説明

遠心分離装置

【課題】高品質で低価格の実現が困難であった摺動シール材を使用した回転ジョイントを不要にする。
【解決手段】所定の回転軸回りに回転させられるロータ4と、該ロータ4に設けられ、遠心分離される懸濁液Aを収容する一端が閉じられた筒状の遠心分離容器5を、一端が回転軸線に対して半径方向外方に向かうように、かつ、ロータ4の回転に同期して長手軸線回りにロータ4とは反対方向に回転可能に支持する回転支持機構6とを備える遠心分離装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を給排液するチューブを接続して使用する医療用ディスポーザブル遠心分離容器は、内部の無菌状態を保つためチューブから遠心分離容器まで全ての流路を密閉し、チューブを遠心分離容器に接続した状態で遠心動作をする必要がある。通常、このような状態で遠心動作させるとき、ロータの回転によるチューブの捩じれを防ぐために、チューブの途中に摺動シール材を使った回転ジョイントが用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、回転ジョイント部では高速でロータを回転させることにより、摺動シール材の摩耗やそれによるリーク、流路内へのシール材の削りカスの流入、摩擦熱による流路内液の変質などの安全性や品質面で課題がある。また、回転ジョイント部周辺の構造が複雑になりやすく、液が接するシール材料の安全性を確保しようとすると高価になってしまい、使用の都度使い捨てが必要な遠心分離容器においてはコストの面でも課題がある。
【0004】
一方、公転する回転保持器の動力を回転保持器に支持される試薬容器に伝達することで試薬容器を自転させ、収容される試薬を攪拌させる機構を設けた試薬容器の搬送装置や攪拌装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−147658号公報
【特許文献2】特開2007−245000号公報
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、高品質で低価格の実現が困難であった摺動シール材を使用した回転ジョイントを不要にし、安全性が高く低価格な医療用ディスポーザブル遠心分離容器を用いることができる遠心分離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、所定の回転軸線回りに回転させられるロータと、該ロータに設けられ、遠心分離される懸濁液を収容する一端が閉じられた筒状の遠心分離容器を前記一端が、前記回転軸線に対して半径方向外方に向かうように、かつ、前記ロータの回転に同期して長手軸線回りに前記ロータとは反対方向に回転可能に支持する回転支持機構とを備える遠心分離装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、一部がロータ外部と接続されるチューブの一端を取り付けた遠心分離容器を、その閉じられた一端が前記ロータの半径方向外方に向かうようにロータにセットし、ロータを回転させると、回転軸線に対して半径方向外方に保持される懸濁液には半径方向外方に向かう遠心力が働き、成分の密度の差より分離することができる。この場合に、ロータを回転させると回転支持機構により、遠心分離容器がその長手軸線回りにロータの回転と反対方向にロータの回転と同期して回転させられる。遠心分離容器がロータに固定されている場合には、ロータの回転により遠心分離容器に固定されたチューブに捩じれが発生するが、本発明によれば、回転支持機構による遠心分離容器の長手軸線回りの回転によりチューブの捩じれを相殺することができる。
【0009】
すなわち、ロータ外部と接続したチューブの一端を取り付けた状態の遠心分離容器を用いて遠心分離をしてもチューブに捩じれが生じないので、摺動シール材を用いた回転ジョイントを不要にすることができる。したがって、回転ジョイントを用いることで起こる液体漏れや摩擦熱などの問題も生じず、流路と遠心分離容器を簡易な構造にでき、低価格なディスポーサブル容器を使用して安全に遠心分離することができる。
【0010】
また、本発明は、ベースと、該ベースに対して回転させられるロータと、遠心分離される懸濁液を収容する一端が閉じられた筒状の遠心分離容器と、前記ロータに設けられ、前記遠心分離容器を前記一端が前記ロータの回転軸線に対して半径方向外方に向かうように、かつ、前記ロータの回転に同期して長手軸線回りに前記ロータとは反対方向に回転可能に支持する回転支持機構と、前記回転軸線近傍において一部がベースに対して固定され、一端が前記遠心分離容器の開口部中心付近に固定され、液体を給排液する可撓性のチューブとを備える遠心分離装置を提供する。
【0011】
上記発明においては、前記回転支持機構が、前記遠心分離容器を回転自在に支持してもよい。
このようにすることで、ロータ外部に接続されるチューブを取り付けた遠心分離容器を前記ロータにセットして該ロータを回転させると、チューブにロータの回転方向へ捩じる力が働く。チューブは剛性により捩じれを元に戻そうとする際、回転自在に支持されている遠心分離容器をロータの回転と反対方向へロータの回転と同期して回転させるので、チューブの捩じれを相殺することができる。
すなわち、接続される遠心分離容器を回転させる程度の剛性の高いチューブを用いることで、前記チューブに過大な捩じれを生じさせずに遠心分離することができる。
【0012】
上記発明においては、前記回転支持機構が、前記遠心分離容器を前記ロータと等しい回転数で回転駆動する回転駆動手段を備えてもよい。
このようにすることで、ロータ外部に接続されるチューブを取り付けた遠心分離容器をロータにセットしてロータを回転させると、遠心分離容器は回転駆動手段によりロータと等しい回転数でロータの回転と反対方向へ回転させられる。これにより、回転駆動手段による遠心分離容器の長手軸線回りの回転とロータの回転による遠心分離容器の長手軸線回りの回転とが相殺され、チューブに捩じれを生じさせずに遠心分離することができる。
【0013】
また、回転自在な回転支持機構の場合、遠心分離容器を回転させる程度に剛性が高いチューブを用いる必要があるが、この場合、回転駆動手段によりチューブの剛性とは無関係に遠心分離容器を長手軸線回りに回転させるので、剛性が低く柔らかいチューブを用いても遠心分離することができる。
【0014】
上記発明においては、前記回転駆動手段が、前記ロータの回転を前記遠心分離容器へ伝達する動力伝達部を備えてもよい。
このようにすることで、ひとつの動力源によりロータと遠心分離容器を回転させることができ、遠心分離容器を自転させるための動力源を遠心分離装置に追加する必要がなく、構造を簡略にすることができるとともに省エネルギーを図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高品質で低価格の実現が困難であった摺動シール材を使用した回転ジョイントを不要にし、安全性が高く低価格な医療用ディスポーザブル遠心分離容器を用いることができる遠心分離装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第1の実施形態に係る遠心分離装置1について、図1を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置1は、図1に示されるように、水平なベース2の上に設置されたモータ3により鉛直軸線回りに回転させられるロータ4と、ロータ4に設けられ、遠心分離容器5をその長手軸線回りに回転自在に支持する回転支持機構6とを備えている。
【0017】
回転支持機構6は、例えば、ロータ4内部に設けられ鉛直軸線に対し半径方向外方に下方へ傾斜する円筒状の空洞7内に配置され、該空洞7内に挿入された遠心分離容器5を空洞7内壁に対してその長手軸線回りに回転自在に支持するボールベアリング8により構成されている。
【0018】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置1を用いて懸濁液Aを遠心分離するには、懸濁液Aを収容する遠心分離容器5を空洞7内にボールベアリング8により支持されるように収納する。そして、モータ3を作動させロータ4をその鉛直軸線回りに回転させると、鉛直軸線に対し半径方向外方に保持される懸濁液Aには半径方向外方に向かう遠心力が働き、懸濁液A内の成分が、その密度の差により遠心分離される。
【0019】
この場合において、チューブ9はその途中位置がベース2に対して固定されているので、ロータ4が回転させられると、それに伴ってチューブ9には捩じれが発生する。そして、チューブ9の捩じれに対する弾性復元力によって、遠心分離容器5にはその長手軸線回りの回転モーメントが発生する。遠心分離容器5が回転支持機構6によって、その長手軸線回りに回転自在に支持されているので、捩じれを戻す方向へ遠心分離容器5が回転させられる。その結果、チューブ9の捩じれは軽減され、チューブ9が過大に捩じれることが防止される。
【0020】
このように本実施形態に係る遠心分離装置1によれば、ロータ4外部に固定されたチューブ9を取り付けた遠心分離容器5を用いても、チューブ9に過大な捩じれが生じることなく懸濁液Aを遠心分離できる。したがって、チューブ9の捩じれを防止するために摺動シール材を用いた回転ジョイントを用いる必要がなく、回転ジョイントが高速回転させられることによる発熱や液漏れ等の不都合を防止することができるという利点がある。
【0021】
次に、本発明の第2の実施形態に係る遠心分離装置1について、図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置1は、回転支持機構6において第1の実施形態に係る遠心分離装置1と相違している。
【0022】
本実施形態において、回転支持機構6が、遠心分離容器5をその長手軸線回りにロータ4の回転と同期して前記ロータ4と反対方向に遠心分離容器5を前記ロータ4と等しい回転数で回転駆動する回転駆動機構を備えている。具体的には、図2に示されるように、回転駆動機構は、前記ロータ4の回転を遠心分離容器5へ伝達する動力伝達部を備えている。
【0023】
動力伝達部は、例えば、回転軸線がロータ4の回転軸線と一致するようにベース2上に水平に固定されるフェース歯車10Aと、フェース歯車10Aと垂直にかみ合う歯車10Bと、歯車10Bを一端に固定し、軸受により長手軸線回りに回転可能に支持された軸の他端に固定された第1のかさ歯車10Cと、遠心分離容器5の外周をその周方向に沿って支持するかさ歯車10Cとかみ合う第2のかさ歯車10Dとを備えている。
【0024】
また、各歯車10A〜10Dの歯数をそれぞれ歯数10a,10b,10c,10dとすると、速度伝達比=10a/10b×10c/10d=1が成り立つように設定されている。これにより、ロータ4の回転数とかさ歯車10Dの回転数が等しくなるようになっている。
【0025】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離装置1によれば、モータ3を動作させてロータ4が回転すると、同時にロータ4の回転する方向へ歯車10Bがフェース歯車10A上を噛み合いながら進み、10Bに固定される軸の先端に固定されるかさ歯車10Cが歯車10Bと同じ軸線回りを同じ方向へ回転する。そして、かさ歯車10Cとかみ合うかさ歯車10Dがかさ歯車10Cと反対方向へ回転することで、遠心分離容器5にロータ4と同じ回転数でロータ4の回転と反対方向の回転運動を伝達し回転させることができる。
【0026】
すなわち、ロータ4の回転による遠心分離容器5の長手軸線回りの回転と動力伝達部による遠心分離容器5の長手軸線回りの回転とが相殺され、チューブ9に捩じれを生じさせずに遠心分離することができる。また、チューブ9の剛性とは無関係に前記遠心分離容器5を長手軸線回りに回転させるので、剛性が低く柔らかいチューブ9を用いることができるという利点がある。また、ひとつの動力源によりロータ4と遠心分離容器5を回転させることができるので、遠心分離容器5を自転させるための動力源を新たに追加する必要がなく、遠心分離装置1の構造を簡略にすることができるとともに、省エネルギーを図ることができるという利点がある。
【0027】
なお、第1および第2の実施形態においては、図3に示されるように、ロータ4に2組の回転支持機構6を設けてもよい。図3において、第1または第2の実施形態に係る遠心分離装置1と共通するベース2とモータ3を備えているが、図示を省略する。
【0028】
この場合、2組の回転支持機構6を上下に配置し、各回転支持機構6が支持する遠心分離容器5の開口部に取り付けられたチューブ9をロータ4の上下両側から1本ずつロータ4外部へ接続するように配置する。
このようにすることで、ロータ4外部で接続されるチューブ9を各遠心分離容器5に取り付けた状態で、同時に2本の遠心分離容器5を遠心分離することができるという利点がある。
【0029】
また、上記実施形態においては、回転駆動機構として回転伝達部を備えるものを例示したが、これに代えて、ロータ4の空洞7内で遠心分離容器5をその長手軸線回りに回転駆動する駆動源をロータ4内に備えることにしてもよい。
また、上記実施形態においては、ロータ4の空洞7内に遠心分離容器5をその長手軸線回りに回転可能に支持することとしたが、これに代えて、ロータ4の鉛直軸線から半径方向外方に離れた任意の位置において、例えば、アームのような任意の構造物に、長手軸線回りに回転可能に支持させることにしてもよい。
【0030】
また、第1の実施形態においては、空洞7内に設けたボールベアリング8によって遠心分離容器5を直接指示させることとした。また、第2の実施形態においては、空洞7内に配置された第2のかさ歯車10Dに遠心分離容器5を直接指示させることとした。しかし、これに代えて、ボールベアリング8によって円筒状のホルダを回転自在に支持させ、あるいは、かさ歯車10Dによって円筒状のホルダを回転自在に支持させ、該ホルダに遠心分離容器5を挿入して支持させることとしてもよい。このようにすることで、遠心分離容器5を交換し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施形態に係る遠心分離装置1の一例を示す全体構成図である。
【図2】第2の実施形態に係る遠心分離装置1の一例を示す全体構成図である。
【図3】2組の回転支持機構を設ける遠心分離装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
A 懸濁液
1 遠心分離装置
2 ベース
3 モータ
4 ロータ
5 遠心分離容器
6 回転支持機構
7 空洞
8 ボールベアリング
9 チューブ
10A フェース歯車(動力伝達部)
10B 歯車(動力伝達部)
10C 第1のかさ歯車(動力伝達部)
10D 第2のかさ歯車(動力伝達部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸線回りに回転させられるロータと、
該ロータに設けられ、遠心分離される懸濁液を収容する一端が閉じられた筒状の遠心分離容器を前記一端が前記回転軸線に対して半径方向外方に向かうように、かつ、前記ロータの回転に同期して長手軸線回りに前記ロータとは反対方向に回転可能に支持する回転支持機構とを備える遠心分離装置。
【請求項2】
ベースと、
該ベースに対して回転させられるロータと、
遠心分離される懸濁液を収容する一端が閉じられた筒状の遠心分離容器と、
前記ロータに設けられ、前記遠心分離容器を前記一端が前記ロータの回転軸線に対して半径方向外方に向かうように、かつ、前記ロータの回転に同期して長手軸線回りに前記ロータとは反対方向に回転可能に支持する回転支持機構と、
前記回転軸線近傍において一部がベースに対して固定され、一端が前記遠心分離容器の開口部中心付近に固定され、液体を給排液する可撓性のチューブとを備える遠心分離装置。
【請求項3】
前記回転支持機構が、前記遠心分離容器を回転自在に支持する請求項1または請求項2に記載の遠心分離装置。
【請求項4】
前記回転支持機構が、前記遠心分離容器を前記ロータと等しい回転数で回転駆動する回転駆動手段を備える請求項1または請求項2に記載の遠心分離装置。
【請求項5】
前記回転駆動手段が、前記ロータの回転を前記遠心分離容器へ伝達する動力伝達部を備える請求項4に記載の遠心分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−268825(P2009−268825A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123913(P2008−123913)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】