運転状態判断装置、及びプログラム
【課題】従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断する。
【解決手段】第1の所定時間内において、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、検出された視線が第2の所定時間以上停留した第1の回数を演算し(108)、第1の所定時間内において、遠方領域20よりドライバの手前側の近傍領域22に、検出された視線が第2の所定時間以上停留した第2の回数を演算し(112)、第1の回数及び第2の回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値Eを演算し(114)、そして、相対値Eがドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値E´を含む所定範囲内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する(116)。
【解決手段】第1の所定時間内において、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、検出された視線が第2の所定時間以上停留した第1の回数を演算し(108)、第1の所定時間内において、遠方領域20よりドライバの手前側の近傍領域22に、検出された視線が第2の所定時間以上停留した第2の回数を演算し(112)、第1の回数及び第2の回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値Eを演算し(114)、そして、相対値Eがドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値E´を含む所定範囲内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する(116)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転状態判断装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバ(運転者)の心理的または生理的状態を判断する運転者状態判定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の運転者状態判定装置は、視線検出手段でドライバ(運転者)の視線方向を検出し、視線頻度分布計算手段で予め定められた時間内の視線方向の頻度分布を視線頻度分布として計算し、そして、運転者状態判断手段で視線頻度分布のパターンを識別することにより運転者の心理的または生理的状態を判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−251273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の運転者状態判定装置では、運転者の視線が一点に集中しているとき、運転者はぼんやり状態であると判断する。
【0006】
しかしながら、運転中の視線分布は中央に集中することが知られており、また、意図して特定箇所を注視している場合なども含め、上記特許文献1に記載の運転者状態判定装置では、運転者の心理的または生理的状態について誤った判断がなされる可能性が高く、ドライバの運転状態を正確に判断することができない可能性が高い、という問題がある。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するために成されたものであり、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる運転状態判断装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の運転状態判断装置は、移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段と、第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段と、前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段と、前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段と、前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段とを含んで構成されている。
【0009】
第1の発明の運転状態判断装置によれば、第1の演算手段が、第1の所定時間内において、ドライバの視界内の所定の遠方領域に、検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算し、第2の演算手段が、第1の所定時間内において、遠方領域よりドライバの手前側の近傍領域に、検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する。第3の演算手段が、第1の演算手段で演算された回数及び第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算し、そして、運転状態判断手段が、相対値がドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する。
【0010】
このように、第1の発明の運転状態判断装置によれば、遠方領域に視線が停留した回数及び近傍領域に視線が停留した回数に基づいた相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断しているので、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる。
【0011】
また、本発明の運転状態判断装置が、前記運転状態判断手段で前記運転に適した状態でないと判断された場合に、前記移動体を運転するドライバに、警報を報知するように制御する報知制御手段を更に含むようにしてもよい。これにより、移動体を運転するドライバは、自身の運転状態が運転に適した状態でないことを認識することができる。
【0012】
また、本発明の運転状態判断装置の前記第3の演算手段を、前記第1の演算手段で演算された回数に対する前記第2の演算手段で演算された回数の割合、前記第2の演算手段で演算された回数に対する前記第1の演算手段で演算された回数の割合、または前記第1の演算手段で演算された回数と前記第2の演算手段で演算された回数との差を前記相対値として演算するようにしてもよい。
【0013】
また、上記目的を達成するために本発明のプログラムは、コンピュータを、移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段、第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段、前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段、前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段、及び前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段として機能させるためのプログラムである。
【0014】
本発明のプログラムによれば、上記で説明した運転状態判断装置と同様の原理で、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上、説明したように、本発明に係る運転状態判断装置、及びプログラムによれば、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る運転状態判断装置を示す図である。
【図2】本実施の形態に係る遠方領域及び近傍領域を説明するための図である。
【図3】本実施の形態に係る遠方領域及び近傍領域を説明するための図である。
【図4】本実施の形態に係るコンピュータの機能ブロック図である。
【図5】本実施の形態に係る運転状態判断装置が実行する運転状態判断処理のフローチャートである。
【図6】ドライバの状態が運転に適した状態である場合を説明するための図である。
【図7】ドライバの状態が運転に適した状態でない場合を説明するための図である。
【図8】ドライバの状態が運転に適した状態でない場合を説明するための図である。
【図9】本実施の形態に係る運転状態判断装置が実行する運転状態判断処理を説明するための図である。
【図10】遠方領域及び近傍領域の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の運転状態判断装置の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本実施の形態では、移動体としての車両に搭載された場合の運転状態判断装置について説明する。また、運転状態が判断される対象の人物として、車両を運転するドライバ(運転者)を例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係る運転状態判断装置10は、顔撮影用カメラ12、コンピュータ14、及び警報装置16を備えている。
【0019】
顔撮影用カメラ12は、ドライバの目を含む顔を撮影可能な位置に設けられている。顔撮影用カメラ12は、撮影した画像の画像データを出力する。すなわち、顔撮影用カメラ12によって、ドライバの目を含む顔の画像である顔画像の画像データが出力される。なお、本実施の形態では、この画像データは、ドライバの視線の方向を検出するために用いられる。
【0020】
コンピュータ14は、ROM(Read Only Memory)14a、HDD(Hard Disk Drive)14b、CPU(Central Processing Unit)14c、RAM(Random Access Memory)14d、及びI/O(入出力)ポート14eを備えている。これらROM14a、HDD14b、CPU14c、RAM14d、及びI/Oポート14eは互いにバス14fで接続されている。
【0021】
記憶媒体(記憶手段)としてのROM14aには、OS等の基本プログラムが記憶されている。
【0022】
記憶媒体(記憶手段)としてのHDD14bには、詳細を以下で説明する運転状態判断処理の処理ルーチンを実行するためのプログラムが記憶されている。
【0023】
また、HDD14bには、図2に示す、遠方領域20を示す情報、及び近傍領域22を示す情報が記憶されている。遠方領域20及び近傍領域22は、例えば、ドライバの垂直方向の視野角により定義することができる。
【0024】
本実施の形態における遠方領域20及び近傍領域22について詳細に説明する。図2(A)に示すように、水平方向をドライバの視野角の基準として、基準となる水平方向からの視野角の角度θ[deg]に基づいて、遠方領域20及び近傍領域22を定めることができる。本実施の形態では、図2(B)に示すように、車両を運転するドライバの視界24内の消失点の視野角VP[deg]から車両のボンネットでぎりぎりまで道路が見える視野角B[deg]までの視界を二等分する((B−VP)/2[deg])。そして、視野角θ[deg]が、消失点の視野角VP[deg]以上で、かつ(B−VP)/2[deg]未満のドライバの視界24の領域を遠方領域20とする。また、視野角θ[deg]が、(B−VP)/2[deg]以上で、かつB[deg]未満のドライバの視界24の領域を近傍領域22とする。なお、これらの情報は実験的に予め求められ、上述したように、HDD14bに記憶されている。すなわち、遠方領域20は、車両を運転するドライバの視界24内の消失点を含む領域である。また、近傍領域22は、車両を運転するドライバの視界24内の消失点を含まずかつ遠方領域20よりドライバの手前側の領域である。
【0025】
また、図3に示すように、遠方領域20を示す情報は、遠方領域20を特定することが可能な数の座標、例えば、4つの角の座標20A(Xa,Ya)、座標20B(Xb,Yb)、座標20C(Xc,Yc)、座標20D(Xd,Yd)を含む情報でもある。なお、これらの座標20A(Xa,Ya)、20B(Xb,Yb)、20C(Xc,Yc)、20D(Xd,Yd)は、車両を運転するドライバの視界における座標系(X−Y座標系)における座標であり、この座標系は予め定められたものである。また、上記の遠方領域20を示す各座標の情報は予め定められて、HDD14bに記憶されている。
【0026】
同様に、近傍領域22を示す情報は、近傍領域22を特定することが可能な数の座標、例えば、4つの角の座標22E(Xe,Ye)、座標22F(Xf,Yf)、座標22G(Xg,Yg)、座標22H(Xh,Yh)を含む情報でもある。なお、これらの座標22E(Xe,Ye)、座標22F(Xf,Yf)、座標22G(Xg,Yg)、座標22H(Xh,Yh)は、車両を運転するドライバの視界における上記と同一の座標系(X−Y座標系)における座標であり、上記の近傍領域22を示す各座標の情報は予め定められて、HDD14bに記憶されている。また、本実施の形態では、上記座標20Dと上記座標22Eとは同一となり、上記座標20Cと上記座標22Fとは同一となる。
【0027】
CPU14cは、プログラムをROM14a及びHDD14bから読み出して実行する。
【0028】
RAM14dには、各種データが一時的に記憶される。
【0029】
I/Oポート14eには、顔撮影用カメラ12、及び警報装置16が接続されている。従って、CPU14cは、顔撮影用カメラ12から画像データを取得することが可能となり、また、CPU14cは、警報音を出力するように警報装置16を制御することが可能となる。
【0030】
コンピュータ14を以下で詳細を説明する運転状態判断処理に従って機能ブロックで表すと、図4に示すように、検出手段70、第1の演算手段(遠方領域停留回数演算手段)72、第2の演算手段(近傍領域停留回数演算手段)74、第3の演算手段(相対値演算手段)76、運転状態判断手段78、及び報知制御手段80で表すことができる。
【0031】
検出手段70は、移動体としての車両を運転するドライバの視線の方向を検出する。
【0032】
第1の演算手段72は、第1の所定時間X(例えば、X=10秒)内において、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、検出手段70で方向が検出された視線が第2の所定時間Y(例えば、Y=0.5秒)以上停留した回数を演算する。
【0033】
第2の演算手段74は、第1の所定時間X内において、遠方領域20よりドライバの手前側の近傍領域22に、検出手段70で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する。
【0034】
第3の演算手段76は、第1の演算手段72で演算された回数及び第2の演算手段74で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する。
【0035】
運転状態判断手段78は、第3の演算手段76で演算された相対値が、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、車両のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する。
【0036】
報知制御手段80は、運転状態判定手段78でドライバの状態が運転に適した状態でないと判断された場合に、車両を運転するドライバに、警報を報知するように警報装置16を制御する。
【0037】
次に、コンピュータ14のCPU14cが実行する運転状態判断処理の処理ルーチンについて図5を参照して説明する。
【0038】
なお、本実施の形態において、運転状態判断処理は、運転状態判断装置10の電源(図示せず)がオンされると、実行される。
【0039】
まず、ステップ100で、時間を計測するためのタイマーによる時間の計測をスタート(開始)させる。これにより、時間Tの計測が開始される。なお、このようなタイマーは周知の技術であり、本実施の形態では、例えば、1秒単位で時間を計測するためのタイマーを用いる。また、ステップ100では、変数cntF及び変数cntNの値を0に設定することにより、変数cntF及び変数cntNを初期化する。
【0040】
次のステップ102では、上記タイマーによって計測された時間Tが、第1の所定時間X(例えば、X=10秒)を超えたか否かを判定する。ステップ102で、時間Tが第1の所定時間Xを超えたと判定された場合には、次のステップ114に進む。一方、ステップ102で、時間Tが第1の所定時間Xを超えていない(時間Tが第1の所定時間X内である)と判定された場合には、次のステップ104へ進む。
【0041】
ステップ104では、第2の所定時間Y(例えば、Y=0.5秒)の間、顔撮影用カメラ12からの画像データを所定時間間隔(例えば、0.5秒間隔)で取り込み、取り込んだ各画像データからドライバの視線の方向(x、y)を検出する。これにより、第2の所定時間Yの間のドライバの視線の方向(x、y)が1個または複数個検出される。なお、公知の技術を用いて画像データからドライバの視線の方向を検出することができ、例えば、特開平6−251273号公報に記載の技術等を用いてもよい。また、本実施の形態では、ドライバの視線の方向である(x、y)の座標は、上述したX−Y座標系における座標である。
【0042】
次のステップ106では、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、遠方領域20内に収まっているか否かを判断する。より具体的には、上述したように、遠方領域20の4角の座標20A、20B、20C、及び20Dが既知であるので、これらの座標が示す範囲内に、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが収まっているか否かを判断する。
【0043】
ステップ106で、肯定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、遠方領域20内に収まっていると判定された場合)には、次のステップ108へ進む。
【0044】
ステップ108では、変数cntFの値を1インクリメント(増加)する。これにより、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数が演算される。なお、この回数は変数CntFが示す値である。以下、この回数のことを第1の回数と称する場合がある。そして、ステップ102に戻る。
【0045】
一方、ステップ106で否定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、遠方領域20内に収まっていないと判定された場合)には、ステップ110へ進む。
【0046】
ステップ110では、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、近傍領域22内に収まっているか否かを判断する。より具体的には、上述したように、近傍領域22の4角の座標22E、22F、22G、及び22Hが既知であるので、これらの座標が示す範囲内に、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが収まっているか否かを判断する。
【0047】
ステップ110で、肯定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、近傍領域22内に収まっていると判定された場合)には、次のステップ112へ進む。
【0048】
ステップ112では、変数cntNの値を1インクリメント(増加)する。これにより、ドライバの視界24内の所定の近傍領域22に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数が演算される。なお、この回数は変数CntNが示す値である。以下、この回数のことを第2の回数と称する場合がある。そして、ステップ102に戻る。
【0049】
また、ステップ110で、否定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、近傍領域22内に収まっていないと判定された場合)にも、ステップ102へ戻る。
【0050】
ステップ102で肯定判定された場合には、上述したようにステップ114へ進む。すなわち、ステップ114へ進んだ時点で、第1の所定時間X内において、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数(第1の回数)が演算されると共に、第1の所定時間X内において、ドライバの視界24内の所定の近傍領域22に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数(第2の回数)が演算される。
【0051】
ステップ114では、第1の回数(変数cntFが示す値)及び第2の回数(変数cntNが示す値)の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する。より具体的には、例えば、以下の式(1)に従って、第2の回数に対する第1の回数の割合Eを相対値として演算する。
【0052】
【数1】
【0053】
次のステップ116では、上記ステップ114で相対値として演算された割合Eが、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた割合E´を含む所定範囲内((E´−cn)より大きく、(E´+cf)より小さい範囲)の値であるか否かを判定する。
【0054】
ここで、この相対値としての割合E´について説明する。実際の運転パフォーマンスには、視界遠方の情報と視界近傍の情報とが最も多く影響を与えている。ドライバは視界遠方より先の情報を入手し、これからどのような運転をすればよいかを計画し(フィードフォーワード制御)、視界近傍より今何をしないといけないかを判断し行動に移す(フィードバック制御)。そして、視界遠方の領域を視認する回数と、視界近傍の領域を視認する回数とが適切な割合である場合には、図6に示すように、ドライバによって車両が適切に運転される。このような場合のドライバの状態を運転適合状態と称する。
【0055】
一方、ドライバの視線が遠方よりに集中すると、図7に示すように、おおまかなルートは走行可能であるが微少修正ができなくなり逸脱が増加する。また、ドライバの視線が近傍よりに集中する(近傍ばかり見ている)と、図8に示すように、その場あたりの運転になってしまい、ふらつきが多く生じる。以上説明したように、ドライバの視線が遠方よりに集中するドライバの状態、及びドライバの視線が近傍よりに集中するドライバの状態は運転に適した状態ではない。なお、このような運転に適した状態ではない状態を運転不適状態と称する。
【0056】
そこで、本実施の形態では、上記のステップ100〜116までの処理を予め実験として行い、ドライバが運転に適した状態である場合の相対値(割合)Eを求め、この求められた相対値Eを上記のE´として設定することとする。また、上記のcf、cnは、上記ステップ116で演算された割合Eが、(E´−cn)より大きく(E´+cf)より小さい範囲であれば、ドライバが運転に適した状態であると判断可能な値とする。これらcf、cnは、は予め実験によって定められている。
【0057】
ステップ116で、上記ステップ114で相対値として演算された割合Eが、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた割合E´を含む所定範囲内((E´−cn)より大きく、(E´+cf)より小さい範囲)の値でないと判定された場合には、ドライバが運転に適した状態でないと判断して(すなわち、運転不適合状態であると判断して)、次のステップ118へ進む。なお、このような場合は、図9に示す「運転不適合」の場合に相当する。
【0058】
ステップ118では、ドライバに、警報を報知するように警報装置16を制御する。これにより、車両を運転するドライバは、自身の運転状態が運転に適した状態でないことを認識することができる。
【0059】
次のステップ120では、上記タイマーを初期化(タイマーが計測した時間Tを0に設定)する。
【0060】
そして、上記ステップ100に戻る。また、ステップ116で、上記ステップ114で相対値として演算された割合Eが、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた割合E´を含む所定範囲内((E´−cn)より大きく、(E´+cf)より小さい範囲)の値であると判定された場合、ドライバが運転に適した状態である運転適合状態であると判断して、上記ステップ120へ進む。なお、このような場合は、図9に示す「運転適合」の場合に相当する。
【0061】
以上、本実施の形態の運転状態判断装置10が実行する運転状態判断処理について説明した。なお、ステップ100、102、104は検出手段70によって実行され、ステップ106、108は、第1の演算手段72によって実行され、ステップ110、112は第2の演算手段74によって実行され、ステップ114は第3の演算手段76によって実行され、ステップ116は運転状態判断手段78によって実行され、ステップ118、120は報知制御手段80によって実行される。
【0062】
以上、本実施の形態の運転状態判断装置10について説明した。本実施の形態の運転状態判断装置10によれば、遠方領域20に視線が停留した回数及び近傍領域22に視線が停留した回数に基づいた相対値Eが、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値E´を含む所定範囲((E´−cn)〜(E´+cf))内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断しているので、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる。
【0063】
なお、ステップ114で、上記の式(1)に従って、第2の回数に対する第1の回数の割合Eを相対値として演算する例について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、以下の式(2)に従って、第1の回数に対する第2の回数の割合E´´を相対値として演算するようにしてもよい。
【0064】
【数2】
【0065】
また、以下の式(3)または式(4)に従って、第1の回数と第2の回数との差Kを相対値として演算してもよい。
【0066】
【数3】
【0067】
【数4】
【0068】
なお、これら式(2)、式(3)、式(4)の何れかに従って、ステップ114で相対値を演算した場合には、演算された相対値は、第1の回数及び第2の回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値である。また、これら式(2)、式(3)、式(4)の何れかに従って、ステップ114で相対値を演算した場合には、各々対応する値が、上記E´、cn、cfに設定される。
【0069】
また、遠方領域20及び近傍領域22は上記で説明した範囲の領域に限られない。例えば、図10に示すように、遠方領域20をF−Wf[deg]からF+Wf[deg]までの領域とし、近傍領域22をN−Wn[deg]からN+Wn[deg]までの領域としてもよい。なお、F=4[deg]、N=9[deg]、Wf=Wn=0.5[deg]としてもよい。また、F、N、Wf、Wnの各値は、車速、道路形状(のぼり、くだり、カーブ)に応じて変更することにより、より精度が高くドライバの運転状態を判断することが可能となる。
【0070】
また、上記の本実施の形態では、顔画像の処理を0.5秒間隔で行う場合に、第1の所定時間Xを10秒、第2の所定時間Yを0.5秒とした例について説明したが、第1の所定時間X、及び第2の所定時間Yはこれらの値に限られない。なお、顔画像の処理を0.5秒間隔で行う場合に、第1の所定時間Xを10秒、第2の所定時間Yを0.5秒とした場合には、前回の処理結果と今回の処理結果との視線の方向の差分に相当する(1つ前と比較して変化のない場合、停留とする)。
【符号の説明】
【0071】
10 運転状態判断装置
12 顔撮影用カメラ
14 コンピュータ
14c CPU
16 警報装置
70 検出手段
72 第1の演算手段
74 第2の演算手段
76 第3の演算手段
78 運転状態判断手段
80 報知制御手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転状態判断装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバ(運転者)の心理的または生理的状態を判断する運転者状態判定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の運転者状態判定装置は、視線検出手段でドライバ(運転者)の視線方向を検出し、視線頻度分布計算手段で予め定められた時間内の視線方向の頻度分布を視線頻度分布として計算し、そして、運転者状態判断手段で視線頻度分布のパターンを識別することにより運転者の心理的または生理的状態を判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−251273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の運転者状態判定装置では、運転者の視線が一点に集中しているとき、運転者はぼんやり状態であると判断する。
【0006】
しかしながら、運転中の視線分布は中央に集中することが知られており、また、意図して特定箇所を注視している場合なども含め、上記特許文献1に記載の運転者状態判定装置では、運転者の心理的または生理的状態について誤った判断がなされる可能性が高く、ドライバの運転状態を正確に判断することができない可能性が高い、という問題がある。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するために成されたものであり、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる運転状態判断装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の運転状態判断装置は、移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段と、第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段と、前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段と、前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段と、前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段とを含んで構成されている。
【0009】
第1の発明の運転状態判断装置によれば、第1の演算手段が、第1の所定時間内において、ドライバの視界内の所定の遠方領域に、検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算し、第2の演算手段が、第1の所定時間内において、遠方領域よりドライバの手前側の近傍領域に、検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する。第3の演算手段が、第1の演算手段で演算された回数及び第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算し、そして、運転状態判断手段が、相対値がドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する。
【0010】
このように、第1の発明の運転状態判断装置によれば、遠方領域に視線が停留した回数及び近傍領域に視線が停留した回数に基づいた相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断しているので、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる。
【0011】
また、本発明の運転状態判断装置が、前記運転状態判断手段で前記運転に適した状態でないと判断された場合に、前記移動体を運転するドライバに、警報を報知するように制御する報知制御手段を更に含むようにしてもよい。これにより、移動体を運転するドライバは、自身の運転状態が運転に適した状態でないことを認識することができる。
【0012】
また、本発明の運転状態判断装置の前記第3の演算手段を、前記第1の演算手段で演算された回数に対する前記第2の演算手段で演算された回数の割合、前記第2の演算手段で演算された回数に対する前記第1の演算手段で演算された回数の割合、または前記第1の演算手段で演算された回数と前記第2の演算手段で演算された回数との差を前記相対値として演算するようにしてもよい。
【0013】
また、上記目的を達成するために本発明のプログラムは、コンピュータを、移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段、第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段、前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段、前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段、及び前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段として機能させるためのプログラムである。
【0014】
本発明のプログラムによれば、上記で説明した運転状態判断装置と同様の原理で、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上、説明したように、本発明に係る運転状態判断装置、及びプログラムによれば、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る運転状態判断装置を示す図である。
【図2】本実施の形態に係る遠方領域及び近傍領域を説明するための図である。
【図3】本実施の形態に係る遠方領域及び近傍領域を説明するための図である。
【図4】本実施の形態に係るコンピュータの機能ブロック図である。
【図5】本実施の形態に係る運転状態判断装置が実行する運転状態判断処理のフローチャートである。
【図6】ドライバの状態が運転に適した状態である場合を説明するための図である。
【図7】ドライバの状態が運転に適した状態でない場合を説明するための図である。
【図8】ドライバの状態が運転に適した状態でない場合を説明するための図である。
【図9】本実施の形態に係る運転状態判断装置が実行する運転状態判断処理を説明するための図である。
【図10】遠方領域及び近傍領域の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の運転状態判断装置の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本実施の形態では、移動体としての車両に搭載された場合の運転状態判断装置について説明する。また、運転状態が判断される対象の人物として、車両を運転するドライバ(運転者)を例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係る運転状態判断装置10は、顔撮影用カメラ12、コンピュータ14、及び警報装置16を備えている。
【0019】
顔撮影用カメラ12は、ドライバの目を含む顔を撮影可能な位置に設けられている。顔撮影用カメラ12は、撮影した画像の画像データを出力する。すなわち、顔撮影用カメラ12によって、ドライバの目を含む顔の画像である顔画像の画像データが出力される。なお、本実施の形態では、この画像データは、ドライバの視線の方向を検出するために用いられる。
【0020】
コンピュータ14は、ROM(Read Only Memory)14a、HDD(Hard Disk Drive)14b、CPU(Central Processing Unit)14c、RAM(Random Access Memory)14d、及びI/O(入出力)ポート14eを備えている。これらROM14a、HDD14b、CPU14c、RAM14d、及びI/Oポート14eは互いにバス14fで接続されている。
【0021】
記憶媒体(記憶手段)としてのROM14aには、OS等の基本プログラムが記憶されている。
【0022】
記憶媒体(記憶手段)としてのHDD14bには、詳細を以下で説明する運転状態判断処理の処理ルーチンを実行するためのプログラムが記憶されている。
【0023】
また、HDD14bには、図2に示す、遠方領域20を示す情報、及び近傍領域22を示す情報が記憶されている。遠方領域20及び近傍領域22は、例えば、ドライバの垂直方向の視野角により定義することができる。
【0024】
本実施の形態における遠方領域20及び近傍領域22について詳細に説明する。図2(A)に示すように、水平方向をドライバの視野角の基準として、基準となる水平方向からの視野角の角度θ[deg]に基づいて、遠方領域20及び近傍領域22を定めることができる。本実施の形態では、図2(B)に示すように、車両を運転するドライバの視界24内の消失点の視野角VP[deg]から車両のボンネットでぎりぎりまで道路が見える視野角B[deg]までの視界を二等分する((B−VP)/2[deg])。そして、視野角θ[deg]が、消失点の視野角VP[deg]以上で、かつ(B−VP)/2[deg]未満のドライバの視界24の領域を遠方領域20とする。また、視野角θ[deg]が、(B−VP)/2[deg]以上で、かつB[deg]未満のドライバの視界24の領域を近傍領域22とする。なお、これらの情報は実験的に予め求められ、上述したように、HDD14bに記憶されている。すなわち、遠方領域20は、車両を運転するドライバの視界24内の消失点を含む領域である。また、近傍領域22は、車両を運転するドライバの視界24内の消失点を含まずかつ遠方領域20よりドライバの手前側の領域である。
【0025】
また、図3に示すように、遠方領域20を示す情報は、遠方領域20を特定することが可能な数の座標、例えば、4つの角の座標20A(Xa,Ya)、座標20B(Xb,Yb)、座標20C(Xc,Yc)、座標20D(Xd,Yd)を含む情報でもある。なお、これらの座標20A(Xa,Ya)、20B(Xb,Yb)、20C(Xc,Yc)、20D(Xd,Yd)は、車両を運転するドライバの視界における座標系(X−Y座標系)における座標であり、この座標系は予め定められたものである。また、上記の遠方領域20を示す各座標の情報は予め定められて、HDD14bに記憶されている。
【0026】
同様に、近傍領域22を示す情報は、近傍領域22を特定することが可能な数の座標、例えば、4つの角の座標22E(Xe,Ye)、座標22F(Xf,Yf)、座標22G(Xg,Yg)、座標22H(Xh,Yh)を含む情報でもある。なお、これらの座標22E(Xe,Ye)、座標22F(Xf,Yf)、座標22G(Xg,Yg)、座標22H(Xh,Yh)は、車両を運転するドライバの視界における上記と同一の座標系(X−Y座標系)における座標であり、上記の近傍領域22を示す各座標の情報は予め定められて、HDD14bに記憶されている。また、本実施の形態では、上記座標20Dと上記座標22Eとは同一となり、上記座標20Cと上記座標22Fとは同一となる。
【0027】
CPU14cは、プログラムをROM14a及びHDD14bから読み出して実行する。
【0028】
RAM14dには、各種データが一時的に記憶される。
【0029】
I/Oポート14eには、顔撮影用カメラ12、及び警報装置16が接続されている。従って、CPU14cは、顔撮影用カメラ12から画像データを取得することが可能となり、また、CPU14cは、警報音を出力するように警報装置16を制御することが可能となる。
【0030】
コンピュータ14を以下で詳細を説明する運転状態判断処理に従って機能ブロックで表すと、図4に示すように、検出手段70、第1の演算手段(遠方領域停留回数演算手段)72、第2の演算手段(近傍領域停留回数演算手段)74、第3の演算手段(相対値演算手段)76、運転状態判断手段78、及び報知制御手段80で表すことができる。
【0031】
検出手段70は、移動体としての車両を運転するドライバの視線の方向を検出する。
【0032】
第1の演算手段72は、第1の所定時間X(例えば、X=10秒)内において、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、検出手段70で方向が検出された視線が第2の所定時間Y(例えば、Y=0.5秒)以上停留した回数を演算する。
【0033】
第2の演算手段74は、第1の所定時間X内において、遠方領域20よりドライバの手前側の近傍領域22に、検出手段70で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する。
【0034】
第3の演算手段76は、第1の演算手段72で演算された回数及び第2の演算手段74で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する。
【0035】
運転状態判断手段78は、第3の演算手段76で演算された相対値が、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、車両のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する。
【0036】
報知制御手段80は、運転状態判定手段78でドライバの状態が運転に適した状態でないと判断された場合に、車両を運転するドライバに、警報を報知するように警報装置16を制御する。
【0037】
次に、コンピュータ14のCPU14cが実行する運転状態判断処理の処理ルーチンについて図5を参照して説明する。
【0038】
なお、本実施の形態において、運転状態判断処理は、運転状態判断装置10の電源(図示せず)がオンされると、実行される。
【0039】
まず、ステップ100で、時間を計測するためのタイマーによる時間の計測をスタート(開始)させる。これにより、時間Tの計測が開始される。なお、このようなタイマーは周知の技術であり、本実施の形態では、例えば、1秒単位で時間を計測するためのタイマーを用いる。また、ステップ100では、変数cntF及び変数cntNの値を0に設定することにより、変数cntF及び変数cntNを初期化する。
【0040】
次のステップ102では、上記タイマーによって計測された時間Tが、第1の所定時間X(例えば、X=10秒)を超えたか否かを判定する。ステップ102で、時間Tが第1の所定時間Xを超えたと判定された場合には、次のステップ114に進む。一方、ステップ102で、時間Tが第1の所定時間Xを超えていない(時間Tが第1の所定時間X内である)と判定された場合には、次のステップ104へ進む。
【0041】
ステップ104では、第2の所定時間Y(例えば、Y=0.5秒)の間、顔撮影用カメラ12からの画像データを所定時間間隔(例えば、0.5秒間隔)で取り込み、取り込んだ各画像データからドライバの視線の方向(x、y)を検出する。これにより、第2の所定時間Yの間のドライバの視線の方向(x、y)が1個または複数個検出される。なお、公知の技術を用いて画像データからドライバの視線の方向を検出することができ、例えば、特開平6−251273号公報に記載の技術等を用いてもよい。また、本実施の形態では、ドライバの視線の方向である(x、y)の座標は、上述したX−Y座標系における座標である。
【0042】
次のステップ106では、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、遠方領域20内に収まっているか否かを判断する。より具体的には、上述したように、遠方領域20の4角の座標20A、20B、20C、及び20Dが既知であるので、これらの座標が示す範囲内に、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが収まっているか否かを判断する。
【0043】
ステップ106で、肯定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、遠方領域20内に収まっていると判定された場合)には、次のステップ108へ進む。
【0044】
ステップ108では、変数cntFの値を1インクリメント(増加)する。これにより、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数が演算される。なお、この回数は変数CntFが示す値である。以下、この回数のことを第1の回数と称する場合がある。そして、ステップ102に戻る。
【0045】
一方、ステップ106で否定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、遠方領域20内に収まっていないと判定された場合)には、ステップ110へ進む。
【0046】
ステップ110では、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、近傍領域22内に収まっているか否かを判断する。より具体的には、上述したように、近傍領域22の4角の座標22E、22F、22G、及び22Hが既知であるので、これらの座標が示す範囲内に、上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが収まっているか否かを判断する。
【0047】
ステップ110で、肯定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、近傍領域22内に収まっていると判定された場合)には、次のステップ112へ進む。
【0048】
ステップ112では、変数cntNの値を1インクリメント(増加)する。これにより、ドライバの視界24内の所定の近傍領域22に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数が演算される。なお、この回数は変数CntNが示す値である。以下、この回数のことを第2の回数と称する場合がある。そして、ステップ102に戻る。
【0049】
また、ステップ110で、否定判定された場合(上記ステップ104で1個または複数個検出されたドライバの視線の方向(x、y)の全てが、近傍領域22内に収まっていないと判定された場合)にも、ステップ102へ戻る。
【0050】
ステップ102で肯定判定された場合には、上述したようにステップ114へ進む。すなわち、ステップ114へ進んだ時点で、第1の所定時間X内において、ドライバの視界24内の所定の遠方領域20に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数(第1の回数)が演算されると共に、第1の所定時間X内において、ドライバの視界24内の所定の近傍領域22に、上記ステップ104で方向(x、y)が検出された視線が第2の所定時間Y停留した回数(第2の回数)が演算される。
【0051】
ステップ114では、第1の回数(変数cntFが示す値)及び第2の回数(変数cntNが示す値)の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する。より具体的には、例えば、以下の式(1)に従って、第2の回数に対する第1の回数の割合Eを相対値として演算する。
【0052】
【数1】
【0053】
次のステップ116では、上記ステップ114で相対値として演算された割合Eが、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた割合E´を含む所定範囲内((E´−cn)より大きく、(E´+cf)より小さい範囲)の値であるか否かを判定する。
【0054】
ここで、この相対値としての割合E´について説明する。実際の運転パフォーマンスには、視界遠方の情報と視界近傍の情報とが最も多く影響を与えている。ドライバは視界遠方より先の情報を入手し、これからどのような運転をすればよいかを計画し(フィードフォーワード制御)、視界近傍より今何をしないといけないかを判断し行動に移す(フィードバック制御)。そして、視界遠方の領域を視認する回数と、視界近傍の領域を視認する回数とが適切な割合である場合には、図6に示すように、ドライバによって車両が適切に運転される。このような場合のドライバの状態を運転適合状態と称する。
【0055】
一方、ドライバの視線が遠方よりに集中すると、図7に示すように、おおまかなルートは走行可能であるが微少修正ができなくなり逸脱が増加する。また、ドライバの視線が近傍よりに集中する(近傍ばかり見ている)と、図8に示すように、その場あたりの運転になってしまい、ふらつきが多く生じる。以上説明したように、ドライバの視線が遠方よりに集中するドライバの状態、及びドライバの視線が近傍よりに集中するドライバの状態は運転に適した状態ではない。なお、このような運転に適した状態ではない状態を運転不適状態と称する。
【0056】
そこで、本実施の形態では、上記のステップ100〜116までの処理を予め実験として行い、ドライバが運転に適した状態である場合の相対値(割合)Eを求め、この求められた相対値Eを上記のE´として設定することとする。また、上記のcf、cnは、上記ステップ116で演算された割合Eが、(E´−cn)より大きく(E´+cf)より小さい範囲であれば、ドライバが運転に適した状態であると判断可能な値とする。これらcf、cnは、は予め実験によって定められている。
【0057】
ステップ116で、上記ステップ114で相対値として演算された割合Eが、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた割合E´を含む所定範囲内((E´−cn)より大きく、(E´+cf)より小さい範囲)の値でないと判定された場合には、ドライバが運転に適した状態でないと判断して(すなわち、運転不適合状態であると判断して)、次のステップ118へ進む。なお、このような場合は、図9に示す「運転不適合」の場合に相当する。
【0058】
ステップ118では、ドライバに、警報を報知するように警報装置16を制御する。これにより、車両を運転するドライバは、自身の運転状態が運転に適した状態でないことを認識することができる。
【0059】
次のステップ120では、上記タイマーを初期化(タイマーが計測した時間Tを0に設定)する。
【0060】
そして、上記ステップ100に戻る。また、ステップ116で、上記ステップ114で相対値として演算された割合Eが、ドライバが運転に適した状態で車両を運転した場合に求めた割合E´を含む所定範囲内((E´−cn)より大きく、(E´+cf)より小さい範囲)の値であると判定された場合、ドライバが運転に適した状態である運転適合状態であると判断して、上記ステップ120へ進む。なお、このような場合は、図9に示す「運転適合」の場合に相当する。
【0061】
以上、本実施の形態の運転状態判断装置10が実行する運転状態判断処理について説明した。なお、ステップ100、102、104は検出手段70によって実行され、ステップ106、108は、第1の演算手段72によって実行され、ステップ110、112は第2の演算手段74によって実行され、ステップ114は第3の演算手段76によって実行され、ステップ116は運転状態判断手段78によって実行され、ステップ118、120は報知制御手段80によって実行される。
【0062】
以上、本実施の形態の運転状態判断装置10について説明した。本実施の形態の運転状態判断装置10によれば、遠方領域20に視線が停留した回数及び近傍領域22に視線が停留した回数に基づいた相対値Eが、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値E´を含む所定範囲((E´−cn)〜(E´+cf))内の値でない場合に、移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断しているので、従来技術と比較して、より正確にドライバの運転状態を判断することができる。
【0063】
なお、ステップ114で、上記の式(1)に従って、第2の回数に対する第1の回数の割合Eを相対値として演算する例について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、以下の式(2)に従って、第1の回数に対する第2の回数の割合E´´を相対値として演算するようにしてもよい。
【0064】
【数2】
【0065】
また、以下の式(3)または式(4)に従って、第1の回数と第2の回数との差Kを相対値として演算してもよい。
【0066】
【数3】
【0067】
【数4】
【0068】
なお、これら式(2)、式(3)、式(4)の何れかに従って、ステップ114で相対値を演算した場合には、演算された相対値は、第1の回数及び第2の回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値である。また、これら式(2)、式(3)、式(4)の何れかに従って、ステップ114で相対値を演算した場合には、各々対応する値が、上記E´、cn、cfに設定される。
【0069】
また、遠方領域20及び近傍領域22は上記で説明した範囲の領域に限られない。例えば、図10に示すように、遠方領域20をF−Wf[deg]からF+Wf[deg]までの領域とし、近傍領域22をN−Wn[deg]からN+Wn[deg]までの領域としてもよい。なお、F=4[deg]、N=9[deg]、Wf=Wn=0.5[deg]としてもよい。また、F、N、Wf、Wnの各値は、車速、道路形状(のぼり、くだり、カーブ)に応じて変更することにより、より精度が高くドライバの運転状態を判断することが可能となる。
【0070】
また、上記の本実施の形態では、顔画像の処理を0.5秒間隔で行う場合に、第1の所定時間Xを10秒、第2の所定時間Yを0.5秒とした例について説明したが、第1の所定時間X、及び第2の所定時間Yはこれらの値に限られない。なお、顔画像の処理を0.5秒間隔で行う場合に、第1の所定時間Xを10秒、第2の所定時間Yを0.5秒とした場合には、前回の処理結果と今回の処理結果との視線の方向の差分に相当する(1つ前と比較して変化のない場合、停留とする)。
【符号の説明】
【0071】
10 運転状態判断装置
12 顔撮影用カメラ
14 コンピュータ
14c CPU
16 警報装置
70 検出手段
72 第1の演算手段
74 第2の演算手段
76 第3の演算手段
78 運転状態判断手段
80 報知制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段と、
第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段と、
前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段と、
前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段と、
前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段と、
を含む運転状態判断装置。
【請求項2】
前記運転状態判断手段で前記運転に適した状態でないと判断された場合に、前記移動体を運転するドライバに、警報を報知するように制御する報知制御手段を更に含む請求項1記載の運転状態判断装置。
【請求項3】
前記第3の演算手段は、前記第1の演算手段で演算された回数に対する前記第2の演算手段で演算された回数の割合、前記第2の演算手段で演算された回数に対する前記第1の演算手段で演算された回数の割合、または前記第1の演算手段で演算された回数と前記第2の演算手段で演算された回数との差を前記相対値として演算する請求項1または請求項2記載の運転状態判断装置。
【請求項4】
コンピュータを、
移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段、
第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段、
前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段、
前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段、及び
前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段
として機能させるためのプログラム。
【請求項1】
移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段と、
第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段と、
前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段と、
前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段と、
前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段と、
を含む運転状態判断装置。
【請求項2】
前記運転状態判断手段で前記運転に適した状態でないと判断された場合に、前記移動体を運転するドライバに、警報を報知するように制御する報知制御手段を更に含む請求項1記載の運転状態判断装置。
【請求項3】
前記第3の演算手段は、前記第1の演算手段で演算された回数に対する前記第2の演算手段で演算された回数の割合、前記第2の演算手段で演算された回数に対する前記第1の演算手段で演算された回数の割合、または前記第1の演算手段で演算された回数と前記第2の演算手段で演算された回数との差を前記相対値として演算する請求項1または請求項2記載の運転状態判断装置。
【請求項4】
コンピュータを、
移動体を運転するドライバの視線の方向を検出する検出手段、
第1の所定時間内において、前記ドライバの視界内の所定の遠方領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が第2の所定時間以上停留した回数を演算する第1の演算手段、
前記第1の所定時間内において、前記遠方領域より前記ドライバの手前側の近傍領域に、前記検出手段で方向が検出された視線が前記第2の所定時間以上停留した回数を演算する第2の演算手段、
前記第1の演算手段で演算された回数及び前記第2の演算手段で演算された回数の一方を基準としたときの他方の値を示す相対値を演算する第3の演算手段、及び
前記第3の演算手段で演算された前記相対値が、ドライバが運転に適した状態で移動体を運転した場合に求めた相対値を含む所定範囲内の値でない場合に、前記移動体のドライバの状態が運転に適した状態でないと判断する運転状態判断手段
として機能させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−282436(P2010−282436A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135463(P2009−135463)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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