説明

遠心式接触分離器における連続化学法

本発明は、2種の混和しない液体から形成される液−液エマルジョンにおいて非放射性反応を行うための遠心式接触分離器の使用に関する。本発明はまた、遠心式接触分離器において反応を行うための方法、および遠心式接触分離器において触媒反応を行うための方法にも関する。反応を行うための方法の一例は、以下の工程:i)液相Aおよび液相Bを少なくとも1つの第1の遠心式接触分離器内に連続的に導入する工程であって、液相AおよびBは混和せず、かつ相Aおよび/または相Bは少なくとも1種の反応剤を含む工程と、ii)相Aおよび相Bを混合し、それによって、エマルジョンを形成させる工程と、iii)エマルジョンの相分離を可能にする遠心力を印加して、相A’およびB’が得られるようにする工程と、iv)場合により、相A’およびB’のうちの少なくとも一方から反応生成物を回収する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、反応を行うための遠心式接触分離器の使用に関する。本発明はまた、遠心式接触分離器において反応を行う方法、および遠心式接触分離器において触媒反応を行う方法にも関する。
【0002】
遠心式接触分離器は公知の装置である。図1/5には、かかる遠心式接触分離器の断面図が示されている。それらは通常、外側円筒形ハウジング内に回転可能に配置された内筒を含む。通常、外側ハウジングには、装置に投入される2種の混和しない相AおよびBそれぞれのために1つずつ、2つの流入口が取り付けられている。遠心式接触分離器では、2種の液相が、内筒の回転力によって均質に混合される(図1/5の概略図を参照のこと)。混合は、内筒の外側で行い、おそらく、混合物が内筒に入る場合にある程度内筒内でも行う。続いて、内筒が高速で回転することによって生じる遠心力によって、内筒において2相の分離が起こる。分離後、2相A’およびB’はそれぞれ、2つの別個の流出口を通って装置を出る(図1/5)。
【0003】
外筒ハウジング内に回転可能に配置された内筒を有する遠心式接触分離装置の公知の使用は、液体の密度の差に基づく、液体の混合物の分離である。例えば、米国特許第3,931,928号明細書には、混合された液体が内筒に導入され、内筒はその長手方向の一端に同心状の開口部を有し、それを介して、より低い比重を有する分離された成分が通過することが記載されている。接触分離器の使用は、放射性物質の処理の分野で公知である。テイラー(Taylor)ら(1998年)[Journal of Alloys and Compounds 271〜273、534〜537頁]は、核燃料の再処理に関連する、U(VI)からのPu(IV)およびNp(IV)の分離について記載しており、それによって、NpおよびUの錯体の分離の研究への遠心式接触器の使用が示唆されている。他の公知の使用は、GB1,223,610号明細書に報告される反応遠心機(reaction centrifuge)における、気体と液体との反応、あるいは気体と、液体または液体中に細かく分離された形状の固体物質との反応である。
【0004】
米国特許第2,995,612号明細書には、液体触媒の存在下でのアルカン、芳香族化合物またはナフテンの触媒アルキル化反応における、いくつかの発展的な(evolving)同心状の円筒を含む遠心式接触器の使用が開示されており、その際、触媒相と炭化水素相との間の膜式接触が達成され、それによって、副反応を防ぐために、アルキル化された生成物と触媒との接触が大幅に制限される。
【0005】
例えば、Costner Industries Nevada Corporation(CINC)から入手可能なCINC分離器などの多くの他の遠心式接触分離装置が文献に記載されている。この種の分離器は、一般に知られており、例えば、以下の特許:米国特許第3,931,928号明細書、同第3,955,757号明細書、同第4,175,040号明細書、同第4,525,155号明細書、同第4,634,416号明細書、同第4,816,152号明細書、同第4,959,158号明細書、同第5,024,647号明細書、同第5,762,800号明細書、同第6,346,069号明細書、同第6,607,473号明細書、同第6,719,681号明細書に記載されている。これらの上記の特許文献の開示内容は、その全体が参照により本明細書に援用される。さらなる情報は、例えば、Costner Industriesのウェブサイト(www.cit−ind.com.)で見られる。さらなる関連情報は、CINC分離器(CIT液液遠心分離機とも呼ばれる)の販売業者であるAuxill Nederland BVのウェブページ(www.auxill.nl/uk/cit.separators.phpを参照のこと)で見られる。
【0006】
CINC遠心式接触分離器の他に、遠心分離器または遠心抽出器は、Roussel−Robatel(仏国のAnnanoy)からも入手可能である(例えば、Centrifugal Separator、Model 8XPまたはModel BXP 360Pなど)。遠心抽出器の他の供給元は、当業者には周知であろう。
【0007】
これらの遠心分離器は、それらの供給元によって提供される、利用可能ないかなる処理量およびいかなる形態で用いてもよい。例えば、CINC遠心式接触分離器のモデルには、0.5gal/分(1.9リットル/分)(Model V−02)〜600gal/分(2271l/m)(Model V−36)の範囲の処理量があり、中間範囲は、6gpm(22.7lpm)(Model V−05)、30gpm(113.5 lpm)(Model V−10)、90gpm(340.6lpm)(Model V16)および200gpm(757lpm)(Model V−20)である。
【0008】
化学反応、特に高速および/または発熱反応を行うための公知の方法の問題点は、反応を行うためにこれまでに用いられている機器においては、物質および/または熱の伝達の問題に起因して、局所的な濃度および/または温度勾配が発生する結果として、反応の暴走が起こる可能性が生じることである。複数の反応剤を単に接触させるだけで爆発性混合物が形成されることもあり得る。さらに、反応の選択性が、反応剤の局所的な高い勾配または局所的なホットスポット(hot spot)の影響を受けることがある。ファインケミカルの製造においては、化学反応にはほとんどの場合多目的の回分反応器が用いられる。回分反応器が物質および熱の伝達に関連する問題に対処するのにそれほど適さないことは明らかである。優れた連続反応器が公知であるが、それらは、その構造上、通常、バルク化学プロセスなどの単一のプロセスにしか適さない。したがって、これらの解決法は、ファインケミカルの製造には適していない。ファインケミカル製造における制御できない物質および/または熱の伝達の問題が発生するのを防ぐための公知の手段は、例えば、反応剤が直径わずか数マイクロメートルの流路を通って送られることにより、非常に高速の混合および熱の放散を可能にするマイクロリアクタである。しかし、これらのマイクロリアクタは、比較的高価であり、多くのマイクロリアクタを並行して設置することによってスケールアップされる。このように、規模の利益が得られない。さらに、小さい流路は、反応中に副生成物として形成される小さい微粒子または固体のいずれかによる付着によって閉塞されやすい。このため、高速の反応を起こさせ、反応剤のほぼ瞬時の均質混合を可能にするとともに、その処理量を増大させることによって通常の方法でスケールアップすることができる装置が必要とされている。さらに、装置は、多種製品用機器(multi−product equipment)として用いるのに十分に融通性がなければならない。
【0009】
意外なことに、遠心式接触分離器で連続式または半連続式に2相系において反応を実行することにより、安全に反応を行うことが可能であることが現在分かっている。したがって、本発明は、2種の混和しない液体から形成された液−液エマルジョンにおいて反応を行うための遠心式接触分離器の使用に関し、ここで、反応は、少なくとも2種の反応剤の間で行われる。本発明はまた、反応が触媒反応であるとともに、触媒が、酵素または遷移金属触媒であり得る均一触媒であり得る、上記のような遠心式接触分離器の使用にも関する。本発明はまた、速度論的分割を行うための遠心式接触分離器の使用にも関する。
【0010】
上記反応は、本発明との関連において、原子U、NpまたはPの少なくとも1個を含む化合物を全く伴わない任意の反応として定義される非放射性反応である。
【0011】
エマルジョンは、2種の混和しない液体の混合物である。2種の液体のうちの1種は、他の液体中に小液滴の形態で分散される。液滴によって形成される相は、分散相と呼ばれることが多く、他方の相は連続相と呼ばれる。
【0012】
本発明の趣旨では、反応が、所望の最終生成物が遠心式接触分離器において形成されるプロセス、すなわち、例えば純粋な分離反応(pure separation reaction)における場合のように、所望の生成物がプロセスの開始時に導入されないプロセスとして定義される。
【0013】
連続反応のための用いられる遠心式接触分離器では、反応領域の容積は、反応させようとする反応剤および/または生成物の全容積と比較して相対的に小さい。激しく反応することがある、または暴走しやすいかあるいは爆発性混合物または爆発性副生成物を形成し得る反応剤を用いて反応が行われる場合、爆発の効果は、起こったとしても、回分反応器において同じ容積の反応剤を用いて起こるであろうよりもはるかに小さいであろう。さらに、接触分離器における混合は、非常に高速であり、小容積および高速混合はいずれも、制御できない物質または熱の伝達の問題の防止に役立ち、したがって、暴走が起こりにくくなる。さらに、場合により爆発性の副生成物の形成につながることがある複数の反応剤間の過度の接触を防ぐように滞留時間を調節することができる。
【0014】
遠心式接触分離器の反応容積は、反応させようとする反応剤の総容積に対して比較的小さいが、それでも、比較的高流量が可能であるため、遠心式接触分離器の使用により高収率が可能になる。
【0015】
したがって、本発明は、
i)液相(A)および液相(B)を少なくとも1つの第1の遠心式接触分離器内に連続的に導入する工程であって、液相(A)および(B)は混和せず、かつ相(A)および/または相(B)は少なくとも1種の反応剤を含む工程と、
ii)相(A)および相(B)を連続的に混合し、それによって、エマルジョンを形成させる工程と、
iii)エマルジョンの相分離を可能にする遠心力を印加して、相(A’)および(B’)が得られるようにする工程と、
iv)場合により、生成物を回収する工程と
を含む、反応を行うための連続法に関する。
【0016】
遠心式接触分離器における反応によって生成された生成物の総量の好ましくは70%超、より好ましくは少なくとも90%および最も好ましくは90%超が、液相(A’)または液相(B’)のいずれかに存在し、生成物が回収される場合、当該割合が好ましくは工程ivにおいて回収される。生成物は、生成物の総量の好ましくは70%超、少なくとも90%および最も好ましくは90%超が存在する相から回収される。
【0017】
本方法において多くの変形が可能である。本連続法は、様々な種類の反応、例えば分解反応を行うのに用いることが可能であり、ここで、相Aのみが反応剤を含み、反応が起こった後、少なくとも1種の分解生成物が、相A’またはB’のいずれかにおいて主に存在し、および他の分解生成物が、好ましくは他の相において主に存在し、これによって、生成物の各々の容易な回収が可能である。主に存在するという用語は、化合物の総量の50%超が、相の1つに存在することを意味する。本方法は、反応の平衡が反応剤の側にある反応において非常に有利であり得る。生成物を連続的に除去すると、平衡量を越えて反応を進行させることができるであろう。
【0018】
したがって、一実施形態では、本発明は、
I.以下のもの:
i.反応剤を含む液相(A)および
ii.液相(B)
を少なくとも1つの第1の遠心式接触分離器内に連続的に導入する工程であって、相(A)および(B)は混和しない工程と、
II.液相(A)および液相(B)を、少なくとも1つの第1の遠心式接触分離器内で連続的に接触させる工程であって、それによって、2相を接触させると、混合物が形成され、反応が起こる結果、第1および第2の生成物が生じ、密度の差によって、接触分離器内の混合物が相(A’)と相(B’)とに分離し、2相(A’)および(B’)の分離の後、接触分離器で生成された第1の生成物の総量の少なくとも90%が、液相(A’)または液相(B’)のいずれかに存在し、生成された第2の生成物の総量の少なくとも90%が他方の相に存在する工程と、
III.工程IIの後、場合により、第1の生成物および/または第2の生成物を、当該生成物の総量の少なくとも90%が存在する相から回収する工程と
を含む、反応を行うための連続法に関する。
【0019】
本発明の枠内では、連続法が、純粋な回分法(pure batch process)ではない任意のプロセスとして定義される。純粋な回分法は、第1の量の必要な各反応剤が導入されて反応が開始した後にさらなる反応剤が反応混合物に添加されないプロセスとして定義される。
【0020】
相AおよびBは、反応剤または触媒あるいはその他のものを添加せず、それ以外は反応の際と同じプロセス条件にしたがって、遠心式接触分離器内に相Aおよび相Bを導入した後、遠心式接触分離器の流出口において得られる結果として生じた相A’が、5容積%以下のB、好ましくは2容積%以下、より好ましくは1以下、そして最も好ましくは0.2容積%の相Bを含有する際に、混和しないものと定義される。密度という用語は、相A、相B、相A’または相B’それぞれの、単位容積当たりの質量に対して用いられる。
【0021】
Aを用いて、反応器流入口における相Aを表していることが理解されるであろう。流出口における相Aの組成は通常、相Bとともに遠心式接触分離器を通過した結果として、幾分異なるであろう。したがって、相Aと同様であるが同一ではない組成を有する流出口における組成は、相A’であるものとして示される。同じことが相Bにも当てはまり、流出口における相Bは、相B’として示される。
【0022】
通常、本発明による方法で用いられる第1の反応剤は有機化合物である。存在してもよい第2の反応剤は、通常、有機または無機化合物であってよい。
【0023】
遠心式接触分離器が反応を行うために用いられる本発明による方法は、均一触媒が用いられる方法であることが好ましい。相Aおよび相Bで用いられる溶媒を注意深く選択することによって、遠心式接触分離器の使用が、相A’が均一触媒を含有しかつ相B’が所望の生成物を含有する状態で終わることを可能にし、またはその逆も可能であり、さらに、遠心式接触分離器の使用が、連続方法である均一な触媒反応を行うことを可能にする。
【0024】
化学工業では、同じ設備内で様々な製品の効率的な製造を可能にするkg規模ないしトン規模の製造設備が必要とされている。これは、例えば、医薬品および農業産業に中間製品(intermediate)を供給するいわゆるカスタム製造産業(custom−manufacturing industry)における場合である。カスタム製造においては、必要とされる特定の製品の量が非常に多いため、実験室規模ではもはや効率的に製造できないが、それは、そのために専用のプラントを建てられるほど多くはない。これまでのところ、この問題は通常、多目的機器における所望の製品の回分式製造によって解決されている。ほとんどの場合、かかる製品を合成するために必要な多くの反応は触媒反応である。特に、均一な遷移金属触媒、生体触媒(例えば酵素または触媒活性酵素を含有する全細胞であり得る)、有機触媒または酸性または塩基性触媒などの均一触媒を用いて行われる触媒反応が、所望の製品を合成するのに必要とされることが多い。
【0025】
2相液系で均一触媒を用いて回分式反応を行うことは公知であり、2相液系においては、一方の相が均一触媒を含有し、かつ他方の相が、触媒作用により生成物に転化されるとともにこの同一相内に留まる反応剤を含有する。かかる方法は以下の工程:
−タンクを反応剤相で満たす工程、
−混合しながら触媒相を添加して反応を開始させて、2相のエマルジョンを得る工程、
−最終的な転化まで反応させる工程、
−場合により、反応の際に反応器における相を冷却または加熱する工程、
−2相を沈降させる工程、
−1つの相を反応器から取り出す工程、
−第2の相を反応器から取り出す工程、
−反応器を清浄化する工程、
−次のバッチを開始させられるように、触媒相を反応器に戻す工程
を含む。
【0026】
多種製品用回分式プラントにおいては、反応時間および沈降時間は、反応系に応じて著しく変動し得る。十分な沈降を達成するため、非常に長い時間が必要とされることがあり、このことが、生成物を、好ましくない副生成物へとさらに反応させることがある。回分反応器において2相触媒反応を行うことに付随する他の問題は以下の通りである。
1.長過ぎる滞留時間が不可避であるため、反応が高速である場合に生成物が反応によりなくなることがある。
2.反応が高速である場合、反応熱を取り除くのが困難であることがあり、高温により副生成物が生成され得る。
3.反応が高速である場合、触媒は、活性状態において反応すべき物質がないため失活することがあり、このことにより、触媒は、最終的にはその破壊をもたらす好ましくない反応に関与するようになる。層の分離の最中およびその後の触媒にも同じ結果が生じることがある。
4.触媒は、たとえそれ自体安定していても、触媒の排出(draining)の際の反応器および/または生成物相に微量の酸素が入ってくるため失活することがある。
【0027】
上記から、触媒の失活を防ぐために、触媒を反応器の内部に保持して、確実に反応剤の少なくとも一部が常に存在するようにすることが非常に望ましいことは明らかである。したがって、これらの触媒反応を連続式に行うことが非常に望ましいであろう。
【0028】
均一触媒を用いて2相反応を行うための連続法が公知であるが、これはあくまでバルク製品(bulk product)向けであり、この場合、製品処理量が通常100 000トン/年程度であるため、専用の連続プラントに投資するのが妥当である。これらの方法では、用いられる機器および機器の異なる部分間の連結が、特定の出発材料を用いた、特定の生成物を回収するためのある特定の反応に使用するために設計されている。かかる状況では、均一触媒が用いられる連続法の使用は経済的に見合うものである。しかし、ファインケミカル産業またはいわゆるカスタム製造産業では、比較的少量の製品のみを顧客が求めている場合に通常用いられる回分法を、回分法機器が提供する融通性を犠牲にせずに、連続法に替えることが必要とされている。回分法では、生成物および(場合により)触媒の回収が「オフライン」で行われるため、異なる反応のために毎回同じ反応器を用いるのが簡単である。バッチ毎に異なる品質の生成物を生じ得、回分反応器を空にして新たなバッチを開始する時間の損失があるため、1回のバッチで十分な生成物が作製できない場合、回分法の使用があまり魅力的でないのは明らかである。
【0029】
ここで、意外なことに、遠心式接触分離器の使用が、カスタム製造産業に関連する上述した問題に対する解決法をもたらすことが分かった。遠心式接触分離器は比較的安価な機器であり、比較的小さい空間を必要とする。遠心式接触分離器の使用は、行われる反応が均一触媒の存在下で行われる反応である場合にも、所望の生成物の連続製造を可能にする。
【0030】
したがって、一実施形態では、本発明は、均一触媒を用いた反応を行うための連続法であって、
I.均一触媒を含みかつ場合により反応剤を含む液相(A)と、場合により反応剤を含む液相(B)とを、少なくとも1つの第1の遠心式接触分離器内に連続的に導入する工程であって、相(A)および(B)は混和しない工程と、
II.液相(A)および液相(B)を、少なくとも1つの第1の遠心式接触分離器内で連続的に接触させる工程であって、それによって、2相を接触させると、混合物が形成され、触媒は1種以上の反応剤と接触され、触媒反応が起こる結果、少なくとも第1の生成物が生じ、密度の差によって、接触分離器内の混合物が相(A’)と相(B’)とに分離し、2相(A’)および(B’)の分離の後、触媒のほとんどが液相(A’)に存在し、生成物のほとんどが相(B’)に存在する工程と、
III.工程IIの後、場合により、相(A’)を連続的に再循環させ、および/または場合により触媒を再生させ、および/または場合により(相(A’)からの)副生成物を除去する工程と、
IV.工程IIの後、場合により、相(B’)からの生成物を回収する工程と
を含む方法に関する。
【0031】
本発明の枠内では、均一触媒が、反応剤と同じ物理的状態で存在する任意の触媒として定義される。通常、反応剤は溶解され、したがって、通常、触媒も溶解される。本発明の枠内では、均一触媒という用語は、水相(AまたはA’)に通常溶解されるであろう上述した触媒を含む様々な種類の触媒を包含する。酵素および全細胞または破壊細胞は、必ずしも完全に溶解されるわけではないが、それにもかかわらず、溶解された触媒と同じように本発明による方法に用いられ得る。したがって、本発明による方法は、酵素または全細胞を均一触媒として使用することを明示的に包含する。また、本発明の趣旨では、ゲル状またはコロイド状態にある触媒は、溶解されたものとみなされる。理論上は、全ての材料は同程度に溶解するが、本発明による方法では、触媒が所望の反応を触媒するのに十分に多い量で溶液中に存在する場合および溶解されていない触媒の量が連続法を行う際に問題を引き起こすほど多くないという条件で、触媒は溶解されたものとみなされる。好ましくは、触媒の総量の50重量%超が遠心式接触分離器内に溶解された形態で存在し、より好ましくは70%、最も好ましくは、触媒は完全に溶解している。上記のこれらの実施形態は、上述したように本発明の趣旨では均一触媒とみなされるコロイド、ゲル、酵素および全細胞には適用されない。
【0032】
触媒に関して「ほとんどが存在する」という表現により、70%超の触媒、好ましくは90%超、より好ましくは95超、そして最も好ましくは99%超の触媒が、2相の分離後に相A’に存在することを意味している。遠心式接触分離器中に存在する触媒の全てが溶解されるわけではない場合、割合は溶解された触媒の量のみに適用されることに留意されたい。
【0033】
相間移動触媒または共触媒は、存在する場合、相A’に存在する触媒の量を決定する際に含まれてはならない。
【0034】
生成物に関して「ほとんどが存在する」という表現は、70%超の生成物、好ましくは90%超、より好ましくは95超、そして最も好ましくは99%超の生成物が、2相の分離後に相B’に存在することを意味している。
【0035】
本発明による方法は、2種の混和しない相AおよびBにおいて行われる。相Aを形成する液体または溶媒は、例えば水または水溶液であり、相Bを形成する液体または溶媒は、その場合、例えば有機溶媒または有機溶媒の混合物であり得る。相Aが水溶液からなる場合、水と実質的に混和しない全ての有機溶媒が、相Bを形成するのに使用可能であり、例えば、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、芳香族溶媒(例えばトルエンおよびキシレン)、ハロゲン化溶媒(例えばジクロロメタン、ジクロロエタンまたはクロロベンゼン)などの非極性溶媒;MTBE、バレロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、高級アルコール(例えばオクタノール)などの極性溶媒である。反応剤および/または反応の生成物が、ここでは相Bまたは相Bを形成する部分として見られる有機相を形成することも可能である。
【0036】
通常、相Bは、有機溶媒および反応剤を含むであろう。相Bが有機相である場合には、反応剤の濃度は、相Bへのその溶解度によってのみ制限され、生成物の濃度は、相B’へのその溶解度に制限される。経済的なプロセスでは、濃度はできる限り高くすべきであるが、場合によっては、例えば1〜10モル%の濃度といったより低い濃度で作用させるのがより有益であることは明らかである。これは、選択性の理由または安全上の理由のためであり得る。
【0037】
相AおよびBは、1種以上のさらなる反応剤を含有し得る。通例、反応剤は、実質的に同じモル濃度で溶液中に存在するであろうが、場合によっては、異なるモル濃度の様々な反応剤を用いることが有益であり得る。
【0038】
相AまたはBのいずれかあるいは両方が、表面活性化合物(例えばドデシルスルホン酸ナトリウム)および相間移動触媒(例えばテトラ−アルキルアンモニウム塩)などの、反応に好影響を及ぼす添加剤も含有し得る。例としては、臭化テトラブチルアンモニウムおよび硫酸水素メチルトリオクチルアンモニウムがある。
【0039】
相Aが水溶液である場合、水相Aは、反応剤または触媒のいずれかあるいは両方を含有する。水相が複数の反応剤または触媒を含有することも可能である。触媒および反応剤の濃度は変動し得るが、水相へのその溶解度によって制限される。触媒の濃度は、その反応性によっても決定される。好ましくは、触媒の濃度は、遠心式接触分離器に通す単一パスで、転化率が少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%に達するように選択される。水相における反応剤の濃度は、上述したような有機相における反応剤の所望の転化率を可能にするのに十分な高レベルに保たれる。必要に応じて水相を所望のpH値に保つために、水相を通例の方法で緩衝してもよい。
【0040】
好ましくは、本発明による方法は、相AおよびBに存在するとともに、相A’およびB’における反応の後、液体であるかまたは完全に溶解される全ての成分を用いて行われる。
【0041】
場合によっては、水溶性の有機反応剤が用いられてもよい。その場合、上記の系を元に戻す(revert)ことが有益であり得る。この場合、第2の反応剤および/または触媒が有機相に存在してもよい。
【0042】
上述した有機/水性系に加えて、有機溶媒、またはそれとイオン液体との混合物の組合せを使用することも可能である。イオン液体は、P.WasserscheidおよびT.Weltonの「Ionic Liquids in Synthesis」(Wiley−VCH、バインハイム(Weinheim)、2002年)に記載されており、その内容を参照により本明細書に援用する。イオン液体は様々な量の水を含有してもよい。イオン液体相は、反応剤、触媒のいずれかまたは両方を含有する。イオン液体相が複数の反応剤または触媒を含有することも可能である。
【0043】
相AおよびBのための別のあり得る溶媒の組合せは、極性が非常に異なる2種の混和しない有機溶媒の使用である。かかる組合せの例は、エチレングリコール/ヘキサンまたはブタンジオール/ヘキサンである。他の組合せが可能である。極性相が触媒および/または反応剤を含有する一方、非極性相は有機反応剤、生成物および場合により1種以上の反応剤を含有する。
【0044】
相AおよびBそれぞれのためのさらに別のあり得る溶媒の組合せは、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタンまたはパーフルオロメチルシクロヘキサンなどの親フルオロカーボン性(fluorous)溶媒と、ヘキサン、トルエン、クロロベンゼン、THFまたはイソプロパノールまたはそれらの混合物などの、周囲温度において上記親フルオロカーボン性溶媒と混和しない有機溶媒とを合わせた組合せである。この場合、触媒は、フルオロカーボン基をそれに結合することによって、親フルオロカーボン性相に可溶にされ得る。
【0045】
当然ながら、相が混和しない限り、相AおよびBのあり得るいかなる組合せも利用され得る。反応剤のうちの1種を溶媒として使用することも可能である。
【0046】
遠心式接触分離器において多くの種類の反応を行うことができる。この設備は、非常に発熱性であるかまたは危険物質を含有する反応に特に有用である。1つの可能性は、水相中のアジド塩(ナトリウムアジドなど)と、有機相に溶解された有機ハロゲン化物またはエポキシドとの反応によるアジドの製造である。
【0047】
本発明は、1種以上の反応剤が水相に溶解された鉱酸または鉱塩基と反応される反応にも特に有用である。鉱酸の例は、硫酸または塩酸である。鉱塩基の例は、NaOH、KOH、NaHCO、NaCO、CsCOである。塩基触媒プロセスの例は、エステルまたはアミドの加水分解である。酸触媒プロセスの例は、エステルまたはアミドの加水分解、あるいはアルコールおよびカルボン酸からのエステルの形成である。
【0048】
好ましくは、本発明で用いられる触媒は、基質を含有しない相のみに可溶である触媒である。しかし、例外は、キラルであり得る相間移動触媒の使用および有機触媒の使用である。この場合、別の接触分離器が用いられてもよい抽出プロセスによって、反応が起こった後、生成物を含有する溶液からこれらの触媒を除去することは有利であり得る。
【0049】
本明細書において、基質という用語は、接触分離器で生成される生成物の大部分を最終的に形成する反応剤を示すために用いられる。多くの反応が2種の反応剤間で行われ、そのうちの1種は比較的大きい分子であり、もう1種は比較的小さい分子である。本特許出願では、異なる分子のうちのより大きい方を基質と呼ぶ。
【0050】
本発明で用いられる均一触媒は、第5〜12族の遷移金属の錯体またはクラスターをベースとする遷移金属触媒であり得、この錯体は、一般式MLigLig(式中、Mが第5〜12族の遷移金属であり、Ligが、単座、二座、三座または四座であってもよいキラル配位子である)で表されるであろう。Ligは、非キラル配位子であり、Iが対イオンであり、aは1〜18の整数であり、b、c、dは0〜36の整数である。これらの触媒は、確実に自身が相Aに溶けかつ相Bに溶けない(またはその逆である)ように特別な特徴を必要とし得る。触媒が水相中にある場合、それは、水溶性基(CONa、SONaまたはPOKまたはオリゴエチレングリコール単位など)を、上述した錯体の場合にはLig、LigまたはIのいずれかに結合させるのに有用であり得る。これらの同じ特徴は、極性相がイオン液体である場合にもおそらく溶解を助けるであろう。触媒相が親フルオロカーボン性溶媒である場合、フルオロカーボン基がLig、LigまたはIのいずれかに結合される必要があるであろう。
【0051】
金属の例は、Rh、Ru、Pd、Ir、Pt、Cu、Au、Os、Co、Ni、Hf、Ta、Re、Mo、Mnであり、キラル配位子Ligの例は、エナンチオピュアなビピリジン、ジイミン、オキサゾリン、ビスオキサゾリン、ホスフィノオキサゾリン、BINAP、DIOP、Josiphos、DUPHOSなどのビスホスフィン;ビスホスフィット、ビスホスホニット、ホスフィン、ホスホロアミダイト(phosphoramidite)、ホスフィットまたはホスホニットなどの単座リン配位子である。bが>1である場合、b Lig基は同じである必要はない。
【0052】
配位子Ligの例は、ホスフィン、ビスホスフィン、アミノホスフィン、アルキルアミン、イミン、ピリジン、ジアミン、ジイミン、ビピリジン、オキサゾリン、ビスオキサゾリン、THFなどのエーテル、アセトニトリルなどの溶媒、無水マレイン酸などのオレフィン、シクロオクタジエンまたはノルボルナジエンなどのジエンである。
【0053】
対イオンIの例は、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、BF、PF、テトラフェニルホウ酸イオン、またはBARFなどのそのフッ化された形態である。
【0054】
本発明で用いられる触媒はまた、コロイドをベースとする遷移金属であってもよい。これらのコロイドは、キラル(Lig)および非キラル配位子(Lig)あるいはそれらの混合物を有していてもよい。それらのコロイドはまた、NaBrまたはテトラアルキルアンモニウム塩などの塩によって、またはポリ−N−ビニル−ピロリジノンなどのポリマーによって安定化されてもよい。本発明の触媒はまた、キラルであってもまたはキラルでなくてもよい有機触媒であってもよい。例としては、キナ・アルカロイド、ポリペプチド、ジケトピペラジンの誘導体(シクロ−Phe−Hisなど)、Yian Shiのフルクトースベースのケトンなどの糖誘導体、プロリンおよびその誘導体、キラルジメチルアミノピリジン誘導体がある。これらの触媒はまた、遷移金属触媒について上述された相Aに自身を可溶にする基を有していてもよい。
【0055】
本発明で用いられる触媒は、オキシドレダクターゼ(例えばアルコールデヒドロゲナーゼ)、トランスフェラーゼ(ニコチンアミドN−メチルトランスフェラーゼなど)、ヒドロラーゼ(カルボキシルエステラーゼなど)、リアーゼ(ピルビン酸デカルボキシラーゼなど)、イソメラーゼ/ラセマーゼ(アラニンラセマーゼなど)またはリガーゼ(チロシン−tRNAリガーゼなど)、加水分解酵素(ペプチダーゼ、エステラーゼまたはリパーゼなど)などの酵素であり得る。基本的に、有用な触媒活性を示すいかなる酵素も本発明に用いることができる。
【0056】
本発明で用いられる触媒はまた、破壊されていてもまたは破壊されていなくてもよい全細胞であり得る。これらの細胞は、必要に応じて遺伝子操作され過剰発現され得る、酵素などの活性触媒を含有するであろう。
【0057】
本発明にしたがって好都合に行われる反応は、例えば、基質が、水相中の反応剤と反応する有機相中の反応剤である反応である。一例は、相Bにおける有機反応剤としての有機ハロゲン化物および/またはエポキシドと、水相Aにおける無機反応剤としてのナトリウムアジドとの反応であり得る。このようにして反応を行うことによって、危険なHNの発生を避けることができる。別のあり得る反応は、水またはハロゲン化水素が基質(相Bにある有機反応剤)から脱離される脱離反応であり得る。副生成物(水またはハロゲン化水素)が、相Aにおいて連続的に除去されるにしたがい、これらの反応の平衡が所望の側に向かうであろう。
【0058】
また、酸化反応が、本発明にしたがって好都合に実行される。基質は通常、有機相(相Bにおける有機反応剤)に存在し、遠心式接触分離器において、相Aに溶解された酸化剤と反応する。酸化剤は、例えば、過酸化水素または次亜塩素酸ナトリウムであり得る。大量の有機基質がこれらのような強力な酸化剤と回分反応器において長時間にわたって直接接触される場合、爆発または暴走反応の危険性が非常に高いことは明らかである。遠心式接触分離器において反応を実行することによって、このような危険性が大幅に低減される。
【0059】
遷移金属錯体によって触媒される触媒反応も、本発明にしたがって好都合に行われる。一例は、水性、イオン液体または親フルオロカーボン性のいずれかである相Aに供給された水溶性のルテニウム触媒を用いた、相Bにおける有機反応剤であるアルデヒド、ケトンまたはイミンの還元であろう。還元剤は、相Bに存在し得るイソプロパノールであり得、また、反応剤として相Aに存在し得るギ酸塩でもあり得る。生成物は、それぞれ、第一級アルコール、第二級アルコールまたはアミンであろう。水溶性ルテニウム触媒は、例えば、J.M.J Williams(「Tetrahedron Letters」(2001年)、42(24)、4037〜4039頁)の研究から周知である。
【0060】
2相水性触媒反応の多くの他の例は、「Aqueous−Phase Organometallic Catalysis」(B.CronilsおよびW.A.Herrmann編、Wiley−VCH、バインハイム、1998年、2004年から第2版)に記載されている。一般に、全てのこれらの反応の種類は、遠心式接触分離器において有利に行われ得る。
【0061】
多くの酵素プロセスが、遠心式接触分離器において好都合に行われ得る。例は、エステルおよびアミドの加水分解である。これらは、水性/有機系で好都合に行われ得る。エステル交換反応を行うことも可能である。これらの反応は、イオン液体相における酵素および有機溶媒における有機反応剤を用いて行われ得る。
【0062】
また、接触分離器において触媒作用による速度論的分割を行うことは非常に有利である。これらのプロセスにおいて、触媒は、ラセミ混合物における1つのみのエナンチオマーと選択的に反応し、他のエナンチオマーはほとんどそのままの状態にしておく。酵素作用による速度論的分割プロセスは周知である。一例は、ラセミ第二級アルコールのエステルまたはラセミカルボン酸のエステルの分解のためのリパーゼの使用である。50〜60%の転化率になるまでリパーゼ触媒加水分解反応を行うことによって、2つのエナンチオマーのうちの1つが、アルコールおよびカルボキシレートに完全に加水分解される一方、エステルの他のエナンチオマーは、エナンチオピュアな形態に保持される。本発明による方法は、これらの触媒作用による分解反応を行うのに非常に適している。これらの反応がバッチで行われる場合、何らかの現場での(in−situ)リアルタイムの監視が行われない場合、反応を停止させるべき正確な時点を決定するのが常に困難である。本発明の機器においては、反応のパラメータ(流量、回転速度、触媒濃度、温度)は、その転化が所望の割合で正確に維持されるように操作され得る。
【0063】
本明細書に詳細に記載されていないが、最適なプロセスを達成するために一連のさらなる遠心式接触分離器を用いることが可能であることが理解されるであろう。これにより、一連の反応を連続して行うことが可能になるであろう。
【0064】
本発明は、遠心式接触分離器における連続法の多くの様々な実施形態を包含するものであり、例えば、相Aが反応剤を含み、相Bは含まず、あるいはAおよびBが両方とも反応剤を含み、触媒が相AまたはBのいずれかに存在していてもよく、反応剤がそれ自体で相Aまたは相Bの液体を形成し得る。したがって、相AおよびBの全ての成分の濃度が広い範囲で変動可能であることは明らかである。相Aは以下のもの:
0〜100重量%の液体
0〜100重量%の反応剤
0〜100重量%の触媒
を含んでいてもよく、
相Bは、以下のもの:
0〜100重量%の液体
0〜100重量%の反応剤
0〜100重量%
を含んでいてもよい。
【0065】
重量パーセントは全て、相Aまたは相Bそれぞれの総重量の割合である。しかし、全てのあり得る変形例の範囲内では、相AまたはBのいずれかが反応剤を含んでいなければならず、両方の相AおよびBが存在しなければならない。また、反応剤が液体である場合、反応剤の量が、反応剤の重量%として示され、液体の重量%が0であるものと考えられる。
【0066】
本発明による方法において触媒が用いられる場合、触媒は、相分離の後に、生成物の大部分が存在していない相に存在することが好ましい。これにより、触媒含有相の容易な再循環が可能になる。本発明による方法において2種以上の生成物が形成される場合、生成物のうちの少なくとも1種が、好ましくは、1つの相に主に存在する一方、生成物のうちの他の生成物が他方の相に存在する。これにより、所望の生成物の容易な回収が可能になる。
【0067】
[実施例]
[実施例1]
[遠心式接触分離器における酵素による2相の触媒反応]
この実験および以下の実験では、CIT V−02(以前にはCINC V−02として知られていた。全説明については例えばhttp://www.auxill.nl/uk/cit.separators.phpを参照のこと)が利用される。使用可能な他の匹敵する機器は、Rousselet−Robatel製のBXP遠心分離器である(http://www.rousselet−robatel.com/products/bxps.php)。
【0068】
この実施例では、本発明者らは、図2/5に示される設備を用いた。
【0069】
水性供給物溶液は、26.24g(192.81ミリモル)のKHPOおよび2.58g(7.20ミリモル)のNaHPO・12HOを2Lの逆浸透水に溶解させることによって調製された95mlのpH5.6のリン酸緩衝液に、155mlのリパーゼ溶液(シグマ(Sigma)、≧20 000U/g)を溶解させることによって調製された、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)からのリパーゼの緩衝水溶液を含有していた。
【0070】
有機供給物溶液は、598.15g(2.12モル)のオレイン酸、202.15g(2.73ミリモル)の1−ブタノールおよび2076mlのヘプタンを含有していた。
【0071】
実験を、CIT V−02分離器において行った。全ての場合に、低混合底板(low mix bottom plate)を用いた。系の配置を図1に示す。2つのポンプヘッドを備えたVL1000制御蠕動チューブポンプ(control peristaltic tube pump)(1.61.68R)を用いてCINC反応器にそれぞれを供給した。反応を室温で行った。系の電源を入れることより、反応器温度を、1時間にわたって約30℃に上げた。
【0072】
CINC反応器に、純粋なヘプタンおよび純水を、両方とも6ml/分の流量で供給した。続いて、遠心分離器を始動させ(2380rpmに対応する40Hz)、設備を1時間にわたって平衡化させた。この時点で、三方弁1を用いて、ヘプタン供給物流を有機供給物流(ヘプタン中のオレイン酸/1−ブタノール)に取り替えた。10分間の平衡化の後、CINC中の反応を、三方弁2を用いて、水流を水性供給物流(リパーゼを含む水性緩衝液)に取り替えることによって始動させた。15分間にわたって、CINC反応器を、両方の供給物流に対して貫流させるように動作させた。この段階において、有機生成物および水性生成物の両方を取り出した。この段階の後、リサイクル緩衝槽(recycle buffer vessel)内の水性生成物流を収集するように三方弁3の向きを変えた。20mlの量がこの緩衝槽内で収集されたら、水性流の動作モードを、弁5を開きかつ弁4を閉じることによって、貫流からリサイクルモードに変更した。反応を6時間進行させた。ガスクロマトグラフィーを用いて有機流中のオレイン酸ブチルの濃度を測定することによってオレイン酸転化率を決定した。サンプル頻度は、最初の1時間における5分間、2時間目および3時間目の間の15分間、および残りの3時間について30分間であった。
【0073】
50分後に95%のオレイン酸の最大転化率が観察され、これは、残りの反応時間の間に、45%の転化率の一定値で横ばいになった。
【0074】
[実施例2]
この実施例では、有機相を、最大転化率が得られるまでリサイクルする。図3/5に示される設備を用いた。
【0075】
有機供給物溶液は、99.99g(0.35モル)のオレイン酸、34.71g(0.47ミリモル)の1−ブタノールおよび350mlのヘプタンからなっていた。
【0076】
水性の供給物は、82mlのリン酸緩衝液(pH=5.6)中の124mlのリパーゼ溶液からなっていた。
【0077】
CINC反応器に、純粋なヘプタンおよび純水を、両方とも6ml/分の流量で供給した。続いて、遠心分離器を始動させ(2380rpmに対応する40Hz)、設備を1時間の期間にわたって平衡化させた。この時点で、三方弁1を用いて、ヘプタン供給物流を有機供給物流(ヘプタン中のオレイン酸、1−ブタノール)に取り替えた。10分間の平衡化の後、CINC中の反応を、三方弁2を用いて、水流を水性供給物流(リパーゼを含む水性緩衝液)に取り替えることによって始動させた。15分間にわたって、CINC反応器を、両方の供給物流に対して貫流させるように動作させた。この段階において、有機生成物および水性生成物の両方を取り出した。この段階の後、水性リサイクル緩衝槽内の水性生成物流を収集するように三方弁3を切り替えた。20mlの量がこの緩衝槽内で収集されたら、水性流の動作モードを、弁5を開きかつ弁4を閉じることによって、貫流からリサイクルモードに変更した。
【0078】
同時に、有機リサイクル緩衝槽内の有機生成物流を収集するように三方弁8の向きを変えた。20mlの量がこの緩衝槽内で収集されたら、動作モードを、弁6を開きかつ弁7を閉じることによって、リサイクルモードに変更した。ポンプP3のための供給物を、三方弁9を用いることによって有機供給物溶液に設定した。(0.6ml/分の流量に設定された)ポンプP3およびP4を切り替えることによって、有機流の動作モードを、リサイクルモードから90%リサイクルを用いる部分リサイクルモードに変更した。反応を4時間進行させた。CINC反応器を出る有機流からサンプルを採取した。ガスクロマトグラフィーを用いて有機流中のオレイン酸ブチルの濃度を測定することによってオレイン酸転化率を決定した。サンプル頻度は、最初の1時間における5分間、2時間目および3時間目の間の15分間、および残りの時間について30分間であった。
【0079】
運転の約2時間後に得られる定常状態に達した後、88%オレイン酸の平均転化率を得た。
【0080】
[実施例3]
以下の反応を行った。
【化1】

【0081】
水相は、1mMのDTT、307mMのNaNO、および0.5mg/mlの精製されたハロアルコール脱ハロゲン酵素(HheC)を含有するpH6.5の0.2Mのリン酸緩衝液からなっていた。最終容積:200mL。
【0082】
有機相は、ヘプタン(容積2.5L)中の蒸留された1,2−エポキシブタンの24mM溶液であった。
【0083】
両方の相を、10ml/分の流量でCINC V−2に投入した。酵素溶液を15分間供給し、その後リサイクルした一方、有機相を実験の最初の4時間にわたって連続的に流し、その後再利用した。反応過程に続いて、水相および有機相からサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーによって分析した。結果を図4/5に示す。
【0084】
図5/5は、CINC実験の際のハロアルコール脱ハロゲン酵素の安定性を示す。
【0085】
これらの結果から、遠心式接触分離器で用いられる酵素が長期間にわたって高活性を維持できることが明らかである。
【0086】
[実施例4 ギ酸ブチルの加水分解の連続法]
実験の前に、NaOH溶液(23%重量)をNで10時間バブリングし、およびギ酸n−ブチル(nBF)を4時間バブリングした。実験の開始の1時間前に、CINC V−02(本発明者らは冷却系が設けられた特注の機械を用いた)を冷却する水の流れを1.1L/分に設定して、温度を監視した。反応剤を反応器に供給し始める前に、系の周囲全体を、真空引き(vacuum pulling)および窒素フラッシュを3回交互に行うことによって不活性化した。この系を窒素雰囲気下で運転した。
【0087】
エンジン(50Hz)および水性NaOH溶液を反応器に供給するポンプ(30mL/分)を始動させることによって、実験を開始した。純粋なnBFを供給する有機相ポンプ(30mL/分)を、反応器の水相流出口が流れを開始した後に始動させた。それぞれの流出口が流れを開始したらすぐに両方の相から2分毎にサンプルを採取した。有機相流出口が流れを開始した20分後に、ポンプおよびエンジンを止め、反応器を清浄化することによって実験を終了した。
【0088】
水相サンプルを、(CAT Ingenieurbuero M.Zipperer GmbH(独国シュタウフェン(Staufen,Germany))製のContiburette μ10およびBiochrom Ltd(英国ケンブリッジ(Cambridge,UK))製のC14 pH計測器(CMA(蘭国アムステルダム(Amsterdam,Netherlands))製のCoachlab IIソフトウェアおよびコンピュータインタフェースによって駆動される)を用いて)0.1Mの塩酸で滴定することによって分析した。有機相サンプルを、GC−FID(HP5カラムを備えたHP 5890シリーズIIプラス、注入温度は250℃およびカラム温度は60℃であった)によって分析した。
【0089】
定常状態の転化率を、8.4%で決定した。
【0090】
供給速度および温度を変更することによって、転化率を必要に応じて100%まで上げ得ることが明らかである。
【0091】
[実施例5.遠心式接触分離器におけるあり得る化学的触媒反応]
化学的触媒反応を以下のように行うことができる。触媒溶液は、400mlの水中の40gのNaWO・2HOおよび6.6gのHNCHPOから構成される。この溶液を閉ループで遠心式接触分離器を通して投入することができる。例えば30%のHといった酸化剤が、遠心式接触分離器に入る直前の水性流れに加えられる。有機流れは、1モル%の硫酸水素メチルトリ−n−オクチルアンモニウムを含有する1−オクテンなどのアルケンからなっていてもよい。オレフィンの反応性に応じて、有機溶液を、30〜90℃に予熱してもよい。完全な転化を達成するために、流量および回転速度を調節してもよい。しかし、より高い選択性を達成するために、より低い転化率で酸化反応を実施することが有利であり得る。遠心式接触分離器から流出する有機流を、第2の遠心式接触分離器において、飽和Na溶液によって洗浄して、微量の過酸化物を除去し得る。この後、エポキシドを、蒸留によって精製し、残りのオレフィンを遠心式接触分離器に送り戻してもよい。
【0092】
[実施例6.ラセミカルボン酸のエステルのあり得る酵素作用による速度論的分割]
以下に、遠心式接触分離器をラセミカルボン酸のエステルの酵素作用による速度論的分割に用いることができる実現可能な態様の説明を示す。45gのリパーゼ(例えばカンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)リパーゼ(CCL)、ブタ膵臓リパーゼ(PPL)、シュードモナス(Pseudomonas)SPリパーゼ(PSL)、カンジダ・アンタークチカ(Candida Antarctica)リパーゼA(CAL−A)、カンジダ・アンタークチカリパーゼB(CAL−B))を、500mlの50〜100mMのpH7.0のリン酸カリウム緩衝液(緩衝液1ml当たり50mgの乾燥重量)に添加することによって触媒溶液を調製する。この緩衝された懸濁液を閉ループで遠心式接触分離器を通して投入する。有機相は、ヘプタン(1:1v/v)に溶解された2−ヒドロキシ−4−フェニル酪酸エチルなどのエステルを含有していた。また、有機溶液を遠心式接触分離器に投入し、有機相を上部出口において収集する。温度、流量および酵素の濃度を調節することによって、正確に所望の転化率において(酵素のEファクターに応じて通例50〜60%)において反応を実施することが可能である。有機出口相は、転化されていないエステル、この場合、所望の生成物である(R)−2−ヒドロキシ酪酸エチルを含有する。水相は、他のエナンチオマー(S)−ヒドロキシ酪酸塩のカルボキシレートに富む。これを、必要に応じて膜分離を用いることによって連続的に単離することもできる。この場合には、酵素を含有する未透過物を遠心式接触分離器に送り戻す。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】遠心式接触分離装置の断面図を示す。 I.混合領域 II.分離領域 III.遠心式接触分離器
【図2】実施例1で用いられる実験設備を示す。 A.ヘプタン B.有機供給物溶液 C.逆浸透水 D.水性供給物溶液 E.水性廃棄物 F.CINC V−02遠心式接触分離器 G.有機生成物 H.リサイクル緩衝槽 1、2および3 三方弁 4および5 弁
【図3】実施例2で用いられる実験設備を示す。 A.ヘプタン B.有機供給物溶液 C.逆浸透水 D.水性供給物溶液 E.水性廃棄物 F.CINC V−02 遠心式接触分離器 G.有機生成物 H.リサイクル緩衝槽 K.有機リサイクル緩衝槽 1、2、3、8および9は二方弁である。 4、5、6および7は弁である。 P1およびP2はポンプである。
【図4】CINC V−20遠心式接触分離器における1,2−エポキシブタンの開環の際の有機相のガスクロマトグラフィー分析を示す。エポキシドの初期濃度は、(約22ミリモル/lにおける)横線で示されている。240分後、基質溶液をリサイクルした(点線状の縦線)。この図において以下の記号が用いられている。 ■:エポキシブタン、 ▲:ニトロブタノール、 ●:ブタンジオール。
【図5】遠心式接触分離器実験の際のハロアルコール脱ハロゲン酵素の安定性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の混和しない液体から形成される液−液エマルジョンにおいて非放射性反応を行うための遠心式接触分離器の使用。
【請求項2】
前記反応が、少なくとも2種の反応剤の間で行われる請求項1に記載の遠心式接触分離器の使用。
【請求項3】
前記反応が、触媒反応である請求項1または2に記載の遠心式接触分離器の使用。
【請求項4】
均一触媒が用いられる請求項3に記載の遠心式接触分離器の使用。
【請求項5】
前記均一触媒が酵素である請求項3に記載の遠心式接触分離器の使用。
【請求項6】
前記均一触媒が遷移金属触媒である請求項3に記載の遠心式接触分離器の使用。
【請求項7】
速度論的分割を行うための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遠心式接触分離器の使用。
【請求項8】
i)液相Aおよび液相Bを少なくとも1つの第1の遠心式接触分離器内に連続的に導入する工程であって、液相AおよびBは混和せず、かつ相Aおよび/または相Bは少なくとも1種の反応剤を含む工程と、
ii)相Aおよび相Bを混合し、それによって、エマルジョンを形成させる工程と、
iii)前記エマルジョンの相分離を可能にする遠心力を印加して、相A’およびB’が得られるようにする工程と、
iv)場合により、前記相A’およびB’のうちの少なくとも一方から反応生成物を回収する工程と
を含む、反応を行うための連続法。
【請求項9】
相Aがある反応剤を含み、相Bが異なる反応剤を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
触媒が存在する請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記エマルジョンの相分離後の前記触媒が、相A’または相B’のいずれかにおいて主に存在する請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記エマルジョンの相分離後に相A’およびB’に存在する触媒の総量の少なくとも90%が、相A’または相B’のいずれかに存在する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒を主に含む前記相が、相Aのための流入口を通って前記接触分離器内にリサイクルされる請求項11または12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−507629(P2009−507629A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530425(P2008−530425)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009012
【国際公開番号】WO2007/031332
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】