説明

遊星歯車式変速機

【課題】通過トルクを抑制することで、後段に配置されるギアを大きくしたり、増速ギア等の余分な部品を追加したりすることなく、簡易な構成のままで多段化されたギアトレインを構成することが可能な遊星歯車式変速機を提供する。
【解決手段】入力側変速機10は、入力軸11から中間軸21に対して動力を伝達する変速機であって、L,M,Hクラッチ12a〜12c、軸方向において隣接する2つのM・H遊星歯車列13,14、を備える。M遊星歯車列13は、サンギア13a、キャリア13b、リングギア13c、遊星ギア13e、を有する。H遊星歯車列14は、サンギア14a、キャリア14b、リングギア14c、2組の遊星ギア14e1,14e2、を有する。M,Hクラッチ12b,12cの作動時には、入力軸11からキャリア13b入力、リングギア13c出力となるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ダンプトラック等に搭載される遊星歯車式変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ダンプトラック等の建設車両には、エンジンの出力トルクを入力軸から入力して、各建設車両の走行目的に応じて複数の速度段の間で切り換えながら走行するために、複数の遊星歯車等を含む変速機が搭載されている。
例えば、特許文献1には、入力軸から出力軸に対して効率よくトルクを伝達することにより同一の段間比で広範囲な減速を行うことを目的として、クラッチやブレーキ部品とともにトルクコンバータと2つの遊星ギア列とを組み合わせた変速機について開示されている。
【特許文献1】US特許第4,205,563号(1980年6月3日登録)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の変速機では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された変速機では、必ずスピードユニットの減速比が1を超えてしまうという欠点がある。例えば、図2に示すように、減速比は、クラッチ28(Lクラッチ)締結時に1.00、ブレーキ24(Mクラッチ)締結時に1.35、ブレーキ26(Hクラッチ)締結時に1.84となっている。
【0004】
このため、変速機の後段に伝達される通過トルクが大きくなってしまうという問題を有している。この結果、後段に配置されるギアの前段に増速ギアが必要となったり、後段に配置されるギアを大型化したりする等の対策が必要となる。
本発明の課題は、通過トルクを抑制することで、後段に配置されるギアを大きくしたり、増速ギア等の余分な部品を追加したりすることなく、簡易な構成のままで多段化されたギアトレインを構成することが可能な遊星歯車式変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明に係る遊星歯車式変速機は、前段側変速部と後段側変速部とを有し、入力軸の回転を前段側変速部において変速して中間軸に伝達し、中間軸の回転を後段側変速部において変速して出力軸に伝達する遊星歯車式変速部において、前段側変速部は、第1遊星歯車列と、ダブルプラネタリタイプの第2遊星歯車列と、第1クラッチと、第2クラッチと、第3クラッチとを有している。第1クラッチは、入力軸と中間軸との間を断続する。第2クラッチは、第2遊星歯車機構のサンギアと固定部との間を断続する。第3クラッチは、第2遊星歯車機構のリングギアと固定部との間を断続する。第1遊星歯車列のキャリアと、第2遊星歯車列のキャリアとは、いずれも前記入力軸に接続される。第1遊星歯車列のリングギアは、中間軸に接続される。
【0006】
ここでは、例えば、ダンプトラック等の建設車両等に搭載され、2つの遊星歯車列と3段階の変速段を切り換える第1〜第3クラッチとを含むように構成された、いわゆるダブルプラネタリタイプの遊星歯車列を含む遊星歯車式変速機において、以下のような構成を備えている。すなわち、本発明に係る遊星歯車式変速機では、減速比が小さくなっていく変速段においては、第1遊星歯車列と第2遊星歯車列とにおける動力の伝達経路が、第1遊星キャリアから入力されて第1リングギアから出力されるように構成されている。
【0007】
これにより、2つの遊星歯車列と3つの変速段を切り換えるクラッチとを組み合わせるとともに、クラッチ作動時に第1遊星歯車列においてキャリア入力、リングギア出力とすることにより、遊星歯車列の特性によって、3段の減速比の全てが1.000以下となる構成を採ることができる。
この結果、従来の遊星歯車式変速機のように3つの変速段の全ての減速比が1.000以上となって減速側にシフトされるために伝達トルクが大きくなって後段側のギア等が大型化してしまうことを回避して、コンパクトな構成とすることができる。さらに、以上のような構成を採用することにより、遊星歯車列の特性によって、3つの変速段それぞれの減速比がほぼ等段間比になるように減速比を設定することができる。この結果、例えば、本発明に係る遊星歯車式変速機を入力段に、従来の3列の変速機を出力段にそれぞれ配置することで、前進9段、後進3段の多段変速機をコンパクトに構成することができる。
【0008】
第2の発明に係る遊星歯車式変速機は、第1の発明に係る遊星歯車式変速機であって、後段側変速部は、低速、中速、高速、後進の前進3段、後進1段の変速段を構成する変速機であって、第3遊星歯車列と、第4遊星歯車列と、第5遊星歯車列と、低速・中速・高速・後進の各クラッチと、を有している。低速クラッチは、第3遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する。中速クラッチは、第4遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する。高速クラッチは、中間軸と第4遊星歯車列のキャリアとを断続する。後進クラッチは、第5遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する。第4遊星歯車列のキャリアと第5遊星歯車列のキャリアとは、いずれも高速クラッチを介して中間軸に断続的に接続されている。第3遊星歯車列のキャリアは、出力軸に対して接続されている。
【0009】
ここでは、出力側の変速機の構成として、後進の変速段に相当する後進クラッチおよび第5遊星歯車列よりも、低速クラッチおよび第3遊星歯車列を、最も出力側寄りとなる最終段の位置に配置している。
通常、後進の変速段が最後段側に配置された場合には、複数の遊星歯車列を経由して動力が入力されることから、減速比が大きくなって牽引力が必要以上に大きくなりやすい。
これにより、例えば、後進の1速が前進1速の減速比よりも大きくなってしまうような構成を回避することができる。この結果、後進1速が低速度で牽引力が非常に大きい変速段となってしまい、使い勝手の悪い変速機となることを防止しつつ、前進9段後進3段の変速機を構成することができる。
【0010】
第3の発明に係る遊星歯車式変速機は、第2の発明に係る遊星歯車式変速機であって、後段側変速部は、低速、中速、高速、後進の前進3段、後進1段の変速段を構成する変速機であって、第3遊星歯車列と、第4遊星歯車列と、第5遊星歯車列と、低速クラッチと、中速クラッチと、高速クラッチと、後進クラッチと、を有している。低速クラッチは、第3遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する。中速クラッチは、第4遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する。高速クラッチは、中間軸と第4遊星歯車列のキャリアとを断続する。後進クラッチは、第5遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する。第4遊星歯車列のキャリアは、高速クラッチを介して中間軸に断続的に接続されている。第3遊星歯車列のキャリアと第5遊星歯車列のキャリアとは、いずれも出力軸に対して接続されている。
【0011】
ここでは、出力側の変速機の構成として、後進の変速段に相当する後進クラッチ、第5遊星歯車列を、最も後段側の位置に配置している。
これにより、後進の1速の減速比を大きくして、後進1速での牽引力を非常に大きくしつつ、前進9段後進3段の変速機を構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る遊星歯車式変速機によれば、通過トルクを抑制することで、後段に配置されるギアを大きくしたり、増速ギア等の余分な部品を追加したりすることなく、簡易な構成のままで多段化されたギアトレインを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る前段側変速部10および後段側変速部20を含むトランスミッション(遊星歯車式変速機)1の構成について、図1〜図4を用いて説明すれば以下の通りである。
[トランスミッション1全体の構成]
本実施形態に係るトランスミッション1は、図1および図2に示すように、トルクコンバータ2と、トルクコンバータ2の後段側に配置された前段側変速部10と、後段側変速部20と、を組み合わせて構成されている。そして、トランスミッション1は、トルクコンバータ2から入力軸11の回転を前段側変速部10によって変速して中間軸21に伝達し、中間軸21の回転を後段側変速部20により変速して出力軸26に伝達する。
【0014】
具体的には、トランスミッション1は、入力軸11と中間軸21との間に配置された前段側変速部10と、中間軸21と出力軸26との間に配置された後段側変速部20と、を備えている。そして、トランスミッション1は、これらの前段側変速部10(3段)と後段側変速部20(前進3段、後進1段)とを組み合わせて、前進9段(F1〜F9)、後進3段(R1〜R3)の変速段を構成する(図4参照)。
【0015】
[前段側変速部10]
前段側変速部10は、入力軸11と、Lクラッチ(第1クラッチ)12aと、Mクラッチ(第2クラッチ)12bと、Hクラッチ(第3クラッチ)12cと、互いに同軸で配置されたM遊星歯車列(第1遊星歯車列)13およびH遊星歯車列(第2遊星歯車列)14と、を有している。
【0016】
入力軸11は、トランスミッション1内の動力伝達経路における最も上流側に配置されており、トルクコンバータ2から動力が伝達される。
Lクラッチ12aは、前段側変速部10内における最も出力側に配置されており、入力軸11と中間軸21とを選択的に直結する。そして、Lクラッチ12aの作動時には、図3(a)に示すように、入力軸11からLクラッチ12aを介して中間軸21に対して直接的に動力を伝達する。なお、Lクラッチ12aの作動時には、入力軸11と中間軸21とが直結されるため、減速比は1.000となる。
【0017】
Mクラッチ12bは、前段側変速部10内における最も入力側に配置されており、M遊星歯車列13のサンギア13aと前段側変速部10のケース部(固定部)とを選択的に接合する。そして、Mクラッチ12bの作動時には、図3(b)に示すように、入力軸11に接続された後述するM遊星歯車列13に含まれるキャリア13bへ入力された動力は、キャリア13bに回転可能な状態で軸支された遊星ギア13eを経由してリングギア13cから中間軸21に対して伝達される。なお、Mクラッチ12bの作動時には、M遊星歯車列13内においてキャリア13b入力のリングギア13c出力となるため、減速比はLクラッチ12aの作動時よりも小さい0.742となる(L−M間の段間比は1.348)。
【0018】
Hクラッチ12cは、前段側変速部10内におけるLクラッチ12aとMクラッチ12bの間に配置されており、後述するH遊星歯車列14に含まれるリングギア14cと前段側変速部10のケース部(固定部)とを選択的に接合する。そして、Hクラッチ12cの作動時には、図3(c)に示すように、入力軸11に接続された後述するM遊星歯車列13に含まれるキャリア13bへ入力された動力の一部を、そのままM遊星歯車列13のリングギア13cから中間軸21に対して伝達する。一方、キャリア13bに入力された残りの動力は、M遊星歯車列13のキャリア13bと一体化されたH遊星歯車列14のキャリア14bを経て、H遊星歯車列14のサンギア14a、M遊星歯車列13のサンギア13aの順に伝達され、M遊星歯車列13のリングギア13cから中間軸21に対して伝達される。なお、Hクラッチ12cの作動時には、M遊星歯車列13のキャリア13bから入力された後、H遊星歯車列14のキャリア14b、サンギア14aおよびM遊星歯車列13のサンギア13aを経由して、リングギア13cから出力されるため、減速比はMクラッチ作動時よりも小さい0.556である(M−H間の段間比は1.334)。
【0019】
M遊星歯車列13は、シングルプラネタリタイプの遊星歯車列であって、前段側変速部10における出力側に配置されている。なお、このM遊星歯車列13の構成については、後段にて詳述する。
H遊星歯車列14は、ダブルプラネタリタイプの遊星歯車列であって、前段側変速部10におけるM遊星歯車列13よりも入力側に配置されている。なお、このH遊星歯車列14の構成については、後段にて詳述する。
【0020】
(M遊星歯車列13)
M遊星歯車列13は、サンギア13aと、キャリア13bと、リングギア13cと、遊星ギア13eと、を含むように構成されている。
サンギア13aは、入力軸11の外周面に沿って、M遊星歯車列13における最も内周側に配置されている。また、サンギア13aは、外周側のギア部分においてキャリア13bに軸支された遊星ギア13eと噛み合うように配置されている。
【0021】
キャリア13bは、周方向に沿ってほぼ等間隔で配置された複数の遊星ギア13eを、回転可能な状態で軸支している。そして、本実施形態では、キャリア13bは、入力軸11に対して固定されている。このため、このM遊星歯車列13は、キャリア入力となっている。さらに、本実施形態では、キャリア13bは、入力軸11の軸方向に隣接するH遊星歯車列14に含まれるキャリア14bと一体化されている。
【0022】
リングギア13cは、キャリア13bに軸支された遊星ギア13eに対して内周面側のギア部分が噛み合うように配置されている。本実施形態では、このリングギア13cが中間軸21に対して固定され、リングギア出力される。
遊星ギア13eは、キャリア13bにおいて回転可能な状態で軸支されており、内周側のサンギア13aと外周側のリングギア13cとに対してそれぞれ噛み合うように配置されている。
【0023】
(H遊星歯車列14)
H遊星歯車列14は、サンギア14aと、キャリア14bと、リングギア14cと、2組の遊星ギア14e1,14e2と、を含むように構成されている。
サンギア14aは、入力軸11の外周面に沿って、H遊星歯車列14における最も内周側に配置されている。また、サンギア14aは、外周側のギア部分においてキャリア14bに軸支された内周側の遊星ギア14e1と噛み合うように配置されている。
【0024】
キャリア14bは、周方向に沿ってほぼ等間隔で配置された内外周側のそれぞれの遊星ギア14e1,14e2を、回転可能な状態で軸支している。そして、本実施形態では、キャリア14bは、上述したように、入力軸11の軸方向に隣接するM遊星歯車列13に含まれるキャリア13bと一体化されている。
リングギア14cは、キャリア14bに軸支された遊星ギア14e1,14e2のうち、外周側の遊星ギア14e2に対して内周面側のギア部分が噛み合うように配置されている。
【0025】
遊星ギア14e1,14e2は、キャリア14bにおいて回転可能な状態で軸支されている。遊星ギア14e1は、遊星ギア14e2よりも内周側に配置されており、サンギア14aと外周側の遊星ギア14e2とに対してそれぞれ噛み合うように配置されている。一方、遊星ギア14e2は、遊星ギア14e1よりも外周側に配置されており、外周側においてリングギア13cと内周側において遊星ギア14e1とに対してそれぞれ噛み合うように配置されている。
【0026】
H遊星歯車列14では、以上のように、2組の遊星ギア14e1,14e2を含むダブルプラネタリタイプの遊星歯車列となっている。このため、出力される動力の回転方向を逆にしたりすることができる。
[後段側変速部20]
後段側変速部20は、中間軸21と、1速クラッチ(低速クラッチ)22aと、2速クラッチ(中速クラッチ)22bと、3速クラッチ(高速クラッチ)22cと、後進クラッチ22dと、1速遊星歯車列(第3遊星歯車列)23と、2速遊星歯車列(第4遊星歯車列)24と、後進遊星歯車列(第5遊星歯車列)25と、出力軸26と、を有している。
【0027】
中間軸21は、入力軸11と出力軸26との間に配置されており、前段側変速部10から出力された動力を、後段側変速部20へと伝達する。
1速クラッチ22aは、後段側変速部20内における最も出力側に配置されており、1速遊星歯車列23のリングギア23cと後段側変速部20のケースとを選択的に接合する。そして、1速クラッチ22aの作動時には、中間軸21に接続された後述する1速遊星歯車列23のサンギア23aから遊星ギア23eを経て、キャリア23bから出力軸26に対して動力が伝達されるとともに、残りの動力が1速遊星歯車列23のサンギア23aを介して、遊星ギア23e、キャリア23bから出力軸26に対して動力が伝達される。なお、1速クラッチ22aの作動時には、上述したL,M,Hのクラッチ12a〜12cの作動時と順次組み合わせて、F1が5.091、F2が3.780、F3が2.830となる(図4参照)。このとき、F1−F2間の段間比は1.348、F2−F3間の段間比は1.335である(図4参照)。
【0028】
2速クラッチ22bは、後段側変速部20内における3速クラッチ22cと後進クラッチ22dとの間に配置されており、2速遊星歯車列24のリングギア24cと後段側変速部20のケースとを選択的に接合する。そして、2速クラッチ22bの作動時には、中間軸21に入力された動力の一部が、2速遊星歯車列24のサンギア24aから遊星ギア24eを経て、キャリア24bと一体化されたキャリア25b、1速遊星歯車列23のリングギア23c、遊星ギア23e、キャリア23bから出力軸26に対して動力が伝達されるとともに、残りの動力が1速遊星歯車列23のサンギア23aを介して、遊星ギア23eおよびキャリア23bから出力軸26に対して動力が伝達される。なお、2速クラッチ22bの作動時には、上述したL,M,Hのクラッチ12a〜12cの作動時と順次組み合わせて、F4が2.163、F5が1.606、F6が1.203となる(図4参照)。このとき、F3−F4間の段間比は1.308、F4−F5間の段間比は1.348、F5−F6間の段間比は1.335である(図4参照)。
【0029】
3速クラッチ22cは、後段側変速部20内における最も入力側に配置されており、中間軸21と2速遊星歯車列24のキャリア24bとを選択的に接合する。そして、3速クラッチ22cの作動時には、中間軸21に入力された動力の一部が、2速遊星歯車列24のキャリア24bと一体化されたキャリア25b、1速遊星歯車列23のリングギア23c、遊星ギア23e、キャリア23bから出力軸26に対して伝達されるとともに、残りの動力が1速遊星歯車列23のサンギア23aを介して、遊星ギア23e、キャリア23bから出力軸26に対して動力が伝達される。なお、3速クラッチ22cの作動時には、上述したL,M,Hのクラッチ12a〜12cの作動時と順次組み合わせて、F7が1.000、F8が0.742、F9が0.556となる(図4参照)。このとき、F6−F7間の段間比は1.203、F7−F8間の段間比は1.348、F8−F9間の段間比は1.335である(図4参照)。
【0030】
後進クラッチ22dは、後段側変速部20内における1速クラッチ22aと2速クラッチ22bとの間に配置されており、後進遊星歯車列25のリングギア25cと後段側変速部20のケースとを選択的に接合する。そして、後進クラッチ22dの作動時には、中間軸21に入力された動力の一部が、後進遊星歯車列25のサンギア25aから遊星ギア25eを経て、キャリア25b、1速遊星歯車列23のリングギア23c、遊星ギア23e、キャリア23bから出力軸26に対して動力が伝達される。なお、後進クラッチ22dの作動時には、上述したL,M,Hのクラッチ12a〜12cの作動時と順次組み合わせて、R1が−4.571、R2が−3.394、R3が−2.541となる(図4参照)。このとき、R1−R2間の段間比は1.348、R2−R3間の段間比は1.335である(図4参照)。
【0031】
1速遊星歯車列23は、シングルプラネタリタイプの遊星歯車列であって、後段側変速部20における最も出力側に配置されている。なお、1速遊星歯車列23の詳細な構成については、後段にて詳述する。
2速遊星歯車列24は、シングルプラネタリタイプの遊星歯車列であって、後段側変速部20における最も入力側に配置されている。なお、2速遊星歯車列24の詳細な構成については、後段にて詳述する。
【0032】
後進遊星歯車列25は、ダブルプラネタリタイプの遊星歯車列であって、後段側変速部20における1速遊星歯車列23と2速遊星歯車列24との間に配置されている。なお、後進遊星歯車列25の詳細な構成については、後段にて詳述する。
出力軸26は、トランスミッション1における動力伝達経路上の最も下流側に配置されており、入力軸11から中間軸21を経て伝達された動力を下流側へと出力する。
【0033】
(1速遊星歯車列23)
1速遊星歯車列23は、サンギア23aと、キャリア23bと、リングギア23cと、遊星ギア23eと、を含むように構成されている。
サンギア23aは、中間軸21の外周面に沿って、1速遊星歯車列23における最も内周側に配置されている。また、サンギア23aは、外周側のギア部分においてキャリア23bに軸支された遊星ギア23eと噛み合うように配置されている。
【0034】
キャリア23bは、周方向に沿ってほぼ等間隔で配置された複数の遊星ギア23eを、回転可能な状態で軸支している。本実施形態では、このキャリア23bは、出力軸26に対して固定されている。このため、後段側変速部20内において伝達された動力は、このキャリア23bから出力軸26へと出力される。
リングギア23cは、キャリア23bに軸支された遊星ギア23eに対して内周面側のギア部分が噛み合うように配置されている。
【0035】
遊星ギア23eは、キャリア23bにおいて回転可能な状態で軸支されており、内周側のサンギア23aと外周側のリングギア23cとに対してそれぞれ噛み合うように配置されている。
(2速遊星歯車列24)
2速遊星歯車列(第4遊星歯車列)24は、シングルプラネタリタイプの遊星歯車列であって、サンギア24aと、キャリア24bと、リングギア24cと、遊星ギア24eと、を含むように構成されている。
【0036】
サンギア24aは、中間軸21の外周面に沿って、2速遊星歯車列24における最も内周側に配置されている。また、サンギア24aは、外周側のギア部分においてキャリア24bに軸支された遊星ギア24eと噛み合うように配置されている。
キャリア24bは、周方向に沿ってほぼ等間隔で配置された複数の遊星ギア24eを、回転可能な状態で軸支している。本実施形態では、このキャリア24bは、軸方向において隣接する後進遊星歯車列25のキャリア25bと一体化されている。
【0037】
リングギア24cは、キャリア24bに軸支された遊星ギア24eに対して内周面側のギア部分が噛み合うように配置されている。
遊星ギア24eは、キャリア24bにおいて回転可能な状態で軸支されており、内周側のサンギア24aと外周側のリングギア24cとに対してそれぞれ噛み合うように配置されている。
【0038】
(後進遊星歯車列25)
後進歯車列(第5遊星歯車列)25は、ダブルプラネタリタイプの遊星歯車列であって、サンギア25aと、キャリア25bと、リングギア25cと、2組の遊星ギア25e1,25e2と、を含むように構成されている。
サンギア25aは、中間軸21の外周面に沿って、後進遊星歯車列25における最も内周側に配置されている。また、サンギア25aは、外周側のギア部分においてキャリア25bに軸支された内周側の遊星ギア25e1と噛み合うように配置されている。
【0039】
キャリア25bは、周方向に沿ってほぼ等間隔で配置された内外周側のそれぞれの遊星ギア25e1,25e2を、回転可能な状態で軸支している。そして、本実施形態では、キャリア25bは、上述したように、軸方向に隣接する2速遊星歯車列24に含まれるキャリア24bと一体化されている。
リングギア25cは、キャリア25bに軸支された遊星ギア25e1,25e2のうち、外周側の遊星ギア25e2に対して内周面側のギア部分が噛み合うように配置されている。
【0040】
2組の遊星ギア25e1,25e2は、それぞれキャリア25bにおいて回転可能な状態で軸支されている。遊星ギア25e1は、遊星ギア25e2よりも内周側に配置されており、サンギア25aと外周側の遊星ギア25e2とに対してそれぞれ噛み合うように配置されている。一方、遊星ギア25e2は、遊星ギア25e1よりも外周側に配置されており、外周側においてリングギア25cと内周側において遊星ギア25e1とに対してそれぞれ噛み合うように配置されている。
【0041】
後進遊星歯車列25では、以上のように、2組の遊星ギア25e1,25e2を含むダブルプラネタリタイプの遊星歯車列となっている。このため、出力される動力の回転方向を逆にすることで、後進させるための動力を伝達することができる。
[本トランスミッション1および前段側変速部10の特徴]
(1)
本実施形態の前段側変速部10は、図2に示すように、入力軸11へ伝達された動力を中間軸21に対して変速して伝達する装置であって、Lクラッチ12a、Mクラッチ12b、Hクラッチ12cを含むクラッチ機構と、軸方向において隣接するように配置された2つのM・H遊星歯車列13,14と、を備えている。M遊星歯車列13は、シングルプラネタリタイプの遊星列であって、サンギア13aと、キャリア13bと、リングギア13cと、遊星ギア13eと、を有している。H遊星歯車列14は、ダブルプラネタリタイプの遊星列であって、サンギア14aと、キャリア14bと、リングギア14cと、2組の遊星ギア14e1,14e2と、を有している。Lクラッチ12aは、入力軸11と中間軸21との間を断続する。Mクラッチ12bは、H遊星歯車列14のサンギア13aとトランスミッション1のケース部との間を断続する。Hクラッチ12cは、H遊星歯車列14のリングギア14cとトランスミッション1の固定部との間を断続する。そして、M遊星歯車列13のキャリア13bとH遊星歯車列14のキャリア14bとは、ともに入力軸11に接続されている。さらに、M遊星歯車列13のリングギア13cは、中間軸21に接続されている。
【0042】
これにより、M,Hクラッチ12b,12cの作動時においては、入力軸11からキャリア13bに対して動力が入力され、リングギア13cから出力されるように構成することができる。よって、上述した2つの遊星歯車列の組み合わせによって、L,M,Hの各クラッチ12a〜12cの作動時における減速比を、すべて1.000以下に設定することができる。この結果、出力側の中間軸21に伝達される通過トルクが増大することを回避して、トランスミッション1の構成を簡素化することができる。
【0043】
さらに、上述したように、M,H遊星歯車列13,14の構成および動力の入出力の関係により、H,M,Lの段間比をほぼ同等にすることができる。このため、後段側に配置された前進3段、後進1段の後段側変速部20との組み合わせによって、前進9段、後進3段の変速段を容易に構成することができる。
(2)
本実施形態のトランスミッション1では、図1および図2に示すように、上述した前段側変速部10の出力側に、後段側変速部20を配置して組み合わせている。後段側変速部20は、1速、2速、3速、後進の各クラッチ22a〜22dを含むクラッチ機構と、1速,2速,後進の各遊星歯車列23〜25と、を備えている。
【0044】
これにより、上述した前段側変速部10が3段の変速段(L,M,H)間においてほぼ当段間比となるように設定されているため、これに前進3段、後進1段の後段側変速部20を組み合わせるだけで、容易に前進9段、後進3段の多段化されたトランスミッション1をコンパクトに構成することができる。
(3)
本実施形態のトランスミッション1では、図1および図2に示すように、上述した後段側変速部20が、1速遊星歯車列23と、2速遊星歯車列24と、後進遊星歯車列25と、1速クラッチ22aと、2速クラッチ22bと、3速クラッチ22cと、後進クラッチ22dと、を備えている。最下段側に設けられた1速クラッチ22aは、1速遊星歯車列23のリングギア23cとトランスミッション1の固定部とを断続する。2速クラッチ22bは、2速遊星歯車列24のリングギア24cとトランスミッション1の固定部とを断続する。3速クラッチ22cは、中間軸21と2速遊星歯車列24のキャリア24bとを断続する。後進クラッチ22dは、後進遊星歯車列25のリングギア25cとトランスミッション1の固定部とを断続する。そして、2速遊星歯車列24のキャリア24bと後進遊星歯車列25のキャリア25bとは、ともに3速クラッチ22cを介して中間軸21に断続的に接続される。さらに、1速遊星歯車列23のキャリア23bは、出力軸26に対して接続される。
【0045】
これにより、後進クラッチ22dおよび後進遊星歯車列25を、1速クラッチ22aおよび1速遊星歯車列23よりも入力側に配置することができる。よって、後進クラッチ等が最も出力側に配置された構成と比較して、後進時における変速段の減速比が必要以上に大きくなってしまうことを回避することができる。この結果、後進時における走行速度や走行トルクを適度な大きさに設定することができる。
【0046】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施形態では、前段側変速部10の後段に配置された後段側変速部20の構成として、前段側から、3速クラッチ22c、2速クラッチ22bと2速遊星歯車列24、後進クラッチ22dと後進遊星歯車列25、1速クラッチ22aと1速遊星歯車列23、の順に配置した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
つまり、後段側変速部の構成としては、他の構成を有する変速部を組み合わせて用いてもよい。
例えば、図5に示すように、後段側変速部30の構成として、前段側から順に、3速クラッチ32c、2速クラッチ32bと2速遊星歯車列34、1速クラッチ32aと1速遊星歯車列33、後進クラッチ32dと後進遊星歯車列35、と配置され、中間軸31側から出力軸36へと動力を伝達するトランスミッション100であってもよい。
【0048】
1速遊星歯車列33は、1速クラッチ32aと選択的に接合され、サンギア33aと、キャリア33bと、キャリア33bにおいて回転可能な状態で軸支された遊星ギア33eと、リングギア33cと、を含むように構成されている。
2速遊星歯車列34は、2速クラッチ32bと選択的に接合され、サンギア34aと、キャリア34bと、キャリア34bにおいて回転可能な状態で軸支された遊星ギア34eと、リングギア34cと、を含むように構成されている。
【0049】
後進遊星歯車列35は、後進クラッチ32dと選択的に接合され、サンギア35aと、キャリア35bと、キャリア35bにおいて回転可能な状態で軸支された遊星ギア35eと、リングギア35cと、を含むように構成されている。
この場合には、後進遊星歯車列35等が最後段側に配置されているため、後進1速の減速比を相当大きくして十分な牽引力を確保することができる。このため、後進時において牽引力が必要な車両に対して適用可能となる。
【0050】
(B)
上記実施形態では、前段側変速部10のH,M,Lの減速比として、0.556、0.742、1.000とそれぞれ設定した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、H−M間およびM−L間においてほぼ等段間比となる減速比が設定されていれば、上記減速比の値よりも大きくなるように設定してもよいし、小さくなるように設定してもよい。
【0051】
(C)
上記実施形態では、後段側変速部20の構成として、前進3段、後進1段の変速機を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、前進4段、後進1段のように、さらに多段化が可能な変速機を後段側変速部として組み合わせてもよい。この場合には、変速機全体として、前進12段、後進3段というさらに多段化された変速機を得ることができる。
【0052】
(D)
上記実施形態では、本発明に係るトランスミッション1を、ダンプトラックに搭載した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ホイルローダ等の他の建設車両に搭載されていてもよいし、他の作業車両に搭載されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の遊星歯車式変速機は、通過トルクを抑制することで、後段に配置されるギアを大きくしたり、増速ギア等の余分な部品を追加したりすることなく、簡易な構成のままで多段化されたギアトレインを構成することができるという効果を奏することから、複数の変速段を切り換えて走行速度や牽引力を変更しながら走行する車両全般に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係るトランスミッションの構成を示す断面図。
【図2】図1のトランスミッションの構成を示すスケルトン図。
【図3】(a)〜(c)は、図1の前段側変速部における各変速段ごとの動力の伝達経路を示すスケルトン図。
【図4】図1のトランスミッションにおける変速段ごとの減速比と段間比との関係を示す図。
【図5】本発明の他の実施形態に係るトランスミッションの構成を示す図。
【符号の説明】
【0055】
1 トランスミッション(遊星歯車式変速機)
2 トルクコンバータ
10 前段側変速部
11 入力軸
12a Lクラッチ(第1クラッチ)
12b Mクラッチ(第2クラッチ)
12c Hクラッチ(第3クラッチ)
13 M遊星歯車列(第1遊星歯車列)
13a サンギア
13b キャリア
13c リングギア
13e 遊星ギア
14 H遊星歯車列(第2遊星歯車列)
14a サンギア
14b キャリア
14c リングギア
14e1 遊星ギア
14e2 遊星ギア
20 後段側変速部
21 中間軸
22a 1速クラッチ(低速クラッチ)
22b 2速クラッチ(中速クラッチ)
22c 3速クラッチ(高速クラッチ)
22d 後進クラッチ
23 1速遊星歯車列(第3遊星歯車列)
23a サンギア
23b キャリア
23c リングギア
23e 遊星ギア
24 2速遊星歯車列(第4遊星歯車列)
24a サンギア
24b キャリア
24c リングギア
24e 遊星ギア
25 後進遊星歯車列(第5遊星歯車列)
25a サンギア
25b キャリア
25c リングギア
25e1,25e2 遊星ギア
26 出力軸
30 後段側変速部
31 中間軸
32a 1速クラッチ(低速クラッチ)
32b 2速クラッチ(中速クラッチ)
32c 3速クラッチ(高速クラッチ)
32d 後進クラッチ
33 1速遊星歯車列(第3遊星歯車列)
33a サンギア
33b キャリア
33c リングギア
33e 遊星ギア
34 2速遊星歯車列(第4遊星歯車列)
34a サンギア
34b キャリア
34c リングギア
34e 遊星ギア
35 後進遊星歯車列(第5遊星歯車列)
35a サンギア
35b キャリア
35c リングギア
35e 遊星ギア
36 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前段側変速部と後段側変速部とを有し、入力軸の回転を前記前段側変速部において変速して中間軸に伝達し、前記中間軸の回転を前記後段側変速部において変速して出力軸に伝達する遊星歯車式変速機において、
前記前段側変速機は、
第1遊星歯車列と、ダブルプラネタリタイプの第2遊星歯車列と、
前記入力軸と前記中間軸との間を断続する第1クラッチと、前記第2遊星歯車機構のサンギアと固定部との間を断続する第2クラッチと、前記第2遊星歯車機構のリングギアと固定部との間を断続する第3クラッチと、を有し、
前記第1遊星歯車列のキャリアと、前記第2遊星歯車列のキャリアとは、いずれも前記入力軸に接続され、
前記第1遊星歯車列のリングギアは、前記中間軸に接続される、
遊星歯車式変速機。
【請求項2】
前記後段側変速部は、低速、中速、高速、後進の前進3段、後進1段の変速段を構成する変速機であって、
第3遊星歯車列と、第4遊星歯車列と、第5遊星歯車列と、
前記第3遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する低速クラッチと、前記第4遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する中速クラッチと、前記中間軸と前記第4遊星歯車列のキャリアとを断続する高速クラッチと、前記第5遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する後進クラッチと、
を有しており、
前記第4遊星歯車列のキャリアと前記第5遊星歯車列のキャリアとは、いずれも前記高速クラッチを介して前記中間軸に断続的に接続されており、
前記第3遊星歯車列のキャリアは、前記出力軸に対して接続されている、
請求項1に記載の遊星歯車式変速機。
【請求項3】
前記後段側変速部は、低速、中速、高速、後進の前進3段、後進1段の変速段を構成する変速機であって、
第3遊星歯車列と、第4遊星歯車列と、第5遊星歯車列と、
前記第3遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する低速クラッチと、前記第4遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する中速クラッチと、前記中間軸と前記第4遊星歯車列のキャリアとを断続する高速クラッチと、前記第5遊星歯車列のリングギアと固定部とを断続する後進クラッチと、
を有しており、
前記第4遊星歯車列のキャリアは、前記高速クラッチを介して前記中間軸に断続的に接続されており、
前記第3遊星歯車列のキャリアと前記第5遊星歯車列のキャリアとは、いずれも前記出力軸に対して接続されている、
請求項1に記載の遊星歯車式変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−156351(P2010−156351A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246655(P2007−246655)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】