説明

部材位置決め構造

【課題】2つの部材を締結した後の穴開け加工が不要でありかつ位置決めの際の作業性が良い部材位置決め構造を提供する。
【解決手段】部材位置決め構造は、第1位置決め穴4を有する第1部材2と、締結部品14により第1部材2と締結され、第1位置決め穴4に対応する位置に形成された第2位置決め穴8を有する第2部材6と、第2位置決め穴8に隙間を持って嵌まる中空形状のスリーブ部材22と、第1位置決め穴4とスリーブ部材22の中空部24に隙間なく嵌まる位置決めピン16とを備える。スリーブ部材22と第2部材6とが溶接または接着により接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに締結部品で締結される2つの部材の相対位置を調整するための部材位置決め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト等の締結部品により互いに締結される2つの部材を有する装置において、2つの部材の相対位置の正確な位置決めが要求されるものがある。このような位置決めを行うために、従来では種々の位置決め構造が採用されている。
【0003】
例えば、ターボ圧縮機のケーシングは複数のケーシング部品(スクロール、インレット、スクロールカバー)からなり、これらのケーシング部品は製作性または分解・組立の作業性を考慮して個別に製作され組み合わされる場合がある。この場合、ケーシング内に高速回転体である遠心インペラが僅かな隙間を持って配置されるように、ケーシング部品同士の相対位置が調整されて、各部品同士がボルト等により締結される。
【0004】
このようなケーシング部品において、部品同士の相対位置がずれると遠心インペラとケーシング部品との接触を引き起こすため、分解・組立を経てもケーシング部品同士の適切な相対位置が再現されるように、ケーシング部品間の位置決めが施される。このような位置決めをするための構造の第1の従来例として、リーマピン(直軸棒状のピン)やテーパノック(テーパ付きのピン)等の位置決めピンを用いたものがある。
【0005】
第1の従来例の場合、ガタ無く正確に位置決めするために、最初の組立ての際に、2つの部材の相対位置を調整した状態で2つの部材をボルト等で締結し、この状態で2つの部材に同芯の穴(位置決め穴)が形成されるように穴開け加工を施す。そして、分解後、再組立する際には、2つの部材に形成された位置決め穴に、位置決めピン(リーマピンまたはテーパノック)を打ち込んで2つの部材の相対位置を調整してから、2つの部材をボルト等で締結する。
【0006】
上述した第1の従来例は、2つの部材を締結して穴開け加工を施してから位置決めピンを打ち込む構造であるため、穴開け加工時の加工変形が生じる可能性があるとともに、組立時の加工工数が多くなる問題がある。このような問題を解決するために、特許文献1では、図1に示すように、互いにねじ部材57で締結される第1部材51および第2部材52に、対応する位置決め孔53,54を設け、第1部材51の位置決め孔53に密に嵌合して第2部材52の位置決め孔54に隙間を持って嵌まる位置決めピン55を設け、上記の隙間に硬化性の充填剤(接着剤等)56を充填した部材締結構造が提案されている。以下、特許文献1において提案された従来技術を、第2の従来例という。
【0007】
第2の従来例の構造において、第1部材51と第2部材52を再分離時には、ねじ部材57の締め付けを解除するとともに位置決めピン55を嵌合状態の第1部材51の位置決め孔53から抜き、再組立時には、位置決めピン55を第1部材51の位置決め孔53に嵌合させ、ねじ部材57による締結を行う。この場合、位置決めピン55は、初回の組立時に、両部材の位置調整状態で第2部材52に固定されているため、2回目からは、単に第1部材51の位置決め孔53に位置決めピン55を嵌合させるだけで、初回の調整された位置関係が再現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−98007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した第2の従来例では、位置決めピン55は、第1部材51と第2部材52の初回の接合時に、充填剤56によって第2部材52に対して固定される。このため、再組立時には、第2部材52と一体となった位置決めピン55を第1部材51の位置決め孔53に差し込む作業となり、作業性が悪い。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、2つの部材を締結した後の穴開け加工が不要でありかつ位置決めの際の作業性が良い部材位置決め構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、互いに締結部品で締結される2つの部材の相対位置を調整するための部材位置決め構造であって、第1位置決め穴を有する第1部材と、締結部品により前記第1部材と締結され、前記第1位置決め穴に対応する位置に形成された第2位置決め穴を有する第2部材と、前記第2位置決め穴に隙間を持って嵌まる中空形状のスリーブ部材と、前記第1位置決め穴と前記スリーブ部材の中空部に隙間なく嵌まる位置決めピンとを備え、前記スリーブ部材と前記第2部材とが溶接または接着により接合されている、ことを特徴とする。
【0012】
上記の本発明の構造によれば、組立時において、第2部材の第2位置決め穴に隙間を持ってスリーブ部材を挿入し、第1部材の第1位置決め穴とスリーブ部材の中空部に位置決めピンを嵌合させておいて、第1部材と第2部材の相対位置を調整し、両部材を締結部材で締結する。この後、スリーブ部材と第2部材を溶接または接着により接合することで、スリーブ部材を第2部材に対して固定する。これにより、第1部材と第2部材は、位置決めピンにより相互に位置決めされることになる。第1部材と第2部材を再分離するときは、締結部品の締め付けを解除するとともに、位置決めピンをスリーブ部材と第1位置決め穴から引き抜く。再組立時には、スリーブ部材と第1位置決め穴に位置決めピンを差し込んで位置決めを行った後、締結部品により第1部材と第2部材を締結する。
このように、本発明の構造によれば、位置決めピンは、初回の締結時に、第1部材と第2部材の相対位置を調整した状態で第2部材に固定されるので、2回目の締結時(再組立時)には、スリーブ部材と第1位置決め穴に位置決めピンを嵌合させるだけで、初回の締結時に調整された相対位置が再現される。したがって、第1部材と第2部材を締結した後の穴開け加工が不要である。
また、上述した第2の従来例と異なり、本発明の構造によれば、第1部材と第2部材の再分離時には、位置決めピンを第2部材から分離させることが可能となっているので、再組立時には、位置決めピンを第2部材とは独立して取り扱うことが可能である。したがって、位置決め時において位置決めピンの差し込みが簡単である。
【0013】
また、上記の本発明の部材位置決め構造において、前記位置決めピンに螺合するナットと、該ナットと前記第2部材との間に挟まれるワッシャとを備えるようにしてもよい。このように構成した場合、ナットを回すと位置決めピンが引き抜き方向に移動するので、第1部材と第2部材の再分離時において、スリーブ部材と第1位置決め孔から位置決めピンを容易に引き抜くことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の部材位置決め構造によれば、2つの部材を締結した後の穴開け加工が不要でありかつ位置決めの際の作業性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】特許文献1において提案された従来技術を示す図である。
【図2】本発明の部材位置決め構造の第1実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の部材位置決め構造の第2実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の部材位置決め構造を適用することができるターボ圧縮機の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
[第1実施形態]
図2は、本発明の部材位置決め構造の第1実施形態を示す断面図である。図2に示す部材位置決め構造において、第1部材2には締結部品であるボルト14のねじ部と螺合するねじ穴10が形成され、第2部材6にはボルト14を通すためのボルト穴12が形成されており、第1部材2と第2部材6がボルト14により締結されている。
【0018】
第1部材2は第1位置決め穴4(丸穴)を有している。第2部材6は、第1位置決め穴4に対応する位置に、第2位置決め穴8(丸穴)を有している。第2位置決め穴8の内径は、第1位置決め穴4の内径よりも大きく設定されている。第2位置決め穴8は、第2部材6を貫通して形成されている。
【0019】
中空形状(中空円筒型)のスリーブ部材22が、第2位置決め穴8に隙間を持って嵌まっている。すなわち、スリーブ部材22の外径は、第2位置決め穴8の内径よりも小さく設定されている。スリーブ部材22は中空部24を有している。
【0020】
位置決めピン16が、第1位置決め穴4とスリーブ部材22の中空部24に隙間なく嵌まっている。図2に示された位置決めピン16において第1位置決め穴4と中空部24に嵌る部分である嵌合部18は、先細りのテーパ状に形成されている。すなわち、図2の示された構成例において、位置決めピン16はテーパピン(テーパノック)として構成されている。
【0021】
位置決めピン16の嵌合部18のテーパ形状に合わせて、第1部材2の第1位置決め穴4及びスリーブ部材22の中空部24は、それぞれテーパ穴に形成されている。
【0022】
なお、位置決めピン16は、テーパピンに限定されず、嵌合部18が軸方向に一定径であるリーマピンとして構成されてもよい。位置決めピン16がリーマピンとして構成される場合、嵌合部18の直軸形状に合わせて、第1部材2の第1位置決め穴4及びスリーブ部材22の中空部24は、それぞれ平行穴に形成される。
【0023】
スリーブ部材22と第2部材6とが溶接または接着により接合されている。図2中、符号26は、スリーブ部材22と第2部材6との接合部であり、接合が溶接の場合には溶接部、接合が接着の場合には硬化した接着剤である。接着剤としては、硬化後に高い剛性が得られるものが好ましく、例えばエポキシ系接着剤が使用できる。
【0024】
図2に示された第1実施形態では、スリーブ部材22は第2位置決め穴8よりも短く、接合部26は第2位置決め穴8の内部に設けられている。したがって、スリーブ部材22は、第2位置決め穴8の内面において第2部材6と接合され、固定されている。
【0025】
図2に示すように、さらに、位置決めピン16に螺合するナット28と、ナット28と第2部材6との間に挟まれるワッシャ30とを設けてもよい。この場合、位置決めピン16の頭部側にはナット28が螺合する雄ねじ部20が形成されている。ワッシャ30は、位置決めピン16を通す穴を有し、第2位置決め穴8よりも大きい。
【0026】
次に、本発明の第1実施形態の作用を説明する。
【0027】
第1部材2と第2部材6を組み立てるに際して、第2部材6の第2位置決め穴8に隙間を持ってスリーブ部材22を挿入し、第1部材2の第1位置決め穴4とスリーブ部材22の中空部24に位置決めピン16を嵌合させておいて、第1部材2と第2部材6の相対位置を調整した状態にして、第1部材2と第2部材6をボルト14で締結する。
【0028】
この後、スリーブ部材22と第2部材6を溶接または接着により接合することで、スリーブ部材22を第2部材6に対して固定する。これにより、第1部材2と第2部材6は、位置決めピン16により相互に位置決めされることになる。
その後、第1位置決め穴4とスリーブ部材22に嵌合した状態の位置決めピン16に、ワッシャ30を嵌め、ナット28を螺合させる。
【0029】
第1部材2と第2部材6を再分離するときは、ボルト14の締め付けを解除するとともに、位置決めピン16をスリーブ部材22と第1位置決め穴4から引き抜く。この場合、図2の構成例のように位置決めピン16をテーパピンとして構成しておけば、抜き取りが容易である。
再組立時には、スリーブ部材22と第1位置決め穴4に位置決めピン16を差し込んで位置決めを行った後、ボルト14により第1部材2と第2部材6を締結する。
【0030】
このように、本発明の構造によれば、位置決めピン16は、初回の締結時に、第1部材2と第2部材6の相対位置を調整した状態で第2部材6に固定されるので、2回目の締結時(再組立時)には、スリーブ部材22と第1位置決め穴4に位置決めピン16を嵌合させるだけで、初回の締結時に調整された相対位置が再現される。したがって、第1部材2と第2部材6を締結した後の穴開け加工が不要である。
【0031】
また、本発明の構造によれば、第1部材2と第2部材6の再分離時には、位置決めピン16を第2部材6から分離させることが可能となっているので、再組立時には、位置決めピン16を第2部材6とは独立して取り扱うことが可能である。したがって、位置決め時において位置決めピン16の差し込みが簡単である。
【0032】
また、図2のように、ナット28及びワッシャ30を備える構成を採用した場合には、ナット28を回すと位置決めピン16が引き抜き方向に移動するので、第1部材2と第2部材6の再分離時において、スリーブ部材22と第1位置決め孔から位置決めピン16を容易に引き抜くことができる。
【0033】
[第2実施形態]
図3は、本発明の部材位置決め構造の第2実施形態を示す断面図である。第2実施形態において、スリーブ部材22は第2部材6の厚さ(第2位置決め穴8の長さ)よりも長い。このため、接合部26は第2位置決め穴8の外部に設けられている。具体的には、スリーブ部材22は、第2部材6の外面において第2部材6と接合され、固定されている。またワッシャ30は、ナット28とスリーブ部材22との間に挟まれて設けられている。第2実施形態の他の部分の構成は、第1実施形態と同じである。
【0034】
上述した第2実施形態において、第1部材2と第2部材6を位置調整して締結する場合、再分離する場合、及び再組立する場合の手順は、第1実施形態と同じである。
したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、第1部材2と第2部材6の2回目以降の締結時(再組立時)には、スリーブ部材22と第1位置決め孔に位置決めピン16を嵌合させるだけで、初回の締結時に調整された相対位置が再現される。したがって、第1部材2と第2部材6を締結した後の穴開け加工が不要である。
また再組立時には、位置決めピン16を第2部材6とは独立して取り扱うことが可能である。したがって、位置決め時において位置決めピン16の差し込みが簡単である。
【0035】
[本発明の適用例]
図4は、本発明の部材位置決め構造を適用することができるターボ圧縮機40の概略構成を示す図である。
図4に示されたターボ圧縮機40において、回転軸42の先端には遠心インペラ44が連結されており、図示しない駆動装置によって回転軸42が回転駆動されることにより、遠心インペラ44が回転させられる。
【0036】
回転軸42と遠心インペラ44はケーシング45によって囲まれている。ケーシング45は、複数のケーシング部品(インレット46、スクロール48及びスクロールカバー52)からなる。
【0037】
インレット46は、圧縮対象であるガスを導入するための入口通路を形成する部品である。スクロール48は、ボルト等の締結部品によりインレット46に連結された部品であり、圧縮されたガスが導入される環状のスクロール室50を有する。スクロールカバー52は、ボルト等の締結部品によりスクロール48に連結された部品であり、インレット46との間に、遠心インペラ44を出たガスをスクロール48へ導く流路(ディフューザ)を形成する。
【0038】
ターボ圧縮機40において、遠心インペラ44により吸入されたガスは、半径方向外側に送り出される過程で減速加圧された後、スクロール室50に導入され、図示しない排出口から排出される。
【0039】
上述した構成のターボ圧縮機40において、例えば、スクロール48を図2又は図3の第1部材2とし、スクロールカバー52を図2又は図3の第2部材6として、本発明の部材位置決め構造を適用することができる。また、例えば、スクロール48を図2又は図3の第1部材2とし、インレット46を図2又は図3の第2部材6として、本発明の部材位置決め構造を適用することができる。
【0040】
なお、本発明の部材位置決め構造は、ターボ圧縮機40に限られず、2部材の相対位置の正確な位置決めが要求される構造一般に適用することができる。例えば、エアスライド装置の側板と上下板との接合や、工作機械の主軸ヘッドを可動台やフレームへの取付け等における位置決めにも応用することが可能である。
【0041】
上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0042】
2 第1部材
4 第1位置決め穴
6 第2部材
8 第2位置決め穴
10 ねじ穴
12 ボルト穴
14 ボルト(締結部品)
16 位置決めピン
18 嵌合部
20 雄ねじ部
22 スリーブ部材
24 中空部
26 接合部
28 ナット
30 ワッシャ
40 ターボ圧縮機
42 回転軸
44 遠心インペラ
46 インレット
48 スクロール
50 スクロール室
52 スクロールカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに締結部品で締結される2つの部材の相対位置を調整するための部材位置決め構造であって、
第1位置決め穴を有する第1部材と、
締結部品により前記第1部材と締結され、前記第1位置決め穴に対応する位置に形成された第2位置決め穴を有する第2部材と、
前記第2位置決め穴に隙間を持って嵌まる中空形状のスリーブ部材と、
前記第1位置決め穴と前記スリーブ部材の中空部に隙間なく嵌まる位置決めピンとを備え、
前記スリーブ部材と前記第2部材とが溶接または接着により接合されている、ことを特徴とする部材位置決め構造。
【請求項2】
前記位置決めピンに螺合するナットと、
該ナットと前記第2部材との間、又は前記ナットと前記スリーブ部材との間に挟まれるワッシャとを備える、請求項1記載の部材位置決め構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−7209(P2011−7209A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148270(P2009−148270)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】