説明

過流防止弁

【課題】コストの増大を抑え、一次圧による閉弁特性の変化を抑制できる過流防止弁を提供する。
【解決手段】ガスタンクに接続されたガスの流路70に設けられる過流防止弁において、70流路を横貫する方向に移動可能な状態で配置された弁体41であって、流路を横貫する方向の一方の側から圧力を受ける受圧部72と、流路を横貫する方向の他方の側から圧力を受ける受圧部74とを含む弁体を備え、弁体41が、受圧部72が受けた圧力と、低圧部74が受けた圧力との圧力差に応じて、流路70を横貫する方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンク等に接続された流路におけるガスの過流状態を抑制する過流防止弁に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タンク等に接続された流路においては、流路および流路開閉用の電磁弁に破損等を生じた場合に、ガスが破損部から漏出してしまう可能性がある。そのため、このような流路には、通常、そのような状況においてもガスの流出を抑制するための過流防止弁が設けられている。一般的な過流防止弁は、ガスが弁体を通過する際に生じる圧損を利用して弁体を移動させることにより、流路を閉じるものである。ここで、圧損はガスの流量に依存するので、所定値以上の流量が流れると流路が閉じられることになる。
【0003】
また、上記のような過流防止弁とは異なり、バルブ内に遮断弁部を設け、圧力センサで検出された圧力に基づいて遮断弁部を閉じることで流路を遮断する技術もある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−83563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、圧損を利用する一般的な過流防止弁では、流路内の圧力に応じて、弁が動作する際のガス流量(トリップ流量)が変化してしまう。即ち、ガスが流れる際の圧損は一次圧に依存しており、ガスの質量流量が同じ場合には、一次圧が低いほど圧損は大きくなり、一次圧が高いほど圧損は小さくなる。そのため、一次圧が高い(即ち、圧損が小さい)場合には、閉弁するまでのガス流量が多くなってしまう。
【0005】
また、上記のように圧力センサを用いて遮断弁部を閉じて流路を遮断する技術ではコストが高くなってしまう。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、コストの増大を抑えつつ、一次圧に依存する閉弁特性の変化を抑制できる過流防止弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る過流防止弁は、ガスタンクに接続されたガスの流路に設けられる過流防止弁において、前記流路を横貫する方向に移動可能な状態で配置された弁体であって、前記流路を横貫する方向の一方の側から第1の圧力を受ける第1の受圧部と、前記流路を横貫する方向の他方の側から第2の圧力を受ける第2の受圧部とを含む弁体を備え、前記弁体が、第1及び第2の圧力の変化に応じて、前記流路を横貫する方向に移動する。
かかる構成によれば、流路内の圧力が低下することにより、弁体が機械的に移動して、流路の連通を制限する。
【0008】
ここで、前記第1の受圧部は、前記流路に連通する空間から第1の圧力を受けており、前記第2の受圧部は、通常の動作状態において、前記第1の圧力よりも小さい圧力を受けており、第1の圧力と第2の圧力との圧力差が小さくなった場合に、前記弁体が前記流路を遮断する位置に移動する。それにより、第1の圧力に略等しい流路内の圧力が高い通常の動作状態においては、流路が連通された状態が維持され、流路や他の弁の破損等により第1の圧力が低くなり、第1の圧力と第2の圧力との圧力差が小さくなった場合には、流路の連通が制限される。
【0009】
また、前記弁体を弾性体によって支持することにより、前記圧力差が小さくなった場合に、前記弾性体の付勢力により前記弁体を機械的に移動させることができる。
【0010】
さらに、前記第2の圧力を略大気圧とすることにより、流路や他の弁の破損等により第1の圧力部側が外気と連通した場合に、前記圧力差が小さくなり、弁体を移動させて流路の連通を制限することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流路内の圧力低下により弁体を機械的に移動させて流路の連通を制限するので、圧損を利用する場合と異なり、一次圧に依存する閉弁特性の変化を抑制できる。また、圧力センサ等は不要であるので、コストの増大を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る過流防止弁について説明する。
図1は、内部に高圧ガス(例えば水素ガス)を充填保管するためのガスタンク10を示している。ガスタンク10は、タンク本体11と、タンク本体11の軸線方向の一つの側に形成された口部に取り付けられる口金部材12とを含んでいる。
【0013】
ガスタンク10の口金部材12の内周部には、図2に示すように、本実施形態に係る過流防止弁15のバルブボディ16が取り付けられている。バルブボディ16の外周部には環状の溝部17が形成されており、この溝部17にはバルブボディ16の外周部と口金部材12の内周部との隙間を封止するOリング18が配設されている。
【0014】
バルブボディ16は、その中心軸線上に、小径の小径穴部21、小径穴部21よりも大径の中間径穴部22、中間径穴部22よりも大径の大径穴部23、大径穴部23から外側に向かって広がる口元面取部24が、タンク内側(図2における左側)から順に形成されている。また、大径穴部23にはメネジ25が形成されている。
【0015】
バルブボディ16の中間径穴部22には、中心軸線上に貫通穴31が形成された略円筒状のスリーブ32が嵌合されている。このスリーブ32は、貫通穴31がバルブボディ16の小径穴部21と同軸になるように配置されている。また、貫通穴31の径は、小径穴部21よりも小さくなっている。さらに、スリーブ32の外周部のうち、タンク内側(図2においては左側)寄りの位置には、環状の溝部33が形成されている。この溝部33には、バルブボディ16の中間径穴部22とスリーブ32の外周部との隙間を封止するOリング34が配設されている。また、スリーブ32のタンク外側(図2においては右側)の端面には、貫通穴31の周囲を囲むように環状の弁座35が突設されている。
【0016】
スリーブ32のタンク外側寄りの位置には、貫通穴31と直交する穴部40が、スリーブ32の外周面から所定の深さまで形成されており、この穴部40には、弁体41が摺動可能な状態で嵌装されている。
【0017】
弁体41の穴部開口40a寄りの位置には、環状の溝部42が形成されており、この溝部42には穴部40の内周部と弁体41の外周部との隙間を封止するOリング43が配設されている。なお、Oリング43にかえて他の摺動用シールを用いても良い。また、弁体41の穴部底面40b寄りの位置には、弁体41の軸に直交する方向(即ち、スリーブ32の貫通穴31の軸に平行な方向)に貫通する連通穴44が形成されている。
【0018】
さらに、弁体41と穴部底面40bとの間には、弁体41を穴部底面40b側に引っ張るスプリング45が介装されている。弁体41は、穴部開口40a側の端面がバルブボディ16の中間径穴部22の内壁面に当接する状態のときに、連通穴44がスリーブ32の貫通穴31と同軸をなし、貫通穴31を一端側から他端側まで連通させる。また、弁体41は、スプリング45の付勢力で穴部底面40b側に引っ張られると、連通穴44がスリーブ32の貫通穴31から径方向に完全にずれ、貫通穴31の一端側から他端側までの連通を制限する。なお、スプリング45の代わりに、皿バネやゴムその他の弾性体を用いても良い。
【0019】
弁体41の回転方向における位置は、例えばスプリング45の両端部を弁体41および穴部底面40bにそれぞれ固定すること等により、弁体41がバルブボディ16の中間径穴部22の内壁面に当接する状態にあるときに、連通穴44と貫通穴31とが同軸に配置されるように決定されている。
これらのバルブボディ16内に配置されたスリーブ32、弁体41およびスプリング45等が、過流防止弁15を構成している。
【0020】
スリーブ32のタンク外側寄りの端面は、大径穴部23内に突出しており、この端面に当接するように、電磁弁50が大径穴部23のメネジ25に螺合されている。
【0021】
電磁弁50は、中央に案内穴51が形成された電磁弁ボディ52を有している。電磁弁ボディ52は、案内穴51を囲むようにコイル53が配設された本体部54と、本体部54から外側に突出する突出部55とを有している。電磁弁50の突出部55の外周面には、オネジ56が形成されており、このオネジ56において、電磁弁50がメネジ25に螺合している。また、オネジ56にはロックナット58が螺合されており、オネジ56がメネジ25に螺合した状態で、ロックナット58をバルブボディ16に押し付けるように締め付けることにより、電磁弁50がバルブボディ16に固定される。
【0022】
バルブボディ16の口元面取部24とロックナット58と突出部55との隙間には、Oリング59が介装されており、このOリング59により、電磁弁50の突出部55の外周面とバルブボディ16の大径穴部23の内周面との隙間を封止する。また、スリーブ32と電磁弁50の突出部55とを当接させることにより、これらの隙間が封止されるが、この封止を確実にするためにOリングを配置しても良い。
【0023】
電磁弁50は、案内穴51に電磁弁ポペット61が摺動可能な状態で嵌装されている。電磁弁ポペット61の先端面には、凹部62が形成されており、この凹部62にシールシート63が嵌合固定されている。電磁弁ポペット61は、コイル53への通電を制御することで摺動し、スリーブ32の弁座35に対しシールシート63を着座および離座させる。
【0024】
電磁弁ポペット61は、案内穴51に摺動可能な状態で嵌合する大径部65と、大径部65よりも小径の小径部66と、小径部66よりも大径且つ大径部65よりも小径の中間径部67とを含む段付き形状をなしている。大径部65には、軸線方向に沿って図示略の流路溝が形成されており、中間径部67、小径部66、及び大径部65に形成された流路溝と、案内穴51の内壁との隙間は、ガス供給先(例えば、燃料電池)に連通している。
【0025】
このように、バルブボディ16の小径穴部21と、スリーブ32の貫通穴31と、弁体41の連通穴44と、電磁弁ポペット61の中間径部67、小径部66、及び大径部65の流路溝と電磁弁ボディ52の案内穴51との隙間とが、ガスタンク10とガス供給先とを連通する流路70となっている。
【0026】
また、上記の他に、例えば、弁体41と穴部40の底面40b側との隙間71も流路70の一部を構成している。これにより、弁体41のうち穴部底面40b側の端面は、ガスが流通する流路70内と同程度の圧力を受圧する受圧部72となっている。また、弁体41のうち穴部開口40a側の端面は、Oリング43で流路70とは区画された空間73に臨んでいる。この空間73は、通常時の流路70内の圧力より低い圧力(略大気圧)となっているため、この端面は通常時の流路70内の圧力より低い圧力を受圧する低圧部74となっている。
【0027】
このような電磁弁50及び過流防止弁15は、次のように動作する。
通常時には、ガスタンク10から高圧ガスが流路70内を通ってガス供給先に供給されており、そのときのガスの供給および停止は、電磁弁50によって切り替えられる。即ち、電磁弁50において、電磁弁ポペット61がスリーブ32とは反対側(図2の右方向)に移動することにより、シールシート63が弁座35から離座した状態となり、流路70を連通させる。また、電磁弁ポペット61がスリーブ32側(図の左方向)に移動することにより、シールシート63が弁座35に着座した状態となり、流路70を遮断する。
【0028】
このとき、ガスタンク10からの高圧ガスは、過流防止弁15の弁体41と穴部底面40bとの間の隙間71に入り込んでいる。この高圧ガスの圧力が受圧部72に加わることにより、図3に示すように、スプリング45の付勢力および低圧部74に加わる圧力に抗して、弁体41が穴部開口40a側へ移動した状態が保たれる。それにより、連通穴44がスリーブ32の貫通穴31と同軸に配置され、流路70が連通状態となる。
【0029】
このような通常状態から、何らかの理由(例えばガスタンク10が燃料電池車両に車載された場合の車両衝突時の衝撃等)で、例えば電磁弁50が破損したりバルブボディ16から脱落したりすると、電磁弁50とバルブボディ16の口元面取部24に配置されたOリング59とにより大気に対して封止されていた流路70が、封止機能を失い大気開放状態となる。すると、受圧部72が受圧する圧力が通常時よりも低くなり、低圧部74が受圧する圧力との圧力差が小さく(略ゼロ)になる。すると、図4に示すように、弁体41がスプリング45の付勢力により助勢されて移動し、連通穴44がスリーブ32の貫通穴31から完全にずれ、流路70の連通を制限する。
【0030】
以上説明した過流防止弁15によれば、流路70内の圧力低下により弁体41を機械的に移動させて流路70の連通を制限するので、ガス流量の大小によらず流路70の連通を制限することができる。また、圧損を利用しないので、一次圧による閉弁特性の変化を抑制できる。さらに、圧力センサ等を使用することなく過流防止弁を形成するので、コストの増大を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ガスタンクの側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る過流防止弁等を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る過流防止弁の通常時の状態を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る過流防止弁の流路異常時の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
15…過流防止弁、41…弁体、70…流路、72…受圧部、74…低圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタンクに接続されたガスの流路に設けられる過流防止弁において、
前記流路を横貫する方向に移動可能な状態で配置された弁体であって、前記流路を横貫する方向の一方の側から第1の圧力を受ける第1の受圧部と、前記流路を横貫する方向の他方の側から第2の圧力を受ける第2の受圧部と、を含む弁体を備え、
前記弁体が、第1及び第2の圧力の変化に応じて、前記流路を横貫する方向に移動する、過流防止弁。
【請求項2】
前記第1の受圧部は、前記流路に連通する空間から第1の圧力を受けており、
前記第2の受圧部は、通常の動作状態において、前記第1の圧力よりも小さい圧力を受けており、
第1の圧力と第2の圧力との圧力差が小さくなった場合に、前記弁体が前記流路を遮断する位置に移動する、請求項1記載の過流防止弁。
【請求項3】
前記弁体が弾性体によって支持されており、前記圧力差が小さくなることにより、前記弾性体の付勢力により移動する、請求項2記載の過流防止弁。
【請求項4】
前記第2の圧力が略大気圧である、請求項1〜3のいずれか1項記載の過流防止弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−256098(P2008−256098A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99033(P2007−99033)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】