規定厚み(およそ8mm)に圧縮した後160℃で7分間加熱することにより、平均見かけ密度0.025g/cm、および厚さ10mmの不織布を得た。
この布帛を通気量評価用には、2cm×2cmの正方形に切り出し、電源接続用の電極を、導電ペースト(藤倉化成製D−500)を図38の位置に塗布して、そこへ電線として直径0.025mmの銅線(ニラコ製CU−111086)をつなげた、通気量評価用の布帛を得た。
また、吸音率評価用に直径10cmの円形に切り出し、同様に図39の位置に電源接続用の電極、電線を設置し、吸音率評価用の布帛を得た。
【0163】
(実施例II−17)
実施例II−1で作製した電極を固定する前の倦縮糸と複合繊維からなる繊維束を横糸に、15μmの倦縮糸(PET製)のみを100本束ねた繊維束を縦糸に用い、1cm当り20本の繊維束が並ぶ布帛(平織り物)を作製した。
この布帛(平織り物)を通気量評価用に、2cm×2cmの正方形に切り出し、電源接続用の電極を、導電ペースト(藤倉化成製D−500)を横糸の両端の位置(図36参照)に塗布して、そこへ電線86として直径0.025mmの銅線(ニラコ製CU−111086)をつなげた、通気量評価用の布帛を得た。
【0164】
(実施例II−18)
実施例II−2で作製した電極を固定する前の倦縮糸と複合繊維からなる繊維束を、平均カット長を50mmとし、この繊維束を80質量%用いた以外は、実施例II−16と同様に布帛、通気量評価用布帛、吸音率評価用布帛を得た。
【0165】
(実施例II−19)
実施例II−10で作製した電極を固定する前の倦縮糸と複合繊維からなる繊維束を、平均カット長を50mmとし、この繊維束を80質量%用いた以外は、実施例II−16と同様に布帛、通気量評価用布帛、吸音率評価用布帛を得た。
【0166】
(実施例II−20)
実施例II−14で作製した電極を固定する前の倦縮糸と複合繊維からなる繊維束を、平均カット長を50mmとし、この繊維束を80質量%用いた以外は、実施例II−16と同様に布帛、通気量評価用布帛、吸音率評価用布帛を得た。
【0167】
(比較例II−1)
複合繊維を用いず、全て倦縮糸として、平均カット長が51mmである直径15μmのPET繊維を100本用いた以外は、実施例II−1と同様に電極、電線を設置した繊維束を得た。
【0168】
(比較例II−2)
比較例II−1と同様の繊維を用い、撚らない束を形成した以外は、実施例II−1と同様に電極、電線を設置した繊維束を得た。
【0169】
(比較例II−3)
複合繊維の変わりに直径15μmのストレート糸(鐘紡合繊製)を8本用い、倦縮糸の外周に設置した以外は、実施例II−1と同様に電極、電線を設置した繊維束を得た。
【0170】
(比較例II−4)
複合繊維を用いず、全て倦縮糸として、平均カット長が51mmである直径7μmのPET繊維を460本用いた以外は、実施例II−1と同様に電極、電線を設置した繊維束を得た。
【0171】
(比較例II−5)
比較例II−1で作製した電極を固定する前の倦縮糸からなる繊維束を、平均カット長を50mmとし、この繊維束を80質量%と、直径14μmのバインダー繊維〔芯成分:PET、鞘成分:共重合ポリエステル(非晶性ポリエステル)軟化点:110℃〕20質量%とから構成される混合繊維をカードレイヤー方式にてウェブを形成し、規定厚み(およそ8mm)に圧縮した後160℃で7分間加熱することにより、平均見かけ密度0.025g/cm、および厚さ10mmの不織布を得た。
この布帛を通気量評価用には、2cm×2cmの正方形に切り出し、電源接続用の電極を、導電ペースト(藤倉化成製D−500)を図38の位置に塗布して、そこへ電線として直径0.025mmの銅線(ニラコ製CU−111086)をつなげた、通気量評価用の布帛を得た。
また、吸音率評価用に直径10cmの円形に切り出し、同様に図39の位置に電源接続用の電極、電線を設置し、吸音率評価用の布帛を得た。
【0172】
(比較例II−6)
比較例II−1で作製した電極を固定する前の倦縮糸と複合繊維からなる繊維束を横糸に、15μmの倦縮糸のみを100本束ねた繊維束を縦糸に用い、1cm当り20本の繊維束が並ぶ布帛(平織り物)を作製した。
この布帛(平織り物)を通気量評価用に、2cm×2cmの正方形に切り出し、電源接続用の電極を、導電ペースト(藤倉化成製D−500)を横糸の両端の位置(図36)に塗布して、そこへ電線として直径0.025mmの銅線(ニラコ製CU−111086)をつなげた、通気量評価用の布帛を得た。
【0173】
〔評価試験1〕通気量
20℃、65%RHの恒温恒湿室で、JIS L1096一般織物試験方法8.27.1A法(フラジール形法)に従って、テクステスト(TEXTEST)社製、通気度試験機FX3300で測定した。
【0174】
〔評価試験2〕吸音率
20℃、65%RHの恒温恒湿室で、JIS A1405 音響―インピーダンス管による吸音率及びインピーダンスの測定―定在波比法に準拠し、垂直入射吸音率を、B&K社製インピーダンスチューブで測定した。
実施例及び比較例の100〜1600Hzの吸音率評価結果を図42に、1kHzにおける吸音率を表3に記載した。
【0175】
〔評価試験3〕繊維径
25℃、60%RHの条件下でマイクロメーターを用いて、実施例II−1〜II−15、比較例II−1〜II−4の繊維束の直径を測定した。
【0176】
〔通電方法〕
各評価試験で用いるサンプルに通電するために、直流安定化電源を用いた。電源を入れた場合の測定は、電源ONの後、5分後より、評価を行なった。
【0177】
これらの評価結果を、それぞれ表2a、2b、及び3に示す。
【0178】
【表2a】

【0179】
【表2b】

【0180】
【表3】

【0181】
表2a,2b、及び3から、次のことがわかる。
1.電圧を印加すると、通気量、吸音率が変化した。
2.比較例では、いずれの値も変化しなかった。
【0182】
(実施例II−21)
実施例II−16、II−18、II−19、II−20、及び比較例II−6の布帛を10cm角に切り出し、車両の運転席のヘッドレストに設置した。12Vを通電し、1分毎にON−OFFを繰り返したところ、運転席耳元における音圧変化が観測できた。また、これは運転席に着座した乗員にも変化したことが感じられ、本発明の布帛は吸音率の大小(元の位置に戻る)を繰返し行う材料であることが認められた(表4及び図42)。
【0183】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】従来の繊維の形状例を示す模式図である。
【図2】従来の芯鞘型繊維の形状例を示す模式図である。
【図3】従来のサイドバイサイド型繊維の形状例を示す模式図である。
【図4】従来の海島型繊維の形状例を示す模式図である。
【図5】従来の異型(三角)断面繊維の形状例を示す模式図である。
【図6】従来の異型(星形)断面繊維の形状例を示す模式図である。
【図7】従来の中空繊維の形状例を示す模式図である。
【図8】アセチレン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図9】ピロール系導電性高分子の化学式の一例である。
【図10】チオフェン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図11】フェニレン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図12】アニリン系導電性高分子の化学式の一例である。
【図13】本発明に係わる表面層の1部が異なる材料で形成された複合繊維の断面形状を示す断面模式図である。
【図14】本発明に係わる湿式紡糸装置の模式図である。
【図15】本発明に係わるエレクトロスピニング装置の模式図である。
【図16】本発明に係わる湿式紡糸装置に塗布工程を設けた装置の模式図である。
【図17】本発明に係わる湿式紡糸装置にコーティング工程を設けた装置の模式図である。
【図18】本発明に係わる内径断面の1部が異なる材料で形成された複合繊維の断面形状を示す断面模式図である。
【図19】本発明に係わる内径断面の1部が異なる材料で形成された複合繊維の断面形状を示す断面模式図である。
【図20】本発明に係わる内径断面の1部が異なる材料で形成された複合繊維の断面形状を示す断面模式図である。
【図21】本発明に係わる長手方向に分断して異なる材料からなる表面層を備えた複合繊維の側断面模式図である。
【図22】本発明に係わる通気量可変布帛(織物)の通気量に変化を及ぼす動きを示す模式図である。
【図23】本発明に係わる通気量可変布帛(編物)の通気量に変化を及ぼす動きを示す模式図である。
【図24】本発明に係わる複合繊維の動きを示す模式図である。
【図25】本発明に係わる複合繊維の動きを示す模式図である。
【図26】本発明に係わる繊維集合体、撚り糸を示す模式図である。
【図27】本発明に係わる繊維集合体、撚り糸の断面模式図である。
【図28】本発明に係わる繊維集合体、撚り糸の断面模式図である。
【図29】本発明の実施例II−7の形状を示す模式図である。
【図30】図29のA−A’線に沿う断面模式図である。
【図31】本発明の実施例II−1の形状を示す模式図である。
【図32】図31のA−A’線に沿う断面模式図である。
【図33】本発明の実施例II−6の形状を示す模式図である。
【図34】本発明の実施例II−8の形状を示す模式図である。
【図35】図34のA−A’線に沿う断面模式図である。
【図36】平織り物の形状を示す模式図である。
【図37】本発明に係わる車両用部品の設置位置、評価位置を示す模式図である。
【図38】本発明に係わる通気量可変布帛の模式図である。
【図39】本発明に係わる通気量可変布帛の模式図である。
【図40】本発明に係わる湿式紡糸装置の模式図である。
【図41】本発明で用いられる繊維径可変繊維束の形状を示す模式図である。
【図42】吸音率評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0185】
1 従来品の繊維
2a 芯鞘繊維の鞘成分
2b 芯鞘繊維の芯成分
3a サイドバイサイド型繊維の1成分
3b サイドバイサイド型繊維の3aと異なる材料からなる成分
4a 海島型繊維の海成分
4b 海島型繊維の島成分
5a 中空繊維の繊維成分
5b 中空繊維の中空部
50 複合繊維の収縮により広がった空隙
61 導電性高分子成分
62 その他の材料からなる成分
63 複合繊維
70 車両
71 ヘッドレスト
72 天井材
73 マイク設置位置
80 通気量可変布帛
83 電極
86 電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有する複合繊維から成る繊維体を少なくとも一部含み、かつ、前記繊維体に取り付けられた電極を含むことを特徴とする通電により通気度の変化の可能な布帛。
【請求項2】
前記複合繊維は、前記導電性高分子材料と前記材料と異なる材料とがサイドバイサイド型に接合されてなることを特徴とする請求項1記載の布帛。
【請求項3】
導電性高分子材料と、前記材料と異なる材料とを含み、いずれか一方の材料が他方の材料の長手方向に貫通した構造を有する複合繊維を少なくとも一部含み、かつ、前記複合繊維に取り付けられた電極を含むことを特徴とする通電により通気度の変化の可能な布帛。
【請求項4】
前記構造は、偏心芯鞘型であることを特徴とする請求項3記載の布帛。
【請求項5】
前記導電性高分子材料と異なる材料は、樹脂材料であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項6】
前記樹脂材料は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の布帛。
【請求項7】
前記繊維体は、前記複合繊維を撚り糸として束ねてなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項8】
前記繊維体は、前記複合繊維の単繊維体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項9】
前記繊維体は、前記複合繊維の繊維束であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項10】
前記繊維体は、さらに導電性高分子を含まない材料からなる倦縮糸を含んでいることを特徴とする請求項9に記載の布帛。
【請求項11】
前記繊維束は、前記複合繊維が繊維束の表層側に設置されてなることを特徴とする請求項9または10記載の布帛。
【請求項12】
前記繊維束は、前記複合繊維が繊維束の表層側に螺旋状に設置されてなることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項13】
前記複合繊維が、前記繊維束の外周において、前記表面を2〜20等分するように設置されてなることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項14】
前記複合繊維は、前記繊維束を構成する繊維の総断面積に対し、0.1%以上、20%以下の面積を占めることを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項15】
前記複合繊維は、前記繊維束の径が最小となった時、前記総断面積に対し、5%以上、50%以下の面積を占めることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項16】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の布帛を用いた吸音材。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の布帛および/または請求項17記載の吸音材を用いた車両用部品。
【請求項18】
導電性高分子材料に、前記材料の表面の一部に前記材料と異なる材料を積層した構造を有する複合繊維および導電性高分子材料と、前記材料と異なる材料とを含み、いずれか一方の材料が他方の材料の長手方向に貫通した構造を有する複合繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種の複合繊維、および前記複合繊維の軟化点より少なくとも20℃は低い高分子を含み且つその軟化点成分の軟化点70℃以上であるバインダー繊維を混合し、カードレイヤー方式またはエアレイヤー方式によって捕集堆積してウェブを形成し、次いで前記ウェブを圧縮し、バインダー繊維の軟化点以上でその他の繊維が軟化しない温度以下で加熱し、さらに成形固化してなることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の布帛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【公開番号】特開2007−277791(P2007−277791A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236470(P2006−236470)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】