説明

遊星歯車式動力伝達装置

【課題】コスト増を招く構成部品の過剰品質化を抑えながら、凝着摩耗の発生を防止すること。
【解決手段】シングルピニオン式遊星歯車30のキャリアプレート36に、前進クラッチ31の締結荷重を受けるリテーニングプレートの役割を兼務させた遊星歯車式動力伝達装置において、キャリアプレート36を、ブレーキ/クラッチドラム33に対し周方向に噛み合い結合されたリテーニングプレート部36aと、シングルピニオン式遊星歯車30のピニオン軸74に固定されたピニオンキャリア部36bと、に分割して2つの別部品にすると共に、2つの別部品を分割部分にて動力伝達可能に結合する。そして、リテーニングプレート部36aの部品硬度を、ブレーキ/クラッチドラム33の部品硬度およびピニオンキャリア部36bの部品硬度より相対的に低く設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からの動力伝達系に遊星歯車と多板摩擦要素が配置された遊星歯車式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源からの動力伝達系に遊星歯車と多板摩擦クラッチが配置され、遊星歯車のピニオンを支持するキャリアを、多板摩擦クラッチのクラッチドラムに向かって延長し、その延長端部をスナップリングの取り付け位置に結合させたキャリアプレートとする。そして、キャリアプレートに、多板摩擦クラッチの締結荷重を受けるリテーニングプレートの役割を兼務させた遊星歯車式動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−63014号公報
【特許文献2】特開平9−89015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の遊星歯車式動力伝達装置のキャリアプレートは、ピニオン軸を保持していることや遊星歯車のはす歯形状に起因するスラスト荷重に耐えるため、ある程度の部品硬度が必要である。また、キャリアプレートがスプライン嵌合されるクラッチドラムについても、スナップリングを介して締結荷重を受けることや遠心力で開口部が外側に開くのを防止するため、ある程度の部品硬度が必要である。このため、互いにスプライン嵌合されるキャリアプレートとクラッチドラムが同程度の硬度を持つ部品となり、キャリアプレートとクラッチドラムが摩擦運動により接触したときに凝着摩耗が生じやすい、という問題があった。
【0005】
一方、凝着摩耗を回避するには、互いに接触する2つの部品硬度に十分な硬度差を持たせる必要がある。このため、キャリアプレートに比べてより高い部品硬度が必要なクラッチドラムの部品硬度を、キャリアプレートの部品硬度よりも高く設定することになる。しかし、このように部品硬度を設定すると、クラッチドラムの部品硬度が、クラッチドラムにとって必要とされる部品硬度よりも高い過剰品質(オーバースペック)となってしまうし、クラッチドラムを過剰品質化することでコスト増を招く。
【0006】
ここで、「凝着摩耗」とは、2つの固体間の実接触面積を構成する凝着部分が、摩擦運動によりせん断剥離されることに基因して生ずる摩耗現象をいう。特に、2つの面の硬さが同じ場合や硬さの差が少ない場合には、様々な摩耗現象のうち、凝着摩耗がほとんど支配的に生じることが知られている。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コスト増を招く構成部品の過剰品質化を抑えながら、凝着摩耗の発生を防止することができる遊星歯車式動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の遊星歯車式動力伝達装置は、駆動源からの動力伝達系に遊星歯車と多板摩擦要素が配置され、前記遊星歯車のピニオンを支持するキャリアを、前記多板摩擦要素の摩擦プレート支持部材に向かって延長し、その延長端部をスナップリングの取り付け位置に結合させたキャリアプレートとし、前記キャリアプレートに、前記多板摩擦要素の締結荷重を受けるリテーニングプレートの役割を兼務させている。
この遊星歯車式動力伝達装置において、前記キャリアプレートを、前記摩擦プレート支持部材に対し周方向に噛み合い結合されたリテーニングプレート部と、前記遊星歯車のピニオン軸に固定されたピニオンキャリア部と、に分割して2つの別部品にすると共に、前記リテーニングプレート部と前記ピニオンキャリア部を分割部分にて動力伝達可能に結合する。
そして、前記リテーニングプレート部の部品硬度を、前記摩擦プレート支持部材の部品硬度および前記ピニオンキャリア部の部品硬度より相対的に低く設定した。
【発明の効果】
【0009】
よって、ピニオンキャリア部の必要部品硬度を例えば1.0とし、摩擦プレート支持部材の必要部品硬度を例えば1.1とした場合、リテーニングプレート部の部品硬度を例えば0.5にする。このとき、部品硬度比は、ピニオンキャリア部:リテーニングプレート部:摩擦プレート支持部材=1.0:0.5:1.1となる。そして、互いに接触するピニオンキャリア部とリテーニングプレート部の部品硬度差は0.5(=1.0−0.5)となり、また、摩擦プレート支持部材とリテーニングプレート部の部品硬度差は0.6(=1.1−0.5)となる。
このように、リテーニングプレート部の部品硬度を、摩擦プレート支持部材の部品硬度およびピニオンキャリア部の部品硬度より相対的に低く設定することで、接触部品間の硬度差が十分に確保され、凝着摩耗の発生が有効に抑えられる。そして、ピニオンキャリア部と摩擦プレート支持部材とは、互いに接触することのない部品関係であり、独立した部品硬度の設定が許容されるため、それぞれの部品について必要とされる部品硬度に設定でき、コスト増を招く構成部品の過剰品質化が防止される。
この結果、コスト増を招く構成部品の過剰品質化を抑えながら、凝着摩耗の発生を防止することができる。加えて、3つの部品のうち、一番摩耗するのは、部品硬度を最も低く設定したリテーニングプレート部であるため、摩耗して取り替えるのは、小さな部品によるリテーニングプレート部だけで済む。その結果、低コストによりメインテナンスを行えるという効果も併せて奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の遊星歯車式動力伝達装置が適用されたベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の駆動系を示す駆動系全体構成図である。
【図2】実施例1の遊星歯車式動力伝達装置が適用されたベルト式無段変速機の前後進切替機構を示す断面図である。
【図3】実施例1の遊星歯車式動力伝達装置においてシングルピニオン式遊星歯車と前進クラッチが配置された要部構成を示す拡大断面図である。
【図4】実施例1の遊星歯車式動力伝達装置のブレーキ/クラッチドラムとリテーニングプレート部の詳細を示す図3のA方向矢視図である。
【図5】実施例1の遊星歯車式動力伝達装置のブレーキ/クラッチドラムとリテーニングプレート部の詳細を示す図3のB方向矢視図である。
【図6】実施例2の遊星歯車式動力伝達装置においてシングルピニオン式遊星歯車と前進クラッチが配置された要部構成を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の遊星歯車式動力伝達装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1および実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の遊星歯車式動力伝達装置が適用されたベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の駆動系を示す。以下、図1に基づき、駆動系全体構成を説明する。
【0013】
ベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
【0014】
前記エンジン1は、駆動源として設けられ、ドライバーのアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号によりエンジン回転数や燃料噴射量が制御可能である。
【0015】
前記トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する流体伝動装置であり、トルク増大機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。トルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0016】
前記前後進切替機構3は、エンジン1からベルト式無段変速機構4へ入力される回転駆動力の入力回転方向を、前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、シングルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31と、後退ブレーキ32と、を有する。実施例1では、この前後進切替機構3に遊星歯車式動力伝達装置を適用している。
【0017】
前記ベルト式無段変速機構4は、ベルト接触径の変化により変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比である変速比を無段階に変化させる無段変速機能を有する。このベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、ベルト44と、を有する。前記プライマリプーリ42は、固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧によりスライド動作する。前記セカンダリプーリ43は、固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧によりスライド動作する。前記ベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなす一対のシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなす一対のシーブ面に巻き掛けられている。
【0018】
前記終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51,51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
【0019】
図2は、遊星歯車式動力伝達装置が適用されたベルト式無段変速機の前後進切替機構3を示す。以下、図2に基づき前後進切替機構3の構成を説明する。
【0020】
前記前後進切替機構3は、図2に示すように、シングルピニオン式遊星歯車30(遊星歯車)と、前進クラッチ31(多板摩擦要素)と、後退ブレーキ32と、ブレーキ/クラッチドラム33(摩擦プレート支持部材)と、クラッチハブ34と、変速機ケース35と、キャリアプレート36と、を備えている。
【0021】
前記シングルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤ30aと、リングギヤ30bと、サンギヤ30aとリングギヤ30bに噛み合うピニオン30cと、複数のピニオン30cを支持するキャリア30dと、を有する。前記サンギヤ30aは、トルクコンバータ出力軸21に連結され、エンジン1およびトルクコンバータ2を経過した回転駆動力が入力される。前記リングギヤ30bは、プライマリプーリ42の固定プーリ42aに対しリングギヤプレート70を介して連結され、前後進切替機構3を経過した正転方向または逆転方向の回転駆動力をベルト式無段変速機構4のプライマリプーリ42へ出力する。なお、固定プーリ42aは、変速機ケース35に対しボールベアリング71により回転可能に支持されている。
【0022】
前記前進クラッチ31は、前進走行時、ブレーキ/クラッチドラム33とクラッチピストン72の間に形成されるクラッチ圧室73にクラッチ圧を導くことにより、クラッチピストン72が図2の左方向にストロークして締結する湿式多板クラッチである。この前進クラッチ31を締結すると、シングルピニオン式遊星歯車30のサンギヤ30aとキャリア30dを、前進クラッチ31の締結力に応じて連結する。前進クラッチ31は、クラッチハブ34に対し軸方向移動可能にスプライン嵌合されたドライブプレート31a(例えば、4枚)と、ブレーキ/クラッチドラム33に対し軸方向移動可能にスプライン嵌合されたドリブンプレート31b(例えば、4枚)と、を交互に配置することで構成される。なお、クラッチピストン72とスプリング支持プレート75との間には、前進クラッチ31の解放時、クラッチピストン72に対し図2の右方向に付勢力を与えるリターンスプリング76が介装されている。
【0023】
前記後退ブレーキ32は、後退走行時、変速機ケース35とブレーキピストン77の間に形成されるブレーキ圧室78にブレーキ圧を導くことにより、ブレーキピストン77が図2の右方向にストロークして締結する湿式多板ブレーキである。この後退ブレーキ32を締結すると、シングルピニオン式遊星歯車30のキャリア30dを、後退ブレーキ32の締結力に応じて変速機ケース36に固定する。この後退ブレーキ32は、ブレーキ/クラッチドラム33に対し軸方向移動可能にスプライン嵌合されたドライブプレート32a(例えば、5枚)と、変速機ケース35に対し軸方向移動可能にスプライン嵌合されたドリブンプレート32b(例えば、5枚)と、を交互に配置することで構成される。なお、ブレーキピストン77とスプリング支持プレート79との間には、後退ブレーキ32の解放時、ブレーキピストン77に対し図2の左方向に付勢力を与えるリターンスプリング80が介装されている。
【0024】
前記キャリアプレート36は、シングルピニオン式遊星歯車30のピニオン30cを支持するキャリアを、ブレーキ/クラッチドラム33に向かって外径方向に延長し、その延長端部をスナップリング81の取り付け位置にスプライン嵌合させたプレートである。つまり、キャリアプレート36に対し、ピニオン30cを支持するキャリアの役割と、前進クラッチ31の締結荷重を受けるリテーニングプレートの役割と、を兼務させている。そして、本来ならば一体部品として構成されるキャリアプレート36を、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bに分割して2つの別部品にすると共に、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bを分割部分にて動力伝達可能にスプライン結合している。
【0025】
図3〜図5は、実施例1の遊星歯車式動力伝達装置においてシングルピニオン式遊星歯車30と前進クラッチ31が配置された要部構成を示す。以下、図3〜図5に基づき、実施例1の遊星歯車式動力伝達装置の要部構成を詳しく説明する。
【0026】
前記シングルピニオン式遊星歯車30のサンギヤ30aは、図3の左側面とリングギヤプレート70との間に第1スラストベアリング82が介装され、図3の右側面位置にクラッチハブ34が固定される。サンギヤ内周面には、トルクコンバータ出力軸21に結合するスプライン部30eが形成される。
【0027】
前記シングルピニオン式遊星歯車30のリングギヤ30bは、図3の左側面位置にリングギヤプレート70が固定され、このリングギヤプレート70の内周面には、プライマリプーリ42の固定プーリ42aに結合するスプライン部70aが形成される。
【0028】
前記シングルピニオン式遊星歯車30のピニオン30cは、ピニオン軸74に対しニードルベアリング83を介して回転可能に支持され、図3の左側面位置に第1スラストワッシャ84が嵌装され、図3の右側面位置に第2スラストワッシャ85が嵌装される。そして、図3の左側面側では第1スラストワッシャ84を挟んでキャリア30dをピニオン軸74に固定し、図3の右側面側では第2スラストワッシャ85を挟んでピニオンキャリア部36bをピニオン軸74に固定している。キャリア30dは、ピニオン30cを支持する役割のみを担うもので、このキャリア30dとリングギヤプレート70との間には、キャリアプレート36を2分割したことに伴い、キャリア30dの軸方向位置決めを行うために第2スラストベアリング86が介装される。
【0029】
前記ブレーキ/クラッチドラム33は、図4および図5に示すように、円筒状ドラムのうち、内面側に前進クラッチ31のドリブンプレート31bと嵌合するスプライン内歯33aを形成し、外面側に後退ブレーキ32のドライブプレート32aと嵌合するスプライン外歯33bを形成している。そして、図4および図5に示すように、スナップリング81を取り付ける内面位置に環状のスナップリング溝33cを形成すると共に、スナップリング81側の円周上4箇所程度に、端面位置から軸方向内側に切り込んだプレート突き当て溝33dを形成している。キャリアプレート36のリテーニングプレート部36aは、全周のスプライン歯のうち、プレート突き当て溝33dに対応する位置のスプライン歯の形成を省略している。すなわち、図5のハッチング領域Cにおいて、リテーニングプレート部36aをプレート突き当て溝33dに突き当てることにより軸方向移動を規制している。このため、リテーニングプレート部36aは、図3に示すように、スナップリング81への当接による軸方向移動規制位置から、プレート突き当て溝33dへの突き当てによる軸方向移動規制位置までの範囲が、軸方向への移動許容範囲として決められている。
【0030】
前記キャリアプレート36は、ブレーキ/クラッチドラム33に対しスプライン嵌合により周方向に噛み合い結合されたリテーニングプレート部36aと、シングルピニオン式遊星歯車30のピニオン軸74に固定されたピニオンキャリア部36bと、に分割して2つの別部品にしている。そして、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bを分割部分にてスプライン結合部36cにより動力伝達可能に結合することでキャリアプレート36を構成している。
【0031】
前記リテーニングプレート部36aと前記ピニオンキャリア部36bは、図3に示すように、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bが互いに離れる軸方向側への移動を許容する。しかし、リテーニングプレート部36aがピニオンキャリア部36bに向かう軸方向側への移動を規制するように互いに径方向に重なり合う径方向重合部36dを有する形状設定としている。実施例1では、リテーニングプレート部36aの分割面形状を、スプライン結合部36cと径方向重合部36dを有する段差面形状に設定している。すなわち、前進クラッチ31のクラッチプレート(ドライブプレート31a、ドリブンプレート31b)からリテーニングプレート部36aが受けるクラッチ締結によるスラスト荷重Fを、ブレーキ/クラッチドラム33に固定されたスナップリング81と、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bの径方向重合部36dと、に分けて支持する第1スラスト荷重支持構造を有する。
【0032】
そして、リテーニングプレート部36aの部品硬度を、ブレーキ/クラッチドラム33の部品硬度およびピニオンキャリア部36bの部品硬度より相対的に低く設定している。具体的な部品硬度の設定を述べると、リテーニングプレート部36aの部品硬度は、凝着摩耗の回避を考慮し、ブレーキ/クラッチドラム33の部品硬度およびピニオンキャリア部36bの部品硬度に対し十分な硬度差を持たせるように設定している。一方、ブレーキ/クラッチドラム33の部品硬度およびピニオンキャリア部36bの部品硬度は、それぞれの硬度を部品必要硬度に設定している。
【0033】
次に、作用を説明する。
実施例1の遊星歯車式動力伝達装置における作用を、「前後進切り替え作用」、「凝着摩耗防止作用」、「スラスト荷重支持作用」に分けて説明する。
【0034】
[前後進切り替え作用]
実施例1の遊星歯車式動力伝達装置が適用された前後進切替機構3にて行われる、前進クラッチ31の締結による前進走行と、後退ブレーキ32の締結による後退走行と、の前後進切り替え作用を説明する。
【0035】
N→Dセレクト操作による前進走行時には、クラッチ圧室73にクラッチ圧を導くことによりクラッチピストン72が、図2の左方向にストロークし、解放されている前進クラッチ31が、クラッチ圧室73へのクラッチ圧の大きさに応じて締結される。
この前進クラッチ31を締結すると、シングルピニオン式遊星歯車30のサンギヤ30aとキャリア30dが、クラッチハブ34→前進クラッチ31→ブレーキ/クラッチドラム33→キャリアプレート36(リテーニングプレート部36a、ピニオンキャリア部36b)→ピニオン軸74を介し、前進クラッチ31の締結力に応じて連結される。
このため、前進クラッチ31を完全締結状態にすると、シングルピニオン式遊星歯車30の3つの回転メンバ(サンギヤ30a、リングギヤ30b、キャリア30d)が一体となって同一回転する。つまり、プライマリプーリ42へ回転駆動力を伝達するリングギヤ30bへの出力回転が、エンジン1とトルクコンバータ2を介してサンギヤ30aへ入力される入力回転と同一方向で同一回転数による正回転とされる。
【0036】
N→Rセレクト操作による後退走行時には、ブレーキ圧室78にブレーキ圧を導くことによりブレーキピストン77が、図2の右方向にストロークし、解放されている後退ブレーキ32が、ブレーキ圧室78へのブレーキ圧の大きさに応じて締結される。
この後退ブレーキ32を締結すると、シングルピニオン式遊星歯車30のキャリア30dが、ピニオン軸74→キャリアプレート36(リテーニングプレート部36a、ピニオンキャリア部36b)→ブレーキ/クラッチドラム33→後退ブレーキ32を介し、後退ブレーキ32の締結力に応じて変速機ケース36に固定される。
このため、後退ブレーキ32を完全締結状態にすると、シングルピニオン式遊星歯車30の3つの回転メンバ(サンギヤ30a、リングギヤ30b、キャリア30d)のうち、キャリア30dを固定することで、サンギヤ30aとリングギヤ30bの回転方向を異ならせる。つまり、プライマリプーリ42へ回転駆動力を伝達するリングギヤ30bへの出力回転が、エンジン1とトルクコンバータ2を介してサンギヤ30aへ入力される入力回転と逆方向で異なる回転数による逆回転とされる。
【0037】
[凝着摩耗防止作用]
上記のように、前進走行時と後退走行時の駆動力伝達経路には、何れもキャリアプレート36とブレーキ/クラッチドラム33を含む。このため、キャリアプレート36とブレーキ/クラッチドラム33が伝達駆動力の変動に伴う摩擦運動により互いに接触したときに生じやすい凝着摩耗を防止することが必要である。以下、これを反映する凝着摩耗防止作用を説明する。
【0038】
まず、2部品が摩擦運動により接触したときに生じる凝着摩耗は、2つの面の硬さが同じ場合や硬さの差が少ない場合に支配的に生じることが知られている。以下、1部品構成によるキャリアプレートと、キャリアプレートをスプライン嵌合するクラッチドラムと、の間で凝着摩耗が生じやすい原因を列挙する。
(a) キャリアプレートは、ピニオン軸を保持しているし、遊星歯車のはす歯形状に起因するスラスト荷重に耐える必要がある。このため、キャリアプレートは、ある程度の部品硬度を要する。
(b) クラッチドラムは、スナップリングを介して締結荷重を受けているし、遠心力で開口部が外側に開くのを防止する必要がある。このため、クラッチドラムは、ある程度の部品硬度を要する。
(c) キャリアプレートとクラッチドラムのスプライン嵌合部には、僅かな隙間が介在するため、この隙間により、キャリアプレートとクラッチドラムが互いに摺動する。
【0039】
このように、原因(a),(b)によって互いにスプライン嵌合される1部品構成のキャリアプレートとクラッチドラムが同程度の硬度を持つ部品となる。したがって、キャリアプレートとクラッチドラムが、原因(c)により摩擦運動により接触したとき、「摺動→凝着→剥離」を繰り返しながら摩耗する凝着摩耗が生じやすい。
【0040】
一方、凝着摩耗を回避するには、互いに接触する2つの部品硬度に十分な硬度差を持たせる必要がある。このため、1部品構成のキャリアプレートに比べてより高い部品硬度が必要なクラッチドラムの部品硬度を、キャリアプレートの部品硬度よりも高く設定することになる。しかし、このように部品硬度を設定すると、クラッチドラムの部品硬度が、クラッチドラムにとって必要とされる部品硬度よりも高い過剰品質(オーバースペック)となってしまうし、クラッチドラムを過剰品質化することでコスト増を招く。
【0041】
これに対し、実施例1では、キャリアプレート36を、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bとの2部品に分割した。そして、リテーニングプレート部36aの部品硬度を、ブレーキ/クラッチドラム33の部品硬度およびピニオンキャリア部36bの部品硬度より相対的に低く設定した。
【0042】
このため、ピニオンキャリア部36bの必要部品硬度を例えば1.0とし、ブレーキ/クラッチドラム33の必要部品硬度を例えば1.1とした場合、リテーニングプレート部36aの部品硬度を例えば0.5にする。このとき、部品硬度比は、ピニオンキャリア部36b:リテーニングプレート部36a:ブレーキ/クラッチドラム33=1.0:0.5:1.1となる。そして、互いにスプライン結合部36dにより接触するピニオンキャリア部36bとリテーニングプレート部36aの部品硬度差は0.5(=1.0−0.5)となる。また、互いにスプライン嵌合により接触するブレーキ/クラッチドラム33とリテーニングプレート部36aの部品硬度差は0.6(=1.1−0.5)となる。
【0043】
したがって、接触部品であるピニオンキャリア部36bとリテーニングプレート部36aの間での硬度差が十分に確保されると共に、接触部品であるブレーキ/クラッチドラム33とリテーニングプレート部36aの間での硬度差が十分に確保され、凝着摩耗の発生が有効に抑えられる。
【0044】
そして、ピニオンキャリア部36bとブレーキ/クラッチドラム33とは、リテーニングプレート部36aを介在することで、互いに接触することのない部品関係であり、独立した部品硬度の設定が許容される。このため、ピニオンキャリア部36bとブレーキ/クラッチドラム33については、それぞれの部品について必要部品硬度に設定でき、コスト増を招く構成部品の過剰品質化が防止される。
【0045】
さらに、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bとブレーキ/クラッチドラム33の3つの部品のうち、一番摩耗するのは、部品硬度を最も低く設定したリテーニングプレート部36aである。このため、長期間使用や高頻度使用等による摩耗して取り替えるのは、小さな部品によるリテーニングプレート部36aだけで済む。その結果、低コストによりメインテナンスを行える。
【0046】
[スラスト荷重支持作用]
上記のように、前進走行時には、前進クラッチ31が締結されることに伴いキャリアプレート36に大きなスラスト荷重が作用する。このため、駆動力伝達に影響を与えない剛性を保ってクラッチ締結によるスラスト荷重を支持することが必要である。以下、これを反映するスラスト荷重支持作用を説明する。
【0047】
前進クラッチ31の解放時には、スプライン結合部36dにより結合されているリテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bは、図3に示すように、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bが互いに離れる軸方向側への移動が許容された状態にある。
【0048】
しかし、前進クラッチ31の締結時には、クラッチピストン72が図3の左方向に移動するのに伴ってドライブプレート31aとドリブンプレート31bも移動し、図3の左端部のドライブプレート31aがリテーニングプレート部36aに当接する。
【0049】
そして、前進クラッチ31の軸方向移動により各プレート隙間が埋められると、クラッチピストン72へのクラッチ圧の上昇に伴って前進クラッチ31の締結荷重(=スラスト荷重)が増していき、大きなスラスト荷重Fがリテーニングプレート部36aにより受けられる。
【0050】
そして、リテーニングプレート部36aにより受けられた大きなスラスト荷重Fは、ブレーキ/クラッチドラム33に固定されたスナップリング81(第1スラスト分担荷重F1)と、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bの径方向重合部36d(第2スラスト分担荷重F2)と、に分けて支持される。ここで、スナップリング81により支持された第1スラスト分担荷重F1は、スナップリング81を固定するブレーキ/クラッチドラム33により受けられる。また、径方向重合部36dにより支持された第2スラスト分担荷重F2は、ピニオンキャリア部36b→ピニオン軸74→キャリア30d→第2スラストベアリング86を介してリングギヤプレート70により受けられる。
【0051】
このように、実施例1では、リテーニングプレート部36aの分割面形状を、スプライン結合部36cと径方向重合部36dを有する段差面形状に設定する。そして、リテーニングプレート部36aにより受けられたスラスト荷重Fを、スナップリング81による第1スラスト分担荷重F1と、径方向重合部36dによる第2スラスト分担荷重F2と、に分けて支持する第1スラスト荷重支持構造(F=F1+F2)を有する構成を採用した。
【0052】
例えば、1部品によるキャリアプレートとした場合、前進クラッチ31により受けられたスラスト荷重を、スナップリング81と、第2スラストワッシャ85と、に分けて支持することになる。このため、スラスト荷重の入力位置に対し、スナップリング81までの支持位置が近く、第2スラストワッシャ85までの支持位置が遠く、支持荷重とスパンを掛け合わせたモーメントバランスをとるには、スナップリング81により支持された第1スラスト分担荷重が大きくなる。したがって、スナップリング81が固定されたブレーキ/クラッチドラム33の剛性や部品硬度を高くする必要がある。
【0053】
これに対し、実施例1では、リテーニングプレート部36aへのスラスト荷重Fの入力位置に対し、径方向重合部36dによる支持位置が、第2スラストワッシャ85までの支持位置より近くなる。このため、支持荷重とスパンを掛け合わせたモーメントバランスをとったとき、径方向重合部36dにより支持される第2スラスト分担荷重F2が大きくなり、スナップリング81により支持される第1スラスト分担荷重F1が小さくなる。
したがって、スナップリング81が固定されたブレーキ/クラッチドラム33の剛性や部品硬度を低くすることが可能であり、ブレーキ/クラッチドラム33の剛性や部品硬度を変えない場合はスラスト荷重支持剛性が高められ、ブレーキ/クラッチドラム33の剛性や部品硬度を低くした場合はコストダウンに繋がる。
【0054】
次に、効果を説明する。
実施例1の遊星歯車式動力伝達装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0055】
(1) 駆動源(エンジン1)からの動力伝達系に遊星歯車(シングルピニオン式遊星歯車30)と多板摩擦要素(前進クラッチ31)が配置され、前記遊星歯車のピニオン30cを支持するキャリア30dを、前記多板摩擦要素の摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)に向かって延長し、その延長端部をスナップリング81の取り付け位置に結合させたキャリアプレート36とし、前記キャリアプレート36に、前記多板摩擦要素の締結荷重を受けるリテーニングプレートの役割を兼務させた遊星歯車式動力伝達装置において、
前記キャリアプレート36を、前記摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)に対し周方向に噛み合い結合されたリテーニングプレート部36aと、前記遊星歯車(シングルピニオン式遊星歯車30)のピニオン軸74に固定されたピニオンキャリア部36bと、に分割して2つの別部品にすると共に、前記リテーニングプレート部36aと前記ピニオンキャリア部36bを分割部分にて動力伝達可能に結合し、
前記リテーニングプレート部36aの部品硬度を、前記摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)の部品硬度および前記ピニオンキャリア部36bの部品硬度より相対的に低く設定した。
このため、コスト増を招く構成部品の過剰品質化を抑えながら、凝着摩耗の発生を防止することができる。
【0056】
(2) 前記キャリアプレート36のリテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bは、前記リテーニングプレート部36aが前記ピニオンキャリア部26bに向かう軸方向側への移動を規制するように互いに径方向に重なり合う径方向重合部36dを有する形状設定とし、
前記多板摩擦要素(前進クラッチ31)の摩擦プレート(ドライブプレート31a、ドリブンプレート31b)から前記リテーニングプレート部36aが受ける要素締結によるスラスト荷重Fを、前記摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)に固定されたスナップリング81と、前記径方向重合部36dと、に分けて支持する第1スラスト荷重支持構造を有する。
このため、(1)の効果に加え、スナップリング81が固定された摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)の剛性や部品硬度を低くすることが可能であり、摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)の剛性や部品硬度を変えない場合はスラスト荷重支持剛性を高めることができ、摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)の剛性や部品硬度を低くした場合はコストダウンを図ることができる。
【実施例2】
【0057】
実施例2は、リテーニングプレート部36aが受けるスラスト荷重の支持構造を実施例1とは異ならせた例である。
【0058】
まず、構成を説明する。
図6は、実施例2の遊星歯車式動力伝達装置のシングルピニオン式遊星歯車と前進クラッチによる要部構成を示す。以下、図6に基づき、実施例2の遊星歯車式動力伝達装置のスラスト荷重支持構造を詳しく説明する。
【0059】
前記キャリアプレート36のリテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bは、図6に示すように、スプライン結合部36eにより互いに軸方向に相対移動可能に結合している。
【0060】
前記シングルピニオン式遊星歯車30のピニオン30cとキャリアプレート36との間に、リテーニングプレート部36aと径方向に重なり合う位置まで径方向に拡大した拡径スラストワッシャ87を介装している。
すなわち、前進クラッチ31のドライブプレート31aおよびドリブンプレート31bからリテーニングプレート部36aが受けるクラッチ締結によるスラスト荷重Fを、ブレーキ/クラッチドラム33に固定されたスナップリング81と、拡径スラストワッシャ87と、に分けて支持する第2スラスト荷重支持構造を有する。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0061】
次に、作用を説明する。
実施例2でのスラスト荷重支持作用を説明すると、リテーニングプレート部36aにより受けられた大きなスラスト荷重Fは、ブレーキ/クラッチドラム33に固定されたスナップリング81(第1スラスト分担荷重F1')と、拡径スラストワッシャ87(第2スラスト分担荷重F2')と、に分けて支持される。ここで、スナップリング81により支持された第1スラスト分担荷重F1'は、スナップリング81を固定するブレーキ/クラッチドラム33により受けられる。また、拡径スラストワッシャ87により支持された第2スラスト分担荷重F2'は、ピニオン30c→第1スラストワッシャ84→キャリア30d→第2スラストベアリング86を介してリングギヤプレート70により受けられる。
【0062】
このように、実施例2では、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bを互いに軸方向に相対移動可能に結合すると共に、ピニオン30cとキャリアプレート36との間に拡径スラストワッシャ87を介装した。そして、リテーニングプレート部36aにより受けられたスラスト荷重Fを、スナップリング81による第1スラスト分担荷重F1'と、拡径スラストワッシャ87による第2スラスト分担荷重F2'と、に分けて支持する第2スラスト荷重支持構造(F=F1'+F2')を有する構成を採用した。
【0063】
この実施例2では、実施例1と同様に、リテーニングプレート部36aへのスラスト荷重Fの入力位置に対し、拡径スラストワッシャ87までの支持位置が、第2スラストワッシャ85までの支持位置より近くなる。このため、支持荷重とスパンを掛け合わせたモーメントバランスをとったとき、第2スラストワッシャ85により支持される第2スラスト分担荷重F2'が大きくなり、スナップリング81により支持される第1スラスト分担荷重F1'が小さくなる。
【0064】
したがって、スナップリング81が固定されたブレーキ/クラッチドラム33の剛性や部品硬度を低くすることが可能であり、ブレーキ/クラッチドラム33の剛性や部品硬度を変えない場合はスラスト荷重支持剛性が高められ、ブレーキ/クラッチドラム33の剛性や部品硬度を低くした場合はコストダウンに繋がる。
【0065】
加えて、リテーニングプレート部36aへのスラスト荷重Fをピニオンキャリア部36bが直接受けることのない支持構造である。このため、ピニオンキャリア部36bが受けるスラスト荷重が、実施例1に比べ大幅に低減し、ピニオンキャリア部36bの剛性や部品硬度を低くすることが可能である。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0066】
次に、効果を説明する。
実施例2の遊星歯車式動力伝達装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0067】
(3) 前記キャリアプレート36のリテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bは、スプライン結合部36eにより互いに軸方向に相対移動可能に結合し、
前記遊星歯車(シングルピニオン式遊星歯車30)のピニオン30cと前記キャリアプレート36との間に、前記リテーニングプレート部36aと径方向に重なり合う位置まで径方向に拡大した拡径スラストワッシャ87を介装し、
前記多板摩擦要素(前進クラッチ31)の摩擦プレート(ドライブプレート31a、ドリブンプレート31b)から前記リテーニングプレート部36aが受ける要素締結によるスラスト荷重Fを、前記摩擦プレート支持部材(ブレーキ/クラッチドラム33)に固定されたスナップリング81と、前記拡径スラストワッシャ87と、に分けて支持する第2スラスト荷重支持構造を有する。
このため、実施例1の(1),(2)の効果に加え、ピニオンキャリア部36bの剛性や部品硬度を低くすることが可能であり、ピニオンキャリア部36bの剛性や部品硬度を低くすることでコストダウンを図ることができる。
【0068】
以上、本発明の遊星歯車式動力伝達装置を実施例1および実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0069】
実施例1,2では、多板摩擦要素を、多板構造による前進クラッチ31とする例を示した。しかし、多板摩擦要素としては、多板構造による後退ブレーキや変速用クラッチや変速用ブレーキ等であっても良い。
【0070】
実施例1,2では、摩擦プレート支持部材を、ブレーキドラムとクラッチドラムを兼用するブレーキ/クラッチドラム33とする例を示した。しかし、摩擦プレート支持部材としては、摩擦プレートを支持するクラッチドラムやブレーキドラムやクラッチハブ等であっても良い。
【0071】
実施例1,2では、リテーニングプレート部36aとピニオンキャリア部36bを分割部分にてスプライン結合36c,36eにより動力伝達可能に結合する例を示した。しかし、リテーニングプレート部とピニオンキャリア部を分割部分にて櫛歯構造等の他の構造により動力伝達可能に結合する例としても良い。
【0072】
実施例1,2では、本発明の遊星歯車式動力伝達装置をベルト式無段変速機の前後進切替機構に適用する例を示した。しかし、本発明の遊星歯車式動力伝達装置は、ベルト式無段変速機の副変速機や複数の変速段を有する自動変速機(ステップAT)のギヤトレーン等に適用することもできる。要するに、遊星歯車と多板摩擦要素が配置された様々な動力伝達系に適用することができる。
【0073】
実施例1,2では、本発明の遊星歯車式動力伝達装置を駆動源にエンジンを備えたエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の遊星歯車式動力伝達装置は、エンジン車に限らず、駆動源にエンジンとモータを備えたハイブリッド車、駆動源にモータを備えた電気自動車に対しても適用することができる。要するに、遊星歯車式動力伝達装置を備えた車両であれば適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 エンジン(駆動源)
2 トルクコンバータ
3 前後進切替機構
4 ベルト式無段変速機構
5 終減速機構
6,6 駆動輪
30 シングルピニオン式遊星歯車(遊星歯車)
30a サンギヤ
30b リングギヤ
30c ピニオン
30d キャリア
31 前進クラッチ(多板摩擦要素)
31a ドライブプレート(摩擦プレート)
31b ドリブンプレート(摩擦プレート)
32 後退ブレーキ
33 ブレーキ/クラッチドラム(摩擦プレート支持部材)
34 クラッチハブ
35 変速機ケース
36 キャリアプレート
36a リテーニングプレート部
36b ピニオンキャリア部
36c スプライン結合部
36d 径方向重合部
36e スプライン結合部
74 ピニオン軸
81 スナップリング
87 拡径スラストワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力伝達系に遊星歯車と多板摩擦要素が配置され、前記遊星歯車のピニオンを支持するキャリアを、前記多板摩擦要素の摩擦プレート支持部材に向かって延長し、その延長端部をスナップリングの取り付け位置に結合させたキャリアプレートとし、前記キャリアプレートに、前記多板摩擦要素の締結荷重を受けるリテーニングプレートの役割を兼務させた遊星歯車式動力伝達装置において、
前記キャリアプレートを、前記摩擦プレート支持部材に対し周方向に噛み合い結合されたリテーニングプレート部と、前記遊星歯車のピニオン軸に固定されたピニオンキャリア部と、に分割して2つの別部品にすると共に、前記リテーニングプレート部と前記ピニオンキャリア部を分割部分にて動力伝達可能に結合し、
前記リテーニングプレート部の部品硬度を、前記摩擦プレート支持部材の部品硬度および前記ピニオンキャリア部の部品硬度より相対的に低く設定した
ことを特徴とする遊星歯車式動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載された遊星歯車式動力伝達装置において、
前記キャリアプレートのリテーニングプレート部とピニオンキャリア部は、前記リテーニングプレート部が前記ピニオンキャリア部に向かう軸方向側への移動を規制するように互いに径方向に重なり合う径方向重合部を有する形状設定とし、
前記多板摩擦要素の摩擦プレートから前記リテーニングプレート部が受ける要素締結によるスラスト荷重を、前記摩擦プレート支持部材に固定されたスナップリングと、前記径方向重合部と、に分けて支持する第1スラスト荷重支持構造を有する
ことを特徴とする遊星歯車式動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載された遊星歯車式動力伝達装置において、
前記キャリアプレートのリテーニングプレート部とピニオンキャリア部は、スプライン結合部により互いに軸方向に相対移動可能に結合し、
前記遊星歯車のピニオンと前記キャリアプレートとの間に、前記リテーニングプレート部と径方向に重なり合う位置まで径方向に拡大した拡径スラストワッシャを介装し、
前記多板摩擦要素のクラッチプレートから前記リテーニングプレート部が受ける要素締結によるスラスト荷重を、前記摩擦プレート支持部材に固定されたスナップリングと、前記拡径スラストワッシャと、に分けて支持する第2スラスト荷重支持構造を有する
ことを特徴とする遊星歯車式動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−197846(P2012−197846A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62055(P2011−62055)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】