説明

部分空気加湿を用いる常圧燃料電池システム

燃料電池スタックに供給される空気の部分加湿によって、高温および常圧に近い圧力で動作できる燃料電池システムが提供される。前記スタックの燃料電池は、カソード側に気体拡散バリヤー層を組み込む。前記システムは、前記スタック内に液体冷媒を循環させる冷却ループを含む。いくつかの実施態様では、流入空気流は、気体交換加湿機またはエンタルピーホイール内でカソード排気流から移動する水蒸気で部分加湿される。その他の実施態様では、前記流入空気を部分加湿するために、カソードリサイクルが使用される。前記空気およびカソード排気流の湿度は、スタック飽和点より低く維持される。前記燃料電池システムを動作させる方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照によって本明細書に全体として組み込まれる2003年3月3日出願の米国特許仮出願第60/451,943号明細書の優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
発明の分野
本発明は、常圧または常圧に近い圧力で動作する燃料電池システムに関する。詳しくは、本発明は、部分空気加湿を用いて常圧または常圧に近い圧力で動作する燃料電池システム、およびそのようなシステムを動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
燃料電池は、当分野において既知である。燃料電池は、水素を含む燃料の流れと、酸素を含む酸化剤の流れとを電気化学的に反応させ、電流を発生させる。燃料電池発電装置は、輸送、携帯および固定用途において使用されてきた。
【0004】
高分子電解質膜(PEM)燃料電池動作において、水管理の問題はきわめて重要である。最適性能を維持するために、膜の加湿が必要である。膜の含水率が低下すると、膜はプロトンを輸送する能力を失い、膜の電気抵抗は増大し、燃料電池性能の低下および膜の破損を招くことがある。膜の適切な加湿を保証するために、一般に、燃料電池スタックに供給される反応剤の流れは加湿される。同時に、カソードに存在する水は、カソードで発生する反応生成物の水も、および電気浸透抗力の結果としてアノードから膜を通して運ばれる水も、ともに除去しなければならない。さもないと、カソード気流場のフラッディングが起こり得る。
【0005】
燃料電池に供給される反応剤の流れを加湿するために、さまざまな手法が用いられてきた。例えば、透水膜の両側に反応剤気流と液体の水とを流すことによって、反応剤を加湿することができる。燃料電池からの反応生成物の水を、反応剤排気流から凝縮させ、加湿に用いることができる。反応剤気流に水蒸気または霧状の微小水滴を注入することもある。兼用型の熱および湿気交換装置中で、透水膜の両側に酸化剤気流と酸化剤排気流とを流すことによって、酸化剤気流を加熱および加湿することもある。米国特許第6,007,931号および本出願人の米国特許第6,416,895号明細書に、後者の装置の例が記載されている。
【0006】
もちろん、水管理の問題は、他のシステム要件を含めて考慮する必要がある。例えば自動車システムなど、多くの用途では、高い電力密度(単位体積あたりの電力出力能力)での動作も望ましいが、部分負荷で動作する能力も同じように望ましい。そのような変動負荷条件下では、燃料電池内で適切な水バランスを維持することは、非常に困難になり得る。
【0007】
これらの目的を実現する一つの手法は、燃料電池スタックを高い圧力で動作させることである。燃料電池内の反応剤の分圧が高いほど、高い出力密度動作および高い動作温度が可能になる。また、反応剤気流の場の圧力降下が高いほど、燃料電池から液体の水を機械的に除去できる。しかし、この手法には、高価な空気加圧装置および水素リサイクル装置が必要であり、そのため、発電装置のコスト、複雑さおよびサイズが増加するばかりか、かなりの寄生電力損失まで派生する。反応剤用の加湿システムも、発電装置のコスト、複雑さおよびサイズを同じように増加させる。例えばシール類など、高圧で動作できるスタック部品のコストも増加することがある。さらに、変動負荷条件下では、液体水分管理問題が不安定な電池動作の原因となり得る。
【0008】
別の手法では、ウィッキング、または膜に水を供給する類似の受動的な手段を使用する。例えば、ユー・ティー・シー・フュエル・セルズ、エルエルシー(UTC Fuel Cells,LLC)が開発したPEM燃料電池発電装置は、この手法を使用している。多孔性のアノードおよび/またはカソード支持体層に隣接する多孔性の水輸送プレートによって、アノードおよび/またはカソード表面への水の輸送が容易になる。これらの発電装置は、常圧に近い圧力で動作可能で、エア・コンプレッサに関わるコストおよび電力損失を低減できる。
【0009】
この手法には、いくつかの弱点もある。例えば、水輸送プレートおよび冷媒ループは、複雑になりがちである。動作および制御システムも複雑になる。すなわち、冷媒ループには反応生成物の水が入るので除去しなければならず、反応剤気流の場と冷却用の水循環通路との間に圧力差が発生して、多孔性の支持層および電池の中の水輸送を助け、および/またはより高い周囲温度で水バランスを保証するために二系列の冷媒ループが使用されることがある。これらの発電装置では、システムのシャットダウン時に冷媒流路に取り残された水分が凍結しないよう、冷媒流路にメタノールまたはエタノールを導入するシステム、または不揮発性の有機不凍液を水輸送プレートに導入するシステムなど、コールドスタートを可能にするための複雑なシステムが必要である。さらに、多孔性の水輸送プレートを有するPEM燃料電池で、相対湿度ゼロの反応剤気流を用いる動作を行なうと、最終的にはPEM電解質の乾燥を引き起こす。米国特許出願公開第2002/0068214号明細書は、アノードおよび/またはカソード電解質乾燥バリヤーを組み込むことによって、電解質からの水の損失が制限され得ることを開示している。効率的な水バランスを維持しようとするそのような努力によって、余分なコスト、重量、体積上の重荷、燃料電池性能の悪化が生じ、多くの場合複雑な制御装置が必要となる。
【0010】
米国特許第6,451,470号およびカナダ特許出願公開第2,342,825号明細書には、膜に垂直な気体透過率の勾配を有し、膜からの水の拡散を抑制する気体拡散層(「気体拡散バリヤー」またはGDB)が開示されている。これによって、反応剤の外部加湿なしで燃料電池の動作が可能になる。GDB構造を用いると、カソード気流の場に空気を相対的に高い化学量論比で供給することによって、燃料電池の空気冷却も可能になる。例えば、‘825出願は、空気比、すなわち化学量論比8〜70を採用することを開示している。
【0011】
しかし、このような受動的水管理システムを用いる常圧燃料電池システムは、高電力密度用途および/または高温での動作に適しているようには見えない。例えば、‘470特許によると、GDBを使用する燃料電池の最高動作温度は、常圧で空気が供給されると約75℃であると開示されている。‘470特許によると、空気圧を増加させれば動作温度を高くできるが、高温では、十分低い水の有効拡散係数を有するGDBは、もはや反応剤気体、特に酸素の十分な拡散を保証しない(第3カラム、29〜42行)。事実、‘470特許に開示されるシステムは、常圧に近い圧力では503mA/cmより高い電力密度で急激な性能低下を示した(第7カラム、50〜60行)。ユー・ティー・シー・フュエル・セルズの多孔性二極板を使用するスタックの公表された結果では、65℃で最適性能が開示されている(D.J.Wheelerら、J.New Mat.Electrochem.Systems、第4巻、233〜238頁(2001年)参照)。
【0012】
液体の水の除去も加圧空気供給も必要とすることなく、高い電流密度および高温で燃料電池内の適切な水バランスを維持できる燃料電池発電装置を有することが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来の燃料電池発電装置の弱点に取り組み、さらに関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要約)
燃料電池システムおよびその動作の方法が提供される。本燃料電池システムを組み込む燃料電池発電装置および車両も提供される。
【0015】
いくつかの実施態様では、本燃料電池システムは、燃料電池スタック、前記スタックに燃料を供給する燃料システム、前記スタックに常圧に近い圧力で空気を供給するブロワ、前記スタックに供給される空気流および前記スタックから出るカソード排気流と流体連通し、前記カソード排気流から前記空気流に水蒸気を移動させる加湿装置、および前記スタック内に液体冷媒を循環させる冷媒ループを含む。スタック内の燃料電池は、カソード気体拡散バリヤー層を組み込む。
【0016】
その他の実施態様では、本燃料電池システムは、カソード気体拡散バリヤー手段を備える燃料電池を有する燃料電池スタック、前記スタックに燃料を供給する燃料システム、前記スタックに常圧に近い圧力で空気を供給する供給手段、前記カソード排気流から前記スタックに供給される前記空気に水蒸気を移動させる加湿手段、および前記スタック内に液体冷媒を循環させる冷媒ループを含む。
【0017】
本燃料電池システムは、車両に用いるための発電装置の一部、固定用途のためのコジェネレーションシステムの一部、あるいは携帯電力、バックアップ電力またはUPS用途のための発電機の一部のことがある。
【0018】
いくつかの実施態様では、本方法は、前記スタックに常圧に近い圧力で化学量論過剰の空気を供給すること、加湿装置にカソード排気流を供給すること、前記空気流の相対湿度をスタック入口飽和点より低く維持すること、前記カソード排気流の相対湿度をスタック入口飽和点より低く維持すること、および約75℃より高い温度で前記スタックを動作させることを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)
以下の説明では、本発明のさまざまな実施態様の完全な理解を提供するために、特定の詳細が示される。しかし、これらの詳細がなくても、本発明が実施され得ることは、当業者には理解されるであろう。その他の場合には、本発明の実施態様の説明が不必要にまぎらわしくなることを避けるために、燃料電池、燃料電池スタック、バッテリーおよび燃料電池システムに関する公知の構造を示すことも、詳細に説明することもしなかった。
【0020】
状況によって必要とならない限り、以下の本明細書および請求項のすべてを通じて、語「含む」および「含む(3人称単数)」および、「含んでいる」など、その活用形は、開放的、包括的な意味、すなわち「を含むが限定されない」と解釈されるものとする。用語「ブロワ」は、燃料電池スタックに常圧または常圧に近い圧力で気流を供給するブロワ類、ファン類および類似の手段を指す。
【0021】
本燃料電池システムは、液体の水の除去または加圧空気供給を必要とすることなく、高い電流密度および温度で動作する燃料電池スタックの燃料電池内の適切な水バランスを維持することができる。本燃料電池システムは、燃料電池発電装置に組み込まれることがある。燃料電池発電装置そのものは、燃料電池によって動力を提供される車両用のエンジンなど、さまざまな用途で使われることがある。
【0022】
図1は、本燃料電池システムの実施態様の概略図である。正常運転時には、バルブ10を通して、スタック14のPEM燃料電池のアノード12に水素が供給され、無段変速ブロワ16を通して、カソード18に空気が供給される。水素と空気中の酸素とが電気化学的に反応して、電力を発生する。ポンプ20を通して、液体冷媒がスタック冷媒巡回路22およびラジエーター24内を循環し、スタック14を適当な動作温度範囲内に維持する。
【0023】
スタック14のカソードには、燃料電池膜の適切な加湿を維持することを支援するために、気体拡散バリヤー(GDB)が組み込まれる。GDBは、膜に隣接する領域より低い水蒸気透過率を有する膜から間隔を空けた領域を含む気体拡散層であり、膜から間隔を空けた領域は膜を通り抜ける水蒸気の拡散を抑制する。GDBとしての使用に適する物質は、米国特許第6,521,369号明細書に記載されているような、燃料電池プレートと接触する開口部より大きな開口部を膜と接触する表面に有する横方向の流体チャンネルを有する膨張黒鉛シート物質を含む。あるいは、米国特許第6,451,470号明細書に記載されているような、水蒸気の透過率を低下させる固体または液体物質で(部分的に)充てんされるか、または被覆された多孔性の電極物質が利用されることがある。カナダ特許出願公開第2,342,825号明細書に記載されているような、少なくとも一つの水蒸気透過率が低い層(「バリヤー層」)と、膜に隣接する水蒸気透過率が高い別の層を有するラミネートが使われることもある。バリヤー層は、内部に機械的な開口部を有する実質的に不透過性の物質(例えば膨張黒鉛シート)、充填物質または部分充填物質、あるいは微多孔性物質を含むことがある。GDBの選択および設計は、本燃料電池システムにとって本質的ではなく、当業者は所定の用途に適するGDBを容易に選ぶことができる。GDBは、部分電力条件下で選ばれた温度において、燃料電池膜の適切な加湿を維持できるはずである。
【0024】
空気は、常圧または常圧に近い圧力でスタック14に供給される。例えば、本システムのいくつかの実施態様では、スタック空気供給に関わる圧力降下は約0.3〜0.5psid(20〜35ミリバール)である。そのような実施態様では、空気化学量論比は約1.2〜3.0のことがある。
【0025】
入口空気は、微粒子を除去し、例えば二酸化炭素および/または炭化水素などその他の汚染物質を除去することもあるフィルタ26を通して吸引される。フィルタを通った空気は、換気ボックス28に入り、スタック14によって部分的に予熱される。高温カソード排気として廃棄される入口空気をスタック14に予熱させることによって、燃料電池システム全体の熱廃棄必要量をこの巧妙な加熱量の分だけ低くする。さらに、スタック14からの水素漏れが少しでもあれば、通気ボックス28に集められ、入口空気と混合され、カソード18で消費される。しかし、通気ボックスは、本燃料電池システムにとって本質的ではなく、他の実施態様では省略される。
【0026】
予熱された空気は、気体交換加湿機30の「乾燥」側に導かれ、加湿機30の「湿潤」側に入るカソード排気の流れによって、さらに加熱され部分加湿される。望むなら、ダンパ32を開けてカソード排気の少なくとも一部をスタック14にリサイクルさせることがある。例えば、部分電力動作時および/または加湿機30の負荷を軽くするために、カソードリサイクルが用いることができよう。
【0027】
適当な気体交換加湿機は、例えばイオン交換または紙膜などの半透膜を組み込むことがある。本出願人の米国特許出願第2001/0046616号明細書に、適当な気体交換加湿機の例が開示されている。しかし、気体交換加湿機の選択は本燃料電池システムにとって本質的でなく、当業者は、所定の用途のために適当な加湿機を容易に選ぶことができる。
【0028】
望むなら、加湿機30の上流にブロワ16が設置されることがあるが、乾燥側を通して空気を吸引した方が、湿潤側に若干高い圧力が生まれる。少しでも膜に漏れがあれば、カソード排気を空気と混合させることになる。これは部分的なカソードリサイクルに等しく、加湿機30にとって許容できる不良モードである。これによって、例えば、シーリングの要求レベルが緩やかとなり、加湿機を設計または選択する上でコスト削減の余地を生むことがある。
【0029】
図2は、本燃料電池システムの別の実施態様の概略図である。図2のシステムは、空気の流速とカソード排気リサイクルの流速との独立な制御のために、空気ブロワ36およびカソードリサイクルブロワ38を使用する。さらに、スタック14に供給される空気流を部分加湿するために、エンタルピーホイール40が使用される。エンタルピーホイールは、当分野において既知であり、例えば、エンプライズ・コーポレーション(Emprise Corporation)(ジョージア州マリエッタ(Marietta,Ga))から入手できるコーディエライトセラミックハニカム材料を組み込んだエンタルピーホイールが適することがある。もちろん、本燃料電池システムにとって特定のエンタルピーホイールは本質的でなく、当業者は所定の用途のために適当なそのような装置を容易に選ぶことができる。
【0030】
いくつかの実施態様では、起動時に、スタックに空気および燃料が供給され、燃料電池を低負荷および低電圧で動作させて内部熱発生を促進することがある。電池温度が上昇するにつれて、負荷を増加させ、これによって燃料電池中で発生する水蒸気の分圧は飽和圧力より低くなって、スタック内の空気/カソード排気を確実に飽和状態未満にとどまらせることがある。あるいは、燃料電池のカソード上で燃料と空気とを制御された方法で触媒燃焼させて、スタックを加熱することがある。望むなら、冷媒ループ中に触媒ヒーターが組み込まれ、このヒーター中で燃料と空気とを燃焼させて、スタック内に循環する冷媒を加熱することがある。あるいは、またはさらに、起動時にバイパス弁34を作動させ、冷媒にラジエーター24を迂回させることがある。その他の実施態様では、起動時に空気も高い空気化学量論比(例えば〜200)でスタックに供給される。
【0031】
高い電力出力では、高温動作(例えば、>75℃)が望ましい。上記のように、高い動作温度では、冷却システムの熱廃棄容量が増加する。例えば、自動車用途では、ラジエーター前面面積および性能を増大させるのは難しいので、熱廃棄は、スタックの最大電力出力の制限要因である。従って、冷却システムの熱廃棄容量を増加させることによって、より高いエンジン定格を有する自動車用途のための燃料電池発電装置が可能になる。高温動作によって、固定用途のためのより高いコジェネレーション温度、間欠用途のためのより良好な温度性能低下特性も提供される。
【0032】
本燃料電池システムは、飽和状態未満の空気供給を使用する。すなわち、本燃料電池システムに供給される空気の相対湿度は、入口電池飽和点より低く維持され、カソード排気の相対湿度は出口電池飽和点より低く維持される。常圧に近い圧力で高温動作を可能にすることに加えて、飽和未満の空気供給で動作することによって、液体の水がスタック内で凝縮して蓄積することを抑制するか、または実質的に妨げることができる。これは、液体の水の管理を使用する類似の燃料電池システムに対して、いくつかのさらなる利点を提供することがある。例えば、気体/水の分離器、ドレントラップ、脱イオン水または微粒子用の水フィルタまたは水充てんまたはオーバーフロー用タンクなど、液体の水の管理装置は必要ない。これは、本燃料電池システムのコストおよび複雑さを低下させることがある。別の例として、冷媒システム中の冷媒負荷の低下がある。スタック中に存在する反応生成物の水は、実質的にまたは完全に気相にあり、従って、液体の反応生成物の水の凝縮熱を冷媒によって廃棄しなくてよい。燃料電池のフラッディングによる性能低下も低下し、あるいは除かれることがある。さらに別の例として、スタック内の液体の水の凍結は減少し、あるいは除かれるので、凍結しやすさおよびコールドスタート起動能力が改善されることがある。さらに、構成部品の腐食および/または液体の水によるスタック内の腐食生成物の輸送の減少によって、スタック寿命の延長および/または低コスト物質の使用が可能になる。
【0033】
いくつかの実施態様では、本燃料電池システムは、低温で低い電力出力、および高温で高い電力出力で動作することがある。低い電力出力では、上記で説明したように、膜から漏れて出る水蒸気拡散を抑制するカソードGDBの能力によって、必要な空気流の外部加湿はより少ないか、またはゼロである。同時に、より高い空気化学量論比が使用され、カソード気流の場における飽和未満条件を保持する助けとなることがある。
【0034】
高温ほど、低い空気化学量論比が使用されることがある。これは、加湿していない反応剤を使用するカソードGDBを使用する従来の燃料電池システムの場合のスタックからの水の損失を、減らす助けとなることがある。空冷される従来のシステムとは異なり、本燃料電池システムでは、操作温度が高くなっても、スタックの熱廃棄容量を維持するために増加した空気化学量論比は必要でない。従って、本燃料電池システムでは、液体冷媒を使用することによって、空気化学量論比および冷媒流量の要件は連動していない。
【0035】
代わりの実施態様では、高い電力出力において、本燃料電池システムのファン速度またはラジエーターの出力が増加されることがある。関連する寄生電力損失は少々増加するが、冷却システムの性能が顕著に改善され、燃料電池動作最高温度が低下するため、相殺されることがある。
【0036】
さらに別の実施態様では、空気供給システムのブロワの速度は、所定の操作温度でスタックに供給される空気流に所望量の加湿を提供するために制御される。ブロワの速度を制御することによって、例えば気体交換加湿機またはエンタルピーホイール中の流入空気の滞留時間を変化させることが可能になる。滞留時間が長いほど、カソード排気から空気流への熱および水蒸気移動速度は大きい。その他の実施態様では、流入空気流中にリサイクルされるカソード排気の量は温度に応じて制御され、同じ結果を実現する。さらにその他の実施態様では、ブロワの速度は一定に保たれ、スタックに供給される所望の加湿量を供給するために、スタックに供給される空気の量は温度に応じて制御され。例えば、ブロワからスタックに供給される空気の量を変化させるために、制御されるバルブ、ダンパまたはダイバータが使用されることがあろう。以上の制御手段の組み合わせを用いてもよい。
【0037】
例を示した実施態様では、スタック14への水素供給はデッドエンドである。望むなら、時間とともに蓄積することがある不活性な気体は、アノード12からパージされることがある。例えば、換気ボックス28中にアノードパージ気体が導入されることがあり、そこで入口空気中4%未満に希釈され、カソード18で消費される。望むなら、アノードベント気体を別の燃焼器中で触媒燃焼させること、または環境に排出することなど、アノードベント気体を廃棄するその他の手段が用いられることがある。代わりの実施態様では、代わりに水素リサイクルシステムが使用される。しかし、水素供給は閉鎖系である必要はない。例えば、さらに別の実施態様では、本燃料電池システムは、燃料を改質してスタック用に水素分に富む改質成分気流を製造する燃料処理システムを備える。望むなら、上流または下流の処理工程のために、アノード排気を燃焼させて熱エネルギーを製造することができる。結局、水素原料および水素供給システムの構成は、本燃料電池システムにとって本質的でなく、当業者は、所定の用途のために適当な水素供給システムを容易に設計することができる。
【0038】
同様に、液体冷媒の選択は本燃料電池システムにとって本質的でない。適当な冷媒は、脱イオン水、エチレングリコールおよびそれらの混合物を含む。その他の適当な冷却液は、当業者には容易に明らかであろう。例を示した実施態様ではラジエーターを説明したが、本燃料電池システムでは、燃料電池スタックの十分な冷却を実現できるなら、その他の熱交換装置が代わりに使用されることがある。
【0039】
例を示した実施態様では、気体交換加湿機またはエンタルピーホイールが使用されるが、本燃料電池システムは、これらの外部空気加湿装置に限定されない。カソード排気から水蒸気を回収できるその他の加湿装置が使用されることがある。同様に、例を示した実施態様は、カソードリサイクルループを使用するが、本燃料電池システムは、カソードリサイクルループを必要とするわけではない。
【0040】
いくつかの用途では、流入空気流を加湿するために、カソード排気が好ましい。これによって、本燃料電池システムの水貯蔵システムの要件が減少し、または不要になるからである。しかし、例えば、大規模な固定発電装置など、ある種の用途では、そのような水貯蔵システムの大きさおよび/またはコストの増加分は、それほど問題ではない。従って、本燃料電池システムのいくつかの実施態様では、空気供給は、カソード排気に加えて、別個の水供給源によって加湿されることもある。
【0041】
本出願者は、スタック内でカソードGDBを使用する燃料電池システムは、常圧近くの圧力において、加湿されていない空気を高い化学量論比で用いると、燃料電池膜を乾燥させてしまうことなしに高温で動作させることはできないことを発見した。本燃料電池システムは、空気流の部分加湿によって、燃料電池性能を維持しながら、常圧に近い圧力での高温動作を可能にする。同時に、液体の水の除去は最小限となるかまたは不要となり、それによって加圧動作およびフラッディングに起因する寄生損失は減少する。上記のように、本燃料電池システムは、受動的な水管理システムに関連する問題も回避する。
【0042】
本明細書中で参照および/または出願データシート中で列挙した上記米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、米国以外の国の特許、米国以外の国の特許出願ならびに非特許出版物は、すべて参照によって本明細書に全体として組み込まれる。
【0043】
以上から、本明細書では説明を目的として本発明の特定の実施態様を説明してきたが、本発明の技術思想および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更を施すことができることが理解されよう。従って、本発明は添付の請求項による以外は、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図において、同一参照番号は、類似の要素または行為を特定する。図面の中の要素のサイズおよび相対位置は、必ずしも一定比率で描かれていない。例えば、さまざまな要素の形状および角度は一定比率で描かれておらず、これらの要素のいくつかは、図面の読みやすさを改善するため、任意に拡大され配置されている。さらに、描かれている要素の特定の形状は、特定の要素の実際の形状に関するいかなる情報も伝えることを意図せず、図面の中での認識しやすさだけを理由として選ばれたものである。
【図1】図1は、本燃料電池システムの実施態様の概略図である。
【図2】図2は、本燃料電池システムの実施態様の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池を含む燃料電池スタックであって、前記燃料電池はカソード気体拡散バリヤー層を有するものとする燃料電池スタック、
前記スタックに燃料を供給する燃料システム、
前記スタックに常圧に近い圧力で空気を供給するブロワ、
前記スタックに供給される空気流およびスタックから出るカソード排気流と流体連通し、前記カソード排気流から前記空気流に水蒸気を移動させる加湿装置、および
前記スタック内に液体冷媒を循環させる冷媒ループ
を含む燃料電池システム。
【請求項2】
前記ブロワは、無段変速ブロワである、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記加湿装置の上流に配置され、前記加湿装置と流体連通するエアフィルタをさらに含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記加湿装置は、気体交換加湿機を含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記加湿装置は、エンタルピーホイールを含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記ブロワは、前記加湿装置の下流に配置される、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記カソード排気流の少なくとも一部を前記燃料電池スタックに戻すカソードリサイクルループをさらに含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記カソードリサイクルループ中に配置されたダンパをさらに含む、請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記カソードリサイクルループ中に配置されたリサイクルブロワをさらに含む、請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記カソードリサイクルループは、前記カソード排気流の残部を前記加湿装置に供給するために前記加湿装置と流体連通する、請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記燃料は、実質的に純水素である、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記燃料供給システムは、デッドエンドである、請求項11に記載の燃料電池システム。
【請求項13】
前記燃料供給システムは、水素リサイクルループを含む、請求項11に記載の燃料電池システム。
【請求項14】
前記冷媒ループは、熱交換器をさらに含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項15】
前記熱交換器は、ラジエーターを含む、請求項14に記載の燃料電池システム。
【請求項16】
前記冷媒は、脱イオン水、エチレングリコールおよびそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項17】
前記気体拡散バリヤー層は、膨張黒鉛シート物質を含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項18】
前記気体拡散バリヤー層は、固体を充てんすることによって多孔性が低くなった領域を有する多孔性の導電性物質を含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項19】
前記気体拡散バリヤー層は、第二の層と燃料電池膜との間にはさまれた第一の層を有するラミネートを含み、前記第一の層は前記第二の層より低い水蒸気に対する透過率を有するものとする、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項20】
前記気体拡散バリヤー層は、微多孔性膜を含む、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項21】
燃料電池システムを動作させる方法であって、
前記システムは、燃料電池スタックを含み、前記燃料電池スタックは、カソード気体拡散バリヤー層を有する複数の燃料電池を含み、前記方法は、
前記スタックに常圧に近い圧力および1より大きな化学量論比で空気を供給すること、
加湿装置にカソード排気流を供給すること、
前記空気の相対湿度をスタック入口飽和点より低く維持すること、
前記カソード排気流の相対湿度をスタック出口飽和点より低く維持すること、および
前記スタックを75℃より高い温度で動作させること
を含むものとする方法。
【請求項22】
前記空気は、約20ミリバールから約50ミリバールの圧力で前記スタックに供給される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記空気は、約1.2から約3.0の化学量論比で前記スタックに供給される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
外部負荷に対する前記燃料電池システムの電力出力が低下するにつれて、前記空気化学量論比を増加させることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記スタック温度が上昇するにつれて、前記空気化学量論比を減少させることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記スタック内に液体冷媒を循環させることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記冷媒を熱交換器内に循環させることをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記空気は、ブロワによって前記スタックに供給され、前記方法は、
前記スタック温度を示す前記スタックの動作パラメータをモニターすること、および
前記モニターしたパラメータに応じて、前記ブロワの速度を変化させること
をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記カソード排気流の少なくとも一部を前記スタックに戻すことをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記スタック温度を示す前記スタックの動作パラメータをモニターすること、および
前記モニターしたパラメータに応じて、前記スタックに戻される前記カソード排気流の比率を変化させること
をさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
複数の燃料電池を含む燃料電池スタックであって、前記燃料電池はカソード気体拡散バリヤー手段を有するものとする燃料電池スタック、
前記スタックに燃料を供給する燃料システム、
前記スタックに常圧に近い圧力で空気を供給する供給手段、
前記スタックから出るカソード排気流から前記スタックに供給される空気流に水蒸気を移動させる加湿手段、および
前記スタック内に液体冷媒を循環させる冷媒ループ
を含む燃料電池システム。
【請求項32】
前記スタックの動作温度を示す動作パラメータを測定するセンサ、および
前記センサから入力を受け取り、前記供給手段によって前記スタックに供給される前記空気の化学量論比を前記入力に応じて制御するように構成された制御手段
をさらに含む、請求項31に記載の燃料電池システム。
【請求項33】
前記カソード排気流の少なくとも一部を前記スタックに戻すリサイクル手段をさらに含む、請求項31に記載の燃料電池システム。
【請求項34】
前記スタックの動作温度を示す動作パラメータを測定するセンサ、および
前記センサから入力を受け取り、前記供給手段によって前記スタックに供給される前記空気の化学量論比と、前記リサイクル手段によって前記スタックに戻される前記カソード排気流の比率との少なくとも一方を、前記入力に応じて制御するように構成された制御手段
をさらに含む、請求項33に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−519469(P2006−519469A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504064(P2006−504064)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000320
【国際公開番号】WO2004/079269
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(303026556)バラード パワー システムズ インコーポレイティド (28)
【Fターム(参考)】