説明

遺伝子導入剤及びその製造方法並びに核酸複合体

【課題】血清タンパクの吸着が抑制される遺伝子導入剤を提供する。
【解決手段】芳香環を核とし、それから放射状に伸延したカチオン性の複数の分岐鎖を有する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、複数の該カチオン性分岐型重合体同士が非イオン性架橋鎖を介して架橋した架橋ポリマーよりなることを特徴とする遺伝子導入剤。非イオン性架橋鎖は、非イオン性分岐鎖を有した分岐型重合体であってもよい。この遺伝子導入剤は、その構造上の利点により、DNAなどの核酸を高密度に凝縮することができる。すなわち、この遺伝子導入剤は、カチオン性分岐型重合体が複数個架橋したものであるため、1個のカチオン性分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤に比べてDNAなどの核酸をより広いネットワークで包蔵することができ、優れた遺伝子導入活性を示すようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤及びその製造方法に係り、特にカチオン性分岐型重合体を有する遺伝子導入剤及びその製造方法に関する。本発明はまた、この遺伝子導入剤を用いた核酸複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。
【0003】
本出願人らは、合成高分子ベクターとして、ベンゼンなどの芳香環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターが、DNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを知見し、先に特許出願した(下記特許文献1,2)。この複合体微粒子が細胞膜を透過するメカニズムとしては、カチオン性ポリマー鎖による陽電荷が細胞膜表面の陰電荷と静電的に結合し、エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる作用に大きく依存していると考えられる。
【特許文献1】WO2004/092388号公報
【特許文献2】特開2007−70579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、核酸複合体微粒子への血清タンパクの吸着が抑制される遺伝子導入剤及びその製造方法と、この遺伝子導入剤を用いて核酸複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤は、芳香環を核とし、それから放射状に伸延した複数のカチオン性の分岐鎖を有するカチオン性分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、複数の該カチオン性分岐型重合体同士が非イオン性架橋鎖を介して架橋した架橋ポリマーよりなることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、前記カチオン性分岐型重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにカチオン性ビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項2において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項2又は3において、カチオン性ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、4−N,N−ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項5の遺伝子導入剤は、請求項2ないし4のいずれか1項において、該分岐鎖はカチオン性ビニル系モノマーのホモポリマーよりなることを特徴とするものである。
【0010】
請求項6の遺伝子導入剤は、請求項2ないし4のいずれか1項において、前記分岐鎖は、前記カチオン性ビニル系モノマーと、異なるモノマーとのランダム又はブロック共重合体であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項1ないし6のいずれか1項において、該非イオン性架橋鎖は、N,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種の重合体よりなる部分を有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項8の遺伝子導入剤は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記架橋鎖は、芳香環を核とし、それから放射状に伸延した非イオン性の複数の分岐鎖を有する非イオン性分岐型重合体であり、この非イオン性分岐鎖が前記カチオン性分岐鎖に結合していることを特徴とするものである。
【0013】
請求項9の遺伝子導入剤は、請求項8において、前記非イオン性分岐型重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにN,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種を光照射リビング重合させたものであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項10の遺伝子導入剤は、請求項9において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とするものである。
【0015】
本発明(請求項11)の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、前記カチオン性分岐型重合体と架橋用化合物とを反応させて、複数のカチオン性分岐型重合体同士が非イオン性架橋鎖を介して架橋してなる前記架橋ポリマーを生成させる架橋工程と、該架橋工程で得られた架橋反応生成物を酸及び極性溶媒と混合した後固液分離する第1の精製工程と、該第1の精製工程で固形分を分離して得られた液相を濃縮した後、非極性溶媒と混合し、混合液を固液分離する第2の精製工程とを有し、該第2の精製工程で得られた固形分を目的物として回収することを特徴とするものである。
【0016】
本発明(請求項12)の核酸複合体は、請求項1ないし10のいずれか1項の遺伝子導入剤と核酸との複合体よりなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明(請求項13)の核酸複合体は、請求項11に記載の遺伝子導入剤の製造方法で製造された遺伝子導入剤と核酸との複合体よりなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の遺伝子導入剤は、ベンゼンなどの芳香環を核としてカチオン性分岐鎖が放射状に伸延するカチオン性分岐型重合体同士を非イオン性架橋鎖を介して架橋させた架橋ポリマーよりなる合成高分子ベクターである。この遺伝子導入剤は、その構造上の利点により、DNAなどの核酸を高密度に凝縮することができる。すなわち、この遺伝子導入剤は、カチオン性分岐型重合体が複数個架橋したものであるため、1個のカチオン性分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤に比べてDNAなどの核酸をより広いネットワークで包蔵することができ、優れた遺伝子導入活性を示すようになる。
【0019】
また、本発明では、このカチオン性分岐型重合体同士を架橋する架橋鎖が非イオン性である。この遺伝子導入剤と核酸とを複合させた核酸複合体微粒子の粒子外周面にこの非イオン性架橋鎖が存在することにより、核酸複合体微粒子への血清タンパクの吸着が抑制される。
【0020】
なお、カチオン性分岐型重合体同士を架橋する非イオン性架橋鎖のカチオン性分岐鎖への結合位置は分岐鎖の中間でも末端でも良く、また、カチオン性分岐鎖を構成する主鎖、側鎖、主鎖末端のいずれでも良い。
【0021】
前記カチオン性分岐型重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましい(請求項2)。
【0022】
このN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合しているものが好ましい(請求項3)。
【0023】
このビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、4−N,N−ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンからなる群から選択される1種以上が好ましい(請求項4)。
【0024】
本発明では、カチオン性分岐鎖は、カチオン性ビニル系モノマーのホモポリマーであってもよく、2種以上のモノマーのランダム又はブロック共重合体であってもよい(請求項5,6)。
【0025】
なお、上記のN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のブロックは、温度感応性を有しており、所定温度よりも低い温度では親水性であり、水溶性であるため、遺伝子導入剤を水に溶解させて核酸と複合させることができ、この遺伝子導入剤は、所定温度よりも高い温度になると疎水性となる。
【0026】
カチオン性分岐型重合体同士を架橋する非イオン性架橋鎖は、N,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドなどの重合体部分を有することが好ましい(請求項7)。
【0027】
非イオン性架橋鎖は、芳香環を核とし、それから放射状に伸延した非イオン性の複数の分岐鎖を有する非イオン性分岐型重合体であり、この非イオン性分岐鎖が前記カチオン性分岐鎖に結合していることが好ましい(請求項8)。
【0028】
この非イオン性分岐型重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにN,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドの少なくとも1種を光照射リビング重合させたものが好ましい(請求項9,10)。
【0029】
本発明の遺伝子導入剤を構成する架橋ポリマーは、複数の該カチオン性分岐型重合体同士を非イオン性架橋鎖で架橋させて製造されるが、この架橋工程で得られる反応生成物中には、目的物である、カチオン性分岐型重合体を非イオン性架橋鎖を介して架橋させてなる種々の分子量(カチオン性分岐型重合体と非イオン性架橋鎖とが種々の割合で含まれる)の架橋ポリマーの他に、未反応カチオン性分岐型重合体、カチオン性分岐型重合体同士が直接架橋した架橋体、非イオン性架橋鎖導入のための非イオン性化合物(本発明においては、「架橋用化合物」と称す。)同士が直接架橋した架橋体、更には未反応架橋用化合物が含まれている。
【0030】
前述の如く、本発明の遺伝子導入剤では、カチオン性分岐型重合体同士を非イオン性架橋鎖で架橋したことにより、この遺伝子導入剤と核酸とを複合させた核酸複合体微粒子の粒子外周面に、この非イオン性架橋鎖が存在するものとなり、これにより核酸複合体微粒子への血清タンパクの吸着が抑制される(以下、この作用を「非イオン性架橋鎖による遮蔽効果」と称す。)が、カチオン性分岐型重合体と架橋用化合物との架橋反応で得られた架橋反応生成物中に、目的とする架橋ポリマー以外のカチオン性分岐型重合体同士の架橋体や架橋用化合物同士の架橋体が存在すると、これらは、その未反応物も含めて、各々以下のように、本発明の遺伝子導入剤としての目的を達成し得ず、従って、このような不純物成分を含む架橋反応生成物を遺伝子導入剤として用いることは、遺伝子導入効率の面で好ましくない。
【0031】
(1) 非イオン性架橋鎖のないカチオン性分岐型重合体同士の架橋体では、上述の非イオン性架橋鎖による遮蔽効果は得られず、核酸複合体微粒子への血清タンパクの吸着を抑制することができない。
(2) 架橋用化合物同士の架橋体は、遺伝子導入剤としての機能を有さず、むしろ、その界面活性作用で細胞に対して何らかの好ましくない影響を及ぼす可能性がある。
【0032】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法では、このような不純物を含む架橋反応生成物から、第1の精製工程でカチオン性分岐型重合体同士の架橋体や未反応カチオン性分岐型重合体を除去し、更に第2の精製工程で、架橋用化合物同士の架橋体や未反応架橋用化合物と目的とする架橋ポリマーとを分離することにより、目的物である複数のカチオン性分岐型重合体同士が非イオン性架橋鎖を介して架橋された架橋ポリマー、即ち、遺伝子導入活性に優れた架橋ポリマーのみを効率的に分離回収して、遺伝子導入剤として用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明の遺伝子導入剤及び製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
[カチオン性分岐型重合体の製造]
本発明の遺伝子導入剤は、芳香環から放射状に伸延した複数のカチオン性分岐鎖を有したカチオン性スター形分岐型重合体(以下「カチオン性スター形ポリマー」と称す場合がある。)を非イオン性架橋鎖を介して連結した架橋ポリマー(以下「マルチスター形ポリマー」と称す場合がある。)よりなる。
【0035】
このカチオン性スター形分岐型重合体としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基等のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにカチオン性ビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体が好適である。
【0036】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0037】
イニファターとなるN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基等のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基等のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0038】
なお、以下においては、イニファターとして上述のような分岐鎖を有するものを用いて光照射リビング重合を行う場合を例示して、本発明を説明するが、本発明は何らこの方法に限定されるものではない。
【0039】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化炭化水素が好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン、中でも特にトルエンが好適である。
【0040】
このイニファターに重合させるカチオン性ビニル系モノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、4−N,N−ジメチルアミノスチレン及び4−アミノスチレン等、特に、耐加水分解性に優れることから、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。カチオン性ビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
イニファターと上記カチオン性ビニル系モノマーとを反応させるには、イニファター及びカチオン性ビニル系モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しカチオン性ビニル系モノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0042】
該原料溶液中のカチオン性ビニル系モノマーの濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適である。また、イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0043】
照射する光の波長は300〜400nmが好適であり、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0044】
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。この場合、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記カチオン性ビニル系モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のカチオン性ビニル系モノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0045】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0046】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記カチオン性ビニル系モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0047】
この光照射により、反応液中にカチオン性分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体としてのカチオン性スター形ポリマー(ホモポリマー)を得る。
【0048】
このカチオン性分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0049】
なお、本明細書において、分子量とは、特記しないかぎり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
【0050】
本発明では、このカチオン性分岐型重合体(カチオン性スター形ポリマー)は、上記ホモポリマーであってもよく、さらに異なるモノマー成分を有するブロック共重合体又はランダム共重合体であってもよい。例えば、上記ホモポリマーに対し、ホモポリマーに導入されたカチオン性ビニル系モノマーとは異なる2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどを導入してもよい。また、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて温度感応性ポリマーブロックを導入してもよい。なお、先にN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーよりなる分岐鎖を有した分岐型重合体を形成し、その後、各分岐鎖の先端側にカチオン性ポリマーブロックを導入するようにしてもよい。
【0051】
このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖は、約30℃よりも低い温度では親水性となり、約30℃よりも高い温度では疎水性となる温度依存性を有する。このため、このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖を導入することにより、遺伝子導入剤が上記温度応答性を具備するようになる。
【0052】
カチオン性ポリマーブロックにN,N−ジメチルアクリルアミドあるいはN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させるには、上記のようにして合成したカチオン性分岐型重合体を好ましくはアルコール例えばメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中におけるカチオン性分岐型重合体の濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、N,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体の濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0053】
このようにして、カチオン性ポリマーブロックにN,N−ジメチルアクリルアミドあるいはN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて得られる分岐型重合体(カチオン性スター形コポリマー)の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
【0054】
[カチオン性分岐型重合体の架橋]
本発明では、上記のように合成したカチオン性分岐型重合体(カチオン性スター形ポリマー:カチオン性スター形ホモポリマー又はカチオン性スター形コポリマー)を非イオン性架橋鎖を介して架橋させることにより、マルチスター形ポリマーを合成する。
【0055】
このカチオン性分岐型重合体(カチオン性スター形ポリマー)の架橋を行うには、カチオン性スター形ポリマーと、架橋用化合物とをメタノール、クロロホルムなど適宜の溶媒に溶解させ、加熱するか、光を照射することにより、非イオン性架橋鎖を介してカチオン性スター形ポリマー同士を架橋するのが好ましい。
【0056】
この架橋反応を開始させる際の溶液中のカチオン性スター形ポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、架橋用化合物の濃度は10〜99重量%程度が好適である。熱架橋させる場合の加熱条件は、30〜300℃、1分〜30,000時間程度が好適である。加熱の代わりに、又は加熱と共に、光照射することによっても架橋させることができる。光の照射条件は、光波長180〜700nm、照射時間1分〜30,000時間、照射強度0.001〜10,000μW/cm程度が好適である。光架橋させる場合、カチオン性スター形ポリマーと架橋用化合物との混合溶液をガラス等の透明プレート上に流延させて乾燥させた後、300〜400nmの光を10秒〜500時間程度照射するのが好ましい。
なお、光架橋のための光照射に際しては、カチオン性スター形ポリマーと架橋用化合物との混合溶液を凍結乾燥するなどして粉末化し、この粉末状態のカチオン性スター形ポリマーと架橋用化合物との混合物に対して光照射を行って光架橋させても良い。
【0057】
この架橋反応により、カチオン性スター形ポリマーを2〜10個、特に2〜5個程度架橋させてマルチスター形ポリマーを形成するのが好ましい。
【0058】
この非イオン性架橋鎖は、N,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドなどの重合体部分を有するものが好適である。
【0059】
非イオン性架橋鎖は、スター形であってもよい。すなわち、上記カチオン性スター形ポリマーを製造するものと同様のイニファターに対し、N,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドの少なくとも1種を光照射リビング重合させた非イオン性分岐型重合体(以下「非イオン性スター形ポリマー」と称す場合がある。)を架橋用化合物として用いてもよい。この非イオン性分岐型重合体よりなる架橋鎖の製造条件は上記のカチオン性スター形ポリマーの製造条件と同様でよい。架橋鎖としての非イオン性スター形ポリマーの分子量は5000〜200,000、特に10,000〜50,000程度が好適である。
【0060】
架橋鎖はスター形ではなく、線形であってもよい。線形架橋鎖としては、ポリマー鎖の両末端にラジカル解裂性官能基、好ましくはジチオカルバメート基を有した架橋鎖は、架橋反応に際し、ジチオカルバメート基のチオ基が開いてカチオン性スター形ポリマーの分岐鎖に結合し、この架橋鎖を介してカチオン性スター形ポリマー同士が連結されるものと推察される。
【0061】
[架橋反応生成物の精製]
このようにしてカチオン性スター形ポリマーを架橋用化合物と反応させて得られた架橋反応生成物(以下、「粗生成物」ということがある。)中には、目的物であるマルチスター形ポリマーの他に、未反応のカチオン性スター形ポリマーや、カチオン性スター形ポリマー同士が直接に架橋した架橋体、あるいは、未反応架橋用化合物、架橋用化合物同士の架橋体が含まれている。そこで、本発明では、以下の第1の精製工程及び第2精製工程よりなる2段晶析を行って、これらの不純物を含む粗生成物から、目的物であるマルチスター形ポリマーを分取する。
なお、以下の2段晶析に先立ち、粗生成物を反応溶媒等で洗浄してモノマー成分を粗取りしても良い。
【0062】
<第1の精製工程>
まず、上記粗生成物に酸を添加して、カチオン性スター形ポリマーの架橋体及び未反応カチオン性スター形ポリマー(以下、これらを「カチオン系不純物」と称す場合がある。)を中和した後、これに極性溶媒を添加してカチオン系不純物の中和生成物を析出させ、これを固液分離することにより、カチオン系不純物を除去する。
【0063】
この第1の精製工程では、粗生成物に、酸と極性溶媒の必要量の全量を一度に添加混合しても良く、粗生成物に酸、或いは酸を比較的高濃度に含む極性溶媒を混合して、粗生成物を溶解させ、その後、更に極性溶媒のみを追加添加して、カチオン系不純物の中和生成物を析出させて、これを固液分離しても良い。このように、晶析用の溶媒を2段階で添加して、一旦粗生成物の全量を溶解させることにより、晶析を行うことによる目的物の収率低下を防止することができる。
【0064】
粗生成物に添加する酸の量は、粗生成物中のカチオン系不純物を中和させることができるに十分な量であれば良く、また、極性溶媒の添加量も、カチオン系不純物の中和生成物を析出させるに十分な量であれば良い。
【0065】
より具体的には、例えば、粗生成物に溶解液として、1〜20重量%の酸(例えば、塩酸、硫酸、りん酸、硝酸、酢酸等の1種又は2種以上)を含む極性溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜6の低級アルコール、アセトン、THF(テトラヒドロフラン)、メチルセルソルブ等の1種又は2種以上)を、粗生成物1gに対して10〜100mLの割合で添加混合して粗生成物を溶解させ、次いで、晶析液として、極性溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜6、好ましくは炭素数3〜6の低級アルコール、アセトン、THF(テトラヒドロフラン)、メチルセルソルブ等の1種又は2種以上)を更に100〜500mL程度添加混合する。これにより、極性溶媒に不溶なカチオン系不純物の中和生成物が析出するため、これを遠心分離などで固液分離する。
なお、溶解液としての極性溶媒と晶析液としての極性溶媒は同一のものであっても良く、異なるものであっても良い。
【0066】
<第2の精製工程>
第1の精製工程で固液分離して得られた液相には、目的物であるマルチスター形ポリマーと、未反応架橋用化合物及び架橋用化合物同士の架橋体(以下、これらを「非イオン性不純物」と称す場合がある。)と、第1の精製工程で添加された酸と極性溶媒とが含まれる。
【0067】
第2の精製工程では、この混合液をまず濃縮して極性溶媒の大部分、例えば70〜90%程度を除去する。この濃縮は減圧濃縮などで行うことができる。
【0068】
次いで、濃縮液に非極性溶媒を添加して混合する。これにより、非極性溶媒に対して難溶性のマルチスター形ポリマーが析出する。一方、非イオン性不純物は非極性溶媒に対して可溶であるため、液相中に存在する。従って、濃縮液に非極性溶媒を添加した混合液を遠心分離等で固液分離することにより、目的物のマルチスター形ポリマーを固形分として分取することができる。
【0069】
ここで用いる非極性溶媒としては、トルエン、ベンゼン、クロロホルム等を用いることができ、これらは1種を単独で用いても良く、2種を混合して用いても良い。
【0070】
濃縮液への非極性溶媒の添加量は、マルチスター形ポリマーの析出に必要な量であれば良いが、例えば、濃縮液に対して2〜50容量倍程度とすることが好ましい。
【0071】
このようにして、架橋反応で得られた粗生成物から、カチオン系不純物と非イオン性不純物を除去して純度の高いマルチスター形ポリマーを回収することにより、遺伝子導入効率に優れた遺伝子導入剤を得ることができる。
【0072】
[核酸との複合化]
上記のようにして製造した遺伝子導入剤(ベクター)と核酸とを複合させることによって、核酸複合体微粒子が形成される。核酸がベクターによって包囲されることにより、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。また、遺伝子導入剤の非イオン性架橋鎖が核酸複合体微粒子の外周面の一部に存在することによって、核酸複合体微粒子への血清タンパクの吸着が抑制され、遺伝子導入活性が向上する。
【0073】
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、遺伝子導入剤中のカチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0074】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0075】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0076】
核酸複合体微粒子の粒径は50〜400nm程度が好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体微粒子内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0077】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドン及びターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0078】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0079】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0080】
本発明の遺伝子導入剤を用いて形成される核酸複合体は、培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
【0081】
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0082】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0083】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0084】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法及び治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0085】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0086】
[実施例1(架橋鎖としてスター形非イオン性ポリマーを用いた実施例)]
A)6分岐カチオン性スター形ホモポリマーの合成
A)−1 イニファターの合成
イニファターであるヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した(化1)。
【0087】
ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン5gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム31.8gをエタノール1L中へ加え、室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、ここへ150mLの水を加えて液抽出を行って臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させた。濾過後、n−ヘキサンを加えて再結晶を行って、微かに淡青色を帯びたヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの白色結晶を得た(収率90%)。
【0088】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、δ 1.26−1.31(t,36H,J=6.9 Hz,−CHSC(S)N(CHCH),3.71−4.01(wq,24H,J=6.9 Hz,−CHSC(S)N(CHCH),4.57(s,12H,−CHSC(S)NEt)であった。
【0089】
【化1】

【0090】
A)−2 6分岐型カチオン性スター形ホモポリマーの合成(化2)
モノマーの3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(以下、DMAPAAmと記載することがある。)は、減圧蒸留で精製した。ヘキサキス(N,N−ジエチルチオカルバミルメチル)ベンゼン43.6mgを20mLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド7.9gを加えて混合し、全量をクロロホルムで希釈して50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした。200W高圧水銀灯で30分間の紫外光照射を行った。照度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで再沈殿させて精製した。これを少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させてヘキサキス{N,N−ジエチルジチオカルバミル−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル}ベンゼン(6分岐型pDMAPAAmホモポリマー)を得た(重合率40%)。
【0091】
分子量はGPCにより28,000と測定された。
H NMR(in DO)の測定結果は、δ 1.00−1.70(br,416H,−CHCH−and−CHCHCH−) ,1.90(br,104H,−CHCH−),2.09(s,624H,−N(CH),2.25(br,208H,−CHN(CH),2.98(br,208H,−CONHCH−)で、目的物であることを確認した。
【0092】
【化2】

【0093】
B)架橋鎖としての4分岐型非イオン性スター形ホモポリマーの合成
B)−1 イニファターの合成
イニファターであるテトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した(化3)。
【0094】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム4.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、150mLの水を加えて抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0095】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0096】
【化3】

【0097】
B)−2 4分岐型非イオン性スター形ホモポリマーの合成(化4)
1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、減圧蒸留により精製してあるN,N−ジメチルアクリルアミド7.88gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、200W高圧水銀灯で紫外光を10分間照射した。照射強度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる非イオン性スター形ホモポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより30,000と測定された。
【0098】
【化4】

【0099】
C)カチオン性スター形ホモポリマー同士の非イオン性スター形ホモポリマーを介しての連結によるマルチスター形ポリマーよりなる遺伝子導入剤の合成
A)で合成した6分岐型スター形ホモポリマーであるヘキサキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンを0.2グラムと、B)で合成した非イオン性スター形ホモポリマーである1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン0.2グラムをクロロホルム10mLへ溶解し,3mm厚の軟質ガラス板上へ流延させ、0.3mmクリアランスのドクターナイフで液切りして60℃オーブン中で3時間乾燥させ、ポリマー混合物のフィルムを得た。溶媒の揮発が速く、フィルム形成が迅速であったため、異種ポリマー間の相分離を示唆する偏光現象は確認されなかった。
【0100】
このガラス板を垂直に立て、キセノン光源光照射装置(朝日分光社、MAX−301)からの光をガラス板透過直後の320nm〜400nmの範囲の光の積算光量で1.00mW/cmとなるように調整して(ウシオ電機社,UVD−C405)3.5時間の照射を行った。
【0101】
暴露フィルムを50mLのメタノールを使用して回収し、不溶成分を濾別し、濃縮後にトルエンへ投入してカチオン性鎖を含むポリマー成分を再沈殿させた。この操作で遺伝子導入剤として必須なカチオン性鎖を含むポリマーのみを選択的に分取できるのは、6分岐型カチオン性スター形ホモポリマーがトルエン溶媒に不溶であるのに対して、4分岐型非イオン性スター形ホモポリマーはトルエンに溶解する性質を利用している。
【0102】
分子量は未照射で28,000(分散1.40)であったものが、照射物で38,000(分散1.85)と変化し、高分子量側のリーディングが強くなり、6分岐型カチオン性スター形ホモポリマーと4分岐型非イオン性スター形ホモポリマーの数分子がランダムに架橋されて連結する反応が起こっていることが示唆された。
【0103】
[比較例1]
カチオン性ブロックと非イオン性ブロックとのブロックコポリマーよりなる分岐鎖を6個有したスター形ポリマーの合成
ヘキサキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン−ブロック−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)の合成を以下のように行った。なお、以下、このポリマーを6分岐型pDMAPAAm−b−DMAAと略記することがある。
【0104】
実施例1と同様にして合成した6分岐型カチオン性スター形ポリマーの全量を約20mLのメタノールへ溶解した。ここへN,N−ジメチルアクリルアミド7.44gを加え、メタノールで全量を50mLへ調整した。重合時間を10分間とする以外の手法はカチオン性スター形ホモポリマーの合成と同様に行い、6分岐型pDMAPAAm−b−DMAAブロックポリマーを合成した。
【0105】
分子量はGPCにより63,000と推定された。連結体ではなく、約3万のカチオン性ポリマー鎖の延長上に約3万の非イオン性ポリマー鎖がブロック重合されたポリマーが得られた。
【0106】
[遺伝子導入実験]
実施例1のA)で合成したカチオン性スター形ホモポリマー(比較例2)、実施例1のC)で合成した本発明に係るマルチスター形ポリマー(実施例1)、比較例1で合成したスター型6分岐カチオン性/非イオン性ブロックコポリマーの3つの検体につき遺伝子導入実験を行った。
【0107】
DNAは濃度0.033μg/μLのTEバッファー溶液とし、その90μLに1μg/μL濃度の上記遺伝子導入剤の生理食塩水溶液を60μLタッピングして混合した後に150μLのOPTI−MEMを混合して室温で30分間インキュベートして遺伝子導入剤溶液とした。24穴培養プレートへCOS−1細胞を6×10個播種し、培養24時間後にトランスフェクションを行った。
【0108】
トランスフェクションは培養細胞から培地を除去し、PBSで2回洗浄後に遺伝子導入剤溶液を200μLづつ加えて3時間インキュベートし、PBSで洗浄後に完全培地を加えて48時間培養して行った。
【0109】
このトランスフェクション後の48時間の培養後に遺伝子導入活性の評価をルシフェラーゼアッセイで行った結果を図1に示す。ホタルルシフェラーゼ活性はプロメガ社のアッセイキットを使用し、補正はタンパク濃度で行った。タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
【0110】
[実施例2(架橋鎖として線形非イオン性ポリマーを用いた実施例)]
E)ポリマー鎖の両末端にラジカル解裂性官能基を有する直線状非イオン性ポリマーの合成
E)−1 両末端クロロメチルベンゼン化ポリエチレングリコールの合成
ポリエチレングリコール#10000を10g、ピリジン5mLを塩化メチレンに混合し、全量を20mLとした。氷冷下で塩化(p−クロロメチル−ベンゾイル)11.6グラムを24mLの塩化メチレンへ溶解したを滴下し、1時間攪拌後、室温に戻し、さらに64時間攪拌した。懸濁したピリジン塩を濾別し、溶液を乾固させた。これをクロロホルム100mLへ溶解し、分液漏斗へ移し、15mLの水で2回、15mLの0.5N塩酸で2回洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後溶媒を留去し、メタノールへ溶解し、ジエチルエーテルで再沈殿させて精製し、両末端クロロメチルベンゼン化ポリエチレングリコールを得た(白色固体、収率65%)。
【0111】
1H-NMRの測定結果は、δ8.01(d,4H,C64)、δ7.47(d,4H,C64)、δ4.62(s,4H,ClCH2)、δ4.48(t,4H,C(O)OCH2)、δ3.64(m,-CHCHO-)であった。
【0112】
E)−2 両末端ジチオカルバメート化ポリエチレングリコールの合成
得られた両末端クロロメチルベンゼン化ポリエチレングリコール1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物0.41グラムをメタノールへ溶解し全量を30mLとして、室温下、遮光容器内で120時間攪拌した。
【0113】
攪拌後、エボポレーターで濃縮し、40mLのクロロホルムへ溶解し、不溶の塩類を濾別した後に、シリカゲルカラム(メルク、シリカ60、50mm径・100mm長)と溶出液クロロホルム:メタノール=8:1で精製し、両末端ジチオカルバミル化ポリエチレングリコールを得た(褐色オイル、収率80%)。
【0114】
分子量は、GPCにより10,500であった。
1H-NMRの測定結果は、δ8.00(d,4H,C64)、δ7.46(d,4H,C64)、δ4.61(s,4H,SCH2)、δ4.46(t,4H,C(O)OCH2)、δ4.04(q,4H,CH2CH3)、δ3.75(m,4H,CH2CH3)、δ3.64(m,-CHCHO-)、δ(t,12H,CH2CH3)であった。
【0115】
F)カチオン性スター形ホモポリマー同士の線形非イオン性ポリマーを介しての連結によるマルチスター形ポリマーよりなる遺伝子導入剤の合成
前記実施例1のA)で合成したカチオン性スター形ホモポリマー0.2gと上記E)で合成した両末端ジチオカルバメート化ポリエチレングリコールをDMFで湿潤状態とし、3mm厚の軟質ガラス板上へ流延させ、0.3mmクリアランスのドクターナイフで液切りした。このガラス板を水平に支持し、キセノン光源光照射装置(朝日分光社、MAX−301)からの光をガラス板透過直後の320nm〜400nmの範囲の光の積算光量で1.00mW/cmとなるように調整して(ウシオ電機社,UVD−C405)、ガラス板の下側から3.5時間の照射を行った。暴露フィルムを50mLのメタノールを使用して回収し、不溶成分を濾別し、濃縮後にトルエンへ投入してカチオン性鎖を含むポリマー成分を再沈殿させた。
【0116】
GPCを測定すると、元のカチオン性スター形ホモポリマーの高分子量側のリーディングが強くなり、高分子量側へ小さなブロードな第二ピークが出現し、6分岐型カチオン性スター形ホモポリマーが線形の非イオン性ポリマーとランダムに架橋されて連結する反応が起こっていることが示唆された。カチオン性スター形ホモポリマーの連結体は非連結体よりも高い遺伝子導入活性を有しており、本実施例で非イオン性鎖が導入されることでDNAとのイオン複合体への血清タンパクの吸着を抑制でき、この結果、遺伝子導入効率を向上させることができると考えられる。
【0117】
[実施例3]
i)イニファターの合成
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3リットルのメタノールへ投入して30分間攪拌して濾過した。この操作を繰り返して合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫中で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、生成物が単一物質であることを確認した。
【0118】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0119】
ii)4分岐型カチオン性スター形ホモポリマーの光重合による合成
3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをカチオン性ビニル系モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(4分岐型pDMAPAAmホモポリマー)よりなるカチオン性スター形ホモポリマーの合成を行った。
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド7.9gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。このものを3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で波長250nm〜400nmの混合紫外線を40分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター形ホモポリマーpDMAPAAmよりなるカチオン性スター形ホモポリマーを得た(重合率32%)。
【0120】
分子量はGPCにより、58,000(Mw/Mn=1.33)と測定された。
また、H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0121】
iii) 4分岐型非イオン性スター形ホモポリマーの合成
N,N−ジメチルアクリルアミドを非イオン性親水性モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなる4分岐型非イオン性スター形ホモポリマーの合成を行った。
上記ii)の合成スキームにおいて、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド7.9gの代わりにN,N−ジメチルアクリルアミド7.4gを使用し、光照射時間を20分間とした以外はすべてii)に準拠して合成を行った。精製も同様に行った。得られた4分岐型非イオン性スター形ホモポリマー(重合率35%)は、GPCにより分子量21,000(Mw/Mn=1.62)と測定された。
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.2−1.8ppm(br,2H,−CHCH−),δ2.3−2.7ppm(br,1H,−CHCH−),δ2.7−3.1ppm(br,6H,N−(CH2)となった。
【0122】
iv) カチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーの光架橋
1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン及び1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンの混合粉体の光架橋を行った。
即ち、上記ii)及びiii)で合成したカチオン性ホモポリマー及び非イオン性ホモポリマーを重量比1:1(以下、このものを「サンプル1:1」と称す。)又は1:2(以下、このものを「サンプル1:2」と称す。)の割合で採取して、それぞれ水に溶解して30分間攪拌し、攪拌しながら0℃まで冷却し、液体窒素へ投入して瞬時に凍結させてから凍結乾燥を行った。得られた粉末0.3gをそれぞれ100mL滅菌瓶へ入れ、土星型回転子で激しく攪拌しながら高純度窒素ガス(2L/分)で30分間パージして均質な粉末状態へ粉砕した。ここへ窒素パージ及び激しい攪拌を続けながらii)と同じ光照射装置で光照射重合を行った。照射強度は1.0mW/cm、光照射時間は240分とした。照射終了後、得られた粉末は淡い黄褐色を帯びていた。ここへ50mLのメタノールを投入すると少量の不溶性のゲル状成分が生成していた。溶液を#2の濾紙で濾過した後、エバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルへ滴下してポリマー成分を沈殿させた。その後、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿処理を行って精製した。
【0123】
各生成物の分子量はGPCにより、サンプル1:1で53,000(Mw/Mn=2.0)、サンプル1:2で44,000(Mw/Mn=2.1)と測定され、光架橋により分子量分布のブロード化が確認された。
【0124】
v) 光架橋体のフラクション分離
iv)で得たカチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーの光架橋反応生成物(粗生成物)約0.3gを、それぞれ10mLの10重量%塩酸メタノール溶液へ溶解した。次いで、2−プロパノール40mLと混合し、50mL遠沈管にて5000rpmで5分間遠心分離した。沈殿は塩酸を混合した2−プロパノールで数回洗浄した。この沈殿をフラクションIと命名した。
【0125】
フラクションIのポリマー成分の分子量はサンプル1:1で98,500(Mw/Mn=1.85)、サンプル1:2で65,600(Mw/Mn=1.95)であり、NMRにより求めたカチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性ホモポリマーの混合比(モル:モル)は、サンプル1:1で1:0.06、サンプル1:2で1:0.11となり、フラクションIは、ほぼカチオン性スター形ホモポリマーからなる分画であることが確認された。
【0126】
続いて、上記遠心分離による上澄液(塩酸を含む2−プロパノール及びメタノール溶液)をエボポレーターで10mLまで濃縮し、40mLのトルエンへ混合し50mL遠沈管にて5000rpmで5分間遠心分離した。得られた沈殿をフラクションIIと命名した。フラクションIIのポリマー成分の分子量はサンプル1:1で33,600(Mw/Mn=2.05)、サンプル1:2で37,900(Mw/Mn=1.91)であり、NMRによるカチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーの混合比(モル:モル)はサンプル1:1で1:0.78、サンプル1:2混合体で1:1.2となった。
【0127】
最終的な上澄液をエボポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで再沈殿させて回収したポリマー成分は、サンプル1:1、サンプル1:2混合体のいずれにおいてもNMR及びGPCの測定結果より、光照射に関与しなかった非イオン性スター形ホモポリマーであることが分かった。この分画をフラクションIIIと命名した。
【0128】
即ち、酸−アルコール溶媒に溶解しなかったフラクションIは、主としてカチオン性スター形ホモポリマー(又はその架橋体)よりなり、次のトルエン注加で沈殿として析出したフラクションIIは、主としてカチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーとの光架橋体よりなり、トルエンに溶解したフラクションIIIは、主として非イオン性スター形ホモポリマー(又はその架橋体)からなるものであった。
【0129】
vi) 遺伝子導入実験
細胞にはアフリカミドリサル腎細胞の由来のCOS-1を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。COS-1細胞は細胞数を4万個/mLへ調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。
上記v)にて分離したフラクション分離体のうちフラクションIIを遺伝子導入剤として使用した。遺伝子導入剤中の単位重量あたりの陽電荷数はNMRによるカチオン性ユニットと非イオン性ユニット混合比及びカチオン性ユニットの分子量156から計算して求めた。DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列マップによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
この遺伝子導入剤をDNAと150μLのOPTI−MEM中で30分間インキュベートした。混合比は電荷数の関係が陽電荷数が陰電荷数の20倍となるように調整し、0.5μgのDNAが各Wellへ投与されるように溶液を調整し、培養細胞へ加えた。トランスフェクションの48時間後にルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社、アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。結果を図2に示す。
【0130】
[比較例3,4,5]
上記v)で得たフラクションI(比較例3)と、上記iv)で得た分離前のサンプル1:1及びサンプル1:2の光照射体(比較例4)、v)で得られたフラクションIII(比較例5)をそれぞれ遺伝子導入剤として使用した。遺伝子導入剤中の単位重量あたりの陽電荷数はv)と同様にNMRによるカチオン性ユニットと非イオン性ユニット混合比及びカチオン性ユニットの分子量156から計算し、フラクションIは上記フラクションIIと同様であり、フラクションIIIのそれは(非イオン性スター形ホモポリマーであり陽電荷を有していない)、ii)で合成した4分岐型スター型カチオン性ホモポリマーを遺伝子導入剤としてする際の典型的な濃度である1mg/mL濃度で調製した。これによりフラクションIIIを細胞へ作用させた際の影響を知ることができると考えられる。
【0131】
図2に示す結果より明らかなように、カチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーとの光架橋で得られた架橋反応生成物中には、目的物であるカチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーとの架橋体の他に、未反応カチオン性スター形ホモポリマー及びその架橋体(カチオン性不純物)と、未反応非イオン性スター形ホモポリマー及びその架橋体(非イオン性不純物)とが含まれており、このうち、非イオン性不純物(フラクションIII:比較例5)には遺伝子導入活性は全くなく、また、カチオン性不純物(フラクションI:比較例3)の遺伝子導入活性は著しく低く、カチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーとの架橋体を、これらの不純物を含んだ形で遺伝子導入剤として用いると(分離前:比較例4)、目的とする良好な遺伝子導入活性が得られない。
【0132】
これに対して、架橋反応生成物から、これらのカチオン性不純物と非イオン性不純物を除去して目的物であるカチオン性スター形ホモポリマーと非イオン性スター形ホモポリマーの架橋体の純度を高めたもの(フラクションII:実施例3)を用いることにより、高い遺伝子導入活性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施例1及び比較例1,2の結果を示すグラフである。
【図2】実施例3及び比較例3〜5の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環を核とし、それから放射状に伸延した複数のカチオン性の分岐鎖を有するカチオン性分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、
複数の該カチオン性分岐型重合体同士が非イオン性架橋鎖を介して架橋した架橋ポリマーよりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、前記カチオン性分岐型重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにカチオン性ビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項3】
請求項2において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項4】
請求項2又は3において、カチオン性ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、4−N,N−ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、該分岐鎖はカチオン性ビニル系モノマーのホモポリマーよりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項6】
請求項2ないし4のいずれか1項において、前記分岐鎖は、前記カチオン性ビニル系モノマーと、異なるモノマーとのランダム又はブロック共重合体よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、該非イオン性架橋鎖は、N,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種の重合体よりなる部分を有することを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記架橋鎖は、芳香環を核とし、それから放射状に伸延した非イオン性の複数の分岐鎖を有する非イオン性分岐型重合体であり、この非イオン性分岐鎖が前記カチオン性分岐鎖に結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項9】
請求項8において、前記非イオン性分岐型重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにN,N-ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、オキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル及びオキシアルキレンアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種を光照射リビング重合させたものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項10】
請求項9において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、
前記カチオン性分岐型重合体と架橋用化合物とを反応させて、複数のカチオン性分岐型重合体同士が非イオン性架橋鎖を介して架橋してなる前記架橋ポリマーを生成させる架橋工程と、
該架橋工程で得られた架橋反応生成物を酸及び極性溶媒と混合した後固液分離する第1の精製工程と、
該第1の精製工程で固形分を分離して得られた液相を濃縮した後、非極性溶媒と混合し、混合液を固液分離する第2の精製工程と
を有し、該第2の精製工程で得られた固形分を目的物として回収することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれか1項の遺伝子導入剤と核酸との複合体よりなることを特徴とする核酸複合体。
【請求項13】
請求項11に記載の遺伝子導入剤の製造方法で製造された遺伝子導入剤と核酸との複合体よりなることを特徴とする核酸複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1553(P2009−1553A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128567(P2008−128567)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】