説明

遊星ローラねじ装置

【課題】遊星ローラねじ装置の運転時における熱膨張に起因する内力の発生を防止する手段を提供する。
【解決手段】外周面に軸ねじ3を形成した中央ねじ軸2と、内周面にナットねじ5を形成した円筒状のナット4と、軸ねじ3とナットねじ5とに噛合うローラねじ10を外周面に有し、中央ねじ軸2とナット4との間を自転しながら公転する複数の遊星ローラ7とを備えた遊星ローラねじ装置1において、軸ねじ3と記ローラねじ10とナットねじ5との互いの間の組立時における半径方向隙間を、中央ねじ軸2と遊星ローラ7とナット4との互いの間の運転時における温度差に起因する半径方向隙間の減少量より大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機やプレス成形機等の機械装置の送り機構や自動車用アクチュエータ等に用いられる遊星ローラねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遊星ローラねじ装置は、外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と内周面にナットねじを形成したナットとの間に、軸ねじとナットねじとに噛合うローラねじを有する複数の遊星ローラを保持器に保持させて配置し、遊星ローラの両側に設けた平歯車を有する遊星ピニオンギヤとナットに設けたリングギヤを噛合わせて遊星ローラの中央ねじ軸周りの自転や公転を円滑にしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、通常、組立時におけるナットねじとローラねじとの間の半径方向隙間は、比較的大型の遊星ローラねじ装置においても、0.1mm以下に設定され、遊星ローラの取付性を良好にするためには、半径方向隙間は更に小さく設定されている。
【特許文献1】特開昭59−147151号公報(第1頁右下欄−第2頁左上欄、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、比較的大型の遊星ローラねじ装置を高負荷および/もしくは高速で用いる場合には、運転時のねじ間の摩擦熱により遊星ローラねじ装置が高温になり、潤滑剤の粘度低下等を要因とする油膜切れによるねじ面同士の金属接触を防止するために、冷却ファンや冷却液によって遊星ローラねじ装置を強制的に冷却することが行われている。
しかしながら、上述した従来の技術においては、組立時のナットねじとローラねじとの間の半径方向隙間は、0.1mm以下の小さい隙間に設定されているため、遊星ローラねじ装置を強制冷却した場合には、ナット側が主に冷却され、ナットと遊星ローラおよび中央ねじ軸との間に温度差が生じ、遊星ローラおよび中央ねじ軸の熱膨張量に較べてナットの熱膨張量が小さくなり、この熱膨張量の差に起因して組立時に設けられていた半径方向隙間が運転時に小さくなって、ナットねじとローラねじとのねじ面同士が熱膨張により押圧されて予期せぬ内力が発生し、それぞれのねじ面に外部荷重による外力に加えて内力が作用し、遊星ローラねじ装置の寿命を低下させる虞があるという問題がある。
【0005】
このことは、往復運動の片側運動方向にのみ外部荷重が作用する運転条件においても、外部荷重が作用する運動方向だけでなく、外部荷重が作用しない運動方向においても内力が作用して発熱が促進される他、応力の繰返し回数も増加することになり、特に顕著になる。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、遊星ローラねじ装置の運転時における熱膨張に起因する内力の発生を防止する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを外周面に有し、前記中央ねじ軸とナットとの間を自転しながら公転する複数の遊星ローラとを備えた遊星ローラねじ装置において、前記軸ねじと前記ローラねじと前記ナットねじとの互いの間の組立時における半径方向隙間を、前記中央ねじ軸と前記遊星ローラと前記ナットとの互いの間の運転時における温度差に起因する半径方向隙間の減少量より大きく設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
これにより、本発明は、運転時に中央ねじ軸と遊星ローラとナットとの互いの間に温度差が生じた場合においても、遊星ローラねじ装置の軸ねじとナットねじとローラねじとの互いの間に熱膨張に起因する内力が生ずることはなく、遊星ローラねじ装置の寿命を向上させることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、図面を参照して本発明による遊星ローラねじ装置の実施例について説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1の遊星ローラねじ装置の側方から見た部分断面を示す説明図である。
図1において、1は遊星ローラねじ装置である。
2は遊星ローラねじ装置1の中央ねじ軸であり、合金鋼等の鋼材製作された棒状部材であって、その外周面には軸ねじ3が所定のピッチPおよびリードで螺旋状に形成されている。
【0010】
4は遊星ローラねじ装置1のナットであり、合金鋼の鋼材で製作された円筒状部材であって、その内周面には多条のナットねじ5が軸ねじ3と同じピッチPで形成されている。
また、ナット4の外周部にはフランジ部6が設けられており、ナット4を回転させるための駆動機構等が取付けられる。
7は遊星ローラであり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、両端部に円柱状の突起軸部8が形成され、この両方の突起軸部8の内側に隣接して遊星ローラ7と同軸に歯車を形成した遊星ピニオンギヤ9が設けられており、両方の遊星ピニオンギヤ9の間の外周面には軸ねじ3とナットねじ5とに噛合うローラねじ10が所定のリードで軸ねじ3と同じピッチPに形成されている。
【0011】
11は保持器であり、樹脂材料や金属材料で製作された円環状部材であって、遊星ローラ7の突起軸部8を回転自在に保持する保持穴11aが所定の角度ピッチで複数設けられており、遊星ローラ7の突起軸部8を保持穴11aで保持して中央ねじ軸2とナット4の間に複数の遊星ローラ7を所定の角度ピッチで配置する機能を有している。
12はC型輪止め等の止め輪であり、ナット4の内周面にピン13で取付けられたリングギヤ14の軸方向の外側の突出部に設けられた係止溝に係止され、保持器11の軸方向の移動を制限する機能を有している。
【0012】
リングギヤ14は、保持器11に保持された小径の平歯車である遊星ピニオンギヤ9に噛合う内歯の平歯車であって、ナット4の回転に伴って噛合っている遊星ピニオンギヤ9回転させ、遊星ローラ7の公転を案内する機能を有している。
15は給油穴であり、ナット4の外周面から内周面に向けてナット4を半径方向に貫通する貫通穴であって、ナットねじ5とローラねじ10との間へグリース等の潤滑剤を供給する機能を有している。
【0013】
上記の中央ねじ軸2の軸ねじ3とナット4のナットねじ5とに、保持器11に保持されてリングギヤ14と遊星ピニオンギヤ9により公転を案内された遊星ローラ7のローラねじ8が噛合い、ナット4を回転させることによって遊星ローラ7が中央ねじ軸2の周りを自転しながら公転して中央ねじ軸2を軸方向に移動させる。これによりナット4の回転運動が中央ねじ軸2の直線運動に変換される。
【0014】
本実施例のナットねじ5とローラねじ10との間の組立時における半径方向隙間Crは、ナットねじ5の有効径をDn、運転時における中央ねじ軸2および遊星ローラ7の平均温度とナット4の温度との温度差をΔT、中央ねじ軸2と遊星ローラ7とナット4の線膨張係数の平均値(平均線膨張係数という。)をαmとしたときに、
Cr ≧ αm×Dn×ΔT ・・・・・・・・・・・・・・・(1)
を満たすように、ローラねじ10が噛合う側のナットねじ5の有効径Dnが予め大きく設定されている。
【0015】
この場合に、ローラねじ10に噛合う側のナットねじ5の有効径Dnを変更するのは、ローラねじ10の有効径Drを変更してしまうと、遊星ローラ7と中央ねじ軸2の自転と公転の関係がくずれ、滑りが生じて寿命が低下してしまうからである。
また、ナット4と遊星ローラ7との間の初期の半径方向隙間が大きい場合でも、温度差が生じると、ナット4は中央ねじ軸2と同芯になるからである。
同様の温度となる軸ねじ3との間の半径方向隙間が大きくなりすぎ、騒音等の2次不具合が発生するからである。
【0016】
上記の式(1)を用いて、軸ねじ3の有効径Dsが150mm、ナットねじ5の有効径Dnが250mm、ローラねじ10の有効径Drが50mm、平均線膨張係数αmが10.7×10−6/℃の場合に、運転時における中央ねじ軸2および遊星ローラ7の平均温度とナット4の温度との温度差ΔTを74℃と仮定したときの半径方向隙間Crを求めると、
Cr ≧ 10.7×10−6×250×74=0.198mm
となり、組立時の半径方向隙間Crを0.2mmとするためにナットねじ4の有効径Dnを大きく設定して、遊星ローラねじ装置1を組立て、ナット4を冷却液による強制冷却により約30℃に冷却して運転を行ったところ、運転時における中央ねじ軸2および遊星ローラ7の平均温度は60℃(温度差=約30℃)まで上昇したが、ナットねじ5とローラねじ10との間に半径方向の熱膨張に起因する内力が発生することはなかった。
【0017】
これに対し、半径方向隙間Crを0.05mmに設定した場合には、運転時における中央ねじ軸2および遊星ローラ7の平均温度とナット4の温度との温度差ΔTが19℃より大きくなったときに、ナットねじ5とローラねじ10との間に半径方向の熱膨張に起因する内力が発生した。
このように、本実施例の遊星ローラねじ装置1は、組立時における遊星ローラ7のローラねじ10とナット4のナットねじとの半径方向隙間Crを、予め予測した運転時における中央ねじ軸2および遊星ローラ7の平均温度とナット4の温度との温度差ΔTに起因する半径方向の熱膨張による半径方向隙間Crの減少量に基づいて、ローラねじ10に噛合う側であるナットねじ5の有効径Dnを予め大きく設定してナットねじ5とローラねじ10との半径方向隙間Crを大きくしておくので、遊星ローラねじ装置1を高負荷や高速で用いる場合に、冷却ファンや冷却液によってナット4を強制冷却して運転時に中央ねじ軸2および遊星ローラ7とナット4との間に温度差ΔTが生じたとしても、遊星ローラねじ装置1のナットねじ5とローラねじ10との間に半径方向の熱膨張に起因する内力が生ずることはなく、遊星ローラねじ装置1の寿命を延長することができる。
【0018】
また、往復運動の片側運動方向にのみ外部荷重が作用する運転条件においても、外部荷重が作用しない運動方向において内力が発生しないので、発熱が抑制され、応力の発生は外部荷重が作用する運動方向だけになって繰返し回数が減少し、遊星ローラねじ装置1の寿命を延長することができる。
以上説明したように、本実施例では、ナットねじとローラねじとの間の組立時における半径方向隙間Crを、中央ねじ軸および遊星ローラとナットとの間の運転時における温度差ΔTに起因する半径方向隙間Crの減少量より大きく設定するようにしたことによって、運転時に中央ねじ軸および遊星ローラとナットとの間に温度差ΔTが生じた場合においても、遊星ローラねじ装置のナットねじとローラねじとの間に半径方向の熱膨張に起因する内力が生ずることはなく、遊星ローラねじ装置の寿命を向上させることができる。
【0019】
なお、本実施例においては、ナットを強制冷却した場合における、ナットねじとローラねじとの間の半径方向隙間を、運転時における温度差による半径方向の熱膨張量に基づいて予め増加させておくとして説明したが、強制冷却が不要な場合やナット以外の中央ねじ軸や遊星ローラを強制冷却する場合等であって、中央ねじ軸と遊星ローラ、遊星ローラと中央ねじ軸およびナットとの互いの間に運転時における温度差が存在する場合には、上記と同様にして、軸ねじとローラねじとナットねじとの互いの間の組立時における半径方向隙間を、それぞれの間の運転時における温度差に起因する半径方向隙間の減少量に応じてローラねじに噛合う側の軸ねじ、またはナットねじの有効径を小さく、または大きく設定するようにすれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0020】
図2は実施例2の軸方向ピッチの設定方法を示す説明図である。
なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
上記実施例1においては、中央ねじ軸2と遊星ローラ7とナット4との軸方向ピッチP(単に、ピッチPという。)を同じピッチPに設定したが、本実施例においては、中央ねじ軸2と遊星ローラ7とナット4との互いの間の運転時における温度差に起因する熱膨張差を考慮して、予めローラねじ10に噛合う側のピッチを、ローラねじ10のピッチPに次式で求められるピッチの変化量ΔPを加えて予め大きく設定してある。
【0021】
ΔP ≧ αm×P×ΔT ・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
例えば、ナット4を強制冷却した場合には、上記実施例1と同様に、中央ねじ軸2および遊星ローラ7とナット4との間に運転時における温度差ΔTが生じ、中央ねじ軸2および遊星ローラ7の軸方向の熱膨張量が、ナット4の軸方向の熱膨張量がより大きくなってナットねじ5とローラねじ10との間にピッチずれが生じ、ナットねじ5とローラねじ10とのねじ面が干渉して予期せぬ内力が生ずる。
【0022】
このため、本実施例では、ローラねじ10に噛合う側であるナット4のナットねじ5のピッチは、図2に示すように、式(2)で求められたΔPをローラねじ10のピッチPに加えて、予め大きく設定されている。
このように、本実施例の遊星ローラねじ装置1は、組立時におけるナット4のナットねじ5のピッチを、遊星ローラ7のローラねじ10ピッチPに、予め予測した運転時における中央ねじ軸2および遊星ローラ7の平均温度とナット4の温度との温度差ΔTに起因する軸方向の熱膨張によるピッチの変化量ΔPに基づいて、ローラねじ10に噛合う側であるナットねじ5のピッチを予め大きく設定しておくので、遊星ローラねじ装置1を高負荷や高速で用いる場合に、冷却ファンや冷却液によってナット4を強制冷却して運転時に中央ねじ軸2および遊星ローラ7とナット4との間に温度差ΔTが生じた場合においても、遊星ローラねじ装置1のナットねじ5とローラねじ10との間に軸方向の熱膨張に起因するピッチずれによる内力が生ずることはなく、遊星ローラねじ装置1の寿命を延長することができる。
【0023】
同様に、軸ねじ3を強制冷却した場合のローラねじ10との間、ローラねじ10を強制冷却した場合の軸ねじ3およびナットねじ5との間のピッチの設定においても、同様に、ローラねじ9に噛合う側のピッチを、ローラねじ10のピッチPに、式(2)で求めた変化量ΔPに応じて、変化量ΔPを打消す方向にずらして設定すれば、遊星ローラねじ装置1の寿命を延長することができる。
【0024】
以上説明したように、本実施例では、軸ねじとローラねじとナットねじとの互いの間の組立時における軸方向のピッチを、中央ねじ軸と遊星ローラとナットとの互いの間の運転時における温度差ΔTに起因する軸方向の変化量を打消す方向にずらして設定するようにしたことによって、運転時に中央ねじ軸と遊星ローラとナットとの互いの間に温度差ΔTが生じた場合においても、遊星ローラねじ装置のナットねじとローラねじとの間に軸方向の熱膨張に起因する内力が生ずることはなく、遊星ローラねじ装置の寿命を向上させることができる。
【0025】
なお、上記各実施例においては、遊星ローラねじ装置のナットを回転させて中央ねじ軸を軸方向に移動させるとして説明したが、中央ねじ軸を回転させてナットを軸方向に移動させる形式の遊星ローラねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1の遊星ローラねじ装置の側方から見た部分断面を示す説明図
【図2】実施例2の軸方向ピッチの設定方法を示す説明図
【符号の説明】
【0027】
1 遊星ローラねじ装置
2 中央ねじ軸
3 軸ねじ
4 ナット
5 ナットねじ
6 フランジ部
7 遊星ローラ
8 突起軸部
9 遊星ピニオンギヤ
10 ローラねじ
11 保持器
11a 保持穴
12 止め輪
13 ピン
14 リングギヤ
15 給油穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを外周面に有し、前記中央ねじ軸とナットとの間を自転しながら公転する複数の遊星ローラとを備えた遊星ローラねじ装置において、
前記軸ねじと前記ローラねじと前記ナットねじとの互いの間の組立時における半径方向隙間を、前記中央ねじ軸と前記遊星ローラと前記ナットとの互いの間の運転時における温度差に起因する半径方向隙間の減少量より大きく設定したことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
【請求項2】
外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを外周面に有し、前記中央ねじ軸とナットとの間を自転しながら公転する複数の遊星ローラとを備えた遊星ローラねじ装置において、
前記軸ねじと前記ローラねじと前記ナットねじとの互いの間の組立時における軸方向のピッチを、前記中央ねじ軸と前記遊星ローラと前記ナットとの互いの間の運転時における温度差に起因する軸方向の変化量を打消す方向にずらして設定したことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記ナットを、強制的に冷却することを特徴とする遊星ローラねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−304013(P2008−304013A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153000(P2007−153000)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】