説明

配水管継手の密封構造

【課題】配水管および継手間に介装されるパッキンが、配水管を流れる水との動的接触により早期に劣化するのを抑制し、もってパッキンの使用寿命を延ばすことができる配水管継手の密封構造を提供する。
【解決手段】配水管と前記配水管を接続する継手との間の径方向クリアランスをパッキンでシールする配水管継手の密封構造において、前記パッキンの軸方向一方側に、前記径方向クリアランスに浸入する水が前記パッキンに動的に接触するのを抑制するための保護フィルタが配置されている。前記保護フィルタは不織布などの柔軟材質よりなる。保護フィルタには、活性炭が担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配水管とこの配水管を接続する継手との間で漏水を防止するための配水管継手の密封構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道水の配水管を接続する継手構造として従来から、配水管を継手本体に挿し込むことによって、継手本体の内周に取り付けたパッキンが配水管の外周面に密接嵌合し、これによって漏水を防止するとともに抜け止めされるようにしたワンタッチ式の配水管継手が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−133748号公報
【0004】
図2は、この種の配水管継手における従来の密封構造を示す図で、継手100によって配水管200,200が直列に接続されている。継手100は、内周に配水管200が挿し込まれる筒状の継手本体101と、配水管200の外周面に食い込むことによってこの配水管200を継手本体101に対して抜け止めする不図示の配水管ホルダと、継手本体101の内周面に形成された装着溝101aに装着されて、その溝内面および配水管200の外周面に密接嵌合されることにより漏水を防止するパッキン102とを有している。また継手本体101の内周面には、継手本体101に対する配水管200の挿入長さを制限するための突起部101bが設けられている。
【0005】
ここで、配水管200内を流れる密封対象の水道水Wは、殺菌のための塩素を含んでいるため、パッキン102の材質としては、耐水性のあるEPDM(エチレンプロピレンゴム)や、耐塩素性および耐熱水性のあるFKM(フッ素ゴム)などが用いられており、特にFKMよりなるパッキン102は、圧縮状態における塩素水との静的な浸漬状態において高い耐久性を示すので、好適に使用されている。
【0006】
しかしながら、水道水が流れる実際の使用では、水道水への静的な浸漬試験での評価結果に比較して早期にパッキン102が劣化してしまうことがあり、問題となっていた。そして、これは、配水管200内を流れる水道水Wの一部が、配水管200の端部から配水管200および継手本体101間の径方向クリアランスへ浸入して、図中矢印Fで示されるような渦流を形成しながらパッキン102に動的に接触し、水道水Wに含まれる塩素の攻撃性によって、パッキン102の接液面からゴム材質中の組成物が水中へ浸出し、これによってパッキン102の劣化が促進されるからであることが判明した。
【0007】
また、残留塩素による劣化も材料の対策だけでは、完全ではないことが分かってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の点に鑑みて、配水管および継手間に介装されるパッキンが配水管を流れる水との動的接触により早期に劣化するのを抑制することができ、もってパッキンの使用寿命を延ばすことができる配水管継手の密封構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封構造は、配水管と前記配水管を接続する継手との間の径方向クリアランスをパッキンでシールする配水管継手の密封構造において、前記パッキンの軸方向一方側に、前記径方向クリアランスに浸入する水が前記パッキンに動的に接触するのを抑制するための保護フィルタが配置され、前記保護フィルタは不織布などの柔軟材質よりなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2による密封構造は、上記した請求項1記載の配水管継手の密封構造において、前記不織布などの柔軟材質よりなる保護フィルタには、活性炭が担持されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成を有する本発明の密封構造においては、配水管および継手間に介装されるパッキンの軸方向一方側に、配水管および継手間の径方向クリアランスに浸入する水がパッキンに動的に接触するのを抑制するための保護フィルタが配置されている。したがって、配水管内を流れる水の一部が配水管および継手間の径方向クリアランスへ浸入して渦流を形成しても、このような流れは保護フィルタによって遮断されてパッキンに到達しにくくなり、よって水はパッキンに対して静的に接触する。したがって、水がパッキンに対して動的に接触する場合と比較してパッキンの劣化の進行を抑制することが可能となる。
【0012】
尚、保護フィルタは不織布などの柔軟材質よりなるので、変形しやすく、よってこの保護フィルタをパッキンに併設することにしても、配水管装着時の挿入抵抗が増大することは殆んどない。したがって、良好な装着作業性を確保することが可能となる。
【0013】
また、不織布などの柔軟材質よりなる保護フィルタに活性炭が担持されることにより、この活性炭が残留塩素の除去作用を奏する。したがって、配水管および継手間の径方向クリアランスに浸入する水に含まれる残留塩素を除去することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0015】
すなわち、本発明の密封構造においては、配水管および継手間に介装されるパッキンの軸方向一方側に保護フィルタが配置されることによって、パッキンに対して水が静的に接触する。したがって、水中に塩素などの物質が含まれている場合でも、これによるパッキンの劣化を抑えることができ、パッキンの使用寿命を延ばすことができる。
【0016】
また、保護フィルタは不織布などの柔軟材質よりなり変形しやすいため、配水管装着時の挿入抵抗が増大することが殆んどない。したがって、良好な装着作業性を確保することができる。
【0017】
また、不織布などの柔軟材質よりなる保護フィルタに活性炭が担持されることにより、配水管および継手間の径方向クリアランスに浸入する水に含まれる残留塩素を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る密封構造を示す断面図
【図2】従来例に係る密封構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1) 本発明は、水道配管用密封構造に関する。本発明は、塩素を含む水道水の配水管用のワンタッチ型継手のシール構成についての発明である。また本発明は、配管用継手の分野で用いられ、あるいは住宅設備の分野で用いられる。
(2) 従来、ワンタッチ型の継手のシールには、Oリングなどのパッキンが使われており、その材質は、耐水性のあるEPDMや、耐塩素性、耐熱水性のあるFKMなどが使用されている。特にFKMのパッキンは、圧縮状態における塩素水との静的な浸漬状態において高い耐久性を示すので、好適に使用されている。しかしながら、水道水が流れる実際の継手では、上記の静的な浸漬での評価結果よりも早くにパッキンが劣化する現象が見られる場合があり、問題となっている。そしてそれは、図2に示す従来のシール構成では、継手本体と配水管との間のクリアランスに水道水の一部が浸入し、浸入した水道水が流れを持ってパッキンに接触し(動的な接触)、これにより早期に劣化が進みやすくなっていることが分かった。また、残留塩素による劣化も材料の対策だけでは、完全ではないことが分かってきている。
【0020】
(3) そこで、密封構造を以下の構成とする。
(4) パッキンに保護フィルタを併設する。
(5) 保護フィルタによるフィルタ機能で、流れ込む水道水がパッキンに対して静的接触となるような構成。
(6) 本発明は、パッキンの密封側(水道水側)に、クリアランスを埋める目的で保護フィルタを配置したシール構造である。これによりパッキンに接触する水道水の流れを低減させる(静的に接触させる)ことを特徴とする。
(7) 保護フィルタは、継手と配水管の装着性を考慮して、不織布等、柔らかい材質で構成される。
(8) 保護フィルタには活性炭を担持させることで、残留塩素を除去する効果をもたらす。
【0021】
(9) 上記の構成によれば、保護フィルタを設けることで、水道水の流れが堰き止められ、パッキンに対して水道水が静的な接触となる。これにより、パッキンの劣化が抑えられるので、パッキンの寿命を静的な接触状態並みに延ばすことができる。
(10) また、保護フィルタに担持した活性炭の効果により、流れ込む水道水の残留塩素を除去する効果が期待できる。
【実施例】
【0022】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施例に係る密封構造の要部半裁断面を示しており、図示するように継手11によって2本の配水管21,21が直列に接続されている。継手11は、内周に配水管21が挿し込まれる筒状の継手本体12と、配水管21の外周面に食い込むことによってこの配水管21を継手本体12に対して抜け止めする不図示の配水管ホルダと、継手本体12の内周面に形成された環状の装着溝13に装着されて、その溝内面および配水管21の外周面に密接嵌合されることにより漏水を防止するパッキン31とを有し、更に保護フィルタ32を有している。継手本体12の内周面には、継手本体12に対する配水管21の挿入長さを制限するための突起部14が設けられており、この突起部14と配水管21の端部との間に軸方向クリアランス41が存在するので、この軸方向クリアランス41を経由して、配水管21内を流れる水(水道水)Wが、配水管21および継手11間の径方向クリアランス42に浸入し、パッキン31が装着されていないと継手11外部へ漏洩してしまうことになる。
【0024】
パッキン31は、Oリングよりなり、その装着前の自由状態における外径寸法が装着溝13の溝底部の内径寸法よりも大きく設定されることにより継手11に対する締め代が設定されるとともに、その装着前の自由状態における内径寸法が配水管21の外径寸法よりも小さく設定されることにより配水管21に対する締め代が設定されている。
【0025】
パッキン31の材質としては、耐水性のあるゴム状弾性材料(ゴム材料またはゴム状弾性を有する合成樹脂材料)、なかでも耐塩素性および耐熱水性のあるFKM(フッ素ゴム)よりなるものとされている。
【0026】
一方、保護フィルタ32は、不織布を環状としたものであって断面短冊状を呈し、パッキン31の軸方向一方側すなわち密封側(配水管21の端部側)に配置されて、パッキン31とともに装着溝13内に装着されている。保護フィルタ32の装着前の自由状態における外径寸法は装着溝13の溝底部の内径寸法よりも大きく設定されることにより保護フィルタ32は装着溝13の溝底部に接触するとともに、その装着前の自由状態における内径寸法は配水管21の外径寸法よりも小さく設定されることにより保護フィルタ32は配水管21の外周面に接触しており、これにより保護フィルタ32はパッキン31の軸方向一方側で径方向クリアランス42を完全に遮断している。
【0027】
また、この保護フィルタ32には、不図示の活性炭成分が担持されている。
【0028】
上記構成の密封構造において、配水管21内を水道水Wが図中左側から右側へ流れるものと仮定すると、この水道水Wの一部は、突起部14および配水管21端部間の軸方向クリアランス41から、配水管21および継手11間の径方向クリアランス42へと浸入し、図中矢印Fで示されるような渦流を形成する。
【0029】
しかしながら、このような流れFは、パッキン31の軸方向一方側に配置された保護フィルタ32によって遮断されるので、保護フィルタ32とパッキン31との間の空間33に流入した水道水Wには、流れがほとんどなく、よって水道水Wはパッキン31に対して静的に接触する。
【0030】
したがって、パッキン31の組成物が、水道水W中の塩素の攻撃性によって空間33の水道水Wへ経時的に浸出しても、この浸出物質が空間33で飽和することによって、組成物の新たな浸出が抑制される。このため、パッキン31の劣化が水道水Wとの動的接触により促進されるのを有効に防止することができる。
【0031】
また、上記構成の密封構造においては、保護フィルタ32が不織布よりなるため、変形しやすく、よって保護フィルタ32をパッキン31に併設することにしても、配水管装着時の挿入抵抗が増大することが殆んどない。したがって、良好な装着作業性を確保することができる。
【0032】
また、上記構成の密封構造においては、保護フィルタ32に活性炭成分が担持されているために、配水管21および継手11間の径方向クリアランス42に浸入する水に含まれる残留塩素を除去することができ、または少なくともその濃度を低減させることができる。
【0033】
尚、上記実施例では、パッキン31の軸方向一方側に保護フィルタ32を1つ分併設したが、複数を軸方向直列に併設するようにしても良い。保護フィルタ32の材質としては、不織布のほかに例えばスポンジなどであっても良い。またパッキンの種類としては、Oリングのほかに例えばDリングやリップパッキンなどであっても良い。
【符号の説明】
【0034】
11 継手
12 継手本体
13 装着溝
14 突起部
21 配水管
31 パッキン
32 保護フィルタ
33 空間
41 軸方向クリアランス
42 径方向クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配水管と前記配水管を接続する継手との間の径方向クリアランスをパッキンでシールする配水管継手の密封構造において、
前記パッキンの軸方向一方側に、前記径方向クリアランスに浸入する水が前記パッキンに動的に接触するのを抑制するための保護フィルタが配置され、前記保護フィルタは不織布などの柔軟材質よりなることを特徴とする配水管継手の密封構造。
【請求項2】
請求項1記載の配水管継手の密封構造において、
前記不織布などの柔軟材質よりなる保護フィルタには、活性炭が担持されていることを特徴とする配水管継手の密封構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−190835(P2011−190835A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55669(P2010−55669)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】