説明

配線基板およびコンピュータ

【課題】配線の形状や面積を変更することなく、伝送特性の良好な配線基板を提供する。
【解決手段】グランド電位が供給されるグランド層GNDと、グランド層GND上に配置された絶縁層L1と、絶縁層L1を介してグランド層GNDと対向するように配置され、差動伝送方式により信号を伝送する第1配線WLおよび第2配線WRと、を備え、グランド層GNDは、第1配線WLおよび第2配線WRよりも抵抗率の高い材料で形成されている配線基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線基板に関し、特に、グランド電位が供給されるグランド層と差動伝送方式により信号を伝送する配線とを備える配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイルパーソナルコンピュータに使われるデータの伝送速度は高速化している。これに伴い、信号を伝送する配線基板への高速伝送特性要求も高度なレベルとなっている。さらに近年では、メイン基板とハードディスクドライブ(HDD)との接続など、高速な信号を用いる部分にも、例えばフレキシブル基板(FPC)等の配線基板が使われるようになってきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、伝送時間とインピ―ダンス制御のための各種開口パタ―ンのあるシールド平面を備えた基板が提案されている。この文献に開示された基板では、グランド層に開口パターンを空けることでインダクタンス値を変更させ、特性インピーダンス制御や伝播遅延制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−77802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年のデジタルプロダクト製品では、軽量化・小型/薄型化が非常に進んできている。このため、配線の形状や面積を変更することが困難であった。さらに、回路に供給される信号は非常に高速化され、より一層の伝送特性改善を行う必要があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであって、配線の形状や面積を変更することなく、伝送特性の良好な配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様による配線基板は、グランド電位が供給されるグランド層と、前記グランド層上に配置された絶縁層と、前記絶縁層を介して前記グランド層と対向するように配置され、差動伝送方式により信号を伝送する第1配線および第2配線と、を備え、前記グランド層は、前記第1配線および前記第2配線よりも抵抗率の高い材料で形成されている配線基板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、配線の形状や面積を変更することなく、伝送特性の良好な配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態にかかる配線基板の一構成例を説明するための図である。
【図2】図1に示す配線基板について、グランド層の抵抗率を変更して伝送信号の減衰率を測定した結果の一例を示す図である。
【図3】図1に示す配線基板について、グランド層の抵抗率を変更して伝送信号の減衰率を測定した結果の一例を示す図である。
【図4】図1に示す配線基板について、グランド層の抵抗率を変更して伝送信号の減衰率を測定した結果の他の例を示す図である。
【図5】図1に示す配線基板の伝送配線の等価回路を示す図である。
【図6】図1に示す配線基板における差動配線の磁界の一例について説明するための図である。
【図7】図1に示す配線基板について、グランド層の厚さを変更して伝送信号の減衰率を測定した結果の一例を示す図である。
【図8】図1に示す配線基板について、グランド層の抵抗率および膜厚を変更して伝送信号の減衰率を測定した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態に係る配線基板について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る配線基板は、グランド電位が供給されるグランド層GNDと、絶縁層L1を介してグランド層GND上に配置された第1配線WLおよび第2配線WRと、を備えている。グランド層GNDは、本実施形態に係る配線基板の基板面に渡って平面状に配置されている。第1配線WLおよび第2配線WRは、図1に示す断面においてX方向に並んで配置されている。
【0011】
本実施形態では、第1配線WLおよび第2配線WRは、例えば銅により形成されている。グランド層GNDは、第1配線WLおよび第2配線WRよりも抵抗率の高い材料で形成されている。本実施形態では、グランド層GNDは、例えば銅よりも高抵抗な材料により形成されている。
【0012】
銅より高抵抗な材料とは、例えば、導電ペーストである銀ペースト等であってと、導電材料と非導電性材料とが混合した材料である。銀ペーストは、銀の粒子同士の接触により導電性が保たれる。そのため、銀ペーストは、単体での銀の状態よりも大幅に抵抗率が高くなる。また、導電ペーストは、混合される導電材料と非導電材料との割合を調整することによって、抵抗を所望の大きさに設定することができる。また、銅より高抵抗な材料とは、シリコン等の半導体材料である。
【0013】
第1配線WLおよび第2配線WRは、例えば差動伝送方式を採用した高速信号の伝送に用いられる。したがって、第1配線WLおよび第2配線WRは、互いに供給される信号により、所定の信号を伝送している。差動伝送方式により信号を伝送すると、シングルエンド方式を採用した場合よりも伝送する信号へのノイズの影響を低減させることができるとともに、高速に信号を伝送することが可能である。
【0014】
ここで、上記の配線基板において、第1配線WLおよび第2配線WRによる信号の伝送特性を改善するために、グランド層GNDの抵抗率を変更して、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送する信号の減衰率を測定した。なお、図2および図3に示す場合では、第1配線WLおよび第2配線WRは、抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]である銅により形成されているものとした。図2および図3は、横軸を周波数、縦軸を減衰率とし、各周波数の信号を伝送する際の信号の減衰率を示している。
【0015】
例えば、抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]であって厚さ(Y方向の幅)TGが35μmである銅によりグランド層GNDを形成した場合(図2に示すグラフG1)と、抵抗率が2×10−7[Ω・m]であって厚さTGが35μmであるグランド層GNDを備える場合(図2に示すグラフG2)とで、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送される信号の減衰率を比較した結果を図2に示す。図2に示すように、グランド層GNDの抵抗率を銅の略10倍程度にした場合には、銅を用いた場合よりも減衰率が大きくなった。
【0016】
また、例えば、抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]であって厚さTGが35μmである銅によりグランド層GNDを形成した場合(図3に示すグラフG1)と、抵抗率が1[Ω・m]であって厚さTGが35μmであるグランド層GNDを備える場合(図3に示すグラフG3)とで、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送される信号の減衰率を比較した結果を図3に示す。
【0017】
図3に示すように、グランド層GNDの材料として銅よりも抵抗率が十分に高い材料を用いた場合、第1配線WLおよび第2配線WRにより伝送される信号の減衰率が改善された。
【0018】
さらに、例えば抵抗率が銅よりも1×10倍以上である材料を用いたグランド層GNDを形成した場合(図4に示すグラフG3´)と、銅を用いて同じ厚さTGのグランド層GNDを形成した場合(図4に示すグラフG1´)とで、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送される信号の減衰率を比較した結果を図4に示す。
【0019】
図4に示すように、グランド層GNDの材料として抵抗率が1×10倍以上である材料を用いた場合、銅を用いた場合よりも第1配線WLおよび第2配線WRにより伝送される信号の減衰率が改善された。
【0020】
上記のように、グランド層GNDが、第1配線WLおよび第2配線WLの抵抗率よりも十分抵抗率が高い材料を用いて形成される場合には、第1配線WLおよび第2配線WRによる信号伝送特性が改善された。
【0021】
図5に、第1配線WLおよび第2配線WRの等価回路を示す。第1配線WLおよび第2配線WRの電気的なパラメータは、図5に示す抵抗R、インダクタンスL、コンダクタンスG、キャパシタンスCの分布定数で表すことが出来る。
【0022】
第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送される信号の減衰を表す手法の一つとして減衰定数αが存在する。減衰定数αは、((R+jωL)(G+jωC))の実数項となる。この減衰定数αの数式から、上記のようにグランド層GNDの抵抗率と、第1配線WLおよび第2配線WRにより伝送される信号の減衰率との関係について検討する。
【0023】
図5に示す抵抗Rの大きさは、第1配線WL(あるいは第2配線WR)および信号の戻り道となるグランド層GNDの抵抗分である。コンダクタンスGは、第1配線WL(あるいは第2配線WR)とグランド層GNDとの間の絶縁体の漏れ電流によって発生する成分である。
【0024】
また、キャパシタンスCとインダクタンスLとは、第1配線WL(あるいは第2配線WR)とグランド層GNDとの間の結合関係や、絶縁層の材質によって変動する成分である。コンダクタンスGはキャパシタンスCに比例する。つまり、キャパシタンスCが大きければ、コンダクタンスGも大きくなる。
【0025】
上記関係を鑑みると、減衰定数αの中でインダクタンスLの値のみ、減衰定数αの値の変動要因とはなるが比例関係とならない、すなわち、インダクタンスLが大きくなっても、減衰定数αが大きくならないことが分かる。
【0026】
逆に、抵抗R、コンダクタンスG、および、キャパシタンスCの値は、減衰定数αと比例関係を有しており、値が大きくなるとそのまま減衰定数αを大きくすることになる。実装上、配線基板の体積には限りがあるので、抵抗R、コンダクタンスG、およびキャパシタンスCとも、大きくすることはし易いが、小さくすることは困難である。
【0027】
そこで本実施形態では、抵抗R、コンダクタンスG、およびキャパシタンスCを変更せず、インダクタンスLを上昇させて、信号の減衰率を減らしている。減衰定数αを算出する式からも分かるように、インダクタンスLが一定以上の大きさとなると逆に減衰率が大きくなるが、本願発明者らは、通常のフレキシブル基板(FPC)や配線基板に用いられるパラメータの多くは、インダクタンスLのみを上昇させることによって、減衰率を低下させることが可能であること確認している。
【0028】
そこで、本実施形態に係る配線基板では、第1配線WLおよび第2配線WRと、グランド層GNDとの間の結合関係を弱くしている。本実施形態に係る配線基板において、第1配線WLおよび第2配線WLで差動信号を伝送している際の磁界分布を図6に示す。
【0029】
図6に示すように、第1配線WLおよび第2配線WRの周囲に生じた磁界は、矢印で示すようにグランド層GNDを貫通して生じている。すなわち、第1配線WLおよび第2配線WRの周囲に生じた磁界は、グランド層GNDが無い状態における磁界と略同様な状態であった。これはグランド層GNDに抵抗率の十分高い材料(例えばシリコン等の半導体材料や導電ペースト)を用いたことに起因している。
【0030】
例えば、グランド層GNDの材料に第1配線WLおよび第2配線WRと略同程度の抵抗率である材料を採用した場合、第1配線WLおよび第2配線WRの周囲に生じた磁界は、グランド層GNDを貫通せず、グランド層GNDよりも第1配線WLおよび第2配線WR側にしか生じない。
【0031】
なお、抵抗率の十分高い材料とは、第1配線WLおよび第2配線WRに用いた材料の抵抗率に対して、1×10倍以上の抵抗率を有する材料であって、例えば図3及び図4に示す測定に用いた材料ように、第1配線WLおよび第2配線WRを抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]である銅により形成した場合に、抵抗率が1[Ω・m]である材料である。
【0032】
上記のように、第1配線WLおよび第2配線WRよりも抵抗率が十分高い材料によりグランド層GNDを形成した場合、グランド層GNDに銅等の導体を用いたときに比べ、グランド層GNDと差動信号配線(第1配線WLおよび第2配線WR)との間の結合が弱くなるため、インダクタンスLの値が高くなる。
【0033】
抵抗Rに関しては、グランド層GNDを無視して、差動信号が供給される第1配線WLおよび第2配線WRにしかほとんど電流は流れないので、グランド層GNDに銅等の導体がある場合とそれほど変化はない。
【0034】
また、キャパシタンスCやコンダクタンスGに関しては、磁界ではなく、電界によって定義される項目となる。銅等の導体であっても、シリコン等の抵抗率が十分高い材料であっても、グランド層GNDの表面に電荷を貯められるという点に差異はなく、第1配線WLおよび第2配線WRの周囲に生じる電界には変動が起きない。よって、キャパシタンスCやコンダクタンスGの値は変動しない。
【0035】
以上により、本実施形態に係る配線基板では、グランド層GNDの抵抗率を十分高くすることにより第1配線WLあるいは第2配線WRのインダクタンスLの値のみを変更させ、銅等の導体をグランド層GNDに用いた場合より減衰率の少ない差動伝送路を供給している。
【0036】
すなわち、上記のように、本実施形態に係る配線基板によれば、配線の形状や面積を変更することなく、伝送特性の良好な配線基板を提供することができる。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態に係る配線基板について図面を参照して以下に説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態に係る配線基板と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施形態に係る配線基板は、上述の第1実施形態に係る配線基板と同様に、グランド電位が供給されるグランド層GNDと、絶縁層L1を介してグランド層GND上に配置された第1配線WLおよび第2配線WRと、を備えている。グランド層GNDは、本実施形態に係る配線基板の基板面に渡って平面状に配置されている。第1配線WLおよび第2配線WRは、例えば差動伝送方式を採用した高速信号の伝送に用いられる。
【0039】
本実施形態では、第1配線WLおよび第2配線WRは、例えば銅により形成されている。グランド層GNDは、第1配線WLおよび第2配線WRよりも抵抗率の高い材料で形成されている。本実施形態では、グランド層GNDは、例えば銅よりも高抵抗な材料により形成されているとともに十分薄く形成されている。
【0040】
銅より高抵抗な材料とは、例えば、シリコン等の半導体材料や銀ペースト等の導電ペーストであって、その抵抗率が例えば銅の抵抗率の略10倍よりも大きい材料である。例えば、銀ペーストは塗布前の状態では流動性を持った液体であり、かつ、塗布後に銀粒子以外の溶剤を乾燥させることで固着を行う材料である。乾燥工程を考慮すると膜厚を増やし難く、一般的な銅箔よりも膜厚が薄くなる。
【0041】
また、銅より高抵抗な材料とは、シリコン等の半導体材料である。半導体材料により十分薄い層を形成する際には、例えばスピンコート法により半導体材料を塗布することにより、薄膜を形成することが可能である。
【0042】
ここで、上記の配線基板において、第1配線WLおよび第2配線WRによる信号の伝送特性を改善するために、グランド層GNDの厚さTGを変更して、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送する信号の減衰率を測定した。なお、図7に示す場合では、第1配線WLおよび第2配線WRは、抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]である銅により形成されているものとした。図7は、横軸を周波数、縦軸を減衰率とし、各周波数の信号を伝送する際の信号の減衰率を示している。
【0043】
例えば、抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]であって厚さTGが35μmである銅によりグランド層GNDを形成した場合(図7に示すグラフG1)と、抵抗率が2×10−7[Ω・m]であって厚さTGが0.01μmであるグランド層GNDを備える場合(図7に示すグラフG4)とで、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送される信号の減衰率を比較した結果を図7に示す。
【0044】
図7に示すように、グランド層GNDの抵抗率を銅の略10倍程度にし、かつ、グランド層GNDの厚さTGを薄くした場合、図2に示す場合よりも減衰率の低下が改善され、銅よりも減衰率が高くなる場合もあった。
【0045】
上記のように、グランド層GNDが、第1配線WLおよび第2配線WRの抵抗率よりも抵抗率が高くかつ十分に薄い場合には、第1配線WLおよび第2配線WLによる信号伝送特性が改善された。
【0046】
本実施形態では、抵抗R、コンダクタンスG、およびキャパシタンスCを変更せず、インダクタンスLを上昇させて、信号の減衰率を減らしている。
【0047】
すなわち、本実施形態では、グランド層GNDに抵抗率が高く、かつ、十分薄い材料を用いたことに起因して信号の減衰率を減らしている。なお、抵抗率が高く、かつ、薄い材料とは、グランド層GNDの抵抗率を第1配線WLおよび第2配線WRに用いた材料の抵抗率に対して略10倍以上の抵抗率を有する材料であって、例えば図7に示すように、第1配線WLおよび第2配線WRを抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]である銅により形成した場合に、抵抗率が2×10−7[Ω・m]であって厚さTGが0.01μmである材料である。このとき、グランド層GNDの厚さTGは、少なくとも3μm以下とすることが望ましい。
【0048】
上記のように、第1配線WLおよび第2配線WRよりも抵抗率が高くかつ薄い材料によりグランド層GNDを形成した場合では、グランド層GNDに銅等の導体を用いたときに比べ、グランド層GNDと差動信号配線(第1配線WLおよび第2配線WR)との間の結合が弱くなるため、インダクタンスLの値が高くなる。
【0049】
抵抗Rに関しては、グランド層GNDを無視して、差動信号が供給される第1配線WLおよび第2配線WRにしかほとんど電流は流れないので、グランド層GNDに銅等の導体がある場合とそれほど変化はない。
【0050】
また、キャパシタンスCやコンダクタンスGに関しては、磁界ではなく、電界によって定義される項目となる。銅等の導体であっても、銅よりも抵抗率が高い材料であっても、グランド層GNDの表面に電荷を貯められるという点に差異はなく、第1配線WLおよび第2配線WRの周囲に生じる電界には変動が起きない。よって、キャパシタンスCやコンダクタンスGの値は変動しない。
【0051】
以上により、本実施形態に係る配線基板では、グランド層GNDを抵抗率が高い材料で形成するとともに十分薄くすることにより、第1配線WLあるいは第2配線WRのインダクタンスLの値のみを変更させ、銅等の導体をグランド層GNDに用いた場合より減衰率の少ない差動伝送路を供給している。
【0052】
すなわち、上記のように、本実施形態に係る配線基板によれば、配線の形状や面積を変更することなく、伝送特性の良好な配線基板を提供することができる。
【0053】
次に、本発明の第3実施形態に係る配線基板について図面を参照して以下に説明する。本実施形態に係る配線基板は、上述の第1実施形態に係る配線基板と同様に、グランド電位が供給されるグランド層GNDと、絶縁層L1を介してグランド層GND上に配置された第1配線WLおよび第2配線WRと、を備えている。グランド層GNDは、本実施形態に係る配線基板の基板面に渡って平面状に配置されている。第1配線WLおよび第2配線WRは、例えば差動伝送方式を採用した高速信号の伝送に用いられる。
【0054】
本実施形態では、第1配線WLおよび第2配線WRは、例えば銅により形成されている。グランド層GNDは、第1配線WLおよび第2配線WRよりも抵抗率の高い材料で形成されている。本実施形態では、グランド層GNDは、例えば銅よりも十分高抵抗な材料により形成されている。
【0055】
銅より十分高抵抗な材料とは、例えば、シリコン等の半導体材料や銀ペースト等の導電性ペーストである。例えば、銀ペーストは塗布前の状態では流動性を持った液体であり、かつ、塗布後に銀粒子以外の溶剤を乾燥させることで固着を行う材料である。乾燥工程を考慮すると膜厚を増やし難く、一般的な銅箔よりも膜厚が薄くなる。半導体材料により十分薄い層を形成する際には、例えばスピンコート法により半導体材料を塗布することにより、薄膜を形成することが可能である。
【0056】
ここで、上記の配線基板において、第1配線WLおよび第2配線WRによる信号の伝送特性を改善するために、グランド層GNDの抵抗率および厚さTGを変更して、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送する信号の減衰率を測定した。なお、図8に示す場合では、第1配線WLおよび第2配線WRは、抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]である銅により形成されているものとした。図8は、横軸を周波数、縦軸を減衰率とし、各周波数の信号を伝送する際の信号の減衰率を示している。
【0057】
例えば、抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]であって厚さTGが35μmである銅によりグランド層GNDを形成した場合(図8に示すグラフG1)と、抵抗率が1[Ω・m]であって厚さTGが0.1μmであるグランド層GNDを備える場合(図8に示すグラフG5)とで、第1配線WLおよび第2配線WRによって伝送される信号の減衰率を比較した結果を図8に示す。
【0058】
図8に示すように、グランド層GNDの材料として銅よりも抵抗率が十分に高い材料を用い、かつ、グランド層GNDの厚さTGを薄くした場合には、図7に示す場合よりもさらに減衰率が改善され、高周波の信号を伝送する場合であっても伝送特性が良好であった。
【0059】
上記のように、グランド層GNDが、第1配線WLおよび第2配線WRの抵抗率よりも抵抗率が十分高くかつ十分に薄い場合には、第1配線WLおよび第2配線WLによる信号伝送特性が改善された。
【0060】
本実施形態では、抵抗R、コンダクタンスG、およびキャパシタンスCを変更せず、インダクタンスLを上昇させて、信号の減衰率を減らしている。
【0061】
すなわち、本実施形態では、グランド層GNDに抵抗率が十分高く、かつ、十分薄い材料を用いたことに起因して信号の減衰率を減らしている。なお、抵抗率が十分高くかつ十分薄い材料とは、グランド層GNDの抵抗率を第1配線WLおよび第2配線WRに用いた材料の抵抗率に対して略1×10倍以上の抵抗率を有する材料であって、例えば図8に示すように、第1配線WLおよび第2配線WRを抵抗率が1.724×10−8[Ω・m]である銅により形成した場合に、抵抗率が1[Ω・m]であって厚さTGが0.1μmである材料である。このとき、グランド層GNDの厚さTGは、少なくとも3μm以下とすることが望ましい。
【0062】
上記のように、第1配線WLおよび第2配線WRよりも抵抗率が十分高くかつ十分薄い材料によりグランド層GNDを形成した場合では、グランド層GNDに銅等の導体を用いたときに比べ、グランド層GNDと差動信号配線(第1配線WLおよび第2配線WR)との間の結合が弱くなるため、インダクタンスLの値が高くなる。
【0063】
抵抗Rに関しては、グランド層GNDを無視して、差動信号が供給される第1配線WLおよび第2配線WRにしかほとんど電流は流れないので、グランド層GNDに銅等の通常導体がある場合とそれほど変化はない。
【0064】
また、キャパシタンスCやコンダクタンスGに関しては、磁界ではなく、電界によって定義される項目となる。銅等の導体であっても、銅よりも抵抗率が高い材料であっても、グランド層GNDの表面に電荷を貯められるという点に差異はなく、第1配線WLおよび第2配線WRの周囲に生じる電界には変動が起きない。よって、キャパシタンスCやコンダクタンスGの値は変動しない。
【0065】
以上により、本実施形態に係る配線基板では、グランド層GNDを抵抗率が十分高い材料で形成するとともに十分薄くすることにより、第1配線WLあるいは第2配線WRのインダクタンスLの値のみを変更させ、銅等の導体をグランド層GNDに用いた場合より減衰率の少ない差動伝送路を供給している。
【0066】
すなわち、上記のように、本実施形態に係る配線基板によれば、配線の形状や面積を変更することなく、伝送特性の良好な配線基板を提供することができる。
【0067】
配線の減衰率を上げようとすると、信号配線を太くするか、絶縁層の材料を変えるという改善方法が提案されていた。しかし、上述の第1乃至第3実施形態に係る配線基板によれば、グランド層GNDの導体材料を変更することで特性を改善でき、伝送特性の改善の幅を増すことができた。従来では、高抵抗の材料を用いると減衰が大きいという認識であったが、グランド層GNDを十分に薄くしたり、抵抗率を十分高くしたりすることで、今までとは全く違う方法により特性を改善することが出来た。
【0068】
すなわち、上記のように、グランド層GNDを第1配線WLおよび第2配線WRの材料よりも、抵抗率の十分高い材料で形成する、抵抗率が高くかつ十分薄い材料で形成する、あるいは、抵抗率が十分高くかつ十分薄い材料で形成することによって、第1配線WLおよび第2配線WRにより伝送される信号の減衰率を改善することができた。
【0069】
したがって、上述の第1乃至第3実施形態にかかる配線基板によれば、配線の形状や面積を変更することなく、伝送特性の良好な配線基板を提供することができる。
【0070】
なお、この発明は、上記実施形態そのものに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、上記実施形態に係る配線基板と同様の構造をしたフレキシブルプリント基板(FPC)、フレキシブルフラットケーブル(FFC)、両面プリント配線板(PWB)などに適用した場合であっても、同様の効果を得ることができる。特に、グランド層GNDとして抵抗率が高くかつ薄い材料を用いる場合には、フレキシブルプリント基板やフレキシブルフラットケーブルを屈曲させることが容易となるとともに、軽量化を実現することができる。
【0071】
また、例えば差動伝送方式により信号を伝送するケーブルの外皮にグランド層GNDが配置されている場合であっても、グランド層GNDとして抵抗率の十分高い材料、抵抗率が高くかつ薄い材料、あるいは抵抗率が十分高くかつ薄い材料を用いた場合には、上記実施形態に係る配線基板と同様の効果を得ることができる。
【0072】
また、上記実施形態に係る配線基板と同様の構成を備え、第1配線WLあるいは第2配線WRの一方にグランド電位が供給されるものであっても、グランド層GNDとして抵抗率の十分高い材料、抵抗率が高くかつ薄い材料、あるいは抵抗率が十分高くかつ薄い材料を用いた場合には、上記実施形態に係る配線基板と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0074】
GND…グランド層、L1…絶縁層、WL…第1配線、WR…第2配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランド電位が供給されるグランド層と、
前記グランド層上に配置された絶縁層と、
前記絶縁層を介して前記グランド層と対向するように配置され、差動伝送方式により信号を伝送する第1配線および第2配線と、を備え、
前記グランド層は、前記第1配線および前記第2配線よりも抵抗率の高い材料で形成されている配線基板。
【請求項2】
前記グランド層の材料は、半導体材料である請求項1記載の配線基板。
【請求項3】
前記グランド層の材料は、銀ペーストである請求項1記載の配線基板。
【請求項4】
前記配線基板はフレキシブル配線基板である、請求項1記載の配線基板。
【請求項5】
前記グランド層の材料の抵抗率は、前記第1配線および第2配線の抵抗率の1×10倍以上である請求項1記載の配線基板。
【請求項6】
前記グランド層の厚さは、3μm以下である請求項1記載の配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−35316(P2011−35316A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182675(P2009−182675)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年5月20日 社団法人エレクトロニクス実装学会発行の「超高速高周波エレクトロニクス実装研究会 平成21年度第1回公開研究会論文集Vol.9,No.1」に発表
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】