説明

道路勾配計測装置及び道路勾配計測方法

【課題】道路勾配の計測精度の向上を図る。
【解決手段】GPS12の受信感度が所定のレベル以上であって標高に変化が検出された場合、勾配算出部25は、GPSデータ取得部21によりGPS12から取得された走行速度、標高等のデータを用いて道路の勾配を算出する。標高に変化がないとき、定地走行抵抗算出部22は、ECUデータ取得部23により取得されたECUデータを用いて定地走行抵抗を算出し、定地走行抵抗保持部27に保持させる。このときの勾配は0である。GPS12の受信感度が所定のレベルに達していないとき、勾配算出部25は、保持されている定地走行抵抗とECUデータ取得部23により取得されたECUデータを用いて道路の勾配を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の勾配を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
実際の走行を再現するためにシャシダイナモメータなどによる試験が行われているが、路面再現には、走行速度の他に勾配も重要な要素となってくる。
【0003】
従来において、道路の勾配を計測する方法としては、GPS(Global Positioning System)(例えば、特許文献1)、ジャイロセンサ(例えば、特許文献2)、地図(例えば、特許文献3)、加速度センサ(例えば、特許文献4)、大気圧センサ(例えば、特許文献5)等を使用した技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−331832号公報
【特許文献2】特開2009−276109号公報
【特許文献3】特開2001−108580号公報
【特許文献4】特開2001−296122号公報
【特許文献5】特開2004−110590号公報
【特許文献6】特開2005−69841号公報
【特許文献7】特開平8−152030号公報
【特許文献8】特開2009−6889号公報
【特許文献9】特開2009−25081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば、GPSでは障害物によりノイズが発生しやすかったり、加速度センサやジャイロセンサでは路面の凹凸やカーブでの横方向の加速度変化の影響を受けやすいなど、各技術には、走行の状況によって算出される勾配の精度を確保できない可能性があった。そこで、これらの技術を組み合わせて利用することで、各技術の弱点を補うことで精度の劣化を防止する技術も提案されている(例えば、特許文献6)。
【0006】
本発明は、道路勾配の計測精度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る道路勾配計測装置は、車載された測位手段の受信状態を監視する監視手段と、前記測位手段の受信状態が所定のレベル以上であるときに定地走行抵抗を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された定地走行抵抗を保持する保持手段と、前記測位手段により取得されたデータを用いて走行路の勾配を算出する勾配算出手段と、を有し、前記勾配算出手段は、前記測位手段の受信状態が所定のレベルに達していないと判断したときには、前記測位手段により取得されたデータを用いずに、前記保持手段に保持された定地走行抵抗及び車載された車両走行制御手段から取得した駆動力を少なくとも用いて走行路の勾配を算出することを特徴とする。
【0008】
また、前記勾配算出手段は、前記測位手段の受信状態が所定のレベルに達していないと判断したときには、駆動力から定地走行抵抗及び前記車両走行制御手段から取得したデータに基づき得られる加速抵抗を減算して勾配抵抗を算出し、その算出した勾配抵抗を用いて勾配を算出することを特徴とする。
【0009】
また、前記測位手段は、GPS(Global Positioning System)であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る道路勾配計測方法は、車載されたコンピュータにより実施され、車載された測位手段の受信状態が所定のレベル以上であるときに定地走行抵抗を算出する算出ステップと、前記測位手段により取得されたデータを用いて走行路の勾配を算出する勾配算出ステップと、を含み、前記勾配算出ステップは、前記測位手段の受信状態が所定のレベルに達していないと判断したときには、前記測位手段により取得されたデータを用いずに、前記算出ステップにより算出された定地走行抵抗及び車載された車両走行制御手段から取得した駆動力を少なくとも用いて走行路の勾配を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測位手段の受信状態の良し悪しにかかわらず道路の勾配を精度良く計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る道路勾配計測装置の一実施の形態を示した全体概略図である。
【図2】本実施の形態における道路勾配計測装置のハードウェア構成の一例を示した図である。
【図3】本実施の形態における道路勾配計測装置のブロック構成図である。
【図4】本実施の形態における道路勾配の計測方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る道路勾配計測装置の一実施の形態を示した全体概略図である。図1には、車両10と、車両10に搭載されているECU(Electronic Control Unit)11及びGPS12と、ECU11及びGPS12に有線又は無線にて接続された本発明に係る道路勾配計測装置20が示されている。ECU11は、コンピュータにより実現され、各種センサ(図示せず)から検出されたデータや計算により求めたデータを用いて車両の走行制御を行うための車両走行制御手段等である。GPS12は、車両10が位置している場所の標高、走行位置、走行速度を計測可能な測位手段である。ECU11は、車両10に標準装備されている。GPS12は、車両10に標準装備されいるものでも道路勾配計測装置20の一部として組み込まれているものでもよい。道路勾配計測装置20は、道路勾配を計測するために車両10に持ち込まれたコンピュータである。
【0015】
図2は、本実施の形態における道路勾配計測装置20のハードウェア構成図である。本実施の形態における道路勾配計測装置20は、汎用的なコンピュータにより実現可能であり、図2に示したようにCPU1、ROM2、RAM3、ハードディスクドライブ(HDD)4、入力手段として設けられたキーボード5、及び表示装置として設けられたディスプレイ6を接続する入出力コントローラ7、通信手段として設けられたネットワークコントローラ8を内部バス9に接続して構成される。必要により、その他の構成も具備することは可能である。
【0016】
図3は、本実施の形態における道路勾配計測装置20の機能ブロック構成図である。本実施の形態における道路勾配計測装置20は、GPSデータ取得部21、定地走行抵抗算出部22、ECUデータ取得部23、GPS監視部24、勾配算出部25、計測制御部26、定地走行抵抗保持部27及び勾配情報記憶部28を有している。GPSデータ取得部21は、GPS12から車両10の走行速度及び標高を少なくとも含む計測データを取得する。定地走行抵抗算出部22は、GPS12の受信状態が所定のレベル以上であるときにECU11から取得したデータを用いて定地走行抵抗を算出する算出手段である。この算出結果は、定地走行抵抗保持部27に保持される。ECUデータ取得部23は、ECU11から車両10の駆動力、加速度、加速抵抗を少なくとも含むデータを取得する。GPS監視部24は、GPS12の受信状態を常時監視する監視手段である。勾配算出部25は、基本的にはGPS12から取得したデータを用いて走行路の勾配を算出するが、後述するように計測制御部26からの指示に従いGPS12の受信状態によってGPS12から取得したデータを用いずに走行路の勾配を算出する。勾配算出部25は、また、算出した道路の勾配(その時刻に走行している道路の勾配)と、当該道路の走行時における時刻を表す時間情報と、当該道路の走行時の走行速度を対応付けして、勾配情報として勾配情報記憶部28に登録する。計測制御部26は、道路勾配計測の全体制御を行う。
【0017】
道路勾配計測装置20における各構成要素21〜26は、コンピュータと、コンピュータに搭載されたCPU1で動作するプログラムとの協調動作により実現される。また、定地走行抵抗保持部27はRAM3又はHDD4、勾配情報記憶部28はHDD4で実現してもよい。勾配情報記憶部28はまた、道路勾配計測装置20の外部に設けてもよい。
【0018】
また、本実施の形態で用いるプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROMやDVD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。通信手段や記録媒体から提供されたプログラムはコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPUがインストールプログラムを順次実行することで各種処理が実現される。
【0019】
次に、本実施の形態における道路の勾配を計測する処理を図4に示したフローチャートを用いて説明する。この処理は、道路勾配計測装置20が道路勾配計測プログラムを実行することで実施される。図4に示した処理は、定時的に、例えば1秒毎に繰り返し実行され、これにより、1秒毎に道路の勾配情報が得られる。図4では、勾配情報が得られると、処理を終了するように示したが、実際には、プログラムがいったん起動されると、計測制御部26による制御のもと、ユーザ等により計測の終了が指示されるまで勾配の計測処理(ステップ101〜111)を1秒毎に繰り返し実行する。
【0020】
GPSデータ取得部21及びECUデータ取得部23は、それぞれ勾配の算出に必要なデータを取得する(ステップ101)。具体的には、次の通りである。すなわち、GPSデータ取得部21は、GPS12から車両10の走行速度及び標高の各データを取得する。走行速度は、走行位置情報(経緯度情報)と時間とによりGPS12によって算出されている。なお、走行速度は、GPS12から走行位置情報を取得し、道路勾配計測装置20において算出するようにしてもよいし、あるいはECU11からのデータを用いてもよい。また、ECUデータ取得部23は、GPSデータ取得部21と同時並行してECU11から車両10の駆動力、加速度、加速抵抗を少なくとも含む走行データを取得する。加速度は、一定時間内での走行速度の差分により算出できる。加速抵抗は、
加速抵抗=加速度×(車両重量+駆動機構における回転部分の慣性相当重量)
という計算式にて算出できる。なお、加速度及び加速抵抗は、道路勾配計測装置20側で算出するようにしてもよい。
【0021】
GPS監視部24は、GPS12の受信状態としてGPS12の受信感度を常時監視している。そして、計測制御部26は、ステップ101におけるデータ取得後、GPS監視部24により検出された受信感度を確認する(ステップ102)。受信感度が予め設定された閾値(所定のレベル)以上の場合(ステップ103でY)、続いて、計測制御部26は、GPSデータ取得部21が取得した標高データを参照し、標高の変化の有無を確認する。標高に変化がない場合は、道路の勾配が0である水平な道路上を走行していると判断できる。この場合(ステップ104でY)、定地走行抵抗算出部22は、計測制御部26からの指示に従い、定地走行抵抗を算出する(ステップ105)。具体的には、次のようにして算出する。まず、
勾配抵抗=駆動力−加速抵抗−定地走行抵抗
という計算式が成り立つ。ここでは、道路の勾配は0なので勾配抵抗も0となる。そして、ECUデータ取得部23からECUデータを取得し、このECUデータに含まれている駆動力及び加速抵抗をこの計算式に代入することによって定地走行抵抗を算出できる。定地走行抵抗算出部22は、このようにして算出した定地走行抵抗を定地走行抵抗保持部27に書き込むことで保持させる(ステップ106)。このように、受信感度が所定のレベル以上であることからGPS12からの受信状態が良好の間に定地走行抵抗を求めておく。
【0022】
なお、本実施の形態においては、後述する処理において最新の定地走行抵抗を用いるので、定地走行抵抗算出部22は、既に保持している定地走行抵抗を上書きしてもよい。続いて、勾配算出部25は、計測制御部26からの指示に従い、GPSデータ取得部21から計測データを取得し、道路の勾配を算出することになるが、ここでは上記の通り勾配は0である(ステップ107)。道路の勾配が求まると、勾配算出部25は、計測地点における道路の勾配と、計測地点を走行した時刻と、走行速度とを対応付けることによって勾配情報を生成し、これを勾配情報記憶部28に登録する(ステップ108)。
【0023】
一方、計測制御部26は、標高に変化がある、すなわち、水平でない道路上を走行していると判断した場合(ステップ104でN)、勾配算出部25は、計測制御部26からの指示に従い、次のようにして道路の勾配を算出する(ステップ109)。すなわち、勾配算出部25は、GPSデータ取得部21から計測データを取得し、この計測データに含まれている標高及び走行速度の各データと、走行に要した時間とにより道路の勾配を算出する。このようにして道路の勾配が求まると、勾配算出部25は、計測地点における道路の勾配と、計測地点を走行した時刻と、走行速度とを対応付けることによって勾配情報を生成し、これを勾配情報記憶部28に登録する(ステップ108)。
【0024】
以上の処理は、GPS12の受信感度が予め設定された閾値以上の場合の処理であって、本実施の形態においてはGPS12から取得した計測データを用いて道路の勾配を算出する通常の道路勾配計測方法である。一方、計測制御部26がGPS12の受信感度が予め設定された閾値に達していないと判断した場合(ステップ103でN)、勾配算出部25は、計測制御部26からの指示に従い、次のようにして道路の勾配を算出する。すなわち、勾配算出部25は、定地走行抵抗保持部27に保持されている定地走行抵抗を取得する(ステップ110)。前述したように、
勾配抵抗=駆動力−加速抵抗−定地走行抵抗
という計算式が成り立っているので、勾配算出部25は、ECUデータ取得部23からECUデータを取得し、このECUデータに含まれている駆動力及び加速抵抗、更に取得済みの定地走行抵抗をこの計算式に代入することによって勾配抵抗を算出する。また、勾配は、
勾配=勾配抵抗/(重力加速度×車両重量)
という計算式にて算出できる。重力加速度及び車両重量は、既知の値なのでこれらの値をこの計算式に代入することで道路の勾配を算出できる(ステップ111)。以上のようにして道路の勾配が求まると、勾配算出部25は、計測地点における道路の勾配と、計測地点を走行した時刻と、走行速度とを対応付けることによって勾配情報を生成し、これを勾配情報記憶部28に登録する(ステップ108)。
【0025】
本実施の形態においては、以上の処理を繰り返し実行することで、連続した勾配情報、換言すると勾配の時系列データを取得することができる。この勾配情報は、シャシダイナモメータなどによる試験等に用いられる。
【0026】
以上説明したように、本実施の形態によれば、GPS12の受信感度が所定のレベル以上のときにはGPS12から取得した計測データを用いて道路の勾配を算出する。一方、GPS12の受信感度が所定のレベルに達していない場合、このときには信頼性のないGPS12による計測データを用いた通常の道路勾配計測方法を実施せずに、所定のレベルに達しているときに求めておいた定地走行抵抗とECU11から取得したECUデータを用いて道路の勾配を算出するようにした。これにより、本実施の形態においては、GPS12の受信状態の良し悪しに関係なく、道路の勾配をより高精度に計測することができる。本実施の形態では、このように車両に標準装備されているECU11からのデータを用いて道路の勾配を算出できるようにしたので、道路の勾配を算出するためにジャイロセンサや大気圧センサ等GPS12に代わる他の装置を車両に搭載する必要もない。
【0027】
なお、本実施の形態では、車両10に搭載されているGPS12の受信状態が良好の時にはGPS12により取得された計測データを用いて道路の勾配を算出し、そうでない場合は計測データを用いずに信頼性のあるECU11からのデータを用いて道路の勾配を算出することを特徴としている。本実施の形態では、GPS12の受信状態が良好の時にECU11からのデータを用いて定地走行抵抗を算出しているが、これは、受信状態が良好でないときに道路の勾配を算出する際に必要なデータだからである。従って、定地走行抵抗は、前述した以外の方法で算出してもよいし、仮にステップ110,111以外の方法において定地走行抵抗を用いない道路の勾配の算出方法があるのであれば、ステップ105において定地走行抵抗を算出する必要はなくなる。
【0028】
また、本実施の形態では、通常時に道路の勾配を計測する際にはGPS12を用いるようにしたが、例えばジャイロセンサ等他の手段を用いる場合にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 CPU、2 ROM、3 RAM、4 ハードディスクドライブ(HDD)、5 キーボード、6 ディスプレイ、7 入出力コントローラ、8 ネットワークコントローラ、9 内部バス、10 車両、11 ECU、12 GPS、20 道路勾配計測装置、21 GPSデータ取得部、22 定地走行抵抗算出部、23 ECUデータ取得部、24 GPS監視部、25 勾配算出部、26 計測制御部、27 定地走行抵抗保持部、28 勾配情報記憶部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載された測位手段の受信状態を監視する監視手段と、
前記測位手段の受信状態が所定のレベル以上であるときに定地走行抵抗を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された定地走行抵抗を保持する保持手段と、
前記測位手段により取得されたデータを用いて走行路の勾配を算出する勾配算出手段と、
を有し、
前記勾配算出手段は、前記測位手段の受信状態が所定のレベルに達していないと判断したときには、前記測位手段により取得されたデータを用いずに、前記保持手段に保持された定地走行抵抗及び車載された車両走行制御手段から取得した駆動力を少なくとも用いて走行路の勾配を算出することを特徴とする道路勾配計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の道路勾配計測装置において、
前記勾配算出手段は、前記測位手段の受信状態が所定のレベルに達していないと判断したときには、駆動力から定地走行抵抗及び前記車両走行制御手段から取得したデータに基づき得られる加速抵抗を減算して勾配抵抗を算出し、その算出した勾配抵抗を用いて勾配を算出することを特徴とする道路勾配計測装置。
【請求項3】
請求項1記載の道路勾配計測装置において、
前記測位手段は、GPS(Global Positioning System)であることを特徴とする道路勾配計測装置。
【請求項4】
車載されたコンピュータにより実施され、
車載された測位手段の受信状態が所定のレベル以上であるときに定地走行抵抗を算出する算出ステップと、
前記測位手段により取得されたデータを用いて走行路の勾配を算出する勾配算出ステップと、
を含み、
前記勾配算出ステップは、前記測位手段の受信状態が所定のレベルに達していないと判断したときには、前記測位手段により取得されたデータを用いずに、前記算出ステップにより算出された定地走行抵抗及び車載された車両走行制御手段から取得した駆動力を少なくとも用いて走行路の勾配を算出することを特徴とする道路勾配計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−232128(P2011−232128A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101760(P2010−101760)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】