説明

配線基板または半導体回路の電気銅めっき液のモニター方法

【課題】配線基板又は半導体回路におけるブラインドビアやトレンチの穴埋め状況を効率よくモニターしながら電気めっきする方法は存在しなかった。
【解決手段】モニター用器具として、デイスク電極8とそれを中心として回転する回転リング7とから構成される回転リングデイスク電極6を設け、この両電極間にP−Rパルス電流11を印加し、このときのリング電極電位をSPS(促進剤)が酸化しない電位領域に固定し、リング電極を流れる電流信号を測定して添加剤と一価銅とが作る促進錯体をモニターする配線基板または半導体回路の電気銅めっき液のモニター方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビア穴(ビアホール)の銅めっき法、すなわち銅ダマシンめっき法に関し、特に添加剤と一価銅とが作る促進錯体を回転リングデイスク電極でモニターしながら多層基板の配線層(導体層)間を接続するビアホールの銅めっきを行うことを特徴とする配線基板又は半導体回路の電気銅めっき液のモニター方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層配線板(多層基板)の高密度化を図るため、ビルドアップ配線板が使用されている。このビルドアップ配線板では配線層間の接続にビアホールが使用されている。3層以上にわたって接続が必要な場合、配線の自由度を高めるために、銅ダマシンめっき法を利用してビアホール内を充填めっき層で満たしておく必要がある。この場合、樹脂製の絶縁層にビアホールを形成し、その底面及び内周面に化学銅めっき層を形成した後、電解銅めっきによりビアホール内に充填めっき層を形成してゆく。
【0003】
近時、電気銅めっきによりビアホール内に充填めっき層を形成する配線基板の製造法としては、例えば、銅ダマシンめっき法が利用されている。このめっき法では、例えば硫酸銅めっき液に次のような添加剤が使用されている。促進剤(以下「SPS」とする)として、ビス(3−スルフォプロピル)ジ・スルフォイド、抑制剤(以下「PEG」とする)としては、ポリエチレングリコール、それに塩素イオン(Cl)、さらに平滑剤(以下「JGB」とする)として、ヤーヌス・グリーンBが使用され、その中でも促進剤の存在が穴底の銅めっきを局所的に促進するため、この促進錯体のモニター結果が、このめっき法の成否を左右していた。
【0004】
一方従来、このモニター法としては、絶縁材料に径が2mm以下、深さが2mm以下で、かつアスペクト比が5以下である複数の穴をあけ、穴底部と穴上面近傍に電極を配置して、穴底部の電極同士及び穴上面近傍の電極同士は電気的に導通し、かつ、穴底部の電極と穴上面近傍の電極は電気的に絶縁された状態で、穴底部の電極の前記絶縁材料に接しない面に絶縁層が形成されている試験片を用いて電気化学的にモニターを実施しており、少なくとも銅(II)塩、酸または電気伝導塩、促進剤及び抑制剤を含む電気銅めっき液の制
御を行いながら銅めっきを行う方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2002―368384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような従来のモニター法を用いての製造方法においては、2mm以下の間隔をあけての絶縁材料を隔てて隣接する電極を備える構成のモニター用器具等の正確な作成の困難さ、更には微細な穴あけ作業の困難さ、また電気化学的モニターとして、2mm以下の穴に電気化学生成物が析出するため、これらのモニター用器具が再使用できず、ゆえにこのユニークな方法の利用も、使用が躊躇されるという問題があった。
【0007】
また、銅めっき法によるビア穴埋めは近年注目を集めているが、銅めっき液には促進剤を含め複数の添加剤が含まれており、その促進剤と一価銅とが作る促進錯体をモニターする方法、つまり銅ダマシンめっき法におけるモニター方法がこの種めっき法では重要であるが、有効なモニター方法が技術上存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記する問題に対処するために、添加剤と一価銅とが作る促進錯体のモニター法を提案するもので、簡単な構成で、且つ繰り返し利用できる回転リングデイスク電極でリング電流を測定しようとするもので、デイスク電極とそれを中心として回転する回転リングとから構成される回転リングデイスク電極を有し、デイスク電極で銅めっき反応を起こし、その時発生する添加剤と一価銅とが作る促進錯体をリング電極の電流信号によりモニターする方法である。
【0009】
すなわち、リング電極の電位を促進剤が酸化しない電位領域0.9V(標準電極 Hg/H2CL2−0.5mol/L K2SO4)以下に固定し、デイスク電極上でのメッキ反応に伴い銅めっき液の添加剤と一価銅とで形成される中間錯体をリング電流信号としてモニターし、銅めっきの析出を検知する配線基板または半導体回路の電気銅めっき液のモニター方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の配線基板または半導体回路の電気銅めっき液のモニター方法によれば、リング電極の電位を促進剤が酸化しない電位領域0.9V(標準電極 Hg/H2CL2−0.5mol/L K2SO4)以下に固定し、例えば、回転リングデイスク電極のデイスク電極とリング電極間に、その各々の継続時間が200ms/10ms/200ms、その間の電流値が−20mA/40mA/0mA/cm2に変化するP−Rパルス電流を繰り返し流し、その出力波形をモニター検出することでめっきの進捗状況が判明するという簡単な方法で、繰り返し利用でき、モニター方式の向上が図られ、銅めっき法によるビア穴埋めの生産性、歩留まりの向上が望める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための形態について説明する。
この発明の構成は、めっき液を収納しためっき槽中に、いずれもポテンショガルバノスタットに接続されたアノード(銅電極)、参照電極(銀塩化銀電極)を浸漬する。このポテンショガルバノスタットは、電流または電位の設定及び測定を行うとともに、モニター装置として回転する中空の回転リング電極とその中に配置された固定デイスク電極とから成る回転リングデイスク電極のリング・デイスク電極間に、例えば、後述のP−Rパルス電流を流し、デイスク電極上で銅めっき反応を起こし、そのときに発生する添加剤と一価銅とが作る促進錯体をリング電極の電流信号によりモニター検出することを特徴とする配線基板または半導体回路の電気銅めっき液のモニター方法である。リング電極を所定の電位値に設定することにより電流信号のモニターが可能になる。
【実施例】
【0012】
以下、図面に従いこの発明を説明する。
図1は、この発明の構成を模式的に示した説明図で、1はめっき槽で、2はその中に収納されているめっき液、3はアノード(銅電極)、4は参照電極(銀塩化銀電極)でこれらの両電極3、4はいずれもポテンショガルバノスタット5に接続されたうえ、めっき槽1のめっき液2内に浸漬されている。なお、ポテンショガルバノスタット5は、電流または電位の設定及び測定を行うものである。6は、この発明のモニター装置の回転リングデイスク電極で、回転リング電極7とその中に配置された固定のデイスク電極8と、回転リング電極7を矢印10のように回転させる駆動機構(モータ)9とで構成され、これらのリング電極7とデイスク電極8は、ポテンショガルバノスタット5に接続されている。
【0013】
図2は、上記のモニター装置である回転リングデイスク電極6の一部分を取り出し拡大して模式的に説明した図で、回転リング電極7はモータ9で矢印10のように回転する。一方デイスク電極8は、静止しており、このデイスク電極8と回転リンク電極7と間には11で示すP‐Rパルス電流信号が繰り返し印加される。例えば、このパルス信号11は、その各電流値が−20mA、40mA、0mAで、その各継続時間T1,T2,T3,が夫々200ms、10ms、200msの正、負の極性のパルスが、断続的に印加される構成になっている。この時、デイスク電極8の表面には、図の12で示す矢印のようにデイスク電極8の中心から回転リング7の周辺部へめっき液の流れが生じている。
【0014】
この電気銅めっきにおいては、めっき液および添加剤として、例えば以下の組成のものが使用された。
硫酸銅 0.6 mol/L
硫酸 1.85 mol/L
塩素 100 ppm
ポリエチレングリコール(PEG) 400ppm
ビス(3−スルフォプロヒル)ジスルフイド(SPS) 1ppm
ヤーヌス・グリーンB(JGB) 10ppm
このときのリング電極の電位はSPSが酸化しない以下の電位領域に固定
0.9V(Hg/H2Cl2―0、5mol/L K2SO4・・・標準電極)
【0015】
この結果、デイスク電極8の表面では、以下のように一価銅の錯体が促進錯体として機能し、P−Rパルス電流で、ビア穴埋め効果が発揮されるものと思われる。
Cu(I)種 → Cu+ → Cu
【0016】
図3は、デイスク電極に印加するP‐Rパルス電流を含む各種の電流信号に伴う回転リング電極間に流れるリング電流波形を示したものである。
【0017】
図4は、上記に言及した各電極間に印加する電流信号(模式的に表示)とその時のピアホール穴埋めの状況を示す顕微鏡写真を対応させたものである。以下に図3と図4を参照しながら説明をする。
【0018】
図3のDCは、図4(A)に示す−20mA/cm2の直流電流を15分間流した時のモニター出力信号、図3のPulseは、図4(B)に示す−20mA/0mA/cm2の負電流信号パルスを200ms/200msのタイミングで繰り返し30分間断続的に流した時のモニター出力信号、P−Rは、図4(C)および図2に示す−20mA/40mA/0mA/cm2の電流信号パルスを夫々の継続時間(T1)200ms/(T2)10ms/(T3)200msのタイミングで断続的に31分40秒間流した時のモニター出力信号である。
【0019】
また図4の各電流波形に対応して矢印で関連付けている写真(a),(b),(c)は、上記に説明した(A),(B),(C)の各電流波形に伴ったピアホール穴埋めの状況を撮影した顕微鏡写真である。この写真からも明らかなように、略同じレベルの電流信号を流した時でもこのP−Rパルス電流を流した時の方が(c)の写真のようにピアホールの穴埋めが他の(a),(b)よりはるかに埋まった状況にあることが明らかである。このことは図3においてP−Rパルス電流を流したときの出力波形が高く出現していることでも明らかである。すなわちこの図4(C)で示すP−Rパルス電流を流すことで促進効果がより進行して、デイスク電極での銅めっき反応が添加剤と一価銅とが作る促進錯体をリング電極の電流信号としてモニターが可能となり、モニター精度の向上が図られ、これにより銅メッキ法によるピアホール穴埋めの生産性、歩留まりが向上する。
【0020】
次に図5は、リング電極電位とSPSが酸化しない領域を確認するための実験データである。回転リングデイスク電極では、デイスク電極で電気化学反応(めっき反応)が生起し、電極底部で生成した中間錯体が電極の回転により、外側のリング電極に流れ出ていく。この結果、デイスク電極の外側のリング電極にこの流れ出た中間錯体に伴う電気信号が測定される。硫酸にSPSのみが入った単純な溶液を用いて、正の方向に電位を操作して電流―電位曲線を測定した結果を図5に示す。その結果デイスク電位0.9V以下では、デイスク電流が流れず(酸化反応が生起していない)、この電位が0.9V以上では酸化反応が生起し、デイスク電位が1.3Vでは電流値は略飽和状態になっている。なおこのときの標準電極は、Hg/Hg2Cl2−0.5mol/L K2SO4であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明のようなモニター方法を採用することにより、銅めっき反応の進行状況が客観的に把握でき、配線基板または半導体回路の製造方法の効率化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の銅めっき法を模式的に示した図。
【図2】この発明の回転デイスクリング電極を、この発明の説明に便利なため模式的に表示した図。
【図3】この発明の回転デイスク電極に印加した直流、負パルス、及びこの発明の矩形パルス正負を印加した時のリング電極波形を示した図。
【図4】回転リングデイスク電極間に流す電流信号と、それに伴うビアホール穴埋めの状況を示す顕微鏡写真。
【図5】リング電極電位とSPSが酸化しない領域を確認するための実験データを示す図。
【符号の説明】
【0023】
1 めっき槽
2 電気銅めっき液
3 アノード
4 参照電極
5 ポテンショガルバノスタット
6 回転リングデイスク電極
7 回転リング電極
8 デイスク電極
9 回転駆動部(モータ)
11 P−R矩形波パルス
10,12 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
促進剤、抑制剤、塩素イオン、平滑剤などの添加剤の存在のもとに銅ダマシンめっきを行い配線層となる銅層を、電気銅めっきにより形成する配線基板のめっき液モニター方法において、デイスク電極とそれを中心として回転する回転リング電極とから成る回転リングデイスク電極を用い、デイスク電極上でのめっき反応に伴い生成した中間錯体の電気信号をリング電流信号としてモニターするとともにこのリング電極電位を0.9V(標準電極 Hg/H2CL2−0.5mol/L K2SO4)以下の促進剤が酸化しない電位領域以下に設定することを特徴とする配線基板または半導体回路の電気銅めっき液のモニター方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−184681(P2008−184681A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21537(P2007−21537)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】