説明

連続金属層を有する粒子から成る微細な固体組成物、その製造方法およびその触媒としての使用

【課題】平均粒径が25μm以上かつ2.5mm以下の粒子をから成る微細な固体組成物と、この組成物の製造方法と、その固体触媒としての使用。
【解決手段】各粒子は固体の多孔質コアと、孔にアクセスできないようにコアを被覆したコアに沿って延びた少なくとも一種の酸化されていない遷移金属から成る均質な連続した金属の層のシェルとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に少なくとも一種の遷移金属を有する平均粒径(D50)が25μm以上かつ2.5mm以下の粒子から成る微細な固体組成物に関するものである。
本発明はさらに、この固体組成物の製造方法と触媒としての使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面に酸化されていない状態の少なくとも一種の遷移金属を有する粒子から成る微細な固体組成物は多くの化学反応の触媒として使用できる。分散担持金属触媒の場合、金属粒子またはクラスターの寸法が小さくなる程、また、支持体粒子(grain)上での分散度が大きくなる程、触媒の触媒活性が良くなるということは知られている(例えば下記文献等を参照)。
【特許文献1】フランス国特許第2707526号公報
【特許文献2】米国特許第5,500,200号明細書
【特許文献3】米国特許第6,423,288号明細書
【特許文献4】国際特許公開第WO/03002456号公報
【0003】
炭素源を気相で熱分解してカーボンナノチューブを製造する際に、酸化されていない金属を触媒として用いる場合、複数の不連続な金属触媒サイトを支持体粒子上に分布させ、分布した金属サイトの寸法を生成すべきナノチューブの直径に対応させる必要があると考えられている。この点に関する研究は極めて広範囲に行なわれている。
【0004】
別の解決法はナノチューブの直径と同じ直径を有する触媒粒子を用いて、金属粒子または粒子を各ナノチューブの末端へ導く方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は上記の方法とは完全に矛盾するこれまでの理論では説明できない全く驚くべき方法を見出した。すなわち、本発明者は、多孔質コアの回りにシェルの形で形成した寸法の大きな酸化されていない金属の被膜(depot、析出、付着物、層)が予期しない特性、特に固体触媒としての特性、特に気相での脱水素および/または熱分解反応、特に珪素および/または炭素および/またはホウ素および/または窒素のナノ粒子、特に気体の炭素源からカーボンナノチューブを選択的に製造するための固体触媒としての特性を有することを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の対象は、平均粒径が25μm以上かつ2.5mm以下の粒子からなり、各粒子が下記のコア(1)とシェル(2)とを有する微細な固体組成物にある:
(1)メソ多孔体および/またはミクロ多孔体の固体材料からなるコア、
(2)コアのメソ多孔体および/またはミクロ多孔体に接触できないように、コアを被覆した酸化されていない鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、銅、タングステン、クロム、ルテニウム、パラジウムおよび白金の中から選択される少なくとも一種の遷移金属の均質な連続した金属シェル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
「連続した」シェルまたは層とは、別の種類の部分(特に、酸化されていない金属で被覆されていない部分)を通らずにシェルまたは層の全表面を連続して通ることができるということを意味する。すなわち、本発明組成物では金属が各粒子の表面上に分散しているのではなく、逆に、連続層を形成し、金属が粒子の見掛けの表面積にほぼ対応する見掛けの表面積を有する。この金属層はその全容積が同一の固体組成を有する少なくとも一種の純粋な金属から成るという意味では「均質」でもある。この金属層はコアの全表面を被覆し、シェルを形成する。
【0008】
全く驚くことで、しかも、これまでの理論では説明できないことに、本発明組成物は、粒子のコアに外側から接触できず、特に、反応物(リアクタント)にアクセスできないにもかかわらず、コアが多孔質ではない類似組成物で得られるものとは完全に異なる作用効果、特に触媒としての作用効果を示すということ、そして、本発明組成物の比表面積は、コアの孔(pores、ポア)にアクセスできた場合に得られる比表面積と大きく異なる、ということを本発明者は見い出した。
【0009】
本発明では、金属シェルは固体支持体上に一段階で析出、付着される元素状の金属被膜(すなわち、元素状態にある一種または複数の金属すなわち原子またはイオンの形で付着、沈着されもの)の一部を成すのが有利である。一段階で析出、付着される元素状の上記金属被膜は真空蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)または電気メッキによって形成できる。
【0010】
しかし、この元素状の金属被膜は液相で複数段階で行われるプロセス、特に沈殿、含浸または溶融状態での付着や凝固あるいは金属酸化物を付着した後に還元するプロセスでは得ることができない。本発明組成物は冶金プロセスで製造された純粋な金属塊をミリング(粉砕)して得られる組成物とは区別される。
【0011】
一段階で付着される元素状の金属被膜は金属の結晶性ミクロドメイン(microdomains)から成る。この元素状の金属被膜は互いに凝集した金属球(bulbes)(丸い小球、globuleux)から成る。
【0012】
本発明の一つの組成物では、製造直後で組成物を酸化媒体と接触させていな状態では、金属シェルが粒子の外側表面を形成する。組成物が大気と接触すると酸化被膜が周りに形成される。この酸化被膜は、必要な場合、還元段階で除去できる。
【0013】
本発明では金属シェルが粒子のマクロ形状の表面(孔を考慮に入れないで考えた表面エンベロープ)を被覆し、それ自体が閉曲面であるのが有利である。すなわち、金属シェルが多孔質コアの周りで閉曲面になって延びている。「閉曲面」とは有限の内部空間(これは粒子のコアであり、各種の形状、球、多面体、角柱、トーラス、円柱、円錐等をとることができる)を規定し且つ取り囲む表面というこの用語の位相学的な意味で用いられる。各粒子の形状は固体材料のコアの形状と、このコア上に形成される金属シェルを構成する元素状の金属被膜の形成条件とに依存する。
【0014】
金属シェルが孔に接触できないように作られているということ、それによって、表面上ではコアの構成成分の化学元素に接触できなくなるということは、金属シェルの存在に起因する比表面積の変化の単純な測定、および/または、残留メソ多孔体および/またはミクロ多孔体の容積の計算、および/または、XPS分析によって容易に証明できる。すなわち、本発明組成物の比表面積は、孔にアクセスできない時の粒子の比表面積に対応する。
【0015】
本発明ではコアがアルミナ、活性炭、シリカ、珪酸塩、マグネシア、酸化チタン、ジルコニアおよびゼオライトの中から選択される多孔質材料から成るのが有利である。特に、コアは酸化されていない遷移金属以外の材料から成る。本発明ではさらに、各粒子の金属層の平均見掛け表面積(すなわち、多孔性であることを無視した時のエンベロープ表面の面積)が2×103μm2以上であるのが有利である。特に、本発明では各粒子の金属シェルの平均見掛け表面積は104μm2〜1.5×105μm2であるのが有利である。
【0016】
本発明ではさらに、各粒子の金属シェルの見掛け上の展開全平均寸法(developed overall mean dimension)が35μm以上であるのが有利である。展開全体平均寸法とは金属シェルを平面内で仮想的に展開したときの金属シェルを区画するディスクの相当半径を意味する。本発明では各粒子の金属シェルの見掛け上の展開全平均寸法が200〜400μmであるのが有利である。元素状金属の付着で形成され、金属シェルを形成する金属球の平均寸法は10nm〜1μm、特に30〜200nmである。
【0017】
本発明では、本発明組成物の粒子の流動床が形成できるように粒子の形状および寸法を合せるのが有利である。本発明組成物は流動床、特に担持金属触媒としての流動床を形成する適用できるが有利である。
本発明では平均粒径(D50)が100〜200μmであるのが特に有利である。粒子のマクロ形状は全体がほぼ球形であってもなくてもよい。本発明はマクロ形状が平らな粒子(フレーク、ディスク等)および/または細長い粒子(円柱、ロッド、リボン等)にも適用できる。
【0018】
本発明の固体コアは比表面積が100m2/g以上の多孔質材料から成るのが有利である。しかし、本発明の固体組成物の比表面積は25m2/g以下である。
上記金属層を形成するために、元素状の金属被膜の厚さの少なくとも一部が多孔質コアに対して過剰な厚さで延びることに注目すべきである。金属被膜の少なくとも一部は多孔質コアの厚さの中まで及ぶこともある。しかし、金属被膜を含浸した固体多孔質コアと多孔質コアから延びる金属シェルとの間の界面やその相対配置を正確かつ明確に測定することは必ずしも簡単にはできない。
【0019】
本発明では元素状の金属被膜(上記の均質な連続金属シェルと金属が含浸した多孔質コアの部分とを含む)の厚さが0.5μm以上、特に約2〜20μmであるのが有利である。
本発明では金属シェルが鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、銅、タングステン、クロム、ルテニウム、パラジウムおよび白金の中から選択される少なくとも一種の金属を含むのが特に有利である。特に、金属シェルはタンタルシェル以外である。本発明組成物は鉄を主成分とする金属被膜から成るシェルで被覆された多孔質アルミナ粒子から成るのが有利である。本発明の特に有利な実施例の組成物では金属シェルが鉄の層である。
【0020】
本発明ではさらに、組成物が35重量%以上の一種または複数の金属を含むのが有利である。
本発明組成物は上記のような粒子から主として成り、すなわち、上記のような粒子を50%以上、好ましくは90%以上含むのが有利である。
本発明組成物はさらに、ユニモダルな粒度分布を有し、粒子の相当直径が組成物の粒子の平均径の80〜120%であるのが有利である。
【0021】
本発明はさらに、上記のような粒子のみからなる(不純物は除く)、すなわち全ての粒子が上記または下記に定義した本発明の特徴の全てまたはいくつかに従う粒子のみから成る組成物に関するものである。
【0022】
本発明はさらに、本発明組成物の製造方法に関するものである。
本発明はさらに、非酸化媒体中で、各粒子のコアを形成する固体支持体粒子上に酸化されていない少なくとも一種の遷移金属の被膜を析出、付着させる、平均粒径が25μm以上かつ2.5mm以下の粒子から成る微細な固体組成物の製造方法において、メソ多孔体および/またはミクロ多孔体からなる固体材料の支持体上に、各粒子のコアを被覆する均質な連続金属シェルを各メソ多孔体および/またはミクロ多孔体固体コア上に形成するのに適した時間をかけて、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、銅、タングステン、クロム、ルテニウム、パラジウムおよび白金の中から選択される少なくとも一種の酸化されていない遷移金属から成る元素状の金属の被膜の形で付着させ且つコアのメソ多孔体および/またはミクロ多孔体にアクセスできないように析出、付着させることを特徴とする方法に関するものである。
【0023】
本発明では、固体支持体粒子の流動床中に上記の金属の被膜を形成させることができる少なくとも一種の気相の先駆体が供給して、上記の金属の被膜を上記流動床中で元素状の金属被膜の形(すなわち、金属が元素状態すなわち原子またはイオン状で析出、付着した形)で一段階で析出、付着させるのが有利である。これは真空蒸着、気相での沈着または電気メッキで行うことができる。
本発明では金属被膜を化学蒸着法で析出、付着させるのが有利である。
本発明では少なくとも一種の有機金属先駆体を用いて金属被膜を析出、付着させるのが有利である。
【0024】
本発明では少なくとも一種の先駆体を[Fe(CO)5] (ペンタカルボニル鉄), [Fe(Cp)2] (フェロセンまたはビス(シクロペンタジエニル鉄), [Fe(acac)3] (トリアセチルアセトネート鉄), [Mo(CO)6] (ヘキサカルボニルモリブデン), [Mo(C5H5) (CO)3]2 (シクロペンタジエニルトリカルボニルモリブデン二量体), [Mo(アリル)4] (テトラアリルモリブデン), [W(CO)6] (ヘキサカルボニルタングステン), (W(C6H6)2] (ビス(ベンゼン)タングステン), [W(But)3] (トリブチルタングステン), [W(アリル)4] (テトラアリルタングステン), [Ni(CO)4] (テトラカルボニルニッケル), [Ni(Cp)2] (ニッケロセンまたはビス(シクロペンタジエニル)ニッケル)、[Ni(CH3C5H4)2] (ビス(メチルシクロペンタジエニル)ニッケル)、 [Cr(CO)6] (ヘキサカルボニルクロム), [Cr(C5H5) (CO)3]2 (シクロペンタジエニルトリカルボニルクロム二量体), [C6H6Cr-(CO)3)] (フェニルトリカルボニルクロム), [Cr(C6H6)2] (ビス(ベンゼン)クロム), [Cu(acac)2] (ジアセチルアセトネート銅), [Cu(hfacac)2] (ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅), [Co2(CO)8] (オクタカルボニルジコバルト), [Pd(アリル)Cp] (アリル シクロペンタジエニルパラジウム), [Pt(CH3)2(COD)] (ジメチルシクロオクタジエン白金), [Ru(CO)5] (ペンタカルボニルルテニウム)および[RuCp2](ルテノセン)の中から選択するのが有利である。
【0025】
各先駆体は蒸気相で連続的にガス混合物で希釈ができる。このガス混合物は支持体粒子の流動化と粒子上への原子状金属の析出、付着とを確実にするのに適した条件下で、固体支持体粒子を収容した反応器中へ、連続的に送られる。
本発明では上記組成物が得られるように金属被膜を析出、付着させるのが有利であり、特に、固体支持体、先駆体および析出、付着時間を上記の幾何学的特徴が達成できるように選択する。
【0026】
本発明の別の対象は上記定義の本発明方法によって得られる組成物にある。
本発明のさらに別の対象は本発明組成物の固体触媒としての使用にある。
本発明のさらに別の対象は少なくとも一種の本発明組成物を固体触媒として用いた少なくとも一種の固体触媒の存在下で行なわれる化学反応方法にある。
本発明組成物は不均質な固体触媒として任意の化学反応、特に気相熱分解反応で使用できる。本発明は少なくとも一種の流体反応物を用いる脱水素反応であるのが特に有利である。
【0027】
本発明が特に対象にするのは、少なくとも一種の本発明組成物を固体触媒として用いることを特徴とする珪素、炭素、ホウ素、窒素およびこれら元素の混合物の中から選択される材料のナノ粒子の製造方法である。
本発明の反応は気体の炭素源の熱分解によるカーボンナノチューブを選択的に製造する反応であるのが有利である。すなわち、本発明の対象は、触媒粒子とよばれる、粒子の形をした少なくとも一種の担持固体触媒と接触させた気相状態の炭素源を分解することによるカーボンナノチューブの選択的製造方法において、少なくとも一種の本発明組成物(上記特徴の全てまたはいくつかを有する)を固体触媒として用いることを特徴とする方法にある。
【0028】
本発明のさらに別の対象は、上記または下記の特徴の全てまたはいくつかを組み合わせることを特徴とする組成物、製造方法および化学反応方法にある。
本発明の上記以外の目的、特徴および利点は添付図面を参照した以下の説明からより良く理解できよう。
【0029】
[図1]は本発明の微細な固体触媒組成物の製造方法を実施するための設備の図である。この設備は化学蒸着法(CVD)によって触媒組成物を合成するための沈着反応器(deposition reactor)20とよばれる反応器を備えている。この反応器は有機金属先駆体が導入されるガラス昇華器1を備えている。この昇華器1は焼結板を有し、熱浴2によって所望温度まで加熱することができる。有機金属先駆体の蒸気を随伴する不活性キャリヤーガス3(例えばヘリウム)はボトルに貯蔵され、流量調整弁(図示せず)を介して昇華器1に送られる。
【0030】
昇華器1は反応器の焼結板を備えた下側ガス室4に連結され、この下側ガス室4には有機金属先駆体の分解を活性化させる役目をする水蒸気が導入される。水の存在によって不純物を全く含まない酸化されていない金属被膜(気体/水置換反応による)、従って、高活性な触媒を得ることができる。下側ガス室4は温度調整器(図示せず)によって調節可能な温度にサーモスタット制御されたジャケットを有する。水蒸気は不活性キャリヤーガス5、例えば窒素に随伴される。キャリヤーガス5はボトルに貯蔵され、流量調整弁(図示せず)を介して下側ガス室4へ送られる。また、不活性キャリヤーガス6、例えば窒素を必要な流量に調整して供給して流動化状態を達成する。この不活性キャリヤーガス6はボトルに貯蔵され、流量調節弁(図示せず)を介して下側ガス室4中に供給される。
【0031】
下側ガス室4の頂部をガラス流動カラム7(例えば直径5cm)に密封状態で連結する。このガラス流動カラム7は底部にガス分配器を備え、温度調整器8によって調節可能な温度にサーモスタット制御されるジャケットを有している。ガラス流動カラム7の頂部はトラップを介して真空ポンプ9に連結され、放出された分解ガスが回収される。
【0032】
CVDによる本発明触媒の製造実施例の操作手順は下記の通りである。
質量Mpの先駆体を昇華器1に導入する。質量Mgの支持体粒子をカラム7に注入し、シリンジを用いて所定量(例えば約20g)の水を下側ガス室4に導入する。下側ガス室4とカラム7とから成る組立体の内部を排気し、流動床の温度をT1に上げる。
【0033】
昇華器1を温度Tsに加熱し、キャリヤーガス3、5、6(全流量Q)を導入して装置全体の圧力を値Paに設定する。デポジション(析出、沈着)プロセスが開始し、時間Tdの間、デポジションプロセスが続く。
【0034】
デポジションの最後にゆっくり冷しながら温度を室温に戻し、真空ポンプ9を停止する。システムが室温・大気圧に戻った後に、触媒の粒状組成物を不活性ガス雰囲気(例えば窒素雰囲気)下にカラム7から取出す。この組成物は直ちに使用でき、例えば成長反応器30中でナノチューブの製造に使用できる。
【0035】
成長反応器30は石英の流動カラム10(例えば直径2.6cm)で構成され、その中間部には分配板11(石英フリットから成る)が設けられている。この分配板11上に触媒の粒状組成物を置く。流動カラム10は外部オーブン12を用いて所望温度に加熱できる。この外部オーブン12は流動カラム10に沿って垂直方向へスライドさせることができる。このオーブン12は流動床を加熱しない高い位置か流動床を加熱する低い位置かのいずれかの位置で用いられる。流動カラムに供給されるガス13(ヘリウムと炭素源と水素のような不活性ガス)はボトルに貯蔵され、流量調節弁14を介して供給される。
【0036】
流動カラム10の頂部はトラップ15に密封状態で連結されて、触媒粒状組成物または触媒粒状組成物/ナノチューブ混合物の全ての微粉末を回収する。
流動カラム10の高さは、運転中に触媒粒子の流動床を収用できるような高さに合わされている。特に、流動カラム10の高さはガスの高さの少なくとも10〜20倍に等しく、加熱帯域に対応していなければならない。実施例では全高が70cmのカラム10が用いられ、その60cmの高さが外部オーブン12によって加熱される。
【0037】
ナノチューブを製造するための本発明実施例の運転手順は下記の通りである:
質量Mcの触媒(本発明の粒状組成物)を不活性ガスの雰囲気と一緒に流動カラム10中に導入する。外部オーブン12が触媒床に対して低い位置にあるときにその温度を所望温度Tnに加熱して、不活性ガス雰囲気中または不活性ガス/水素(反応性ガス)混合物中でナノチューブを合成する。
【0038】
上記温度に達したときに炭素源、水素および追加の不活性ガスを流動カラム10に導入する。触媒床の温度Tnで排出なしにバブリング状態が確保されるような全流量QTにする。次に、ナノチューブの成長を開始し、それを時間tnの間続ける。成長後、外部オーブン12を触媒床に対して高い位置へ位置させ、炭素源と水素とに対応するガスの流れを止め、温度をゆっくりと冷して室温に戻す。
【0039】
金属粒子と結合し、支持体粒子に析出、付着したカーボンナノチューブを成長反応器30から取出し、貯蔵する。これは特別な注意なしに行なうことができる。析出、付着した炭素の量は秤量および熱重量分析して決定する。
こうして製造したナノチューブの寸法および分散度は透過電子顕微鏡法(TEM)および走査電子顕微鏡法(SEM)で測定し、ナノチューブの結晶性の評価はX線結晶学およびラマン分光法の解析で行なった。
【実施例】
【0040】
実施例1
上記流動床CVD法によって40重量%のFe/Al23を含む触媒組成物を調製した。キャリヤーガスは窒素にした。有機金属の先駆体はペンタカルボニル鉄にし、支持体はメソ多孔体のγ−アルミナ(細孔容積:0.54cm3/g)にした。このγ−アルミナは120μmと150μmとの間で篩い分けしたもので、比表面積は160m2/gである。
運転条件は下記の通り:
g=25g、
p=58.5g、
1=220℃、
a=40トール、
s=35℃、
Q=250cm3/分、
d=200分。
得られた組成物は30nm〜300nmの鉄の球のマスから成る鉄のシェルで完全に被覆されたアルミナ粒子から成る(図4および図5)。最終材料の比表面積(BET法を用いて測定)は8m2/gで、XPS分析から表面上にはアルミナは存在せず、アクセスできないことが確認された。
【0041】
実施例2
実施例1に示したメソ多孔体Al23上に75重量%の鉄を含む本発明組成物を下記運転条件を用いて調製した。
g=25g、
p=263g、
1=220℃、
a=40トール、
s=35℃、
Q=150cm3/分、
d=350分。
得られた組成物は酸化されていない鉄のシェルで完全に被覆されたアルミナ粒子から成る。XPS分析からアルミナは表面上では存在せず、アクセスできないことが確認された。
【0042】
実施例3
シリカ(SiO2)上に51.5重量%の鉄を含む本発明組成物を上記流動床CVDによって調製した。鉄を析出、付着させるために用いた有機金属先駆体はペンタカルボニル鉄[Fe(CO)5] で、支持体はメソ多孔体のシリカ(細孔容積:1.8cm3/g)で、このシリカは寸法が80〜120μmで、比表面積(BET法)が320m2/gの粒子が得られるように篩い分けされた。キャリヤーガスは窒素にした。
運転条件は下記の通り:
g=50g、
p=52g、
1=220℃、
a=40トール、
s=35℃、
Q=150cm3/分、
d=190分。
得られた組成物は鉄のシェルで完全に被覆されたシリカ粒子から成る。最終材料の比表面積(BET法)は24.1m2/gで、XPS分析から珪素は表面上には存在していないことが確認された。
【0043】
実施例4
実施例3に示すメソ多孔体SiO2上に65.3重量%の鉄を含む本発明組成物をtd=235分にして調製した。
得られた組成物は鉄のシェルで完全に被覆されたシリカ粒子から成る。最終材料の比表面積(BET法)は1.8m2/gで、XPS分析から珪素は表面上には存在していないことが確認された。
【0044】
実施例5
炭素源として気体のエチレン用いて[図2]の設備で実施例1の40% Fe/Al23触媒から多壁カーボンナノチューブを製造した。
運転条件は下記の通り:
c=0.100g、
n=650℃、
Q(H2)=100cm3/分、
Q(C24)=200cm3/分、
Z=300、
n=120分の場合、A=15.6およびP=30.3、
n=240分の場合、A=9.9およびP=39.6。
いずれの場合も、多壁ナノチューブの選択性はほぼ100%である。
【0045】
得られたものは触媒活性A(触媒組成物1g当たりおよび1時間当たりの製造されたナノチューブのグラムで表記される)が約10以上と高く、また、生産性P(触媒組成物1g当たりの製造されたナノチューブのグラムで表記される)も約25以上と高く、ナノチューブ選択性は100%に近かった。
【0046】
公知の触媒は全て、生産性が低いという代償で活性を良くする(支持体上の金属の比率が低い触媒の場合)か、逆に、活性が低いという代償で生産性を高くする(金属の比率が高い触媒の場合)かのいずれかであるので、本発明の結果は極めて驚くべきものである。これら2つのパラメータは工業生産ラインでは重要なパラメータである。選択性と生産性とがよければ次の精製段階を省略できる。高活性であれば反応時間を最小にすることができる。
【0047】
[図5]からさらに、得られたナノチューブの直径は主として約10nm〜25nmで、組成物の粒子の直径は約150μmであることがわかる。この結果は驚くべきものであり、説明できないことで、全ての従来特許の記載に逆らうものである。
【0048】
[図6a]および[図6b]は製造したナノチューブが高い選択性を有し、従って、直接使用できることを示している。特に、従来方法では残留多孔質支持体を除去する必要があったが、本発明ではナノチューブ中の残留多孔質支持体の比率が低い。
【0049】
比較例6
20重量%のFe/Al23を含む触媒組成物を上記の流動床CVD方法によって調製した。キャリヤーガスは窒素にした。有機金属先駆体はペンタカルボニル鉄にし、支持体は無孔のα−アルミナ〔比表面積(BET法):2m2/g〕にした。
操作条件は下記の通り:
g=50g、
p=14g、
1=220℃、
a=40トール、
s=35℃、
Q=250cm3/分、
d=15分。
【0050】
XPS分析で、得られた組成物はアルミナが存在しない表面組成物でアルミナの表面を完全に被覆する鉄球の塊から成るシェルで被覆されたアルミナ粒子から成る。
[図2]の設備で炭素源として気体のエチレンを用い、鉄/無孔アルミナ触媒で多壁カーボンナノチューブを製造した。
運転条件は下記の通り:
c=0.100g、
n=650℃、
Q(H2)=100cm3/分、
Q(C24)=200cm3/分、
Z=500、
n=60分の場合、A=0.9およびP=0.2。
【0051】
この結果は同じ運転条件下で本発明触媒で得られたもの(実施例1)より30倍劣っている。しかも、透過電子顕微鏡法および熱重量分析の評価で得られた選択性も低かった。
これらの結果は、2つの触媒組成物の相違が金属シェルによって表面でアクセスできない、コアが多孔質か無孔かにある限り、説明することはできない。
【0052】
本発明は上記実施例以外の多くの変形例および適用例が可能である。
特に、本発明はカーボンナノチューブ以外のナノ粒子を製造に用いることができる。すなわち、N−B−C、Si−C、Si−C−NおよびC−Nナノチューブを、担持金属触媒を用いて触媒CVDで製造できる(特に下記文献参照)。
【非特許文献1】L.Shi,L.Chen,Z.Yang,J.Ma and Y.Qian, Carbon(2005),43,195
【非特許文献2】M.Glerup,M.Castignolles,M.Holzinger, G.Hug, A.Loiseau and P.Bernier,Chem.Commun.(2003),2452
【非特許文献3】H.L.Chang,C.H.Lin and C.T.Kuo,Diamond and Related Materials,(2002),11,793
【非特許文献4】R.Larciprete, S.Lizzit,C.Cepek, S.Botti and A.Goldoni,Surface Science(2003),532,886
【0053】
上記のようなナノチューブは本発明の触媒組成物を用いて製造できる。
上記以外の支持体および上記以外の金属を用いることもでき、金属をCVD以外の方法、例えば真空蒸着、気相メッキあるいは電気メッキで析出、付着させることもできる。
本発明組成物は上記以外の目的、特に上記以外の化学反応(例えば汚染有機ガスの熱分解)のための担持触媒として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の組成物を製造するための設備の一実施例の図。
【図2】本発明の組成物からカーボンナノチューブを製造するための設備の一実施例の図。
【図3】本発明の実施例1で得られる組成物の粒子表面の顕微鏡写真。
【図4】本発明の実施例1で得られる組成物の粒子表面の顕微鏡写真。
【図5】実施例6で得られるナノチューブの直径分布を示すグラフ。
【図6a】実施例6で得られるナノチューブを示す顕微鏡写真。
【図6b】実施例6で得られるナノチューブを示す[図6a]とは異なる倍率の顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が25μm以上かつ2.5mm以下の粒子からなり、各粒子が下記のコア(1)とシェル(2)とを有する微細な固体組成物:
(1)メソ多孔体および/またはミクロ多孔体の固体材料からなるコア、
(2)コアのメソ多孔体および/またはミクロ多孔体に接触できないように、コアを被覆した酸化されていない鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、銅、タングステン、クロム、ルテニウム、パラジウムおよび白金の中から選択される少なくとも一種の遷移金属の均質な連続した金属シェル。
【請求項2】
コアがアルミナ、活性炭、シリカ、珪酸塩、マグネシア、酸化チタン、ジルコニアおよびゼオライトの中から選択される多孔質材料から成る請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
コアが100m2/g以上の比表面積を有する多孔質材料で、組成物の比表面積が25m2/g以下である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
金属シェルが、多孔質コアを形成する固体支持体上に一段階で析出、析出、付着された元素金属被膜の一部を成す請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
上記の元素金属被膜の厚さが0.5μm以上、特に約2〜20μmである請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
各粒子の金属シェルの平均見掛け表面積が2×103μm2以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
各粒子の金属シェルの平均見掛け表面積が104μm2〜1.5×105μm2である請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
平均粒径が100〜200μmである請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
各粒子の金属シェルの展開全平均寸法が35μm以上である請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
各粒子の金属シェルの展開全平均寸法が200〜400μmである請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
金属シェルが鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、銅、タングステン、クロム、ルテニウム、パラジウムおよび白金の中から選択される少なくとも一種の金属を含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
鉄を主成分とす金属被膜から成るシェルで被覆された多孔質アルミナ粒子から作られる請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
金属シェルが鉄の層である請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
35重量%以上の一種または複数の金属を含む請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
ユニモダル(unimodal)の粒度分布を有し、粒子の相当直径が組成物の粒子の平均径の80〜120%である請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
非酸化媒体中で、各粒子のコアを形成する固体支持体粒子上に酸化されていない少なくとも一種の遷移金属の被膜を析出、付着させる、平均粒径が25μm以上かつ2.5mm以下の粒子から成る微細な固体組成物の製造方法において、
メソ多孔体および/またはミクロ多孔体からなる固体材料の支持体上に、各粒子のコアを被覆する均質な連続金属シェルを各メソ多孔体および/またはミクロ多孔体固体コア上に形成するのに適した時間をかけて、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、銅、タングステン、クロム、ルテニウム、パラジウムおよび白金の中から選択される少なくとも一種の酸化されていない遷移金属から成る元素状の金属の被膜の形で析出、付着させ且つコアのメソ多孔体および/またはミクロ多孔体にアクセスできないように付着させることを特徴とする方法。
【請求項17】
固体支持体粒子の流動床中に上記の金属の被膜を形成させることができる少なくとも一種の気相の先駆体が供給して、上記の金属の被膜を上記流動床中で元素状の金属被膜の形で一段階で析出、付着させる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
支持体粒子の流動化と粒子上への金属の析出、付着とを行なうのに適した条件下で、固体支持体粒子を収容した反応器中に連続的に供給されるガス混合物に上記先駆体を蒸気相で連続的に希釈する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
上記の金属の被膜を化学蒸着法で形成する請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
上記の金属の被膜を少なくとも一種の有機金属先駆体を用いて析出、付着させる請求項16〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも一種の先駆体を[Fe(CO)5] (ペンタカルボニル鉄), [Fe(Cp)2] (フェロセンまたはビス(シクロペンタジエニル鉄), [Fe(acac)3] (トリアセチルアセトネート鉄), [Mo(CO)6] (ヘキサカルボニルモリブデン), [Mo(C5H5) (CO)3]2 (シクロペンタジエニルトリカルボニルモリブデン二量体), [Mo(アリル)4] (テトラアリルモリブデン), [W(CO)6] (ヘキサカルボニルタングステン), (W(C6H6)2] (ビス(ベンゼン)タングステン), [W(But)3] (トリブチルタングステン), [W(アリル)4] (テトラアリルタングステン), [Ni(CO)4] (テトラカルボニルニッケル), [Ni(Cp)2] (ニッケロセンまたはビス(シクロペンタジエニル)ニッケル)、[Ni(CH3C5H4)2] (ビス(メチルシクロペンタジエニル)ニッケル)、 [Cr(CO)6] (ヘキサカルボニルクロム), [Cr(C5H5) (CO)3]2 (シクロペンタジエニルトリカルボニルクロム二量体), [C6H6Cr-(CO)3)] (フェニルトリカルボニルクロム), [Cr(C6H6)2] (ビス(ベンゼン)クロム), [Cu(acac)2] (ジアセチルアセトネート銅), [Cu(hfacac)2] (ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅), [Co2(CO)8] (ジコバルトオクタカルボニル), [Pd(アリル)Cp] (アリルシクロペンタジエニルパラジウム), [Pt(CH3)2(COD)] (ジメチルシクロオクタジエン白金), [Ru(CO)5] (ルテニウムペンタカルボニル)および[RuCp2](ルテノセン)の中から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物を得るために上記金属の被膜を析出、付着させる請求項16〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の少なくとも一種の組成物を固体触媒として用いることを特徴とする、少なくとも一種の固体触媒の存在下で行う化学反応方法。
【請求項24】
上記化学反応が少なくとも一種の流体反応物を用いた脱水素反応である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
上記化学反応が珪素、炭素、ホウ素、窒素およびこれらの元素の混合物の中から選択される材料のナノ粒子を製造するための反応である請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
触媒粒子とよばれる粒子の形をした少なくとも一種の担持固体触媒と接触させて気相状態で炭素源を分解するカーボンナノチューブの選択的製造方法において、
固体触媒として請求項1〜15のいずれか一項に記載の少なくとも一種の組成物を用いることを特徴とする方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−503339(P2008−503339A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517353(P2007−517353)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001541
【国際公開番号】WO2006/008384
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(506428713)アンスティテュ ナショナル ポリテクニーク ドゥ トゥールーズ (5)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】