説明

通電熱加工装置及び温度測定方法

【課題】放射温度計を使用しても被加工物の正確な温度測定を可能とする。
【解決手段】被加工物9の加熱温度を型3の肉部を測温して求めるための熱電対30と、被加工物9の加熱温度を窓21から型外表面を測温して求めるための放射温度計31と、熱電対30の耐熱温度以下では熱電対30の計測温度を用い、上記耐熱温度を越えるときは放射温度計31の計測温度を用いる温度計選択手段と、上記温度計選択手段が放射温度計31の計測温度を用いるとき、型肉部の温度と型外表面の温度との差を放射温度計31の計測温度に加算する補正を行って被加工物9の加熱温度を求める演算補正手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末焼結材料を筒状の型内に装填し、型の両側開口に設けた電極を介して粉末焼結材料を加圧しつつこの粉末焼結材料に電流を供給することにより、被加工物を製造する通電熱加工装置及び温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した通電熱加工装置としては、粉末焼結材料からからなる被加工物を装填する筒状の型と、この型に摺接状態で下部から内嵌される下型としての下部電極と、同上部から内嵌される上型としての上部電極と、これら両電極に例えばパルス電流を供給する電源装置と、両電極を介して型内の被加工物を加圧する加圧装置と上記パルス電流を制御する制御手段とを備えた基本構成を有している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
かかる装置においては、型内に被加工物を装填した後、型内の被加工物を上下の電極を介して加圧装置により所定の圧力で加圧しつつ電源装置からの電流を上下の電極を介して被加工物に供給することにより被加工物を発熱させて熱加工処理が施される。つまり、上記装置による被加工物の加熱方式は、被加工物及び型のうち主として被加工物を電流が通過する際の電気抵抗に応じて発生する熱エネルギーによる加熱方式である。
【0004】
ところで、熱加工を行う減圧環境においても、発熱体の上下および外周方向に熱放散が発生する。このため、発熱する被加工物がある型内と型外とで大きな温度が発生し、熱勾配が生じる。このことを図5に基づき以下に詳述する。
【0005】
図6は、外径が100mm、内径が70mmの黒鉛型における温度分布を示す。この図より理解されるように、型内の温度分布は熱伝導で均一な状態を確保できるが、型の肉部途中から熱放散のために温度が低下していき、型の外表面より外側では急激に温度が低下する。よって、型内と型外とで大きな温度差が発生する。
【特許文献1】特許第3629441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記装置の温度計測には一般に熱電対が用いられる。その熱電対は、低融点材料からなる安価なものや高融点材料からなる高価なものなど、種々のものが存在する。そして、一般的には、1200℃までの温度測定にはK熱電対が、それ以上の高温度領域、例えば1600℃の高温度ではR熱電対などが用いられる。また、このように1200℃程度以上の測定温度においては、上述のように規制を受ける熱電対に代えて、規制の少ない放射温度計も用いられる。
【0007】
その理由は、次の通りである。現在、シーズカップル式の熱電対において使用可能な温度(以下、耐熱温度とも言う)が1800℃までのものがあるが、このカップルのシーズ材はタンタル、モリブデン、タングステンなどの高融点金属の材料が使われている。これらの金属はいずれも高温度で炭化反応が強く、このようなシーズ材料のカップルを使用すると、シーズ材料と型の黒鉛とが反応してカップルの寿命が著しく短命になる。甚だしい場合には1回の使用で炭化破損する。これらのカップルは価格も耐熱温度が1200℃までのK熱電対に比較して10倍以上のため、消耗品的要素の強いセンサーの損傷は使用する側にとっては実用的でない。そのため、1200℃までは1200℃を耐熱温度とする安価な熱電対を用い、それ以上の高温度領域では放射温度計を用いることが多い。但し、放射温度計は、その測定原理故に低温度(例えば800℃以下)での測定には向いていない。
【0008】
しかしながら、上述した通電熱加工装置において放射温度計を用いることは、正確な測定が行えず、測定誤差が発生するという難点がある。つまり、通電熱加工装置では、上述したように被加工物を電流が通過する際の電気抵抗に応じて発生する熱エネルギーによる加熱方式であるので、熱電対のように型の内側を測定対象とし得るものであれば支障はないが、放射温度計では型の外側が測定対象となるため、前述のように熱放散されていて被加工物の温度よりも低い温度を測定することとなるからである。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、放射温度計を使用しても被加工物の正確な温度測定を可能とする通電熱加工装置及び温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る通電熱加工装置は、窓を有する真空チャンバー内に設けた筒状の型と該型内に少なくとも一方が摺動可能に取付けられた2つの電極とで囲まれる密封空間内に焼結材料を充填し、その焼結材料に対して両電極により押圧力を付与しつつ電流供給を行って加熱し、焼結材料を被加工物に加工する通電熱加工装置において、上記被加工物の加熱温度を型の肉部を測温して求めるための熱電対と、上記被加工物の加熱温度を前記窓から型外表面を測温して求めるための放射温度計と、上記熱電対の耐熱温度以下では熱電対の計測温度を用い、上記耐熱温度を越えるときは上記放射温度計の計測温度を用いる温度計選択手段と、上記温度計選択手段が上記放射温度計の計測温度を用いるとき、型肉部の温度と型外表面の温度との差を該放射温度計の計測温度に加算する補正を行って被加工物の加熱温度を求める演算補正手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る通電熱加工装置は、請求項1に記載の通電熱加工装置において、前記演算補正手段は、前記温度計選択手段が前記放射温度計の計測温度を用いるとき、前記耐熱温度における前記熱電対による計測温度に対して低くなる上記放射温度計による計測温度の熱電対による計測温度に対する温度差と、上記耐熱温度を越えるときにおける上記被加工物の温度変化量に対してほぼ一定比率で小さくなる上記放射温度計による計測温度の変化量とを、耐熱温度を越える放射温度計による計測温度に加算する補正を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係る通電熱加工装置は、請求項1または2に記載の通電熱加工装置において、前記熱電対を前記型から離隔させるために使用されるもので、前記真空チャンバーの壁に設けられた熱電対挿通用の貫通孔に取付けられていて、該熱電対の先端を型の肉部と上記真空チャンバー内の型外とにわたりスライドさせるためのスライド機構を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る通電熱加工装置は、請求項3に記載の通電熱加工装置において、前記スライド機構は、相対移動可能な内筒と外筒とを有し、該外筒が前記貫通孔の内側に取付けられ、該内筒の内側に熱電対が内挿されることで、該熱電対をスライド移動可能に支持する構成となっていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5に係る通電熱加工装置は、請求項4に記載の通電熱加工装置において、前記スライド機構のスライドに拘わらず真空チャンバー内の雰囲気状態を維持させ得る雰囲気維持機構を備え、その雰囲気維持機構は、前記内筒の外筒側と前記外筒の内筒側との少なくとも一方に設けた外気溜め部と、その外気溜め部に一端が連通連結された外気導出管とを有し、外気溜め部に溜まった外気が上記真空チャンバー内へ導入されないように該外気導出管の他端が真空引きされる構成となっていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項6に係る通電熱加工装置は、請求項1乃至5のいずれかに記載の通電熱加工装置において、前記型の外面側には、前記熱電対の先端が入る所定深さの計測穴が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項7に係る通電熱加工装置は、請求項1乃至6のいずれかに記載の通電熱加工装置において、前記型の外側に、該型を内側に入れた状態で型を保温する筒状ホットウオールが設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項8に係る通電熱加工装置は、請求項7に記載の通電熱加工装置において、前記型は上下方向に開口を有し、両開口が前記2つの電極により開閉されるように構成されていて、摺動可能な電極には、前記ホットウオールと型との隙間を塞ぐ断熱部材がスライド可能に取付けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項9に係る温度測定方法は、窓を有する真空チャンバー内に設けた筒状の型と該型内に少なくとも一方が摺動可能に取付けられた2つの電極とで囲まれる密封空間内に焼結材料を充填し、その焼結材料に対して両電極により押圧力を付与しつつ電流供給を行って加熱し、焼結材料を被加工物に加工する通電熱加工装置における温度測定方法であって、上記熱電対の耐熱温度以下では、上記被加工物の加熱温度を熱電対により型の肉部を測温して求め、上記耐熱温度を越えるときは、上記被加工物の加熱温度を放射温度計により前記窓から型外表面を測温するとともにその放射温度計の計測温度に型肉部の温度と型外表面の温度との差を加算して求めることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項10に係る温度測定方法は、請求項9に記載の温度測定方法において、前記所定温度よりも高い温度域では、前記熱電対の先端を前記型の肉部から前記真空チャンバー内の型外へとスライドさせることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項11に係る温度測定方法は、請求項9または10に記載の温度測定方法において、前記放射温度計として、レーザー投光機能を持つものを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明装置および本発明方法にあっては、熱電対の耐熱温度以下では、被加工物の加熱温度を熱電対により型の肉部を測温して求め、耐熱温度を越えるときは、被加工物の加熱温度を放射温度計により前記窓から型外表面を測温するとともにその放射温度計の計測温度に型肉部の温度と型外表面の温度との差を加算して求めるので、放射温度計を使用しても被加工物の正確な温度測定が可能となる。
【0022】
請求項2の装置による場合には、放射温度計による計測のとき、耐熱温度における熱電対による計測温度に対して低くなる放射温度計による計測温度の熱電対による計測温度に対する温度差と、耐熱温度を越えるときにおける被加工物の温度変化量に対してほぼ一定比率で小さくなる放射温度計による計測温度の変化量とを、耐熱温度を越える放射温度計による計測温度に加算して補正するため、放射温度計を使用しても被加工物の正確な温度測定が可能となる。
【0023】
請求項3または4の装置による場合には、放射温度計により温度測定を行うとき、熱電対の先端を型の外側へ退避させることが可能となる。よって、例えば1200℃程度を耐熱温度とする安価な熱電対を用いることができる。
【0024】
請求項5の装置による場合には、熱電対をスライドさせると、内筒と外筒との間に設けた外気溜め部に外気が溜まっても、その外気が外気導出管を介して真空引きされて真空チャンバー内へ導入されないため、真空チャンバー内の雰囲気状態を熱電対のスライドに拘わらず維持させることができる。
【0025】
請求項6の装置による場合には、型の外面側の計測穴に熱電対の先端を入れることで、型内の被加工物の温度を正確に測定することが可能になる。このとき、計測穴は正確な温度の測定が可能な深さにすることが好ましい。また、その深さは型が破損しない寸法に設定することが望ましい。
【0026】
請求項7の装置による場合には、筒状ホットウオールが型の外側の温度変化を抑制することとなる。ホットウオールとしては、加熱手段を有するものが好ましいが、加熱手段は必須ではなく断熱効果を有するものであればよい。
【0027】
請求項8の発明による場合には、型の軸心方向の両側では筒状ホットウオールと型との間に隙間が存在し、その隙間から熱が放散されることになるが、型両端の開口を塞ぐ電極に断熱部材を取付けておくと、その断熱部材により上記隙間を塞ぐことが可能になる。このとき、焼結材料に押圧力を付与するために、少なくとも一方の電極は移動可能に設けられるが、そのように移動可能な電極に対しては断熱部材をスライド可能に取付けておくことで、移動可能な電極の移動に拘わらず断熱部材で上記隙間を塞ぐことができる。
【0028】
請求項10の発明による場合には、熱電対の先端を型の外側へ退避させることが可能となる。よって、耐熱温度が1200℃程度の低融点材料からなる安価な熱電対を用いることができ、低コスト化が可能になる。
【0029】
請求項11の発明による場合には、レーザー投光機能を持つ放射温度計を使用することで、前記熱電対による測定位置の近接点をレーザー投光により判別することが可能になるので、熱電対による測定と関連した放射温度計による温度計測が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0031】
図1は、本発明の通電熱加工装置を示す正面図である。
【0032】
この通電熱加工装置1は、内部が減圧される真空チャンバー2を有し、その真空チャンバー2内には筒状、例えば円筒状をした黒鉛製の型3が軸心を上下方向にして配置されている。その型3の下側には下部電極4が、型3の上側には上部電極5が設けられている。
【0033】
下部電極4は、真空チャンバー2の底面に設けた貫通孔2aを挿通する下部電極本体4aと、その上側に設けられた複数(図示例では3つ)のスペーサ4b、4c、4dと、これらスペーサ4b〜4dの上に設けられたポンチ部4eと、ポンチ部4eの上に設けられた均熱部4fとを有する。この下部電極4を構成する各部材4a〜4fは、すべて導電性材料、例えば黒鉛製である。なお、ポンチ部4eの外側には、一番上側のスペーサ4dと型3の下端との距離を一定に保持するための位置決め用筒体4gが設けられており、また貫通孔2aと下部電極本体4aとの間はシール部材12によりシールされていて、減圧に影響を与えないようになっている。
【0034】
この下部電極4は、均熱部4fとポンチ部4eの上部とが型3内に嵌入されていて、上下動しない構成となっている。
【0035】
上部電極5は、上記下部電極4とは概略上下逆配置に構成されている。即ち、真空チャンバー2の天井面に設けた貫通孔2bを挿通する上部電極本体5aと、その下側に設けられた複数(図示例では3つ)のスペーサ5b、5c、5dと、これらスペーサ5b〜5dの下に設けられたポンチ部5eと、ポンチ部5eの下に設けられた均熱部5fとを有する。この上部電極5を構成する各部材5a〜5fは、すべて導電性材料、例えば黒鉛製である。なお、貫通孔2bと上部電極本体5aとの間はシール部材13によりシールされていて、減圧に影響を与えないようになっている。
【0036】
この上部電極5は、均熱部5fとポンチ部5eの下部とが型3内に嵌入されていて、図示しない昇降手段により上下動するようになっている。また、この上部電極5には例えばパルス電流が供給される。
【0037】
上記型3と均熱部4fと均熱部5fとで囲まれた密封空間8の内部には、被加工物9に加工される焼結材料が充填され、その充填された焼結材料は上下動する上記上部電極5の降下により押圧されるとともに、両電極4、5間を流れる上記パルス電流により加熱される。この加熱のときの温度分布は、前述した図5のようになる。
【0038】
型3の外側には、概略筒状、例えば円筒状のホットウオール6が型3とほぼ同心状に設けられている。ホットウオール6は型3の外側において熱放散による熱低下を抑制するためのものであり、例えば断熱材などが用いられる。このホットウオール6は、ヒータ7を有する構成としている。ヒータ7は、ホットウオール6の内側、つまり型3に近い側に設けられていて、型3の外側における熱放散による熱低下をより効果的に抑制する。
【0039】
上記真空チャンバー2の底面とホットウオール6の下端との間には、環状、例えば円環状の断熱部材10が設けられている。この円環状の断熱部材10の内径は、下部電極4における一番下側であって一番直径の大きいスペーサ4bの直径よりも少し大きい寸法に設定されていて、型3の下端側であってホットウオール6との間の隙間から熱が逃げないように断熱部材10を配置している。
【0040】
一方、上部電極5側には、スペーサ5bの上側に環状、例えば円環状の断熱部材11が設けられている。この円環状の断熱部材11の内径は、スペーサ5bの外径よりも小さくかつ上部電極本体5aの外径よりも少し大きくなるように設定されていて、断熱部材11はスペーサ5bの上面で支持されている。また、断熱部材11の外径はホットウオール6の内径よりも大きく設定されている。よって、上部電極5の昇降移動に伴って断熱部材11も昇降するが、断熱部材11がホットウオール6の上端に当接する状態になると、断熱部材11の内側を上部電極本体5aが下向きに移動するものの、断熱部材11が降下しないで一定高さ位置に保持され、型3の上端側であってホットウオール6との間の隙間を断熱部材11が覆う。これにより前記隙間から熱が逃げないように断熱部材11が保温する。一方、スペーサ5bが上昇して断熱部材11の下面に当接すると、断熱部材11と一緒に上部電極5が上昇する。このため、上述したように上部電極5の降下により焼結材料を押圧するとともに、下部電極4と上部電極5との間に供給されるパルス電流により焼結材料を加熱するとき、断熱部材11が型3の上端側であってホットウオール6との間の隙間を覆い、その隙間から熱を逃さずに保温する状態になる。
【0041】
真空チャンバー2の側面には、型3の温度を測定するための熱電対をスライドさせるスライド機構20と、型3の温度を放射温度計により光学的に測定するための窓21とが設けられている。スライド機構20は、真空チャンバー2の側面に設けた貫通孔22に取付けられていて、相対移動可能な内筒23と外筒24とを有し、外筒24が貫通孔22の内側に取付けられ、内筒23の内側に熱電対30が内挿されることで、熱電対30をスライド可能に支持する構成となっている。
【0042】
外筒24は、筒状、例えば円筒状の絶縁耐熱部材25の内面25aを除く外側が金属26で覆われたもので、絶縁耐熱部材25の内面25aと外面25bにはOリング27と外気溜め部28とが設けられている。絶縁耐熱部材25の材質としては、例えばフッ素樹脂が用いられる。
【0043】
Oリング27は、図示例では内面25aに2つ外面25bに2つ設けられているが、個数は任意でよい。外気溜め部28は、空洞であって、外気導出管29を介して真空ポンプ(図示せず)に連通連結されていて(図2参照)、熱電対30をスライドさせるために内筒23を移動させることにより内筒23と外筒24との隙間に入ってきた外気を溜めるとともに真空引きして、外気が真空チャンバー2の内部に入るのを防止するように構成されている。つまり、外気溜め部28および外気導出管29は内筒23のスライドに拘わらず真空チャンバー2内の雰囲気状態を維持させ得る雰囲気維持機構として機能する。
【0044】
内筒23は、例えば金属製のパイプからなり、外側の端部に設けたコンプレッションフィッティングバルブ23aに熱電対30が装着されて取付けられている。上記熱電対30は、その先端30aが型3の肉部に設けた計測穴3aに入る状態と(図3参照)、真空チャンバー2内であって型3の外部に位置する状態とにわたり内筒23をスライドすることで移動可能となっている。図3に示すように計測穴3aの深さL1は、例えば2mm〜3mmとし、また熱電対の直径が例えば1.6mmφである場合には、計測穴3aの内奥部に1.7mmφのR形状の穴を設けるのが好ましい。このような構成とすることで、型強度の低下を防止することが可能になる。
【0045】
前記窓21の外側には、型3の温度を光学的に測定するための放射温度計31が、検出視野を型3に向けて配置されている。放射温度計31としては、例えばレーザー投光機能を持つものを使用するのが好ましい。その理由は、レーザーを投光させて熱電対30で測温する箇所またはその近傍を狙うことで、放射温度計31での測温位置を熱電対30の測温位置と一致させるまたは近づけることが可能となり、測温条件を揃えることが可能になる。なお、図1では窓21と熱電対30とは真空チャンバー2を挟んで反対側に位置するように描いているが、実際には熱電対30は窓21とほぼ同一高さで水平方向にずれた位置に配置される。また、ヒータ7およびホットウオール6において、熱電対30が真空チャンバー2の内外方向に移動する領域と、放射温度計31による測温視野を遮る領域とには、貫通孔を設けることで測温の邪魔にならないように構成されている。
【0046】
放射温度計31により測温された温度信号と熱電対30により測温された温度信号とは、図示しない演算装置、例えばパーソナルコンピュータ32に与えられ、パーソナルコンピュータ32により以下の演算が行われる。
【0047】
パーソナルコンピュータ32は、図4に示すように、アナログ集録ボード33と温度計選択部34と演算補正部35とを有する。
【0048】
熱電対30により測温された温度信号は、起電力(mV)として捉えられ、これが0V〜10Vに増幅されるとともに熱電対30自身の持つ測定誤差に関して補正され、パーソナルコンピュータ32に内蔵されたアナログ集録ボード33に電圧信号として入力される。
【0049】
一方、放射温度計31により測温された温度信号は、例えば4mA〜20mAの範囲内の値として捉えられ、これが0V〜10Vに変換されて同様にアナログ集録ボード33に電圧信号として入力される。なお、放射温度計31により測温された温度信号は、アナログ集録ボード33とは別のアナログ集録ボードに入力してもよい。
【0050】
温度計選択部34は、例えば1200℃以下では熱電対30により測温された温度データを用い、1200℃を越える温度では放射温度計31により測温された温度データを用いるように設定されている。なお、用いる温度データは、実質的にはアナログ集録ボード33に入力された温度データがアナログ/ディジタル変換されたものである。
【0051】
演算補正部35は、熱電対30により測温された温度T0が1200℃のとき、その温度T0と放射温度計31により測温された温度T1との差T0−T1を基準補正値V0として求めるように設定されている。なお、基準補正値V0を1200℃で求めているのは、低い温度よりも熱電対30の耐熱温度に相当する温度、つまり放射温度計での測定温度を用い始める温度(高い温度)に近い方が、1200℃よりも高温度において放射温度計を用いるときの測定温度誤差を少なくし得るからである。
【0052】
ここで、図5に、熱電対により測温された温度と、放射温度計31により測温された温度との比較を示す。但し、横軸に時間をとっているが、時間の経過を示すものではなく、温度計の違いによる温度の相違を表すために時間をずらせている。なお、1200℃以下の実線ではK熱電対を用いたときの温度を、1200℃よりも高い温度における一点鎖線ではR熱電対を用いたときの温度を示しており、また各熱電対による温度は熱電対自身による温度誤差を補正した値である。
【0053】
図5より理解されるように、熱電対による計測値が1200℃よりも低い温度では熱電対による計測値(実線)に対して放射温度計による計測値(二点鎖線)の差が基準補正値V0よりも小さく、熱電対による計測値が1200℃以上の温度では熱電対による計測値に対して放射温度計による計測値の差が基準補正値V0よりも大きくなっている。本実施形態では熱電対による計測値が1200℃よりも低い温度では熱電対による計測値を用いるようにしているので、放射温度計による計測値の差を考えず、1200℃以上の温度での放射温度計による計測値の差を解消させる必要がある。
【0054】
また、上述した1200℃以上の温度では、熱電対による計測値に対する放射温度計による計測値の差が大きくなっている。それも測定温度の上昇に伴ってほぼ一定の比率で大きくなるという比例関係がある。例えば、放射温度計による計測値が10℃上昇すると、熱電対による計測値よりも約1℃低くなるという比例関係がある。
【0055】
そこで、1200℃を越える温度では、放射温度計31により測温された温度T2と、基準補正値V0を求めたときの放射温度計31による測定温度T1との差T2−T1に基づいて、基準補正値V0を増減して温度補正値V1を求める。例えば、V0+α(T2−T1)=V1を求める。ここで、αは、上述した比例関係を表す比例係数で、例えば0.1が選ばれる。
【0056】
そして、その求めた温度補正値V1と放射温度計31により測温された温度T2とに基づいて被加工物9の温度を算出する。例えば、T2+V1を算出する。この算出値はR熱電対を用いて測定した温度とほぼ等値となり、被加工物9の温度をほぼ正確に求めることが可能になる。そして、このような演算に関するプログラムがパーソナルコンピュータ32に設定されている。なお、上述したT2+V1の算出値は、パーソナルコンピュータ32とは別の表示装置36またはパーソナルコンピュータ32の表示画面に表示される。
【0057】
このように構成された本実施形態の通電熱加工装置1における温度測定方法につき説明する。
【0058】
まず、型3の中であって下部電極4と上部電極5の間の密封空間8の内部に、被加工物9に加工される焼結材料を充填する。また、熱電対30の先端30aを型3の計測穴3aにセットしておく。
【0059】
続いて、上部電極5を降下させることにより焼結材料を押圧するとともに、両電極4、5間にパルス電流を供給する。これにより焼結材料に電流が流れて焼結材料が加熱されていく。この加熱に際して、熱電対30による測定温度と、放射温度計31による測温温度とは、パーソナルコンピュータ32に入力され、温度計選択部34にて上述したように用いられる。なお、本実施形態における焼結材料の加熱温度は、1200℃よりも高い温度、例えば1600℃に設定している。
【0060】
そして、熱電対30による測定温度が、本実施形態では1200℃に到達すると、演算補正部35は熱電対30により測温された1200℃の温度T0と放射温度計31により測温された温度T1との差を基準補正値V0として求める。また、オペレータは熱電対30が耐熱温度に達していると判断して熱電対30の先端を型3から抜いて離し、熱電対30の温度上昇を回避して熱電対30が壊れることから保護する。
【0061】
熱電対30による測定温度が1200℃に到達した後では、演算補正部35は、放射温度計31により測温された温度T2と、基準補正値V0を求めたときの放射温度計31による測温温度T1との差に基づいて、基準補正値V0を増減して温度補正値V1{=V0+α(T2−T1)}を求め、その求めた温度補正値V1と放射温度計31により測温された温度T2とに基づいて被加工物9の温度(T2+V1)を算出する。これにより、被加工物9の温度である1600℃がほぼ正確に求められることになる。
【0062】
なお、上述した実施形態においては被加工物9の加熱温度を1600℃に設定した場合について説明しているが、本発明はこれに限らない。要は、被加工物の加熱温度が熱電対の測定可能な耐熱温度よりも高い任意の温度である場合にも適用することが可能である。
【0063】
また、上述した実施形態では耐熱温度が1200℃である熱電対を用いる場合を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限らない。例えば耐熱温度が1200℃よりも高い熱電対を使用する場合にも適用することができる。例えば、耐熱温度が1300℃である熱電対を使用する場合には、1300℃までは熱電対を用い、1300℃よりも高い温度では放射温度計を用いて、同様な温度補正を行うことで適用することができる。
【0064】
更に、上述した実施形態においては温度測定手段を熱電対から放射温度計に切り換えるときに、熱電対の先端をオペレータにより型から退避させる手動式を採用しているが、本発明はこれに限らず、自動制御により熱電対をスライドさせる方式を採用してもよい。このような自動制御方式を用いる場合には、人為的な退避忘れを防止することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の通電熱加工装置を示す正面図である。
【図2】図1の通電熱加工装置に備わったスライド機構と雰囲気維持機構の説明図である。
【図3】型に設けた計測穴の説明図である。
【図4】本発明の通電熱加工装置に備わったパーソナルコンピュータおよびその周辺機器の構成図である。
【図5】本発明の温度測定方法の説明に用いる図(グラフ)である。
【図6】型の内外での温度勾配を示す図(グラフ)である。
【符号の説明】
【0066】
1 通電熱加工装置
2 真空チャンバー
3 型
3a 計測穴
4 下部電極
5 上部電極
6 ホットウオール
8 密封空間
9 被加工物
10、11 断熱部材
20 スライド機構
21 窓
23 内筒
24 外筒
28 外気溜め部
29 外気導出管
30 熱電対
31 放射温度計
32 パーソナルコンピュータ
34 温度計選択部(温度計選択手段)
35 演算補正部(演算補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓を有する真空チャンバー内に設けた筒状の型と該型内に少なくとも一方が摺動可能に取付けられた2つの電極とで囲まれる密封空間内に焼結材料を充填し、その焼結材料に対して両電極により押圧力を付与しつつ電流供給を行って加熱し、焼結材料を被加工物に加工する通電熱加工装置において、
上記被加工物の加熱温度を型の肉部を測温して求めるための熱電対と、
上記被加工物の加熱温度を前記窓から型外表面を測温して求めるための放射温度計と、
上記熱電対の耐熱温度以下では熱電対の計測温度を用い、上記耐熱温度を越えるときは上記放射温度計の計測温度を用いる温度計選択手段と、
上記温度計選択手段が上記放射温度計の計測温度を用いるとき、型肉部の温度と型外表面の温度との差を該放射温度計の計測温度に加算する補正を行って被加工物の加熱温度を求める演算補正手段とを具備することを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通電熱加工装置において、
前記演算補正手段は、前記温度計選択手段が前記放射温度計の計測温度を用いるとき、前記耐熱温度における前記熱電対による計測温度に対して低くなる上記放射温度計による計測温度の熱電対による計測温度に対する温度差と、上記耐熱温度を越えるときにおける上記被加工物の温度変化量に対してほぼ一定比率で小さくなる上記放射温度計による計測温度の変化量とを、耐熱温度を越える放射温度計による計測温度に加算する補正を行うことを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の通電熱加工装置において、
前記熱電対を前記型から離隔させるために使用されるもので、前記真空チャンバーの壁に設けられた熱電対挿通用の貫通孔に取付けられていて、該熱電対の先端を型の肉部と上記真空チャンバー内の型外とにわたりスライドさせるためのスライド機構を備えることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載の通電熱加工装置において、
前記スライド機構は、相対移動可能な内筒と外筒とを有し、該外筒が前記貫通孔の内側に取付けられ、該内筒の内側に熱電対が内挿されることで、該熱電対をスライド移動可能に支持する構成となっていることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載の通電熱加工装置において、
前記スライド機構のスライドに拘わらず真空チャンバー内の雰囲気状態を維持させ得る雰囲気維持機構を備え、その雰囲気維持機構は、前記内筒の外筒側と前記外筒の内筒側との少なくとも一方に設けた外気溜め部と、その外気溜め部に一端が連通連結された外気導出管とを有し、外気溜め部に溜まった外気が上記真空チャンバー内へ導入されないように該外気導出管の他端が真空引きされる構成となっていることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の通電熱加工装置において、
前記型の外面側には、前記熱電対の先端が入る所定深さの計測穴が設けられていることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の通電熱加工装置において、
前記型の外側に、該型を内側に入れた状態で型を保温する筒状ホットウオールが設けられていることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項8】
請求項7に記載の通電熱加工装置において、
前記型は上下方向に開口を有し、両開口が前記2つの電極により開閉されるように構成されていて、摺動可能な電極には、前記ホットウオールと型との隙間を塞ぐ断熱部材がスライド可能に取付けられていることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項9】
窓を有する真空チャンバー内に設けた筒状の型と該型内に少なくとも一方が摺動可能に取付けられた2つの電極とで囲まれる密封空間内に焼結材料を充填し、その焼結材料に対して両電極により押圧力を付与しつつ電流供給を行って加熱し、焼結材料を被加工物に加工する通電熱加工装置における温度測定方法であって、
上記熱電対の耐熱温度以下では、上記被加工物の加熱温度を熱電対により型の肉部を測温して求め、上記耐熱温度を越えるときは、上記被加工物の加熱温度を放射温度計により前記窓から型外表面を測温するとともにその放射温度計の計測温度に型肉部の温度と型外表面の温度との差を加算して求めることを特徴とする温度測定方法。
【請求項10】
請求項9に記載の温度測定方法において、
前記所定温度よりも高い温度域では、前記熱電対の先端を前記型の肉部から前記真空チャンバー内の型外へとスライドさせることを特徴とする温度測定方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の温度測定方法において、
前記放射温度計として、レーザー投光機能を持つものを使用することを特徴とする温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−246938(P2007−246938A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67984(P2006−67984)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(398013532)エス.エス.アロイ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】