説明

遮水シート、遮水シートの製造方法、遮水構造、及び護岸

【課題】厚さに関する法律の要求を満たすことのできる少なくとも一方の面が粗面にされた遮水シートを製造するための技術を提供する。
【解決手段】上流ローラURに巻き付けられた素材遮水シート1の先端を引出し、下流ローラDRに巻き取らせる際に、スプレイ設備Sが備えるガンスプレイS1から素材遮水シート1の上側の面に、高温の溶融樹脂を霧状或いは線状にして散布する。素材遮水シート1の上側の面、溶融樹脂はともに熱可塑性樹脂であり、素材遮水シート1の上に散布された溶融樹脂は、硬化後素材遮水シート1の上側の面と一体となる。これにより、素材遮水シート1の厚さを減じることなく、素材遮水シート1の一方の面を粗面にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水シートの製造技術、遮水シート、及び遮水シートの応用に関する。
【背景技術】
【0002】
遮水シートの上に盛土を行った遮水構造が、例えば、海辺などの水際の護岸で用いられている。かかる護岸は、以前は山間部に構築されることの多かったものの用地の問題から海域に構築されることの多くなった廃棄物処分場に応用されることが多い。
上述の如き遮水構造を有する廃棄物処分場に応用される護岸は、典型的には以下のようなものとされる。
護岸は、まず、その基本となる、海底に置かれその上端が海面から突出したケーソンを有する。そのケーソンの周囲、特に後に廃棄物が捨てられる凹面となる側には、ケーソンの上端或いはその付近から海底へと向かう下り傾斜を有する法面を作るために、例えば多量の捨石が配される。捨石などで作られたその法面の上に、遮水シートが配され、遮水シートの上に載せた押さえ石の上から盛土が行われている。盛土は、廃棄物による破損から遮水シートを保護することをその主たる目的とするものでありそこが廃棄物を投棄するためのスペースとされている。遮水シートは、護岸外部の外海から海水が凹面に入り込むのを防ぎ、また、凹面に廃棄された廃棄物からの浸出水が護岸外部の外海へ流出するのを防ぐ。
遮水シートの上又は下、或いはその双方に遮水シートを保護するための例えば不織布で形成の保護マット等が配される場合、また、その保護マットの上又は下、或いはその双方に遮水シートの保護を更に完全なものにするための例えばコンクリート、モルタル、固化処理土、ベントナイト等の遮水材料や吸水ゴム等の水を吸うと膨潤して遮水性を呈する材料を袋に詰めて形成した保護材が配される場合もあるが、遮水構造を有する廃棄物処分場は、概ね上述の如き構造となる。
【0003】
遮水シートの上に行われる盛土は、遮水シートを保護するために必要なものではあるが、廃棄物が投棄されるスペースである凹面の容積を減少させるという負の面も持つ。したがって、盛土は、できる限りその厚みを抑えるのが好ましい。
しかしながら、特に海域に構築される廃棄物処分場の場合、上述の法面の角度が急になる場合が多い。このような廃棄物処分場では、盛土の遮水シートからの滑落を防止することが必要となるので、土の厚みは特に海底付近で大きくなる。別の言葉でいえば、盛土の表面の傾斜は、遮水シートが配される法面の傾斜よりも緩くなり、盛土の裾野部分は遮水シートの下端からかなり離れたところまで広がることになる。
遮水シートの上に保護マットが配される場合も同様である。一般に表面が平滑な遮水シートと当接する保護マットが遮水シートから滑落するのを防止するには、盛土の特に裾野部分の厚さを大きくする必要がある。
【0004】
上述のような事情により、従来の遮水構造では、盛土に、遮水シートの保護という本来の目的を達成するのに必要な厚さよりもより大きな厚さが必要とされる。これは、上述したように、廃棄物処分場の凹面の容積を減少させるため、好ましくはない。
このような不具合を解決すべく本願発明者は研究を重ね、遮水構造を構成する遮水シートの少なくとも一方の面を粗面にすることにより、かかる不具合を解消できるとの知見を得た。このような遮水シートの粗面とされた側の面を盛土、保護マット等と接触させた場合の粗面と盛土の間、或いは粗面と保護マットの間の摩擦係数は、遮水シートの両面が平滑な場合よりも大きくなり、したがって盛土や保護マットの滑落のおそれが小さくなるので、盛土の厚さを抑えられる。
【0005】
実際、そのような目的にも使用できる遮水シートが海外には存在する。その遮水シートは、以下のようなものである。
この遮水シートは、両面が平滑な樹脂製の遮水シートである。この遮水シートは、一旦両面を平滑な状態で製造した素材遮水シートの少なくとも一方の面に熱風を吹付け、その面を溶融させながら荒して製造される。この遮水シートの熱風を吹付けた側の面は、硬化後粗面となる。
このような遮水シートは、上述の如き廃棄物処分場に使用することができるものではあるが、少なくとも日本ではそれを妨げる理由がある。日本では、廃棄物処分場に使用する遮水シートの厚さについて法律で厳しい制限があり、遮水シートのすべての部分で一定以上の厚さを有していない遮水シートを廃棄物処分場に使用することは許されない、というのがその理由である。上述の如き遮水シートは、所定厚さの素材遮水シートの少なくとも一方の面の全面がランダムな位置で荒されており、元の厚さよりも厚さが大きな部分と小さな部分が混在しているので、法律が要求する一定以上の厚さがすべての部分で保たれていることを証明するのが難しい。特に、両面とも粗面にした遮水シートでは、それが顕著である。
もっとも、素材遮水シートの厚さに余裕を持たせておけば、法律で要求された厚さをすべての部分でその素材遮水シートが持つことを証明するのはそれほど難しくはないであろう。しかしながら、そのような手段を採用すると、最終的な遮水シートの厚さが大きくなってしまい、例えば柔軟性が落ちたり、また、ロールにして取扱われることの多い遮水シートの1ロールあたりの長さが短くなったりして、多くの不便が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、厚さに関する法律の要求を満たすことのできる少なくとも一方の面が粗面にされた遮水シートを製造するための技術を提供することと、その技術により製造された遮水シートの応用技術を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、少なくともその一方の面が樹脂により形成の平滑な樹脂面とされており、且つ遮水性を有する素材遮水シートを用いて、前記樹脂面の摩擦係数がより大きな遮水シートを製造する遮水シートの製造方法である。
この製造方法では、前記樹脂面に対し、溶融させた樹脂である溶融樹脂を、霧状、或いは線状にして吹付けることにより付着させ、前記樹脂面に付着させた前記溶融樹脂を硬化させて前記樹脂面と一体化させ、硬化させた前記溶融樹脂を付着させることにより前記樹脂面を粗面とし、それにより前記樹脂面の摩擦係数を増大させるようにする。
従来技術で述べた遮水シートの最終的な厚さは、その部位により、素材遮水シートの厚さよりも大きいところもあれば、小さいところもある。それに対し、本願の製造方法では、素材遮水シートに溶融樹脂を付着させることによって遮水シートを製造するので、遮水シートの最終的な厚さは、溶融樹脂が付着したところでは素材遮水シートの厚さよりも大きくなり、溶融樹脂が付着していないところでは素材遮水シートの厚さと同じとなる。つまり、本願の遮水シートの製造方法では、法律で求められる厚さ以上の素材遮水シートを用いれば、遮水シートの少なくとも一方の面である樹脂面を粗面にした遮水シートを製造できるだけでなく、製造された遮水シートの厚さがその遮水シートのすべての部分で法律の要求を満たすことを保証できるようになる。なお、このような遮水シートは、その厚さが不要なまでに厚くなることもない。
【0008】
素材遮水シートは、少なくともその一方の面が樹脂により形成の平滑な樹脂面とされていれば足りる。この発明で用いる素材遮水シートは、その全体が樹脂で製造されても構わないし、その一部が樹脂で製造されても構わない。例えば、樹脂以外の膜材の片面、或いは両面を樹脂でコーティングしたものを、本願における素材遮水シートとして用いることができる。なお、本願発明では、素材遮水シートの両面が樹脂面である場合には、両方の樹脂面を粗面とすることができる。
素材遮水シートは、遮水性を有するものである必要がある。遮水という言葉は、廃棄物処分場の業界では一般に、その透水係数が10−9cm/secのオーダー或いはそれ以下のオーダーであることを意味するが、本願発明では遮水という言葉にそれほど厳密な意味合いを与えず、水を通し難いといった程度の意味を与える。本願で用いる素材遮水シートの遮水性は、その透水係数が、10−4cm/secのオーダーまでを含むものとする。
【0009】
本願の遮水シートの製造方法では、前記樹脂面を形成する樹脂を熱可塑性樹脂とし、前記溶融樹脂となる樹脂を熱可塑性樹脂とすることができる。
溶融樹脂となる樹脂と、樹脂面を形成する樹脂の双方を熱可塑性樹脂とすることにより、硬化させた後の溶融樹脂と樹脂面とを良く一体化できるようになる。
【0010】
溶融樹脂を樹脂面に吹付ける際の条件は、適当に決定することができる。溶融樹脂の素材、溶融樹脂の温度、溶融樹脂の粘度、溶融樹脂を樹脂面に吹付ける際に溶融樹脂に加える圧力ないし初速、樹脂面の単位面積当たりに吹付ける溶融樹脂の量、溶融樹脂を樹脂面に吹付ける際に用いる器具(例えばノズル)、溶融樹脂を樹脂面に吹付ける際にノズルを用いる場合におけるその形状、溶融樹脂を樹脂面に吹付ける際にノズルを用いる場合におけるノズルから樹脂面までの距離等は、樹脂面に形成される粗面をどのようなものにしたいかという事情により、適当に選択することができる。
前記樹脂面に前記溶融樹脂を吹付ける際の条件は、粗面とされた前記樹脂面の上に土砂、不織布、織布を載置した場合の摩擦係数が、0.4以上となるような条件とすることができる。(なお、この摩擦係数は、本願においては、前記樹脂面の上に載せることが予定された載置物との関係において決定されるものであり、必ずしも土砂、不織布、織布との関係で決定されるものではない。)その程度の摩擦係数があれば、この遮水シートを廃棄物処分場に用いた場合において必要となる盛土の量を減らすことができる。例えば、粗面とされた前記樹脂面の上に上述の如き載置物を載置した場合の摩擦係数は、0.4〜0.6程度となるような条件で樹脂面に溶融樹脂を吹付けることができる。
【0011】
本願における遮水シートの製造方法では、ロールにした長尺の前記素材遮水シートをその先端側から巻き解くとともにその先端側から巻き取って再びロールにし、2つの前記ロールの間で移動する前記素材遮水シートの前記樹脂面に前記溶融樹脂を吹付けるようにしてもよい。この製造方法では、従来方法で一旦製造した素材遮水シートに溶融樹脂を吹付ける。この製造方法は、遮水シートが樹脂の一体ものでなくとも使用できるという利点がある。
本願における遮水シートの製造方法では、素材遮水シートを押出し口からの押出しによる押出し成型により長尺に成型するとともにその先端側から巻き取ってロールにし、前記押出し口から前記ロールに向かって移動する前記素材遮水シートの前記樹脂面に前記溶融樹脂を吹付けるようにしてもよい。この製造方法は、素材遮水シートの製造から遮水シートの製造までを一貫して行うことができるという利点がある。素材遮水シートへの溶融樹脂の吹付けは、押出し口から押出された素材遮水シートから荒熱が取れた状態で行うのがよい。例えば、溶融樹脂の吹付けられる部分の素材遮水シートの樹脂面の温度は、20℃〜30℃、或いはその内外程度とするのがよい。
なお、上述の2つの方法のいずれの場合でも、素材遮水シートへの溶融樹脂の吹付けは、素材遮水シートの両面に対して行うことができる。また、上述の2つの方法のいずれの場合でも、素材遮水シートへの溶融樹脂の吹付けを素材遮水シートの片面のみに行った後に再度上述の2つの方法のうちの前者を素材遮水シートの溶融樹脂の吹付けの行われていない面に対して行うことにより、遮水シートの両面を粗面にするようにすることができる。
【0012】
本願は、ここまでに説明した遮水シートの製造方法で製造することができる遮水シートをも提案する。
例えば、本願は、少なくともその一方の面が樹脂により形成の平滑な樹脂面とされており、且つ遮水性を有する素材遮水シートと、溶融させた樹脂である溶融樹脂であり、前記樹脂面に対して、霧状、或いは線状にして吹付けて付着させられ、その後硬化させられたことにより前記樹脂面に対して一体化させられたものと、を有する遮水シートを提案する。
この遮水シートは、少なくとも一方の面である樹脂面が粗面になっているのみならず、その厚さがその遮水シートのすべての部分で法律の要求を満たすことを保証できるものになる。なお、このような遮水シートは、その厚さが不要なまでに厚くなっているということもない。
【0013】
本願発明は、法面に前記樹脂面が表側となるような状態で配された遮水シートと、その遮水シートの樹脂面の上に配された盛土と、を含んでなる、遮水構造を提案する。この遮水構造に用いられる遮水シートは、ここまでに説明した製造方法で製造した遮水シート、又は上述の遮水シートである。
この遮水構造は、例えば、廃棄物処分場に設けられたものとすることができる。この遮水構造は、廃棄物処分場の凹面の例えば全面を覆うものとすることができる。廃棄物処分場は、海域に設けられるものとすることができるが、従来型の山間部や郊外等の陸地に設けられるものであってもよい。遮水構造が海域の廃棄物処分場に設けられる場合には、遮水構造の設けられる構造物は、水際に設けられた護岸と捉えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら説明する。
この実施形態では、遮水シートの製造方法について説明を行い、更にその遮水シートを応用した遮水構造を備えた廃棄物処分場について説明を行う。遮水シートの製造方法は、この実施形態では2種類ある。それらを、製造方法1、製造方法2としてまず説明する。
【0015】
<製造方法1>
製造方法1では、素材遮水シートに以下に説明するような処理を行って遮水シートを製造する。素材遮水シートは、一般に遮水シートと呼ばれるものである。
【0016】
製造方法1で用いる素材遮水シートは、シート状に形成されており、遮水性を備えている。この素材遮水シートは、また、必ずしも必要ではないが、一定の通気性をも兼ね備えている。素材遮水シートは、少なくともその一方の表面が樹脂、より詳細には熱可塑性樹脂でできている必要がある。この実施形態の素材遮水シートは、その両面が熱可塑性樹脂でできている。素材遮水シートはその全体が樹脂の一体物とされていても構わないが、この実施形態では、図1に示したような3層構造となっている。
素材遮水シート1は、中心層1Aを備えており、その両面を被覆層1Bで被覆した構造とされている。
中心層1Aは、ポリエチレン製の繊維を高密度に圧縮してなる不織布である。中心層1Aは、素材遮水シート1に遮水性と適度な通気性を与えるという機能を有する。
被覆層1Bは、ポリプロピレン製の繊維を高密度に圧縮してなる不織布であり、中心層1Aと一体とされている。被覆層1Bは、中心層1Aを保護することをその主な役割とする。
この素材遮水シート1の透水係数は、10−4cm/sec〜10−9cm/secのオーダーとなるようにされている。もっとも、素材遮水シート1の透水係数は、上述の値よりも小さくてもよい。例えば、その透水係数は、10−12cm/secのオーダーであってもよい。素材遮水シート1が備える通気性は、この実施形態では、220m/m/24hから1800m/m/24h程度とされている。上述の素材遮水シート1としては、例えば、通気・防水シートキャッピング工法研究会が平成15年4月に作成した技術資料である「ガス通気・雨水制御シート キャッピングシステム」に記載のアペックシートや、GLCシートを用いることができる。
【0017】
次に、上述のような素材遮水シート1を用いて遮水シートを製造するための設備と方法を説明する。
この実施形態では、素材遮水シート1は、長尺である。素材遮水シート1は、まず、図2の右側に示したように、上流ローラURに巻き付けてロール状にされる。ロール状にされた素材遮水シート1は、上流ローラURの回転に伴って巻き解かれるようになっている。素材遮水シート1の先端は、下流ローラDRに接続されている。素材遮水シート1は、下流ローラDRの回転に伴ってその先端側から巻き取られるようになっている。
つまり、素材遮水シート1は、当初は上流ローラURに巻き取られているが、上流ローラURと下流ローラDRの回転に伴って、下流ローラDRに巻き取られていくようになっている。
素材遮水シート1は、この実施形態では、上流ローラURと下流ローラDRの間では、水平ないし略水平を保ちつつ、上流ローラURから下流ローラDRに向けて移動するようになっている。なお、後述する製造方法2の場合も同様であるが、製造方法1を実行するための設備には、素材遮水シート1を移動させるための力を素材遮水シート1に加える機能や、素材遮水シート1を支持する機能を有する他のローラが設けられるのが通常であるが、これらについての図示、説明は、汎用技術であるため省略する。
上流ローラURと下流ローラDRの間には、スプレイ設備Sが設けられている。スプレイ設備Sは、ガンノズルS1、溶融樹脂フィーダS2、及びガンノズルS1と溶融樹脂フィーダS2を接続するパイプS3により構成されている。
溶融樹脂フィーダS2は、固形の樹脂を溶融させて生成した溶融樹脂を、パイプS3を介してガンノズルS1に送るものである。溶融樹脂フィーダS2は、樹脂を溶融させるため、例えば外部から加熱できるようになっている。溶融樹脂となる樹脂は、熱可塑性樹脂である。溶融樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン等とすることができるが、この実施形態ではポリエチレンとされている。パイプS3は、溶融した樹脂の熱に耐えうる素材により管状に形成されている。ガンノズルS1は、溶融樹脂フィーダS2からパイプS3を介して所定の圧力で送られて来た溶融樹脂をその先端から吹出すものとされている。溶融樹脂は、ガンノズルS1の先端に設けられた図示せぬ孔から、霧状乃至線状で吹き出すようにされている。この実施形態では、ガンノズルS1は、水平ないし略水平を保ちつつ上流ローラURから下流ローラDRに向けて移動する素材遮水シート1の上側に位置するように設けられており、ガンノズルS1から吹出された溶融樹脂は、素材遮水シート1の上側の面に吹付けられる。
なお、図2では、一つしか図示されていないが、ガンノズルS1は複数あっても構わない。例えば、素材遮水シート1の幅方向に適当な間隔を空けて複数のガンノズルS1を配置することにより、素材遮水シート1の幅方向の全体に満遍なく溶融樹脂を吹付けられるようになる。また、ガンノズルS1は、素材遮水シート1に対して平行な方向、例えば素材遮水シート1の幅方向に移動可能としてもよい。この場合には、ガンノズルS1の数を減らしても、素材遮水シート1の幅方向の全体に満遍なく溶融樹脂を吹付けるのが容易になる。なお、このようにガンノズルS1を可動とした場合には、ガンノズルS1に接続されたパイプS3は、ガンノズルS1の移動に追随するように曲折可能として、例えば柔軟性を有する素材にて構成される。
【0018】
製造方法1では、上流ローラURと下流ローラDRの間で、水平ないし略水平を保ちつつ移動する素材遮水シート1の上側の面の全面に対してガンノズルS1から溶融樹脂を吹付け(素材遮水シート1の上側の面のすべての面に隙間なく溶融樹脂が付着するように溶融樹脂を吹付けるという意味ではない)、素材遮水シート1の上側の面に、溶融樹脂を付着させる。
高温の溶融樹脂は、素材遮水シート1の上側の面の一部を一旦溶融させた後硬化し、素材遮水シート1の上側の面と一体化する。溶融樹脂が硬化すると、素材遮水シート1の上側の面の大半からは素材遮水シート1が露出しているがその一部に、筋状、或いは散点状に素材遮水シート1から盛り上がった状態で溶融樹脂が一体化した状態となる。このようにして、素材遮水シート1の上側の面が粗面となる。この実施形態では、素材遮水シート1の粗面とした面に載置した載置物(この実施形態では、必ずしもその限りではないが不織布である。)との関係で決定される摩擦係数が0.4以上、より詳細には0.4〜0.6程度の範囲に収まるようにする。
なお、溶融樹脂は、素材遮水シート1が下流ローラDRに巻き取られる前に硬化するのが望ましい。それを可能にするには、例えば、素材遮水シート1に溶融樹脂を吹付けるガンノズルS1の位置を下流ローラDRから離せばよい。
【0019】
素材遮水シート1の粗面とした面に載置物(この場合の載置物も、この限りではないが不織布である。)を載置した場合の両者の間の摩擦係数を0.40〜0.60程度とするのに適した条件を以下に示す。
なお、この実施形態で用いたガンノズルS1は、ノードソン株式会社製のAD31システム16FTである。
[表1]
吹付ける樹脂の温度 :140℃〜160℃
吹付け圧力 :20〜30kgf/cm
ガンノズル部の温度 :130℃〜140℃
ノズルと遮水シート距離 :10cm〜30cm
溶融樹脂の単位面積あたりの量:30〜40g/m
【0020】
一例として、素材遮水シート1の粗面とした面に載置物としての不織布を載置した場合の両者の間の摩擦係数を0.45とするのに適した条件を以下に示す。
このような条件で素材遮水シート1の一方の面を粗面にしたところ、素材遮水シート1の粗面には、網目状となって素材遮水シート1に一体化している溶融樹脂と、粒状の突起となって素材遮水シート1に一体化している200個/100cm程度の溶融樹脂が観察された。
[表2]
吹付ける樹脂の温度 :150℃
吹付け圧力 :26kgf/cm
ガンノズル部の温度 :135℃
ノズルと遮水シート距離 :20cm
溶融樹脂の単位面積あたりの量:30〜40g/m
【0021】
また、他の例として、素材遮水シート1の粗面とした面に載置物としての不織布を載置した場合の両者の間の摩擦係数を0.60とするのに適した条件を以下に示す。
このような条件で素材遮水シート1の一方の面を粗面にしたところ、素材遮水シート1の粗面には、網目状となって素材遮水シート1に一体化している溶融樹脂と、粒状の突起となって素材遮水シート1に一体化している250個/100cm程度の溶融樹脂が観察された。
[表3]
吹付ける樹脂の温度 :150℃
吹付け圧力 :26kgf/cm
ガンノズル部の温度 :140℃
ノズルと遮水シート距離 :20cm
溶融樹脂の単位面積あたりの量:45〜55g/m
【0022】
製造方法1では、以上のようにして素材遮水シート1から一方の面が粗面とされた遮水シートを製造した。
なお、素材遮水シート1の両面を粗面にすることも可能である。
その場合には、例えば、上述した如きガンノズルS1を素材遮水シート1の上面側だけでなく下面側にも配し、移動する素材遮水シート1の上面側と下面側の双方から素材遮水シート1に溶融樹脂を吹付けるようにすればよい。
或いは、製造方法1によって片面のみが粗面にされた素材遮水シート1のロールを上述した上流ローラURに配し、もう一度製造方法1を繰り返すことにより、素材遮水シート1の両面を粗面にすることができる。なお、この場合には、上流ローラURから下流ローラDRに向かって移動する素材遮水シート1の上側の面が粗面でない側の面になるようにする。
【0023】
<製造方法2>
製造方法2では、素材遮水シートの製造から、遮水シートの製造までを一貫した工程で行う。
【0024】
製造方法2により遮水シートを製造するための設備と方法を説明する。
製造方法2を実行する設備には、素材遮水シートを製造する素材遮水シート製造装置Mを含んでいる。素材遮水シート製造装置Mは、汎用的な遮水シート製造装置でよい。素材遮水シート製造装置Mは、この実施形態では、溶融させた樹脂の押出しにより素材遮水シートを生成する。素材遮水シート製造装置Mは、原料となる熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン)を高温で軟化させて供給する図示を省略の供給装置と、供給されたその樹脂を成型する直線状のリップを持つ金型(一般的にはTダイである。)M1とを備えている。直線状の金型M1から押出された樹脂は長尺のシート状となり、それが素材遮水シート1となる。
製造方法2を実行する設備には、製造方法1の場合と同様の下流ローラDRが設けられている。下流ローラDRは、素材遮水シート1の先端と接続され、素材遮水シート製造装置Mで連続して製造される素材遮水シート1を、順次巻き取るようになっている。製造方法2では、素材遮水シート製造装置Mから下流ローラDRに向かって移動する素材遮水シート1は、水平ないし略水平を保つようになっている。
素材遮水シート製造装置Mと下流ローラDRの間には、製造方法1の場合に説明したのと同様に構成されたスプレイ設備Sが設けられている。スプレイ設備Sが、ガンノズルS1、溶融樹脂フィーダS2、及びガンノズルS1と溶融樹脂フィーダS2を接続するパイプS3により構成されていることは上述した通りである。なお、製造方法2の場合でも、素材遮水シート1が下流ローラDRに巻き取られる前に溶融樹脂が硬化するようにするのが望ましく、それを可能とするために例えばスプレイ設備Sを下流ローラDRから離せばよいというのも上述の通りである。
【0025】
製造方法2では、素材遮水シート製造装置Mと下流ローラDRの間で、水平ないし略水平を保ちつつ移動する素材遮水シート1の上側の面の全面に対してガンノズルS1から溶融樹脂を吹付け、素材遮水シート1の上側の面に、溶融樹脂を付着させる。このときのガンノズルS1、溶融樹脂等に与えられる条件は、製造方法1の場合と同様とすることができる。
なお、素材遮水シート製造装置Mから出てきた素材遮水シート1はある程度高温であるが、製造方法2で用いられるガンノズルS1は、荒熱が取れた状態の素材遮水シート1に溶融樹脂を吹付けられるような位置に設けておくのがよい。素材遮水シート製造装置Mから出てくる素材遮水シート1は、一般的にその温度が160℃程度であるが、それが20〜30℃程度まで下がってから溶融樹脂を吹付けるようにするのがよい。
吹付けられた溶融樹脂が硬化してその上側の面と一体化させられた素材遮水シート1は、製造方法1の場合と同様の理由により、その上側の面が粗面となる。その上側の面が粗面となった素材遮水シート1は、下流ローラDRに巻き取られ、遮水シートの完成となる。
【0026】
製造方法2で製造される遮水シートは片面のみが粗面とされるが、片面のみが粗面にされた遮水シートのロールを製造方法1における上流ローラURに配し、製造方法1の方法を実行することにより、遮水シートの両面を粗面にすることができる。この場合には、上流ローラURから下流ローラDRに向かって移動する素材遮水シート1の上側の面が粗面でない側の面になるようにする。
【0027】
<廃棄物処分場>
上述した製造方法1又は製造方法2を用いて製造した、少なくとも片面が粗面とされた遮水シートを応用して作られる廃棄物処分場について、図4、図5を用いて説明する。
【0028】
この実施形態における廃棄物処分場は、海域に作られる。
廃棄物処分場は、基礎捨石10の上に配置されたケーソン20を有する。ケーソン20は中空とされており、基礎捨石10の上に配された後、その中に例えば砂を詰めることにより波浪に耐えうる重量が与えられる。廃棄物処分場のケーソン20から見て内側(図4における右側)が、廃棄物処分場の凹面となり、そこに廃棄物が投棄されることになる。ケーソン20の上端は、海面Kから適当な高さで露出するようにされ、多少の波浪が生じても、ケーソン20を超えて凹面に海水が入り込まないようにされている。
なお、廃棄物処分場は、その外周の全体をケーソン20で囲まれていてもよいが、外周の一部のみをケーソン20で囲み、図4に示したような構造としてもよい。
廃棄物処分場のケーソン20から見て内側には、捨石30が配されている。捨石30は、ケーソン20が配された後に配される。捨石30は、ケーソン20の上端から海底にまで続く下り傾斜を有する法面をその上側の面により作る。
その法面の上に、遮水構造40が作られる。
【0029】
遮水構造40は、図5の断面図に示したようにこの実施形態では5層構造とされている。遮水構造40は、下から保護材41、保護マット42、遮水シート43(製造方法1又は製造方法2を用いて製造されたもの)、保護マット44、保護材45を順に積層することにより捨石30によって形成された上述の法面の上に構成される。
なお、これらの中で必須なのは遮水シート43のみである。保護材41、保護マット42、保護マット44、保護材45は、必要に応じて設ければよい。
また、この実施形態における遮水構造40の下端は、必ずしもそうする必要はないが、法面の下端を超えて海底に掛かるようになっている。
遮水シート43は、遮水性と適度な通気性を有する。遮水性は、隣り合うケーソン20の繋ぎ目や、ケーソン20の下の基礎捨石10の隙間を通って捨石30に浸入してきた海水の凹面への浸入を防ぎ、また、凹面に投棄された廃棄物から生じる浸出水の凹面からの流出を防ぐために必要とされる。適度な通気性は、何らかの事情により捨石30内に入り込んだ空気を凹面内の空間に排出することで、捨石30の崩れを防止したり、遮水シート43破損の原因ともなり得る遮水シート43の浮き上がりを防止したりするために有用である。
保護材41、45、保護マット42、44はともに、遮水シート43を保護する機能を有する。保護材41、45は、例えば、コンクリート、モルタル、固化処理土、ベントナイト等の遮水材料や吸水ゴム等の水を吸うと膨潤して遮水性を呈する材料を詰めてなるものにより構成される。保護マット42、44は、例えば、織布又は不織布により構成されている。
【0030】
遮水構造40の上には、土を盛ることによって作られた盛土50が設けられている。なお、盛土50を作る前に、遮水構造40のずれを防止するための押さえ捨石を遮水構造40の上に適当に配し、その上に盛土50を作るようにしてもよい。
盛土50を作った後、凹面内の海水を抜き、廃棄物処分場は完成する。
【0031】
なお、この実施形態の廃棄物処分場では、必ずしも必要はないが、ケーソン20の下端から凹面の内側に向かって基礎捨石10の上を延びる第2遮水構造60が設けられている。この第2遮水構造60は、遮水構造40と同様の5層構造となっている。第2遮水構造60の機能は概ね遮水構造40と同じであり、遮水構造40の機能を補完するものとなっている。
このような第2遮水構造60を配する場合には、ケーソン20を基礎捨石10の上に配した後、捨石30を配する前に配すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の製造方法1で使用する素材遮水シートの構成を示す断面図。
【図2】本発明の製造方法1で使用する設備を概略的に示す図。
【図3】本発明の製造方法2で使用する設備を概略的に示す図。
【図4】本発明の実施形態による廃棄物処分場の構成を示す一部断面図。
【図5】図4に示した廃棄物処分場の遮水構造の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 素材遮水シート
10 基礎捨石
20 ケーソン
30 捨石
40 遮水構造
41 保護材
42 保護マット
43 遮水シート
44 保護マット
45 保護材
50 盛土
60 第2遮水構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともその一方の面が樹脂により形成の平滑な樹脂面とされており、且つ遮水性を有する素材遮水シートを用いて、前記樹脂面の摩擦係数がより大きな遮水シートを製造する遮水シートの製造方法であって、
前記樹脂面に対し、溶融させた樹脂である溶融樹脂を、霧状、或いは線状にして吹付けることにより付着させ、
前記樹脂面に付着させた前記溶融樹脂を硬化させて前記樹脂面と一体化させ、
硬化させた前記溶融樹脂を付着させることにより前記樹脂面を粗面とし、それにより前記樹脂面の摩擦係数を増大させるようにした、
遮水シートの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂面を形成する樹脂を熱可塑性樹脂とし、
前記溶融樹脂となる樹脂を熱可塑性樹脂とする、
請求項1記載の遮水シートの製造方法。
【請求項3】
粗面とされた前記樹脂面の上に載せることが予定された土砂、不織布、織布その他の載置物に対する摩擦係数が、0.4以上となるような条件で前記樹脂面に前記溶融樹脂を吹付ける、
請求項1又は2記載の遮水シートの製造方法。
【請求項4】
ロールにした長尺の前記素材遮水シートをその先端側から巻き解くとともにその先端側から巻き取って再びロールにし、
2つの前記ロールの間で移動する前記素材遮水シートの前記樹脂面に前記溶融樹脂を吹付ける、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の遮水シートの製造方法。
【請求項5】
素材遮水シートを押出し口からの押出しによる押出し成型により長尺に成型するとともにその先端側から巻き取ってロールにし、
前記押出し口から前記ロールに向かって移動する前記素材遮水シートの前記樹脂面に前記溶融樹脂を吹付ける、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の遮水シートの製造方法。
【請求項6】
少なくともその一方の面が樹脂により形成の平滑な樹脂面とされており、且つ遮水性を有する素材遮水シートと、
溶融させた樹脂である溶融樹脂であり、前記樹脂面に対して、霧状、或いは線状にして吹付けて付着させられ、その後硬化させられたことにより前記樹脂面に対して一体化させられたものと、
を有する遮水シート。
【請求項7】
法面に前記樹脂面が表側となるような状態で配された、請求項1〜5のいずれかの製造方法で製造された遮水シート、又は請求項6記載の遮水シートと、
前記樹脂面の上に配された盛土と、
を含んでなる、遮水構造。
【請求項8】
水際に設けられ、且つ請求項7記載の前記遮水構造を有する、
護岸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−265036(P2008−265036A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107644(P2007−107644)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】